日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
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放射線発がん
  • 本間 拓二郎, 鈴木 啓司, 山下 俊一
    セッションID: P3-113
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線と甲状腺発がんとの関係は、チェルノブイリ原子力発電所の事故後に小児甲状腺がんが増加したことで明らかである。しかしながら、どのような分子メカニズムにより放射線誘発甲状腺がんが発生するかについては未だ不明な点が多い。放射線被爆後の発がんの多段階的なプロセスを明らかにするために、本研究では、バセドウ病患者より提供を受けた初代甲状腺細胞の、γ線照射に対する放射線初期応答について解析を行った。まず、1 Gyのγ線を照射し、DNA損傷チェックポイント因子のフォーカスを計測することによりDNA損傷チェックポイントの活性化を評価した。その結果、γ線照射直後から微細な53BP1フォーカスおよびリン酸化ATMフォーカスを確認し、大半の53BP1フォーカスがリン酸化ATMフォーカスと共局在することを認めた。また照射により生じたフォーカスは時間経過とともに速やかに消失し、24時間後では大部分のフォーカスが消失したが、一部の細胞においてはフォーカスが残存することを見いだした。次に、γ線照射による細胞周期停止をBromodeoxyurideneの取り込みを指標として検討したところ、6 Gyのγ線照射24および48時間後に取り込みの顕著な減少を観察した。さらに、照射7日後には9割以上の細胞が老化マーカーであるsenescence-associated-β-galactosidase (SA-β-gal)陽性を示し、不可逆的な増殖停止が誘導されていることを確認した。以上の結果より、ヒト初代甲状腺細胞においてDNA損傷応答の活性化、および永続的細胞周期停止の存在を初めて明らかにした。
  • 西村 まゆみ, 今岡 達彦, 鈴木 秀之, 飯塚 大輔, 臺野 和広, 柿沼 志津子, 島田 義也
    セッションID: P3-114
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Loss of heterozygosity (LOH) 解析法は、これまで数多くの研究で利用され、がん関連遺伝子、特にがん抑制遺伝子の同定には欠かせない手法となっている。当研究室ではこれまでに、放射線誘発マウス胸腺リンパ腫において血球系細胞の分化に重要な遺伝子であるIkarosが、高頻度にLOHを起こすことを見つけ、放射線特異的ながん抑制遺伝子の異常として報告している。一方、原爆被爆者の追跡調査によると、放射線被曝によるリスクのもっとも高い固形腫瘍は乳がんである。しかし、放射線による乳がん発生に関わる遺伝子は未だあまり明らかにされていない。本研究では、ラット放射線誘発乳がんを用い、特徴的なLOH領域の存在の探索を目的とした。【方法】7週齢のSprague-Dawley (SD)雌ラットにγ線(0, 0.5, 1および2Gy)、化学発がん剤であるPhIP(40mg/kg 10回)および両者の複合暴露を行い、得られた乳がんとそれぞれの個体の耳からDNAを抽出した。PhIP誘発腫瘍に高頻度で見られると報告のあるLOH部位のプライマーを用い、耳との比較でLOH検索を行った。また、より体系的なLOH解析のために、乳がん高発系であるSDラットと低発系であるCopenhagenラットとの雑種第一代 (F1) を作成し、γ線 (4Gy) を照射して発生した乳がんを収集した。【結果】PhIP単独誘発乳がんにおいては特徴的なLOHが検出された(延べ28座位中6座位、21%)が、放射線2Gy単独誘発および複合暴露誘発腫瘍ではLOHの頻度は低かった(それぞれ6および0%)。F1 ラットでは29匹中18匹 (62%) に乳がんが発生した。現在、F1 ラットの放射線誘発乳がんのLOH解析を行っており、その結果も併せて報告する。
  • 岡本 美恵子
    セッションID: P3-115
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】Minマウスに対する放射線の腫瘍誘発効果は照射時の週齢に大きく依存し、生後1-2週齢照射で認められる強い誘発効果は7週齢では激減する。このメカニズムを明らかにするために、発生した腫瘍におけるApc遺伝子セカンドヒットについて解析した。また、Apc遺伝子以外の関与の可能性について検討した。
    【材料と方法】18番染色体のコンソミックMinマウスに対して、2週齢または7週齢でX線を全身照射し、発生した小腸・大腸腫瘍について18番染色体のLOHの有無を統計学的手法により判定した。今年度は、Apc遺伝子のLOHが認められないとされてきた腫瘍についても、18番染色体全域のLOH解析を行った。また、Apc遺伝子のコピー数の推定およびアレイCGHによる解析を試みた。
    【結果】Apc遺伝子セカンドヒットとしてのLOHを示す領域は、非照射群では18番染色体の大半あるいは全域にわたるものが多く、介在欠失タイプは稀であること、2週齢照射群では逆に大半がApc遺伝子を中心とした介在欠失型であり、染色体全域にわたるものは少ないこと、7週齢照射群では、非照射群と2週齢照射群の中間のLOHパターンを示すこと、小腸では大腸に比べて染色体全域のLOHを示す腫瘍の割合が高いこと、が明らかになった。PCR-SSCP法によりApc遺伝子のLOH無と判定されてきた腫瘍の一部は、今回の統計学的手法でLOHが認められた。
    Apc遺伝子のLOHが認められない腫瘍の一部では、18番染色体の末端近くの狭い領域に特異的なLOHが認められた。この領域のLOHはApc遺伝子のLOHを示す腫瘍にも認められるが、2つのLOH領域間にはLOHのない領域が存在することから、両者は異なった事象として発生したものと考えられる。染色体末端付近のLOHを示す腫瘍は、同時に18番染色体の別の領域にもLOHを示す傾向が認められた。アレイCGHによる予備的な解析では、Apc遺伝子近傍でコピー数の減少が認められる腫瘍においても、これらの領域ではコピー数の変化は認められなかった。
  • 山内 正剛, 山内 一己, 伊藤 圭, 坂上 万理, 柿沼 志津子, 西村 まゆみ, 高畠 貴志, 鬼頭 靖司, 太田 有紀, 中田 宗宏, ...
