労働安全衛生研究
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15 巻, 2 号
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巻頭言
原著論文
  • -中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
    山岡 順太郎, 勇上 和史, 藤岡 秀英, 鈴木 純
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 71-83
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/06/07
    ジャーナル フリー

    近年,労働者のメンタルヘルス問題の背景にある要因として,職場におけるハラスメントが国内外において注目されている.本稿では,兵庫県下の中小企業を対象に,2時点の事業主-従業者マッチングデータを用いて,職場のハラスメントが労働者のメンタルヘルスに及ぼす影響を検証する.分析に当たっては,職場のハラスメントがメンタルヘルスに及ぼす効果について,これまでメンタルヘルスとの関係が明らかにされてきた様々なストレス要因の効果と比較するとともに,勤め先企業からの離職の意向,引いては実際の離職行動に与える影響についても検証する.その結果,職場のハラスメントは労働者のメンタルヘルスを悪化させる可能性が示唆された.またハラスメントによる影響は,サービス残業がメンタルヘルスを悪化させる効果に換算した場合には月あたり約70時間に相当するため,無視できない大きさである可能性がある.さらに,職場のハラスメントは,労働者の離職意向を高めることが示唆された.以上の結果は,職場のハラスメントは労働者のメンタルヘルスに多大な影響を与えるのみならず,企業組織への影響も懸念されることを示唆している.

  • 岡本 勝弘, 松岡 伊織, 藤本 純平, 山﨑 宏樹, 柏木 伸之, 市川 俊和, 本間 正勝
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 85-94
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    石油系溶剤は消防法における危険物第四類の引火性液体に該当するが,沸点が概ね140 °C以下であるナフサを主原料としていることから,多くの製品が引火点21 °C未満の第一石油類に分類される.石油系溶剤は,複数種類の成分から構成される多成分系の工業製品であることから,蒸発時には,火災危険性を表す最も重要な指標の一つである引火点が変化すると予想され,その変化を予測することは容易ではない.本研究では,5種類の石油系溶剤(石油エーテル,ホワイトガソリン,ベンジン,ラッカーシンナー,塗料用シンナー)を試料に選択して,引火点を予測する手法について検討した.石油系溶剤の蒸発変性試料を作成し,ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)により得られたTIC(トータルイオンクロマトグラム)の主要ピークの面積百分率から成分組成を計算することによって,蒸発の進行による石油系溶剤の成分組成変化を調べた.また,蒸発変性試料の飽和蒸気圧測定を行い,蒸気圧測定結果から試料の蒸気圧定数を導出し,任意の温度,蒸発率における飽和蒸気圧の計算式を示した.さらに,引火点においては,液面上の蒸気濃度がLEL(燃焼下限界)と等しいと考え,GC/MSによって得られた成分組成から計算したLELと蒸気圧計算式から,石油系溶剤の蒸発の進行による引火点を予測する手法を提唱した.本手法により予測した石油系溶剤の引火点は実測値と概ね一致した.

  • -ウェブ縦断調査による検討-
    西村 悠貴, 佐々木 毅, 吉川 徹, 高橋 正也
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    職業性のばく露による労働者の負担を減らすためには,ばく露の時間的な側面を考慮した検討が必要である.そこで本研究では,職場における様々な出来事の特に年単位の長期的なばく露に着目し,高ストレスとの関連を検証した.職場における出来事については,精神障害の労災認定基準にある36の具体的出来事を対象とした.

    労働者を対象にWEB追跡調査を行った.参加者は個人属性に加え,職場での各出来事の過去1年の経験と職業性ストレス簡易調査票に回答した.2016年11月と2019年2月に調査を行い,11,729名の初回調査参加者から3,556名が追跡できた.初回調査で高ストレス判定だった者を除き,3,071名を解析対象とした.高ストレス判定を従属変数,出来事の経験回答パターン(経験無し,初回調査のみ,追跡調査のみ,両方あり)を説明変数とする回帰分析で,特に出来事への長期的なばく露(両方あり)と高ストレス判定の関連を検証した.

