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端 邦樹, 勝村 庸介, 林 銘章, 室屋 裕佐, 付 海英, 山下 真一, 工藤 久明, 中川 恵一, 中川 秀彦
セッションID: EO-1-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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脳梗塞時に発生する活性酸素、フリーラジカルを除去する作用があることから2001年より国内において臨床で使用されているエダラボン(3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one)は、その優れた抗酸化性から、放射線防護剤としての利用も検討され、研究されている。最近ではエダラボン同様の反応性を期待されたエダラボン誘導体についての研究開発も行われており、ESRによる実験で、フェニル基をピリジン環で置換した誘導体がエダラボンより優れた
•OHとの反応性を示すという報告もなされている。エダラボンやその誘導体と
•OHなどの水の放射線分解生成物との反応性を明らかにすることは、放射線防護剤の研究において重要であり、本研究ではその反応初期過程を明確にすることを目的としてパルスラジオリシス法による測定を行った。速度定数は生成するラジカルの直接測定、炭酸イオンやDMPOを競争剤に用いた競争反応による測定により評価した。直接測定ではすべての誘導体において拡散律速に近い反応性を示した。炭酸イオンとの競争反応の結果も同様のものとなった。これらの結果から、エダラボン誘導体はエダラボン同様に優れたラジカル捕捉剤であることがわかった。DMPOとの競争反応を用いての速度定数評価では、ピリジン環を持つ誘導体について、直接測定の2倍程度高い値が得られた。これからピリジン環を持つ誘導体とDMPOとの間に相互作用が存在することが示唆された。
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付 海英, 林 銘章, 端 邦樹, 室屋 裕佐, 藤井 健太郎, 勝村 庸介, 横谷 明徳, 鹿園 直哉, 籏野 嘉彦
セッションID: EO-1-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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天然のフラボノイドであるシリビン(SLB)、ヘスペレチン(HESP)、ナリンゲニン(NAN)、ナリンギン(NAR)は、報告にあるような植物によるがんの化学防護作用を説明する成分であると信じられている。しかし、発がんを抑制するシリビンやその類似体の濃度は低く、分子的なメカニズムは明確ではない。本研究では、in vitroでのプラスミドDNAと一定の捕捉剤の条件下で放射線によって活性酸素(ROS)を発生させる方法を用いて、これら4つのフラボノイドがフリーラジカルによるDNA損傷を改善することを明らかにした。0.1 mMのSLBによるプラスミドDNAを50 パーセント防護するためのdose modifying factorは8.9となった。測定したフラボノイドの中ではSLBが最も効果的に働き、μMオーダーの濃度で効果が見られた。高速反応を追う化学的手法を組み合わせた研究結果はSLBからDNA上のROSが誘発したラジカルに電子(もしくは水素原子)移動のメカニズムを示した。これらの結果は、DNAラジカルとの直接的な相互作用におけるSLBや類似体の抗酸化効果を支持している.
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菓子野 元郎, 漆原 あゆみ, 児玉 靖司, 小林 純也, 劉 勇, 鈴木 実, 増永 慎一郎, 木梨 友子, 渡邉 正己, 小野 公二
セッションID: EO-1-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
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林 銘章, 石 偉群, 付 海英, 室屋 裕佐, 勝村 庸介, 徐 殿斗, 柴 之芳
セッションID: EO-1-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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パーオキシナイトライト(ONOO
-)や窒素酸化物(NO
x)等の活性窒素種(RNSs)は、チロシンのニトロ化に代表されるように、芳香族アミノ化合物(チロシンやトリプトファン等)に対し様々な修飾を行うことが知られている。特に、3-ニトロチロシン(3-NT)は、細胞内の窒素化ストレスを測る上で重要な指標化合物と考えられ、この反応性を調べることは非常に重要である。そこで本研究では、3-NTおよびその誘導体の酸化性ラジカルとの反応性を調べた。まずナノ秒パルスラジオリシス法を用いて、3-NT、N-acetyl-3-nitrotyrosine ethyl ester (NANTE )、およびGly-nitroTyr-Gly含有3-NTについて、酸化性ラジカル(N3
•ラジカル)との反応速度定数を調べた結果、それぞれ9.8±0.7x10
8, 8.0±0.4x10
8 and 9.1±1.0x10
8 [L mol
-1 s
-1]と求められた(pH 6.0)。チロシンやペプチド含有チロシンの場合より一桁大きい値であることから、ニトロチロシンやその誘導体は酸化性ラジカルと非常に高い反応性を持つことが分かった。また、上記化合物とN3
•ラジカルの過渡的生成物の吸収スペクトルを測定した結果、チロシルラジカルによる415nm近傍の吸収が見られたことから、一電子酸化反応によるものと同定された。更に、Electrospray ionization mass spectrometry (ESI-MS) やTandem mass spectrometry (MS
n)を用いて最終生成物の質量分析を行った結果、二量体が形成されていることが分かった。細胞内におけるタンパク質の凝集は、3-NT残基の二量化反応を介して引き起こされるのではないかと推測される。
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桑原 義和, 森 美由紀, 中川 浩伸, 志村 勉, 福本 学
セッションID: EO-2-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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(目的) がんの放射線療法は、局所制御が可能な点から応用が拡大している。しかし、放射線耐性細胞の存在は、治療の成否を左右する要因の一つである。標準的放射線療法は1クールが2 Gy/dayのX線、30日以上照射からなっている。我々は、より有効な放射線療法を開発するためにヒト肝がん由来HepG2細胞株から2 Gy/dayのX線を照射し続けても死滅しない放射線耐性細胞株(HepG2-8960-R)の樹立に成功した。本研究では、最近アポトーシス以外の細胞死として脚光を浴びているオートファジーと放射線耐性の関係について解析した。さらに、オートファジーを誘導するラパマイシンを投与して放射線感受性の変化を調べた。
(方法) オートファジーを伴った細胞は、抗LC3抗体を用いてオートファゴソームの蛍光強度を計測することで行った。また、ラパマイシンの投与によりオートファジーを誘導して、細胞の放射線感受性が変化するのか否かをHigh density survival assayで検討した。
(結果) 2 Gy/dayの X線照射により、HepG2細胞ではオートファジーが誘導されたが、HepG2-8960-R細胞では30日以上照射しても誘導されなかった。ラパマイシン投与により、HepG2-8960-R細胞でもオートファジーが誘導され、その放射線感受性はHepG2細胞と同等になった。
(考察) 放射線療法においてラパマイシンやその誘導体であるRad001を投与することで、非放射線耐性細胞だけでなく、放射線耐性細胞をも効率よく死滅させることの出来る可能性が示唆された。今後は、
in vivoでの解析が必要である。
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大西 健, 澤西 和恵, 高橋 昭久, 大西 武雄
セッションID: EO-2-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】
p53タンパク質は放射線誘導アポトーシスおよび細胞増殖抑制シグナル伝達系で重要な役割を果たしており、放射線による腫瘍増殖遅延に深くかかわっている。そのため、正常な機能を失った変異型
p53を保有する悪性腫瘍は放射線抵抗性の傾向が一般的に見られ、有効な放射線増感法が望まれている。今回、ヒト肺がんの担がんヌードマウスを用いて、変異型p53タンパク質に正常型p53タンパク質の機能を回復させるはたらきを持つp53C末端ペプチドが放射線で誘導される腫瘍増殖遅延を増強するかを検討した。
【方法】
p53欠損ヒト非小細胞肺がん細胞 H1299に変異型
p53を導入した細胞(H1299/m
p53)あるいは
neoコントロールベクター導入した細胞(H1299/
neo)をヌードマウスの大腿皮下に移植し、腫瘍径が約5 mmに達したところで、腫瘍体積の1/2量のp53C末端ペプチド(40 μM、アミノ酸残基361-382)あるいはコントロールとしてp53N末端ペプチド(アミノ酸残基14-27)をペプチド導入試薬(Penetratin1TM peptide)と共にX線照射(5 Gy)24時間前に腫瘍に局所注入した。経日的に腫瘍径を計測し、腫瘍体積変化を比較した。
【結果】
H1299/m
p53移植腫瘍において、p53C末端ペプチドと放射線併用処理群ではp53C末端ペプチド処理単独群および放射線照射単独群に比べより強い増殖遅延が見られた。H1299/
neo移植腫瘍ではp53C末端ペプチドによる腫瘍増殖遅延効果は見られなかった。
【考察】
今回、変異型p53保有移植腫瘍において、放射線で誘導される増殖遅延がp53C末端ペプチド処理併用によって増強された。このことはp53C末端ペプチドが分子シャペロン作用をもつと考察され、我々によるこれまでの
in vitro実験系のみならず、担がんヌードマウスを用いた
in vivo実験系でも分子シャペロン作用が見られることが分かった。
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関根 絵美子, 于 冬, 二宮 康晴, 窪田 宣夫, 藤森 亮, 岡安 隆一, 安西 和紀
セッションID: EO-2-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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〔目的〕スルフォラファンはブロッコリースプラウト(ブロッコリーの芽)の中に見つけられた物質であり、腫瘍細胞において細胞周期をG2/Mチェックポイントで停止させることや、apoptosisを誘導することが知られている。我々は新たな放射線増感剤を開発する目的でスルフォラファンに注目した。以前、我々は、スルフォラファンをX線照射と併用することで放射線増感効果があることを確認した。また、その増感のメカニズムは、X線照射後のDNA二重鎖切断(DSB)の修復をスルフォラファンが阻害することによるということが分かった。そこで、本研究では、スルフォラファンと重粒子線(炭素線)との併用における放射線増感について検討した。重粒子線治療において、スルフォラファンが有用であるか検討することが本研究の目的である。
〔方法〕子宮頚部癌細胞(HeLa細胞)を用い、20 μMのスルフォラファンを24時間処理し、炭素線(290 MeV/n, LET 70 KeV/μm)照射後の生存率をコロニー形成法によって評価した。DNA DSB修復の影響実験については、定電圧電気泳動法(CFGE)や、γ-H2AX (DSBs marker) を用いた免疫蛍光法により評価した。Rad51 (HRR pathway)、p-DNA-PKcs (NHEJ pathway)を用いた免疫蛍光法によりDSBs修復経路の効率を検出した。細胞周期に対する影響については、flow cytometoryにて測定した。さらには、in vivoで、ヌードマウス移植ヒト腫瘍モデルを用いて腫瘍の治療効果に与える影響を調べた。
〔結果と考察〕スルフォラファン前処理によりHeLa細胞の放射線増感効果が重粒子線でも得られた。CFGEにより、スルフォラファンと重粒子線を併用すると、DSBsの修復を阻害することが分かった。スルフォラファン(300 μmol/kg)を連続8日間マウスの腹腔に注射し、炭素線4Gyを4日目に局所照射した。その結果、放射線との併用グループでは放射線単独や薬剤単独に比べて顕著な腫瘍増殖の抑制が観察された。
本研究により、細胞レベルと動物レベルで、スルフォラファンによる放射線増感効果が重粒子線照射でも確認された。スルフォラファンを新たな放射線増感剤として確立すべく、将来の臨床応用へとつなげたい。
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白井 克幸, 鈴木 義行, 岡本 雅彦, 水井 利幸, 吉田 由香里, 花村 健次, 白尾 智明, 中野 隆史
セッションID: EO-2-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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背景:我々はこれまでに成熟神経細胞はX線照射により神経細胞死(アポトーシス)を誘導されないことを明らかにしている。しかしながら、頭部への放射線治療あるいは放射線被爆により、様々な脳機能障害を引き起こすことは臨床的に知られている。そこで今実験は成熟神経細胞の樹状突起細胞への影響に着目し、蛍光免疫染色による解析を行った。
方法:初代神経細胞培養は低密度海馬培養法(Banker Methods)を用いた。神経細胞を21日目まで培養し、X線照射を 30Gyを施行した。照射直後に4%パラホルムアルデヒドで固定し、樹状突起スパインの構造蛋白でF-actin細胞骨格のdrebrinとシナプス前マーカーのSynapsin Iを蛍光免疫染色した。撮影された画像は,MetaMorph Software (Universal Imaging, West CHester, PA,) を用い解析した。各々の蛋白で樹状突起上の平均信号強度の2倍以上を示す集積部位をクラスターと定義した。
結果:各々の実験では30個の樹状突起を解析した。樹状突起100μm中のdrebrinのクラスター数は、コントロールの124.16個から、X線照射により97.66個と有意に減少した(P=0.006). Syn1の100μm中のクラスター数は、コントロールの101.23個から、X線照射により113.14個と有意な変化を認めなかった(P=0.091).
