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中村 典, 平井 裕子, 児玉 喜明, 朝長 万左男, 飯島 洋一, 三根 真理子, 奥村 寛
セッションID: FO-1-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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長崎大学で収集保管されてきた長崎被爆者から寄贈された11本の奥歯について、電子スピン共鳴法(ESR)により、被曝線量の評価を行った。測定の対象は、奥歯で30mg以上のエナメル質があり、ドナーは被曝時年齢が10歳以上、DS86推定線量がある人(LSS対象者)とした。被曝線量は、60Coガンマ線を照射した校正試料のcalibrationカーブを用いて推定した。
11本中8本については頬側と舌側に分けてESR測定を行ったが、前歯のような頬側試料でESR推定線量が高くなる傾向は見られなかった。また1本の歯では頬側試料も舌側試料も共に信号が全く認められなかった。これは知歯と判明したので、恐らく被爆時にまだ出来上がっていなかったためと想定される。残りの10本中7本は、DS02推定線量の計算されていた7名に由来するので、DS02骨髄線量とESR推定線量との比較を行ったところ、よい相関が認められた(ほぼDS02推定線量の±0.5Gyの範囲内に入る)。4名の工場内被爆者と3名のその他(日本家屋内被曝を含む)の被爆者の間に特別な違いがあるようには思われなかった。また6名については染色体異常頻度が調べられていたので、転座頻度から推定した線量をDS02線量と比較したが、この場合もよい相関が認められた。
これまで広島と長崎にはいろいろな局面で(例えば染色体異常頻度)、市間差が見られてきたいきさつがある。この食い違いの一部は、長崎の工場内被爆者の中に線量が過大に見積もりされている人があるためかも知れない。しかし今回、長崎工場被爆者の歯についてESR測定を行い初めてDS02推定線量と比べてみたが、上記のような過大線量評価を示唆する結果は得られなかった。
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土居 主尚, 床次 眞治, 米原 英典, 吉永 信治
セッションID: FO-1-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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多くの国にて、ラドンによる被ばくは自然放射線源による被ばくの大部分を占め、そのリスク評価のために肺がんと屋内ラドンのケース・コントロール研究が行われてきた。多くの研究ではパッシブ型のラドン測定器が用いられてきたが、近年になり、測定器の値がトロンの影響を受ける可能性が明かになってきた。そこで、これらのケース・コントロール研究にてトロンによる影響を評価するため、シミュレーション研究を実施した。その結果、トロンによりラドンの肺がんへのリスク係数が約90%過小評価されている可能性が示唆された。またトロンによりラドン濃度の測定値に不確実性が増加しているにも関わらず、リスク係数の不確実性を示す標準誤差はトロンの影響により逆に小さくなることが示唆された。
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高田 純
セッションID: FO-1-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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現地訪問をしない形で、中国の核爆発災害を評価した。北西に国境を接するカザフスタンの調査報告を鍵にし、核爆発災害の科学理論による現地ウイグルの被害評価をするという手法である。中国の3回の大型地表核爆発の合計爆発威力は8.5メガトンであった。その核分裂成分はおよそ4メガトンと推定される。この内最初の2回のメガトン級地表核爆発が、北北東方向のカザフスタンの地に核の砂が降下し、顕著な放射線影響を与えた。この2回の地表核爆発に対し、著者は独自の線量計算を実施し、カザフスタン報告の値と一致することを確認した。半致死以上のリスクとなるA地区の推定総面積は、東京都面積の11倍の2.4万平方キロメートルとなった。当時の平均人口密度の推定値6.6~8.3人/平方キロメートルとから、死亡人口は19万と推定された。また、白血病やその他のがんの発生および胎児影響のリスクが顕著に高まるBおよびC地区の人口は129万と推定された。
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柴田 義貞
セッションID: FO-1-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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現代人にとって、直接的な被曝の有無は別にして、人工放射線と全く無縁な生活を送ることは不可能であるといっても過言ではない。エネルギーや医療の分野に限らず、非破壊検査など放射線が重要な役割を果たしているものは枚挙にいとまがない。しかし、放射線被曝は五感が働かないためか,本人の意志で受ける医療被曝を除けば,どのように被曝線量が低くても,被曝の事実を知った途端に,将来の健康などに不安を覚えるようになる傾向が強い。ところで、公衆にとっては、マスメディアが主要な情報源である。そこで、原爆とチェルノブイリに関する新聞記事を基に、放射線リスクについての公衆の理解に及ぼすマスメディアの影響を検討した(具体的な内容等は当日報告する)。
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柴田 知容, 蜂谷 みさを, 宮村 太一, 明石 真言
セッションID: FO-2-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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腫瘍壊死因子(TNFα)は多様な生理活性を有する炎症性サイトカインであり、免疫経路を活性化するなど、生体防護機構の重要な因子であるが、過剰もしくは不適切な産生は生体に障害を及ぼし、敗血症やクローン病などの病因となる。近年、放射線による生体組織の炎症反応や細胞障害にはTNFαが関与し、抗TNFα薬剤で放射線障害を抑えることが報告されている。一方で、TNFα投与が放射線被ばく後の生存率を上げる報告もされており、放射線障害におけるTNFαの役割はいまだ明確ではない。そこで、高線量放射線障害におけるTNFαの役割を明確化するため、TNFαノックアウト(TNFα
-/-)マウスを用いて実験を行った。BALB/c TNFα
+/+、TNFα
-/-マウスの6 Gy全身照射後30日の生存率はTNFα
+/+マウスでは100%であるが、TNFα
-/-マウスでは54%となり、TNFα
+/+マウスに較べてTNFα
-/-マウスに有意な生存率の低下がみられた。TNFα
-/-マウスにrecombinant TNFαを腹腔内投与すると、照射後の生存率が100%に快復した。照射15日後には、TNFα
+/+マウスに較べてTNFα
-/-マウスには著名な赤血球数、ヘモグロビン(Hb)値、ヘマトクリット(Ht)値の減少がみられたが、それ以外の血球数には差がみられなかった。また、TNFα
+/+マウスに較べてTNFα
-/-マウスには有意な血清鉄値の上昇がみられた。肝機能検査値には差がみられず、組織解析でも消化管など出血を含めた各臓器の障害に差はみられなかった。以上の結果から、TNFα
+/+マウスに較べてTNFα
-/-マウスでは放射線照射によってより重度な貧血を生じ、鉄代謝機構に障害が生じているとみられ、TNFαは放射線による血液障害に重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、この機構について解析中である。
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宮村 太一, 蜂谷 みさを, 柴田 知容, 小林 芳郎, 明石 真言
セッションID: FO-2-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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高線量放射線被ばくは重篤な障害を引き起こす。Tumor necrosis factor α (TNFα)は炎症時に産生されるcytokineであり、様々な生理活性を持ち、敗血症やリュウマチ関節炎などの炎症に関わる一方、血液細胞の成長因子であるgranulocyte-macrophage colony-stimulating factor やinterleukin-6を産生する。Lipopolysaccharide (LPS)はTNFαの産生を刺激するが、TNFα knock-out (TNFα
