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Vares Guillaume, 王 冰, 村上 正弘, 田中 薫, 柿本 彩七, 笠井 清美, 根井 充
セッションID: BO-3-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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Exposure to low priming doses of ionizing radiation is known to decrease the biological effects of a subsequent higher challenging dose. This adaptive response (AR) to low dose radiation was described in a variety of models, using various endpoints. In this study, we investigated the ability of low doses of X-rays to induce an AR to the biological effects of high-LET heavy-ion radiation (carbon-ion, neon-ion, 20 to 150 keV.μm-1), in cultured human lymphoblastoid cells TK6 (p53 +/+) and AHH-1 (p53 +/-). We observed that cells adapted by X-rays showed a reduced mutation frequency at HPRT locus after exposure to high-LET radiation at HIMAC (NIRS, Chiba, Japan). AR in our model was dependent on p53 status but linked to neither cell cycle effects nor modulation of radiation-induced apoptosis. The analysis of H2AX phosphorylation kinetics in adapted and non adapted cells suggested that modulation of DNA double-strand break repair activity may be involved in this phenomenon. Knowing that high-LET radiation produces non-randomly distributed DNA damage in the form of clusters, or locally multiply damaged sites (LMDS), it seems that triggering AR by exposing cells to low doses of ionizing radiation could protect cells against the detrimental effects of such damage.
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久保田 善久, 中森 泰三, 渡辺 嘉人, 吉田 聡
セッションID: BP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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近年、環境生物のストレス応答性遺伝子を環境汚染の診断に用いることに期待が寄せられており、放射線の環境影響評価においても代表的な環境生物の放射線応答遺伝子を同定し、その遺伝子発現変動を影響評価の指標として利用することを目指した研究が実施されている。1991年に日本で発見された新種のヒメミミズであるヤマトヒメミミズ(Enchytraeus japonensis)の放射線影響を昨年の本学会で報告したが、今回、ヤマトヒメミミズの放射線応答遺伝子の探索を試みたので報告する。遺伝子情報の有無に関わらず網羅的な遺伝子発現解析が可能な技術であるHiCEP(high-coverage expression profiling)を利用し、発現している20000以上の遺伝子の中から、放射線の線量に依存して発現が増加するピークを選び出し、その中でも放射線応答性が顕著な(20Gyの照射によって5-10倍発現量が増加する)ピーク11個についてゲルから切り出してDNAシーケンスを行い、他の生物の遺伝子との相同性を解析したところ、一つの遺伝子がアフリカツメガエルやマウス、ヒトのPoly (ADP-ribose) Polymerase(PARP)遺伝子と高い相同性を示した。本解析で得られたDNA塩基配列を用いて5’及び3’RACEを行いORFを決定したところ、N末側において他生物のPARPと特に高い相同性を有していた。シロイヌナズナでは放射線によってPARPの遺伝子発現が増加することが報告されているが、マウスや人ではPARPが放射線応答遺伝子であると言う報告はなく、相同遺伝子でも生物間で放射線応答性が異なることが示唆される。今後、ヤマトヒメミミズにおけるPARPの遺伝子発現変動、タンパク質発現量の変化を詳細に検討する予定である。
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中森 泰三, 藤森 亮, 木下 圭司, 坂内 忠明, 久保田 善久, 吉田 聡
セッションID: BP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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環境の放射線防護の観点から、環境生物への放射線影響の理解が求められており、近年では分子メカニズムの解明にも関心が高まっている。環境生物は多種多様であり、様々な種で遺伝子発現レベルでの放射線応答について比較生物学的に研究することは、放射線応答の普遍性・多様性の理解や、感受性の種差に関与する分子要因の理解に貢献する。しかしながら、環境生物で放射線に応答する遺伝子はわずかしか知られていないため、様々な種で放射線応答遺伝子の情報を収集する必要がある。土壌は陸域生態系の基盤として生態学的に重要であると同時に、陸上動物のほとんどの分類群がみられる生物多様性の高い系である。トビムシとミミズは代表的な土壌動物の一群であり、環境影響評価にも用いられてきている。本研究では、トビムシ(Folsomia candida)とミミズ(Eisenia fetida)の放射線応答遺伝子をhigh-coverage expression profiling(HiCEP)により同定し、比較した。トビムシF. candidaでは、転写レベルでの放射線応答が哺乳類で知られていなかった遺伝子と類似の転写物が同定された。ミミズE. fetidaでは、哺乳類で発現誘導が報告されている遺伝子と類似の転写物が同定された。今後、一方の種で同定された遺伝子を他方の種でも同定し、放射線による発現誘導を詳細に検討する予定である。
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高橋 桃子, 藤森 亮, 古川 高子, 加藤 宝光, 岡安 隆一
セッションID: BP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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ヒトの神経膠腫(グリオーマ、glioma)は難治性かつ悪性度の高い腫瘍のひとつである。グリオーマは電離放射線を利用した放射線治療に対しても抵抗性を示している。近年、化学ならびに放射線療法などの治療に対して抵抗性を示す腫瘍において、幹細胞様の形態を示す癌幹細胞(tumor stem cell)の存在が実験的に証明されつつあり、同様の治療抵抗性を示すグリオーマにおいてもその存在が示唆される。本実験では重粒子線を使用したときのグリオーマに対する効果を、マウス移植腫瘍モデルを用いて検討するとともに、癌幹細胞のマーカーを用いてその変化を見た。重粒子線によるグリオーマのマウス移植腫瘍の有意な縮退が認められたが、その原因が重粒子線による癌幹細胞の制御に起因するかについて、現在検討を行っており、その経過を発表する。
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吉田 聡, 石井 伸昌, 石川 裕二, 川口 勇生, 久保田 善久, 武田 洋, 中森 泰三, 坂内 忠明, 藤森 亮, 府馬 正一, 丸山 ...
セッションID: BP-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告(2007)に環境の放射線防護に関する新しい章が追加され、この件に関する国内の議論も少しずつ始まっている。放射線医学総合研究所(放医研)では、人以外の生物および生態系に対する放射線の影響に関する研究をいち早く開始して基礎データを積み重ねつつある。本報告では最近の研究の進展についてまとめて紹介する。
まず、数種類の生物(藻類、メダカ、ミジンコ、ミミズ、トビムシ、菌類、針葉樹等)を選定して、線量評価および影響評価に関する研究を開始した。線量評価については、放射性核種や関連元素の生物への移行と体内分布を把握するための研究を行っている。影響評価については、X線やγ線の急性照射に対する線量-効果関係を、致死、細胞死、成長阻害、繁殖阻害等のエンドポイントを使って明らかにする研究を開始し、データが蓄積しつつある。より低線量率の連続照射についても、新しい照射施設を整備して実験を開始した。また、放射線の影響を網羅的遺伝子発現解析手法(HiCEP)等によって分子遺伝子レベルで明らかにするための研究も実施し、放射線応答遺伝子の検出とその同定作業が進んだ。
一方、生態系への影響については、既知の生物で構成されるモデル生態系の利用と、実生態系の群集構造の変化を直接検出することの両者で研究を進めている。モデル生態系は3種の微生物が共存する水圏モデル生態系から研究を開始し、現在は、より多くの微生物で構成されるモデル生態系を用いて、生物の個体数が有害因子の負荷によって変化する程度を定量化することに成功している。また、土壌細菌群集の種組成の変化を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)によって捉える研究を進めている。
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小橋川 新子, 鈴木 啓司, 山下 俊一
セッションID: BP-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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放射線照射が、細胞内の水分子にそのエネルギーを付与することによりOHラジカルなどの短寿命活性酸素種(ROS)を産生することがよく知られているが、これとは別に、放射線照射による細胞内酸化制御機構の撹乱が、遅延的に細胞内酸化レベルを亢進し、様々な遺伝的変化の原因になることが予想されるようになってきた。そこで本研究では、正常ヒト二倍体細胞において、放射線照射後の遅延的ROS産生の有無や、ミトコンドリアの機能不全の関与について検討した。
細胞は正常ヒト二倍体線維芽細胞(BJ-hTERT)を用いた。ガンマ線照射後の細胞内の酸化ストレスの測定にはaminophenyl fluorescein(APF)試薬を用いた。また同時に、MitoSox Redにより、ミトコンドリアに局在するO
2-レベルの測定を行った。さらに、ミトコンドリアの形態については、MitoTrackerを用いてミトコンドリアを可視化し、蛍光顕微鏡下で観察することにより検討した。
APFにより酸化ストレスを測定した結果、4 Gy照射直後では未照射細胞の細胞に比べROSレベルは7倍程度まで増加するが、その後すぐに未照射時のレベルにまで戻ることがわかった。しかし、照射2∼3日後から再び酸化ストレスは増加し、照射4日後にそのレベルは最大になった。このとき、2Gy照射細胞では未照射細胞の1.4倍、4Gy照射細胞では2倍、6Gy照射では3倍程度までそのレベルが増加した。また、MitoSox Redを用いた検討から、ミトコンドリアからのO
2-の産生量も照射1日後から次第に増加していった。さらに、放射線照射された細胞では、ミトコンドリアに遅延的な形態変化が生じていることも明らかになった。
以上の結果より、ガンマ線照射数日後に遅延性のミトコンドリア機能不全により細胞内酸化度が遅延性に増加しうる可能性が示された。
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泉 七加, 岡市 協生
セッションID: BP-6
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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癌細胞の中において、p53の変異が50%もの高頻度で見つかっている。私達は、15種の変異p53細胞と正常p53細胞を作成した。それぞれの細胞で放射線に対する感受性が異なっていることを既に報告している。そこで今回、各変異p53細胞で放射線感受性が異なるメカニズムを探るため、非照射、3Gy、6Gy放射線を照射した時の各細胞におけるp53関連遺伝子の発現パターンを、DNAマイクロアレイを用いて測定し解析を行った。
[材料,方法]
1).細胞:p53遺伝子を完全に欠失しているヒト骨肉腫Saos-2細胞を用いた。
2).各種p53導入細胞:Saos-2に正常p53遺伝子を導入したWild細胞と、各部位が変異しているp53遺伝子を導入した変異p53細胞をクローニングした。各々、LacSwithシステムを用いた。
3).DNAマイクロアレイ:Affymetrix社のGene Chip(Human Genome U133 Plus 2.0 Array)を使用した。遺伝子発現の解析にはGeneSpringを用いた。
[結果,考察]
変異p53は、正常p53細胞が持っている遺伝子誘導能の大部分が失われていた (Loss of function)。また、正常p53細胞にはない新たな遺伝子誘導機能を獲得していた(Gain of function)。放射線感受性と遺伝子発現誘導との相関を調べて、放射線感受性を決定している遺伝子がないかどうか検索を行った。特に、245S変異細胞のApoptosis Pathway(6Gy照射時)では、Gain of functionとしてTNF関連遺伝子の発現がみられた。この結果からG245S細胞が放射線に耐性であることを示すPathwayを描くことができた。その他の変異p53細胞においても、遺伝子誘導能と放射線感受性の相関性について解析を行った。
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Iin Kurnia, 鈴木 義行, Budiningsih Siregar, Andri Andrijono, Irwan Ramli, ...
セッションID: BP-7
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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Purpose: This study is to asses the meaning of the number of NORs in tumor cells nuclei compared with other proliferative markers before and during chemoradiotherapy.
