日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
選択された号の論文の284件中101~150を表示しています
アポトーシス
  • 小穴 孝夫, 岡田 美紀江, 辻村 秀信
    セッションID: OB-24
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ショウジョウバエ三齢幼虫にX線を照射し、変態後の成虫において翅毛スポットテストを行い、体細胞突然変異の頻度を計測したところ、0.2Gy照射群では変異頻度が非照射群よりも低く、線量応答関係が下に凸であることが示唆された。またDNA修復の欠損系統では線量応答が直線となることがすでにわかっている。今回、アポトーシス機能を欠く個体での線量応答関係を調べるため、バキュロウイルスのp35遺伝子を導入して翅の後半部分でアポトーシスを抑制した。このような個体では翅の後半部分で変異頻度が増加した。特に染色体末端の欠失や不分離は大幅に増加したが体細胞組換の頻度はアポトーシス抑制の影響を受けなかった。また線量応答曲線はアポトーシスを抑制しても下に凸のままであり、この線量域での線量応答曲線の形状に対するアポトーシスの寄与はDNA修復に比較して大きくないことが示唆された。
修復遺伝子
  • 小野 哲也, 上原 芳彦, 池畑 広伸, 何 東偉, 陳 亜麗, 古谷 真衣子, 小林 彩香, 小村 潤一郎
    セッションID: OB-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    癌細胞ではDNA変異が多数見出されることから正常細胞が癌化するプロセスのどこかで突然変異が異常に増加する状況(mutator phenotype)が生じると考えられているが、その詳細についてはまだ分かっていない。他方、最近のいくつかの研究から1つのDNA分子上に複数の変異があるmultiple mutationが予測されるよりかなり高頻度で見出されることが分かり、mutator phenotypeの有力な証拠のひとつとして注目されると同時にその特性の解析が待たれている。我々はXpc遺伝子を不活化したマウスの老化に伴う突然変異の変化を解析する中で、multiple mutationの頻度が増加することを見出したので報告する。マウスはlacZを導入されたMutaマウスとXpc遺伝子をKOされたマウスを交配し、lacZとXpc欠損を同時にもつものを用いた。2ヶ月、12ヶ月、23ヶ月令でlacZ上での突然変異頻度を調べ、Xpc欠損の影響がみられる臓器について変異の質を解析し、そこで見出されるmultiple mutationについて分析した。その結果(1) multiple mutationの頻度はXpcの欠損した老化マウスで増加する、(2) その中でみられる突然変異のスペクトルはsingle mutationでのスペクトルとは異なる、(3) Xpc欠損老化マウスで見出された20個のmultiple mutationのうち2つでは短いDNAの中に4個の変異がみられる、などが分かった。これらのことはXPCが自然突然変異の加令に伴う蓄積を抑制することに働いていること、もしそれが働かないと損傷が蓄積し、そこでDNA複製が起こるとき損傷乗越え(TLS)DNAポリメラーゼが働いてmultiple mutationを引き起こすことを示唆しているように思える。因みにTLSポリメラーゼのいくつかはmultiple mutationを引き起こすことが示されている。
  • 田内 広, 田中 彩, 佐藤 惇, 阿部 紘子, 飯島 健太, 白市 浩二, 助川 恵, 大原 麻希, 小林 純也, 小松 賢志
    セッションID: OB-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ナイミーヘン症候群(NBS)の原因タンパクNBS1は、DNA二重鎖切断(DSB)に応答したATMの活性化や細胞周期チェックポイント、相同組換え(HR)によるDSB修復に関与している。一方、Ku70タンパクは非相同末端結合(NHEJ)によるDSB修復の初期に中心的に関わる因子である。これら2つのタンパクは互いに相互作用しながら細胞のDSB応答が制御されていると考えられるが、その詳細は明かではない。我々は、NBS1がKu70のアセチル化を制御することでKu70-Bax複合体の解離を促進し、ATM-p53経路とは独立にDNA損傷によるアポトーシスを制御していることを見出した。今回、Nbs1とKu70の相互作用ならびにこれらが制御するHRとNHEJの生体機能をさらに解析するために、ニワトリDT40細胞を用いてNbs1およびKu70のダブルノックアウト細胞の樹立を目指してきた。これまでの実験でKu70-/-・Nbs1+/-/-細胞が非常に増殖が悪いことがわかっていたことからNbs1/Ku70ダブルノックアウト細胞は致死となることを予想し、Nbs1コンディショナルノックアウト細胞のKu70をノックアウトするというアプローチで実験を進め、最終的にCre組換え酵素による外来NBS1の除去によってダブルノックアウトをおこなった。その結果、驚いたことにNbs1/Ku70ダブルノックアウト細胞は、正常細胞やそれぞれのシングルノックアウト細胞と比較して顕著に増殖が遅いものの、生存可能であることがわかり、細胞の生存には、いわゆるクラシカルなNHEJとHR以外の経路が存在することが強く示唆された。現在、Nbs1/Ku70ダブルノックアウト細胞のDNA損傷剤感受性や染色体異常などの表現型解析をおこなっており、既に報告されているHRとNHEJの二重欠損であるKu70/Rad54ダブルノックアウト細胞との比較等について発表したい。
  • 近藤 夏子, 高橋 昭久, 大西 健, 中瀬 裕之, 大西 武雄
    セッションID: OB-27
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】テモゾロミド(TMZ)はグリオーマの化学療法に使用されるアルキル化剤の一種である。しかし、治療効果は薬剤抵抗性の獲得のために限界がある。この薬剤に対する抵抗性のメカニズムは複雑で、多くのDNA修復経路が関与し、薬剤効果はDNA修復の寄与に強く左右されることが示唆されてきた。最近、Fanconi anemia(FA)経路はTMZによってできるDNA損傷によって活性化されることが明らかになった。FA経路には少なくとも12個の因子(FANCA, B, C, D1, D2, E, F, G, I, J, L, M)が関与する。今回我々は、FA経路関連遺伝子;FANCA、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCG中で、薬剤の殺細胞効果を高める標的候補を比較検討した。
    【方法】p53ノックアウトマウスから確立されたMEF細胞FANCA -/-、FANCC -/-、FANCD2 -/- (Fanconi Anemia Cell Repository; Oregon Health and Science Univ., USAより譲渡)、CHO細胞由来のFANCD1mt、FANCGmt (Dr. Larry H. Thompson; Lawrence Livermore National Laboratory, USA) およびそれぞれの親株細胞を用いた。TMZを培地中に添加して3時間、37°C処理し、コロニー形成法にて生存率を算出した。
    【結果】それぞれの細胞のD50(50%生存率の薬剤濃度)を正常型のD50と比較し、%表示した相対的D50 値はFANCA -/-、FANCC -/-、FANCD2 -/-細胞で各々83.3、100、66.6、 FANCD1mt、FANCGmt細胞で4、13.3であった。FANCD1の相対的D50 値が最小で、TMZの殺細胞効果を最も高める標的はFANCD1であることを明らかにした。
    【総括】今後、FANCD1を標的としたsiRNAによって、グリオブラストーマのTMZによるがん治療効果が増感するのかを検討する
  • KAMDAR Radhika, 松本 義久
    セッションID: OB-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Ionizing radiations cause DNA double strand breaks (DSBs) which are potentially the most lethal lesions causing genomic rearrangements and cancer if left unrepaired. Homologous Recombination (HR) and Non-Homologous End-Joining (NHEJ) pathways are the major repair mechanisms observed in mammalian cells. HR is usually dominant in S and G2 phases of the cell cycle as it requires a pair of sister chromatids for error-free replication; whereas NHEJ is observed in all the stages.
    According to the classical model, Ku70/80 heterodimer is recognized as a sensor to first bind the DSB site and recruit DNA dependent protein kinase catalytic subunit (DNA-PKcs) which brings the broken ends in synapsis. The nucleases like Artemis and DNA polymerases like λ and μ process the DNA ends to attain adequate homology before ligation. XRCC4-DNA Ligase IV complex along with the newly identified molecule, XLF/Cernunnos (XRCC4-like factor), plays an important role in the final end-joining step.
    The dynamics of this repair machinery is yet to be clarified. We have been using detergent fractionation method to capture the radiation induced chromatin bound complex. A subpopulation of XRCC4 changed into an extraction resistant form that was liberated by micrococcal nuclease treatment, indicating that it had been tethered to chromatin DNA. This chromatin recruitment of XRCC4 could be seen immediately after irradiation and remained almost constant up to 4hr after 20Gy irradiation. Quantitative estimation revealed that a very small percentage of the XRCC4-Ligase IV complex was recruited to each DNA end; thus explaining the complications involved in the detection of the NHEJ machinery at the damaged site.
    In addition, we are exploring the mechanism for recruitment of the ligation complex considering the plausible roles of protein modifications induced by radiation. We have also found some evidence for the requirement of DNA-Ligase IV for the recruitment of XRCC4 at the site of damaged chromatin.