    結果,業務の集中や仕事量の変化といった出来事への長期的なばく露は高ストレス判定との関連が強く,労働者のストレスにつながる可能性が示唆された.人間関係や過大な仕事上の要求なども高ストレス判定との関連が示唆されたが,長期的なばく露との関連は見られなかった.本研究から,長期的なばく露との関連が強い出来事や,早期発見が重要な出来事が示唆された.これらの知見を,労働者の健康を守るため適切な労務管理や職場環境改善につなげていく必要がある.

  • 高橋 弘樹, 高梨 成次, 堀 智仁
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/08/05
    ジャーナル フリー

    小規模な建物の外壁を解体する際,現場では転倒工法と呼ばれる工法が用いられている.この工法では,作業の最初に,外壁の建物外側への転倒防止のためにワイヤロープ等の引張材を外壁に設置する.次に外壁を引き倒せる程度に切り出して,外壁下部を切削し,その後,引張材を用いて外壁を引き倒している.この外壁下部の切削作業中に外壁の転倒災害が発生しており,その原因の一つに,引張材の過度な張力が考えられる.そこで,引張材の張力に関する実験を行い,転倒工法における,引張材の適切な張り方について検討した.引張材の張力とたるみの関係を調べた結果,引張材は,ややたるんだ状態に設置すれば良いことが分かった.一方で,引張材を用いて外壁を引き倒すとき,外壁下部を切削しているため,外壁下部の鉄筋が座屈する等の損傷をして,外壁が転倒する.そこで,引張材の張力と外壁下部に作用する力の関係について確認した.その結果,弾性範囲において外壁下部に作用する力は引張材の張力に比例することが分かった.

  • 緒方 公俊, 山口 篤志, 山際 謙太, 佐々木 哲也
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 113-122
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/09/08
    ジャーナル フリー

    ワイヤロープ(以下,ロープ)は,クレーンやエレベータなどの機械構造物の主要部品の一つである.荷の巻上げ巻下げ時など,ロープは張力を受けながらシーブ上を往復動するため,曲げ負荷を繰り返し受ける.これにより,ロープを構成する素線が徐々に断線し,最終破断に至る.そのため,素線断線状態を考慮した保守,運用がロープの破断事故防止のために重要である.近年,クレーン用ロープの主流となっているIWRCロープについて,繰り返し曲げ負荷による素線断線が目視確認できないロープ内部で発生することが明らかになった.そのため,ロープ内部の素線断線の検出方法や断線メカニズムの解明に関する研究が進められている.一方で,ロープは複数の素線の撚り合わせによって構成されているため,ロープの軸方向に垂直な断面内での素線断線位置の特定が難しく,これまで詳細な評価が行われていなかった.そこで本研究では,ロープのS曲げ疲労試験によって作成した損傷ロープを対象に,近年提案された推定手法を用いてロープ断面内の位置を考慮した素線断線状態の評価を試みる.張力1水準,中断回数4水準のS曲げ疲労試験を実施し,得られた損傷ロープの素線断線分布の結果から,シーブ接触部や隣接する素線との位置関係によって素線断線しやすい条件があることを明らかにした.さらに,可視断線の発生メカニズム,現行の廃棄基準との関係についても考察した.

  • 西脇 洋佑, 山下 真央, 大塚 輝人, 佐藤 嘉彦, 熊崎 美枝子
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 15 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/09/09
    ジャーナル フリー

    化学反応の熱的危険性を評価するのに有用な反応熱量計では,伝熱遅れによって実際よりも低い発熱速度が計測される.そのため,ヒートパルスなどの意図的に与えた発・吸熱の計測結果を基に,時定数を用いた伝熱遅れの補正を行う必要がある.本研究では伝熱遅れ補正の精度向上を目的に,高次の時定数を用いた伝熱遅れ補正法を開発し,ヒートパルス測定結果との比較から高次化による精度向上と多段伝熱の影響を時定数に組み込めているか調査を行った.また,ヒートパルスの発熱源位置が試料容器の内部にあるか,外部にあるかによって,得られる時定数が変化することを測定した.ヒートパルス測定結果と高次の時定数による伝熱遅れ補正の結果から,試料容器外部の発熱源では内部の伝熱遅れを十分に検出できず,補正に用いた場合,発熱速度が過小評価されることが示唆された.加えて,水酸化ナトリウムの水への溶解時の発熱速度の測定から,発熱源位置の差異が算出される発熱速度に影響を与えることを確認し,適切な伝熱遅れ補正が実施できていない場合,伝熱遅れの影響を除けないことで,より低い発熱速度が算出されてしまう問題を明らかにした.