-/-)マウスを用い、LPS投与時の放射線による消化管障害と内因性TNFαの役割を検討した。TNFα wild type (TNFα
+/+)とTNFα
-/-マウスに10 Gy全身照射すると24時間後の空腸クリプトのアポトーシスは増加するが、両群に有意な差はなかった。このときの血清TNFαレベルはTNFα
+/+で検出限界値以下であった。しかしTNFα
+/+マウスにrecombinant TNFαを照射前投与すると照射によるアポトーシスを抑えたが、TNFα
-/-マウスではさらに増加した。またLPSを照射前に投与しても、同様に放射線誘導アポトーシスをTNFα
+/+では減少させたのに対し、TNFα
-/-マウスでは増加させた。TNFαを投与すると、両群共にTNFα を顕著にIL-1α、IL-1βをわずかに増加させたが両群に差はなかった。これに対し、LPSを投与するとTNFα
+/+では、血清TNFα、IL-1α、IL-1βが顕著に増加し、TNFα
-/-マウスではそれらの産生はわずかであり、両群に有意な差が認められた。これらの結果は、照射による小腸クリプトのアポトーシスには内因性のTNFαは関与していないが、TNFα、 LPSの放射線防護作用にはcytokineの誘導が必要であり、内因性TNFαが不可欠であることが示唆された。
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足立 成基, 野村 大成, 梁 治子, 本行 忠志, 中島 裕夫, 猪原 秀典, 藤川 和男, 伊藤 哲夫
セッションID: FO-2-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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放射線や化学物質の人体影響研究は、疫学調査、実験動物、培養細胞を用いなされてきた。我々は、正常ヒト臓器組織を、拒絶反応を無くしたSCID(重度複合免疫不全)マウスに移植、長期間維持することにより、ヒト臓器・組織への直接的な影響評価を行ってきた。
本研究では、バセドー氏病患者(内科的にホルモン分泌は正常化)の甲状腺組織をC57BL/6J-
scidマウスに移植し、核分裂放射線、特に中性子線のヒト甲状腺組織への影響を評価するため、原子炉放射線(UTR-KINKI、毎時間0.2 Gy γ線+0.2 Gy中性子線)の1週間毎1時間照射を行い、
137Cs γ線(1.19 Gy/min, 0.23 mGy/min)の2週間毎1Gy照射実験と比較した。本研究は、宇宙放射線被曝を想定した地上実験でもある。
形態、ホルモン分泌能の変化:γ線高線量率照射9 Gy以上で有意の組織障害とホルモン分泌低下があったが、低線量率照射では認められなかった。中性子線照射の場合は、0.2 Gy 4回照射以上でホルモン分泌の低下が認められた。
遺伝子変異:γ線高線量率照射(11~59 Gy)により、調査した癌関連遺伝子(
p53, K-
ras, c-kit, β-catenin, RET, bak, BRAF) のうち
p53、c-kit遺伝子に、突然変異が有意に誘発されたが、低線量率照射では全く誘発されなかった。中性子線0.2 Gy 6回照射後、5~13ヶ月間の観察では、突然変異は検出されていない。
遺伝子発現異常:マイクロアレイ(GeneChip, Affymetrix)を用い、ヒト遺伝子発現異常を調べた。γ線1~3 Gy照射、原子炉放射線0.2 Gy 2~4回照射群では同期の非照射対照組織に比べ、線量依存的に遺伝子発現の変化を来たす遺伝子が増加した。
以上、ヒト甲状腺組織において、γ線照射に対する明確な線量率効果と中性子線の高いRBEが示された。
(文科省科学研究費、宇宙フォーラム助成金による)
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浅川 順一, 小平 美江子, 高畠 貴志, 柿沼 志津子, 島田 義也
セッションID: FO-2-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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X線照射したオスの精原細胞に由来する仔マウス506匹について、DNA2次元電気泳動法でスクリーニングし20匹のマウスに16例の突然変異を検出した(浅川ら, Rad. Res., 2004)。突然変異の観察されたNotI断片を正常DNAよりクローニングし、個々の突然変異の種類を分子レベルで調べた。サザンブロット法と定量PCR法で解析した結果、5例は欠失型突然変異であり、少なくとも25 kb以上の大きさであると推定された(対照群190匹中に1例:C1、照射群316匹中に4例:E1~E4)。今回マイクロアレイCGH法を用いて欠失領域のより詳細な解析を行った。カスタムアレイ(アジレント社)はそれぞれ突然変異の生じたNotI部位を中心とする約1 Mbの領域に平均0.3 kbの間隔で選んだオリゴプローブを配置し、約44,000個を1枚のスライドガラスに4ヶ所貼り付けた。アレイCGH法では検査対象DNAとリファレンスDNAが必要であるが、今回の実験では、対照群で見つけた突然変異マウス(C1)のDNAをリファレンスDNAとして用いた。5例の遺伝子欠失の大きさは、C1:61 kb、E1:655 kb以上、E2:690 kb以上、E3:30 kb、E4:360 kbと推定された。E1、E2、E4では欠失は数100 kb以上の領域に及んでいるが、遺伝子と推定される配列は含まれていなかった。一方、欠失サイズが比較的小さなもの(C1, E3)では、欠失領域の近傍に遺伝子と推定される塩基配列が多数存在している。欠失領域に重要な遺伝子が存在する場合には、欠失の大きさに関係なく突然変異個体は生まれてこない、あるいは生まれても正常には育たないと考えられる。高密度マイクロアレイCGH法はゲノム中のコピー数変異を高解像度で解析でき、数10 kbといった比較的小さな欠失突然変異も検出できることが分かった。
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清水 由紀子, 笠置 文善, 西 信雄, グラント エリック, 杉山 裕美, 坂田 律, 陶山 昭彦, 早田 みどり, 森脇 宏子, 林 美 ...
セッションID: FO-3-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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白血病は、原爆被爆者に放射線の影響が最初に観察された悪性腫瘍で、悪性腫瘍の中でも最も高い相対リスクを示すものである。 相対リスクは被爆後の時間とともに減少し、その減少度は若年被爆者の方が高年被爆者よりも大きかった。 被爆50年後においても白血病リスクの上昇があるか否かを検討するのは興味深い。 本報告では放射線影響研究所(放影研)の寿命調査(LSS)集団中のDS02線量を有する約87,000名における1950-2003年間の白血病死亡率リスクの経年変化を観察した。
調査期間中の白血病死亡数は318で、全期間の過剰相対リスク(ERR/Gy)は 4.3 (95% CI; 3.1, 5.8)であった。 1996-2003年のERR/Gyは3.0 (95% CI; 1.1, 6.7)で統計的に有意 (p<0.001)であり、被爆50年後においても白血病のリスクは消失していないことを示唆していた。 白血病の過剰死亡のほとんどは被爆後早い時期に起こったが、最近、再びリスクの上昇傾向が観察された。 最近のリスクは被爆時年齢が20歳未満群によるもので、この群は初期に急激に白血病リスクが減少した群である。
白血病死亡の大半は急性骨髄性白血病 (AML)であるので、本報告で観察されたリスクパターンはAML死亡リスクのパターンを反映していると思われる。若年被爆者の初期の白血病リスクは主に急性リンパ性白血病 (ALL)によるものであったが、最近のこの群におけるリスクはAMLなど他の病型の白血病による可能性がある。 放影研では追跡調査を継続し、白血病の病型別の詳細な解析を行う予定である。
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藤森 亮, 王 冰, 岡安 隆一, 矢追 毅, 伏木 信次