    Currently, we are also isolating a higher order chromatin bound complex associated with XRCC4. This complex suggestively congregates with some histone molecules. Such a striking association of histone molecules with XRCC4 on the damaged chromatin site leads to a speculation that they are structurally reorganized and may be involved in the recruitment dynamics.
  • SHARMA Mukesh Kumar, 松本 義久
    セッションID: OB-29
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    The nonhomologous end-joining (NHEJ) pathway is conserved in eukaryotes, from yeast to humans. Without requiring homologous DNA, NHEJ repairs DNA double-strand breaks produced by xenobiotic agents, such as topoisomerase II inhibitors and ionizing radiation, or by the cellular pathway for V(D)J recombination of the immunoglobulin genes. The key proteins required for NHEJ include the catalytic subunit of the DNA-dependent protein kinase (DNA-PKcs), the Ku70/80 heterodimer, the XRCC4-DNA ligase IV complex and recently found molecule XLF/Cernunnos. From all of these key proteins, DNA-PKcs plays an important role in mediating the repair process through NHEJ repair. Moreover, the protein kinase activity of DNA-PK is required for its in vivo function, as DNA-PKcs containing inactivating mutations in the catalytic domain does not complement the radiosensitive phenotype of DNA-PKcs-deficient cells. DNA-PKcs is known to phosphorylates tens of proteins in vitro but the true substrate in vivo and the significance of phosphorylation in NHEJ remains to be clarified. So, there is need to identify the genuine phosphorylation targets of DNA-PK and found physiological significance of these phosphorylation targets. In the present investigations we have identified several new phosphorylation sites in XLF and XRCC4 protein by DNA-PK in vitro. We have prepared phosphorylation-specific antibodies to respective sites and observed that some of these phosphorylation sites were indeed phosphorylated in the living cells following irradiation. To explore the biological significance of phosphorylation, we established cells expressing phosphorylation-defective mutants.
  • 宮本 達雄, 坂本 裕美, 松本 祥幸, 松浦 伸也
    セッションID: OB-30
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    胎内被曝した胎児が出生した場合、高頻度に発育不全や精神遅滞をともなう小頭症を発症することが動物実験や原爆被爆者の疫学調査から明らかになっている。しかし、その発症機序についての分子・細胞レベルでの理解は進んでいない。我々はヒト遺伝性小頭症の分子基盤を明らかにすることで、放射線障害としての小頭症・発育不全の発症・病態の本質的な理解を目指している。常染色体劣性遺伝病・セッケル症候群は重度小頭症と均整のとれた小人症を特徴とする疾患で胎内被曝者に極めてよく似た病態を示す。本疾患は遺伝的異質性が高く、これまでに原因遺伝子としてATR遺伝子と中心体構成タンパク質であるPericentrin(以下、PCNT)遺伝子が同定されている。
    本研究では、日本人セッケル症候群患者2例にPCNT遺伝子の変異を同定し、患者細胞が細胞周期の進行制御について多様な異常を示すことを見出した。まず、患者皮膚線維芽細胞に紫外線を照射後、分裂指数を解析した。その結果、患者細胞はM期細胞数の抑制が起こらなかったことから、ATRシグナル依存的にG2/M期チェックポイントの異常が示唆された。次に、多くの細胞はG0/G1期に「一次繊毛」という1本の細胞突起構造を細胞表面に形成するが、患者細胞は一次繊毛を有する細胞の割合が大きくなっていることを見出した。また、患者細胞はBrdUの取り込みが低下していたため、S期への進行が阻害されていることが示された。以上のことから、患者細胞はG1期停止状態にあることが示された。さらに、患者細胞はp53タンパク質量とp53の標的であるp21タンパク質量が上昇しており、G1期停止はp53依存的であることが示唆された。このG1期停止は、ヒト骨肉腫細胞U2OS細胞においてPCNT分子をsiRNAでノックダウンすることによっても確認できる。現在、PCNT分子によるp53を介した細胞周期制御機構の解析を進めており、本疾患にみられる臓器サイズ縮小化の発症メカニズムの解明を試みている。
活性酸素・ROS
  • 中山 強志, 橋口 一成, 米倉 慎一郎, 米井 脩治, 山本 和生, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: OC-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    4-Nitroquinoline-1-oxide (4NQO) はUV-mimicな発がん性物質であるが、それ自身はDNA結合性も変異原性も有していない。4NQOはseryl-tRNAによって4-hydroxyaminoquinoline-N-oxide (4HAQO) に変化し、この4HAQOが塩基に結合しDNAに付加産物を生成する。4HAQOには、細胞内の酸化ストレスを増大させ、脂質、タンパク質、DNAにダメージを与える活性酸素種 (ROS)を生成するという、他のDNAを損傷させる機構があると示唆されている。しかし、この機構が変異原性に関与しているかどうかは、まだ分かっていない。MutMとMutYはROSによって生じるDNA損傷の修復に関与する塩基除去修復を行う。UvrAはヌクレオチド除去修復を行う。
    本実験において、我々は増殖期において4NQOによって処理された大腸菌の突然変異スペクトルを調べた。ラクトース復帰突然変異測定法は、6種類の塩基置換変異を独立に測定することができる。この結果、4NQOによって、G:C → A:T、G:C → T:A、A:T → C:Gの変異が特異的に誘導されることがわかった。さらに、我々は4NQOの変異原性がDNAの付加産物としての活性と、ROSを産生する活性のどちらに依存するのかを、mutMmutYmutM mutYuvrA欠損株を用いてリファンピシン突然変異変異測定法で調べた。リファンピシン突然変異測定法は非特異的な突然変異率を測定することができる。その結果から、mutMuvrA欠損株は4NQO感受性であるが、4NQOによって突然変異率は上昇しないことが示唆された。
    我々は4NQOによって生じるROSと突然変異誘発性の関係をより明らかにするため、mutM mutY uvrA欠損株とkatGsoxSなどの活性酸素除去に関わる遺伝子の欠損株を用いて研究を行っている。最終的には、DNA付加化合物としてとROS産生能としての4NQOの活性のどちらがより大きな影響を有しているかを明らかにしたい。
  • 細木 彩夏, 橋口 一成, 米倉 慎一郎, 近藤 隆, 米井 脩治, 野村 崇治, 秋山 (張) 秋梅