結語:X線照射により樹状突起スパインの構成蛋白のクラスター数の減少を認めた。照射によるスパインの形態変化でシナプス機能不全起こる可能性が示唆された。
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白石 善興, 後藤 久美子, 砥綿 知美, 島崎 達也, 古嶋 昭博, 岡田 誠治
セッションID: EO-2-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【はじめに】日本におけるHIV-1感染者は年々増大している。近年、薬物療法の進歩によりHIV-1感染者の予後は劇的に改善しているが、最近では悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫の合併が長期予後を脅かす因子として問題になっている。Primary Effusion Lymphoma (PEL)は、HIV-感染者に比較的特異的にみられる悪性リンパ腫で、そのほとんどが化学療法に耐性で予後が極めて悪いことが知られている。本研究では、PELに対する放射線療法の有効性について、in vitro培養系と高度免疫不全マウスを用いたマウスモデルを用いて検討した。
【方法】1) PEL細胞株(BCBL-1, BC-1, BC-3, TY-1)の放射線感受性について調べた。
137Cs線源を用いて、放射線照射後の細胞数の変化をMTT法とトリパンブルーによる細胞数計測により解析した。さらに、その他の血液悪性腫瘍株(Raji, Jurkat, K562)とも比較し、これらの細胞がアポトーシスに陥っているか否かをDNA ladder, Annexin V染色により確認した。
2) 高度免疫不全マウス(Balb/c Rag-2/Jak3 double deficient mice)の腹腔内または皮下にPEL細胞株を移植してPELのモデルマウスを作成した。これらのマウスに全身放射線照射(4 Gy×2回)後、さらに骨髄移植を行い、治療モデルを作成した。
【結果】1) PELの細胞株では、照射3日後に最も放射線に対して抵抗性を持つBCBL-1でIC50が4Gy程度で、他の血液悪性腫瘍株では、IC50が4Gyから10Gy程度とPELより耐性となり、PEL細胞株の放射線感受性はほかの血液悪性腫瘍株に比して有意に高かった。さらに、DNA ladder, PI染色およびAnnexin V染色により、PEL細胞株はアポトーシスに陥っていることを確認した。
2) BCBL-1を皮下投与した腫瘍形成モデルにおいて、非治療群では皮下腫瘤の経時的な増大が認められ、移植6週後にはすべて死亡したが、放射線治療群では、移植6週後においても腫瘍の増大は認められなかった。また、BC-3を腹腔内投与した腹水形成モデルにおいて、非治療群では腹水の貯留が認められたが、放射線治療群では移植6週後においても腹水の貯留は認められなかった。
【考察】本研究によりPEL細胞株に対する放射線感受性は他の血液悪性腫瘍株に比べて有意に高いことが証明された。PELは悪性度が高く化学療法抵抗性であることから、放射線療法が非常に有用であることが示唆された。
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佐藤 達彦, 加瀬 優紀, 渡辺 立子, 仁井田 浩二
セッションID: EO-3-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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粒子線治療や人類の宇宙長期滞在を計画する際,陽子や重イオンなど高エネルギー荷電粒子による生物効果比(RBE)を考慮した線量評価が必要となる。しかし,α線など低エネルギー荷電粒子のRBEを表す指標として一般的に用いられているLETは,高エネルギー荷電粒子の線質を適切に表現できない。なぜなら,高エネルギー荷電粒子は,δ線の生成断面積が大きく,同じLETを持つ低エネルギー荷電粒子と比べて,細胞レベルのミクロな視点で見た場合,その飛跡周辺の電離密度が低くなるからである。したがって,そのRBEを正確に評価するには,より電離密度と深い相関のあるLineal Energy (y) 分布を計算する必要がある。しかし,マクロな空間におけるミクロな分布(y分布)を計算する手法は存在せず,従来,宇宙飛行士や粒子線治療患者の線量評価は,LETに基づく半経験モデルを用いて行われてきた。
このような背景から,我々は,巨視的な放射線挙動解析計算コードPHITSに微視的な計算コードTRACELの結果を組み込み,マクロ空間におけるy分布を計算する手法を世界で初めて構築した。そして,その改良したPHITSとマイクロドジメトリの知見を組み合わせ,様々な高エネルギー荷電粒子の混在するHIMACのSOBPビームで照射したHSG細胞の10%生存率に対するRBE値を計算し,測定値[1]と比較した。その結果,計算は測定値を精度よく再現できることが分かり,その妥当性が証明された。PHITSは,ビーム上流や患者体内で発生する2次放射線のエネルギースペクトルを精度よく計算可能なため[2],この手法を用いれば,粒子線治療計画において,腫瘍細胞への治療効果と正常組織への副作用的な効果を,2次放射線による寄与を含めて同時に評価することが可能となる。
発表では,構築した計算手法の詳細について説明するとともに,その手法を応用した今後の研究の展望について紹介する。
[1] Y. Kase et al. Radiat. Res. 166, 629 (2006).
[2] H. Nose et al. J. Nucl. Sci. Technol. 42, 250 (2005)
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安藤 興一
セッションID: EO-3-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】放医研HIMACシンクロトロンで得られた炭素線RBEとLETとの関係を中心にして、ドイツGSIおよび過去ローレンスバークレイ研究所で得られたデータを解析することを目的とした。【材料・方法】原則、粒子線RBEが線量効果関係が述べられており、かつ線量平均LETが記載されている56論文を用いた。著者がRBEを記載している場合には、間違いがないことを確認して、これを用いた。記載ない場合には線量効果関係からRBEを読み取った。【結果】 全RBEデータは767件あり、その内訳は炭素線データ474件、その他の粒子293件であった。もっとも幅広いLET範囲を炭素線について調べている3種類の培養細胞では、15 keV/microm近傍から100 keV/microm近傍までのLET範囲ではRBEの増大が直線近似できること、が分かった。そこで、炭素線データの中で100 keV/microm以下の範囲にあるLETとRBEに焦点を充てて、以下の解析を行った。コロニー形成による細胞死については、一番小さい回帰係数は舌がんの0.011 keV/micromであり、一番大きい回帰係数0.033 keV/micromはハムスター V79 細胞に認められた。染色体損傷データでは、リンパ球の回帰係数0.014 keV/micromから悪性黒色腫での回帰係数 0.068 keV/microm までの間に分布していた。この他に、アポトーシス、実験動物を用いた正常組織障害と移植腫瘍の治療効果、細胞トランスフォーメーション、更に分割照射についてもヒト由来培養細胞と実験動物での結果を同様に解析した。【結論】コロニー形成細胞死と染色体損傷では回帰係数の分布が広く、最少値と最大値の間に約6倍の開きがあった。アポトーシス、腫瘍と正常組織での回帰係数は比較的小さかった。
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道川 祐市, 野代 勝子, 菅 智, 石川 敦子, 荘司 好美, 岩川 眞由美, 今井 高志
セッションID: EO-3-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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私達は1 塩基置換多型(SNP)を指標として399名の乳癌患者における放射線治療皮膚有害反応発症と関連する遺伝子領域の探索を行い、細胞分裂時の核染色体分配に関わるPTTG1 遺伝子や細胞間相互作用に関与する細胞膜表面糖タンパク質CD44 遺伝子におけるハプロタイプ多型 が統計学的に有意な関連を示すことを報告している。即ちPTTG1のハプロタイプ多型は有害反応発症リスクの抑制、CD44のハプロタイプ多型は有害反応発症リスクの増加と関連することが示唆された。1遺伝子座に2種類以上存在するハプロタイプ間の相互関係を解析して患者個人の有害反応発症リスク予測に利用するためには、個人個人のディプロタイプを確定することが必要である。そこで本研究ではハプロタイプ多型を決定するための1分子レベル長鎖DNA多型解析手法の開発を目的とした。まず、私達はPhi29 DNAポリメラーゼがアガロースゲル内に保持したDNAを鋳型としても、溶液中と同様に鎖置換型等温全ゲノム増幅反応を行えることを見出した。そこで、相同染色体の剪断・凝集を避けて1分子まで希釈するために、極少数の細胞(乳癌患者血液由来EBウィルス形質転換Bリンパ細胞)を出発材料として直接アルカリ性アガロースゲル溶液と混合し細胞膜を溶解することにした。この溶液を微量分注後冷却してアガロースを固化し、中和してからPhi29 DNAポリメラーゼを加えて最大10万倍程度の増幅を行い、得られた増幅産物を加熱によりゲルから溶液中に回収した。アレル特異的プライマー伸長反応を原理に持つ可視型SNPチップを作製して上記増幅産物のタイピングを行ったところ、全長約20kbのPTTG1遺伝子と全長約80kbのCD44遺伝子の両者において、1分子上で連続する4種類のハプロタイプタグSNPを同時に決定することができた。したがって、本手法により上記2遺伝子の個人毎のディプロタイプを確定することが可能となった。
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中村 秀仁, 江尻 宏泰, 内堀 幸夫, 北村 尚, 辻 厚至, 硲 隆太, 伏見 賢一
セッションID: EO-3-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
フリー
近年、がん検出、良悪性度鑑別、治療効果判定、再発診断、予後予測などの治療計画に反映できる情報を得るために、感度と定量性に優れる標識薬剤による陽電子断層撮影(PET)が臨床で広く使われるようになっている。PET検査の普及に伴い、被験者及び医療従事者(医師、放射線技師、看護師)の放射線被ばくが懸念されており、それを如何に抑えるかが重要な課題になっている。また、被験者の検査中の不安感を和らげるためにも、迅速かつ適切に判断できる高い解像度と高い検出効率を持つ放射線診断装置が求められる。
【概要】
本研究では、新たに考案した放射線検出原理により、解像度および検出効率を飛躍的に向上させる革新的な医療用診断装置の開発に取り組む。
【目的・方法】I.従来、不向きとされていた有機シンチレータの性能をうまく引き出し、無機シンチレータと複合化することにより、超高解像度の広エネルギー領域(数十keV~数MeV)ガンマ線検出器CROSS(Correlation Response Observatory for Scintillation Signals)を開発する。II.新たに考案した放射線検出原理(ガンマ線再構築法)により、これまでの放射線検出器で達成できなかった高検出効率を実現するとともに、α線・β線・γ線(X線)に対するトリプル感度を実現する。また、蛍光分析法により、エネルギー分解能と空間分解能の向上を図る。
【効果】核医学検査において、シングルフォトン画像診断薬による検査は、種類も豊富で一般的である。本研究で開発したCROSSは、高解像度と高感度に加え、低エネルギー領域の検出効率も高く、PETだけでなく核医学検査全般に適用できると考えられる。また、同時に多核種が検出できるため、一回の検査で多くの情報を得ることも可能である。また、緊急被ばく時に、放出される放射線粒子識別及び体内外の放出部位判定・線量測定、崩壊時間の測定が可能となる。これらの性能により、人体からの放射線計測時間を短縮させ、迅速かつ適切に被験者の診断を可能にする。
本講演では、CROSS計画概要と新たに開発したプロトタイプ検出器CROSS-miniで実現した高分解能について報告する。
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鶴岡 千鶴, 鈴木 雅雄, 劉 翠華, 古澤 佳也, 岡安 隆一, 安西 和紀