セッションID: FO-3-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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小頭症は原爆の胎児被曝に関連する発生異常であり、マウス胎児の放射線への曝露によっても誘発される。しかし、放射線誘発小頭症の発症のメカニズムは十分に解明されていない。我々は、コンフルエントなヒトの胎児由来二倍体線維芽細胞にX線あるいは重粒子線を照射し、これら比較的強い放射線によって誘導される遺伝子発現をHiCEP法を用いて抽出した。これらには、CDKN1Aを含む既知の細胞周期制御遺伝子群が含まれる。今回、発現が顕著に減少する遺伝子に着目した。中でも、ASPM(abnormal spindle-like microcephaly associated gene)遺伝子の発現は、他のヒト培養細胞でも電離放射線によって有意に発現が抑制されることを明らかにした。ASPM遺伝子は、近年明らかになった家族性小頭症(MCPH5)の原因遺伝子であり、その患者の多くにASPM蛋白質の欠如につながる遺伝子の変異が見つかる。我々は、マウスAspmホモログ遺伝子の発現がX線に被曝した胎児の脳、とりわけ脳室底領域において減少することを示した。さらに、胎仔脳から神経幹細胞の培養系(neurosphere)を樹立し、これにX線を照射したところ、AspmのmRNAと蛋白質の両者で顕著な減少が観察された。このことは、Aspm蛋白の放射線による減少が生後の小頭症発症の原因であるという一つの可能性を示唆する。
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荘司 俊益, SHOJI Isao, SHOJI Toshihiro
セッションID: FO-3-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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抗腫瘍剤6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン6-diazo-5-oxo-L-norleucine(DON)は強力なグルタミン合成阻害物質として知られており、癌細胞が高いグルタミン要求性を有することから、抗癌剤、制癌剤特に抗神経内分泌腫瘍剤への利用が提供されてきた。DONによる異常発生の研究ではこれまで口蓋裂、骨格系形成障害などがよく観察されてきたが、妊娠母体にDONを投与し、その胎児への神経堤の機能異常並びに心・大血管異常の発生を詳細に調べる研究はあまり報告されていない。我々は、先天異常発生の予防と治療、並びに環境ストレス防護・安全性対策についての基礎的資料を得る観点から、各種環境ストレスの生物学的作用の特異性、特に異常発生との関係について検討する必要があると考えている。今回、我々は特にDNA損傷、神経堤障害と催異常発生感受性の関連性を明らかするために、DON並びにガンマ線を妊娠10日のラットの母体に全身暴露し、誘発された胎仔致死、生存胎仔の異常発生、特に心・大血管系異常及び外表異常との関係について検討する。DON投与群では、胎仔の致死、生存胎仔の心室中隔欠損、血管輪、右側大動脈弓、重複大動脈弓、Fallot四徴症などの心・大血管の異常に加え、発育遅延、下顎低形成などが認められた。特に心・大血管の異常の形成は、妊娠10日ラットの0.05-0.10μg/100g投与群に最も頻度が高く認められた。またDON投与群の胎仔の致死、吸収死亡する傾向が強くなったことも認められた。 他方、ガンマ線照射群では、胎仔吸収死亡率、生存胎仔の顔面などの異常発生頻度がいずれも線量依存性に増加した。顔面などの異常を合併した心室中隔欠損、右側大動脈弓、大動脈右方転位症、両大血管右室起始症、Fallot四徴症、動脈弓分岐異常などの異常発生頻度は線量依存性に増加した。その他、心室中隔欠損を伴ったFallot四徴症、房室弁異常、右側大動脈弓などが形成された。この事実は、右室流出路、大・肺動脈中隔、房室弁や半月弁形成においては、環境ストレスのDON投与並びに放射線照射がDNA損傷、神経堤の機能、Seccond heart field (SHF)の細胞、上皮-間葉転移(EMT)、神経堤細胞の遊走、分化及びその経路をなす基質の変化に重要な役割を果たすことを示している。また、DON実験による心・大血管系異常の型とその頻度はヒトDiGeorge症候群の先天性心・大血管疾患のそれと類似しているが、ガンマ線照射による実験では、騎乗大動脈、大動脈右方転位、両大血管右室起始症、Fallot四徴症などの円錐部動脈幹顔貌異常が見られる。このことからヒトの神経堤障害、SHF 細胞の異常、EMTの異常並びに心・大血管異常の形成にはDON並びに電離放射線など環境ストレスの関与が大きいことが示唆される。この動物モデルは、これらのヒトの致死、形成異常の発生機構並びに心・大血管系など疾患発生の予防と治療の解明にも有用であると考えられる。
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小平 美江子, 梁 治子, 高橋 規郎, 鎌田 直子, 古川 恭治, 中島 裕夫, 野村 大成, 中村 典
セッションID: FO-3-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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マイクロサテライトは多数の少数塩基が縦列に並んだ反復配列であるが、生殖細胞での反復数の突然変異率が高いことが知られている。今回、原爆放射線の継世代影響を調べるために、40のマイクロサテライト遺伝子座を選び、線量の高い原爆被爆者家族の子供66人(両親が被爆者である子供は4人)、線量の少ない家族の子供63人について、突然変異の検索をおこなった。この調査では、被曝した親の70の配偶子(平均被曝線量 1.56 Gy)での2789のマイクロサテライトのアリルと、非被曝の親の188配偶子での7465アリルを検査したことになる。
マイクロサテライトの突然変異は反復回数の増減によるアリルの長さの変異として検出できる。従って、突然変異の検出のために、マイクロサテライト領域をPCRで増幅し、キャピラリー電気泳動で解析後、親子のアリルの長さを比較して、親と異なる子供のアリルを検索した。1次スクリーニングは各親子のリンパ芽球永久細胞株からのDNAを用いて行った。リンパ芽球永久細胞株では、マイクロサテライトの突然変異が生じやすい事が知られているので、検出した突然変異は、未培養の細胞からのDNAを用いて確認した。その結果、被曝群の子供に20例、対照群に17例の突然変異を検出した。
被曝群20例の突然変異のうち、7例は被曝した親に由来するが、4例はそれらが被曝した親に由来するか否かを決定することができなかった。「被曝が突然変異を誘発する」かどうかを評価するために、この4例すべてが被曝した配偶子での突然変異と仮定した最も高い被曝配偶子での突然変異率と対照群の突然変異率の比較をおこなった。この場合でも、配偶子当たりの突然変異率は、被曝群では0.39% (7+
4/2789)、非被曝群では0.35% (26/7465) であり、この差は統計的に有意ではなかった(p=0.7134)。この結果は、放射線の急性一回被曝によって、マイクロサテライトでの突然変異率が増加する可能性は低いことを示唆している。
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立川 佳美, 坂田 律, 山田 美智子, 藤原 佐枝子
セッションID: FP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】近年、循環器疾患などのがん以外の死亡についても原爆放射線被曝線量との関連が示唆されている。メタボリックシンドロームは循環器疾患の重要なリスクであるため、広島原爆被爆者において放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との関係について調べた。
【方法】1995年から1997年までの間に被曝群とそのコントロール群からなる成人健康調査に参加し、ウエスト周囲径(臍周囲径)を計測した年齢50歳以上の男女3166名(男性1046名, 平均年齢;64.8歳、女性2120名;68.5歳)に対し、放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との関連を調べた。メタボリックシンドロームの診断はNCEP基準及び日本の診断基準を用いた。ただし、腹部肥満はアジア人向けの基準(腹囲 男性90cm以上、女性80cm以上)を使用した。
【結果】メタボリックシンドロームの有病率はNCEP (National Cholesterol Education Program)基準では男性で22.6%、女性で34.2%、日本基準では男性で10.0%、女性で21.5%であった。単変量及び多変量ロジスティック回帰分析の両方において、放射線線量とメタボリックシンドロームの有病率との間には有意な関連は認めなかった。
【結論】本調査では放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との間に統計学的に有意な関連はみられなかったが、今後被爆時年齢によるリスクの違いなどの検討が必要であると考える。
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荻生 俊昭, 小林 定喜, 久住 静代, 稲葉 次郎, ベレジーナ マリーナ, ケンジーナ グルマーラ, ルカシェンコ セルゲィ, ベレジン ...