    セッションID: OC-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    生物は酸素を利用して生命維持に必要なエネルギーを得ている。しかしその一方で、酸素代謝の副産物として活性酸素 (O2-、H2O2、•OH) を生じることが知られている。この生じた活性酸素は体内に取り込まれた酸素の代謝過程から発生するといった内的な要因以外にも、薬剤、紫外線、放射線などといった外的な要因でも発生する。発生した活性酸素は体内に侵入してきた細菌などから身体を守るなど生命活動の維持に有益に働くことのある反面、細胞構成成分であるDNA、脂質、タンパク質などを非特異的に酸化するなど有害にも働く。そのため細胞はこの活性酸素による損傷を防ぐ防御機構を発達させている。この防御機構は活性酸素を直接的または間接的に除去したり、損傷を修復するように働いている。活性酸素を除去する機構として、細胞は抗酸化酵素と呼ばれる活性酸素を除去する酵素や低分子化合物を多数持っている。通常、細胞内での活性酸素の生成と除去の間では一定のバランスが保たれている。このため過剰に活性酸素が細胞内で増大した場合、活性酸素除去に関わる酵素の発現が誘導され、発生した過剰の活性酸素を除去する。これは外的な要因で人工的に活性酸素を発生させた場合でも同様である。本研究では、抗酸化酵素であるsuperoxide dismutase (SOD) やglutaredoxin (Grx) などをヒト培養細胞 (T-REx HeLa) 内で過剰に発現させた状態で、外的な要因によって活性酸素を人工的に発生させ、酸化ストレスに対する細胞応答の違いを解析することを目的とした。そのために、まずSODとGrxを安定的に過剰発現する細胞株を樹立した。そして、mitochondria局在型SOD (SOD2) 、mitochondria局在型Grx (Grx2) 過剰発現細胞株に放射線 (γ線) を照射し、酸化ストレス応答の変化を生存率、H2AXのリン酸化、OXR1タンパク質の発現量、酸化されたタンパク質の量で調べた。その結果を合わせて報告する。
  • 田野 恵三, 井上 絵里, 吉居 華子, 縄田 寿克, 関 政幸, 榎本 武美, 渡邉 正己
    セッションID: OC-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、有害活性酸素種であるスーパーオキシド(SOX)を過酸化水素に触媒する酵素である。高等真核細胞では細胞局在性を異にする3種類のSODが知られている。我々は、内在性SOXの増加が細胞の生理作用に如何に関与するかを解析することを目的として、細胞内局在性に異なる2種類のSOD1、2の条件欠損細胞を作成した。これらは、それぞれSODの遺伝子欠損細胞にヒトSODのテトラサイクリン抑制型のcDNAが導入されており、ドクソサイクリン (DOX) 添加によりcDNAの発現が抑制されると同時に、SOD1あるいはSOD2が枯渇し、人為的に内在性SOXを増加させることができる。
    DOX添加後、ヒトcDNA由来のSOD 蛋白は96時間で検出限界以下になる。これに伴ってSOD1枯渇細胞では、増殖速度が低下し致死となった。一方、SOD2枯渇細胞は致死にはならないが増殖遅延が観察された。SOD1、2それぞれの枯渇細胞の低酸素培養では、酸素濃度依存的に細胞増殖遅延、あるいは致死効果が軽減された。
    SOD1枯渇による致死効果はアスコルビン酸(APM)のみによって抑制され、NACやTironでは抑制できなかった。一方、SOD2枯渇による増殖遅延は、APM、NAC、Tiron全てで抑制することが出来た。
    DNA損傷の鋭敏なアッセイの一つとして、自発的な姉妹染色分体交換頻度 (SCE) 及び脱塩基部位を測定した。SOD1枯渇細胞は SCE頻度、脱塩基部位ともに、その顕著な上昇が認められた。さらにそれらの増加は、双方ともアスコルビン酸の添加によって抑制された。
    以上の結果から、内在性SOXの上昇に伴ったゲノムDNA損傷が見られ、細胞死や細胞増殖遅延をもたらす事が示唆された。さらにこれらを抑制するAPMと他のスカベンジャーの効果に著しい違いは、内在性SOXを増加させる2つのSODの細胞内局在性に依存している事を示している。
  • 山住 雅之, 山盛 徹, 稲波 修
    セッションID: OC-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】アポトーシスを引き起こすシグナル伝達経路において、活性酸素種(ROS)が重要な役割を果たしていることが近年報告されている。当研究室ではこれまでの研究により、A549細胞において照射数時間後に細胞内ROSが上昇し、これがミトコンドリアからのチトクロムc 放出に関与していることを報告している(Ogura et al., Cancer Lett., 277:54, 2009)。本研究では、このROS生成増加のメカニズムを明らかにすることを目的として、放射線がミトコンドリア機能に対して与える影響について解析を行った。
    【材料・方法】細胞はヒト肺腺癌由来A549細胞を用い、X線は10 Gyを照射した。細胞内ROS量はROS特異的蛍光プローブであるDCFDAを用い、フローサイトメトリーにて評価した。ミトコンドリア機能は、細胞の酸素消費率および細胞内ATP量を指標に評価し、ミトコンドリア電子伝達系complex I阻害剤であるロテノンおよびF0/F1-ATP合成酵素阻害剤であるオリゴマイシンのこれらの指標に対する効果を検討した。
    【結果】A549細胞にX線を照射すると、照射6時間後から有意な細胞内ROS量の上昇が見られた。X線照射12時間後における細胞の酸素消費率の計測では、非照射の細胞と比べ有意な酸素消費率の増加が観察された。また、この酸素消費率の増加はミトコンドリア電子伝達系complex I阻害剤であるロテノンにより顕著に抑制された。細胞内ATP量はX線照射後24時間まで経時的に増加した。このATP量の増加はF0/F1-ATP合成酵素阻害剤であるオリゴマイシンの添加により抑制された。以上の結果からX線照射によってミトコンドリア電子伝達系の活性が上昇し、ROSを生成していることが示唆された。今後、放射線によるミトコンドリア活性化機構について検討を重ねる予定である。
  • 浅井 翔太, 橋口 一成, 中村 允耶, 石井 直明, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: OC-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    酸化ストレスは活性酸素によって引き起こされる。活性酸素は体内では代謝の副産物として細胞内で絶えず産生しており、体外からの放射線や化学物質などによっても産生される。活性酸素が過剰に産生されると体内の酸化ストレスが増加し、さまざまな障害を引き起こす。また、活性酸素はDNA塩基の酸化を引き起こし、その結果DNAに突然変異が起こる。この突然変異の原因となるDNA損傷が修復されなければ、細胞は老化、死、あるいはがん化する恐れがある。
    このため生物には酸化ストレスに対して抵抗性をもつ機構が備わっている。近年ヒトにおいて、OXR1と呼ばれる遺伝子が、G:C→T:Aトランスバージョンを抑制し、過酸化水素による発現誘導を受けるなど、酸化ストレス抵抗性に関わることが見出だされた。しかし現在のところ、このタンパク質が細胞内でどのような機能をもつのか具体的には分かっていない。また、OXR1遺伝子の研究は酵母、ヒト以外の生物ではあまり行われていない。
    本研究において、線虫C. elegansに、ヒトOXR1ホモログ(CeOXR)が存在することが分かった。線虫は老化のモデル生物として有用であると考えられている。さらにライフサイクルが短く(20°Cで3日間)、大腸菌のように大量培養が可能で、さらに遺伝学的手法が利用できるなど、様々な利点がある。
    本研究では、線虫CeOXR遺伝子の機能を解析することを目的とした。はじめにCeOXRをクローニングし、CC104 mutM mutY欠損大腸菌に導入して相補性試験を行ったところ、G:C→T:Aトランスバージョンの抑制が見られた。次にCC101 mutT欠損大腸菌を用いた相補性試験を行ったところ、A:T→C:Gトランスバージョンも抑えることが分かった。さらにCeOXRを欠損した線虫と野生株(N2)との寿命の違いを比較測定した結果、CeOXR欠損株は野生株に対し、10%の平均寿命の短縮が認められた。
    これらのことから我々は、CeOXRは酸化ストレスに対して何らかの防御的役割を果たし、その効果により寿命の延長につながるのではないかと考えている。本研究の進展は、CeOXRの機能解明にとどまらず、老化やがん化のメカニズムの解明につながると考えている。
  • 真田 悠生, 米倉 慎一郎, 菊地 政弘, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: OC-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    生物の細胞内では、呼吸や電離放射線、化学物質への暴露などによって活性酸素種(ROS)が絶えず発生しており、様々なDNA酸化損傷をもたらしている。DNA酸化損傷はDNAに直接おこる場合と、dNTP pool中のdNTPが酸化される場合がある。そして、8-oxo-dGTPや2-OH-dATPなどの酸化されたdNTPは複製の際にDNAに取り込まれ変異を起こすことがある。多くの生物でこれらの異常なdNTPを分解する酵素が同定されており、例えばE. coli MutTは8-oxo-dGTPを分解し、human MTH1(NUDT1)は8-oxo-dGTPや2-OH-dATPを分解する活性を持つことがわかっている。しかし、線虫C. elegansではこういった酵素のホモログは現在見つかっていない。本研究ではC. elegansでdNTP poolを浄化している機構、およびその機構がゲノム安定性においてどのような役割をしているかを解明するため、配列相同性により3つのC. elegansの遺伝子をdNTP poolの浄化に関わる候補として選んだ。そして、それら3つの遺伝子が発現するタンパク質を精製して、酵素活性の解析を行った。その結果、8-oxo-dGTPや2-OH-dATP を分解する活性をもつものは見つからなかったが、NDX-1に8-oxo-dGDPを分解する活性があることがわかった。更に大腸菌mutT変異株を形質転換してndx-1を発現させると、発現していないものよりも突然変異率が下がり、E.coli mutTを部分的に相補することもわかった。また、ndx-1を欠損したC. elegansの表現型の解析経過もあわせて報告する。