Material and Method: Forty six biopsy specimens from twenty three patient with cervical squamous cell carcinoma treated with chemoradiotherapy taken before radiotherapy and at 10 Gy were analyzed. The number of NORs was measured using the silver stained method. The MIB-1 LI and p53 labeling indexes (LI) were measured by using immunohistochemical method.
Result: After 10 Gy irradiation, the number of NORs (AgNOR score) was decreased from 4.93 to 3.39 (p<0.0001). MIB-1-LI and MI were increase from 25.55 to 39.05 (p<0.0001) and from 0.0059 to 0.0122 (p<0.0001), respectively. Before radiation therapy, we found positive correlation between AgNOR score and MIB-1-LI (p=0.0002), and MI (p=0.0017). At 10 Gy, there was no significant correlation among number of NORs, MIB-1-LI, MI and p53-LI.
Conclusion: The number of NORs can be used as proliferative marker for assessing tumor cell proliferative activity before chemoradiotherapy, but not during therapy.
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郭 文智, 菅谷 茂, 佐藤 守, 朝長 毅, 野村 文夫, 鈴木 信夫
セッションID: BP-8
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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細胞のDNA合成レベルが放射線照射後低下することは、生物種を問わない不変の現象である。ところが、X線照射後にDNA合成レベルが上昇するという現象をゴーリン患者由来細胞で我々は見出している(Fujii et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 240, 269–272, 1997)。さらに、ゴーリン患者由来細胞において、X線照射後に発現レベルが低下する遺伝子として、ユビキチン様タンパクSUMO-3 を同定した(Mutat. Res. 578, 327-332, 2005)。今回、このSUMO-3遺伝子のsiRNA処理により、HeLa細胞においても、X線照射によるDNA合成の誘導に成功した。このことは、増殖能が極めて低いゴーリン患者由来細胞を使う必要がないことを示唆している。そこで、siRNA処理HeLa細胞において、2次元電気泳動法による網羅的解析をしたところ、SUMO-3遺伝子の発現を低下させることに連動して、細胞内含有量が低下するタンパクを見出した。それらのタンパクの中で、SUMO-3タンパクと結合しDNA合成上昇とも関連するものを調べており、その結果について報告する。
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木村 孝文, 森 ちひろ, 高浪 タカ子, 坂下 哲哉, 小林 泰彦, 東谷 篤志
セッションID: BP-9
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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静磁場や放射線の生物に対する影響は未知な部分も多く、生体への影響がすべて解明されたわけではない。そこで、生物における直流強磁場や電離放射線の影響について、より深い知見を得るためにモデル生物の一種である線虫(
C. elegans)を用い、それらが与える影響について、ゲノムDNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現の解析を試みた。また、直流強磁場による細胞毒性等について調べた。
3T、5Tの直流強磁場下で実験を行った結果、直流強磁場特異的に発現が一過的に上昇する遺伝子群を確認した。それらの遺伝子には、運動能、細胞骨格、アクチン結合、細胞接着、Ca
2+結合関連の遺伝子が含まれていた。これら遺伝子群は電離放射線では誘導されず、直流強磁場による遺伝子発現の変動は電離放射線による変動とは大きく異なることがわかった。更に、変動磁場や電離放射線では、DNAの二本鎖切断が生じることが報告されているが、直流強磁場によってもDNA鎖の切断が生じるか
him-17突然変異体を用いたバイオアッセイによる検証を行った。その結果、2T、3Tのいずれの場合においても直流強磁場の影響によってDNA鎖の二本鎖切断は確認できなかった。また、線虫の生殖腺の減数分裂核ではDNA損傷が生じた場合、アポトーシスが誘導されるが、このアポトーシスを誘発しやすいabl-1突然変異体を用いて、L4幼虫期から5Tで48時間育成させた成虫における生殖腺でのアポトーシス数を測定した。その結果、コントロール区と比較して直流強磁場によるアポトーシスの顕著な誘発は見出されなかった。
以上の結果をまとめると、線虫において直流強磁場と電離放射線では異なる生物応答を示し、また、直流強磁場は電離放射線と比べて遺伝毒性がかなり低いと考えられる。本実験によって発現上昇が確認できた遺伝子には、機能未知なものが多く含まれている。それらの中にはヒトにおいても高度に保存されている可能性を持っており、その機能や制御機構を調べることで、直流強磁場や電離放射線のヒトに対する影響をより詳しく知ることができると考えられる。
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根井 充, 中島 徹夫, 瀧 景子, 柿本 彩七, 王 冰
セッションID: BP-10
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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p21
WAF1は放射線等genotoxic stressに応答して転写誘導され、G1/S arrestに機能している。転写誘導の機構は、ストレスの種類によって多様であるが、電離放射線による誘導においては専らp53依存的であることが知られている。しかし、放射線照射後のp21
WAF1遺伝子の転写誘導において、p53以外の転写因子の関与については解析があまり進んでいない。我々はアデノ随伴ウイルスベクターを用いた放射線応答性の高いレポーターベクター系を構築し、ヒト乳がん由来細胞MCF7を用いて0.2-2.0 GyのX線応答に機能する領域を探索した。その結果-1958bp/-1679bp、-1398bp/-1119bpおよび-1118bp/-839pを欠失しているコンストラクトでは顕著にX線応答性が低下していることがわかった。塩基配列を調べたところ、-1958bp/-1679bpにはリピートしたOct-1認識配列(-1798bp/-1792bp、-1760bp/-1754bp)、また-1118bp/-839pには単独のOct-1認識配列(-1003bp/-990bp)が存在していることがわかった。-1398bp/-1119bpにはp53の不完全な認識配列(-1370bp/-1356bp)が存在することは以前から知られていた。次にこれらのサイトを特異的に欠失させたレポーターベクターを構築してMCF-7細胞に導入したところ、放射線応答性は顕著に低下していた。EMSAおよびChIP解析によりOct-1がこれらのサイトに結合することが観察された。また、siRNAを用いてOct-1をノックダウンすると、内在p21
WAF1遺伝子転写のbasalな成分と放射線誘導成分がともに抑制された。以上のことから、放射線によるp21
WAF1遺伝子の転写制御にp53の他、Oct-1が機能していることが明らかとなった。
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加藤 健吾, 高橋 賢次, 門前 暁, 丸山 敦史, 伊東 健, 柏倉 幾郎
セッションID: BP-11
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】生体は紫外線や化学物質などの酸化ストレスに常にさらされている.近年,酸化還元反応の中でも注目を集めているものの1つにNrf2転写因子がある.Nrf2は酸化ストレスに応答して,異物代謝第二相酵素群及び酸化ストレス応答タンパク質の発現を統一的に制御する.本研究では,Nrf2の標的遺伝子のストレス応答タンパク質の1つであるHO-1と,親電子性毒物であるキノンを無毒化するNQO1を指標として,ヒト末梢血造血前駆細胞における放射線応答とNrf2発現の個体差について検討した.
【方法】献血由来バフィーコートを,リンホセパールに重層・遠心後,有核細胞を回収した.この細胞を,遺伝子組換ヒトサイトカイン(G-CSF, GM-CSF, IL-3, SCF, EPO)を含むメチルセルロース培地に懸濁し,0.2 Gy, 0.5 Gy, 2 GyのX線照射後(線量率約0.7 Gy/min),37ºC,5% CO
2環境下で14日間培養した.培養後,倒立顕微鏡下で細胞50個以上からなるコロニーを,白血球系, 赤血球系及び混合系前駆細胞にそれぞれ分類して計数した.また,有核細胞から磁気ビーズ法によってCD14
+細胞(単球)を分離し,上記と同様の条件で放射線曝露後サイトカイン存在下2時間,4時間,6時間インキュベート後それぞれの細胞からRNAを抽出した. HO-1及びNQO1の測定は,リアルタイムPCRで行った.
【結果・考察】HO-1とNQO1の発現量は,ヒト末梢血有核細胞中の単球でいずれの放射線量及び時間においても有意な相関が得られた.このとき,HO-1の発現量は,0.5 Gy照射における造血前駆細胞の生存率との間に正の相関を示した.一方,HO-1の0.2 Gy, 2 Gy及びNQO1では相関は観察されなかった.このことから, Nrf2発現は,0.5 Gyという低線量における個体の造血前駆細胞の応答の差に依存する可能性が示唆された.
