労働安全衛生研究
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14 巻, 2 号
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巻頭言
原著論文
  • ~個人用保護具を用いた対策を中心に~
    日野 泰道
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 85-96
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/06/15
    ジャーナル フリー

    我が国における労働災害(死亡災害)の約1/4は墜落災害である.したがって,墜落に起因する死亡災害を減少させることが,労働死亡災害を減少させる上で極めて重要となる.そこで本論では,まず墜落災害防止対策の変遷と墜落災害発生状況との関係について整理した.そこでは日本と比較して20年以上前にフルハーネスの義務化がなされた米国との比較も行った.また日本は2019年2月,原則としてフルハーネスの使用を義務化する規則改正を行った.この点,既にフルハーネスの導入実績を有する欧州では,個人用保護具を用いた工法についての基本的な考え方がEU指令に整理されている.そこで,フルハーネスという一つの個人用保護具の使用方法についての基本的な考え方を紹介するとともに,今後日本において解決する必要があると思われる課題について,理論的及び実験的な手法によって検討を行った.

  • 保利 一, 石田尾 徹, 樋上 光雄, 山本 忍
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 97-107
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/08/18
    ジャーナル フリー

    清掃作業のため喫煙室等に入って働く作業者や喫煙可能な飲食店等で働く作業者の受動喫煙を防止する方法としては,作業環境管理上の対策が困難であることから,呼吸用保護具の活用が有効と考えられる.しかしながら,現在使用されている呼吸用保護具がたばこ煙に有効であるか否かは検討されていない.そこで,防じんマスク,防毒マスクの吸収缶および新たに開発した極性と非極性の性質を有する両親媒性吸着材のたばこ煙に対する捕集特性を調べた.その結果,粉じんについては,現在の区分RL2,DS2以上の防じんマスク用フィルタであれば,98%以上捕集できることが認められた.ガス状物質については,防じんマスクではほとんど捕集できないが,活性炭素繊維入り防じんマスクは若干ではあるが捕集することが認められた.一方,有機ガス用防毒マスク吸収缶は有機物質をかなり捕集できること,また活性炭とセピオライトを7:3で配合した両親媒性吸着材およびホルムアルデヒド用吸収缶では,アルデヒド類やアセトンをほぼ捕集できることが示された.また,活性炭入り防じんマスクは低沸点の揮発性有機化合物(VOC)はほとんど除去できなかったが,ベンゾ[a]ピレンやニコチンは98%以上捕集できることが示された.ただし,臭気については,防じんマスク用フィルタはほとんど効果がないこと,また,防毒マスク吸収缶でも50%程度以下しか除去することができないことがわかった.

  • 梅崎 重夫, 清水 尚憲, 濱島 京子, 齋藤 剛, 池田 博康, 菅 知絵美, 北條 理恵子
    専門分野: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 109-118
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    機械の労働災害防止対策では,平成13~25年頃に主に機械のユーザーを対象に“機械包括指針”の策定,安衛法の改正によるリスクアセスメントの努力義務化,プレス機械や食品加工用機械の労働安全衛生規則の制改定が進められた.そこで,この時期の前後での労働災害の発生状況の変化を死亡労働災害の詳細分析によって解明を試みた.得られた結果は次のとおりである.1) 平成元~30年の間に,製造業の雇用者数は1,382万人から988万人へと71.5%まで減少し,これに応じて機械に起因する死亡労働災害の発生件数も減少した.2) 一方,平成元~30年の間に機械に起因する死亡労働災害の発生件数は37.2%まで減少した.したがって,上記1)との差である34.3%が技術的安全方策や人的安全管理策などによって死亡労働災害が純粋に減少した分と考えられる.3) 平成26~30年に発生した災害では,技術的安全方策の困難な危険点近接作業の割合が平成元~14年と比較して有意に増加していた.したがって,今後の労働災害防止対策では,機械の設計・製造段階で技術的安全方策の困難な機械や作業(危険点近接作業や広大領域内作業など)を生産技術的観点から根絶して行くことが特に重要と考えられた.4) 危険点近接作業や広大領域内作業を対象に,新たな労働災害防止戦略を提案した.この結果は,現在多発している労働災害の防止に有効なだけでなく,ISO12100を補完できる新たな労働災害防止戦略の提案としても有効と考えられる.

