労働安全衛生研究
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11 巻, 1 号
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巻頭言
特集「人間からアプローチする労働安全衛生」
原著論文
  • 三宅 眞理, 山中 裕, 中村 英夫, 太田 暁美, 櫻井 知賀, 久保田 あや子, 西村 恭子, 三島 伸介, 西山 利正
    2018 年 11 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/31
    ジャーナル フリー

    ベッド上における被介護者の上方向への寝位置の修正(以下:寝位置修正)は頻度が高く,介護者がひとりで行うため上肢や腰背部の筋骨格への負荷は大きく,腰痛などの作業関連性筋骨格系障害の一因であると考えられる.本研究では,寝位置修正時にベッドの高さを調整した場合と,ベッド上の摩擦を軽減するナイロン製のスライディングシート(以下:シート)を使用した場合について,介護者の身体的負担が軽減できるかどうかを介護者の胸部加速度,心拍数,表面筋電図の測定から検討した.ベッドの高さを腰背部が曲がる姿勢になる47 cm(以後:低位)と腰背部を曲げない姿勢となる85 cm(以後:高位)に設定し,シートの使用時(以後:シートあり)と未使用時(以後:シートなし)の4パターンについて各項目の測定を3回ずつ行った.その結果,介護者の胸部加速度はベッドが低位の作業のほうが高位に比べ有意に高かった(p<0.05).筋活動量はベッドが高位でシートありの場合はシートなしの場合に比べて,三角筋が60%,上腕二頭筋が51%,背部傍脊柱筋が59%と減少した(p<0.05).ベッドを高位にしてスライディングシートを用いると,介護者は寝位置修正のスピードをコントロールでき,特に三角筋と下肢の筋活動量の負担軽減につながることが明らかになった.また,ベッド低位であってもスライディングシートを用いることで身体的負担を軽減できることが示唆された.

  • 菊池 浩人
    2018 年 11 巻 1 号 p. 9-23
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/30
    ジャーナル フリー

    操縦時のストレッサー下における音声指標と生理指標との関係を検討し,パイロットの心理学的緊張状態を推定するのに資する音声指標を見いだすことを目的とし,構造方程式モデリングにより音声及び自律神経応答モデルの構築を図った.この結果,音声基本周波数及び周波数ジッタを音声指標の観測変数とし,瞳孔径及び心拍数を生理指標の観測変数としたモデルの妥当性が高いと判断された.

  • 小菅 英恵
    2018 年 11 巻 1 号 p. 25-37
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究では戦略的な交通事故未然防止につながる交通安全教育の検討を目的に,交通事故発生要因を分析した.分析では,業務・通勤時の運転者を対象に質問紙調査法によって日常の運転行動に潜むヒヤリハットについて,衝突しそうな対象・状況で類型化しヒヤリハットの可視化を試みた.多変量順序ロジスティック回帰分析の結果,ヒヤリハットの危険因子となる日常運転行動と発生率の関係がわかった.またヒヤリハット背後の運転傾向性を把握するため探索的因子分析を行い,ヒヤリハット発生の潜在因子である「不安全運転」「判断の迷い」「自己中心」の因子を抽出した.各因子について,ヒヤリハット類型ごと発生回数,年齢層の分散分析を行った結果,年齢層やヒヤリハット回数の関連性がヒヤリハット類型で異なっていた.本結果から,交通事故は習慣化された不適切な運転行動の要因,環境側の要因,個人差の要因,年齢の要因が複雑に関わり発生リスクが高まることが明らかとなった.したがって交通事故防止対策では,運転者個々人の運転にあらわれる特徴を客観的に把握する機会を持つ重要性が改めて示された.また組織と個人の両レベルから多様な安全教育・指導のアプローチで取り組む必要があると考える.

  • 渕 真輝, 小西 宗
    2018 年 11 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/31
    ジャーナル フリー

    海上交通の事故である海難は,他の産業と比較して発生件数は少ない.しかし,一度発生するとその被害は莫大なものになる.船舶は乗組員が交代しながら24時間体制で運航されている.乗組員は,操縦を担当する乗組員だけでなく,機関を整備する乗組員等が乗船勤務しており,生活を伴う移動する職場である.その職場の安全が脅かされるという意味で,海難は労働安全上発生してはならないものである.船舶を安全に操るためには,陸上にある灯台や島といったランドマークを手掛かりとして自船の位置を把握する必要があり,そのためには,水平視点で見ている自身の網膜に映る像と,鉛直上方から見下ろすような俯瞰的な視点で描かれた平面図である海図を一致させる必要がある.ランドマークの特定に関して学生の個人差があるように感じられ,経験による指導だけでなく学生の特徴を把握し,指導法を考える必要がある.本研究は,船長・航海士を養成するコースの学生を対象に,海上交通におけるランドマークの特定について方向感覚と動機の影響を検討することを目的とし,海図描画課題と質問紙調査を行った.その結果,海上交通における学生のランドマークの特定について方向感覚が要因として存在することが推察され,学生の方向感覚に応じた指導方法を検討する必要があると考えられた.