短報
  • 佟 立柱, 永山 達彦
    原稿種別: 短報
    2022 年 15 巻 2 号 p. 131-135
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

    静電気障災害は,製造現場や工場で静電気が要因で発生する事故である.爆発,火災事故などの大きな災害を伴うため,静電気対策製品の開発を進めていくことは非常に重要である.しかしながら,静電気障災害(爆発・火災)の発生確率を定量的に把握するために,プラズマ放電理論に基づく数値解析手法が必要になっている.そこで本研究では,タウンゼント理論・ストリーマ理論に基づく電気絶縁破壊の評価手法を検討するために,大気圧での空気絶縁破壊現象を対象に,粒子追跡法を応用した.この手法によって,電気力線に沿ってタウンゼントの電離係数を積分し,絶縁破壊のしきい値と比較することで,棒-平板金属電極間と平板-平板金属電極間での空気ギャップの絶縁破壊評価を行った.その結果として,粒子追跡法を用いた電気絶縁破壊評価手法の有効性が検証されたので報告する.

  • 遠藤 雄大
    原稿種別: 短報
    2022 年 15 巻 2 号 p. 137-142
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    多量の引火性液体を取り扱う化学工場等の施設で発生する火災・爆発事故のうち,液体がノズル等から噴出する際に起こる噴出帯電現象に起因したと推測される事例は少なくない.これまでの研究から,ノズル使用時の噴出帯電量は,液体の種類やノズル材料に特に強く依存することが確認されている.したがって,災害を防止するためには,液体とノズル材料の組み合わせごとの帯電危険性を事前に把握し,大きく帯電する組み合わせを避けることや,帯電危険性に応じた十分な安全対策を講じることが必要となる.一方で,現在までに得られた知見では,液体と材料の組み合わせから帯電危険性を予見することは難しく,実験により帯電危険性を評価する必要がある.そこで本研究では,任意の液体と材料の組み合わせについて噴出帯電の危険性を簡便に評価する方法を提案し,8種類の液体と3種類の材料について帯電量測定を行い,提案方法の有用性について検討した.その結果,組み合わせごとに帯電量に明確な差が生じ,本研究で確認された帯電特性はノズル使用時の噴出帯電に関する従来知見とも一致した.また,比較可能な組み合わせについて,本研究と先行研究の測定値をそれぞれ比較したところ,一部組み合わせを除き,本研究で得られた帯電量は先行研究と同等以上となることが確認できた.以上より,提案方法によりノズル使用時の噴出帯電現象が概ね再現されており,危険性評価にも有用と考える.

調査報告
  • 川上 澄香, 井澤 修平, 久保 智英, 吉川 徹
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 15 巻 2 号 p. 143-151
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー

    医療・福祉の労災認定事案は精神障害事案が大半を占めており,その中でも最も多い職種が介護職員である.また,これらの労災認定事案がどのような原因で精神障害の発症に至ったかというと利用者の自殺や利用者からの暴力など「悲惨な事故や災害の体験,目撃」に遭遇したため発症したというケースが多い.このことから,本研究では,トラウマティックな出来事を体験した介護職員に着目して,出来事が起こった背景を探索し,予防策を講じる手掛かりを得ることを目的とした.具体的には、労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターにおいて調査復命書の記載内容に基づき作成された過労死等データベースから,介護に関わる事案84件を抽出し,分析を行った.分析の結果,これまで詳細が報告されていなかったトラウマティックな体験の実態と背景要因の一端が明らかになった.抽出した事案のうち半数以上が暴力等への遭遇であり,その大半が遭遇時に一人であり,助けが遅れるか来なかったという状況であることが分かった.また,暴力等の背景には認知症等や精神疾患等の症状があると推測される一方で,大半のケースでそうしたことが分からないままに介護労働に従事し,被災していた.加えて,背景要因としては症状だけではなく,「家に帰りたい」というような利用者本人の希望や意思が根本にあるケースも少なくなかった.今後の課題として,介護職員がやりがいをもって安心・安全に働ける職場を作るため,かつより質の高いケアを提供できるためにも,メンタルヘルスケア体制の充実や,暴力等のトラウマティックな出来事の予防のために必要な知識の取得機会,職場における知識の応用を後押しする仕組みの確立が求められる.