  • 上野 哲, 早野 大輔, 野口 英一, 有賀 徹
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/04/14
    ジャーナル フリー

    仕事場での熱中症の発生件数は気象条件の影響を大きく受ける.近年増加している高年齢労働者の割合も仕事場での熱中症の発生件数に影響を及ぼす可能性がある.仕事場を中心とした熱中症発生状況を詳しく把握するため,軽症まで含む熱中症救急搬送データを分析した.発生場所別男女別に熱中症救急搬送者数を年齢,発生季節(旬),発生時刻,重症度,覚知時WBGTの観点から比較した.全熱中症救急搬送者数の中で仕事場の割合は20~59歳男性で32.3%, 女性で10.8%だった.旬別では,男女とも8月上旬が最も多く次は7月下旬であった.発生時刻別では,男性では12時と15時に2つのピークがあり,昼休みの時間で熱中症救急搬送者が減っていた.曜日別では,男性で平日に仕事場での熱中症が多く,女性では月曜日のみ多かった.土曜日は男性で平日平均の74.1%, 女性で84.2%であった.男女とも仕事場での熱中症は軽症が有意に多かった.覚知時WBGTが高くなると仕事場での熱中症救急搬送者数は指数関数的に増加し,WBGT1℃の上昇につき約1.6倍増加した.暑熱気象条件下では,仕事場での熱中症救急搬送者数は住宅より有意に増加率が高かった.年代別では,20歳代から50歳代まではほとんど変わらなかったが,60歳代からやや増加傾向にあり70歳代以上では急増した.暑熱環境下及び高年齢労働者に対する熱中症対策の重要性が示唆された.

  • 工藤 安史, 後藤 由紀, 柿原 加代子, 吉田 和枝, 榎本 喜彦, 森 智子, 河野 啓子, 堤 明純
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 129-139
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

    我が国の労働者の「新型コロナワクチンに対する意識」と「新型コロナワクチンを接種する動機づけ」との関連性を 検討することで,職域における新型コロナワクチン接種の推進方法について探る.2020年9月から12月の間に調査を実施した.対象者は36事業場に勤務する労働者で,解析対象者数は2,061名であった.新型コロナワクチンに対する意識に 関する項目は,ヘルスビリーフモデルを参考にして独自に作成し,因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った.因子分析の結果,「自他の命と健康を守れる」,「費用負担の容認」,「安心して生活ができる」,「安全性への信頼」という 4つの因子が抽出された.「新型コロナワクチン接種への動機づけ」は,「完全に思わない」から「完全に思う」までの9段階で対象者に回答を求め,「やや思う」から「完全に思う」までのワクチン接種に対する肯定的な回答は67.2%であ った.「新型コロナワクチン接種への動機づけ」に関連する因子を探る目的で,重回帰分析を行った.その結果,「自他の 命と健康を守れる」,「費用負担の容認」,「安全性への信頼」という3つの因子が,「新型コロナワクチン接種への動機 づけ」と有意に関連していた.男性は女性よりも新型コロナワクチン接種への動機づけが有意に高かった.これらの心理的な因子や性別の違いを考慮することで,労働者の新型コロナワクチン接種の動機づけを高めることが出来る.

  • 高谷 一成, 萩原 正義, 的場 史朗, 鷹屋 光俊, 柴田 延幸
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 14 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/05/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,作業環境中に存在する揮発性の化学物質の濃度測定として主流となっているガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)による測定では困難な,リアルタイム測定を可能にするためにイオン移動度分析計(Ion Mobility Spectrometer : IMS)を用いたリアルタイム分析装置を開発した.溶剤や塗料などに幅広く使用されているトルエンを試料として選定し,本装置の性能評価を行った.実験の結果,トルエンの瞬間的な化学物質のばく露許容量である天井値(300 ppm)付近までの範囲(40 ppm ~256 ppm)において非常に正確にトルエン濃度を測定することができた.本装置の応答性についても,およそ50秒間隔で濃度測定を行うことが可能であることがわかった.さらにエタノールを高濃度共存物質とした場合の本装置のトルエン濃度測定における定性性・定量性を検証したところ,十分に濃度測定が可能であることが示された.このことから,共存物質のプロトン親和力がトルエンのプロトン親和力よりも低い場合,共存物質の存在は本装置の定性性および定量性に影響を及ぼさないことが示された.