放射線治療・感受性
  • 武内 亮, 安井 博宣, 山盛 徹, 中村 隆仁, 大石 基, 長崎 幸夫, 稲波 修
    セッションID: OC-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】金や白金などの高原子番号物質はX線と強い相互作用を有し、低エネルギーX線照射時には主に光電効果やコンプトン散乱により細胞のDNA損傷を増加させることで生物学的効果を増強すると考えられている。実際に3 μm径の金粒子を用いたX線作用の増強効果も報告されているが、正常細胞に対する毒性や生体への投与方法等で課題がある。そこで我々は、6 nm径の金粒子をポリアミンゲルとポリエチレングリコールで包むことで、細胞のエンドサイトーシスに依存して細胞質内に取り込まれ、効率的な放射線増感効果が期待できる148 nmの径を持つ金粒子含有ナノゲル(GNG)を開発した。本研究では、GNG存在下でのX線照射による細胞死の増強作用およびその機序について検討を行った。
    【方法】マウス扁平上皮がん由来SCCVII細胞、ヒト肺腺がん由来A549細胞、ならびにチャイニーズハムスター肺線維芽細胞由来V79細胞に対して、14時間のGNG処置および200 kVのX線照射を行い、コロニーアッセイ法によりGNGの細胞毒性と細胞増殖死の増強作用を検討した。また、SCCVII細胞におけるアポトーシス細胞の割合をPI染色により測定し、透過型電子顕微鏡によりGNGの細胞内局在を評価した。更に、GNGのX線増感作用の機序を調べるため、DNAの二重鎖切断を蛍光免疫染色、ウェスタンブロットならびにパルスフィールド電気泳動法により解析した。
    【結果】GNGは細胞毒性による影響が低い範囲の濃度でX線照射による細胞増殖死およびアポトーシスを増強した。更に、X線照射によるDNAの二重鎖切断はGNGの存在下では抑制されるという結果が得られた。GNGはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、核内ではなく細胞質内に存在していたことと、GNG存在下でのX線照射により、DNA損傷以外の細胞ストレスにも応答するタンパク質であるJNKの活性化が見られたことから、GNGは核のDNA以外を標的としてX線増感効果を起こしていることが示唆された。
  • 女池 俊介, 山盛 徹, 安井 博宣, 松田 彰, 稲波 修
    セッションID: OC-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、固形腫瘍に対する放射線致死効果の増強を目的とし、放射線と制がん剤の併用が広く行われている。プリンアナログである8-amino-adenosineはアデノシンキナーゼなどによって三リン酸化され8-amino-ATPとして蓄積し、内因性ATPプールの枯渇作用やRNA・DNA合成阻害作用を示す制がん剤であり、通常のDNAのみをターゲットにする制がん剤と比較し、高い放射線増感効果が期待される。そこで本研究では、固形腫瘍細胞において8-amino-adenosineの併用による放射線誘導細胞増殖死およびアポトーシスの増感効果ならびにその誘導メカニズムについて検討を行った。
    【方法】ヒト肺がん由来A549細胞に対し、8-amino-adenosineの存在、非存在下で放射線照射を行った。細胞増殖死の評価はコロニーアッセイ法により行った。アポトーシスはPIを用いた形態学的観察により評価した。アポトーシス関連タンパク質の発現の検討は各種特異抗体を用いたウエスタンブロット法にて行った。
    【結果】8-amino-adenosineを処理した細胞では、放射線誘導細胞増殖死ならびにアポトーシスの増加が見られ、制がん剤の併用による放射線増感効果が観察された。また、広域カスパーゼ阻害剤ならびにカスパーゼ3、8、9の特異的阻害剤の効果を検討したところ、全ての阻害剤で放射線誘導アポトーシスの減少が見られた。この結果から、併用処理によるアポトーシス誘導はカスパーゼ依存的であり、その実行経路にはミトコンドリア経路のみならずデスレセプター経路も関与していることが示された。次に、アポトーシス関連タンパク質の発現について検討を行ったところ、抗アポトーシスタンパク質であるサバイビンの発現抑制が観察され、このアポトーシス増感の要因の一つになっていると考えられた。現在、このアポトーシスの増感作用に関して8-amino-ATP自体が促進的に寄与している可能性について検討中である。
  • 角田 智, 志村 勉, 桑原 義和, 落合 泰史, 高井 良尋, 福本 学
    セッションID: OC-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線療法は機能温存に優れているため、がん治療に広く利用されている。しかしながら、がん細胞の放射線耐性は再発を始めとして放射線治療の予後不良の主な要因である。放射線耐性の分子機構を解明することにより、耐性を抑制し、より有効な放射線治療法の確立が期待される。標準的な放射線療法は毎日2Gy、総線量50-90Gyの分割照射からなっている。我々は分割照射によるがん細胞の放射線耐性の獲得機構についての解析を行ない、その抑制法について検討した。
    ヒトがん細胞株HepG2とHeLaに、X線0.5Gyを、12時間毎に31日間分割照射し、31分割細胞を作製した。また、31分割細胞を照射なしでさらに31日間以上培養し、31分割-休止細胞を作製した。コロニーアッセイによる解析から、これら31分割・31分割-休止細胞(長期分割照射株)では、分割照射していない対照細胞に比べ、放射線治療で用いられる2Gy照射に対し耐性を示した。さらに、放射線耐性は細胞死の誘導の減少によることが明らかとなった。また、31分割-休止細胞は2Gyの分割照射を数週間照射しても細胞増殖を続け、耐性を示した。
    我々の解析から、長期分割照射株では、恒常的にAKTが活性化し、分解阻害によるcyclinD1の過剰発現がみられた。そのため長期分割照射株をAKT阻害剤、AKT/PKB signaling inhibitor-2 (API-2)で処理したところ、cyclinD1の発現が減少し、長期分割照射株の放射線耐性が完全に消失した。
    以上の結果より、分割照射とAKTの阻害剤を併用することで、放射線耐性は制御可能であり、このような分子標的薬剤と放射線治療との併用が、より有効な放射線療法の確立につながると期待される。
  • 桑原 義和, 及川 利幸, 森 美由紀, 志村 勉, 福本 学
    セッションID: OC-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】我々は放射線耐性を理解し、より有効な放射線療法を開発する目的で、複数の細胞株から臨床的放射線耐性細胞株の樹立を目指し、成功した。これらの耐性細胞は標準的な放射線療法である2Gy/dayのX線を照射し続けても増殖する。本研究では、放射線耐性細胞を効率よく死滅させることのできる抗がん剤また放射線耐性と交叉耐性を示す抗がん剤のスクリーニングを行い、そこから放射線耐性のメカニズムを知るきっかけを得ようと試みた。
    【方法】HepG2、HeLa、SAS、KB、H1299およびそれらの派生株である放射線耐性細胞HepG2-8960-R、HepG2-R、HeLa-R、SAS-R1、SAS-R2、KB-R、H1299-Rを解析に用いた。抗がん剤のスクリーニングには、シスプラチン(CDDP)、ドセタキセル(DOC)、ブレオマイシン、フルオロウラシル(5-FU)、ビンクリスチン、エトポシド(VP-16)、アドリアマイシン(ADM)を用いた。抗がん剤感受性はHigh-density survival assayにより検出した。さらに、RT-PCR法によりMDR1の発現を解析した。
    【結果】5-FUは、全ての放射線耐性細胞に有効であった。また、7株中6株の放射線耐性細胞でDOCとビンクリスチンに交叉耐性がみられ、7株中4株の放射線耐性細胞でVP-16とADMに交叉耐性がみられた。MDR1の発現は、HepG2に比べてHepG2-8960-Rで高かった。
    【考察】本研究で解析に用いた臨床的放射線耐性細胞株の多くが、DOC、ビンクリスチンおよびADMに交叉耐性を示したことから、臨床的放射線耐性細胞はMDR形質を獲得していることが示唆された。このことは、RT-PCRの解析結果からも裏付けられる。また、今回解析に用いた全ての臨床的放射線耐性細胞がDNAの2本鎖を誘発するブレオマイシンに交叉耐性を示さなかったことから、臨床的放射線耐性にはDNA 2本鎖切断の修復系亢進というよりは、別の機序が関与している可能性が示唆された。
発がん2
  • 石田 有香, 高畠 貴志, 柿沼 志津子, 上西 睦美, 森竹 浩之, 小久保 年章, 西川 哲, 樋野 興夫, 島田 義也