    セッションID: P3-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    乳幼児における放射線被ばくリスクを解析する目的で、Aprt+/-ヘテロマウスの腎臓に由来する初代培養細胞を用いて、Aprt遺伝子座における放射線誘発突然変異の発生頻度の年齢依存性を解析した。Aprtはプリンサルベージ経路においてアデニンのホスホリボシル化を触媒する酵素であり、その活性の欠損は間質性線維症や尿路結石症を主症状とする、いわゆるAPRT欠損症を引き起こすが、致命的な疾患ではない。したがって、Aprt欠損の非致死性を利用して、Aprt遺伝子座に発生する突然変異の頻度を解析することが可能である。
    具体的には、Aprt+/-ヘテロB6C3F1マウスを1週齢または7週齢の時点で、1グレイまたは4グレイのエックス線で照射し、照射後8週目に解剖して腎臓を摘出し、1mM 2,6-ジアミノプリン(DAP)存在下で培養することにより、Aprt-/-細胞クローンを選択分離した。
    その結果、非照射対照群においては2.3×10-5の頻度でAprt-/-細胞クローンが出現したのに対して、1グレイのエックス線を7週齢で照射した実験群においては、予想に反して、その出現頻度は61%に低下した。1グレイのエックス線を1週齢で照射した実験群においては、その頻度は200%に増加し、4グレイを7週齢で照射した場合は435%に、4グレイを1週齢で照射した場合には604%にまで増加した。これらの結果より、照射線量が多いほど、被ばく年齢が若いほど、Aprt遺伝子座における突然変異の発生リスクが有意に高まることが示唆された。
  • ―放射線発がん実験への応用の可能性―
    大津山 彰, 岡崎 龍史, 法村 俊之
    セッションID: P3-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    p53遺伝子ノックアウトマウスを用いた発がん実験は、p53遺伝子と発がんとの関係を探るために不可欠であるにもかかわらず、p53遺伝子ノックアウトマウスの寿命の短さが、発がん実験を困難にしている。近年注目されているRNAiは目的遺伝子のノックダウンを可能にしたが、in vivoへの適用は今だ容易ではない。数年前からsiRNAとコラーゲンを混和し投与する方法が遺伝子ノックダウンに有効であるとの報告がされている。そこで、このコラーゲンとsiRNAを混和したものを照射部位皮下に注入し、マウス皮膚に疑似p53遺伝子ノックアウト部位を局所的につくり、放射線発がん実験に応用可能かを検証した。
    我々の発がん実験は、マウスの背部皮膚にベータ線源を密着させ、これを週3回、腫瘍が発生するかマウスの寿命が尽きるまで皮膚を反復照射する方法である。線種がベータ線なので透過力が小さく、皮膚以外の部位に影響を及ぼしにくく、発がん以外の障害が起きにくい。一方生じた皮膚腫瘍はマウスの自発腫瘍としてはまれな腫瘍なので、放射線誘発腫瘍と判断できる。この実験方法で、照射部位の皮膚のp53遺伝子を効率的にノックダウンさせることができれば、ノックアウトマウスを用いた実験に近づくことが可能となると考えられる。そこで、p53遺伝子を効率よくノックダウンさせるsiRNAの設計とコラーゲンの濃度、混合物全体の皮下への投与量を検討した。また、投与したsiRNAが投与後どのくらいで効果を発揮し始め、どのくらい持続するのかを検討した。今回は、これらの条件を様々に設定し、皮膚のp53遺伝子のノックダウンのための至適条件を求めた。この方法による遺伝子の局所的かつ時間的な制御が可能になれば、放射線発がん実験のみならず、紫外線や化学発がんへの応用や、発がん実験以外の様々な生物実験に応用できる。
  • 伴 信彦, 甲斐 倫明
    セッションID: P3-118
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線によるマウスの急性骨髄性白血病(AML)は、多くの場合、造血系転写因子PU.1の機能低下によって生じる。この機能低下は、PU.1をコードするSfpi1遺伝子の欠失と変異によってもたらされるが、変異の大多数は特定のCpGサイトにおけるC:GからT:Aへのトランジションであり、自然突然変異である可能性が高い。放射線誘発の白血病でありながら自然突然変異が関与する背景には、造血系の細胞動態変化が影響しているのではないかと考え、数学モデルによる細胞動態解析を試みた。造血系の分化過程を線形コンパートメントモデルで表現し、シミュレーション結果をCAFC(cobblestone area-forming cell)およびCFU-G/Mアッセイデータと比較することにより、細胞動態パラメータの推定を行った。その結果、累積細胞分裂数に関しては、照射の有無による違いはほとんど見られなかったが、3Gy照射の場合、非照射よりも少ない幹細胞で造血を維持しなければならず、幹細胞あたりの増殖負荷は相当に大きくなることが示唆された。文献的には、度重なる細胞分裂は幹細胞の老化を早め、老化した幹細胞ではDNA修復能が低下することが示されている。したがって、放射線は造血幹細胞の老化を間接的に早めることによって、幹細胞および前駆細胞の自然突然変異頻度を上昇させ、白血病化に寄与するのではないかと考えられる。
  • 山田 裕, 中田 章史, 西村 まゆみ, 柿沼 志津子, 井上 美幸, 瀬尾 ひとみ, 西村 由希子, 島田 義也, 小木曽 洋一
    セッションID: P3-119
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    若齢及び成熟ラットにおいて、胸部X線照射と化学発がん物質の複合効果により誘発される肺腫瘍について調べた結果を報告する。5週齢及び22週齢の雌Wistarラットの胸部にX線を3.18Gy照射し、次いで1週間後(5週齢および22週齢照射)あるいは18週間後(5週齢照射のみ)にN-nitrosobis (2-hydroxypropyl) amine (BHPN; 1g/kg体重)を腹腔内投与した。飼育期間は90週齢までとし、コントロール群では全数生存したが、6週齢及び23週齢においてBHPNを投与した群では、腎、脳及び卵巣の腫瘍発生により生存期間は短縮した。放射線照射あるいはBHPN単独投与では肺腫瘍の発生率が増加したが、そのほとんどが良性の腺腫であった。放射線とBHPNを複合させると、5週齢および22週齢照射のいずれの群においても、その肺腫瘍誘発における効果は相乗的であり、かつ悪性腫瘍が増加した。免疫組織化学染色を行ったところ、放射線やBHPN単独、およびそれらの複合により誘発された良性及び悪性肺腫瘍において、SP-AおよびCC-10抗体に陽性の細胞が見いだされ、この結果はそれらの肺腫瘍がII型肺胞上皮細胞やClala細胞由来であることを示している。以上のことから、X線とBHPNは同じ種類の標的細胞に作用し、X線による肺腫瘍誘発効果をBHPNは相乗的に増強していることが示唆された。
放射線被ばく影響・疫学
  • ―1983、1992、2007年の調査結果の比較―
    辻 さつき, 神田 玲子, 米原 英典
    セッションID: P3-120
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    原子力を始めとする科学技術や社会活動上のリスク認知に関しては、これまでに多くの研究が行われてきた。その結果、個人のリスク認知は、不確実な事象に対する主観的確率や損失の大きさの推定、不安や恐怖、便益性、代替の有無などの統合された認識であり、知識や価値観、性格などが影響するため、個人差が大きいことが知られている。我々は、1983年以降、リスクランキング法を用いて日常的なリスクに関する認知を調査し、異なったグループ間での差異および時代による変化を調べたので報告する。
    放医研職員を対象に、30の科学技術や社会活動に関して被験者が感じるリスクの大きい順に順位をつけてもらうという方法で面接調査を行った(Slovic et al., 1981)。また全国の一般公衆に対して、ウェブを利用して同様のアンケート調査を行い、638人からの回答を得た。彼らには職業、学歴、家族、情報源や日常生活の安全についても質問した。
    調査の結果、この25年の間に、認知された自動車のリスクランキング順位は下降した。一方、低濃度-慢性被ばくの健康リスク源(食品保存料、食品着色料、X線、抗生物質など)は、1992年の調査で一過的上昇が見られた。またこの25年間の間に、事務職(たとえば事務や研究補助)と研究者のリスク認知が類似してきている傾向にあるが、原子力に関しては両者の認知が大きく異なっていた。前者は一貫して原子力を最も危険であると判断しているのに対し、研究者での順位はチェルノブイリ事故等の社会事象に連動して変動した。さらにウェブ調査結果から、最近の一般公衆のリスク認知は、性別、年齢、職業によらずよく似ており、拳銃、原子力そして喫煙が最も危険であると判断していることがわかった。
  • 吉本 泰彦
    セッションID: P3-121