セッションID: FP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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セミパラチンスク旧核実験場では、1949年~1989年に約450回の核実験が行われ、周辺住民は1962年までの約120回の大気圏内核実験により複数回の低線量放射線の外部と内部からの複合被ばくをした。協会では2001年以来、カザフスタンの放射線影響調査防護センター、国立原子力センター等の協力を得てこれらの住民の疫学調査を行ってきた。調査では放射能雲の通過した地域の住民(被ばく調査集団)と対照地域の住民(対照調査集団)について、公文書保管所や住民登録所等での書類調査、住民の聴取り調査等でデータを収集している。2008年7月末時点での調査対象者は約117,300人で、被ばく調査集団46,400人が含まれる。この集団で居住歴判明により線量計算が可能な者は約18,200人、うち生死判明者は約14,800人(生存者:7,000人、死亡者:7,800人)であった。対照調査集団は設定後の日が浅いので今回の解析には用いなかった。死因としては循環器系疾患が全死因の42%で、虚血性心疾患、脳血管疾患が多かった。新生物は全死因の21%で、食道、胃の悪性新生物が多かった。ロシア連邦保健省の計算式により被ばく線量を計算し、被ばく線量と死因(ICD-10分類)に基づいて被ばく集団の内部比較でリスク比を計算した。男性では新生物も循環器系疾患も線量に応じた有意な増加はなかった。女性では高線量群で新生物による死亡リスクは有意に増加した。性別、年齢、被ばく線量、民族に関するロジスティック解析では、循環器系疾患のリスクはいずれでも有意の差が見られたが、新生物では性別、年齢、民族でのみ差が見られた。本調査はまだ調査開始後の期間が短いことから、今後、対象者を増やすとともに、各種指標の信頼性・妥当性、交絡因子やバイアスの検証が必要である。(この調査は平成19年度エネルギー対策特別会計委託事業「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」の一部である)。
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山田 美智子, 笠置 文善, 三森 康世, 宮地 隆史, 大下 智彦, 佐々木 英夫
セッションID: FP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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背景と目的:胎児期に被爆した被爆者では小頭症や知的障害等の神経系への影響が認められる。今回、広島成人健康調査集団の被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者とその対照において、原爆被爆が認知機能や認知症の発症に影響したか否かについて調査した。
方法:対象者は1992年の調査開始時に年齢60歳以上で認知症を認めない2286人である。認知機能は認知機能スクリーニング検査(CASI)を用いて評価した。認知症の診断は認知機能スクリーニング検査と神経内科医による神経学的検査の2段階法を用い、人年法により線量階級別の粗発症率を求めた。原爆被曝の認知症発症への影響の評価には他のリスク要因を考慮してポワソン回帰分析を用いた。放射線治療による被曝情報は病院調査と問診調査から得られた。
結果:認知機能は加齢と共に低下し、低学歴で低かったが、被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者では認知機能に被爆の影響は認められなかった。約6年の追跡期間中に206人が新規に認知症を発症した。60歳以上の1000人年あたりの粗認知症発症率は15.3(男性12.0、女性16.6)であった。被爆線量別の1000人年あたりの発症率は被爆線量5mGy以下、5-499mGy,500mGy以上で各々16.3、17.0、15.2であった。いずれの被爆線量群でもアルツハイマー病が優位な認知症のタイプであった。ポワソン回帰分析の結果、全認知症ならびにタイプ別認知症において、他のリスク要因を調整後に被爆の影響は認められなかった。対象者の内、68人がこの調査以前に放射線治療を受けていたが、認知症を発症したのは2人にすぎなかった。
結論:原爆被爆者の縦断的調査において認知機能ならびに認知症発症と放射線被曝の関連は認められなかった。
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吉野 浩教, 高橋 賢次, 柏倉 幾郎
セッションID: FP-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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[目的]樹状細胞(DC)は,抗原提示細胞の一つで,免疫システムに不可欠な存在である.我々はこれまでに,骨髄系DCとなりうるヒト末梢血単球に着目し,放射線に曝露された単球からでも正常なDCへ誘導できるかどうかを検討してきた.その結果,X線曝露単球からでもDCへ誘導できるものの,照射群でマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)活性低下などの一部機能低下が起きることを明らかにした(J. Radiat. Res., 49, 2008).この時の成熟刺激にはTNF-αを用いたが,本研究では成熟刺激にリポ多糖(LPS)及びサイトカインミックス(rhTNF-α,IL-1β,IL-6,PGE
2:MIX)を用い,放射線のDCへの分化誘導に与える影響が成熟刺激によって異なるかを検討した.[方法]ヒト献血バフィーコートから末梢血由来単球を分離し,X線0,2,5,10 Gy照射した.照射18-20時間後,各単球をrhGM-CSF,IL-4を添加した培地で5日間培養し,未熟DCへ誘導した.成熟刺激としてLPS又はMIXを用い,48時間刺激した.細胞表面発現抗原をフローサイトメトリー法で,培養上清中に含まれるMMP-9活性をザイモグラフィーで解析した.[結果・考察]X線照射単球由来未熟DCをLPSで刺激した場合,非照射群と比べて共刺激分子のCD80や成熟マーカーのCD83の発現量が低下する傾向が観察されたが,MIX刺激時には非照射群と照射群の間で大きな違いは観察されなかった.また,LPS刺激成熟DCの培養上清中のMMP-9活性は,非照射群と比べて照射群で低下する傾向が観察されたが,MIX刺激時には非照射群と照射群で大きな変化は観られなかった.以上より,放射線がDCへの分化誘導に与える影響は成熟刺激の種類によって異なり,特にLPSへの応答性を大きく低下させる可能性が示唆された.
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山田 正俊, 鄭 建
セッションID: FP-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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海洋環境中の
241Amの主要な起源は、大気圏核実験によりもたらされた
241Puの壞変により生成したものである。
241Amとプルトニウム同位体は、海水中で粒子との反応性に富み、沈降除去されやすいことが知られている。プルトニウム同位体に比べ、海洋における
241Amの分布と挙動に関する研究は極めて少ない。本研究では、東シナ海縁辺域における沈降粒子と海底堆積物中の
241Am、
239+240Pu、
210Pbを測定し、
241Amのスキャベンジング過程を解明することを目的とした。沈降粒子試料は、シリンダー型および円錐型時系列式セジメントトラップを用いて採取した。また、堆積物の採取はマルチプルコアラーを用いた。沈降粒子中の
241Am濃度は2.6から7.3 mBq/gであり、水深が深くなるにつれて増加する傾向を示した。
241Am /
239+240Pu比は、水深100mで1.5、水深600mで2.1であった。
241Amのフラックスも深さとともに増加し、1.5から170 mBq/m
2/dayであった。また、沈降粒子中の
241Am濃度およびフラックスには、季節変動がみられた。海底堆積物表層(0-1cm)の
241Am濃度および
241Am /
239+240Pu比は、深さとともにほぼ直線的に増加した。この傾向は、
210Pb濃度と同じであった。これらの結果から、
241Amはプルトニウム同位体に比べ粒子による沈降除去が活発であり、
210Pbの挙動に近いことが明らかになった。
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多賀 正尊, 江口 英孝, 濱谷 清裕, 伊藤 玲子, 今井 一枝, 片山 博昭, 西 信雄, 田原 榮一, 和泉 志津恵, 松村 俊二, ...
