労働安全衛生研究
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16 巻, 2 号
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巻頭言
原著論文
  • 市川 紀充
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 16 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/07/09
    ジャーナル フリー

    作業者が電圧のかかった充電部に触れると,人体を通って電流が流れ,感電災害を引き起こすことがある.感電災害は1 mA程度の電流が人体を通って流れるとシビレを感じ,50 mA程度の電流が流れ続けると心室細動を引き起こして作業者が死亡する可能性が出てくる.この感電災害は地球上で考えると,相当多くの感電死亡災害が発生している可能性があり,日本だけでなくアメリカなど国外で発生する感電死亡災害の防止に役立てられる感電災害の防止の基礎を提供する必要がある.感電災害の防止に関する研究は,これまでに国内外で研究が行われていたが,近年発生する感電災害の調査研究はそれほど多くない.本研究では,2018年に発生した感電死亡災害の事例から,その原因と防止対策に関して検討を行い,今後発生する可能性のある感電死亡災害をゼロ件に近づけるための検討結果を報告する.本研究成果が日本だけでなく,アメリカなど国外で発生する感電死亡災害の防止に役立つことを期待したい.

  • 錦谷 まりこ, 伊豆倉 理江子, 澤渡 浩之, 城戸 瑞穂, 守屋 普久子, 川波 祥子, 安元 佐和, 武冨 貴久子, 藤野 ユリ子, 永 ...
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 16 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/07/26
    ジャーナル フリー

    九州北部の5つの大学病院で働く対人業務のある医療専門職を対象に,2020年に労働災害や医療事故の発生状況を調査し,リスク要因を探索的に評価した.4職種(看護師1,305人,医師481人,放射線技師90人,薬剤師51人)を抽出し,過去1年間の労働災害および医療事故の発生とヒヤリ・ハット経験の回答に基づき職種別に高リスク群と低リスク群に分け,精神健康調査GHQ,主観的健康感,努力–報酬不均衡モデルで示される職業性ストレス,仕事や生活の時間的要因を比較し評価した.調査結果では,全職種で職業性ストレスと労災・医療事故リスクとの有意な関連が示された.薬剤師を除く高リスク群には精神健康の問題も見られた.看護師と医師の高リスク群は,低リスク群に比べ労働時間が長く,夜勤回数も多かった.睡眠不十分と家事時間はリスクとの関連を示さなかった.職業性ストレスは病院間の違いや性,年齢等の交絡因子を調整したマルチレベル混合効果ロジスティック回帰分析でも,全職種で労災・医療事故リスクと有意な関連を示した.この結果から,医療専門職の職場でのストレスを軽減することが,労災・医療事故リスクの低減につながる可能性があると示唆された.

事例報告
  • 齋藤 剛, 濱島 京子, 池田 博康
    原稿種別: 事例報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 127-142
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    機械災害を防止するためには,第一に,機械の設計段階においてリスクアセスメント(RA)及びリスク低減を実施することが不可欠であり,その原則と手順が国際規格ISO 12100で定められ,厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」もこれに従う.しかし,RAを行うには機械の安全に対する一定の知識とある程度の習熟が求められ,その「難しさ」を理由に必ずしも浸透していない現状がある.そこで,本研究では,標準化されたRAの手順において最も重要なステップである「危険源の同定」に着目し,機械安全に関連するISO /IEC規格の要求事項や規定された基準を活用することで,機械安全の知識が限られた設計者でも最低限同定すべき危険源を認識できるよう支援する方法を提案する.これは,機械安全を我が国に先行して推進してきた欧州連合(EU)の考え方を参考に考案したもので,機械安全の知識に関わらずに設計者が技術的視点から客観的に設計対象機械に潜在する危険源を認識できるようにするものである.さらに本研究では,提案する方法を実行する具体的な支援手段の例としてデスクトップPC上で動作するアプリケーションツールを試作した.労働安全コンサルタントによる動作確認の結果,設計者にとって有効な支援となり得ると評価されたので報告する.