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的]原発など環境汚染源による乳児(1歳未満)先天性異常の増加の懸念がしばしば見られる。地理的相関研究による環境汚染源周辺の先天性異常死亡率の暦年・地域変動の適切な理解を図る。[資料]主に人口動態統計の出生数と乳児死亡数に基づく都道府県別1972-2007年死亡率データ。1972年は沖縄県を含まない。[方法]便宜上、7期間、6地方ブロックによる乳児死亡率の標準化死亡比SMR(全国死亡率を基準)の暦年・地域変動をポアソン回帰モデルで解析。先天性異常及び腫瘍を除く疾患を周産期発生病態起源と非周産期発生病態起源の死因グループとした。[結果]日本全国の一般乳児死亡率は経年的に減少しているが、特に早期新生児死亡と周産期発生病態起源死因グループの関連は近年ほど強くなった。先天性異常とその他疾患(腫瘍を除く)の6地方ブロックによる地域変動は異なっている。早期新生児死亡と先天性異常の関連は、染色体異常ではみられないが、染色体異常を除く非循環器系で、特に第IV期(1988-92年)以降明瞭である。最近の第VII期(2003-07年)では、その他疾患の6地方ブロックによる地域変動は全体としては見られないが、乳幼児突然死症候群で見られる。乳児死亡数の減少は小地域単位死亡率の歴年変動の適切な理解を困難なものにしているが、平常時の環境汚染源周辺の乳児先天性異常死亡の潜在的リスクは大変小さい。
  • 今中 哲二, 遠藤 暁, 川野 徳幸, 田中 憲一
    セッションID: P3-122
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    広島・長崎の原爆直後に爆心地近辺に入った早期入市者については、入市直後にさまざまな疾病が現れたことが知られている。従来より誘導放射線による被曝影響の可能性が指摘されているものの、その因果関係を検討するには、個々の入市被爆者に関する情報が不十分であった。2008年8月に放映されたNHKの番組の中で、早期入市者の病状について1950年頃にABCCが聞き取り調査を行った個人記録が紹介された。その記録によると、嘔吐、下痢、脱毛といった、急性放射線障害と同様の症状が起きていたことが確認されている。我々は、そのような記録がある2名に入市時の行動についてインタビューを行い、行動経路に基づいて誘導放射能からの外部被曝を計算した。8月7日に入市し、爆心から900mの自宅に立ち寄り、一週間ほど文理大グラウンド(1400m)で寝泊まりしたAさんの被曝量は9.40mGyとなった。不確定さを考慮しここでの見積もりは約30mGyとした。Aさんは、8月13日に発熱、下痢、口内痛を発症、1ヵ月後に歯齦出血、脱毛があった。8月7日に、比治山から電車通り沿いに爆心近くを通って己斐駅まで歩いたBさんの被曝量は2.6mGyとなったが、不確定さを考慮し約8mGyと見積もった。Bさんは、9月12日に嘔吐、下痢で病臥、10月5日頃に脱毛がはじまった。AさんやBさんの病状は急性放射線症状を想定させる一方、従来の知見に基づくと、かれらの被曝量の見積もりは放射線症状を引き起こすほどではない。我々としては、以下の3つの可能性を考えている。(1)観察された疾病は、疲労や感染症などによるもので放射線被曝とは関係ない、(2)被曝量の見積もりが大きく間違っている、たとえば、本研究の見積もりには含まれていない内部被曝の寄与が大きかった、(3)原爆被爆という極限的な状況下で、放射線被曝が他の要因と複合的に作用して閾値が大きく下がり急性放射線障害のような症状が現れた。どの説明がより適切であるか今の段階では結論できないと考えている。
  • 児玉 喜明, 中野 美満子, 大瀧 一夫, CULLINGS Harry M, 三角 宗近, 中村 典
    セッションID: P3-123
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法により調べた原爆被爆者の末梢血リンパ球における転座頻度の解析結果を報告する。FISH法を用いたこの調査は、以前のギムザ染色法を用いた細胞遺伝学調査が提起した幾つかの疑問に対する答を出すと期待されていた。これらの疑問とは、広島と長崎の両市における線量反応の違い、あるいは長崎工場内被爆者でみられる有意に低い線量反応などである。以前のギムザ染色法による調査は、広島と長崎の研究室でそれぞれ別個に得られた結果のため、研究室間の観察誤差を含む可能性を否定できなかった。この点を解消するため今回のFISH法による調査は広島研究所のみで行われた。現在までに、広島900例、長崎541例の原爆被爆者について調査が完了している。これまでの解析結果を要約すると次のようになる:(a)以前のギムザ染色法による解析結果と同様に、物理学的線量に対する個々人の転座頻度に幅広い分散が観察された;(b)FISH法を用いることで都市間の差が大きく縮まり、両市の差は「示唆される」となった;(c)長崎の工場内で被曝した人、あるいは屋外被曝・遮蔽ありの人は両市とも、日本家屋内で被曝した人よりも有意に低い線量反応を示した;(d)以前の調査に見られた都市間差が大幅に減少したということは、それが主として広島・長崎の研究室における異常検出率の差によるものであった可能性が示唆された。
  • 平井 裕子, 井上 敏江, 中野 美満子, 大瀧 一夫, 児玉 喜明, 中村 典
    セッションID: P3-124
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    広島の原爆被爆者より提供された大臼歯のエナメル質を用いて、電子スピン共鳴法(ESR)により、放射線被曝線量を推定している。今回、歯の提供者で末梢血リンパ球の染色体異常頻度を測定した92人(FISH法とギムザ法の両方またはいずれか一方の方法で測定)について、ESRによる測定を行い、両者を比較した。ESR信号強度はコバルトガンマ線量の検量線を用いて線量に換算した。染色体異常検査はギムザ法とFISH法を用いた。前者はギムザ染色した100個の分裂像を、後者は染色体1,2,4をFISH により蛍光染色して500個の分裂像を観察し、得られた頻度から年齢ならびに中性子の影響を差し引いてガンマ線量に換算した。調査した被爆者の中で、両方の方法で染色体異常頻度を調べた37人については得られた結果は互いによく一致していた。これらの被爆者のデーターとしてはFISH線量を用いることとし、その他のギムザ染色法によるデーターしかない35人とFISH染色法によるデーターしかない20人計92人について、ESR線量と染色体線量を比較したところ良い相関が得られた。しかし、染色体線量は高いのにESR線量が低い例が7例あった。これらは1例を除いては知歯や被爆時年齢が5歳以下であったので、測定した歯が被爆時に十分発達していなかったと解釈される。他方ESR線量が染色体線量よりもかなり高い例が9例あった。これらについては医療被曝の可能性を調査したが、現在までのところ医療被曝の情報は得られていない。以上の生物学的線量評価の結果を被爆時の爆心地からの距離と遮蔽条件を基に計算したDS02線量に対してプロットすると分布の幅が大きくなることが分かった。今回、92名という少ない対象数ではあるが、全く異なる方法(ESR法 とFISH法)を用いて推定した個人線量が良い相関を示したことは、既に4000人もの被爆者から情報を得ている染色体異常頻度から推定した個人線量を、DS02線量と比較すれば、個人線量の偏りの程度と方向を推定できる可能性がある。
  • ZHUMADILOV Kassym, HOSHI Masaharu, IVANNIKOV Alexander, ZHARLYGANOVA D ...
    セッションID: P3-125
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    The method of electron spin resonance (ESR) dosimetry was applied to human tooth enamel to obtain individual absorbed doses of residents of Makanchi, Urdzhar and Taskesken settlements located near Kazakhstan-Chinese border (about 400 km to South-East from Semipalatinsk nuclear test site (SNTS) and about 1000 km from The Lop Nor Nuclear Weapons Test Base (China)). Since the ground and atmospheric nuclear tests (1964-1981) at Lop Nor, the people residing in these settlements have believed to be exposed heavily by radioactive fallout. Tooth samples were extracted according to medical reasons in a course of ordinary dental treatment. Kokpekty was chosen as control and was not subjected to any radioactive contamination and located 400 km to the Southeast from SNTS. It was found that the excess doses obtained after subtraction of the contribution of natural background radiation do not exceed 92 mGy for residents of Makanchi. For residents of Urdzhar, excess doses ranged up to 243 mGy for all ages. For residents of Taskesken, the maximum of excess dose were determined as 95 mGy.