セッションID: EO-4-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】高LET放射線の生物効果に関して、同様のLET値のイオンビームであっても照射される核種が異なると、LET-RBE曲線の形が異なるという報告がされている。昨年までの本学会において、炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンの4種類の加速核種による、細胞致死、突然変異、修復されずに残ったクロマチン損傷誘発頻度と言った放射線照射後の損傷修復を経て現れる生物学的エンドポイントでは、加速核種及びLET依存性が認められたが、照射直後に観察されるクロマチン損傷誘発の様な修復がほぼ起きていない生物学的エンドポイントでは加速核種及び100keV/μ m以降のLET依存性は認められないことを報告した。本年は、同様のLET値において加速核種が異なるときのクロマチン損傷の修復動態の違いを明らかにすることを目的とした研究を行った。
【方法】細胞はヒト胎児皮膚由来正常細胞を用いた。加速核種は放医研HIMACで実験可能な炭素、ネオン、シリコンイオンを用い、それぞれの核種で約100keV/μ mのイオンビームによって誘発されたクロマチン切断の再結合の動態を照射後24時間に渡り調べた。クロマチン損傷は早期染色体凝縮法(PCC法)用いた。
【結果】照射24時間後に修復されずに残ったクロマチン切断残存率は、炭素、ネオンイオンにおいてはほぼ同程度だったのに対し、シリコンイオンでは他の核種に比べて高い値を示した。さらに照射30分後に観察されたクロマチン切断残存率は、シリコンイオンで最も低く炭素イオンで高い値を示した。これらのことより、加速核種が異なることによるクロマチン切断残存率の違いは、照射後すぐに起こる修復及び、照射後一定時間経過した後に起こる修復それぞれの関与の仕方が異なる結果であることが考えられる。
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木梨 友子, 田中 弘基, 鈴木 実, 菓子野 元郎, 劉 勇, 増永 慎一郎, 小野 公二, 高橋 千太郎
セッションID: EO-4-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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頭部照射時にマウス脾細胞に認められたバイスタンダー効果
木梨友子、田中弘基、鈴木実、菓子野元郎、劉勇、増永慎一郎、小野公二、高橋千太郎
京都大学原子炉実験所
【目的】マウスの頭部を大線量照射した時の照射されていない脾臓への影響を、照射後の脾細胞のアポトーシス誘導と脾細胞のTリンパ球におけるマイクロヌクレウスの発現を調べ、頭部の放射線照射時にバイスタンダー効果が生体内で観察されるかどうか検証した。【方法】ガンマ線照射装置を用いて、マウスの頭部を10Gy (1Gy/min)で照射した。この時、頭部以外の部分は厚さ5cmの鉛ブロックでシールドされている。照射後、脾臓を取り出し、1-24時間後のアポトーシス誘導をCell Death Detection ELISA(ロッシュ)を用いて酵素免疫法により定量的に測定した。また、脾細胞よりTリンパ球を分離培養して、マイクロヌクレウスの発現を観察した。【結果】C3Hマウスの頭部を10Gyで照射した時、頭部以外の部分の線量はガラス線量計の測定で1.0-1.4Gyであった。この時の全身の被ばく線量は組織加重係数を用いて算出すると、1.3-1.7Gyとなる。脾細胞のアポトーシス誘導は3.0 ±0.5(EF)、Tリンパ球のマイクロヌクレウスは52±10(%) で、この値は脾細胞のアポトーシス誘導では、全身照射で5Gy照射時に相当し、またTリンパ球のマイクロヌクレウスの発現では、全身照射で5.5Gy照射時と同等であった。【結論】頭部を10Gy照射した時の脾臓は線量測定では1.0-1.4Gyの被ばくであるが、脾細胞のアポトーシス誘導と脾細胞のTリンパ球におけるマイクロヌクレウスの発現においては被ばく線量に比べて、より過大な障害が認められた。このことにより生体でのバイスタンダー効果が検証された。
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本田 絵美, 倉持(小見) 明子, 萩原 亜紀子, 木村 美穂, 鈴木 理, 浅田 眞弘, 中山 文明, 明石 真言, 今村 亨
セッションID: EO-4-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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Fibroblast growth factor (FGF)ファミリーは細胞の増殖・分化や代謝調節を通じて様々な生命現象の制御に働いていることが示されており、その機能を医薬として利用できる分子とプロトコールの開発が期待されている。我々はこれまでにFGF1、FGF7、FGF10のマウス小腸における放射線防護効果を比較し、広い受容体活性化能を有するFGF1が最も優れた効果を発揮することを報告した。しかしFGF1は、不安定性や強いヘパリン依存性などの為に医薬となっていない。今回我々は、多数のFGF1/FGF2キメラタンパク質から選択された優れた分子を基に、医薬化を指向して分子の至適化を試みた。外来アミノ酸の排除を優先しキメラ化のポイントを微妙に変えた複数の変異体の中から、最適と考えられるFGFキメラタンパク質を選択した。この分子は、FGF1やFGF2に比べて、37˚Cにおける活性安定性が高く、蛋白質分解酵素耐性が高く、さらに溶液保存中における濃度低下が少ないことが示された。立体構造を反映する自家蛍光の解析により、これらの優れた特性の少なくとも一部は、タンパク質フォールディングの安定化によると考えられた。受容体特異性を、特定サブタイプのFGF受容体の強制発現細胞を用いて評価した結果、本分子は我国唯一の承認FGF医薬であるFGF2が反応できないFGFR2bに対しても強い活性を示し、FGF1と同様に全サブタイプのFGF受容体を刺激できることが示された。また表皮角化細胞に対して、ヘパリンの有無に依存せず、FGF1やFGF2よりも強い増殖刺激活性を示した。さらに本分子は、ガンマ線10 Gy全身照射C3H/Heマウスにおける小腸cryptの生存率を改善した。以上の結果から、本分子は安定型FGF医薬候補として、放射線障害の予防治療をはじめ創傷治療など幅広い用途に有用であることが期待される。
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安西 和紀, 上野 恵美
セッションID: EO-4-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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放射線治療の質を向上させるための考え方の一つに、腫瘍組織の線量を高めつつ正常組織の障害を防ぐことがある。重粒子線治療はブラッグピークの存在によりX線やγ線などの低LET放射線に比べて正常組織の障害は少ないという利点を有するが、入り口部分では線量はゼロではなく障害が起こりうる。我々はこれまでに、抗酸化・ラジカル消去を基本としてX線に対して放射線防御効果を有するいくつかの化合物を見いだしてきた。今回、これらの化合物がさらに重粒子線に対しても有効であるかどうかを調べることを目的とした。
C3Hマウスを用いて炭素線(290MeV)を全身照射した場合のLD
50/30を決定した。290 MeV, SOBP 6 cm、照射野10 cmのビームで様々な線量でマウスを全身照射した時の30日生存率からLD
50/30を求めた。その結果、炭素重粒子線のLD
50/30として約5.5 Gyという値が得られた。このLD
50/30の値はX線で得られている6.6 Gyよりも小さく、炭素重粒子線の生物効果がX線よりも強いことが示された。これらの値から、骨髄死をエンドポイントとした場合のRBEは1.2となった。
次いで、放射線防御剤としてシステアミン、WR-2721、亜鉛酵母、γ-TDMGの効果を調べた。290MeV, SOBP 6 cm、照射野10 cmのビームでマウスを6.0 Gy全身照射した。照射30分前(システアミン、WR-2721)あるいは照射直後(亜鉛酵母、γ-TDMG)に適当な量の防御剤を腹腔内投与して30日生存率を調べた。まだ予備的な結果しか得られていないが、これまで調べてX線で有効であった化合物は、炭素粒子線においても有効であった。
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YU Da-Yong, WEI Zheng-Li, AHMED Kanwal, ZHAO Qing-Li, 近藤 隆
セッションID: EO-5-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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Sanazole (AK-2123, 3-nitrotriazole derivative, N1-(3-methoxypropyl)-2-(3-nitro-1 H-1, 2, 4-triazol-1-yl)acetamide) has been tested clinically as a hypoxic cell radiosensitizer. The aim of this study was to examine whether sanazole enhances apoptosis induced by hyperthermia (HT) or ionizing radiation (IR) in air condition. The combined effects of HT (44°C, 20 min) or IR (X-rays, 10 Gy) and sanazole on apoptosis in human lymphoma U937 cells were investigated. When the cells were treated first 10 mM sanazole for 40 min, and exposed to HT or IR afterwards, a significant enhancement of HT- or IR-induced apoptosis was evidenced by DNA fragmentation and phosphatidylserine externalization at 6 h after treatment. Flow cytometry revealed rapid and sustained increase of intracellular superoxide due to sanazole, and showed subsequent and transient increase in intracellular peroxide formation. Mitochondrial membrane potential was decreased and the activation of caspase-3 and caspase-8 was enhanced in the cells treated with the combined treatment. The activation of Bid, but no change of Bax and Bcl-2 were observed after the combined treatment. The release of cytochrome c from mitochondria to cytosol, which was induced by HT or IR, was enhanced by sanazole. An increase in the intracellular Ca2+ concentration [Ca2+]i, externalization of Fas, and decrease in Hsp70 were observed following the combined treatment. These results indicate that the intracellular superoxide and peroxides generated by sanazole are involved in the enhancement of apoptosis through Fas-mitochondria caspase and [Ca2+]i-dependent pathways, and a decrease in Hsp70 also contributed to the enhancement of apoptosis.