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早田 知永, 岡 泰由, 山内 基弘, 鈴木 啓司
セッションID: BP-12
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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G1チェックポイントは放射線照射後の細胞において誘導されるG1後期細胞周期停止であり、本研究室および他のグループの研究からその永続性が示唆されている。G1チェックポイントのシグナル伝達経路としてはATM-p21-p53経路が知られているが、本研究ではこのシグナル伝達経路の中にG1チェックポイントを維持するための「シグナル安定化機構」が存在するという仮説を立て、これを立証することを目的とした。
まず、「G1チェックポイントシグナル安定化機構」が存在するかどうかを明らかにするため、照射後、シグナルの最上流のATMを阻害した際にもG1アレストが維持されるかどうかを検討した。G0期に同調した正常ヒト線維芽細胞に4 Gyのγ線を照射後すぐに同調を解除し、p21蛋白質の発現誘導がピークになる照射4時間後からATM阻害剤KU55933(以下KU)を5 M処理し、24時間後に細胞を固定後、Replication Protein A(以下RPA)の蛍光免疫染色により、S期進行細胞の割合を検討した。その結果、RPA陽性細胞は非照射群で41 %、4 Gy照射群で16 %、4 Gy+KU群で27 %となり、14 %の細胞でATM阻害後もG1アレストが維持されていた。次に4 Gy照射4-24時間後にKU5 M処理したときのp53の発現量、p53 Ser15 リン酸化、p21の発現量をウエスタンブロットによりKU非照射群と比較した。その結果、KU処理群ではp53発現量およびp53リン酸化は非照射レベルまで減少していたのに対し、p21発現量は非照射群の2倍以上のレベルが維持されていた。
以上の結果から、放射線照射後発現誘導されたp21蛋白質を安定化させる機構が存在し、それがG1チェックポイントを維持している可能性が示唆された。
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八木 孝司, 下原 千昌
セッションID: BP-13
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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ヒストンH2AXのリン酸化の機構について、DNA二本鎖切断が生じた部位にMre11/Rad50/Nbs1複合体が結合すると共にATMが活性化し、H2AXをリン酸化するということが明らかになっている。免疫蛍光染色で観察されるリン酸化H2AX(γH2AX)のフォーカス形成は、放射線などによるDNA二本鎖切断の指標として用いられている。しかし近年、直接二本鎖切断を起こすと考えられない化学物質やUVでもγH2AXのフォーカスが形成されることが明らかになってきた。UVでは、損傷のヌクレオチド除去修復機構の過程、および損傷DNAの複製阻害過程でH2AXがリン酸化を受ける。この過程には二本鎖切断の関与はないように思える。
我々は、典型的な損傷を与えることが知られる種々のモデル変異原をヒト細胞に処理して、H2AXのリン酸化を検討した。DNA二本鎖切断を起こすX線やエトポシドなどは細胞周期のS期に限らずH2AXのリン酸化を起こしたが、ヌクレオチド除去修復機構によって修復される、ピリミジンダイマーやベンゾピレン・1,8-ジニトロピレンなどのバルキーアダクトによるH2AXのリン酸化はS期特異的であった。カンプトテシンはDNA一本鎖切断、メチルニトロソウレア・メチルメタンスルホン酸などは塩基のメチル化を起こすが、これらによるH2AXリン酸化もS期特異的であった。またこれらリン酸化はウォルトマニンで阻害された。DNAの複製阻害過程でH2AXがリン酸化されるのは損傷の種類によらない共通の現象であると考えられ、現在その詳細な機構を検討している
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田中 薫, 王 冰, ヴァレス ギョーム, 尚 奕, 藤田 和子, 笠井 清美, 根井 充
セッションID: BP-14
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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放射線の影響は、そのエネルギーに正比例しているという古典的な考えとは逆に、放射線誘発適応応答(あらかじめ低い線量で照射しておくと、その後の高い線量での照射に対して抵抗性が誘導されるという現象) の存在について述べた多くの研究が有る。 適応応答の効果の誘導に不可欠な条件の研究は、放射線のリスク推定に対して重要な科学的根拠を提供し、新たな生物学的防御機構への重要な洞察を提供する。したがって、適応応答に関する研究は、国民の健康と学術的な研究の両面できわめて重要である。一連の進行中の研究の中で、LETの高い重粒子線での照射による適応応答の誘導が可能かどうか、次に示す3つの事について調べた。1) 既知のX線誘導適応応答は、重粒子線によって引き起こされた成長遅延、死亡、奇形などの有害な影響を減少させることができるのか。2)ある一定の低線量での重粒子線の照射は、高線量のX線によって引き起こされた有害な影響に対して、適応応答を誘導できるのか。3) ある一定の低線量での重粒子線の照射は、高線量の重粒子線によって引き起こされた有害な影響に対して、適応応答を誘導できるのか。
使用したマウスはC57BL/6Jで、
in vivoでの実験ではyoung adultマウスを、
in utero (子宮内)での照射実験では胎児マウスを使った。重粒子線は、炭素イオン線(290MeV/u, mono-beam, LET約15 keV/μm)、シリコンイオン線(490MeV/u, mono-beam, LET約55 keV/μm)、鉄イオン線(500MeV/u, mono-beam, LET約200 keV/μm)の3種類を使用した。
この報告の中で我々は、既知のX線誘導適応応答が重粒子線によって引き起こされた有害な影響を減少させることができるかどうかという、最初の問題に対する答えを提示する。
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大塚 健介, 小穴 孝夫, 冨田 雅典, 緒方 裕光, 田内 広
セッションID: BP-15
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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マウスに顕著な造血傷害をもたらす高線量放射線を照射すると、貧血や免疫不全などの複合要因によって30日以内にほぼすべてが死亡するが、あらかじめ低線量(0.5Gy)を照射したマウスは、30日後の生存率が顕著に高まる場合があることが見出されており、個体の適応応答として知られている。しかしながら、その個体死抑制の機構については免疫機構の活性化が示唆されているものの、造血能の役割については未だ明らかにされていない。我々は高線量のみを照射したマウス(C57BL/6)では顕著に骨髄造血能が低下するが、高線量を照射する2週間前に低線量放射線を事前照射したマウスでは末梢血赤血球および血小板数の回復が早く誘導されることを見出した。また、これらの前駆細胞である骨髄球系前駆細胞(Mac-1
+/Gr-1
+分画)、さらにこれよりも未分化な細胞集団(c-kit
+, Sca-1
-, Lin
-分画)も、低線量事前照射マウスでより早く増殖誘導が生じることを見出した。これらの増殖を誘導するサイトカイン群をサイトカイン抗体アレイ法およびサスペンションアレイ法を用いて評価したところ、低線量事前照射マウスでは骨髄球系への分化誘導サイトカインおよびインターフェロンの発現増強がより早く誘導されていた。以上の結果より、高線量のみを照射したマウスと比較して低線量放射線を事前照射したマウスでは、骨髄球系サイトカインの発現が造血能の回復を、インターフェロンの発現が免疫能の活性化をより早く誘導するために、30日後の個体の生存率改善をもたらすものと考えられる。
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柿本 彩七, 田中 薫, 中島 徹夫, 王 冰, VARES GUILLAUME, 小島 周二, 根井 充
セッションID: BP-16
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】放射線適応応答は、予め低線量放射線を照射することで、その後の中・高線量放射線に対する抵抗性を獲得する生体の防御的反応であり、低線量放射線のリスク評価する上で重要な生命現象である。私達は、これまでにHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答において、Poly(ADP-ribose)polymerase1依存性が観察されないこと等から染色体異常を指標とした現象とはメカニズムが異なる可能性を示してきた。また、遺伝子発現プロファイル解析により、Ras関連情報伝達因子が放射線適応応答に相関して変動していることを示した。これらの結果に基づき、今回、放射線適応応答に機能する遺伝子の同定を試みた。 【方法】ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1に0.02 GyのX線を照射し、3h, 6h, 9h, 24h後にトータルRNAを採取した。また、非照射の細胞からも同様にトータルRNAを採取し、遺伝子発現プロファイルの解析によって0.02 Gyの放射線に応答することが示された遺伝子のうち放射線適応応答に関連することが予想された遺伝子に関して、Northern blotとreal-time PCRにより遺伝子発現変動を検証した。そして、これらの遺伝子を特異的にノックダウンするために、shRNA発現プラスミドを安定導入した細胞を作製し、HPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答の有無を解析した。 【結果】遺伝子発現プロファイル解析により、0.02 Gy照射後有意に変動する遺伝子として、DIDO1、MAPK8IP1、SOCS3を同定した。また、Northern blotとreal-time PCRによって、放射線適応応答条件下である0.02 Gy照射6時間後に遺伝子の発現が変動していることを確認した。これらの遺伝子に特異的なshRNA発現プラスミドを安定導入した細胞において、最大68% (DIDO1)、64% (MAPK8IP1)、71% (SOCS3) のノックダウン効率を観察した。これら遺伝子と放射線適応応答との関連性について本大会において議論する。
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川村 研二
セッションID: BP-17
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【はじめに】中心体複製周期は厳密にコントロールされており,その調節機構の破綻が中心体過剰複製の原因となる。
【対象と方法】膀胱癌細胞株,線維芽細胞CCD32を高温度に暴露して検討した。
【結果】KK47は,中心体過剰複製を認めない細胞株であった。温熱治療45度20分間の温熱治療でG2停止となった細胞に中心体過剰複製が生じ,細胞分裂の障害,多倍体化,細胞分裂死が生じた。癌細胞はDNA損傷が生じた時に,G2停止時に中心体の再複製の抑制ができない状態となり,中心体過剰複製を利用して分裂死が生じる経路を持つことが明らかとなった。
【結果】KK47, HT1197, HT1376,は温熱療法24時間目以降にG2停止となった細胞に中心体過剰複製が生じ,細胞分裂死が生じた。CCD32においてsiRNA法を用いて検討した結果,p53はG1停止とG2期の中心体再複製の抑制に関与しているが,p21はG2期の中心体再複製の抑制に関与していないことが示唆され
【結語】中心体過剰複製は癌の温熱療法による細胞死に重要な役割を果たすと考えた。
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日高 征幸, 尾田 正二, 漆原 佑介, 桑原 義和, 福本 学, 三谷 啓志
セッションID: BP-18
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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放射線高感受性メダカric1の胚から樹立した培養細胞株RIC1-e9は、γ線照射によって誘発される細胞死と細胞周期チェックポイントに異常を示す(第49回影響学会発表)。また、コメットアッセイによって、CAB-e3はγ線照射後30分でDSBsを修復したのに対し、RIC1-e9はDSBsを修復するのに2時間を要する(第13回ICRR発表)。本研究では、細胞死と細胞周期チェックポイントの異常がRIC1細胞の特徴であることを確かめるために、新たなRIC1細胞株を樹立した。γ線10 Gy照射後24時間以内において野生型のCAB-e3は30%が細胞死を示したのに対し、新しい細胞株RIC1-e42、RIC1-e44は、数%の細胞しか細胞死を起こさなかった。また、γ線照射後においてCAB-e3は照射後24時間程度まで細胞分裂を再開させなかったのに対し、両RIC1細胞(RIC1-e42、RIC1-e44)ではRIC1-e9と同様に、γ線照射後10数時間以内に細胞分裂が観察された。RIC1細胞株に共通して細胞死、細胞周期チェックポイントの異常が生じた結果は、
ric1遺伝子の欠損に起因することを強く示唆する。更に、免疫組織化学的手法によってヒストンH2AXのリン酸化を解析したところ、RIC1-e9はリン酸化したH2AXのフォーカスの蛍光強度がCAB-e3と比較して弱いことが明らかとなった。リン酸化したH2AXのフォーカスの輝度とDNA二本鎖切断の修復速度に関係があるのかを明らかにするために、RIC1-e42、RIC1e-44に加え、RIC1と野性型の新しい細胞株を用いてコメットアッセイとリン酸化H2AXのフォーカスアッセイを行うことを計画している。
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今村 智子, 柿沼 志津子, 上西 睦美, 波多野 由希子, 古渡 礼恵, 岡本 美恵子, 千代 豪昭, 室伏 きみ子, 島田 義也