  • 武田 志乃, 寺田 靖子, 井上 美幸, 西村 まゆみ, 島田 義也
    セッションID: P3-126
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【はじめに】近年、劣化ウラン弾汚染や我が国での再処理工場の試運転などを背景にウランの健康影響に対する関心が高まっている。特に子ども影響に関する科学的根拠は乏しく、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。これまでに我々は、幼若ラットにおける腎臓毒性について検討し、年齢による感受性の違いを示した。本研究ではこの機序を明らかにするため、腎臓の発達とウラン分布の関係を調べた。
    【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラットを用いた。生後3日目に一腹あたり6匹として飼育し、7日目(1週齢)あるいは25日目(3週齢)に酢酸ウラン(天然型)を皮下に一回投与(2 mg/kg)した。経日的に屠殺して腎臓を摘出した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。組織観察: TUNELおよびヘマトキシリン染色を行った。近位尿細管セグメント分別:セグメントマーカーの免疫染色を行った。
    【結果】1週齢ラット腎臓は、皮質と髄質が互いに入り組んだ構造をしており、ウランは皮質の内辺部に局在していた。3週齢では成熟ラット様の層状構造となり、髄質、髄質外辺部、皮質が区別でき、髄質外辺部から皮質内辺部にかけてウランの分布が認められた。下流近位尿細管部位のS3セグメントの分布は、ウラン分布とよく一致していた。すなわち、1週齢では皮質の内辺部のごく一部に限局していた。3週齢になると腎臓重量は2倍ほどに急増し、S3部位は髄質外辺部から皮質内辺部にかけて広く分布した。1週に比べ3週齢ラットでウランの腎臓移行や腎障害の感受性が高いことから、ウランの選択的な蓄積部位である近位尿細管S3部位の量や急激な新生が感受性の違いをもたらしたものと考えられた。
  • 小平 美江子, 浅川 順一
    セッションID: P3-127
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線の遺伝的リスクを評価するためにX線照射したオスマウスの精原細胞に由来するF1マウスについて、DNA2次元電気泳動法で突然変異のスクリーニングを行ってきた。前回は、BALB/cオス由来F1マウスに生じた5例の欠失突然変異について、高密度マイクロアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(アレイCGH)法を用いた解析結果を報告した。今回はB6C3オス由来のF1に生じた7例の欠失突然変異について、欠失の大きさと欠失端の塩基配列解析を行った。欠失領域を推定する目的で、それぞれの突然変異を生じたNotI部位を中心として約10Mbの領域に、1~5kbの間隔で選んだオリゴプローブを配置したカスタムアレイを作製し、欠失突然変異の検出されたF1マウスDNAのCGH解析を行った。対象とする欠失端周辺の塩基配列を正常マウスのものと比較し欠失の大きさを決定した。オス親由来のアリルに生じた6例の欠失変異体のうち、照射群での5例では:13Mb、10.7Mb、4.7Mb、4.3Mb、1.9Mbの欠失であることが分かった。また対照群での1例は2.3Mb、メス親由来アリルに生じた1例は2.5Mbの欠失であった。照射群の5例と対照群における母親アリルに生じた1例の欠失突然変異では欠失両端の塩基配列に相同性はなく、その近傍にも相同性を示す領域や特徴のある塩基配列は認められなかったので、非相同末端結合により生じた欠失と考えられた。他方、対照群の父親アリルに生じた自然欠失突然変異では、その両端に96%の高い相同性を示す約2kbの配列が認められ、両者の相同組換えによってその間に位置するDNA領域が欠失したと推定された。
  • 浅川 順一, 小平 美江子, 片山 博昭, Cullings Harry M, 中村 典
    セッションID: P3-128
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    2次元DNAゲル電気泳動(DNA 2-DE)法はプローブを用いることなく可視化される数千個のNotI DNA断片についてその断片長に変化が起きた遺伝子突然変異を検索できる。4GyのX線を照射したB6C3F1マウス精原細胞に由来するF1マウス505匹と対照群F1マウス502匹、合計1,007匹について1,190個の父親由来スポットと1,240個の母親由来スポットを選んで解析を行った。4Gy照射群では父親由来のスポット595,387個中に12個(合計6匹のマウス)に突然変異を検出した。分子解析の結果12個のスポットは6例の突然変異に起因していることが分かった。そのうちの5例は欠失領域が1.9Mbから13Mbに及ぶ大きな欠失突然変異で、1スポット喪失が1例、2スポット喪失が3例、4スポット喪失が1例であった。照射群における残り1例は、マイクロサテライト遺伝子座に見られた6bpの配列延長であった。対照群では583,051個の父親由来スポット中に2.3Mbの遺伝子欠失(2スポット喪失)が1例検出された。母親由来のスポットでは1,228,352個中にマイクロサテライトでの34bp欠失1例と2.5Mbの欠失1例が検出された。個々のスポットを1遺伝子座と仮定すると、自然突然変異率は0.34×10-5/遺伝子座/世代と推定される。一方、放射線による誘発率は0.42×10-5/遺伝子座/Gyと推定された(しかし、信頼区間には0が含まれる)。DNA 2-DE法は数bpといった小さな欠失から数Mbといった大きな欠失まで検出可能という特徴があるが、私たちの推定値はマウスの7遺伝子座による値、2-3×10-5/遺伝子座/Gyに比べてかなり小さい。DNA 2-DE法がゲノムの約0.2%を調べていることを併せて考えると1Gyの放射線でオス精原細胞を照射した場合1匹のマウスゲノム当たりおよそ1個、せいぜい数個以内の比較的大きな遺伝子欠失(>数十kb)が誘発されると考えられる。
  • 小笹 晃太郎, 清水 由紀子, 陶山 昭彦, 笠置 文善, 西 信雄, 早田 みどり, Grant Eric J, 坂田 律, 杉山 裕美, ...
    セッションID: P3-129
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    背景:放影研では被爆者追跡調査(寿命調査:LSS)集団による放射線後影響の評価を行ってきた。
    方法:当初120,321人のLSS集団の生存および死因について1950年より2003年まで追跡した。2002年線量体系(DS02)によって個人線量の推定されている86,611人を解析対象として、1Gyあたりの過剰相対リスク(ERR)と95%信頼区間(CI)をポアソン回帰モデルによって推定した。
    結果:追跡期間中に50,620人(58%)が死亡し、量反応関係が線形であるとしたときのERR/Gyは、総死亡で0.22 (95%CI: 0.18, 0.26)、総固形がん死亡で0.47 (0.38, 0.56)、尿路がん死亡で2.62 (0.47, 7.25)、膀胱がん死亡で1.12 (0.33, 2.26)であり、その他、食道、胃、結腸、肝、胆のう、肺、および卵巣がんに対して有意に高かった。また、白血病では有意に高かったが(4.3, 95%CI: 3.1, 5.8)、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫では高くなかった。心疾患や脳卒中を含む循環器疾患では0.11(95%CI: 0.05, 0.17)、呼吸器疾患では0.21 (0.10, 0.33)と有意に高かった。固形がんでは、ERRに対する性、被爆時年齢、および到達年齢による効果の修飾(相互作用)は有意であった。
    結論:LSS集団における、総死亡、主要ながん、および主要な慢性疾患による死亡リスクは、長期間にわたり被曝線量と量反応関係を示し有意に増加していた。白血病のリスクは初期に比較すると低いものの持続していた。脳卒中と心疾患のリスクは、中等度から高度被曝で増加していた。これらの相対危険度は女性および若年被爆者で高く、加齢とともに低下していた。本結果は、前回報告より6年間の期間が追加されているが、ほぼ同様の結果を示している。
  • 杉山 裕美, 三角 宗近, 岸川 正大, 井関 充及, 米原 修治, 林 徳真吉, 早田 みどり, 徳岡 昭治, 清水 由紀子, 坂田 律, ...