    セッションID: OC-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、小児がんのうち白血病の次に罹患率の多い脳腫瘍について、発達期での放射線被ばくにおける誘発率の線量効果関係、照射時期依存性、および発がんメカニズムを明らかにするため脳腫瘍モデルマウスを用いて研究を行った。生後1日の[C3H/He×C57BL/6Jptc+/-]F1マウスにX線(0.05~3Gy)を照射、一般状態が悪化したマウスを解剖して脳腫瘍の発生を調べたところ、脳腫瘍発生率と潜伏期間は線量依存的に増加あるいは短縮し、0.05Gy照射群でも同様の傾向にあることが明らかとなった。また、脳腫瘍組織から抽出したDNAにおいてPtch1遺伝子のある13番染色体について6種のプライマーを用いてLOH(loss of heterozygosity)を調べたところ、非照射群(自然発生)ではLOHがテロメア末端側の全領域で見られるS型(17例中17例)、3Gy照射群ではLOHがPtch1遺伝子周辺でのみ見られるR型を示し(19例中19例)、LOHの発生パターンはこれら2つの型に明確に区別された。さらに、より低い線量の照射群(0.05~1.5Gy)では2つのLOHパターンが混在しており、その比率は線量依存的にS型優位からR型優位へと移行した。Pazzagliaら(2006)も、別系統のPtch1遺伝子ヘテロ欠損マウスを用いた実験で放射線誘発と自然発生の脳腫瘍では13番染色体におけるLOHパターンが異なることを報告している。我々の結果は、これを強く支持するとともに、低線量放射線の影響下で混在する両パターン(S型とR型)が識別可能なことを示している。現在、このゲノム異常のタイプと腫瘍発生時期との関係を検討中であり、本報告ではこれら線量依存性に関する結果を中心に、脳腫瘍誘発頻度の照射時期依存性、特に胎生期照射の影響と、生後10日齢における照射では自然発生より腫瘍誘発頻度が低下することについての結果も併せて報告する。
  • 高畠 貴志, 石田 有香, 柿沼 志津子, 山内 一己, 上西 睦美, 森竹 浩之, 鬼頭 靖司, 太田 有紀, 西村 まゆみ, 島田 義也
    セッションID: OC-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線誘発腫瘍に特徴的なゲノム異常を知ることは、低線量放射線の正確なリスク評価や、放射線発がんメカニズムの解明にとって極めて重要である。我々は、C3B6F1系統のPtch1遺伝子ヘテロ欠損マウスに生じた脳腫瘍をLOH解析した結果、自然発生した腫瘍ではテロメア末端におよぶ広い領域でのLOH(S型)により、また3Gy照射群では狭い領域でのLOH(R型)により正常Ptch1対立遺伝子が喪失しており、さらにより低い線量(0.05~1.5Gy)では線量依存的にS型からR型に移行することを見出した(石田ら、本大会)。そこで、放射線誘発腫瘍の特徴を明らかにする目的で、非照射群と0.2Gy照射群のS型各3例、0.2Gyと1.5Gy照射群R型の各3例についてアレイCGHおよび発現アレイ解析を行った。その結果、S型では、Ptch1遺伝子周辺のゲノムコピー数が正常である(組換型)のに対し、R型ではコピー数が半減(欠失型)していた。また、すべてにおいて、6番染色体の本数が増加していた。発現アレイ解析の結果、約3,500のプローブが群間有意差を示し、大部分がS型とR型の群間差であった。この3,500に対してクラスター解析したところ、S型とR型にはっきりと分岐した。特にR型腫瘍でのPtch1遺伝子周辺の共通欠損ゲノム領域(43~66Mb)の多数の遺伝子は、共通してR型での発現量がS型の約半分に低下しており、R型でのゲノムコピー数半減を直に反映していた。他方、6番染色体上の全遺伝子発現について、染色体コピー数増加との相関性を調べた結果、約40%の遺伝子において相関係数が0.5以上あり、0.9以上の強い相関係数を示す約100の遺伝子の中には、がん関連候補遺伝子も存在した。これらの結果は、放射線照射による特徴的なゲノム異常である欠失や、トリソミーといったコピー数変化を伴うゲノム異常が、非常に多くの遺伝子発現に直接および間接的に広く影響を及ぼすことを示唆している。
  • 豊島 めぐみ, 習 陽, 三家本 隆宏, 渡邊 敦光, 本田 浩章, 濱崎 幹也, 楠 洋一郎, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: OC-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    点突然変異の蓄積ががん化を引き起こすと考えられている。これまでの研究から、点突然変異の誘発には損傷部位を乗り越えて複製を行う「損傷乗り越えDNA合成」が深く関与していることが明らかにされている。Yファミリーポリメラーゼは、「損傷乗り越えDNA合成」を行うポリメラーゼとして知られており、ほ乳類ではpol η、ι、κ、Rev1の4種類が存在し、忠実度が低く「誤りがちなDNA合成」をすることで突然変異を誘発すると考えられている。実際、「損傷乗り越えDNA合成」が正しく機能しないと、誘発突然変異頻度が上昇し、発がんが促進される事が報告されている。なかでも、Rev1は「損傷乗り越えDNA合成」において中心的な役割を担っていると報告されている。また、酵母や培養細胞を用いた実験から、Rev1の欠損は化学物質や紫外線だけでなく放射線に対しても感受性を示すことから、Rev1は様々な損傷修復に寄与していると考えられる。
    そこで我々は、Rev1 トランスジェニックマウスを用いることにより、点突然変異誘発機構が放射線発がんや化学発がんに果たす役割を明らかにすることを試みた。
    放射線発がん実験には、4週齢の野生型、Rev1 トランスジェニックマウスに、週に1度7週齢まで、計4回ガンマ線を照射し、その後終生観察し、発がん頻度、生存率について野生型と比較した。また、化学発がん実験として、6週齢のC57BL/6の野生型、Rev1 トランスジェニックマウスに、N-methyl-N-nitrosourea (MNU)を50mg/ kgを週に1度、計2回腹腔内投与した。その後、終生観察し、発がん頻度、生存率について、野生型マウスと比較した。
    放射線照射による胸腺リンパ腫の発症は、Rev1 トランスジェニックマウスは野生型マウスよりも遅延する傾向がみられた。一方、MNU投与により、Rev1 トランスジェニックマウスでは、野生型と比較して、早期にかつ高頻度で胸腺リンパ腫の発症がみられた。
    これらの結果から、Rev1 は異なる機能により、化学発がん、放射線発がんによって誘発される胸腺リンパ腫の発症に寄与していると示唆される。
  • 渡邉 正己, 吉居 華子, 渡邉 喜美子, 縄田 寿克, 田野 恵三, 菓子野 元郎, 熊谷 純
    セッションID: OC-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、これまでの研究成果から、細胞がん化の過程には、DNA損傷を起源として生ずる遺伝子突然変異を経由する経路のほかにDNA損傷を経由しない経路が存在し、後者の経路が圧倒的主経路であると主張している。そして、その経路の主たる標的は、中心体であり、その機能低下によって誘導された染色体不均等分配によって生じる染色体異数化が細胞がん化過程の駆動力となっていると予想し、その是非を検証している。
    本発表では、マウスおよびシリアンハムスター胎児由来細胞をもちいた研究で得られた結果を基に、自然および放射線誘導細胞がん化は、共にミトコンドリアから漏洩する電子が引き金によって生成する細胞内酸化ラジカルあるいはその派生ラジカルによって生じた中心体機能異常が引き金となって誘導された染色体異数化が駆動力となって進行していることを示す。このことは、放射線誘導細胞がん経路は、自然の生理活動によって生ずる細胞がん化経路と同じである。言い換えれば、放射線による細胞がん化には、低線量域に必然的に生理学的閾値が存在することを意味する。
  • 辻 秀雄, 石井 洋子, 勝部 孝則, 森 雅彦, 塩見 忠博, 巽 紘一, 武藤 正弘, 佐渡 俊彦
    セッションID: OC-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    [目的]放射線は標的細胞に直接的に、あるいは体内環境変化を通じて間接的にDNA損傷を生じ、細胞をがん化させると推定される。マウスの全身照射による胸腺リンパ腫の発生に間接効果が関与することが知られる。その間接効果の特徴を理解するため、照射後の胸腺細胞の遅延型染色体不安定性の誘発、およびバイスタンダー効果について調べた。
    [材料および方法]5週齢のC57BL/6雌マウスを1.8Gyのガンマ線で週1回、合計4回照射し、0~10週後に胸腺細胞を分離した。胸腺細胞をPMA、ionomycin、および2-mercaptoethanolと共に48時間培養し、遅延型染色体不安定性の誘発を調べた。ヒトHCT116細胞由来のXRCC4-/-細胞と胸腺細胞を48時間共培養し、XRCC4-/-細胞の誘発染色体異常を指標にバイスタンダー効果を調べた。また、共培養にSODとcatalaseを加え、バイスタンダー効果に対する活性酸素の関与を調べた。γH2AXフォーカス数を指標にDNA二重鎖切断数を計測した。PCR法によりがん関連遺伝子Notch1Bcl11bの再編成の発生頻度を調べた。TCRβ部位のV(D)J組換えを指標に胸腺細胞のクローン性を調べた。