セッションID: BP-19
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】近年、発達期における放射線の影響について注目されているが、詳細な報告は少ない。そこで我々は、発達期および成体期における放射線被ばく時年齢依存性について、生体組織の中でも特に放射線感受性の高い腸管のアポトーシスを指標に比較し、発達期における放射線の急性影響について検討した。
【材料と方法】発達期および成体期の腸管を比較検討するため、初めに胎児期18日齢~生後7週齢の腸管をHE染色で形態学的に観察し、各発達段階における特徴を把握した。次に、授乳期(2週齢)および成体期(7週齢)でX線2Gyを全身照射し、照射後3時間、6時間、12時間、24時間における小腸ならびに大腸のアポトーシスをactive caspase3抗体染色により判定した。各群ともに雌雄3匹ずつ用い、apoptic index(half crypt当たりのアポトーシス細胞数)を測定した。
【結果】形態学的観察の結果、胎児期や生後直後には認められなかったcrypt構造が、授乳期である2週齢では小さいサイズながらも認められ、成体期である7週齢では成熟した構造として観察された。次に2週齢と7週齢における放射線誘発アポトーシスを比較した予備的な実験では、アポトーシス細胞数がピークに達するまでの時間に差がみられた。現在我々は個体数を増やして解析を進めており、さらに詳細な結果を報告する。
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冨田 雅典, 前田 宗利, 小林 克己
セッションID: BP-20
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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低線量・低線量率放射線による生物影響は、高線量・高線量率放射線の場合とは異なることが明らかになりつつある。中でも、バイスタンダー応答は、放射線が直接ヒットした細胞の周辺に存在する放射線がまったくヒットしなかった細胞にも、放射線がヒットした細胞と同様の生物影響が誘導される現象であり、世界的に注目されている。しかしながら、従来のバイスタンダー応答に関する研究の多くは、主に高LETの粒子線を用いたものであり、放射線のリスクを考える上で重要となるX線・γ線などの光子放射線については十分明らかになっていない。
(財)電力中央研究所では、バイスタンダー応答を含めた低線量・低線量率放射線に対する応答機構解明のため、マイクロビームX線照射システムを、平成19年3月に導入した。本装置の特徴は、(1)デスクトップ型(2)フレネルゾーンプレート(FZP)を用いた集光系(3)共焦点レーザー顕微鏡を装備した点である。本システムは加速器を用いないため、通常の実験室に設置可能であり、電子線をアルミニウムターゲットに照射して発生させた特性X線(1.49 keV)をFZPにより回折させ、X線マイクロビームを形成する。物理測定の結果、直径2-3μmのマイクロビームが安定して得られている。
ヒト胎児肺由来線維芽細胞WI-38の細胞核に、X線マイクロビームを照射した結果、バイスタンダー応答による細胞生存率の低下が、線量に依存して検出されることが明らかとなった。また、X線マイクロビームの特徴を生かし、細胞核内の一部に高線量のX線をピンポイント照射することにより、クラスターDNA損傷が生成し、DNA修復タンパク質の局在化が解消されず、照射部位から細胞核内を移動する様子を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。本照射システムを用いた細胞照射研究の現状について紹介する。
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成毛 有紀, 中島 正洋, 鈴木 啓司, 近藤 久義, 松山 睦美, 七條 和子, 関根 一郎
セッションID: CO-1-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】被爆後63年が経過し原爆被爆者は既にがん好発年齢に到達している。我々は近距離被爆者の多重がん罹患の増加を報告した。放射線後障害としての固形がんリスクは疫学的に現在でも存続しているが、その分子機構は解明されていない。非メラノーマ性皮膚がんのひとつ基底細胞癌(BCC)は紫外線をリスク因子とする固形がんで、被爆者では原爆放射線との関連が知られている。多くの腫瘍ではゲノム不安定性(GIN)を背景とする染色体・遺伝子レベルの変異の蓄積が発生・進展に重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究の目的は、被爆者発がんリスク亢進の背景因子としてのGINの関与をBCC周囲非腫瘍部皮膚組織において検討することにある。【方法】病理診断された直接被爆者BCCは146例であった。粗罹患率は9.4 / 10万人年で、近距離被曝はBCC罹患の有意な危険因子(ハザード比:0.77、95%信頼区間:0.68-0.88)であった。紫外線の影響のない被覆部に発生したものは23例であり、このうち近距離被爆者群(1.5km以内)7例、遠距離群(3.0km以遠)5例を対象とした。対照として非被爆者の被覆部に発生したBCC8例を用いた。GINの程度は53BP1の蛍光免疫染色で評価した。53BP1 はDNA損傷応答(DNA damage response: DDR)分子で、通常は核内に均等に分布し(安定型)、損傷時局所に集積し核内フォーカスとして観察される(DDR型)。【結果】遠距離群と対照群では表皮細胞の平均80%が安定型を示し、DDR型は20%で基底側に限局していた。一方、近距離群では安定型は40%で、35%はDDR型であった。さらに2例では90%が高発現型を示した。【考察】近距離被爆者群では発がんリスク増加の背景因子として、DDRの亢進、即ちGINが存在し、原爆放射線被曝による晩発障害の可能性がある。
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豊島 めぐみ, 習 陽, 本田 浩章, 濱崎 幹也, 楠 洋一郎, 渡邊 敦光, 増田 雄司, 神谷 研二
セッションID: CO-1-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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放射線生物影響の中で、発がんは極めて重要な位置を占める。放射線で誘発される固形がんで検出される遺伝子変異は主に点突然変異であるが、点突然変異がいつ、どのようなメカニズムで誘導され、がん化に関与しているかは未だ解明されていない。近年の研究から、点突然変異の誘発には「損傷乗り越えDNA合成」が深く関与している事が明らかとなってきた。実際、損傷乗り越えDNA合成」が正しく機能しないと、誘発突然変異頻度が上昇し、発がんが促進される事が報告されている。
Rev1はDNAポリメラーゼYファミリーに属する損傷乗り越えDNA合成酵素であり、生化学的な解析から、損傷乗り越え修復において中心的な役割をしていると考えられている。しかしながら、個体を用いた放射線照射におけるRev1の機能解析を行った報告はほとんどされていないのが現状である。そこで、今回我々はRev1トランスジェニックマウスを作成し、放射線による損傷応答、発がんへのRev1の役割について検討した。作成したRev1トランスジェニックマウスは、realtime RT-PCRにてRev1の発現を定量し、Rev1の誘導を確認した。損傷応答に関しては、C57BL/6の野生型、Rev1トランスジェニックマウスにガンマ線照射を行い、T細胞受容体を指標とした突然変異頻度、微小核頻度を測定し、野生型とRev1トランスジェニックマウスとの比較を行った。これらの結果について本大会にて発表する予定である。
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岡崎 龍史, 大津山 彰, 法村 俊之
セッションID: CO-1-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】前回、前々回の学会で、若年時の放射線被曝が遅延型突然変異誘発し、そこにはp53遺伝子異常が関与すると報告してきた。即ち、p53(+/+)マウスでは60週齢以降、p53(+/-)マウスでは40週齢以降、T Cell Receptor変異頻度の上昇は未照射マウスでもみられたが、その傾向は8週照射群で顕著であった。遅延型突然変異の時期には8週照射群で、アポトーシス活性の低下、p53遺伝子の存在する11番染色体の転座率の増加、脾臓細胞中のCD3-CD4+細胞におけるp53遺伝子配列の異常を報告してきた。そこで今回、p53遺伝子及びp53遺伝子関連遺伝子におけるタンパクレベル並びにp53のLoss of Heterozygosity (LOH)について調べた。【方法】p53(+/+)マウス及びp53(+/-)マウスに対し8週齢で、3Gy
137Csγ線を照射する。10週齢、24週齢、56週齢 (p53(+/-)のみ)、72週齢 (p53(+/+)のみ)にてマウスを屠殺し、脾臓からタンパク及びDNAを抽出する。p53、p53ser15/18、p21、ATM、ATR及びMDM2タンパクについてウエスタンブロット法で調べた。DNAはPCR法でp53のLOHについて調べた。【結果】p53及びp21は加齢とともに増加していたが、照射群では非照射群よりも発現量は少なかった。p53ser15/18、ATM及びATRは加齢とともに減少しており、照射群では非照射群よりも発現量は少なかった。MDM2の発現量に変化は無かった。照射群の非照射群も加齢群ではLOHを起こしている個体があった。【考察】遅延型突然変異の原因は、ATM及びATRの活性が低下したためp53の活性が低下することと、p53のLOHが起こることも関与していると示唆された。
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伴 信彦, 柿沼 志津子, 大町 康, 甲斐 倫明
セッションID: CO-2-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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C3H/HeマウスにX線を3Gy照射すると、20~25%の誘発率で骨髄性白血病を発症する。白血病化には
Sfpi1遺伝子の変異が関与しているが、当該変異は極めて特異的な点突然変異であり、放射線のDNA損傷作用によって生じるとは考えにくい。そこで、この変異が照射とは無関係に一部の個体に存在するのか、1年以上におよぶ潜伏期間の中で照射依存的に生じるのかが問題となる。それを実験的に明らかにするためのアプローチとして、昨年度の本学会では、正常細胞に混在するごく少数の変異細胞をwild-type blocking PCR法によって増幅・検出することを試み、変異細胞の存在比が10
-4以上であれば検出可能であることを示した。今回は、放射線を照射後長期間飼育したマウスの試料にこの手法を適用して、潜在する変異細胞が検出されるかどうかを調べた。
8週齢のC3H/HeN雄マウスに
137Cs γ線を3Gy照射し56週間飼育したもの、および同一週齢の非照射マウスを用いた。いずれも病理解剖によって白血病を発症していないことを確認した上で、大腿骨骨髄と脾臓からDNAを抽出し、0.3μg分を鋳型としてPCRを行った。
Sfpi1エクソン5の205bpの領域を増幅するプライマーを設計し、野生型の増幅を抑えるために、白血病における変異のホットスポットをカバーする11merのLNA(locked nucleic acid)を反応溶液に加えた。耐熱性DNAポリメラーゼには、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性を欠くStoffel fragmentを使用した。LNAによるマスキングは不完全であるため、40サイクルのPCRの後にFsp Iで処理して野生型の増幅産物を切断し、アガロース電気泳動を行った。これまでに照射群12匹、非照射群6匹のDNA試料を分析したところ、照射群の1匹について、脾臓から変異が検出された。
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廣内 篤久, 田中 聡, 野津 美由紀, 外舘 暁子, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
セッションID: CO-2-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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我々は以前、21 mGy/dayの低線量率(LDR)ガンマ線を約400日間長期連続照射したマウスで、非照射群に比べ、白血病が高頻度に誘発されることを報告した。しかし、LDR放射線による白血病発生機構については未解明な部分が多いため、今回、線量率の異なる放射線で誘発された白血病の発生・分化段階の違いを調べた。3種類の線量率のガンマ線を放射線誘発急性骨髄性白血病好発系のC3Hマウスに照射後、発生した29匹の白血病マウス[(HDR)照射群(1.0 Gy/min; 集積線量3 Gy)10例、中線量率(MDR)照射群(400 mGy/day;集積線量4 Gy)6例、LDR照射群(20 mGy/day; 集積線量8 Gy)3例、非照射群10例]の脾臓と大腿骨骨髄細胞について、血球細胞分化マーカーのFACS解析を行った。その結果、4つの全ての白血病群に共通してLineage陰性(Lin
-)、Sca1陽性(Sca1
+)、c-Kit陽性(c-kit
+)、 CD34陰性(CD34
-)の造血幹細胞様の細胞集団(LSK
-)の増加が高頻度に観察されたが、非照射群、LDRおよびMDR群ではLin
-, Sca1
+, c-Kit
- CD34
+のリンパ球系前駆細胞様集団の増加が、それぞれ10例中8例(80%)、3例中2例(66%)、6例中4例(66%)と多く、逆にHDR群では、Lin
-, Sca1
-, c-Kit
+, CD34