    セッションID: P3-130
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】放射線影響研究所は、原爆被爆者コホート(寿命調査集団)において、病理学的検討に基づき、1987年までに罹患した皮膚癌の放射線リスクを検討し、基底細胞癌に放射線リスクがあることを報告している。本研究では観察期間を10年延長し、皮膚癌の組織型別罹患率の放射線リスクを再検討した。
    【方法】寿命調査集団120,321人のうち、原爆投下時に広島市、長崎市とその周辺で被爆し、放射線線量推定方式DS02で被爆放射線量が推定されている80,158人を対象とした。皮膚癌は1958年から1996年までに登録された症例について病理学的な検討を行い、第一癌を解析の対象とした。ポワソン回帰により、皮膚癌における放射線の過剰相対リスク(ERR=Excess Relative Risk)を組織型別に推定した。
    【結果】寿命調査集団において、336例の皮膚癌が観察された。組織型別には悪性黒色腫(n=10)、基底細胞癌(n=123)、扁平上皮癌(n=114)、ボウエン病(n=64)、パジェット病(n=10)、その他(n=15)であった。線量反応に線形モデルを仮定しERRを推定したところ、基底細胞癌について統計的に有意な線量反応が観察された。前回の解析(1987年までの追跡)ではERR/Gyは1.8(90%信頼区間=0.83-3.3)であったが、今回の解析ではERR/Gyは 2.1(95%信頼区間=0.37-1.2, P<0.01)であった。さらに基底細胞癌の線量反応について赤池情報量規準(AIC)に基づき検討したところ、0.6Gy(95%信頼区間=0.34-0.89)を閾値とし、傾きが2.7(95%信頼区間=1.1-5.1)とする閾値モデルがもっともよく当てはまった(ERR at 1 Gy = 1.1、95%信頼区間=0.43-2.05)。また基底細胞癌においては被爆時年齢が1歳若くなるほどリスクが有意に10%上昇した。
    【結論】皮膚表皮の基底細胞は放射線に対する感受性が高く、特に若年被爆者において放射線リスクが高いことが確認された。また基底細胞癌における線量反応の閾値は、1Gyよりも低く、0.6Gy であることが示唆された。
  • 七條 和子, 高辻 俊宏, 福本 学, 松鵜 睦美, 中島 正洋, 中山 敏幸, 関根 一郎
    セッションID: P3-131
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    目的:長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。その一環として、我々は長崎原爆急性被爆者剖検例のホルマリン固定臓器とパラフィンブロック、対照としてトロトラスト患者の肝臓標本とブロック及び非被爆者標本を用いて内部被曝の検出法について検討している。今回、原爆急性被爆症例、トロトラスト症例及び非被爆者症例について組織切片を用いて残留放射能の検討を行った。試料と方法:1)長崎原爆被爆者として急性被爆7症例、2)内部被爆例としてトロトラスト症患者1症例、3)非被爆者として、国立長崎医療センター保管ブロック4症例、九州大学病理保管ブロック3症例を用いて、骨、肺、肝臓、腎臓等についてオートラジオグラフィー法を行った。得られたアルファ粒子飛跡の長さを計測し、アルファ粒子の乳剤内におけるエネルギーと飛程の関係をZieglarの方法に基ついて検討した。結果:長崎原爆急性被爆症例では、肺、腎、骨等の組織標本について非被爆者に比べて多くの数のアルファ粒子飛跡が認められた。また、Zieglarの式により、アルファ粒子飛跡の長さの計算から、239Pu特有のエネルギーとほぼ一致するアルファ粒子の飛跡パターンが確認された。さらに、今後、放射線検出器を用いて放射線核種の同定を行う予定である。
  • 多賀 正尊, 伊藤 玲子, 三角 宗近, 中地 敬, 安井 弥, 濱谷 清裕
    セッションID: P3-132
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    原爆投下後60年以上が経過しても原爆被爆者における肺がんの過剰相対リスクはいまだに高い。しかしながら、放射線被曝が長期間にわたり肺がん発生に影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。我々は、放射線被曝が肺発がんに及ぼす影響を検討するため、原爆放射線被曝者20人および非被曝者18人の非小細胞肺がん症例のp16RASSF1A 遺伝子のDNAメチル化の状態を解析し、放射線被曝との関連を調べた。その解析から、被曝非小細胞肺がん症例のRASSF1A 遺伝子のDNAメチル化は非被曝症例よりも低頻度であり (32% (6/19) vs. 56% (10/18))、被曝症例では、扁平上皮がんのメチル化の頻度は腺がんよりも低いという傾向がみられた。統計的な有意差はなかったが、これらの結果から、組織型特異的に特定の遺伝子のメチル化頻度が放射線被曝と関連することが示唆された。症例数を増やした更なる研究が必要である。
    ゲノムDNA全体のメチル化の指標となるレトロトランスポゾンLINE1 のメチル化の状態も解析中である。この解析結果も報告する予定である。
  • 高橋 恵子, 多賀 正尊, 伊藤 玲子, 中地 敬, 濱谷 清裕
    セッションID: P3-133
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    甲状腺がんは、放射線被曝との関連が強いがんの一つであり、原爆被爆者においても、その危険度が被曝線量に比例して増加することが見出されている。甲状腺乳頭発がんの重要な初期事象はMAPKシグナル伝達系の持続的活性化であり、この活性化は2つのタイプに分類しうるかもしれない以下のような遺伝子変異の一つによって引き起こされる:すなわちRETおよびNTRK-1染色体再配列、またはRASおよびBRAF遺伝子点突然変異である。さらに、これらの遺伝子変異のほとんどは、MAPKシグナル伝達系だけでなくPI3K/AKTシグナル伝達系も活性化することが知られている。最近、PI3K/AKTシグナル伝達系に関連するPIK3CA遺伝子の増幅が甲状腺乳頭がんで見出されており、PI3K/AKTシグナル伝達系の活性化も甲状腺乳頭発がんに関与することが示唆される。
    放射線被曝と甲状腺乳頭発がんの関連を明らかにするために、我々は73症例の原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんについて、MAPKシグナル伝達関連遺伝子の変異すなわちRETNTRK1およびBRAF再配列、並びにBRAFおよびRAS点突然変異の解析を行なった。原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんにおいて、BRAFおよびRAS点突然変異の相対頻度は放射線量の増加にともない有意に減少するのに対し、RETNTRK1遺伝子再配列は放射線量の増加にともない相対頻度が有意に増加することを見出した。これらの結果は、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんにおける染色体再配列、特にRET/PTC再配列の役割の重要性を示している。
    また、他の未同定の遺伝子変異を有する甲状腺乳頭がん症例は高線量に被曝し,被曝後早期に発症した患者に多く観察された。この結果は、RET/PTC遺伝子再配列以外の他の放射線関連遺伝子変異が放射線関連甲状腺乳頭発がんに関与することを示唆する。このことを考慮し、現在、PI3K/AKTシグナル伝達関連遺伝子PIK3CAの増幅について解析を行なっており、その結果も合わせて報告する。
  • ―コピー数変異体(CNVs)を指標として―
    高橋 規郎, 佐藤 康成, 小平 美江子, 佐々木 圭子, 児玉 喜明, 下市 裕子, 金子 順子, 三浦 昭子, 今中 正明, 檜山 英三 ...
    セッションID: P3-134
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】原子爆弾放射線の継世代影響、即ちヒト生殖細胞への影響をゲノムワイドに研究するために、我々は人工バクテリア染色体 (BAC)-マイクロアレイを基盤とした比較ハイブリダイゼーション(BAC-aCGH)法を導入した。本法を用いて305名を調べたので、その結果を報告する。【実験】我々は、少なくとも片親が高線量放射線(≧ 1.0 Gray)に被曝している265名の子供と非被曝両親から生まれた40名の子供をBAC-aCGH法を用いて調べた。この調査においては、ヒト常染色体上に存在する約2,500 BAC-クローンを貼り付けたアレイを使用した。【結果】総数1,534個のコピー数変異体(CNVs)を同定したが、そのうち97CNVsは、その頻度が1%以下である“まれな”変異型と呼ばれるもので、32領域に見つけられた。まれなCNVsについて、それらが新規突然変異なのか、親から遺伝したものなのかを、子供と両親のDNAを定量ポリメラーゼ連鎖反応法で調べることにより確認した。3名の子供に検出した3個のまれなCNVsは、両親には認められなかったので、それらを“新規突然変異候補”と定義した。1個の突然変異体は欠失型であり、残り2個は増幅型であった。新規突然変異の親の起源は、変異領域に存在する単塩基多型を用いて決定した。3個すべての変異体は被曝した父親由来の配偶子に生じていた。【考察】被曝グループの突然変異率が被曝していないグループの突然変異率に比べ有意に高いか否かに関して確実な結論を得るには、新規突然変異の数(3個)はあまりにも少なすぎる。また、過去のデータでは放射線が原因の突然変異は欠失型であると思われていた。しかし、過去の動物実験においては、その技術的限界により重複型は検出できない。断片重複型が欠失型と同様に一般的に生ずるか否かを調べることは重要である。そのため、我々は高密度アレイシステムを用いて、1) より多くの遺伝子座数を調べ、その結果として同定される新規突然変異数を増やすこと、2) 重複型新規突然変異が放射線量に依存しているか否かの情報を得るための調査を継続している。