    [結果]4回照射後、胸腺内の細胞数は減少し、その減少は6週目まで続いた。照射後6、8週目でγH2AXフォーカス数は非照射マウスの2倍に達した。照射後、41本の染色体を持つ異数体が出現し、その頻度は4、6週目で34%に達した。照射後、胸腺細胞は染色体不安定性を示し、異常頻度は8、10週目で非照射マウスの2倍強に達した。共培養により胸腺細胞はバイスタンダー効果を示し、その効果は8週目で極大値(約2倍)に達した。このバイスタンダー効果はSODおよびcatalase処理により1/2に低下した。Notch1およびBcl11bの再編成の頻度が非照射マウスの10倍から1000倍以上に増加した。TCRβの特定のV(D)J組換えを起こした細胞クローンが2週目より観察された。
    [結論]照射後、胸腺はatrophy等の環境変化を起こし、その作用により胸腺細胞はDNA二重鎖切断の誘発、異数体や染色体異常の遅延型染色体不安定性、バイスタンダー効果、がん関連遺伝子の異常頻度の上昇、およびクローン性を示す。これらの異常により前リンパ腫が形成され、胸腺リンパ腫の発生の原因となると考えられる。
  • 田ノ岡 宏, 巽 紘一, 辻 秀雄, 野田 攸子, 勝部 孝則, 石井 洋子, 大津山 彰, 竹下 文隆, 落谷 孝弘
    セッションID: OC-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    さきに、放射線誘発変異p53 を導入したトランスジェニックマウスにメチルコラントレンで誘発した自家腫瘍を実験遺伝子治療の標的とした予備結果を報告した。今回はその総括とする。
    ベータ線反復照射によってマウス皮膚に発がんさせると、その線量―効果関係はしきい値型となり、1/3の腫瘍にp53変異がみられる。この中からexon 6に9 bp欠失のあるcDNA をクローニングし、これを導入したpTE50トランスジェニックマウスを得た。この胎児fibroblastでは5 Gy照射後のp21発現誘導が抑制され、変異p53がdominant-negativeに働くことが示唆された。マウス皮下にMCA 0.02 mgを注入し一年間の発がん率を追跡すると59%(90%が線維肉腫)となり、同腹から得られた野生型マウスに比べて1.7倍、すなわち42%増大した。この腫瘍に対して、変異p53のpromoter/enhancerに設定したsiRNA no.220をアテロコラーゲン法によって、腫瘍が直径5 mmを越えた時点で隔日に4回注入すると、23例中4例が10日以内に消失した。この内3例は51-116日再発せず完全治癒例と認められ、ほか2例に増殖抑制がみられた。この結果は同種自家腫瘍に対してX線局所照射で得られなかった成績である。さらに移植腫瘍では21例中7例に増殖抑制を認めた。siRNA no.220に反応のあった腫瘍の総数を自家、移植含めると全体44例の30%であり、変異p53依存性腫瘍の推定頻度42%に近い値であった。移植腫瘍(line TT18)では、siRNA no.220がアポトーシスを誘導した。一方野生型マウス腫瘍では自家15例移植10例のいずれにもsiRNA no.220の抑制効果はみられなかった。以上から、siRNA no.220は変異p53の発現を抑制し、この腫瘍に温存されていた野生型p53 の働きを回復させ、腫瘍を消滅させたものと結論された。(Cancer Gene Therapy, in press, online 6/26/2009)
DNA損傷・修復2
  • 細谷 紀子, 宮川 清
    セッションID: OD-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    相同組換えは、体細胞分裂においてはDNA二重鎖切断に対する修復に関与し、その異常はがんの病態に深く関わると同時に、がんの放射線感受性やDNA損傷性薬剤への感受性を規定し得る。我々は近年、減数分裂での相同組換えにおいてのみ働いていると考えられてきた分子が体細胞であるがんにおいて異所性に発現しているという現象に着目し、その異所性発現が、体細胞が従来持っている相同組換え修復能に何らかの影響を及ぼして放射線などのDNA損傷への感受性を変化させることを想定して、その体細胞での発現の役割について検討を進めてきた。本学会では、SYCE2分子の体細胞での発現による影響について報告する。SYCE2分子は、減数分裂第一前期において相同染色体の対合や交叉・組換えに重要な役割を果たすシナプトネマ複合体のセントラルエレメントを形成する分子の1つであり、正常の体細胞では一切発現しない。ところが、我々ががん細胞で同分子の発現を検討したところ、乳がんや造血器腫瘍など複数のがん細胞において異所性に発現していることが分かった。SYCE2を強制的に安定発現させた体細胞株においては、野生株と比べ、電離放射線に対する感受性が低下していた。SYCE2を発現する体細胞においては、放射線照射によるDNA損傷依存的なRad51のフォーカス形成能が増加していることも明らかになった。以上のことから、SYCE2の体細胞での異所性発現は、正常の相同組換え修復能の亢進をもたらして、放射線抵抗性を来すことが示唆された。
  • 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: OD-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    複製後修復経路は様々なDNA損傷に対する生体防御機構の一つであり、RAD18遺伝子がその制御に重要な機能をもつことが知られている。実際に、RAD18遺伝子を欠失したヒト培養細胞は放射線に対する感受性を示すことから、複製後修復経路は放射線に対する生体の防御に一定の役割をもつ可能性がある。複製後修復経路の一つである損傷乗り越えDNA合成経路は、損傷特異的なDNAポリメラーゼが複製型のDNAポリメラーゼと置き換わることでDNA複製を回復する。このポリメラーゼ交換反応は、E2-E3ユビキチンリガーゼ複合体であるRAD6-RAD18によるPCNAのモノユビキチン化により制御されると考えられている。本研究では、精製したタンパク質を用いた解析によって、RAD6-RAD18によるPCNAのモノユビキチン化がポリメラーゼ交換反応を促進することを証明した。
  • 藤井 健太郎, 鹿園 直哉, 横谷 明徳
    セッションID: OD-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    フォトンビームである軟X線により特定元素のK殻光電効果を起こすことで、DNA中の特定部位に対する選択的な損傷誘発が期待されている。我々はこれまでに、単色化した軟X線の照射によりプラスミドDNA中に生じる1本鎖切断、塩基損傷の収率の照射エネルギー依存性についての研究を行ってきた。本研究では高輝度放射光施設(SPring-8)から得られる軟X線を線源とし、OHラジカルを介さず光電効果及び低速二次電子の作用により直接生じる損傷の収率の励起元素依存性を明らかにすることを目的とした。
    試料となるDNAフィルムを作成するため、TE緩衝液で希釈したプラスミド(pUC18)試料溶液(1μg/μL)をガラス基板上に5μL滴下し、溶液中の塩の析出を防ぐため窒素ガスをフローさせながら徐々に乾燥させた。この後さらに、真空乾燥機中に30分保持することでDNA分子周囲の水和水を取り除いた。得られたフィルム状の試料(6.5×10-5g/cm2)をSPring-8・BL23SUに設置された真空チェンバに導入し、炭素、窒素および酸素K殻励起領域の単色軟X線(270, 380, 435, 560, 760eV)を室温で照射した。照射後試料をTE緩衝液で回収し、鎖切断によるコンフォメーション変化をアガロース電気泳動法により調べた。
    塩基除去修復酵素であるNthおよびFpgによって認識されるピリミジンおよびプリンの酸化損傷の収率は、酸素K殻イオン化を超えたエネルギー(560eV)の軟X線照射できわめて高い収率(5-6×10-11 lesions/Gy/Da)を示した。一方、窒素K殻イオン化よりも低いエネルギー(380eV)の照射では他のエネルギーに比べて極めて低い値(2-6×10-12 lesions/Gy/Da)を示した。また、一本鎖切断量は380eVと560eVとで2倍程度増加したのに対し、NthおよびFpgの認識サイトの量はおよそ10および27倍と顕著に増加した。以上のことから、軟X線のエネルギーを選択することにより、特定種のDNA損傷を誘発することのできる新たな手法の可能性を示唆する結果が得られた。
  • 木梨 友子, 菓子野 元郎, 劉 勇, 鈴木 実, 増永 慎一郎, 高橋 千太郎, 小野 公二, 岡安 隆一
    セッションID: OD-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】CHO細胞の突然変異種でKu80欠損細胞であるxrs5における、γ線照射後1-72時間後のDNA二重鎖切断部位に集積するH2AX、およびDNA二重鎖切断の修復部位に集積する53BP1を抗体を用いて免疫染色後、蛍光輝度計測し評価した。【方法】CHO-K1およびKu80欠損mutant のxrs5細胞を用いて、γ線照射後1-72時間後の H2AXおよび53BP1のフォーカス形成をキーエンス蛍光顕微鏡BZII解析アプリケーションソフトを用いて計測し評価した。【結果】線量率1Gy/minのγ線を2Gy照射後72時間のH2AXおよび53BP1のフォーカスを計測値で、1つの細胞あたりのフォーカス形成を比較すると、CHO-K1は7±2であるのに対しxrs5細胞は35±7と高値であった。【結論】DNA二重鎖切断修復関連タンパク質を構成するKu80欠損細胞のxrs5はγ線照射後72時間後においてもDNA二重鎖切断が修復されずDNA損傷が持続していた。
マイクロビーム
  • 磯野 真由, 小西 輝昭, 及川 将一, 石川 剛弘, 磯 浩之, 樋口 有一, 児玉 久美子, 高橋 弘範, 酢屋 徳啓, 北村 尚, 安 ...