+の骨髄球系前駆細胞様細胞集団の増加が、10例中8例(80%)と多数を占めた。さらに、これらの異なる細胞分化マーカー発現プロファイルを持つ細胞集団を白血病マウスの骨髄から採取し、それぞれ一匹のマウスあたりに100細胞ずつ同系マウスに移植すると、MDR群ではCD45R/B220陽性の細胞、もしくはGr-1陽性細胞が、HDR群ではLSK-細胞と骨髄球系前駆細胞様細胞が白血病発症能を持つことが分かった。以上の結果から、ガンマ線の線量率の違いによって白血病幹細胞へと変わる細胞の分化段階と分化の様式に違いがある可能性が示唆された。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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田ノ岡 宏, 巽 紘一, 辻 秀雄, 野田 攸子, 勝部 孝則, 石井 洋子, 大津山 彰, 竹下 文隆, 落谷 孝広
セッションID: CO-2-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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[前回までの結果] p53は生体をがんから防護していること、その突然変異はがんの増加の原因となることをふまえて、ベータ線反復照射によって誘発したマウス皮膚扁平上皮がんより得たexon 6に9 bp欠失を有するp53変異を発現ベクターにクローニングし(pTE50)、これを導入したトランスジェニックマウス(C57BL/6J)にメチルコラントレンを皮下注入すると腫瘍(線維肉腫)の誘発率が野生型マウスに比べ1.7 倍増加することを報告した。さらに、この自家発生腫瘍、移植腫瘍に対して、変異p53のプロモータ領域に設定したsiRNA#220 をアテロコラーゲン法を用いて注入すると、腫瘍増加分に相当する頻度で腫瘍の消失、または増殖抑制がみられた。すなわち原因と結果を両側から抑えた。
[今回の結果] siRNA#220感受性であることを確認したマウス腫瘍をさらに移植しライン化した(TT18)。TT18を移植し直径5 mmに増殖した時点で、等量のアテロコラーゲンと混合したsiRNA#220 0.0145 mg (液量0.2 ml)を2日間隔で2回投与すると、腫瘍は10日以内に消失した。このとき腫瘍組織細胞全体にアポトーシスが誘導されていることがTUNEL法で検出された。さらに線維肉腫の特徴である細胞の線維構造が消失し、細胞密度が減少することが観察された。さらにTT18 を同一マウスのそけい部左右両側にそれぞれ移植し、2日おいて腫瘍が触知される前に、片方にアテロコラーゲンと混合したsiRNA#220、他方にNegative Control siRNA を注入すると、NC側には腫瘍が増殖し17日後には直径1.1 cmに達したのに対し、siRNA#220側には20日後にも腫瘍の発生がみられなかった。すなわち、アテロコラーゲン法によるsiRNA 効果は個体の局所において有効性を発揮した。以上から、p53突然変異が原因とみられる腫瘍は、原因となる変異p53を抑制することによって、治療できることがマウスにおいて示された。
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縄田 寿克, 吉居 華子, 大津山 彰, 法村 俊之, 渡邉 正己
セッションID: CP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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染色体異数化あるいは数的アンバランスは、がん細胞で最も典型的な遺伝的異常形質である。この現象は、最初に発見された100年以上前から細胞がん化の原因であると考えられてきた。その後、遺伝子が発見されたことによって、染色体異数化の発がん起源説は、発がんは突然変異によって生ずるとする発がんの遺伝子突然変異説に取って代わられた。しかし、我々は、固形がんのほとんどが染色体異数性を示すこと、多くの発がん剤は必ずしも変異作用を持たないこと、そして、がんから抽出した変異遺伝子をヒトや実験動物の正常細胞に移入してもそれらの細胞をがん化できないという事実に注目して、再度“発がんの染色体異数化仮説”の真偽を再調査することとした。
そのため、本研究では、 p53遺伝子が正常およびノックアウトされたC57Blマウス(p53 (+/+)および p53 (-/-))の13日齢胎児カーカスから細胞を採取し用いた。細胞は、T75フラスコあたり106を植え込み5日毎に継代培養した。その結果、いずれの細胞も継代培養を続けるだけで自然に無限増殖能を獲得することが判った。無限増殖能を獲得した細胞のうちp53ノックアウト細胞は、すべて造腫瘍性を獲得したがp53正常細胞は、造腫瘍性を獲得しなかった。無限増殖能を獲得した細胞は、すべてで染色体の数的異常が観察されたが、造腫瘍性を示した細胞の染色体は三倍体化、造腫瘍性を持たない細胞では四倍体化が主流であった。染色体構造異常は、p53ノックアウト細胞で2倍ほど高いものの数的異常の 1%以下の頻度であるとともにモノクローナル起源ではなかった。これらのことは、細胞のがん化には染色体三倍体化は、細胞がん化の結果ではなく原因であることを示唆している。
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藤川 勝義, 田中 聡, タナカ イグナシャIIIブラガ, 一戸 一晃, 中村 正子, 小木曽 洋一, 田中 公夫
セッションID: CP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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我々はこれまでに、低線量率・高線量放射線(21 mGy/day, 8000 mGy)を長期連続照射したB6C3F1マウスでは、早期の腫瘍死による寿命短縮がみられることを報告している。腫瘍の多くは悪性リンパ腫であるが、非照射群と比べてその発生率に差はみられない。本研究では低線量率・高線量放射線照射マウスに生じた悪性リンパ腫(RL)の遺伝子発現の特徴を遺伝子発現マイクロアレイ法により網羅的に解析し、非照射マウスの悪性リンパ腫(CL)と比較した。悪性リンパ腫試料40例(RLおよびCL各20例)から抽出したmRNAをCy3で標識し、Agilent社の44kマイクロアレイへhybridizeして解析した。得られた遺伝子発現プロファイルを比較し、CLに比べRLで発現が高い遺伝子を418個、低い遺伝子を406個それぞれ抽出した。抽出した遺伝子をGene Ontologyに基づいて分類した結果、RLで発現が高かった遺伝子は「immune response」、「positive regulation of cell proliferation」等に、低かった遺伝子は「cell cycle」、「apoptosis」等にそれぞれ分類された。以上の結果から、RLとCLでは異なる遺伝子が悪性リンパ腫の発生に関与している可能性が示唆された。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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臺野 和広, ROCH-LEFEVRE Sandrine, UGOLIN Nicola, ALTMEYER-MOREL Sandrine, ...
セッションID: CP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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骨肉腫は、小児期に多く発症する悪性の腫瘍であるとともに、放射線による内部被ばくや、放射線癌治療後の二次癌としても発症することが知られている。組織学的解析から、骨肉腫の大部分は骨芽細胞の異常に由来すると考えられているが、放射線で誘発された骨肉腫の分子生物学的特徴はあまり明らかにされていない。そこで本研究は、放射線で誘発されたラット骨肉腫における遺伝子の発現異常を網羅的にとらえることを目的とした。骨親和性放射性核種の1つであるプルトニウムを注射投与したラットに誘発された骨肉腫について、マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析を行い、発現プロファイルを骨肉腫と正常骨芽細胞間で比較した。さらに、骨肉腫において見られた遺伝子の異常を、定量RT-PCR、イムノブロット、免疫組織化学染色法を用いて解析した。遺伝子の発現プロファイルを骨肉腫と正常骨芽細胞間で比較した結果、骨肉腫において異常な発現をしている遺伝子を多数見出した。これらの遺伝子の中には、細胞接着、細胞分化、Srcチロシンキナーゼ、Wnt/β-cateninシグナル伝達経路や腫瘍に関連する遺伝子等、骨形成や癌化に重要な役割を果たしている遺伝子が含まれていた。また、骨肉腫におけるβ-cateninの細胞核および細胞質への移行、不活性化型(リン酸化)β-cateninの減少、さらには、同タンパク質の主要な抑制因子であるGSK-3βの著しい減少を観察したことから、放射線誘発骨肉腫においてWnt/β-cateninシグナル伝達経路が活性化していることが示唆された。
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飯塚 大輔, 今岡 達彦, 高畠 貴志, 西村 まゆみ, 柿沼 志津子, 波多野 由希子, 島田 義也
セッションID: CP-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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【目的】女性における乳がんは世界的に高い発症率を示している。原爆被爆者の疫学調査において,女性における乳がん発症リスクが最も高い事が知られている。しかしながら放射線による乳がん発症メカニズムについては未だに明らかになっていない。本研究ではがん抑制遺伝子として知られる
p15INK4b,
p16INK4aならびに
p19ARFに着目し,放射線誘発ラット乳がんにおけるそれら遺伝子の解析をおこなった。
【材料と方法】思春期前後に該当する3ならびに7週齢Sprague-Dawley雌ラットに放射線(γ線;2 Gy)を照射した後,発症した乳がんから腫瘍の病理組織学的分類および発生時期を指標に14腫瘍を選定し,一連の分子生物学的解析を行った。
【結果】アレイCGH解析により
p15INK4b,
p16INK4aならびに
p19ARFをコードする
Cdkn2a,
Cdkn2b領域の欠損が3週齢由来の腫瘍において2例観察された。うち1腫瘍では同領域がホモ欠損しており,遺伝子発現が正常組織に比べ減少していた。一方でそれ以外の多くの腫瘍では遺伝子発現が上昇していた。遺伝子変異解析では
p16INK4aに151番目ロイシンがフェニルアラニンに置換する一塩基多型が8腫瘍中4腫瘍において観察された。たんぱく質発現も遺伝子発現と同様に正常組織に比べ増加しているが,必ずしも各遺伝子発現とたんぱく質発現の発現量には相関は見られなかった。一方で自然発症の乳がん4腫瘍では放射線誘発乳がんと異なり
Cdkn2a,
Cdkn2b領域の欠損は観察されなかった。以上の結果から
Cdkn2a,
Cdkn2b領域の欠損は放射線誘発乳がん特徴的に引き起こされている事が示唆された。
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石井 洋子, 武藤 正弘, 佐渡 敏彦, 辻 秀雄
セッションID: CP-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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[背景]B10系マウスの胸腺を除去して4回分割照射を行い、非照射の新生児マウスの胸腺を皮下または腎臓皮膜下に移植すると、40-60%のマウスに移植胸腺由来のT細胞リンパ腫が発生した。このリンパ腫は非照射胸腺由来なので、放射線の間接効果による発がんモデル系として用いることができる事を昨年報告した。本年は胸腺除去したscidマウスにおける放射線の間接効果による発がんの線量効果関係について報告する。[方法]一群約30-50匹のB6-scidマウスの胸腺を除去し、8週令でγ線0-1Gyを一回照射した。照射直後にB6-GFPマウスの新生児胸腺を皮下または腎臓皮膜下に移植し、1年間飼育観察し、発生したT細胞リンパ腫の由来を調べた。[結果及び考察]胸腺を除去しないscidマウスにおいて0Gy対照群では6.7%、1Gy照射群では100%(平均潜伏期間172日)のマウスが胸腺リンパ腫を発症した。胸腺除去群0-1Gyにおいて非照射移植胸腺由来のT細胞リンパ腫は線量依存的な増加傾向を示し、0Gy(4-7%)に比べ1Gy照射(19-30%)では有意なT細胞リンパ腫が発生した。(低線量域での発がん率については実験継続中)。これらの結果より、DNA二本鎖切断修復不全であるscidマウスのリンパ腫発生において、放射線の線量依存的間接効果が存在することが解った。腎臓皮膜下移植では皮下移植より間接効果による発がん率が低く、この結果は骨髄からのPro-T細胞の供給の違いによることを示唆する。また、骨髄細胞移植による移植胸腺へのPro-T細胞流入の発がん抑制効果を検討した。その結果、骨髄移植により移植胸腺由来のT細胞リンパ腫の発生は抑制された。
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辻 さつき, 神田 玲子, 大町 康, 石田 有香, 伴 信彦, 島田 義也
セッションID: CP-6
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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マウスの骨髄性白血病(ML)は、ヒトの放射線誘発骨髄性白血病の機構を研究する上で有用な動物モデルである。Gバンディング法などを用いた細胞遺伝学的研究から、MLマウスでは高頻度に2番染色体の部分欠失が見られることが報告されている。そこで我々は2番染色体上のがん抑制遺伝子候補であるPU.1をプローブとし、MLマウスのFISH解析を行った。C3H雄マウスにγ線あるいは中性子線を3Gy照射し、生涯飼育した。臨床所見と血液スメア分析からMLと診断されたマウスについて、放医研の常法に従い脾臓細胞の染色体標本を作成し、PU.1-FISH解析を行なった。その結果、85%のマウスにPU.1が片方欠損した細胞が見られた。PU.1の片方欠損した細胞の頻度は50-100%と個体間でばらつきがあったが、極めて低頻度の個体(数%以下)については、後の病理学的診断からMLではない(好酸球性白血病等)ことが明らかになった。中性子線照射後発症したマウスの中には、PU.1の片方が欠損、もう片方が転座の異常も見つかった。しかし欠損-転座型異常を有するMLマウスと単純片方欠損型異常を有するMLマウスとの間に病理診断的差異は見られなかった。次いで脾臓の分裂中期細胞と間期細胞それぞれのPU.1片方欠損細胞の頻度を調べた結果、高い相関がみられた(r=0.96)。また血液スメア標本を用いて同様の解析を行なった結果、細胞に厚みがあるためシグナル検出がやや困難であったが、脾臓の間期細胞と血液スメアのPU.1欠損細胞の頻度にも高い相関が見られた(r=0.83)。FISH解析で得られたPU.1遺伝子の片側欠損細胞の頻度は、時間・労力・技術を要する病理診断の結果と高い相関があり、血液スメア標本を利用すれば、低侵襲性(マウスを生かしたままサンプリング可能)で迅速な(培養の必要がない)ML診断が可能であることが明らかになった。