  • 佐藤 康成, 佐々木 圭子, 福場 郁子, 檜山 英三, 今中 正明, 下市 裕子, 金子 順子, 小平 美江子, 高橋 規郎
    セッションID: P3-135
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ヒトのゲノムには多くのコピー数の多型があり、それらの幾つかは病気や個人差に関わることが広く知られている。ほとんどの多型は親から子へと伝わるが、少数は新規に生じる。我々は原爆放射線が原爆被爆者の生殖細胞に新規コピー数変異を起こすかを子供のゲノムを調べることにより調査してきた。親の片方だけが放射線に被曝した場合には、どちらの親に由来する子供の相同染色体に変異が生じたかを識別する必要がある。ヒトゲノム全体を調べるために、我々は2,500個のBACクローンを載せたBACアレイCGH法による検査を行った。この研究では、被爆者の子供265人と対照群の子供40人のゲノムDNAを用いた。親には検出されない3つの変異が3人の子供に同定された。1つの変異は染色体1q41に存在した1.4 Mbの長さの欠失で、残り2つの変異は5p15.2における131,290bpの増幅および17p13.3における431,737bpの増幅だった。欠失変異の切断点には、両端にゲノム断片の重複が存在したので、正確な切断点を決定することはできなかった。2つの増幅変異の両方で切断点にはそれぞれ数塩基の相同領域があった。3家族の全てにおいて片親のみが原爆被爆者であったことから、新規に生じた変異の親の起源を決定する必要があった。変異を含むゲノムの領域における単塩基多型(SNPs)情報のメンデル遺伝からの不一致を調べるために、アフィメトリックスSNPアレイ6.0を用いた。欠失変異を含むゲノム領域にある422個のSNPを調べ、そのうち43個のSNPが親の起源を識別するのに有益な情報を持っていた。2つの増幅変異を含む領域には54個と85個のSNPがあり、そのうちでそれぞれ15個のSNPが有益な情報を持っていた。それぞれのケースにおいて、有益なSNPは3つの変異全てが被爆した父親由来の染色体に生じたことを示した。SNPアレイは、新規コピー数変異の親の起源の決定に有用であった。被爆者の子供の突然変異率が、対照群の突然変異率に比べ有意に高いかどうかに関して確実な結論を得るには、新規コピー数変異の数(3個)は少なすぎる。我々は統計的な検出力を増加させるために研究を継続、拡大していく。
放射線物理・化学
  • 中村 秀仁, 北村 尚, 硲 隆太, 辻 厚至, 犬伏 正幸
    セッションID: P3-136
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    理学・工学・医学などの幅広い科学の分野で、放射線検出器として様々なシンチレータが使用されている。特に有機(プラスチック)シンチレータは、低コストであるため、お手軽に購入できる検出器であり、半世紀に渡り非常に多く人に利用されてきました。
    このプラスチックシンチレータは、ベース素材である芳香族を含むプラスチックに、波長変換剤を1から2種類ドープして作られています。主として、波長変換剤をドープする理由を挙げると、ベース素材の蛍光(短波長領域)を検出する検出器の波長感度(可視光領域)に変換するためです。しかしながら、時代の進化に伴い、市販の検出器でも短波長領域の光を検出できるようになってきました。
    本研究は、シンチレーション検出器の歴史をもう一度顧みることで、プラスチックシンチレータでなく、“単なる”プラスチックでも高精度に放射線検出が可能であることを実証するものです。そこで、新たにプラスチックシンチレータのベース素材として使われるポリビニルトルエン(サイズ:62×62×10mm)を開発し、その性能評価を行いました。この結果、ポリビニルトルエンのエネルギー分解能は、σ=3.5/E1/2であることが分かりました。これは、同サイズのプラスチックシンチレータにて同実験および解析を行った際に得られた結果σ=3.7/E1/2を凌ぐ性能です。つまり、プラスチックシンチレータではなく、単なるプラスチックで十分に放射線検出可能である事が示されました。また、通常スペックの光電子増倍管でもさえも、プラスチックからの短波長領域の蛍光を十分に検出でき、各種放射線(β線・γ線・内部転換電子等)のスペクトロスコピーが可能である事が実証されました。短波長領域に感度の高い光電子増倍管等の検出器を用い、プラスチックからの蛍光を測定した場合は、更に高い性能が得られる事が期待されます。
  • ―真空度と温度傾斜率に対するLiTaO3の電子放出特性―
    花元 克巳, 山本 祐紀, 迫田 晃弘, 川辺 睦, 片岡 隆浩, 山岡 聖典
    セッションID: P3-137
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】焦電結晶は自発分極しており表面が帯電しているが、空気中に置いておくと電子やイオンが表面に吸着されて電荷が中和される。温度変化により焦電結晶の自発分極は変化するため、焦電結晶の温度を変化させると補償電荷が結晶表面に残り、その電荷によって高電圧が発生する。これを利用すると、小型の放射線源を作製できる。これまでの研究で、電子、イオン、X線、中性子の発生が認められているが、放射線源として制御するパラメターについてはあまり報告されていない。今回、我々は、焦電結晶表面から放出される電子の特性を、真空度と温度傾斜率をパラメターとして調べた。
    【方法】焦電結晶としてLiTaO3単結晶(z-cut, 10 mm×10 mm×0.5 mmt)を用いた。LiTaO3単結晶を+z方向が表面になるようにアース電位の銅板に固定した。表面から約4.8 mmの位置にコレクタ電極を配置し、電極にピコアンメータ(Keithley 6485)を接続した。真空度は15から25 Pa、温度傾斜率(温度の時間変化)は最大2.0 K/sまで変化させた。温度は室温から約120°Cまで変化させ、その間に放出される電子電流を測定した。
    【結果と考察】焦電結晶表面からアースに向かってパルス状の電子放出が起り、発生した電子電流は100μA程度、放出持続時間は1 ms程度であることがわかった。これは、温度変化によって焦電結晶表面に現れた補償電荷がアース電位との間で高電圧を発生し、発生電圧が真空の耐電圧を超えると結晶表面の電荷がアースに放電したためと考えられる。真空度に関しては、15 Paのときは電子放出がほとんど起こらず、真空度が低く(圧力が高く)なるに従い、単位時間あたりの電子放出回数が増加することがわかった。これは、真空度が低くなると、真空の耐電圧が低くなるためであると考えられる。また、温度傾斜率に関しては、温度傾斜率が高いほど、単位時間あたりの電子放出回数が多くなることがわかった。これは、単位時間あたりに結晶表面に現れる補償電荷が増加したためと考えられる。
  • 伊藤 敦, 税所 康正
    セッションID: P3-138
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    本研究ではDNAの二重鎖にランダムにできた1本鎖切断から2本鎖切断が生成される場合について、切断数と切断場所を表現する確率変数を設定することによって数理モデルを構築し、数学的に厳密に2本鎖切断数の全切断数に対する比の線量依存性の導出を試みた。
    DNAの2本鎖切断生成の数理モデルとして、Chadwick and LeenhoutsによるLQモデルは最もよく実験データの解析に用いられている。このモデルでは、1つのイベント(粒子の通過)で2本鎖が切断される場合と、両鎖の1本鎖切断は独立に生成され、両者が時間的、空間的に近い場合に2本鎖切断に至る場合に分ける。後者の場合について、従来のLQモデルの導出手順では、E.L.Aspenの教科書Radiation Biophysics(1998)によると、両鎖の1本鎖切断生成数(q1及びq2)はポアソン分布に従うとして、比例係数などは除くと、q1, q2=[1-exp(-kD)]となる。ここで、kは単位線量あたりの切断確率、kDは平均切断数である。このとき、2本鎖切断数の全切断数qに対する比は、q/(q1+q2)=[1-exp(-kD)]2/([1-exp(-kD)]+ [1-exp(-kD)])~[1-exp(-kD)]=kD+(k2/2!)D2+・・・(式1)と求められる。