セッションID: FP-6
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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原爆投下後60年以上が経過しても原爆被爆者における肺がんの過剰相対リスクはいまだに高い。放射線被曝が肺発がんに及ぼす影響を検討するため、我々は始めに、非小細胞肺がんの原爆放射線被曝者20人および非被曝者18人のp53 (エクソン5-8) とEGFR (エクソン18, 19, 21) 遺伝子の変異を解析し、その変異と放射線被曝との関連を調べた。放射線被曝者20人中11人 (55%)、 そして非被曝者18人中6人 (33%) にp53遺伝子変異が認められた。次に我々は、扁平上皮がんと腺がんにおいてp53遺伝子変異を別々に解析した。扁平上皮がんでは、放射線被曝者6人中5人 (83%)、非被曝者5人中2人 (40%)、そして、腺がんでは、放射線被曝者12人中5人 (42%)、非被曝者12人中3人 (25%) にp53遺伝子変異が認められた。GC>TAトランスバージョン型のp53遺伝子変異を有する患者の被曝線量中央値はその他の変異を有する患者あるいは変異を持たない患者に比べ高かった。一方、被曝者腺がん12例中2例でEGFRの変異がみつかり、その頻度は予想されるものよりも低かった。症例数を増やした更なる研究が必要であるが、これらの結果は組織型特異的に特定の遺伝子変異 (例えばp53) とその変異型の頻度が放射線被曝と関連する可能性が示唆された。
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藤井 智彦, 久野 玉雄, 齊藤 剛, 藤井 紀子
セッションID: FP-7
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】水晶体の透明性は、水晶体を構成するタンパク質間の相互作用により維持されている。しかし、酸化ストレスによりタンパク質に酸化、ラセミ化、AGE化などの翻訳後修飾が起こると、相互作用に変化が生じ、透明性を維持できなくなる。水晶体の主要タンパク質であるα-クリスタリンは、分子量2万のαA-クリスタリン(αA)とαB-クリスタリン(αB)が弱い相互作用によって30-40量体の高次会合体を形成し他のタンパク質の凝集を抑え、水晶体の透明性を維持している。しかし、αAとαBの相互作用に関する物理化学的な研究は不十分である。そこで我々はαAとαBの相互作用及び、これらのサンプルへの酸化的影響を解明するために、γ線照射により酸化クリスタリンを生成し、未照射のクリスタリンとの相互作用の違いをリアルタイム測定できる表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて測定し、解析を行った。
【方法】ヒトαAおよびαBは大腸菌を用いて発現させた。精製した各クリスタリン1 mg/ml にγ線(60Co)を0, 100, 500 Gy照射した。SPR分析はbiacora T100を用いて行った。相互作用を検討するタンパク質のうち、チップに固定化するタンパク質をリガンド、リガンドに対して結合を検討するタンパク質をアナライトと定義する。本実験ではリガンドに未照射のαAおよびαBを、アナライトには未照射と照射したαAとαBを用いて測定を行った。
【結果】リガンドとアナライトをαA (AA)、リガンドをαA、アナライトをαB(AB)、リガンドをαB、アナライトをαA(BA)、リガンドとアナライトをαB(BB)と表記する。未照射のクリスタリン間の解離の速さはAA≈BA>AB≈BBであった。しかしγ線照射したクリスタリンでは、すべてのクリスタリン間の解離が未照射よりも速かった。また解離の速さはBB>AB≈BA>AAの順となり、AA、BBの解離の速さが逆転した。これらの結果から、αBは通常は安定な会合体を形成しているが、ガンマ線照射すると解離が速くなることから酸化ストレスに対し弱いことが示唆された。逆にαAは通常はαBより弱い相互作用をしているが、酸化ストレスにはαBより強いことが示唆された。
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七條 和子, 松山 睦美, 領家 由希, 中島 正洋, 中山 敏幸, 関根 一郎
セッションID: FP-8
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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目的:長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。その一環として、我々は長崎原爆急性被爆者剖検例のホルマリン固定臓器とパラフィンブロック及び対照としてトロトラスト患者の肝臓標本とブロックを用いて内部被曝の検出法について検討している。今までに、1)ホールボディーカウンター(γ線spectrum NaI (T1) シンチレーター、400チャンネル波高分析器)ではトロトラスト患者の肝臓パラフィンブロックではAc-228(260eV)でピークを認めたが、原爆急性被爆者では検出不可能、2)オートラジオグラフィー法露光3週間では、トロトラスト患者肝臓標本でトロトラストgrainから出るα線の飛跡が確認できた。一方、原爆急性被爆症例での確認は出来なかったことを報告している。今回、さらに原爆急性被爆症例数を増やし、非被爆者症例についても組織切片を用いて残留放射能の検討を行った。試料と方法:1)長崎原爆被爆者として急性被爆7症例、2)内部被爆の例としてトロトラスト症患者1症例、3)非被爆者として、国立長崎医療センター保管ブロック4症例、九州大学病理保管ブロック3症例を用いて、骨、骨髄、肺、肝臓、腎臓等についてオートラジオグラフィー法を行い検討した。結果:長崎原爆急性被爆症例では、肺、腎、骨等の組織標本についてα線の飛跡様のものが認められた。尚、これと同様のものは、今回用いた非被曝症例の組織標本内でも認められたが、その数はやや少ない傾向であった。今後、放射線核種の同定をし、残留放射能の可能性を確認する。
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王 冰, 田中 薫, 尚 奕, 藤田 和子, 二宮 康晴, Moreno Stephanie G., Coffigny Herve, 早田 ...
セッションID: FP-9
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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宇宙に於ける人間の活動の増加と共に、高LET放射線の影響に関する研究が重要性を増しつつある。以前我々は、胎齢15日目の雄ラットに重粒子線で照射を行うと、胎児期の生殖腺や生後の精巣の発育、そして生殖力に対して、広範囲に渡って著しく有害な影響が起る事を報告した。胎児の生殖腺において放射線誘発生殖母細胞のアポト-シスのメカニズムを知る目的で、Wistarラット胎児の精巣を培養したものを重粒子線で照射し、細胞や分子に起こる事象について種々の阻害剤或いはNOラジカルスカベンジャーの影響を調べた。その結果、in vitroにおいて、密集して起こるアポトーシスの分布の状態に加え、妊娠15日目に当たる時期の生殖母細胞のアポトーシスの割合とその時間的経過が、生体において、胎内照射を受けた時に起こる事と類似していた。照射によって線量依存的にp53の発現の増加が誘導され、p21とBcl-2の発現の減少が誘導された。照射前に汎カスパーゼ阻害剤を投与すると、効果的にアポトーシスの発生が抑制され、密集型のアポトーシスの分布を減少させた。一方、p53阻害剤、ギャップ結合阻害剤、 NOラジカルカベンジャーの存在下では、その様な効果は認められなかった。これらの事は、in vitroにおいて、培養ラット精巣に照射する事によって起こった事が、生体において、胎内で精巣が照射された時に生殖母細胞に誘導されるアポトーシスに、病理学的に類似している事を示している。このアポトーシスはp53、ギャップ結合、NOラジカル非依存的であった。p53の発現はアポトーシスの誘導よりも寧ろ放射線損傷への応答と関係があるのかもしれない。生殖母細胞のsyncytial organizationは、ギャップ結合阻害剤とNOラジカルカベンジャーが防げなかった密集型のアポト-シスの形成に、重要な役割を演じていた。
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保田 隆子, 尾田 正二, 石川 裕二, 府馬 正一, 吉田 聡, 三谷 啓志
セッションID: FP-10
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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メダカの胚は体外で発生し、かつ、卵殻が透明なので、哺乳類の胎児では不可能な発生の全過程を観察することができる利点をもっている。また、メダカの脳発生は基本的には哺乳類のそれと同様であることが私達の研究の結果明らかになっている。
我々は以前の研究で、器官形成期の終わりにあたるメダカ後期胚期(st.28-30)に致死線量より低いX線1-10Gyを急照射し、照射24時間後に脳(視蓋)で起こる放射線誘発細胞死を実体顕微鏡下で一過性に観察できることを見出した。更に、放射線誘発アポトーシスをより簡便・迅速に検し定量できる、アクリジンオレンジを用いた新しい手法を確立した。
本研究では、これら細胞死(アポトーシス)のみならず、放射線照射による細胞増殖の変化、DSBの検出を、免疫組織化学手法をもちいて検討を行ったので、その結果を発表する。
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孫 学智, ZHANG Rui, CUI Chun, 澤田 和彦, 久野 節二, 福井 義浩, 米原 英典
セッションID: FP-11
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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This study was designed to present evidence to clarify the relationships between learning ability, neuronal cell adhesion molecule L1 expression and hippocampal structural changes in the rat model received X-irradiation at an embryonic stage. Water maze task indicated that all of the irradiated rats failed to learn the task in the whole training procedure. Their latency to the platform and swimming distance were significant differences from those sham-treated controls. Histological studies showed that the hippocampal ectopias induced by X-rays in the CA1 were involved in the spatial learning impairment, in which they hampered normal processes in learning development and transmission of information. On the other hand, L1 expression in the hippocampus was examined with Western blot analysis. The results indicated a lower content of L1 in the irradiated rats. A decrease in L1 might be one of reasons to cause disorganization of the septohippocampal pathways. These findings suggest some mechanisms of spatial learning impairment can be attributed to the formation of the hippocampal ectopias and redaction of L1 following prenatal exposure to X-irradiation.