Keywords: sanazole; apoptosis; hyperthermia; X-irradiation; reactive oxygen species; calcium.
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渡邉 正己, 渡邉 喜美子, 吉居 華子, 菓子野 元郎, 田野 恵三, 鈴木 啓司
セッションID: EO-5-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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ある種のがん組織は、正常組織に余り影響を及ぼさない42-43度の温熱処理に感受性が高いことが経験的に知られている。そのことががん温熱処理によるがん治療(ハイパーサーミア)の基盤になっている。しかし、がん組織がなぜ正常組織より温熱感受性が高いかについては、様々な観察を基に、(1)がん組織が低酸素状態であるから、(2)がん組織が低pHであるから、(3)がん細胞に損傷修復能に欠損があるからなどと想定されているが、その詳細は依然として明確にされていない。これまでの我々の研究グループの結果を整理すると、細胞の温熱致死標的は、がん細胞および正常細胞の区別なく中心体であり、中心体構造異常が異常分裂を誘導し細胞は死に導かれることが判った。その意味で、温熱感受性は、温熱処理後始めて分裂期に到達した時点での中心体異常頻度に左右される。言い換えれば、中心体修復制御および細胞周期進行制御に関係する様々な因子が温熱感受性に影響する。一方、我々は、これまでにcGyレベルの低線量放射線照射は、p53の誘導を伴わず細胞の増殖能を促進することを報告している。これらの結果を併せ考えると温熱処理に低線量放射線照射を併用することによってがん細胞を選択的に致死に導ける可能性が予想される。本発表では、その仮説の真偽を報告する。
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林 幸子, 畑下 昌範, 松本 英樹
セッションID: EO-5-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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[目的]
癌温熱療法における温熱感受性について細胞死に関与する転写因子NF-κBをターゲットとする生薬の成分Parthenolide (PTL)を用いてヒト前立腺癌DU145及びPC3細胞における温熱増感効果を検討し温熱耐性誘導物質hsp70蛋白及びアポトーシスに関与するp53蛋白の誘導動態を解析した。PTLのNF-κBのシグナル伝達経路におけるCaspaseを介した温熱増感効果への影響を解析する。
[方法]
ヒト前立腺癌DU145及びPC3細胞を用いてPTL処理後41ºCあるいは42ºC加温を連続併用処理し温熱増感効果についてコロニー形成法により検討した。また同処理におけるアポトーシス誘導動態をFlow Cytometryにより解析した。hsp72、p53、Caspase-8または-9蛋白誘導についてWestern blot法により解析した。
[結果]
PTL及びハイパーサーミアはDU145及びPC3細胞共に相乗的な増感効果を示した。Western blot法によるhsp72蛋白は加温単独により著しく誘導されたがPTL単独によっては誘導されなかった。同蛋白はPTL併用によっても温熱単独と比較し有意な誘導抑制が見られなかった。またp53蛋白も加温により誘導されたがPTL単独により誘導されなかった。さらに加温にPTLを併用してもp53誘導の増加は見られなかった。アポトーシス誘導動態はPTL単独で著しく誘導されPTLと温熱との併用によっても相乗的に誘導された。
[総括]
ヒト前立腺癌DU145及びPC3細胞における温熱感受性はPTLを併用することにより相乗的な増感効果が認められた。NF-κB活性の抑制によるアポトーシス誘導はPTLと温熱を併用することにより有意に増加した。温熱耐性誘導に関与するhsp70蛋白は温熱単独とPTL併用とを比較した結果、誘導量は同程度で有意差は認められなかった。またアポトーシス誘導に関与するp53蛋白についても同様の結果となった。PTLによる温熱増感効果についてNF-κBの活性を抑制してアポトーシスを誘導する経路についてCaspase-8, -9についても検討している。
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原田 浩, 板坂 聡, 近藤 科江, 澁谷 景子, 平岡 眞寛
セッションID: EO-5-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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HIF-1(hypoxia-inducible factor-1)は、がん細胞の低酸素環境への適応(酸化的リン酸化の抑制や解糖系の亢進)、低酸素環境からの逃避(転移・浸潤能の亢進)、酸素供給の改善(血管新生の誘導)等において重要な役割を果たす転写因子である。近年、「HIF-1活性の高いがんは、放射線治療後の再発率が高い」との臨床研究が報告され、HIF-1の新たな一面が見え始めてきた。この様な背景の下、我々は、HIF-1とがんの放射線抵抗性とを結ぶメカニズムを解明することを目指している。腫瘍内のHIF-1陽性細胞を標的とするタンパク質製剤(TOP3)や遺伝子治療(Ad/5HREp-BCD)は、
in vivoの増殖抑制試験において放射線治療の効果を有意に増感した。この結果は、上述の臨床研究の結果を強く支持する。その一方で、
in vitroにおいて培養細胞のHIF-1活性をノックダウンしても、その放射線感受性に変化は見られなかった。これらの結果より我々は「HIF-1陽性の腫瘍細胞自身は放射線感受性であるが、腫瘍を構成する他の細胞の放射線抵抗性を亢進する作用を持つ」との仮説を立てた。この可能性を検証する目的で、固形腫瘍内の“HIF-1陽性細胞”に発光タンパク質のタグを付け、放射線治療後の挙動を追跡した。その結果、予想通りHIF-1陽性細胞自身の放射線抵抗性は低く、再発腫瘍はむしろ他の細胞群に由来することを確認した。それでは、腫瘍内のHIF-1活性を抑制することによって放射線治療の効果を増感できるのは何故であろうか? 我々は、HIF-1陽性細胞の培養上清を血管内皮細胞に添加した場合、血管内皮細胞の放射線抵抗性が亢進することを見出した。また、放射線照射時にHIF-1活性を抑制した場合に、放射線単独治療と比較して、再発腫瘍内の微小血管密度が劇的に減少することを明らかにした。これらの結果は、HIF-1活性の抑制によって血管内皮細胞が放射線感受性を示し、結果として腫瘍増殖が抑制されたことを示している。本演題では、がんの放射線抵抗性におけるHIF-1の機能に関して、我々の提唱するモデルを紹介したい。
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桑原 義和, 中川 浩伸, 森 美由紀, 志村 勉, 福本 学
セッションID: EP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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(目的)
in vitroでの放射線感受性を検出する手法として、clonogenic assayが広く使われてきた。しかし、この方法は細胞を低密度で培養するため、細胞間相互作用の影響を無視している可能性がある。さらに、浮遊系の細胞やplating efficiencyの低い細胞では、適応が難しい。本研究では、浮遊系の細胞を含む、様々な細胞株の放射線感受性を高感度に検出することの出来る、High density survival (HDS) assayの改良開発に取り組んだ。
(方法) 5×10
5の細胞を25cm
2のフラスコ内で24時間培養し、種々の線量のX線を照射した。72時間培養後trypsin処理し、その1/10を継代し、さらに72時間培養した。生存している細胞を単一細胞にして、総細胞数を求め、片対数グラフにプロットした。
(結果) 2 GyのX線を照射し続けても死滅しないHepG2-8960-R細胞やSAS-R細胞は、plating efficiencyが低く、clonogenic assayへの適応は難しいものの、我々の開発したHDS assayでは親株と比較して明らかなX線耐性を検出することに成功した。さらに、白血病由来の浮遊系細胞の放射線感受性をも検出することが出来た。
(考察) 我々の開発したHDS assayは、plating efficiencyの低い細胞へも適応でき、さらに容易に行うことが出来る。HDS assayは様々な細胞の放射線感受性を高感度に検出することができることから、clonogenic assayに変わる新たなassayとして期待が持てる。HDS assayは、細胞間相互作用などを考慮に入れていることから、bystander効果も含めて、より
in vivoに近い細胞の放射線感受性を検出していると考えられる。
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森田 直子, 井原 誠, 岡市 協生, 三浦 美和, 市ノ瀬 芙美, 柳瀬 浩, 松田 尚樹
セッションID: EP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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放射線照射を受けた癌組織では、残存した癌細胞の浸潤が誘導されることがある。これは標的周辺組織における放射線影響の一つと考えられるが、その誘導機構は明らかにされていない。本研究では、癌の浸潤・転移過程における放射線照射の影響を基礎的に検討することを目的として、ヒト神経膠芽腫由来A172細胞(p53正常)及びA172M細胞(R248W変異p53導入)を用い、亜致死線量の放射線照射による浸潤性上昇のメカニズムを、特に細胞運動性、細胞接着因子、及びそれを起点とするシグナル伝達分子に着目して解析した。