短報
  • 劉 欣欣, 池田 大樹, 小山 冬樹, 高橋 正也
    原稿種別: 短報
    2021 年 14 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/05/18
    ジャーナル フリー

    長時間労働は脳卒中,冠動脈心疾患などの脳・心臓疾患のリスクを増大し,過労死認定要因のひとつとなっている.労働者の健康維持,さらに脳・心臓疾患による過労死を減少させるには,長時間労働による心血管系の作業負担を解明することが必要である.近年,少子高齢化により,高年齢労働者は増加しており,特に60代以上の労働者の脳・心臓疾患による過労死の請求件数は増加傾向である.加齢は心血管疾病のリスク要因であることが知られているが,高年齢者の長時間労働による心血管系の負担の実態は明らかでない.本研究では,加齢の影響を明らかにするために,実験室において異なる年齢層の模擬長時間労働時の心血管系反応を調査した.我々の先行研究では,30代~50代の模擬長時間労働時の心血管系反応を報告した.本稿では,60代(65歳未満)の参加者を追加した再解析結果を報告する.実験は,9時から22時まで行われ,心血管系反応の測定は作業開始前のベースラインと各課題セッションの計13回行った.繰り返しのある二元配置分散分析と多重比較の結果,30代と比較して,50代と60代は作業中の収縮期血圧は有意に高く,60代の一回拍出量が低い傾向を示した.結論として,若年労働者と比較して,高年齢労働者は長時間労働による心血管系の負担が大きく,やむを得ない場合は特別な配慮が必要と考えられる.

  • 松永 武士, 吉原 俊輔, 鈴木 善貴, 柳田 建三, 崔 光石
    原稿種別: 短報
    2021 年 14 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/06/03
    ジャーナル フリー

    現在,市場で流通している電子機器の多くが,JIS規格やIEC規格で定められた放射イミュニティ試験をクリアしている.しかしながら,IEC規格で定められた10V/m以上の大きさの電界強度をもつような,予想外の強い電磁波に対する放射イミュニティ性能については未だ十分に検討されていない.そこで本研究ではIEC規格で規定されているイミュニティ試験をクリアした静電コントローラを対象に,規格と同様80MHz ~1000MHzの周波数帯で水平・垂直偏波 両方の条件下で規格の試験条件より強い電界強度の電磁波を放射し,放射イミュニティ試験を行った.結果として,15V/mの電界強度では正常動作を確認できた.また,約20~30V/mの電界強度をもつ電磁波を放射させると,一部の周波数で若干の性能低下がみられたものの,IEC規格に定められた評価基準に照らし合わせたところ,誤動作ではないと判断できる.以上の結果は,本研究で用いた静電コントローラが,規格を超えた電界においても放射イミュニティ性能をもっていることを示唆している.

調査報告
  • 松沢 純平, 村上 卓弥, 小林 一穂, 関口 将弘, 大崎 馨
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 14 巻 2 号 p. 161-168
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    防衛装備庁先進技術推進センターでは,平成27年度から令和2年度にかけて、自衛隊員による災害派遣等の任務における救助活動や物資搬送をはじめとする作業の迅速化・効率化を目的とし,隊員の負担を軽減しつつ野外・不整地での迅速機敏な行動を可能とする高機動パワードスーツの研究を実施した.高機動パワードスーツは,人が装着した状態で災害派遣等の任務を実施することが必要となるため,装着者の安全性確保が重要となる.したがって、本研究においては,高機動パワードスーツの使用場面や仕様を決定していく段階から,研究者・製造者・運用者といった多数のステークホルダーの意見を取り入れたリスクコミュニケーションを踏まえつつ,ロボット介護機器の安全設計の支援のためのリスクアセスメントひな形シートに準拠したリスクアセスメントを行うことにより安全設計を実施した.また,野外での装着試験では,標準性能試験法の考え方を用いた模擬不整地や模擬災害環境等を活用することで試験の再現性と装着者の安全性を確保し,より効果的で安全な試験評価手法を検討した.本稿では、高機動パワードスーツの研究における、一連の安全性確保の取組みの結果について紹介する.