  • ―厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)の報告―
    横山 和仁, 垰田 和史, 久宗 周二, 山田 容三, 松川 岳久
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 15 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/05/19
    ジャーナル フリー

    厚生労働省が策定した「第13次労働災害防止計画」は,2018~2023年度の5年度を計画期間とし,労働災害を減らし安心して健康に働ける職場の実現を掲げている.第13次計画では,特に林業について死亡災害を2022年までに15%以上減少させると目標があるが,林業にかぎらず農業や水産業を含む第一次産業では重大な労働災害が発生している.農業では特殊車両(トラクター等),農薬,高作業負荷,高齢化等が問題となっている.水産業は,労働人口減少や高齢化と共に,非適切な生活・労働空間,船員法不順守,船体動揺や海中転落,機械への巻き込まれなどのリスクが指摘されている.林業労働災害は関係者の努力により減少傾向にあるが,いまだ伐木作業,高齢化,小規模事業林,および非熟練労働者がリスクとなっている.筆者らは2018~2020年度にかけて厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)「農林水産業における災害の発生状況の特性に適合した労働災害防止対策の策定のための研究(H30-労働-一般-006)」としてこのような労働災害防止策の策定のための研究を行ってきた.本稿では,その取り組みについて紹介する.農林水産業の各分野別(農業法人,農業,漁業,および林業)に,まず法令にもとづく各種事業体の労働安全衛生体制(労働安全衛生法,船員法等)の確認を行い,職業保健としての特性(自営を含む)を明らかにし,行政組織間・産官学・地域連携の視点から,労災・健康障害の要因と対策を明らかにした.併せて各種事業体および農協等の団体や官公庁報告の事例の収集を行い,その事例からグッド&バッドプラクティスを抽出するとともに,行政組織間・産官学連携を含む労災・健康障害予防策とモデル事業を提言するための検討を進めた.第一次産業における業態毎にモデル事業の策定を行った.このようなモデル事業を継続的に実施するには関連省庁の関係者の連絡,各協同組合等の協力,安全衛生の向上意欲が必要であるという知見が得られたとともに,関係各所からの人的資源,経営資源,物資の面から支援が得られれば継続的な啓発が可能であることが示唆された.

  • 藤本 亜弓, 永田 智久, 清水 崇弘, 井上 俊介, 小田上 公法, 永田 昌子, 森 晃爾
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 15 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    本研究は,中小企業における企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)やその中に含まれる労働安全衛生の取組みに関する情報開示の実態を明らかにすることを目的とした.中小企業の中でも情報開示に積極的であると考えられる健康経営優良法人認定企業(2020年の中小規模法人部門)の約半数である2,437社を調査対象とした.各企業のホームページを検索し,CSR,健康経営優良法人,労働災害防止対策,社会貢献に関する情報開示状況について調査した.業種別,従業員規模別に,ホームページ公開企業割合及び,調査項目ごとの情報開示企業割合を算出した.ホームページ公開企業割合は,全体の91%であった.調査項目ごとの情報開示企業割合は,全解析対象企業においてCSR 11%,健康経営優良法人 51%,労働災害防止対策 10%,社会貢献17%であった.業種別の特徴として,労働災害防止対策に関する情報開示企業割合が,運輸業で71%と高い割合で認められた.また,従業員規模が大きくなるにつれ,全ての調査項目において,情報開示企業割合は高かった.今後は,労働安全衛生活動に関する情報開示に対し積極的に取り組んでいる企業に関する良好事例の収集及び周知を行うことが重要である.