細胞外マトリクス(ECM)の一種であるラミニン(LM)を走化性物質として、孔径8μmのmicropore filterを装着したmicrochemotaxis chamberを用い細胞の運動性を検討したところ、3GyのX線照射(150kV、0.5Gy/min、コロニー形成能による細胞生存率約70%)により、A172細胞の運動細胞数は非照射時の約2倍に増加した。また、X線照射を受けたA172細胞膜上において、LM受容体となるインテグリンα6β1の発現が増加していることがフローサイトメトリーにより確認された。さらに、インテグリンとECMの焦点接着部位からのシグナルを受けるfocal adhesion kinase(FAK)も照射後持続的にリン酸化していた。細胞接着因子群の遺伝子発現を網羅的に解析した結果では、インテグリンαsubunit及びコラーゲンtype18α1 subunitのX線照射によるupregulationが見られた。一方、p53変異体導入A172Mでは、これらの応答はすべて抑制されていた。以上の結果より、亜致死線量のX線照射による細胞運動能誘導メカニズムの一つとして、LMとインテグリンの相互作用に起因するシグナル伝達系の活性化が考えられること、さらにp53がこの機構の一部に関与することが示唆された。
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林 直樹, 高橋 賢次, 阿部 由直, 柏倉 幾郎
セッションID: EP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】間葉系幹細胞及びstroma細胞は造血幹/前駆細胞の体外増幅を支持することが知られている。本研究では、ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞様stroma細胞が、放射線曝露ヒトCD34
+細胞からの造血回復における作用について検討した。【方法】臍帯血から磁気細胞分離システムを用いてCD34
+細胞を高度に分離精製した。分離の際に排出された有核細胞を、FGF-2を含む10%ウシ胎児血清-DMEM培地を用いシャーレに吸着し増殖してきた細胞をstroma細胞として用いた。得られたstroma細胞はCD73
+、CD105
+及びCD45
-であり、間葉系幹細胞に特徴的な抗原の発現が確認された。IL-3、SCF及びTPO存在下において、stroma細胞とX線2 Gy照射CD34
+細胞との共培養を行った。比較対象として、stroma非存在下及び放射線非照射CD34
+細胞との共培養も行った。培養後、生細胞数の測定、細胞表面発現抗原の解析、造血前駆細胞の評価及び培養液中のサイトカインの定量を行った。【結果・考察】stroma細胞との共培養により、細胞数及び骨髄系造血前駆細胞数はstroma非存在下での培養に比べ有意に増加した。さらに、未熟な細胞であるCD34
+細胞及びCD34
+/CD38
-細胞数もstroma細胞非存在下での培養に比べ有意に増加した。このとき、共培養の培地中には顕著なサイトカインの産生が認められたが、放射線非照射及び照射細胞との共培養との間に差は認められなかった。また照射細胞をstroma細胞と16時間接触後サイトカインを添加すると、stroma非存在下での非照射細胞の培養と同等の造血が観察された。以上の結果から、ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞様stroma細胞の放射線曝露造血幹/前駆細胞の造血回復への効果が示され、特に細胞間接触が大きな役割を果たしていることが示唆された。
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工藤 幸清, 阿部 由直, 劉 勇, 高橋 賢次, 樽澤 孝悦, 胡 東良, 柏倉 幾郎, 鬼島 宏, 中根 明夫
セッションID: EP-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【背景・目的】放射線腸管障害による腸死を防護することを目的に、以前我々は、マウス放射線腸管障害に対して胚性幹細胞 (embryonic stem cells: ESCs ) の移植実験を試み、ESCs の生着を確認した。しかし、マウスの生存率と体重変化には影響を与えなかった。今回、ESCs と同様に多能性細胞として期待され、かつ多様な役割を持つ骨髄中の間葉系幹細胞( mesenchymal stem cells:MSCs ) に着目し、移植の効果を検討したので報告する。
【方法】ICR
nu/nu マウス( 8-10 週齢,雌,体重 25-31 g )小腸の一部( 長さ約 15 mm )に、X線で 30 Gy ( 150 kV, 5 mA, 0.5 mm Al filter, 1.9 Gy/min )を1 回照射した。照射後直ちに、1×10
7 cells/0.1ml の濃度の MSCs を腸管壁へ移植し、個体を回復させた。MSCs は C57BL/6n マウス( 8-10 週令,雄 )の骨髄細胞より分離し、培養増殖させ使用した。照射日よりマウスの生存および体重を13日間観察し、照射対照群と MSCs 移植群との生存分析および平均体重の差の検定を行った。また、照射後13日~27日経過したマウスの腸管組織を、Hematoxylin-Eosin (H.E.)染色にて観察した。
【結果および考察】MSCs 移植群の生存率は移植後5日目以降において非移植群のそれより高く、かつ体重は移植後8日目以降、非移植群より高値を示した。H.E. 染色による組織像では、X線照射のみのマウス小腸は放射線による絨毛の脱落および広範囲な潰瘍が確認できた。一方、MSCs 移植のマウス小腸では潰瘍を認めたが、粘膜下組織および筋層部位が厚く間質に覆われていた。また、不規則ではあるが絨毛側には陰窩の存在部位が観察できた。この陰窩細胞は MSCs 由来ではないため、MSCs が何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。今後 MSCs 移植による防護効果のメカニズムを解明していく。
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萩原 亜紀子, 中山 文明, 倉持(小見) 明子, 本田 絵美, 木村 美穂, 浅田 眞弘, 鈴木 理, 今村 亨, 明石 真言
セッションID: EP-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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Fibroblast growth factor (FGF)は、ヘパラン硫酸またはヘパリン共存下でFGF受容体(FGFR)に結合して血管新生、創傷治癒などの生理機能を発揮する。FGFR2bリガンドであるFGF7 (Palifermin)は放射線治療時の口腔粘膜炎治療薬として米国で承認されている。我々はこれまでに同受容体リガンドであるFGF1、FGF7、FGF10のマウス小腸における放射線防護効果を比較し、FGF1が最も優れた効果を発揮することを報告した。しかしFGF1は外来ヘパリンに強く依存し、分子としても不安定であるため医薬品化されていない。一方、FGF2 はFGF1と構造的に類似しているが外来ヘパリンに依存しない。そこで、FGF1/FGF2キメラタンパク質を創生し(Imamura et al., Biochim Biophys Acta, 1995)、その至適化分子FGFCがヘパリンに依存せず安定であることを見出したので、今回、放射線防護効果を検討した。まず、
in vitroで受容体特異性を評価した結果、FGFCはFGF2が反応できないFGFR2bを刺激するだけでなく、FGF1と同様に全てのサブタイプのFGFRを刺激した。次に、マウスに全身照射し、3.5日後に小腸クリプト生存率を評価する系で放射線腸障害の防護効果を検討した。照射24時間前にFGFを投与した場合、ヘパリン存在下ではFGFCとFGF1は同程度のクリプト生存率を示したのに対し、ヘパリン非存在下ではFGFCの方が高いクリプト生存率を示した。また、照射1時間後にヘパリン非存在下で投与すると、FGF1、FGFC共にクリプト生存率を改善できたが、24時間後の投与ではFGFCのみが有意に改善させた。以上の結果から、FGFCは安定型FGF医薬品候補として、放射線障害予防のみならず、放射線被ばく後の治療にも有用であることが示された。
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勝盛 健雄, 林 雅子, 高橋 賢次, 柏倉 幾郎
セッションID: EP-6
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG-CSF)は,顆粒球造血前駆細胞(CFU-G)に働くと共に,好中球の機能にも様々な影響を与えることが報告されている.本研究では,臨床応用されている構造および生産方法の異なる3種のrhG-CSF(nartograstim, lenograstim, filgrastim)を用い,ヒト末梢血CD34
+細胞の成熟好中球への分化誘導活性と誘導好中球の貪食能及びX線照射によるCFU-Gの生存率に対する作用を比較検討した.
【方法】献血由来バフィーコートより,磁気ビーズ法によりCD34
+細胞を高度に分離精製した.CD34
+細胞をrhG-CSF存在下無血清液体培地で14日間液体培養を行い,好中球への誘導率及び非照射とX線照射(2Gy)好中球の貪食能を測定した.CFU-G の定量及び生存率の測定は,rhG-CSFを含むメチルセルロース培養法で行い,14日間培養後細胞50個以上からなるコロニーを計数して求めた.
【結果・考察】CD34
+細胞CFU-G由来コロニーは,いずれのrhG-CSFにおいても濃度に依存して増加が見られ,50ng/mlを超えるとプラトーに達した.以降の実験は100 ng/mlで行った.Nartograstimは,lenograstim及びfilgrastimに比べ照射・非照射に関わらず有意に好中球の誘導を促進した.一方,非照射と照射いずれの好中球においても,rhG-CSFによる貪食能への有意な影響は認められなかった.またいずれのrhG-CSFもCFU-Gの生存曲線に影響しなかった.本研究で用いた3種類のrhG-CSFにおいて,ヒト末梢血CD34
+細胞から好中球への誘導率に有意な差が生じたことは,製剤投与後の体内での動態や好中球の機能を考えるうえで重要な示唆を与えると考えられる.