  • 小山 秀紀, 池田 博康
    原稿種別: 事例報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 143-149
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/05/22
    ジャーナル フリー

    脊髄損傷者の歩行を支援することを目的に動力付外骨格型機器を試作し,その動作確認を行った.この装置は,外側系構造のフレームにアクチュエータを取り付けて股・膝関節を動力化し,プログラマブルロジックコントローラを用いた制御により,歩行機能の回復を図るというものである.本体寸法は,日本人の人体寸法データに基づき設定し,フレームの長さと幅の調整が可能である.また,X・O脚の程度に応じて,内外側方向への下肢関節軸角度も調整できる.アクチュエータは,減速比1:101の減速装置と,ブラシレスDCモータで構成され,最大トルク90.9 Nmを発生する.歩行時の制御方式は,骨盤帯に取り付けられたモーションセンサの角度信号をトリガとして,モータを駆動させる仕組みとなっている.健常者による予備的な装着適合性調査によれば,下肢に沿わせるようにフレームを配置することができ,各調整機能の有効性が確認された.また,プロトタイプの動作確認の結果,無負荷状態において,基本的な動作を正常に実行できることを確認した後,標準体型の健常者が装着して,椅子からの立ち上がり,歩行,座り動作の各モードを実行できることを確認した.さらに,杖に組み込まれた操作スイッチにより遠隔操作が可能となり,操作性の向上を図ることができた.

  • 芳司 俊郎, 入沢 和, 木村 哲也, 齋藤 剛, 濱島 京子, 池田 博康
    原稿種別: 事例報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/06/12
    ジャーナル フリー

    現在,リスクアセスメントによる労働災害防止対策の推進が図られているが,中小規模の事業場での取り組みは十分とは言えない.そこで,本研究では,機械災害を対象に,中小規模の事業場でのRAを支援する方策の一つとして,RAの中でも最も重要なステップとされる「危険源の同定」に焦点を当て,その簡易化と具体的な支援手段の例を提案する.具体的には,これまで危険源の同定で一般的に利用されてきた危険源リストを,機械の使用中に発生する労働災害をよりイメージしやすいよう,機械災害事例の分析結果から作成したイラストで再構築し,実施者に危険源が災害に至る過程を可視化情報として提示することで簡易化を図る.さらに,この簡易化した危険源同定の手順に基づき,中小規模の事業場での実施を支援する手段例としてタブレットPC上で動作するアプリケーションソフトウェアを試作した.これを用いて典型的な機械を対象に危険源同定を試行する方法で,中小規模製造業事業場3社の安全担当者により,提案する簡易化危険源同定の有効性を検証した結果,有効な支援となり得るとの評価を受けたので報告する.

短報
  • 劉 欣欣, 池田 大樹, 小山 冬樹, 西村 悠貴, 高橋 正也
    原稿種別: 短報
    2023 年 16 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/06/27
    ジャーナル フリー

    長時間労働は様々な健康リスクを高め,過労死認定要因のひとつとなっている.近年,高年齢労働者は増加しており,過労死の請求件数も増加傾向である.我々の先行研究では,長時間労働により心血管系の負担が増大するが,特に50代以上の高年齢労働者はその負担増加が大きいことを報告した.しかし,長時間労働時の主観的負担と作業パフォーマンスの変化は不明であったため,本稿ではその解析結果を報告する.30代から60代(65歳未満)の参加者は実験に参加し,9時から22時までの間,3種類の認知課題をそれぞれ45分間行う作業セッションを4回実施した.課題パフォーマンスの指標として各課題の試行数,正解率と反応時間を記録し,主観的負担の指標として疲労,ストレスと眠気を測定した.各指標に対して繰り返しのある二元配置分散分析を行った.結果として,作業者の主観的ストレスと疲労は課題中に上昇したが,年代間の差は認められなかった.課題パフォーマンスは午後の後半(セッション3)と夜(セッション4)で上昇したが,年代間の差は認められなかった.結論として,長時間労働により作業者の主観的疲労とストレスは著しく増大したが,課題パフォーマンスの低下は見られなかった.労働者の健康維持の観点からパフォーマンスが低下しなくても長時間労働が避けられない場合,心身の疲労を蓄積しないよう十分な配慮が必要と考えられる.