    セッションID: OD-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放医研マイクロビーム細胞照射装置(Single-Particle Irradiation system to Cell; SPICE)は共用施設としての運営が整備され、マイクロビーム生物研究として所内のみならず所外との共同研究が進められている。SPICEは2006年3月には3.4MeVプロトンビームを直径10μmまで絞ることに成功し、照射粒子数も1粒子から設定可能となった。現在では、直径2μm程度のマイクロビームを実現し、さらには1時間に2万4千個の細胞を照射できる高速性を有している。
    今年度より、SPICEを用いて神経幹細胞の放射線障害に関する研究を開始した。神経幹細胞は胎生期の脳内に存在し、増殖をしながら終末細胞である神経細胞やアストロサイトを産生する。神経細胞やアストロサイトは脳を構成する要であり、また、神経幹細胞はそれらを産生するための必要不可欠な存在である。胎生期の放射線による被ばくは小頭症などを誘発する原因の一つと言われているが、神経幹細胞を用いた放射線影響研究はまだ少ない。そこで、神経幹細胞を用いて、その増殖・分化の両方の過程における放射線障害のメカニズム解明を行うために、マイクロビーム照射法を応用した。われわれは、ES細胞から独自に開発した分化誘導法(Neural Stem Sphere法 ; NSS法)を用いて均質な神経幹細胞を調製したものを試料とした。そして、SPICEを用いて細胞一つ一つを狙い撃ちし、まずは、増殖過程において、照射粒子数対する神経幹細胞の致死率およびDNA損傷とその修復について検討を開始した。本発表では、SPICEの開発の現状についても報告する。
  • 小林 克己, 宇佐美 徳子, 前田 宗利, 冨田 雅典
    セッションID: OD-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、放射光単色X線(5.35 keV)マイクロビーム細胞照射装置を開発し、低線量放射線の生物影響について研究を進めている。本装置は、指向性に優れた放射光を光源としているため、スリットを用いて容易にビームサイズを変更することができる。この特徴を利用すると、細胞あるいは細胞核の一部などの任意の標的を照射し、それらを個別に追跡し照射効果を検出することが可能である。ビームの大きさを変えて細胞内のエネルギー付与領域を変えた実験から、照射された細胞の増殖死、および照射されていないバイスタンダー細胞の増殖死のどちらの場合についても細胞質へのエネルギー付与があるか否かで線量効果関係が、特に低線量域で、異なった。このことから、細胞質へのエネルギー付与によって誘導される細胞内の反応が低線量域での細胞死誘導メカニズムにおいて重要な役割を担っていると考えられる。この仮説を検証するためには、細胞質のみへ効率よくX線を照射する手法を開発する必要がある。そこで、我々は、使用中の培養細胞の細胞核の大きさを考慮して、直径15ミクロンの金の円柱を薄い窒化シリコン基板上に重層したX線マスクを作成した。5.35 keVのX線は、この窒化シリコン基板を99%以上透過する一方で、金が重層された15ミクロンの領域では透過するX線は0.1%未満となる。このX線非透過領域を、照射標的細胞の細胞核位置に合わせて照射することで、細胞質のみへエネルギーを付与することが可能となる。我々は、従来の細胞照射装置に改良を加え、照射用ステージの直下に、電動ステージにセットしたX線マスクを設置し、50ミクロン角のビーム内の中心に非透過領域を作り、標的細胞の細胞核をこの領域に合わせて照射する手法を開発した。本年会では、このマスクを用いた照射手法を紹介すると同時に、本手法を用いて、細胞質のみを照射した細胞の生存率測定について報告する。
  • 冨田 雅典, 前田 宗利, 前澤 博, 宇佐美 徳子, 小林 克己
    セッションID: OD-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線誘発バイスタンダー応答は、放射線が直接ヒットした細胞の周辺に存在する放射線がまったくヒットしなかった細胞にも、放射線がヒットした細胞と類似の生物影響が誘導される現象である。これまでのバイスタンダー応答研究は、主に高LETのα線等の粒子線を用いたものであり、低LETのX線やγ線によるバイスタンダー応答については十分明らかになっていない。本研究は、細胞生存率を指標として、放射光X線によるバイスタンダー応答の線量依存性と伝達方法を解析した。
    細胞にはヒト胎児肺由来線維芽細胞WI-38を用い、照射1週間前にディッシュに播種し、コンフルエントにした。照射は、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設(茨城県つくば市)の放射光X線マイクロビーム照射装置を用いて行った。細胞核のみに、直径5 μm×5 μm の5.35 keV単色X線を照射した。照射24時間後にディッシュ上すべての細胞を回収した後、希釈してシャーレに播種し、形成したコロニー数から細胞生存率を求めた。各種阻害剤、スカベンジャーは照射2時間前に添加した。
    マイクロビームをディッシュ上約70万細胞の内、中心の5細胞にのみ照射した場合、0.25-1.5 Gyにおいて細胞生存率は85%まで低下したが、2-5 Gyでは生存率の低下は認められなかった。生存率の低下が回復した2 Gyは、X線ブロードビームを照射した場合にD0に相当することから、バイスタンダー細胞死の誘導には、照射細胞の生存が必要である可能性が示唆された。細胞生存率の低下は、活性酸素種のスカベンジャーであるDMSOでは抑制されず、ギャップ結合の阻害剤lindaneでわずかに抑制された。一方、iNOSの阻害剤アミノグアニジン、一酸化窒素(NO)のスカベンジャーであるc-PTIOにより、生存率は97%まで回復した。以上の結果から、放射光X線によるバイスタンダー応答において、主にNOがイニシエーター・メディエーターとして働くことが明らかとなった。
  • 鈴木 雅雄, 取越 正己, 大野 由美子, 菓子野 元郎, 鶴岡 千鶴, 八木 直人, 梅谷 啓二, 劉 翠華, 浜田 信行
    セッションID: OD-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【はじめに】
    白色X線を200µm 程度の間隔で並んだ幅20µm 程度のスリット状マイクロビームとして腫瘍組織を含んだラットの脳に照射すると、腫瘍細胞のみが死滅してX線が透過した腫瘍組織周辺の正常組織はほとんど損傷を受けないとする興味深い現象が報告されている。この現象の生物学的メカニズムはほとんどわかっていないが、X線スリット状マイクロビームが照射された領域と照射されない領域が交互に並ぶ組織内の照射条件の特徴から、照射細胞と非照射細胞とが何らかの形で関与したバイスタンダー効果がメカニズムの一つであり、さらにその効果における正常細胞とがん細胞の応答の違いが関与した複雑な機構で生じていることが考えられる。本年は、X線スリット状マイクロビームを照射された細胞集団の致死効果からの回復現象に対する応答の違いを、がん抑制遺伝子p53のステータスとの関係から調べた実験結果を報告する。
    【実験方法】
    細胞は、正常型のp53遺伝子を持つヒト由来正常細胞2種類、がん細胞株1種類と変異型p53遺伝子を持つヒト由来がん細胞株2種類の合計5種類を用いた。X線スリット状マイクロビーム照射は、財団法人高輝度光科学研究センターSPring-8のBL28B2で行った。細胞致死は、コロニー形成法による細胞の増殖死として検出した。照射後直ちにプレートに蒔いた場合と照射後12時間炭酸ガスインキュベーター内に保持した後にプレートに蒔いた場合との細胞生存率を比較して、致死効果からの回復を評価した。またギャップジャンクションの特異的阻害剤を用いて、細胞致死効果と細胞間情報伝達機構との関係を調べた。
    【結果】
    正常型p53遺伝子を持った細胞は、ギャップジャンクション特異的阻害剤を併用しない場合にのみ照射直後の生存率に対して12時間後の生存率が有意に上昇した。しかしながら、変異型p53遺伝子を持った細胞は、ギャップジャンクション特異的阻害剤を併用してもしなくても、直後と12時間後の生存率に差がなかった。以上の結果から、X線スリット状マイクロビームが照射された細胞集団の致死効果からの回復現象は、p53の遺伝子産物が直接的または間接的に関与した一連の細胞応答の一環として誘導されているバイスタンダー効果が密接に関係していることが示唆される。
  • 佐藤 克俊, 錦野 将元, 岡野 泰彬, 長谷川 登, 石野 雅彦, 大島 慎介, 沼崎 穂高, 河内 哲哉, 手島 昭樹, 西村 博明
    セッションID: OD-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    目的:
    レーザープラズマX線を用いたマイクロビーム装置を開発し、がん細胞にX線を照射することにより発生するDNA二本鎖切断を検出する。
    材料と方法:
    レーザープラズマX線の発生には関西光科学研究所のTi:Sapphireレーザーを利用した。ターゲット上におけるレーザーのエネルギーは約150mJ、パルス幅の半値全幅は約70fs、ショットレートは10Hz、スポットサイズの半値全幅は約30μm、レーザーの強度は最大で3×1017W/cm2とした。ターゲットとしてCuフォイル用い、レーザーの照射により8KeV Kα線を発生させ、ポリキャピラリーX線レンズを用いてX線を集光し細胞へ照射した。X線スポットの確認のためにガフクロミックフィルムEBTを用いた。がん細胞株としてヒト肺腺がん細胞株A549を用い、照射終了30分後に抗γ-H2AX抗体、抗リン酸化型ATM抗体を用いた免疫蛍光染色法によりDNA二本鎖切断部位を検出した。
    結果と考察:
    レーザープラズマX線の線量はレーザー1ショット当たり0.12mGyであった。免疫蛍光染色の結果、レーザープラズマX線の照射により誘発されたγ-H2AX及びリン酸化ATMのフォーカス形成が確認された。フォーカス陽性細胞は直径約600から900μmの範囲に存在しており、この範囲はガフクロミックフィルムEBTの濃度変化から求めたX線スポットサイズとほぼ同等であった。以上よりレーザープラズマX線はDNA二本鎖切断を誘発できることが示された。レーザープラズマX線は、超短パルス、高輝度、単色エネルギー、集光可能であるという特徴を持っており、これを利用すればピコ秒以内に数Gyという線量を、細胞内の局所領域に照射することが可能になる。今後はX線集光径を縮小し、X線発生効率を向上により線量率を増加させ、がん細胞の細胞内局所領域における放射線影響研究を展開する。
被ばく影響・疫学
  • 荻生 俊昭, 石田 淳一, 吉永 信治, 小林 定喜, 久住 静代, 稲葉 次郎, BEREZINA Marina V., KENZHINA ...