    我々のモデルでは、各DNA鎖の長さをt、各鎖の切断場所の距離がd以内のとき2本鎖切断とみなすとし、このようなDNA2本鎖がN対あるとして、比q/(q1+q2)を求めた。1本鎖切断数は、1本鎖当たりの平均切断数がλのポアソン分布に従うものとした(λはLQモデルにおける平均切断数kDに相当する)。このとき比q/(q1+q2)はN→∞のとき、q/(q1+q2)~(d/t)[λexp(-2λ)+λ2exp(-λ)+λ3](式2)と表現され、式1とは異なる結果となった。しかし、式2においてもλが十分小さい場合は、式1と同様に線量に比例する項と線量の2乗に比例する項の和として表現できることがわかった。また、各DNA鎖の切断の可能性のあるbondの数をnとし、各bondが切断される確率をpとして1本鎖当たりの平均切断数がnpの2項分布に従うモデルも考察し、ポアソン分布の場合と比較した。
  • 齊藤 剛, 藤井 紀子, 藤井 智彦
    セッションID: P3-139
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】放射線の生物影響における細胞内主要ターゲットの一つとして細胞膜が考えられている。この細胞膜の主な構成分子として脂質が挙げられる。本研究では電離放射線の脂質損傷過程を解析するための基礎データーを得るため、最も単純な生体脂質である脂肪酸(リノレン酸)に対しγ線を照射し、電離放射線による代表的な脂質損傷である脂質過酸化反応について解析を行った。【方法】1)1 mMリノレン酸ベンゼン溶液を調整した。2)調整リノレン酸ベンゼン溶液に対して種々の吸収線量の60Coγ線を種々の線量率で照射した。3)照射試料にTBA(thiobarbituric acid)試薬を加え15分間沸騰水中で加熱し、加熱後試料の可視部吸収スペクトルを測定することにより生成malondialdehyde(MDA)量を定量し、脂質過酸化について解析した。4)PBS(-)に対し最終濃度0.08%となるようにnonaethylene glycol monododecyle etherを、また最終濃度1 mMとなるようにリノレン酸を加え、リノレン酸ミセル溶液を調整し、2)3)と同様の方法でγ線照射による脂質過酸化について解析した。【結果および考察】リノレン酸ベンゼン溶液へのγ線照射実験において、リノレン酸過酸化を示す生成MDA量は0-60 kGyの吸収線量の範囲で吸収線量依存的に増加していた。そして、その線量-効果関係は非線形であることが明らかとなった。また、この実験条件においては逆線量率効果が存在することが示された。一方、リノレン酸ミセル溶液への線量率0.8 kGy/hのγ線照射実験において、0-0.5 kGyの吸収線量の範囲で生成MDA量は吸収線量増加に伴い直線的に増加し、0.5 kGyを超える吸収線量域においては吸収線量の増加に伴い徐々に減少していくことが明らかとなった。これらのことより、γ線による脂質過酸化反応はその分子環境により大きく影響を受けることが示された。さらに、本大会ではこのようなγ線照射による脂質過酸化反応に対する脂溶性抗酸化剤の影響について発表する予定である。
  • 吉田 聡, SILVA Nallahandige Renuka Nishanthi, LATHIFF Mohomod Abdul
    セッションID: P3-140
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    移行係数は、環境中での放射性核種の挙動を予測するために古くから利用されているパラメーターの一つである。生物とその媒体における核種の濃度比という非常に単純な値でありながら、環境を通した人の線量評価には依然として重要な役割を果たしている。加えて、近年は環境生物そのものの線量とその影響を評価する事が重要課題となっており、そのための基礎データとしても移行係数の更なる収集が望まれている。現在の土壌-植物移行係数の多くは、ヨーロッパを中心に集められた物であり、他の環境に適合するデータは非常に限られている。特に、原子力施設の数が急速に増えつつあるアジアは、ヨーロッパとは全く異なる自然環境を持ち、独自の環境移行パラメーターの整備が急務である。本研究では、スリランカの農耕地にて栽培された葉菜を土壌と共に元素分析し、主要元素及び微量元素についての移行係数を算定した。葉菜の栽培は有機農法と従来法の二つの異なる形態で行い、全部で土壌20試料、葉菜80試料を分析した。元素の分析は、試料を酸分解した後に、ICP-質量分析装置とICP-発光分光分析装置を用いて行い、土壌は約45元素、葉菜は約30元素を定量した。
    多くの場合、移行係数が最も高いのはKで、続いて、P、Ca、Mg、Rb、Mo、Mnの順であった。これらの元素は移行係数(乾燥葉菜中の濃度/乾燥土壌中の濃度)が1を超えた。日本の野菜で得られている値と比較すると、ほとんどの元素はスリランカの方が高い値となった。IAEAのデータベース(TRS-364)との比較や有機農法と従来法の違いに関しても議論する。
  • 迫田 晃弘, 花元 克巳, 石森 有, 山本 祐紀, 西山 祐一, 山岡 聖典
    セッションID: P3-141
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【緒言】岩石を構成する鉱物(造岩鉱物)がマグマから晶出するとき、主要構成元素のほかにウランやトリウムなどの放射性核種も取り込まれる。この結果、岩石は自然放射能を有する。ウランやトリウムはいずれも珪酸塩と結合しやすい親石元素であるため、一般的に花崗岩のような酸性岩中の放射能濃度は高い傾向にあると考えられている。本研究では、造岩鉱物間における自然放射能、およびラドン(222Rn)散逸能の比較実験を行った。
    【材料と方法】試料として、粒径500 μm以下に調製した花崗片麻岩および風化花崗岩土壌を用いた。X線回折によって両岩石中の鉱物を大まかに同定した後、SPT(sodium polytungstate)重液を用いて鉱物別に分離した。分離後、あらためてX線回折を行い、分離の精度を確認した。分離鉱物は高純度ゲルマニウム検出器を用いたγ線測定によって、放射能濃度(238U、232Th、226Ra、40K)およびラドン散逸能を測定した。また、BET法にしたがって比表面積も測定した。
    【結果と考察】鉱物分離の結果、片麻岩からは石英(SiO2)と白雲母(KAl2(Si3Al)O10(OH)2)、風化花崗岩からは石英、微斜長石(KAlSi3O8)および針鉄鉱(FeO(OH))を得た。片麻岩において、いずれの放射能濃度も白雲母の方が10倍以上の高値を示したが、ラドン散逸率はその逆の傾向を示した。また、風化花崗岩においては、40Kの放射能が微斜長石>針鉄鉱≒石英、他核種が針鉄鉱>微斜長石>石英の順で、ラドン散逸率は針鉄鉱≒石英>微斜長石の順であった。40Kの分配の不均一性については、鉱物の化学組成から容易に理解できる。一方、天然放射性系列核種については、対象鉱物(石英、白雲母、微斜長石)の中でマグマからの晶出順序が最も遅いのが石英であるため、ウランやトリウムは先に晶出する白雲母あるいは微斜長石に多く含まれたと考えられる。ここで、針鉄鉱は粘土鉱物のため比表面積が大きく、その高い吸着性によって放射性核種を保持していたと考えられる。本大会では、比表面積などの観点からラドン散逸率についても検討し、報告する。
  • ―温度傾斜率による電流特性の検討―
    山本 祐紀, 花元 克巳, 迫田 晃弘, 川辺 睦, 片岡 隆浩, 山岡 聖典
    セッションID: P3-142
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】焦電結晶は温度変化により自然分極が変化し、表面が帯電するという物質である。この結晶を利用すると高エネルギー電子を得ることができる。よって、これまでの放射線発生装置とは違い、高電圧電源が不要で非常に軽量化された放射線発生装置をつくることが可能となる。これまでに、この焦電結晶を用いて放射線の発生に関する研究が行われてきたが、制御に対する基礎的なデータは調べられていない。そこで、我々はまず、電子線に関する基礎的なデータを調べるために時間に対する温度変化(以下、温度傾斜率とする)と圧力をパラメータにして、焦電結晶から放出された電荷量を測定した。
    【方法】焦電結晶には、10(mm)×10(mm)×0.5(mm)の大きさのLiTaO3を用い、抵抗値が78(Ω)のヒーターを用いてヒーター電流を0.2、0.3、0.4(A)と変えることで、温度を室温から約70(°C)まで変化させ、温度傾斜率を0.4~1.5(K/s)まで変化させた。また、圧力もロータリーポンプを用いて、15、20、25(Pa)の3段階に分けて、それぞれ、温度傾斜率を変化させたときの放出された電荷量を30秒間測定し、これを3回行った。
    【結果】圧力が20(Pa)において温度傾斜率の平均が0.4、0.9、1.5(K/s)のとき、放出された電荷量の平均はそれぞれ73.0、258.6、493.9(nC)となり、温度傾斜率が大きいときに単位あたりに放出される電荷量も大きいことがわかった。また、温度傾斜率が1.5(K/s)において圧力が15、20、25Paのとき放出された電荷量はそれぞれ156.7、493.9、492.3(nC)となり、圧力による違いは20(Pa)と25(Pa)とではあまり差はなく、20、25(Pa)と15(Pa)とでは放出される電荷量に大きな差があった。よって、圧力が低すぎると電子が放出されにくいことがわかった。