  • 相羽 洋子, 大柴 聡, 竹内 靖人, 宮下 和久, 圓藤 吟史, 森岡 郁晴
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 15 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/09/13
    ジャーナル フリー

    労働災害を防止するため,労働安全衛生に関する規則が法律,通達等によって規定されている.事業場では安全衛生を担当する者が選任され,各々の職務を遂行している.通達で保護具着用管理責任者が規定されているが,その選任状況は明確でなく,事業場において配置されているかどうか調査した報告はない.そこで,保護具着用管理責任者,振動工具管理責任者,化学物質管理者(以下,「管理責任者」)に着目し,選任状況を明らかにすることを目的としてアンケート調査を行った.本研究では,「管理責任者」を選任する必要のある有害業務を鉛業務,粉じん業務,有機溶剤業務, 特定化学物質業務,振動業務とした.アンケートに回答した323社のうち,有害業務のある205社を分析対象とした.199社は保護具着用管理責任者を選任する必要があり,46社が選任していた.56社は振動工具管理責任者を選任する必要があり,19社が選任していた.化学物質管理者を選任する必要のある事業場は179社であり,52社が選任していた.いずれの「管理責任者」も,約40%の事業場で作業主任者から選任されていた.「管理責任者」が有害業務のある事業場で選任されていない理由は,62社が総括安全衛生管理者等の業務であると回答した.「管理責任者」を選任している事業場は約30%であった.有害業務のある事業場では,「管理責任者」がより良く職務を遂行できるよう選任の在り方 を見直す必要があることが明らかとなった.

  • 濱島 京子
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 15 巻 2 号 p. 177-188
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/07/26
    ジャーナル フリー

    厚生労働省は,職場のあんぜんサイトにて労働災害の発生状況等を記載した「死亡災害データベース」および「労働災害(死亡・休業4日以上)データベース」をExcelデータで公開している.このExcelデータの機械判読性は高くなく,自然言語処理技術などのコンピュータプログラムを用いてデータを加工,編集,分析をする際に様々な問題が起こりやすいことが課題となっている.そこで,総務省が示した「統計表における機械判読可能なデータの表記方法の統一ルール」を援用し,機械判読上の問題点を調査した.さらに,定型データ項目における誤記や表記ゆれの状況等を把握した.そして,これら問題の具体的な内容を示した上で,不具合の発生を抑止するためにデータベースシステムを活用すべきこと,テキストファイルに記述可能な半構造化データ形式によるデータ公開を提言した.

研究紹介
  • 大西 明宏
    原稿種別: 研究紹介
    2022 年 15 巻 2 号 p. 189-191
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    [早期公開] 公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー

    ロールボックスパレット(RBP)と呼ばれる人力運搬機は今日の物流を支える存在なのだが,運搬等による労働災害が問題になっている.これまでに取扱いの手引き等が発行され,適切な取扱い等が示されてきたのだが,RBP本体にも 問題があるため改良が求められていた.このような背景から労働安全衛生総合研究所は,厚生労働省からの要請により RBPメーカー等から構成されるロールボックスパレット改良ワーキンググループ(RBP改良WG)を組織し,コスト増を抑制しつつRBP起因災害防止に資する改良型RBPについて議論を進めてきた.その結果,RBP改良WGの推奨として3種類の持ち手の装備,小回りの利く旋回式と車輪の方向が定まった固定式キャスターが共存できる方向規制キャス ターの装備,開口部のサイドバー着脱時のバー先端部の落下による負傷や荷の損傷防止に資するサイドバー跳ね上がり 防止具を装備した改良型RBPを製作した.この改良型RBPの普及にはRBPの所有者が荷主であることから,荷主と取扱いを担う陸運事業者の双方が導入に向けて協議することが有効と考えられる.また,改良型RBPが万能ではないことへの理解も重要であり,改良型RBPに対応した取扱いルール策定と教育についても検討することが望まれる.

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