調査報告
  • 茂木 伸之, 吉川 徹, 佐々木 毅, 山内 貴史, 髙田 琢弘, 高橋 正也
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    日本では教員の長時間労働や精神疾患による病気休職者数が減少していない状況である.本研究は,過労死等の重点業職種である教職員に該当する義務教育教員の多くを占める公立小中学校教員の公務災害の過労死等防止対策に資する課題抽出を目的として,公務災害として認定された過労死等の負荷業務の特徴について検討した.対象は2010年1 月から2019年3月までに公務災害に認定された全392件(脳・心臓疾患事案146件,精神疾患等事案246件)の内,教員88件(脳・心臓疾患事案52件,精神疾患等事案36件)とした.その結果,脳・心臓疾患の100万人当たりの発症件数は男性が80%を占め,男女の疾患名では脳内出血が最も多かった.精神疾患等は,100万人当たりの発症件数は男性が多く,疾患名はうつ病エピソードが最も多かった.学校別の件数は,脳・心臓疾患は中学校で多く,精神疾患等は小中学校それぞれ半数であった.脳・心臓疾患事案では,負荷業務として「部活動顧問」が最も多く,長時間労働を認定要件とする事案に影響を及ぼした.精神疾患等では,業務による負荷の「住民等の公務上での関係」における保護者によるものが最も多かった.負荷業務である「部活動顧問」,「住民等の公務上での関係」の課題を解決することが,公立小中学校教員の過労死等防止対策のひとつになると考えられる.

  • -医療・高齢者施設における事例分析-
    石垣 陽, 加藤 辰夫
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 173-180
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/04/29
    ジャーナル フリー

    エアロゾル感染は同時期に多人数の感染を起こすため,特にリスクの高い医療機関・高齢者施設では予防が重要だが,これらの事業所で感染対策上の問題を発見し改善するためのチェック方法は確立されていない.そこで本研究では,エアロゾル感染の3つの防護策(換気・空気清浄・気流制御)ごとに8つの管理項目を設定し,具体的な管理目標を定めたチェックリストを作成した.その上で,このチェックリストに基づいて18か所の医療・高齢者施設に立ち入り,合計263ヶ所の居室を調査した.調査の結果,問題が発見された居室の72%において機械換気量が不足し,そのうち48%は掃除不足が原因であった.この背景要因として,特に屋外のガラリは点検・清掃を想定した設計になっておらず,長年の綿埃が蓄積し閉塞に至っていたことがわかった.また機械換気量不足の原因の21%はスイッチの入れ忘れであり,この背景要因としてスイッチの運用徹底の不備,操作パネルのユーザインタフェースの問題,集中制御の引き継ぎミスなどが挙げられ,よりヒューマンファクターに配慮した対策が求められる.この他にも,問題が発見された居室の18%において気流制御における漏洩の問題があり, 5%以下ではあるものの送風機の設置方法,自然換気の阻害及びCO2 濃度が1000ppmを超える等の問題も散見された.以上より,本研究で提案したチェックシートが問題発見に有効であることが確認できた.

  • -教育機関における労働環境改善の視点から-
    保科 寧子, 鈴木 幸子, 渋谷 えり子, 内山 真理, 須永 康代, 辻本 健, 森 元二, 髙木 薫
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/07/12
    ジャーナル フリー

    本研究では,職場において疎外感や差別されたというネガティブな体験の実態を調査し,多様な人材の協働を妨げる要因を検討することを目的とした.2022年にある教育研究機関の教職員を対象として自記式無記名アンケート調査を実施し,回答を統計的手法にて,また疎外感や差別を感じた体験の自由記述を質的研究手法であるSCATにて分析した.アンケート実施の結果,105名(回答率35.9%)の回答を得た.単純集計では疎外感や差別の要因のうち「職位・職種」において最多の21名が体験ありと回答し,次いで「ジェンダー」8名,「心身の障害」6名と続く.