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吉居 華子, 田野 恵三, 渡邉 正己
セッションID: CP-7
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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細胞内に生じる過剰な酸化ストレスの負荷は、細胞の構造や機能を担う脂質、蛋白質、DNAなどを酸化し老化やがん化の原因となると言われている。一方、ヒト培養細胞とげっ歯類培養細胞の不死化とがん化感受性には明らかな差があることが良く知られている。これらのことは、ヒト細胞とげっ歯類細胞の酸化ストレス制御能の違いが不死化およびがん化感受性に密接に関わると予想できる。そこで、本研究では、この予想の真偽を検証するために、ヒト、マウスおよびシリアンハムスターの胎児から初代培養細胞を採取し、0.5%、2%および20%の酸素圧で継代培養し、各細胞の酸素ストレス制御機能の変動と細胞不死化および細胞がん化に関連する遺伝的変化を調べた。
その結果、ヒト細胞は、培養時の酸素圧が変化しても、酸素ストレス制御能は安定して維持されることがわかった。そして、足場非依存的増殖能の獲得と細胞不死化はどちらも観察されなかった。しかし、げっ歯類細胞は、培養時の酸素圧の違いに敏感に反応し、低酸素培養で細胞内酸化度が上昇し、染色体構造異常や微小核頻度が増加し、増殖率が減少する傾向が認められた。そして、げっ歯類細胞はすべての酸素圧で不死化するとともに2_%_および20%酸素圧培養で足場非依存的増殖能を獲得することが判った。これらのことは、げっ歯類細胞は、ヒト細胞に比べ酸素ストレス制御の恒常性維持機構が厳密でないため DNAや染色体異常誘導が起こり易く、細胞が不死化しがん化しやすいことを示唆している。本発表では、これらの結果を基に細胞不死化と酸素ストレス制御能の関わりを考察する。
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藤田 裕加里, 葛城 美徳, 郷 梨江香, 木南 凌
セッションID: CP-8
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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γ線照射はマウスに胸腺リンパ腫を誘発するが、その発がん頻度はマウスの系統差によって異なる。このような系統差はがん感受性遺伝子多型に起因すると考えられるが、その多くは同定に至っていない。マウス5番染色体D5Mit7座付近に、MSM系統アリル(M)に発がん感受性、BALB/c系統アリル(C)には抵抗性を示す感受性遺伝子が存在することを以前報告した。今回我々は作製済みのBALB/c-MSMコンジェニックマウスから新たにLine-S3とS4の2系統を樹立し、放射線発がん実験を行った。Line-S3ではC/MとM/Mで発がん頻度に有意差はなかったが、Line-S4ではC/MよりもM/Mで有意に発がん頻度が高かった。これらの結果から感受性遺伝子の候補領域は5番染色体上の約12Mbにまで限定された。現在この領域をさらに限定したLine-J1とJ2の2系統を用いた発がん実験が進行中である。一方、我々の研究室では胸腺リンパ腫の解析からリンパ腫発症前の萎縮胸腺の段階でも、がん化の特徴とされるクローナルな増殖が認められることを報告している。今回、前がん細胞の解析から、これらの細胞は高濃度ROS(活性酸素類)の蓄積や、正常胸腺では殆ど存在しない大型G1期細胞の増加傾向を示すことを見いだした。そこで、上記の3点を指標として解析を行うことで、従来よりも短期間で候補領域の絞込みができるのではないかと考えた。クローナルな増殖の確認に関してはPCR法によるTCR
β遺伝子のVDJ組み換えパターンの単一性の解析を、ROSと大型G1期細胞はFACS解析を行うことで発がんを予測した。γ線照射後80日の萎縮胸腺では、C/MよりM/Mでこれらの現象が顕著であった。この結果からがん感受性遺伝子の存在が、発がんの初期過程においてもなんらかの形で関与していることが示唆された。
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古渡 礼恵, 柿沼 志津子, 甘崎 佳子, 平野 しのぶ, 山内 一己, 西村 まゆみ, 今岡 達彦, 島田 義也
セッションID: CP-9
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】放射線と化学発がん物質が複合曝露された時に発生するがんにおいて、がん関連遺伝子の変異の蓄積がどのように変化するかについての情報は未だ少ない。そこで、放射線とエチルニトロソウレア(ENU)の複合曝露により胸腺リンパ腫(TL)を誘発し、その
Krasの点突然変異の頻度とスペクトラムが単独曝露とどのように異なるか、また、その変化が
Ikarosの点突然変異とどのように異なるか比較した。
【材料と方法】B6C3F1マウスにX線0.8~1.0Gyを1週間間隔で4週間全身照射、もしくは、ENUを飲料水として100~200ppmを4週間投与した。処理は1)4週齢または8週齢からX線照射、2)4週齢または8週齢からENU投与、3)4週齢からX線照射した後8週齢からENU投与(X to ENU)、4)4週齢からENU投与した後8週齢からX線照射(ENU to X)、5)4週齢からX線照射とENU投与を同時曝露(X+ENU)の条件で行った。
Krasならびに
Ikarosの変異は、cDNAのダイレクトシークエンスにより調べた。
【結果】TLの発生頻度はX線単独またはENU単独での発生頻度と比較して、(X to ENU)群でも(X+ENU)群でも相乗的に、(ENU to X)群では亜相加的に増加した。
Krasの点突然変異はX線単独でもENU単独でも、4週齢から処理したものに比べ、8週齢から処理したもので減少していた。
Ikarosでは週齢による点突然変異の現れる割合に変化はほとんどなかった。次に(X to ENU)群では、
Krasと
Ikarosのそれぞれで、点突然変異が(超)相加的に増加した。しかし、(ENU to X)群では、
Krasの点突然変異は相加的な増加が見られたが、
Ikarosでは見られなかった。また、(X+ENU)群では、(X to ENU)群と比較して、
Krasの点突然変異は著しく減少したのに対し、
Ikarosは増加することがわかった。
これらの結果から、発がんの複合曝露効果は、曝露の順番などの曝露様式に依存し、それは、がん関連遺伝子の点突然変異の誘発頻度によって一部説明できると考えられた。
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甘崎 佳子, 平野 しのぶ, 柿沼 志津子, 山内 一己, 西村 まゆみ, 今岡 達彦, 島田 義也
セッションID: CP-10
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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【目的】ヒトはその生活環境において、タバコや食物、大気汚染物質など様々な発がん要因に常にさらされている。従ってヒトの放射線被ばくによる発がんも、放射線単独ではなくそれらとの複合影響の結果としてとらえる必要がある。すでに我々はX線とエチルニトロソウレア(ENU)の4週齢(思春期前)における同時曝露の影響について、マウス胸腺リンパ腫(thymic lymphoma:TL)の発生率と、がん抑制遺伝子
Ikarosの変異を指標として解析し、第49回大会にて報告した。今回は8週齢(若成体期)における同時曝露実験を行い、発がん率や遺伝子の変異パターンを確認した。
【材料と方法】B6C3F1♀マウスに、8週齢から11週齢にかけてX線(0.2, 0.4, 0.8, 1.0Gy)を1週間間隔で計4回照射し、同時期にENU(50, 100, 200ppm)を飲料水として4週間投与した後TLの発生率を調べた。さらに、得られたTLについて
Ikarosの変異解析を行った。
【結果】1)TL発生率は4週齢での同時曝露と同様に、X線およびENUの単独曝露で閾値となる低線量・低用量の組み合わせでは0%であったが、高線量(0.8, 1.0Gy)・高用量(100, 200ppm)の組み合わせでは相乗的に増加した。
2)
Ikarosの変異は、スプライシング異常や発現抑制などの割合に変化は見られなかったが、点突然変異は4週齢が43%(36/83)であったのに対し8週齢では18%(16/90)と有意に減少した(
p<0.001)。また、点突然変異のスペクトラムは4週齢でG→A、T→C 、G→Tの変異が多く見られたが、8週齢ではいずれも減少した。
以上の結果から、4週齢の同時複合曝露における発がんには
Ikarosの変異が大きく影響するが、8週齢では別の発がん経路が関与することが示唆された。
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岡本 美恵子
セッションID: CP-11
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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我々は、ヒトFAPの疾患モデルとして知られるMinマウスに日本産野生マウス由来の近交系MSMの18番染色体を導入することにより、Apc遺伝子不活化に至る種々のセカンドヒットを解析できる系を作出した。このコンソミックMinマウスの系は、放射線による腫瘍誘発において強い照射時週齢依存性を示し、生後2週齢照射で認められる腫瘍誘発効果は7週齢照射では消失する。今年度は特に、誘発効果の消失した7週齢照射個体に発生した腫瘍におけるApc遺伝子のセカンドヒットに焦点をあてて解析を行い、これまでに報告した非照射、2週齢照射群におけるセカンドヒットとの比較を行った。Apc遺伝子のLOH頻度は、大腸腫瘍では自然発生と放射線誘発腫瘍の間で差が認められるのに対し、小腸腫瘍では、自然発生、2週齢照射、7週齢照射群のいずれも50%と全く差は認められなかった。Apc遺伝子のLOHが認められた腫瘍については、18番染色体全域についてLOH解析を行い、LOHを示す染色体領域の同定を試みた。自然発生腫瘍におけるLOHは、ほとんどが18番染色体全長にわたるもので、介在欠失型は稀であるのに対し、2週齢照射個体に発生した腫瘍では、大半のLOHはApc遺伝子を中心とした狭い範囲にのみ認められ、染色体全域にわたるものは逆に稀であることが明らかになった。7週齢照射個体に発生した腫瘍におけるLOHパターンは2週齢照射群と同様に介在欠失型が大半を占めていたが、LOHを示す領域には若干の相違が示唆された。Apc遺伝子のコピー数について予備的な解析を行った結果、自然発生腫瘍ではApc遺伝子のコピー数は2であるのに対し、放射線誘発腫瘍ではコピー数1の腫瘍と2の腫瘍が存在した。両者の比は小腸と大腸、2週齢照射群と7週齢照射群で差が認められた。このことはApc遺伝子不活化の機構がそれぞれの群で異なっていることを示唆する。
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中司 寛子, 徳永 昌浩, 月本 光俊, 小島 周二
セッションID: DO-1-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
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低線量放射線は生体に有益な作用を示すことが知られている。これまでに当研究室においても全身性エリテマトーデスモデルマウスとして用いられるMRL-
lpr/lprマウスにおいて、低線量γ線照射による病態改善・延命効果を報告し、最近そのメカニズムとして制御性T細胞の誘導が関与することを見出した。この制御性T細胞は、自己免疫疾患やアレルギーの病態改善に寄与することが報告されている。そこで本研究では関節リウマチに着目し、コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)における低線量γ線照射の影響を検討した。DBA/1Jマウス(6週齢♂)にウシ_II_型コラーゲンとComplete Freund's Adjuvantの混合エマルジョンを尾部に皮下投与し関節炎を発症させた。また0.5 Gy γ線(
137Cs線源、0.88 Gy/min)をコラーゲン感作3日前より週1回照射し、観察を行った。その結果、CIAマウスにおいてγ線照射群では非照射群に比して関節炎スコア、発症率、骨破壊の軽減が認められ、低線量γ線照射による関節炎抑制が示された。次に、このメカニズムを解明するため、CIAマウスの11、13、15週齢において脾臓および血清を採取した。脾臓は、脾細胞精製後、リンパ球構成割合をフローサイトメトリーにより、産生サイトカイン量をELISA法にて測定した。血清からは抗_II_型コラーゲン抗体をELISA法により測定した。その結果、照射群では脾細胞産生サイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-6、IL-17)および抗_II_型コラーゲン抗体の産生抑制、抗体産生細胞割合の減少、制御性T細胞の割合増加が認められた。以上の結果より、低線量γ線照射によるCIAの病態抑制効果が示され、そのメカニズムとして過剰な免疫反応の抑制および制御性T細胞の増加が関与する可能性が示唆された。
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上原 芳彦, 伊藤 泰子, 小野 哲也, 中村 慎吾, 田中 聡, 一戸 一晃, 田中 公夫, 松本 恒弥, 小木曽 洋一, 瀧 景子, 根 ...