  • 高橋 明子, 島田 行恭, 佐藤 嘉彦
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 14 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/06/22
    ジャーナル フリー

    化学物質を扱う産業分野でのヒューマンエラーによる災害が報告されている.化学物質を対象としたリスクアセスメントは法令により義務化されたが,その実施方法にはヒューマンエラーの観点が十分に反映されていない.また,産業現場ではヒューマンエラーを考慮したリスクアセスメント手法が複数提案されているが,これらを化学物質リスクアセスメントに適用するにはヒューマンエラーの特定方法やリスクの評価方法の妥当性,リスクアセスメントへの適用方法の点で検討の余地がある.そこで,本研究では,労働安全衛生研究所が2016年に提案したプロセス災害(火災・爆発等)防止のリスクアセスメント手法にヒューマンエラーの観点を取り入れる方法を検討し,化学物質リスクアセスメントにおけるヒューマンエラーの考え方と,ヒューマンエラーをうっかりミスと意図的なルール違反に分けて評価する手順を提案した.今後は本評価手順の作業現場への適用可能性について,実証的な検討が必要である.

  • 冨田 一
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 14 巻 2 号 p. 177-187
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

    厚生労働省の死亡災害データベース(平成20~29年)を用いて,業種,事業場規模,電圧,設備別に感電死亡災害の現状分析を行った.その結果,感電死亡災害は建設業,事業場規模では29人以下で多く発生し,低圧が過半数を占め,送配電線での災害が多かった.この傾向は平成4~8年頃の状況と同様であった.感電災害事例に対してリスクアセスメントを適用した結果,ほとんどの感電災害事例では感電防止対策が不十分であり,これらの災害に対してリスク低減措置を施すことによって,感電災害のリスクが低減可能であった.

資料
  • -安全目標を活用した安全イノベーション-
    野口 和彦
    原稿種別: 資料
    2021 年 14 巻 2 号 p. 189-193
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/06/09
    ジャーナル フリー

    安全は主に現場の問題として捉えられていた時代から,経営と現場の総合力を問われる問題へと変わってきた.さらに,安全の為の活動は事故の経験に基づく再発防止の手法から,安全目標を設定しその目標達成のためのリスクマネジメントを用いるという未然防止への方法と変わってきている.日本学術会議の工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会では,工学システムに関する社会安全目標に関して6年間議論を重ね提言を行っている.本論ではこの提言を労働安全も含む一般安全への新たな対応の考え方として整理する.

研究紹介
  • 谷 直道, 市川 富美子, 岩切 一幸, 織田 進
    原稿種別: 研究紹介
    2021 年 14 巻 2 号 p. 195-198
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/09/30
    [早期公開] 公開日: 2021/06/10
    ジャーナル フリー

    医療・福祉従事者の腰痛発生には,要介助者の抱え上げや不良姿勢による腰部の生体力学的過負荷に加え,作業条件,作業環境,労働衛生教育等の複数の要因が関与する.しかしながら,我が国においてこれら複数の腰痛発生要因を総合的に評価する方法はない.ISO/TR12296(2012年)では,複合的な腰痛リスクを評価するための手法がいくつか紹介されている.そのなかのMAPO法は,病院や介護施設ごとの総合的な腰痛リスクを算出するとともに,腰痛対策の問題点を抽出することができる.これは我が国の看護・介護の分野においても活用でき,組織的な腰痛対策に取り組む際の動機付けになると考えられる.本稿では原著者より最新版の提供を受け,日本語版MAPOインデックスを作成する機会を得たため,その概要を報告する.

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