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田中 泉, 田中 美香, 佐藤 明子, 槫松 文子, 石渡 明子, 鈴木 桂子, 石原 弘
セッションID: EP-7
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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致死線量照射前のマウスに投与することでその生残率を著しく増加させる免疫修飾型放射線防護物質が知られている。その一つである乳酸菌と同時に種々の薬物を投与したマウスの血中サイトカイン量の変動を測定することで、血中の炎症性サイトカイン量と生残率に強い相関があることを示したので報告する。
1.乳酸菌菌体の放射線防護効果の再確認
モデルとして代表的乳酸菌分離株である
Lactobacillus casei subsp. casei (JCM-11349)の加熱死菌体成分(LBC)を使用した。C3H/He-slcマウスにLBC等を皮下投与した後に、過致死線量(8.0Gy)のX線を全身照射して28日間観察して生残率を測定した。照射の際は概日リズムの影響を避けるため、処理群内の個体の照射時刻を変え、各処理群の構成個体が同一の照射時刻を持つように設定し、照射時刻を9:00 (Day-time, 2:00)から90分の間とした。生理食塩水投与マウスでは28日生存率は0%であったが、LBC投与群では80%であり、その防護効果は照射16-48時間前投与で明瞭に現れた。
2.乳酸菌投与による血中IL1bの増加とそれを変動させる薬物の効果
乳酸菌皮下投与後の血漿中サイトカインを測定したところ、Interleukin-1 beta (IL1b)量に顕著な変動が見られ、LBC投与4時間から24時間後にかけて著しく増加し、48時間後には検出限界以下に低下した。LBCと同時に種々の炎症関連薬物を投与して、血中IL1b量および生残率への影響を調べた。抗炎症ステロイド類およびその分泌促進物質は何れも血中IL1b量増加を抑制するとともに生存率を低下させた。一方、非ステロイド性抗炎症剤は血中IL1b量にも生存率にも影響を与えなかった。逆に、鉱質コルチコイドは血中IL1b量ならびに生存率を増加させた。
以上のことから、LBCのような炎症を促進する物質は血中IL1bの増加を介して放射線防護作用を呈すると同時に、血中IL1b量が防護の指標となることが示された。
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松山 睦美, 中島 正洋, 七條 和子, 岡市 協生, 中山 敏幸, 関根 一郎
セッションID: EP-8
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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Basic fibroblast growth factor (bFGF) は、細胞の増殖、分化、細胞遊走や血管新生を促進する成長因子で、bFGF投与により放射線照射後マウス小腸の陰窩生存が増強されることが報告されている。今回我々はbFGF前投与のラット小腸急性放射線障害への効果を経時的に調べた。6週齢の雄性ウィスターラットを用い、照射25時間前に4 mg/kg bFGFを腹腔内投与した。8Gy X線全身照射後3, 6, 16時間, 1, 2, 3, 5日の空腸、結腸を摘出してHE標本を作製した。空腸粘膜の絨毛と陰窩の長さを測定し、空腸陰窩あたりのアポトーシスとマイトーシス数を計測した。免疫染色にてKi-67の発現を調べた。ウェスタンブロットでPCNA, p53, p21, baxの発現を調べた。空腸の絨毛の長さは、コントロールでは照射後1, 2, 3日と低下するのに比べ、bFGF投与群では照射後2日までコントロールよりも高い値を示した。陰窩の長さも同様の動きを示した。空腸陰窩あたりのbFGF投与群の放射線誘発アポトーシス数は、照射後3時間でコントロールの29%、6時間で11%に抑制された。bFGF投与ラットのマイトーシス数は照射後2, 3, 5日でコントロールより高値であった。bFGF投与群の空腸のKi-67陽性細胞はコントロールに比べて増加していた。bFGF投与群のPCNAの発現は、照射後2日でコントロールより有意に高値であった。照射後3時間、6時間のp53の蓄積、p21, Baxの発現の増加は、bFGF投与で抑制された。bFGF前投与はステムセルを含む小腸陰窩細胞の放射線誘発アポトーシスを抑制し、その後の増殖を促進することで急性放射線障害を抑制することが確認された。
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櫻井 智徳, 三浦 宰, 上田 隆徳, 川井 美幸, 宮越 順二
セッションID: EP-9
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【背景】筋組織を構成する細胞はほとんど増殖しないが、筋組織が外傷を受けた場合等は幹細胞からの分化・再生が行なわれる。筋組織のX線に対する感受性は低いが、筋芽細胞にXが照射されると、筋管の形成過程において重要な、筋細胞の融合が遅延または阻害されることが報告されている。本研究では、X線が照射されたことにより、筋芽細胞から筋管が形成される際に見られる筋細胞の融合遅延または阻害に、発生・再生の過程で発現が上昇されることが報告されているIGF-1の効果を評価した。
【方法】細胞培養・分化誘導:住友ベークライト製24ウェル・セルデスクに、マウス由来筋芽細胞株C2C12を4×10
4細胞/cm
2で播種し、10%FBS含有DMEM培地中で終夜培養後、培地を2%FBS含有DMEM培地に変更し、そのまま6日間培養を継続、筋管組織に分化誘導した。
X線照射:日立MBR-1520R装置で、150 kV、20 mA、Al 1 mm・Cu 0.1 mmフィルター(90 cGy/分)の条件により、2または4 GyのX線を、分化誘導培地変更直前に照射した。
評価:筋細胞、筋管組織を、抗ミオシン抗体で蛍光免疫染色することによって筋組織に分化した細胞を同定した。
【結果】免疫染色の結果、2 Gy、4 GyのX線照射で筋管形成の減少が見られた。2 Gy照射の場合、5 ng/mlのIGF-1添加により、X線照射による筋管形成の減少が緩和された。
【考察】IGF-1は、X線2 Gy照射による細胞数の減少、筋管形成数の減少いずれをも改善した。放射線2 Gyは放射線治療の分割照射において使用されている線量であり、IGF-1による放射線障害の抑制は有用と考えられる。
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于 冬, 関根 絵美子, 薛 蓮, 藤森 亮, 窪田 宜夫, 岡安 隆一
セッションID: EP-10
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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スルフォラファンはブロッコリースプラウト(broccoli sprout、ブロッコリーの芽)の中に見つけられた物質であり、抗酸化剤として作用することで、体内の解毒酵素を刺激し抗癌作用を発揮する。また、スルフォラファンはBax, BcL-2, mitochondria, cyto.c, caspase (caspase8, caspase9, caspase3) の経路を活性化し、腫瘍細胞にapoptosisを誘導する。また、ATMをリン酸化することによって、chk2やCDC25を活性化し、cyclinB1やCDCK1を抑制し、細胞周期をG2/Mチェックポイントで停止させるなどの報告がある。現在、スルフォラファンについての癌予防剤や抗癌剤としての様々な基礎研究および前臨床研究が行われている。一方で、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌などの癌治療に対して、放射線増感の研究が進んでいる。我々は新たな放射線増感剤を開発する目的でスルフォラファンに注目した。スルフォラファンを放射線照射と併用すると放射線増感効果があるかどうか、また、その増感のメカニズムについて検討した。さらには、in vivoで、ヌードマウス移植ヒト腫瘍モデルを用いて、放射線併用すると、腫瘍の増殖遅延から腫瘍の治療効果に与える影響を調べた。
本研究では、スルフォラファンを新たな放射線増感剤として確立し、その増感のメカニズムを解明した。将来、臨床における放射線増感剤としての使用へ向けての基礎を築くであろう。
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皆巳 和賢, 宇都 義浩, 中江 崇, 中田 栄司, 永澤 秀子, 堀 均, 前澤 博
セッションID: EP-11
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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[目的] 本研究の目的は、新たに設計、合成された2-ニトロイミダゾールアセトアミド誘導体の低酸素ヒト肺癌細胞に対する放射線増感効果を明らかにする事である。
[材料と方法] 実験には、対数増殖期にあるヒト肺がん由来A549細胞を用いた。細胞をトリプシン処理後、増感剤(1mM)を含む培地(10%FBS添加α-MEM)に分散し、この細胞分散液0.5mlをガラス管に封入し混合ガス(95% air + 5% CO2 又は95% N2 + 5% CO2)を通気した。照射には6MV X線を用いた。細胞生残率はコロニーアッセイにより求めた。増感剤には、2-ニトロイミダゾールアセトアミド誘導体(TX-2243、TX-2244、TX-2246)およびEtanidazoleを用いた。
[結果と考察] 線量・生残率曲線の10%生残線量(D10)から求めた低酸素細胞の酸素増感比(OER)は2.78であった。TX-2243、TX-2244およびTX-2246による低酸素細胞の致死増感率(ER=(増感剤なしでのD10)/(増感剤存在下でのD10))は、それぞれER=1.13 、1.50 および1.56 であった。EtanidazoleではER=1.75であった。低線量での増感効果を知るため50%生残線量(D50)からERを求めると、TX-2243では1.50、TX-2244では1.54、TX-2246では1.59、EtanidazoleではER=1.69であった。TX-2244およびTX-2246はD10及びD50の両者でEtanidazoleに比べやや小さい増感率を示した。一方、TX-2243は特徴的な性質を示し、生残率曲線の肩が小さく、その結果高線量に比べ低線量での増感率が大きい(TX-2244およびTX-2246と同程度)。これら誘導体の増感作用とDNA鎖切断生成との関係について研究を進め報告する予定である。
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二宮 康晴, 于 冬, 関根 絵美子, 平山 亮一, 野口 美穂, 加藤 宝光, 高橋 千太郎, 丹羽 太貫, 藤森 亮, 岡安 隆一
セッションID: EP-12
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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[目的] 最も高発(約30%)な脳腫瘍であり放射線抵抗性としても知られる異形性グリオーマに対する、ヒ素による放射線増感効果のメカニズムを解析している。ヒ素は、異形性グリオーマに対してin vitro及びin vivoで相乗性の増感効果が示されている数少ない薬の一つである。しかし、その作用機序は、不明な点が多い。昨年に、放射線またはヒ素単独処理によるヘテロクロマチン形成を伴う老化様細胞増殖停止が誘導を報告した。本年度は、放射線とヒ素による老化様細胞増殖停止の差異について検証した。
[結果] 異形性グリオーマ細胞株U87MGに、放射線またはヒ素の単独処理により解析を行った。老化様細胞増殖停止にはp21及びp16が関与しているとされている。U87MGはp16が欠損しているので、p21についてWestern blotを用いて解析した。その結果、放射線照射によりp21の顕著な誘導は検出したが、ヒ素添加においてはp21の顕著な誘導は検出されなかった。現在、放射線またはヒ素単独処理による老化様細胞増殖停止へのp21依存性に関して、p21 siRNAを用いて検討中である。