    基本属性を独立変数とし疎外感や差別されたという体験を見聞きしたと回答した要因数を従属変数としてMann-WhitneyのU検定にてその差を検定したところ,介護の必要な親族のいる回答者と教員において,疎外感や差別を感じる体験があると回答した者が有意に多かった(p < 0.05).自由記述欄からは,疎外感や差別を感じる体験を構成する概念要素として,「固定観念や思い込みによる排斥」「周囲の職員への遠慮」「職場環境の上下関係」が抽出された.本研究は一機関を対象とした小規模なものであり即時の一般化は困難であるが,疎外感や差別を感じやすい労働者の個性や疎外感や差別の要因となる体験の要素を明らかにすることができ,職場環境の改善を検討する際の一助となると考える.

  • 橋本 ルイコ, 神力 絢子, 田中 智子, 草原 紀子, 橋本 博之
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 191-199
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    日本国内において新型コロナウイルス感染症は,2020年の1月以降, 2023年3月の時点に至るまで,多くの感染者,死者を数える新興感染症である.新型コロナウイルス感染症の感染経路は飛沫感染,接触感染および空気感染といわれており,飲食店等における主な感染防止策は,「密閉,密集,密接の回避」,換気および消毒の実施等とされている.新型コロナウイルス感染症の流行初期から,飲食店等では直接的な飛沫感染の防止策として,様々な形状のパーティションの設置が行われた.本研究では,ヒトのくしゃみにより発生するウイルス含有飛沫を効果的に遮断するパーティションの形状を把握するため,机上設置型のパーティションにウイルス含有飛沫と想定したスモークを噴射し,飛沫感染防止に対する有効性の評価を行った.その結果,すべての形状のパーティションにおいて,対面へのスモークの移行は確認されなかった.特に横衝立型のパーティションにおいては,左右方向へのスモークの拡散が完全に遮られ,対面へのスモーク拡散防止効果は最も良好であると考えられた.

  • -日本の日勤労働者を対象としたWEB横断調査-
    池田 大樹, 久保 智英, 井澤 修平, 中村 菜々子, 吉川 徹, 赤松 利恵
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/07/19
    ジャーナル フリー

    勤務間インターバルとは,勤務終了後から翌始業までの休息時間のことを言う.本研究は,勤務間インターバルと睡眠時間の組み合わせと職業性ストレスおよび病気欠勤の関連を検討した.本横断調査は,WEB形式で2022年2月に実施した.日勤労働者13,306名に対して勤務間インターバル,睡眠時間,職業性の高ストレス(職業性ストレス簡易調査票),病気欠勤について尋ねた.参加者を勤務間インターバルと睡眠時間に基づき14群に分類し,これを独立変数,高ストレス判定と病気欠勤を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した.その結果,短いインターバル(<11時間)と通常睡眠(≥6時間)や十分なインターバル(15時間)と短時間睡眠(<6時間)の組み合わせで,基準(十分なインターバルと通常睡眠)と比べてオッズ比が有意に高かった.これは,勤務間インターバルと睡眠時間を十分に確保することが職業性ストレスの低減に重要であり,勤務間インターバル制度によりインターバルが十分に確保されても,睡眠時間が短いと健康リスクが生じる可能性を示している.病気欠勤について,短いインターバルと短時間睡眠の組み合わせでオッズ比が有意に低かった.この原因として,勤務間インターバルが短い(長時間働かなければならない)人々は,忙しいために病気欠勤が必要な状況になっても休みを取れずあるいは取らず,結果的にオッズ比が低くなった可能性が考えられる.

技術解説
  • 小林 健一, 小林 沙穂, 柏木 裕呂樹
    原稿種別: 技術解説
    2023 年 16 巻 2 号 p. 209-213
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/09/30
    [早期公開] 公開日: 2023/08/18
    ジャーナル フリー

    労働現場における産業化学物質の中には,ばく露により労働者の健康に障害を生ずるおそれのあるものがあるため,その予防措置に向けて毒性機序の把握が必要である.血液毒性を誘発する物質は化学物質,薬物等で知られており,毒性実験を行う際に一般的に行われる血液学的検査と併せて骨髄由来細胞の性状を調べることは,より詳細な血液毒性の情報を取得し,リスク評価に有用なものになると考えられる.本稿ではラット大腿骨から簡便で効率的な骨髄由来細胞の採取を行う手法を検討したので報告する.

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