ベッド上における被介護者の上方向への寝位置の修正(以下:寝位置修正)は頻度が高く,介護者がひとりで行うため上肢や腰背部の筋骨格への負荷は大きく,腰痛などの作業関連性筋骨格系障害の一因であると考えられる.本研究では,寝位置修正時にベッドの高さを調整した場合と,ベッド上の摩擦を軽減するナイロン製のスライディングシート(以下:シート)を使用した場合について,介護者の身体的負担が軽減できるかどうかを介護者の胸部加速度,心拍数,表面筋電図の測定から検討した.ベッドの高さを腰背部が曲がる姿勢になる47 cm(以後:低位)と腰背部を曲げない姿勢となる85 cm(以後:高位)に設定し,シートの使用時(以後:シートあり)と未使用時(以後:シートなし)の4パターンについて各項目の測定を3回ずつ行った.その結果,介護者の胸部加速度はベッドが低位の作業のほうが高位に比べ有意に高かった(p<0.05).筋活動量はベッドが高位でシートありの場合はシートなしの場合に比べて,三角筋が60%,上腕二頭筋が51%,背部傍脊柱筋が59%と減少した(p<0.05).ベッドを高位にしてスライディングシートを用いると,介護者は寝位置修正のスピードをコントロールでき,特に三角筋と下肢の筋活動量の負担軽減につながることが明らかになった.また,ベッド低位であってもスライディングシートを用いることで身体的負担を軽減できることが示唆された.
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