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大原 麻希, 木村 慎一, 窪田 宜夫
セッションID: EP-13
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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イソチオシアネート(ITC)類は特異な官能基(-N=C=S)を有する化合物の総称で、アブラナ科植物に含まれる刺激性の強い香味性成分である。ITC類はがん予防効果が報告されているが、そのメカニズムは明らかではない。ITC 類の一つであるbenzyl isothiocyanate (BITC)は解毒酵素誘導作用から発がん抑制効果があると報告されている。また、BITCは細胞周期依存的にアポトーシスを誘導することも報告されており、癌治療薬としての可能性が示唆されている。
今回我々はBITCの放射線増感効果について2種類のヒト膵臓癌由来細胞MIA PaCa-2とPANC-1を用いて検討した。BITCと放射線の併用効果についてはMIA PaCa-2細胞では濃度依存的に放射線増感効果が観察され、PANC-1細胞では放射線増感効果は小さかった。また、放射線とBITCの併用により、MIA PaCa-2細胞ではアポトーシス数の増加が見られた。そのため、アポトーシス関連タンパク質の発現量を調べたところ、MIA PaCa-2細胞ではPARPの断片化が見られ、PANC-1細胞では観察されなかった。このことからMIA PaCA-2細胞のBITCによる放射線増感にはアポトーシスの増強が関与していることが考えられる。Bcl-2とBaxの発現量には変化が見られず、このアポトーシスの増強にはBcl-2とBaxは関与していないことが示唆される。Caspase活性化因子であるApaf-1の増加が観察され、BITCはp53非依存的にアポトーシスを誘導すると考えられる。これらの結果より、BITCは癌細胞で亢進している抗アポトーシスシグナルを抑制し、アポトーシス促進因子の発現を増強することにより、放射線感受性の増強を引き起こすと考えられる。
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武内 亮, 安井 博宣, 長崎 幸夫, 大石 基, 中村 隆仁, 稲波 修
セッションID: EP-14
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】金や白金などの重元素は、X線と強い相互作用を有し、低エネルギーX線照射では主にコンプトン効果により生物学的効果を増強する。実際、3 μm径の金粒子によるX線作用増強効果も報告されているが、粒子サイズをより小さくする事で、細胞の飲作用に依存した核近傍への金粒子の局在化により効率的な放射線増感が期待できる。本研究では、金粒子を還元付加した10 nm以下の径のナノゲル試薬を用い、X線照射により起こる細胞増殖死の増強およびその最適な濃度の検討を行った。
【方法】チャイニーズハムスター肺線維芽細胞(V79)、ヒト肺腺がん由来細胞 (A549)、ならびにマウス扁平上皮がん由来細胞(SCCVII)に対して、様々な濃度の金コロイド含有ナノゲルを含んだ培地を用いてナノゲル試薬の細胞毒性をコロニーアッセイ法により評価した。次に、金コロイド含有ナノゲルを14時間処理した細胞に200 kVで各線量のX線を照射した際の細胞増殖死についても評価した。
【結果】金コロイド含有ナノゲル試薬の細胞毒性は、V79細胞では50 μg/ml以下、A549細胞では30 μg/ml以下では確認されなかった。また、ナノゲル試薬存在下でのX線照射による細胞増殖死の増強は、V79細胞のみならず、A549細胞、SCCVII細胞の全ての細胞株で確認され、金コロイド含有ナノゲルが腫瘍細胞に対しても有効なX線増感剤である可能性が示唆された。
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江口 清美, 辻田 瑛那, 林 京子, 森 雅彦
セッションID: EP-15
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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重粒子線などの高LET 放射線により生じたDNA損傷は、低LET放射線と比較して局所に限定し、かつ複雑な形状を持つために修復しにくいと言われているが、具体的なモデルはまだ確立されていない。われわれは、昨年に引き続き、ほ乳類培養細胞を用いて、DNA修復因子rad51とDNA障害を反映すると言われるリン酸化型H2AX(γ-H2AX)の重粒子線照射後の動態を調べた。【材料と方法】ヒト正常繊維芽細胞NB1RGBおよびGFP標識Rad51遺伝子を導入したチャイニーズハムスターCHO細胞にX線もしくは放医研HIMACにより加速したC線(30および88 keV/μm)、Siイオン線(250 keV/μm)、Arイオン線(95 keV/μm)、Feイオン線(440 keV/μm)を照射した。H2AXリン酸化は、アルコール固定後H2AXのリン酸化部位に対する抗体を用いて検出した。【結果と考察】フローサイトメーター(XL-II, Beckman Coulter)による解析では、X線照射直後からγ-H2AXが上昇し、30分付近で最大となった後減少し、2時間から10時間で低下した。SiおよびFeイオン線では、照射直後からかなりのγ-H2AXが生成し、その後の変化が少なかった。照射30分後に比較するとSiとFeは同程度のシグナルを示し、X線および炭素線よりも生成率が高かった。これに対し、顕微鏡下で観察したγ-H2AXフォーカス数ではすべての放射線で照射30分後に同程度の生成を示した。X線では照射直後にははっきりしたフォーカスは観察されないが、粒子線では照射直後からフォーカスを観察でき、フォーカス数のピークがX線より遅れた。一方rad51フォーカスは照射直後には観察されず、照射後約1時間後から観察でき、20時間程度後まで残存した。照射1時間後のrad51フォーカスはγ-H2AXと共局在していた。また、フォーカスが観察されない細胞が一定の割合で存在し、ほぼフローサイトメーターで調べたG1細胞の割合と一致した。
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横田 裕一郎, 舟山 知夫, 浜田 信行, 坂下 哲哉, 小林 泰彦
セッションID: EP-16
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【背景・目的】重イオンは低LET放射線と比べて大きな生物効果を示すが、そのメカニズムは完全にはわかっていない。本研究では、重イオンの生物作用解明のための研究の一環として、ヒト正常線維芽細胞における重イオンの細胞致死効果を調べた。
【材料・方法】テロメラーゼ触媒サブユニット(hTERT)の過剰発現により不死化したヒト2倍体正常線維芽細胞BJ-hTERT株をコンフルエントに達するまで単層培養した後、
60Co γ線 (LET=0.2 keV/μm)、ヘリウム(17 keV/μm)、炭素(70-212 keV/μm)、ネオン(310および430 keV/μm)およびアルゴンイオン(1320および1530 keV/μm)を照射した。照射後、細胞を回収・再播種し、コロニー形成法により細胞の生存割合を求めた。生存曲線から10%生存線量(D
10)を求め、D
10に基づくRBEを得た。
【結果・考察】γ線、ヘリウム、炭素、ネオンおよびアルゴンイオンのD
10は、それぞれ4.3 Gy、2.4 Gy、1.0-1.5 Gy、1.6-2.5 Gyおよび5.8-7.0 Gyであった。D
10に基づくRBEは100 keV/μm前後の炭素イオンで最大値4.3に達した。発表会場では、DNA2本鎖切断初期生成の定量解析データとともに、重イオンの生物作用メカニズムについて議論したい。
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舟山 知夫, 坂下 哲哉, 佐藤 隆博, 深本 花菜, 倉島 俊, 横田 裕一郎, 横田 渉, 神谷 富裕, 小林 泰彦
セッションID: EP-17
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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高LETの重イオンは、γ線などの低LET放射線と比較して大きな生物効果を示す。しかし、重イオンがその飛跡に沿って付与するエネルギーがどのように生体分子に作用し、高い生物効果を引き起こすかについてはまだ明らかになっていないことが多い。この重イオンの生物影響機構を明らかにすることは、重イオンのがん治療応用や、宇宙放射線の人体影響評価をおこなううえで極めて重要である。重イオンは、生物線量域におけるエネルギー付与の離散性が低LET放射線と比べて高いため、従来のブロード照射による解析では、個々の細胞に照射される線量に不均一が生じ、これが正確な生物効果の解析の障害となっていた。そこで、私たちは、原子力機構・高崎量子応用研究所・TIARAのAVFサイクロトロンにコリメーション式重イオンマイクロビームを設置し、これをもちいることで、生物の重イオン照射効果研究を進めてきた。その一方で、コリメーション式マイクロビームでは実現できない照射をおこなうために、新たなビームラインに集束式重イオンマイクロビーム装置を設置し、それをもちいた生物照射技術の開発を進めている。集束式重イオンマイクロビーム装置は、既存のコリメーション式マイクロビーム装置では不可避であったコリメータエッジでの散乱イオンの発生を回避することが出来るため、従来よりも微細なビームで細胞を正確に照射することができる。現在、昨年度までに設置された細胞照射用ステーションをもちいて大気中で顕微鏡観察下の試料への照準照射技術の開発を進めている。また、従来からもちいられてきたコリメーション式マイクロビームでも、コリメーション式マイクロビームの特徴である高フルエンス照射を生かした新たな照射を実現できるようにするための細胞照準照射系の新規設計とシステム更新をおこなうなどの改良を施した。講演では、これらのトピックスに関して概説する。
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須堯 綾, 辻 厚至, 須藤 仁美, 曽川 千鶴, 宮原 信幸, 三枝 公美子, 小泉 満, 原田 良信, 佐賀 恒夫
セッションID: EP-18
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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悪性中皮腫は、主に胸膜中皮から発生する腫瘍で、上皮型(約60%)、肉腫型(約20%)、混合型(約20%)に分類されている。中皮腫の発生は、主にアスベストばく露に起因し、潜伏期間は30-40年である。現在は稀な腫瘍であるが、過去のアスベスト使用量から、今後患者の増加が予想されている。中皮腫の進行は非常に速く、予後がたいへん悪い腫瘍である。中皮腫の治療は、外科療法、内科療法または放射線療法を組み合わせて行われているが、内科療法と放射線療法の治療効果が著しく悪い。新しい治療薬の開発が精力的に進められているが、新たな放射線療法の開発は進んでいない。これまでに中皮腫細胞のin vitroでの検討から、X線に比べて重粒子線の生物学的効果比(RBE)が2.9-3.4と高いことが報告されている。そこで、本研究では、中皮腫モデルマウスでの腫瘍抑制効果を検討した。ヒト中皮腫細胞株をヌードマウスの大腿部皮下に移植し、上皮型と肉腫型のモデルマウスを作成した。炭素線(290MeV/u, 6-cm SOBP)を2, 5, 10, 15 GyとX線(200kVp, 20mA)を5, 15, 30 Gyを照射し、未照射群も設定した。各群5匹用意し、週2回、腫瘍のサイズと体重を測定した。炭素線照射群で、上皮型、肉腫型ともに15Gyで腫瘍増殖抑制効果が認められた。上皮型、肉腫型ともに、照射後10-15日まで腫瘍は増殖し、その後に縮小した。X線照射群では、30Gyで治療効果が認められたが、重粒子線照射群ほどではなかった。本検討から求めた炭素線のRBEは上皮型2.2、肉腫型2.0で、培養細胞での結果より低い値であった。これはそれぞれの実験の照射条件の違い、あるいはin vitroとin vivoの微小環境の違いによると考えられる。これらの結果より、悪性中皮腫の重粒子線治療はX線治療より有効であることが示唆された。