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武田 志乃, 井上 美幸, 寺田 靖子, 西村 まゆみ, 島田 義也
セッションID: FP-12
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【はじめに】近年、劣化ウラン弾汚染の問題を背景に子どもへのウランの毒性影響に関心がもたれている。我々は、幼若ラットを用い、発達期におけるウランの腎臓への影響を検討しており、ウランばく露の年齢による腎障害の感受性の違いを昨年の本大会で報告した。そこで本研究では、ウランを投与した新生ラットにおけるウランの腎臓内挙動と影響を腎発達と対応させ検討した。
【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラットを用いた。生後2日目に一腹あたり6匹として飼育し、6日目に酢酸ウラン(天然型)を皮下に一回投与(2 mg/kg)した。経日的に屠殺して腎臓を摘出した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析により調べた。組織観察: TUNELおよびヘマトキシリン染色を行った。
【結果】成熟ラット(10週齢)では投与後1日目の腎臓ウラン蓄積量は投与量の13%であり、以後ゆるやかに減衰し、15日後には投与量の3.5%の残存となった。新生ラットではウラン投与後1日目の腎臓ウラン蓄積量は成熟ラットの1/6程度であったが、その後減衰はなく15日後も蓄積レベルは保持されていた。腎臓内においてウランは下流領域の近位尿細管に選択的に蓄積していた。投与後の15日間、腎臓は急成長しており(臓器重量で2倍)、新生した近位尿細管にも選択的にウランが蓄積していることが認められた。これらの結果から、新生期のウラン曝露では腎障害が持続する可能性が考えられた。
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吉本 泰彦
セッションID: FP-13
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】原発など環境汚染源による乳児(1歳未満)先天性異常(以下先天性異常)の増加の懸念がしばしば見られる。地理的相関研究による環境汚染源周辺の先天性異常死亡率の暦年・地域変動の適切な理解を図る。【資料】主に人口動態統計の出生数と先天性異常死亡数に基づく都道府県別1972-2005年死亡率データ。1972年は沖縄県を含まない。【方法】先天性異常死亡率の標準化死亡比SMR(全国死亡率を基準)を、便宜上、7期間、6地方ブロックによる暦年・地域変動をポアソン回帰モデルで解析。全死因の他、循環器系と非循環器系の死因グループ、さらに後者は染色体異常等に限って解析。【結果】日本全国の一般的乳児死亡率は経年的に減少しているが、特に第4期(1988-92年)以降は先天性異常死亡率と強い正の相関が見られた。先天性異常全死因の相対的に高い死亡率が、第1~3期(1972-77,1978-82,1983-87年)で北海道・東北地方ブロック、第5、6期(1993-97,1998-02年)で関東地方ブロックに見られた。なお、第3期は内陸部(海に面しない県)の相対的に高い死亡率が見られる。先天性異常死亡数で循環器系の占める割合が日本全体で50%を下回るのは第5期からである。非循環器系死亡数で染色体異常等の占める割合は第1期の19%から第4期の40%まで増加したが、その後約1/3となった。死因別死亡率の暦年・地域変動は全死因のそれと必ずしも同一ではない。死亡数の減少は小地域単位死亡率の暦年変動の適切な理解を困難なものにしているが、平常時の環境汚染源周辺の潜在的リスクは大変小さい。
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今中 哲二, 星 正治, 静間 清, 遠藤 暁, SAHOO Sarat K., 米原 英典, 青山 道夫, 山本 政儀, SHINKARE ...
セッションID: FP-14
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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広島原爆によるローカルなフォールアウト汚染は、爆心地西方約3kmの己斐・高須地区において顕著だったことが、原爆直後の放射線サーベイならびにサンプリング測定によって認められている。一方、“黒い雨”の降った地域はもっと広汎で、北西方向30kmでもかなりの降雨が観察されている。己斐・高須地区以外での黒い雨にともなう放射能汚染は、山間部であったためか原爆直後に放射能モニタリングは実施されていない。また、1970年代に実施されたセシウム137とストロンチウム90の土壌汚染調査では、大気圏内核実験によるグローバルなフォールアウトの影響が強く、広島原爆に関する有意な結果を見いだすことが出来なかった。我々のグループは最近になって、黒い雨地域の土壌から、広島原爆中での
235U(n,g)
236U反応に由来すると考えられるウラン236を検出した。現在、ウラン236の測定数を増やすとともに、ウラン236量に基づいてセシウム137などの核分裂生成物降下量を評価する方法を検討している。最終的には、気象モデル計算と組み合わせて降雨地域の再検討を行うとともに、フォールアウトからの外部被曝量ならびに内部被曝量の評価を試みる。
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静間 清, 遠藤 暁, 藤川 陽子, 今中 哲二, 星 正治, 葉佐井 博巳, SAHOO Sarat K, 米原 英典, 青山 道夫, 山 ...