研究紹介
  • 劉 欣欣, 池田 大樹, 小山 冬樹, 脇坂 佳子, 高橋 正也
    2018 年 11 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/02/13
    ジャーナル フリー

    長時間労働は様々な心身不調と関連し,特に脳・心臓疾患の発症リスクを増大させることが知られている.国内では,過重労働(特に長時間労働)によって脳・心臓疾患を発症したとする労災認定件数,いわゆる過労死等の認定件数は年間250件から300件程度で推移し,明らかな減少傾向は認められていない1).長時間労働による心血管系負担の軽減策を検討・提案することは,労働者の健康維持,さらには過労死の予防に極めて重要である.本研究では,長時間労働を模した実験室での被験者実験により,血圧を維持するための心臓と血管系の反応(背景血行動態反応)について検討した.本稿では,その実験結果の一部である血行動態反応の個人差について紹介し,心血管系負担の軽減策を検討するための資料提供を目的とした.

調査報告
  • 冨田 一, 三浦 崇, 濱島 京子, 遠藤 雄大
    2018 年 11 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/02/08
    ジャーナル フリー

    平成23年に改正された「交流アーク溶接機用自動電撃防止装置構造規格」,「交流アーク溶接機用自動電撃防止装置の接続及び使用の安全基準に関する技術上の指針」の認識度及び交流アーク溶接機用自動電撃防止装置の始動感度の点検状況などを中心として感電災害防止の取り組み状況の実態調査を平成29年9月にアンケートによって行った.その結果,構造規格や指針の認識度は回答事業場の30%程度に止まっていること,始動感度の測定は回答事業場の13%程度に止まっていること,構造規格に規定された始動感度を満足する自動電撃防止装置の使用は回答事業場の50%程度であることがわかった.また,労働安全衛生規則で義務づけられている停電作業等での作業指揮者の選任については,事業場の労働者数が多いほど選任の割合が高くなる傾向であった.同様に事業場の労働者数に対する感電の危険性のある作業毎の作業手順書の作成の割合では,労働者数が多くなると作成割合も高くなる傾向であった.

資料
  • 高橋 弘樹
    2018 年 11 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/30
    ジャーナル フリー

    死亡災害件数の多い足場からの墜落・転落による災害防止対策が検討され,平成21年に労働安全衛生規則が改正された.この改正により,新たに墜落防止用のさんや落下防止用の幅木などを足場に設置することが義務づけられた.平成21年の規則改正後,足場からの墜落防止措置の効果について検証・評価が行われ,その検証・評価結果を踏まえて,平成27年に労働安全衛生規則が更に改正された.平成27年の規則改正において,足場の組立て等の作業に係る特別教育の追加,足場の作業床にかかる墜落防止措置の充実等が図られた.労働安全衛生規則の改正により,足場には改正前に比べて,幅木等を多く設置することになった.規則改正後の足場は,幅木等を多く設置することから,従来の足場と足場に作用する鉛直荷重や風荷重等が異なると考えられる.本報では,足場における安全性の向上を目的として,規則改正により部材を多く設置することになった足場の強度について実験を行い,足場の安全技術について検討した.

  • 松尾 知明
    2018 年 11 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/02/13
    ジャーナル フリー

    少子高齢化に伴う労働人口減少問題や医療費高騰問題を抱える我が国では,労働者の健康を護ることが今後ますます重要となる.その視点から最近は,“働き方改革”や“健康経営”などがメディアで取り上げられる機会が増えている.その一方で,栄養バランスの良い食習慣や運動の習慣化が必要であることを理解していても,現代に生きる多くの労働者,特に働き盛り世代の忙しい労働者にとって,その実践は容易ではなく,課題も多い.このような状況を背景に,我々は忙しい労働者向けに考案した運動・食事介入プログラムの効果を,メタボリックシンドロームに該当する労働者を対象に検証する研究を進めている.本稿では,その背景や成果・課題を概説する.

  • 山田 丸
    2018 年 11 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    [早期公開] 公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    有害な粉じんを吸い込むことにより,じん肺症,中毒症,がんなどの重篤な健康障害が引き起こされる.粉じんから労働者の健康を守るためには,原因となる有害物質の取り扱いをやめる,あるいは健康上問題ないと判断される濃度まで低減させることが基本的な手段である.そのためには,作業場の粉じん濃度あるいは労働者個人に対する粉じんばく露濃度を正確に測定し,また測定結果を正しく理解する必要がある.本資料では,作業環境中の粉じんの測定方法と保護具によるばく露防止に関して粉じん粒子の大きさに着目して解説し,さらに労働安全衛生総合研究所で最近実施したナノマテリアルのダスティネスに関する研究を紹介する.

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