  • 吉田 正博, BRAHMANANDHAN Muruganandam G, 陶山 昭彦, 高村 昇, 松田 尚樹
    セッションID: P3-143
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【背景と目的】インド半島南端のTamil Nadu州は、その北西に位置するKerala州とともにモナザイト鉱石の産生地であり、海岸線は高自然放射線地域として知られている。モナザイトを含む海砂は海岸線100km以上にわたり不均一に分布しており、その核種および線量は測定スポットによって大きく異なる。本研究では、Tamil Nadu州海岸における高放射能スポットの海砂をサンプリングし、その放射能測定を行なった。
    【方法】インド半島最南端のKanyakumari地区より約30km北西のManavalakurichi町Chinna Vilai村海岸において、フィールドメータ(Aloka)により高放射線の確認されたスポットより採取した海砂3種(各約100g)を試料とした。試料を前処理を施さずU-8容器に封入し、HPGe半導体検出器(EG&G ORTEC)により放射能を測定し、ガンマスタジオ(SEIKO EG&G)を用い解析を行なった。
    【結果と考察】高放射線スポットは幅2m、長さ7m程度で海岸線に平行して存在しており、in situ測定により最大で162.7mSv/y(18.8μSv/h)の線量が確認された。これは同町(スポット不明)における過去のin situ測定結果(11.4μGy/h、Singh et al. 2007)よりも高かった。採取試料は袋に封入した状態でGMサーベイにより1000cpm以上の計数値(BG、70cpm)を示し、3種全ての試料からトリウム系列6核種(Ac-228、Th-228、Ra-224、Pb-212、Bi-212、Tl-208)、ウラン系列4核種(Pa-234m、Ra-226、Pb-214、Bi-214)、およびアクチニウム系列のTh-231がHPGe半導体検出器により検出された。放射能(Bq/g)は1.08(Bi-214)~43.7(Th-228)の範囲にあり、ケララ州海砂の核種分析結果(Shetty at al. 2006)とほぼ同程度にあるものと判断された。
  • 羽根田 清文, 吉岡 宗徳, 林 慎一郎, 笛吹 修治, 富永 孝宏
    セッションID: P3-144
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線量の測定に関して、空洞電離箱線量計が使用されることが多い。しかし、空洞電離箱線量計は空洞内において準電子平衡が成立する必要があり、非電子平衡領域となる小体積物における測定は困難である。そのため空洞電離箱以外の各種固体線量計による測定が試みられているが測定対象と検出器の材質が異なるなどの事由により精確な測定は困難である。
    ポリマーゲル線量計はラジカル重合反応を利用したパッシブ線量計であり、水、ゲル化剤にラジカル重合反応を起こすビニルモノマーより構成され、放射線を照射すると照射による生じたラジカルとビニルモノマーが重合反応を起こし、ゲルが白濁固化する。照射後の媒体の変化をMRIなどにて測定することにより線量測定が可能となる。
    測定媒体(ファントム)と検出媒体(線量計)が同媒体であるため非電子平衡領域においても線量測定が可能であり、かつ媒体は水等価物質であるためエネルギー依存性などの影響をうけない。また、線量計であるとともに材質が水等価ゲルであるためそれ自身が任意形状ファントムを兼ねる。
    我々は、これらの特性を有するゲル線量計を用いて、様々な小体積ファントムに電子線および光子線を照射した際の線量および線量分布を測定し、従来の空洞電離箱による測定等と比較した有用性を報告する。
  • 山中 正嗣, 加藤 一生
    セッションID: P3-145
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的]現在、日本各地点で放射性物質の環境モニタリングが行われ、周辺公衆の線量推定・評価などにデータが用いられている。しかし、本大学キャンパスの位置する広島県北部庄原市においてはそのような環境モニタリング、研究が行われていない。そこで、本研究では庄原市郊外の一地点において、環境中の放射能のデータを蓄積し、周辺環境が放射能にどのような影響を与えているか、研究を始めた。まず、月ごとに収集した大気粉塵の放射能を分析し、どのような環境放射能が存在しているか、そして大気粉塵中の放射能が何に由来しているかを明らかにすることを目的とした研究を行っている。
    [方法]大気粉塵は収集装置(Aloka製、DMS-205)を用いて80ℓ/分の吸引量で6時間吸引した。収集直後にフィルター(ADVANTEC製、HE-40T)に吸着した大気粉塵を密封してOxford社製CPVDS30-0190、体積160cm3の超高純度ゲルマニウム半導体検出器でγ線を測定し、トリウム系列、ウラン系列の放射平衡を考慮した上で放射能を正しく推定するために、時間をおいて複数回放射能を測定した。また、周辺地域の岩石等が大気粉塵の放射能に影響を与えていると思われるので、庄原市周辺の岩石・土壌を採取、放射能を測定し、その結果と大気粉塵の測定結果を比較してどのような関係があるか調べることにした。岩石試料は粉末状にし、土壌試料は有機物を取り除いて乾燥させた後、密封状態にして大気粉塵と同様に放射能を測定した。
    [結果と考察]これまでの測定から、冬季から春季にかけて観測された放射能が、夏季においてはあまり観測できないという結果が見られた。これは、冬季から春季にかけて大陸側から吹く季節風により大陸起源の放射能を含んだ黄砂などの微粒子が日本側に運ばれ、大気粉塵中の放射能として観測された可能性が示唆される。また、現在は放射平衡を考慮した上で大気粉塵、及び岩石・土壌試料を測定中である。本大会において、これらの測定結果から大気粉塵と周辺地域における岩石・土壌の放射能にどのような関係が見られるかについて言及する予定である。
  • 佐藤 裕哉, 星 正治, 大瀧 慈, 丸山 博文, CULLINGS Harry M, 川上 秀史
    セッションID: P3-146
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    被ばく放射線量の推定には爆心地からの距離を正確に把握する必要がある。しかしながら、地図や空間解析技術の制約により、これまで爆心距離(地上距離)は100mメッシュ単位での精度であった。本研究では、より正確な評価を行うために地理情報システム(GIS)を用いて1地点(家屋単位)での分析を目指している。作業手順の概要は以下の通りである。
    1)ベースマップの選定。大正15(1925)年から昭和3(1928)年にかけて作成された「広島市都市計画図」(縮尺:2500分の1)をベースマップとして選定した。GISで作業を行うため、地図をスキャナーで読み取りtiffファイルに変換した。
    2)番地記入作業。このベースマップは測量図であるが、住所情報(番地)や位置座標(緯度経度)は記載されていない。そこで、「広島市戦前戸別詳細地図」(1930年頃作成)に記載されている番地を書き写す作業を行った。
    3)幾何補正。上記2)で作成した地図に位置座標を与えるため、GISを用いて幾何補正を行った。幾何補正とは、地上基準点(例えば被爆建物)を選定して位置情報を与え、画像のゆがみを調整する作業である。幾何補正の基準としては「数値地図2500」などを用いた。
    4)ABS(原爆被爆者データベース)被爆地点情報との照合による被爆位置の決定とデジタイジング。ABSに記載されている被爆地点情報(住所)を参照して地図上から当該地点(家屋)を探し、GISを用いて家屋ポリゴンを作成した。そして、家屋ポリゴンの重心座標を求め、これを被爆位置とした。
    5)爆心距離の算出。GISのエクステンションソフトであるHawths Toolsを用いて爆心地の座標と、上記4)の重心座標との距離を求めた。
    上記の作業により、若干の誤差は生じるが、家屋単位の距離の算出は可能であり、手法の一定の有効性は確認できる。今後、検討すべき課題として、1.ベースマップとした地図の精度、2.被爆建物の減少などによる幾何補正の精度、3.ABSに記載されている被爆地点の精度、などがあげられる。
    本報告では上記の作業手順と問題点、2009年10月末時点での成果(爆心距離)、これまでの方法との差異・改善点の詳細について紹介する。
    本研究の遂行に、平成21年度科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(課題番号:21652070、研究代表者:佐藤裕哉)の一部を使用した。
市民公開講座
大会長挨拶
大久保利晃(HICARE理事、財団法人放射線影響研究所理事長)
主催者挨拶及びHICAREの活動紹介
土肥博雄(HICARE会長、広島赤十字・原爆病院院長)
国際機関による放射線被曝者支援の近況について
大島 賢三 (JICA副理事長・前国連大使、HICARE理事)
feedback
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