セッションID: FP-15
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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広島原爆のフォールアウトは爆心から約3km西方の己斐・高須付近で高かったことが初期測定から知られている。しかしながら、原爆以後の核実験フォールアウトのために、戦後に集められた試料からは原爆に由来する137Csは測定されていない。広島原爆資料館には2つの「黒い雨」壁面が保管されている。これらは広島市高須の民家から切り取られ寄贈されたもので爆心の西方3700mに位置していた。原爆による爆風で屋根がずれ、そこから黒い雨が降り込んで白壁に黒い雨の跡が残った。我々は広島原爆資料館所蔵の黒い雨壁面から微小サンプルを採取し、低バックグラウンドGe検出器により,Cs-137を測定し,ICP-MS法でウラン同位体を測定した。U-235/U-238比の測定から天然比より高い原爆由来の同位体比を検出した。また,Cs-137/U-235比を求めて,fission yieldと比較したところ測定値のほうが高い結果が得られた。fractionationについて検討を行い,その結果について報告する。
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さふー さらた くまーる, 米原 英典, 星 正治, 今中 哲二, 遠藤 暁, 静間 清, 葉佐井 博巳
セッションID: FP-16
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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広島原爆による“黒い雨”は、爆心地から北西方向に30km以上に及ぶ広域に降ったことが知られている。しかし、広島原爆による黒い雨地域で、セシウム137やストロンチウム90といった核分裂生成物を検出しようという以前の試みは、大気内核実験による影響が大きいためうまく行かなかった。非公式の資料によると、広島原爆にはウラン235が約51kg用いられ、そのうち912gが16キロトンの核分裂で消費された。またウラン235の一部は、
235U(n,g)
236U反応により
236Uに変わった。ウラン236の大部分は、爆発とともに上空高く吹き上がって拡散したと思われるが、その一部は黒い雨とともに地上に沈着した可能性がある。そこで、表面電離型質量分析(TIMS)を用いて黒い雨地域の土壌を測定したところ、これまでに7つのサンプルから、
236U/
238U原子比として(1.2-8.6)x10
-8の値が得られ、黒い雨の降っていない地域のサンプルからウラン236は検出されなかった。TIMSによるウラン236測定は、広島原爆の黒い雨にともなう放射能汚染について、貴重な情報を提供するであろう。
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佐藤 大樹, 佐藤 薫, 高橋 史明, 遠藤 章, 宮原 信幸, 辻 厚至, 大町 康
セッションID: HO-1-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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対象物の解剖学的構造を精密に3次元でモデル化できるボクセルファントムと汎用放射線輸送コードを用いて、中性子照射におけるマウスとヒトの臓器吸収線量を解析した。本研究では既に8週齢のC3H/HeNrsマウスのボクセルファントムを開発しており、様々な条件下で中性子線照射した場合の体内線量分布を解析している。今回は、ボクセルファントムの解像度を従来の約1000倍(ボクセルサイズ:0.1 × 0.1 × 0.1 mm
3)に向上させると共に、9種類の実質臓器を新たにモデル化した。また、原子力機構が開発した日本人をモデルにした精密ボクセルファントムJMを汎用放射線輸送コードに組み込み、単一エネルギー中性子に対する単位中性子フルエンス当たりの各臓器の吸収線量を計算した。マウスとヒトの臓器吸収線量及びそれに寄与した荷電粒子種ごとの付与エネルギー分布の解析から、同一条件の中性子照射について、同一臓器の吸収線量であっても、マウスに比べヒトの方が電子の相対的な寄与が大きいことが分かった。これは、体型の大きなヒト体内において中性子がより減速され易く、熱中性子捕獲反応の割合が増加したためである。臓器吸収線量及びそれに寄与する粒子の特徴を、マウスとヒトモデルについて臓器毎に比較し報告する。
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鈴木 元, 緒方 裕光, 山口 一郎, 杉山 英男, 米原 英典, 笠置 文善, 藤原 佐枝子, 木村 真三
セッションID: HO-1-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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鉱山労働環境における高レベルのラドン被ばくは、肺癌リスクになっていることが明らかにされていたが、一般住宅の屋内ラドン濃度が肺癌リスクになるか否か明確ではなかった。近年、屋内ラドンと肺癌に関する症例対照研究の大規模なプール解析が実施され、100Bq/m
3といった屋内ラドン濃度であっても、有意に肺癌リスクが上昇することが明らかとなってきた。我が国の屋内ラドン濃度は、従来世界平均の半分以下と評価されてきたが、近年、高密閉・低換気率の省エネ住宅が普及し、屋内ラドンの上昇が憂慮されている。そこで、本研究では、(1)全国3900家屋の屋内ラドンを測定し、もって屋内ラドンの全国人口加重平均値を求め、(2)この値を用いて米国EPAのラドン肺癌推計モデルを使って、我が国の屋内ラドンの喫煙者、非喫煙者別の肺癌寄与リスクを推計することを目的とする。
ラドンは、受動的ラドン・トロン分別測定器(RadoSys社)を半年間居室ないし寝室に設置し、装置を回収後、日本分析センターで計測する。アンケート調査を同時に行い、家屋構造、換気の多さ、屋外ラドン濃度レベル(3段階)などと屋内ラドンの相関を検討する。今回の報告では、H19年10月~H20年2月に測定した820軒およびH20年3月~H20年8月に測定した900軒の解析結果を報告する予定である。現時点では、初年度の第一回820軒の測定結果のみであり、28都府県をカバーするだけである。820軒の屋内ラドン濃度は、対数正規分布と矛盾せず(Kolmogorov-Smirnov Test, p = 0.355)、算術平均(標準偏差)は、21.3 Bq/m
3 (21.0)、幾何平均 (幾何標準偏差)は、16.9 Bq/m
3 (1.95)、最小値 0.3 Bq/m
3、最大値 437.9 Bq/m
3であった。この値は、1993年から96年に放医研が行った全国調査値に比し、有意に上昇している。
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保田 浩志, 矢島 千秋, 吉田 聡
セッションID: HO-1-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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放医研では、2006年に放射線審議会が策定したガイドラインに沿って、本邦航空会社乗務員の被ばく管理を支援している。支援作業の主な内容は、粒子輸送モデルを用いた計算による線量の評価(アセスメント)である。正しい線量値が計算できているか否かの検証には、航空機もしくは航空機の飛行高度に近い(大気厚の薄い)高地で実測を行うことが望まれる。
そこで、我々のチームでは、日本最高峰である富士山の山頂(標高3,776m)ににおいて宇宙線観測を行い、モデル計算結果と比較検討した。観測は、気象庁が貸し出した富士山測候所の1号庁舎2階のエリアを借用し、2008年7月から8月にかけて約40日間実施した。
宇宙線の測定に用いた機器は、GeVオーダーに至る高エネルギー領域にも感度のある拡張型レムカウンタWENDI-2及びシンチレーション型の中性子モニタPrescila(どちらも米国Ludlum Measurements社製)、放医研が独自に開発した複合シンチレータを検出部とする中性子スペクトロメトリシステムCREPAS等を使用し、航空機高度での被ばくにおいて最も寄与の大きい中性子成分の線量、特に10MeVを超える高エネルギー中性子の寄与を正確に把握することに重点をおいた。これらの実測結果と、日本で開発された粒子輸送計算コードPHITSをベースにした解析プログラムでの計算結果を比較し、モデル計算の精度について考察した。
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森 利明, 吉川 祐子
セッションID: HO-1-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】 DNAを放射線で照射すると塩基の脱離や、不正常な塩基の生成、DNA塩基と蛋白質間の結合(クロスリンク)、DNA鎖の切断(1本鎖および2本鎖切断)などの物理的・化学的な変化が生じる。これらのDNA損傷は修復酵素の対象となるが、容易に修復されるものと修復間違いや修復には困難をきたすものがある。なかでもDNAの二重鎖(2本鎖)切断は修復が困難で、結果として細胞のガン化や細胞死などがおこる。また活発に細胞分裂をしている細胞ほど放射線感受性が高いことがすでに知られている。その理由として細胞分裂期にはDNAが凝縮した状態からコイル状態に高次構造を変化していることが指摘されている。
DNAは希薄水溶液中ではコイル構造をとるが、ポリアミンを加えると凝縮したグロビュール構造に変化する。ポリアミンにはもともとDNAを放射線損傷から保護する作用がある。その作用が、水の放射線分解で生じるヒドロキシルラジカル(OHラジカル)の捕捉効果によるものか、高次構造の変化によるものかこれまで明確にはなっていなかった。そこでわれわれは単分子観察手法を活用して放射線による二重鎖切断のモデル研究をおこなった。