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松本 孔貴, 古澤 佳也, 崔 星, 安藤 興一, 岡安 隆一
セッションID: EP-19
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【背景・目的】X線などを照射された細胞は,細胞周期を停止することで照射による損傷を修復する時間稼ぎをすると考えられる一方で,近年炭素線などの重粒子線を照射された細胞は,その停止時間が一過性に延長することが報告されている。本研究の目的は,炭素線またはX線を照射した腫瘍細胞における細胞周期の経時的及び線量依存的な変化を明らかとすることとした。
【方法】細胞はヒト悪性黒色腫由来細胞6種(92-1,C32TG, Colo679, HMV-I, HMV-II, MeWo)を用い,本実験では一貫してX線または290 MeV/u炭素線の6cm SOBP中心の条件で細胞照射を行った。コロニー形成法を用いてX線及び炭素線に対するそれぞれの細胞の生存率曲線を求め,細胞周期の経時的変化の解析には,生存率曲線から算出した10%生存率線量(D10)を両線質の等効果線量(Iso-effect dose)として用いた。線量依存的な変化の解析には,炭素線及びX線ともに1~8Gyの等しい物理線量を用いた。照射終了後細胞を再播種し,37℃ CO2インキュベータにて培養後6~204時間のタイムコースで細胞を回収後エタノール固定し,Propidium Iodide(PI)で染色してフローサイトメトリー法により細胞周期の観察を行った。【結果】経時的細胞周期変化の解析から,炭素線を照射されたメラノーマ細胞はG2/M期またはG0/G1期に留まることが確認された。それに対し,X線を照射された細胞はS期またはG0/G1期に留まる傾向が見られた。また,炭素線によりG2/Mアレストが誘導された細胞は,130時間を越える長い時間を経ても尚,非照射群に比べ有意に高い割合でG2/M期に存在していることが明らかとなった。一方で,細胞周期の炭素線線量依存性を調べた結果から,C32TG, HMV-I, HMV-II及びMeWoでは線量の増加に伴いG2/M期の細胞の割合が増加したが,92-1及びColo679については,G0/G1期の細胞が増加する,ないしは細胞周期の変化が見られない結果が得られた。【結論】細胞周期の時間依存性及び線量依存性解析から,細胞種,線質,時間,線量により細胞周期の挙動が大きく異なることが分かった。Iso-effect doseを用いた本研究から,最終的に死に至る細胞数は同じでも細胞死に至るまでのプロセスが両線質間で全く異なるもことが示唆された。また,G2/Mアレストの一過性の延長は,重粒子線特異的な効果であることが明らかとされた。
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劉 翠華, 鈴木 雅雄, 鶴岡 千鶴
セッションID: EP-20
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】悪性中皮腫とは、胸腔又は腹腔の内側を覆う膜に悪性がん細胞が形成される病気であり、アスベスト暴露歴や吸入などが原因とされている。潜伏期間は長く、暴露後から発症までの期間は20〜40年ほどと言われている。近年、全世界で年間1~1.5万人が新規に悪性胸膜中皮腫と診断されてその数は年々増加傾向にあるため、2020年にはピークに達すると推測されている。しかし、これまでに外科的手術や各種抗ガン剤が試されたもののその有効性は低く、生存期間は6〜8ヶ月と非常に短い。我々は、ヒト悪性中皮腫細胞によるX線及び重粒子線の放射線感受性について検討を行った。
【材料と方法】公的な細胞バンクより入手した6種類のヒト中皮腫細胞にX線あるいは炭素線(13keV/µm、80keV/µm)を照射し、照射直後にコロニー法による生存率を指標として放射線の感受性を比較した。
【結果と考察】6種類中皮腫細胞におけるD10値は、X線で3.02Gyから5.74Gy、炭素線(13keV/µm)で2.16Gyから4.08Gy、炭素線(80keV/µm)で0.97Gyから2.16Gyであった。2000年に鈴木らが報告した14種類のヒトガン細胞のD10値が、2.74Gyから8.15Gy(X線)、2.39Gyから7.42Gy(炭素13keV/µm)、1.11Gyから3.86Gy(炭素77keV/µm)であったことから、今回用いた中皮腫細胞の放射線感受性はX線や低LETの炭素線に対しては抵抗性のグループに属したが、高LETの炭素線に対しては感受性のグループに属した。これらの結果D10値で計算したRBEは、炭素線13keV/µmで1.20から1.62であったのに対し80keV/µmでは2.78から3.10となり、中皮腫細胞は他の様々な感受性を持つガン細胞同様に、特に高LET成分の炭素線での生物効果を高める可能性があると示唆された。
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崔 星, 松本 孔貴, 平山 亮一, 鵜澤 玲子, 古澤 佳也, 安藤 興一, 岡安 隆一
セッションID: EP-21
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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高LET(Linear Energy Transfer)放射線の重粒子線は細胞死、突然変異、染色体異常誘発などで低LETのX線や陽子線に比べRBE (Relative Biological Effectiveness) が高いことが知られている。最近、重粒子線が再発性直腸がんに対しても有効であることが報告されている。しかし、重粒子線照射とX線照射による消化器腫瘍に対する制癌効果やそのメカニズムについては未知の部分が多い。今回、ヒト大腸がん由来細胞HCT116、SW480のヌードマウス移植腫瘍に対し、炭素線照射とX線照射による腫瘍制御効果の違い及びその機序について検討した。HCT116、SW480細胞をそれぞれ8x104、7x105を雄Balb/c-nu/nuマウスの右足に移植し、一定サイズになった腫瘍に対しそれぞれ線量27、30、33 GyのX線あるいは炭素線(C290、 50keV/um、SOBP中心)にて照射し、腫瘍サイズの縮小や再増殖について検討した。X線照射、炭素線照射はともに線量依存的に腫瘍を抑制した。しかし、X線照射群は約2週間以降から腫瘍の再増殖が認められるが、炭素線照射群は再増殖が認められなかった。照射1ヶ月後の肉眼解剖所見では、炭素線照射の移植腫瘍はX線照射のものに比べ周囲の血管がより乏しくなっていることが認められた。これらのことより、炭素線はほぼ完全に腫瘍制御ができるが、X線は根治できないことが確認された。今後、X線照射、炭素線照射による癌幹細胞への影響を含め分子病理学的メカニズムを検討する予定である。
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柿薗 裕介, 田浦 慎太郎, 曽 子峰, 谷 昆, 本間 信, 浦中 智史, 高辻 俊宏
セッションID: EP-22
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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1.研究目的
重粒子照射を受けたタマネギ根端細胞の小核発生頻度は線量が増えるにつれて一旦増加し、減少に転じることが、過去の研究成果によって明らかとなった。これは、線量に比例した頻度で小核と致死損傷が同時に発生すると仮定すれば説明でき、この仮定に基づくモデルに従えば、1飛跡あたりの小核と致死損傷の発生頻度はともにLETの2乗に比例すると推定される。
モデルの検証のため、致死損傷の発生頻度を単独で見積もりたいと思った。放射線を照射した発芽タマネギ種子の根の伸長の減少率は、根端細胞の生存率に比例するのではないかと考えた。
シャーレに水で湿らせたろ紙を置き、その上に種子を置いて、タネとタネの間を棒状のもので仕切り、斜めに立てかけておくと、根はほぼ斜め下方に伸びるので、比較的根の長さが測りやすくなることがわかった。
2.方法
放医研HIMACで、発芽タマネギ種子に対し400 MeV/u C、400 MeV/u Ne、490 MeV/u Si、 500 MeV/u Ar、500 MeV/u Fe、の照射を吸収体なしで照射し、以後の根の長さを経時的に測定した。
3.結果
根の伸びは高線量でも止まることがなかった。根の伸びには、細胞の生存率だけでなく、細胞の大きさの変化や増殖率が関係する可能性があるので、顕微鏡による細胞の形態と分裂細胞の割合の観察を行ったが、放射線の照射に伴って、細胞の形が大きく変化しているとか、分裂中の細胞が非常に増えているなどの顕著な変化は見られなかった。種子ごとに根の伸びのばらつきはあるが、平均的には線量とともに減少し、線量
Dにおける長さ
L(
D)の平均は、
L(
D)=
L (∞)−
Aexp(-α
D) に従うように線量の増加とともに一定値に近づいた。同じ吸収線量で比較した場合、αのLET依存性はあるが、小核発生頻度に比べると緩やかであった。
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小池 幸子, 安藤 興一, 鵜澤 玲子, 古澤 佳也, 平山 亮一, 松本 孔貴, 岡安 隆一
セッションID: EP-23
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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目的:腫瘍不均一性の意義について実験的に調べる。放射線感受性の異なる2種類の腫瘍を人為的に混合してマウスに移植し、生育した腫瘍の炭素線照射効果を調べることである。材料・方法:2種類のマウス線維肉腫(放射線感受性#6107、放射線抵抗性#9037)を用いた。肉腫#6107 と#9037細胞を同系C3H雄マウスに移植し、これが生着して成育した腫瘍を摘出して単一細胞浮游液を作製した。適切な混合比率にて2種類の肉腫細胞数を調整し、マウス下肢皮下移植した。腫瘍が7.5-8.0mm径に達した時点で、下肢腫瘍を290MeV/n炭素線にて1回照射した。腫瘍増殖時間(TG time)を腫瘍毎に調べ、腫瘍増殖遅延時間(TGD time)を計算し、線量―効果関係を求めた。炭素線RBEは対照ガンマ線との比較にて求めた。腫瘍治癒率は照射150日後における結果に基づいて計算した。1線量当たりのマウス数は腫瘍増殖で5匹、腫瘍治癒率は10匹を用いた。
結果:移植時の細胞数混合比を変えて移植し、腫瘍増殖時間を調べた。#6107:#9037の混合比を0:100から100:0までの11段階に変化させたが、移植混合比にかかわらず増殖時間は一定であった。これらの腫瘍にガンマ線50Gyで1回照射後の増殖遅延を調べた。照射時の腫瘍体積が5倍になるまでの日数(TG time)は#6107が100_%_腫瘍は36日であったが、90_%_から50_%_に減ると28日から20日に減少した。#6107が50_%_以下ではほぼ20日となり、#9037を移植した時と同じであった。感受性腫瘍#6107が50_%_以上では混合比が多くなるにつれてガンマ線感受性が高かった。#6107と#9037混合比率を100:0,90:10,50:50,10:90と0:100を移植し、炭素線照射を行った。腫瘍増殖を20日遅延させる線量(TGD20)は混合比に応じで、15,20,21,24と32Gyであった。等効果線量は抵抗性腫瘍細胞比率が高くなるにつれて増大した。50%腫瘍治癒率をもたらす線量(TCD50)を調べた。上記の混合比で30,38,40,42そして42Gyとなり治癒率は増殖遅延よりも混合比率の変化に影響されにくい。
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