セッションID: DO-1-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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低線量放射線の生物学的影響を探索する目的で、低線量率ガンマ線長期照射によるC57BL/6雄マウス肝臓での遺伝子発現レベルの変化をAffymetrix社Mouse Genome 430 2.0 アレイにより解析した。ほぼ等しい線量率で照射実験を二回行った。一回目は照射線量率を32 nGy/min(低線量率)、650 nGy/min(中線量率)、12500 nGy/min(高線量率)として485日間照射(総照射線量はそれぞれ20.6 mGy, 414 mGy, 8000 mGy)、二回目は線量率を38 nGy/min(低)、767 nGy/min(中)、15300 nGy/min(高)として410日間照射(総線量は20 mGy, 401 mGy, 8015 mGy)した。照射後すぐにマウスを屠殺し、各照射線量率一群3匹(二回の照射のため各群計6匹)の個体より肝臓を摘出し、Total RNAを抽出した。対照群は3匹(一回目)、6匹(二回目)のRNAを等量ずつプールしプローブとして使用した。解析の結果、個体ごとに発現レベルが大きく異なる遺伝子はかなり多く、放射線照射に応答して変動する遺伝子の数は多くはなかった。Wilcoxon’s Signed Rank testに基づいた発現比較アルゴリズムを利用し、6個体全てで対照群に対して1.5倍以上発現が変動していると判定された遺伝子数は低線量率群、中線量率群、高線量率群でそれぞれ2、15、25個であり、そのほとんどの遺伝子の発現変動はRT-PCRにより確認できた。今回、最も低い線量率でも2個の遺伝子で2倍以上の発現変化が見られたことで、非常に低線量率の放射線に対しても応答する遺伝子が存在することがわかった。さらに、Ingenuity Pathways Analysisを用いた解析からは、高線量率で発現変動が見られた遺伝子群で脂質代謝、肥満などの機能に影響を与える可能性が示唆された。
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田中 公夫, 香田 淳, 佐藤 健一, 豊川 拓応, 一戸 一晃, 大瀧 慈, 小木曽 洋一
セッションID: DO-1-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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SPF条件下で低線量率ガンマ線を連続照射したマウス脾細胞に見られる不安定型染色体異常頻度を高線量率(0.89 mGy/min)と中線量率(200 mGy and 400 mGy/day)ガンマ線照射による異常頻度と比較した。ギムザ染色法で検出した二動原体異常と環状染色体を併せた頻度(Dic plus Rc)とFISH法で検出した二動原体異常頻度(Dic by FISH)は、20 mGy/日の低線量率ガンマ線連続照射では、400日間照射(集積線量8000 mGy)までほぼ直線的に増加した。年齢補正した重回帰分析で各線量率ごとの染色体異常頻度の線量効果直線式から求めた1次項のα値は、線量率の低下に伴い有意に減少することが明らかになった。このことは中線量率(400 mGy/日)から400倍低い低線量率(1 mGy/日)間に明らかな正の線量率効果があることを示すともに、従来行われている線量・線量率効果係数(DDREF)の求める公式に問題があることを示している。そこで、高線量率ガンマ線照射と低線量率(20 mGy/日)ガンマ線連続照射で生じる染色体異常頻度を、同一の線量ごとに比較した比を、線量・線量率効果係数(DDREF)に相当する値として求めた。線量が100 mGyの場合、Dic plus Rcの頻度を指標にすると4.5、Dic by FISHでは5.2の値がそれぞれ得られたが、値は線量や染色体異常型によって変動した。以上の知見は初めて低線量率放射線連続照射の染色体に及ぼす影響を明らかにしたもので重要である。本研究は青森県からの受託調査で得られた成果の一部である。
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PAUNESKU Tatjana, PAUNESKU David, WAHL Andrew, KATAOKA Yasushi, GRDINA ...
セッションID: DO-1-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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In this work we wished to observe the effects of radioprotectors amifostine and WR151327 on incidence of non-lethal toxicities in mice exposed to radiation. STATA/SE 9 was used to examine the relationships between the incidence rates of non-lethal gross necropsy findings (NLGNs) in mice (B6CF1) irradiated with varying doses of gamma-rays or neutrons at Argonne National Laboratory from 1984-5. NLGNs included various tissue and organ problems including late tissue toxicities. A
logistic regression using the presence of any NLGNFs as a positive outcome and a linear regression using the number of NLGNFs as the outcome value were performed.
Control - gamma ray exposure comparison: Exposure to 206cGy yielded an increase in NLGNFs in the untreated group but not the group treated with amifostine, suggesting protective effects for amifostine at this dose.
Control - neutron exposure comparison: Treatment with 10cGy significantly increased the average number of NLGNFs per mouse but not the probability of having a single NLGNF in both the untreated group and the group treated with WR151327 . Conversely, neither outcome was affected by a dose of 10cGy in the amifostine group. At an exposure level of 40cGy, neither radioprotector successfully eliminated the effects of irradiation on the number of NLGNFs, but amifostine eliminated the effect of the radiation on the binary outcome variable while WR151327 did not.
Comparisons within radiation groups: There were no significant differences in NLGNF incidence between mice treated with 206cGy gamma radiation/no radioprotector and mice treated with 417cGy/amifostine and between mice treated with 10cGy neutron radiation/no radioprotector and mice treated with 40cGy/amifostine. Amifostine protected both gamma-ray and neutron exposed mice from developing non-lethal toxicities.
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冨田 雅典, 諸星 文子, 松本 義久, 大塚 健介, 酒井 一夫
セッションID: DO-2-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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低線量・低線量率放射線による生物影響は、高線量・高線量率放射線の場合とは異なることが明らかになりつつあるが、DNA2重鎖切断(DSB)に対する修復機構の応答変化については未解明であった。高等真核生物では、非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)の少なくとも2つの修復機構により、DSBを修復することが可能である。我々は、低線量率放射線照射によって生じるDSBに対する修復機構の役割を明らかにすることを目的とし、ニワトリBリンパ細胞株DT40およびDT40細胞を用いて作成された、DSB修復遺伝子 (
KU70、
PRKDC、
RAD54、
RAD51B) のノックアウト細胞を用いて、細胞増殖率等を比較した。
低線量率γ線照射(1 mGy/h)により、NHEJ関連遺伝子
KU70、
PRKDCを欠損した細胞では、野生型細胞に比べて顕著な増殖抑制効果を示した。一方、HR関連遺伝子
RAD54、
RAD51Bの欠損細胞は、野生型細胞よりわずかに強く抑制される程度であった。
RAD54-/-KU70-/-細胞は、高線量率X線(0.9 Gy/min)を照射した場合、もっとも高い増殖抑制効果を示したが、低線量率放射線の場合は、
RAD54-/-細胞よりわずかに高い程度であった。
低線量率放射線を照射した場合には、NHEJがDSB修復に占める役割が大きくなることが明らかになった。低線量率放射線照射下では、ごく散発的にDSBが生じるため、(1) HRがS/G2期に限定されるのに対し、NHEJは細胞周期を通じて安定して機能する、(2) NHEJは、HRに比べてより少ないDSB数で活性化する、などの可能性が考えられる。
RAD54-/-KU70-/-細胞に、低線量率放射線を照射した場合には、
RAD54と
KU70が関与しない別の修復機構が働いている可能性も考えられるため、現在さらに詳細な検討を進めている。
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田内 広, 井上 昌尚, 大原 麻希, 須坂 壮, 松本 英悟, 小松 賢志, 立花 章
セッションID: DO-2-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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低線量率・低線量被曝による生物学的影響は、実験的裏付けが少ないために、放射線防護では高線量被曝データの直接的外挿から推定されているのが現状である。また、高LET放射線による体細胞突然変異では逆線量率効果といった特異な現象も報告されており、低線量率放射線被曝の生物影響解明は、科学的根拠に基づく放射線リスク評価のための重要課題でもある。我々は、トリチウムβ線による生物影響が低線量・低線量率でどのようになるのかを実験的に解明するために、体細胞突然変異の高感度検出系を開発し、低線量率のトリチウムβ線照射によるHprt欠損突然変異誘発を解析している。この突然変異高感度検出系は、Hprt遺伝子を欠失したハムスター細胞に正常ヒトX染色体を導入した細胞を用いており、従来の50~100倍の頻度で突然変異が誘発され、0.2GyのX線でも明らかな突然変異頻度上昇を検出できる。本研究ではトリチウム水(HTO)を培養液に添加し、線量率0.13~2.3cGy/hの範囲で0.3Gyの照射を行って突然変異誘発効果を解析した。その結果、中性子で逆線量率効果が認められる0.2cGy/h以下の線量率においても、誘発突然変異頻度の明らかな増加は認められなかったので、トリチウムβ線では、少なくとも0.13cGy/hまでは逆線量率効果は生じないことが示唆された。現在、さらに低い線量・線量率での実験を行っており、その結果を合わせて発表する予定である。また、得られた変異体クローンのヒトX染色体に起こった欠失範囲の解析により、低線量・低線量率では突然変異スペクトルが自然発生のスペクトルに近づくことが示唆された。
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馬替 純二, 杉原 崇, 緒方 裕光