【実験】 DNAは市販の166キロ塩基対、全長57ミクロンのT4ファージを、凝縮剤にはポリアミンの一種であるスペルミジンを用いた。線源は産学官連携機構のコバルト60(プール、20c_m_弱の線源)で、調整したサンプルをガンマ線照射し、照射後、蛍光顕微鏡を用いた単分子観察により個々のDNA分子の全長を測定して、DNAの高次構造変化とガンマ線によるDNA損傷との関連性を調べた。
【結果】 凝縮したDNAではコイル状態に比べて明らかにDNAの切断が抑制されていた。これはスペルミジンのラジカル捕捉効果によるものではなく、DNAの高次構造変化によるものであることを定量的かつ理論的に明らかにすることができた。
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山下 真一, 勝村 庸介, 前山 拓哉, 林 銘章, 室屋 裕佐, 村上 健, ミーサンノエン ジンタナ, ジェイジェラン ジャンポール
セッションID: HO-1-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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水は生体細胞主成分であり、その放射線との相互作用は重要と言えるものの、これまで生体に近い中性の条件下でがん治療に用いられるほど高エネルギーの重粒子線を用いた研究はほとんど報告されていない。そこで本研究ではこれまで放射線医学総合研究所の HIMAC からのガン治療用 GeV 級重粒子線 (
4He
2+-
56Fe
26+、最大エネルギー 500 MeV/nucleon、LET 2-700 keV/μm) を用い、水の放射線分解主要生成物である水和電子 (e
-aq)、OH ラジカル (
•OH)、過酸化水素 (H
2O
2) のプライマリ収量を測定してきた。ここでプライマリ収量とは照射後約 100 ns 後における収量である。照射後 ps 程度の間にトラックが形成され、トラックの中心部に水分解ラジカルは密集して生成されるが、その後水分解ラジカルは周囲へ拡散しつつも相互に反応する。このトラック内反応と拡散がほぼ落ち着く時間が約 100 ns と言えるため、プライマリ収量はトラック初期構造やトラック内における水分解ラジカルのダイナミクスを強く反映する量と言える。本研究ではこのプライマリ収量の測定だけでなく、測定値を元にシミュレーションを補完的に用い、より微視的な検討も実施している。すでに開発されている重粒子線による水の放射線分解シミュレーション用モンテカルロ法コード IONLYS-IRT による結果との比較や、より簡便に取り扱うことができる拡散モデルによるシミュレーション結果との比較も行った。特に後者では従来広く使用されてきている Chatterjee and Magee などのトラック内線量分布モデルを初期条件としてシミュレーションを実施することにより、その妥当性についての検討も行った。
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劉 勇, 鈴木 実, 菓子野 元郎, 増永 慎一郎, 木梨 友子, 切畑 光統, 小野 公二
セッションID: HP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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はじめに:悪性腫瘍組織内のホウ素-10の分布はホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の効果を左右する重要な因子の一つである。現在、ホウ素-10の測定手段は即発γ線分析装置(PGA)、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)とα-オートラジオグラフィに限定されている。これらの方法は組織内のホウ素-10濃度を平均的に評価する上では有効であるが、組織内での分布また細胞レベルでの分布の不均一を検出することはできない。そこで、本研究では免疫染色によりホウ素-10化合物の分布を検索する手法を確立する。
材料・方法:細胞はhuman lung carcinoma cell line (A549)を用いた。ホウ素-10化合物であるBPA (
p-boronophenylalanine)を培地に加え、数段階の濃度(
10B: 1.625, 3.25, 6.5, 13, 26, 52 ppm)とし、その後、1時間培養した後、抗BPAモノクローナル抗体とAlexa Fluor蛍光抗体によって、免疫蛍光染色を行った。また、細胞の核を確認するために、DAPI (4',6-diamino-2-phenylindole) 染色を行った。BPA蛍光染色の写真によって、Adobe Photoshop Softwareで蛍光強度とBPAの濃度の関係を調べた。
結果:BPAとDAPIの二次染色によると、BPAはA549細胞内の核近傍にまで分布することが分かった。また、蛍光強度を測定すると、濃度に応じて蛍光強度は増加することも分かった。特に、培地の
10B濃度が 13 ppm以下の時、細胞の蛍光量は培地の
10B濃度に比例して直線依存的に増加することが分かった。更に、細胞毎の蛍光量のヒストグラム解析では、
10B 13 ppmのヒストグラムのピークは
10B 3.25 ppmのピックより、高蛍光強度へシフトした。
結論・考察:本手法で解析すると、BPAは癌細胞の核近傍に分布することが分かった。今後、この方法で、
in vivoにおける組織内のBPAの分布を検討していく予定である。
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迫田 晃弘, 花元 克巳, 石森 有, 山岡 聖典
セッションID: HP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】これまで,土壌などからのラドン散逸能を予測するためのモデル計算が行われてきた。これら先行研究のほとんどが,粒子あるいは間隙のモデルに対してラドン散逸能を数学的に正確に表現しようとしてきたため,複雑なモデルに対応するのは困難であった。そこで,本研究では,まず間隙率が異なる3種類の単粒構造土壌をモデル化した。すなわち,単純立方,体心立方,および面心立方の各格子点上に土壌粒子が充填していると考えた。これらモデルはより実際的で,単粒構造をした土壌をよく表していると考えられる。その後,各モデルに対して,土壌粒子のラドン散逸能をモンテカルロシミュレーションによって算出した。
【方法】計算を簡略化するために,いくつかの仮定を導入した。例えば,全ての粒子は同径の石英(SiO
2)で構成されており,また,ラドン散逸現象は親核種のラジウムのα壊変による反跳によってのみ生じると仮定した。各モデルにおけるラドン散逸能の算出は,粒径,含水率,およびラジウム分布を各々変化させて行った。
【結果と考察】単純立方格子状に充填された土壌モデルのラドン散逸能は次の通りであった。含水率が0%の場合,粒径10−100 μmの範囲においては,粒径が大きくなるにつれてラドン散逸能は高くなり飽和した。また,含水率が高くなるにつれて,ラドン散逸能は高くなり飽和した。これは,粒子から散逸したラドンが周囲の粒子に埋め込まれる前に,間隙中の水によってエネルギーの大部分が吸収され,結果的に間隙中に止まり易くなることを示唆している。他の土壌モデルのラドン散逸能についても同様に,本大会で言及する。一方,本研究のモデル計算の妥当性を検討するために,計算値と実験値を比較した。その結果,両者の間で良い一致が認められ,本研究のモデルが単粒構造をした土壌からのラドン散逸率を算出するのに有効であることがわかった。
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花元 克巳, 迫田 晃弘, 山本 祐紀, 西山 祐一, 石森 有, 永松 知洋, 山岡 聖典
セッションID: HP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】我々はこれまでに,ラドン療法で世界的に有名な三朝(鳥取県)やバドガスタイン(オーストリア)の温泉地周辺に存在する天然放射性岩石を用いて,
222Rn散逸に及ぼす環境諸因子の影響などについて検討し,報告してきた。他方,岩石を構成している各鉱石にどの程度の放射能が分布しているかなどの研究は皆無に近い。このため,各鉱石の放射能の分布などを明確にするために,鉱石別の放射能と
222Rn散逸率を検討した。
【方法】白雲母(KAl
2(AlSi
3)O
10(OH)
2)と石英(SiO
2)の2種類の鉱石から構成されているバドガスタイン産の岩石(粒径250-500 μm)を試料とした。常法に従い,高比重溶液と粒状試料との比重の差異による浮沈で分離可能なsodium polytungstate solution (SPT) 重液を用い,岩石から各鉱石を分離した。得られた各鉱石を洗浄し,100℃で24時間の乾燥をした。鉱石別の放射能は,高純度ゲルマニウム検出器により
214Pbのγ線を測定して算出した。他方,
222Rn散逸率は各鉱石をU-8容器に入れた直後,およびU-8容器を密閉し,約30日間静置した後,それぞれ高純度ゲルマニウム検出器により
214Pbのγ線を測定し,この2回の計数比より算出した。
【結果と考察】X線回折分析により得られた鉱石が適切に分離されていることを確認できた。岩石に含まれる
226Raの比放射能は7 Bq/gであった。各鉱石の比放射能は,白雲母が約10 Bq/gであり,石英が約1 Bq/gであった。これより,
226Raは白雲母の方が石英に比べ約10倍高い濃度で含まれていることがわかった。各鉱石の
222Rn散逸率についても、同様に本大会で言及する予定である。
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