セッションID: DO-2-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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プロテオームやDNAアレイの技術を用い生物反応をシステマティックに解析することが盛んであるが、これらの手法は定性的であり、バックグラウンドレベルの微妙な影響を評価する低線量・低線量率の放射線の生物影響には不向きである。本研究ではアロ抗原に対する免疫応答における低線量率ガンマ線連続照射の影響を評価するため、同質の実験を繰り返し行いメタアナリシスの手法を用いて統合することにより統計的検出力を上げるとともに、複数のリスク指標を主成分分析で解析することにより、通常の生物学的方法では検出できない差異を統計学的に検出することを試みた。C57BL/6マウスをアロジェニックな肥満細胞腫P815を腹腔内に移植することにより免疫した。P815 移植の7 日前から屠殺するまで17 日間にわたりガンマ線照射室内でマウスを飼育することでガンマ線の連続照射を行った。マウスは10 日後に屠殺し、血清中のP815 に対する抗体価、脾臓細胞のポピュレーション、P815 特異的キラー活性、脾臓細胞のmRNA の発現を定量化した。3-200μGy/hの範囲の3 種類の線量率で照射を行い、同質の実験を10 回繰り返し、それぞれの実験における照射群とバックグラウンド対照群との間の平均値の差について、メタアナリシスの手法を用いて統合した。脾臓細胞は放射線照射により有意に増加し、特にCD8陽性T 細胞の増加と非リンパ球細胞の増加が顕著であった。脾臓細胞の産生するサイトカインではTNFαとCSF-2の発現が照射により亢進した。これらの結果について、主成分分析による複数リスク指標の統合を行ったところ、抗体産生やポピュレーションの変化が照射に連動して変化していることが示唆された。以上の結果より、低線量・低線量率域における微弱な放射線生物影響を評価する際に統計学的手法による統合が有用であることが示された。
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広部 知久, 江口ー笠井 清美, 村上 正弘, 菅谷 公彦
セッションID: DP-1
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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鉄イオン線(500 MeV/n, LET=220 keV/μm)を妊娠9日目のC57BL/10JHir系統マウスに低線量域を含め様々な線量で照射し、個体の発生および神経冠細胞の分化に対する影響を調べた。その結果、0.3 Gyから出産率が低下した。ガンマ線照射では1 Gyまで出産率の低下が見られなかったので(Hirobe, 1994)、鉄イオン線はガンマ線に比べてかなり致死効果が強いことがわかる。また、離乳率も0.4 Gy照射群で低かった。ガンマ線照射ではこのような離乳率の低下は1 Gyまでみられなかった。鉄イオン線で神経冠細胞の分化が抑制され、メラノブラスト、メラノサイトが欠損すると腹部中央や尾端に白斑を生じる。この腹部白斑の頻度については、鉄イオン線では0.2Gy照射群で44%であり、ガンマ線では0.5 Gy照射群で44%であった。また、白斑面積は0.2 Gy鉄イオン線で4.6 mm
2で、0.5 Gyガンマ線で4.4 mm
2であった。したがって、鉄イオン線はガンマ線より神経冠細胞の分化抑制効果が強いと考えられる。次に、照射9日後の胎生18日に帝王切開で胎児を取り出し、生存胎児数、体重、発生異常、皮膚の毛球メラノサイトの分化等について調べた。鉄イオン線照射個体では0.75 Gyで一腹あたりの胎児数が減り、体重も0.5Gy照射群から減少した。四肢の奇形や尾の折れ曲がり、小眼、尾や四肢の付け根の内出血等の発生異常は0.1 Gyからみられ、線量に応じて増加した。また、皮膚の毛球メラノサイト数は、0.1 Gy照射群から背側も腹側も有意に減少し、線量に応じてさらに減少した。これらの結果から、鉄イオン線は低線量域でもマウスの発生に影響を与え、四肢、尾、眼、血管等の形成異常や神経冠細胞の分化抑制を引き起こすと示唆される。
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香田 淳, 豊川 拓応, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
セッションID: DP-2
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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高線量放射線により生じた転座型染色体異常は、線量依存的に出現し、被ばく後長期間を経てもリンパ球や骨髄細胞に残存することがわかっている。低線量率放射線長期被ばくの場合でも、転座型染色体異常頻度が集積線量(被ばく時間)の増加とともに増え、残存するか否かについて検討するため、低線量率放射線で長期連続照射したマウス脾細胞の染色体異常頻度と集積線量との関係を調べた。SPF条件下で、C3H/HeN雌マウスを8週齢より低線量率(20 mGy/22 hr/day)
137Csγ線で最大約400日間連続照射した。集積線量が500、1000、 2000、 4000、 6000、 8000 mGyに達した時点でマウス脾細胞を、LPS、ConA、2-ME存在下で48時間培養し、染色体標本を作製した。転座型異常の解析は、20対のマウス全染色体を染め分けることのできるMultiplex-Fluorescence
in situ hybridization(M-FISH)法により行った。非照射マウスは、8週齢より約400日後まで経時的に観察したが、加齢に伴う転座型異常の増加は、殆んどみられなかった。一方、照射マウスでは、転座型染色体異常の頻度は集積線量に依存して、8000 mGyまでほぼ直線的に増加した。また同じ染色体異常を持つ細胞が3個以上みられる、いわゆるクローンが4000 mGyから出現し始め、6000 mGy以上で急増した。低線量率(20 mGy/22 hr/day)放射線を連続照射したマウス脾細胞中のリンパ球の転座型等の染色体異常頻度を高線量率(890 mGy/min)照射マウスの異常頻度と同一線量(500 mGy)で比較し、高線量率照射/低線量率連続照射で生ずる染色体異常頻度の比〔線量・線量率効果係数(DDREF)に相当〕を求めたところ、染色体異常の型により異なるが2.6から4.1の値が得られた。これらの成果は、低線量放射線の発がんリスク評価上重要な知見である。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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杉原 崇, 村野 勇人, 石崎 瑠美, 一戸 一晃, 小木曽 洋一, 田中 公夫
セッションID: DP-3
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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低・中線量率(LDR/MDR : 3、15、60 mGy/hr)γ線72時間照射と高線量率(HDR: 900 mGy/min)γ線一回照射で生じるH2AX のリン酸化へのATMとDNA-PKcsの寄与を明らかにするために、細胞機能イメージ解析装置を用いてATM欠損、DNA-PKcs欠損、または野生型マウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)におけるγH2AX フォーカス数を細胞周期ごとに定量解析した。HDR放射線照射30分後のγH2AX フォーカス形成は、すべての細胞周期でATM依存的であった。しかしながら、LDR/MDR放射線照射後のγH2AX フォーカス形成は、HDR照射とは異なり細胞周期ごとにATMとDNA-PKcsの寄与が異なっていた。すなわち、γH2AX フォーカス形成はG1期とS期ではATMに依存しており、G2/M期ではATMよりむしろDNA-PKcsに依存していた。また、LDR/MDR放射線照射中の細胞にKU55933(ATM阻害剤)とLY294002(DNA-PKcs阻害剤)処理を施したところ、ATMを欠損したG1期のMEFではDNA-PKcsが、DNA-PKcsを欠損したG2/M期のMEFではATMがフォーカス形成に関与することがわかった。これらの結果から、LDR/MDRとHDR放射線照射された細胞では、H2AX のリン酸化にATMとDNA-PKcsが異なる寄与をしており、さらにLDR/MDR放射線照射された細胞ではATMとDNA-PKcsへの依存度が細胞周期ごとに異なることが示唆された。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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高井 大策, 外舘 暁子, 一戸 一晃, 小木曽 洋一
セッションID: DP-4
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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我々は以前、日線量20 mGy の低線量率γ線を約400日間、集積線量8 Gyまで連続照射したB6C3F1マウスでは寿命が短縮することを報告し、この寿命短縮が早期の腫瘍死によることが示唆された。早期腫瘍死の機構の一つとして、腫瘍細胞の増殖抑制や排除に関わる免疫系に生じた変化が考えられる。そこで今回、3系統(C57BL/6、 C3H/HeN、 B6C3F1)のマウスを用い、免疫細胞のうち特にT細胞に着目し、腫瘍免疫や炎症との関係が示唆されているヘルパーT(Th1、Th2)細胞の構成比と、マイトジェン等の刺激に対する増殖応答能を調べた。マウスには、高線量率(900 mGy/min)、中線量率(400 mGy/22h/day) 、低線量率(20 mGy/22h/day)のγ線をそれぞれ照射(集積線量1 Gy~8 Gy)し、脾臓中のT細胞の解析を行った。
高線量率γ線照射後にはヘルパーT細胞の割合の増加やT細胞増殖活性の低下が観察された。中線量率γ線照射後にはヘルパーT細胞の割合には大きな変化は見られなかったものの、T細胞増殖活性は有意に低下していた。一方、低線量率γ線照射では系統によりこれらの反応は異なっていた。C57BL/6とC3H/HeNマウスでは、集積線量8 Gy未満でヘルパーT細胞の割合やT細胞増殖活性に変化は認められなかったが、B6C3F1マウスでは集積線量1 GyでT細胞増殖活性の低下、集積線量2 GyでTh2細胞の割合の増加が観察された。
これらの結果から、高・中線量率放射線照射同様に低線量率放射線の連続照射でも免疫系に変化がもたらされること、および免疫応答には明らかな系統差があることが示された。この免疫系の変化は、低線量率γ線を連続照射したB6C3F1マウスでみられた早期の腫瘍死による寿命短縮につながる可能性がある。本記載事項は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である
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中村 慎吾, 坂田 直美, 中矢 健介, 小木曽 洋一
セッションID: DP-5
発行日: 2008年
公開日: 2008/10/15
会議録・要旨集
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日線量21 mGy(0.95 mGy/ hr)の低線量率γ線を30週間連続照射したB6C3F1雌マウスの体重は非照射対照マウスと比較して重くなること、体重の増加は脂肪組織重量の増加と強く相関すること、肝臓中の脂質含量が照射マウスで非照射対照マウスと比較して多くなることを前回報告した。今回、B6C3F1雌マウスに日線量400 mGy(18.5 mGy/ hr)の中線量率γ線を最長10週間連続照射し、体重、組織重量、血球数、血清中脂質含量、肝臓中脂質含量及びアディポサイトカイン量の変化を経時的に調べ、低線量率γ線連続照射マウスから得た結果との比較を行なった。中線量率ガンマ線連続照射マウスの赤血球、白血球並びに血小板数及び脾臓重量は、非照射対照マウスと比較して経時的に減少した。また、体重、脂肪組織重量、血清中脂質及びレプチン含量は著しく減少し、肝臓中脂質含有量に変化はみられなかった。一方、低線量率γ線連続照射マウスでも赤血球、血小板数及び脾臓重量の減少が観察されたが、体重、脂肪組織重量、肝臓中脂質含有量、血清中脂質及びレプチン含量は、中線量率ガンマ線連続照射マウスから得た結果とは異なり、非照射対照マウスと比較して増加することが分かった。以上の結果は、γ線連続照射マウスの脂質代謝が低線量率と中線量率とで異なる可能性を示している。現在、日線量40、60、80、100、170及び330 mGyでγ線を連続照射したマウスの体重や脂質代謝を線量率間で比較する実験を行なっているので合わせて報告する。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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