    セッションID: OD-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    セミパラチンスク旧核実験場では、1949年~1989年に約460回の核実験が行われた。周辺住民は、1962年までの約120回の大気圏内核実験により複数回の低線量放射線の外部と内部からの複合被ばくをした。協会では2001年以来、カザフスタンの放射線影響調査防護センター、国立原子力センター等の協力を得てこれらの住民の疫学調査を行ってきた。調査では放射能雲の通過した地域の住民(被ばく調査集団)と対照地域の住民(対照調査集団)について、公文書保管所や住民登録所等での書類調査、住民の聴取り調査等でデータを収集した。2008年度末時点での調査対象者は約131,700人で、被ばく調査集団51,900人が含まれる。この集団で居住歴判明により線量計算が可能な者は約20,400人、うち生死判明者は約16,800人(生存者:7,500人、死亡者:9,300人)であった。対照調査集団は設定後の日が浅いので今回の解析には用いなかった。死因としては循環器系疾患が全死因の42%で、主に虚血性心疾患と脳血管疾患であった。新生物は全死因の21%で、食道、胃の悪性新生物が多かった。被ばく線量はロシア連邦保健省の計算式により計算し、被ばく線量と死因(ICD-10分類)に基づき被ばく集団の内部比較で死亡率比を計算した。この結果、男性では循環器系疾患が高線量群で増加する傾向が見られた。女性では高線量群で循環器系疾患及び虚血性心疾患が増加する傾向が見られた。性別、年齢、民族、被ばく線量についての多変量解析では、新生物及び循環器系疾患ともに性別、年齢、民族の影響が大きかった。(この調査は、エネルギー対策特別会計委託事業「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」(平成13~20年度)の一部として行われた。)
  • 三根 真理子, 横田 賢一, 柴田 義貞
    セッションID: OD-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】
    長崎大学の被爆者データベースには長崎市被爆者に関する情報が蓄積されている。死亡原因は1970年からのものが登録されている。被爆者の平均年齢は2009年3月で75.4歳(男73.2歳、女76.7歳)となり、高齢化の一途をたどっている。被爆者の健康状況を調べるために、これらの死亡を用いて被爆距離別死亡率の推移をみた。
    【方法】
    1970年4月1日現在の長崎市被爆者手帳所持者76,806人のうち、直接被爆者は65,273人であった。1970年から2004年までの34年間における死者は26,159人であった。このうち悪性新生物による死亡は6,744人、脳血管患は4,351人、心疾患は4,400人であった。死亡原因を1970~74年、1975~79年、1980~84年、1985~89年、1990~94年、1995~99年、2000~2004年の7個の期間ごとに集計し、性・年齢階級・被爆距離別に年齢調整死亡率を比較した。被爆距離は1.9km以下、2.0~2.9km、3km以遠の3分類とした。年齢調整には1985年モデル人口を用いた。
    【結果】
    全死亡の年次推移は、男女ともにいずれの距離群においても減少傾向にあった。男で1980年以降、1.9km以下の群が他の距離群に比べ、やや高めの傾向を維持していた。女では1970~1979年と1990年以降で同様の傾向であった。
    悪性新生物の年次推移は、男で1985年以降、1.9km以下の群が他の距離群に比べ高い傾向であった。女では1979年まで1.9km以下の群が高く、それ以降の年次ではあまり変わらなかった。
  • 鈴木 元, 緒方 裕光, 山口 一郎, 米原 英典, 藤原 佐枝子, 笠置 文善, 木村 真三
    セッションID: OD-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    近年、屋内ラドンと肺癌に関する症例対照研究の大規模なプール解析が実施され、100Bq/m3といった屋内ラドン濃度であっても、有意に肺癌リスクが上昇することが明らかとなってきた。我が国の屋内ラドン濃度は、従来世界平均の半分以下と評価されてきたが、近年、高密閉・低換気率の省エネ住宅が普及し、屋内ラドンの上昇が憂慮されている。そこで、本研究では、(1)全国3900家屋の屋内ラドンを測定し、もって屋内ラドンの全国人口加重平均値を求め、(2)この値を用いて米国EPAのラドン肺癌推計モデルを使って、我が国の屋内ラドンの喫煙者、非喫煙者別の肺癌寄与リスクを推計することを目的とする。
    ラドンは、受動的ラドン・トロン分別測定器(RadoSys社)を半年間居室ないし寝室に設置し、装置を回収後、日本分析センターで計測する。今回の報告では、H19年秋からH21年夏にかけて半年ごとに測定した四期に亘る結果を報告する予定である。抄録作成時には、三期分のデータのみで、未だ広島県と奈良県のデータは含まれていない。屋内ラドン濃度は対数正規分布に従い、春夏期と秋冬期の屋内ラドン濃度の分布は季節変動があり、この季節変動は、補正係数をかけて対数正規分布上平行移動させることで解消できた。三期分2122軒の屋内ラドン濃度(補正後)は、算術平均 ± 標準偏差は、15.2 ± 17.4 Bq/m3、幾何平均 ×÷ 幾何標準偏差は、11.5 ×÷ 2.0 Bq/m3、最小値 0.1 Bq/m3、最大値 332 Bq/m3であった。対数変換後の平均値と分散からは、100Bq/m3を超す家屋の確率は、0.1%程度である。一方、岩手、沖縄などの一部の地域では、その頻度は数%になる可能性があり、より詳細な調査が求められる。
  • 土居 主尚, 吉永 信治
    セッションID: OD-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    広島・長崎の原爆被爆者を対象とした寿命調査は放射線リスクの評価や放射線防護体系の策定に重要な役割を果たしている。被ばく者の個人の線量推定値の測定誤差は線量反応関係の推定において過小評価に繋ることが知られており、そのためregression calibration法(RC法)として知られる測定誤差を調整する方法が適用され、最近の寿命調査の解析にて用いられている。RC法が用いられている主な理由はその適用範囲が広いことであり、一度線量推定値の期待値を求めればその値を用いて解析を行うことで測定誤差の調整を行うことができる。RC法により線量推定値の測定誤差に起因するバイアスの大半が取り除かれると期待される一方で、その性能評価は十分に行われているとは言い難い。そこで本研究ではシミュレーション研究を行い、LSSに近い状況設定にて、RC法の性能評価を行った。線量推定値の測定誤差には、classicalとBerksonの二つの要素の測定誤差を仮定した。データ発生はLSSに近い状況で行い、解析モデルにはポアソン回帰モデルを仮定し、3通りの解析を行った。1つは測定誤差が含まれた線量推定値をそのまま用いる方法であり、もう一つはRC法を適用した解析方法であり、3つ目は実際には得られない線量の真値を用いた解析である。
  • 櫻井 伸治, 福谷 哲, 中森 泰三, 八島 浩, 高橋 知之, 久保田 善久, 蒲生 忍, 高橋 千太郎
    セッションID: OD-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線や放射性核種がヒト以外の生物に及ぼす影響に関心が持たれつつある。国際放射線防護委員会(ICRP)は、ヒト以外の生物相に放射線が及ぼす影響に関する研究の重要性を示唆している。これらの生物相への影響を明確にするには、問題となる放射性核種による内部被ばく線量を評価することが必要であるが、ヒト以外の生物への取り込みや代謝に関する知見は多くない。ミミズは土壌中で最も代表的な生物種であるが、放射性核種のミミズへの取り込みや代謝に関する報告はほとんどない。
    そこで本研究では、ヒト以外の生物としてシマミミズ(Eisenia fetida)に着目し、OECD/NEA (Test No. 207, Earthworm, Acute Toxicity Tests, 1984) による毒性試験法を参考に、放射性核種のシマミミズへの経皮吸収の程度を評価する手法の開発を目的とした。具体的には、直径36mmの円筒管内にろ紙を内張りし、このろ紙に放射性核種109Cd、134Cs、60Co溶液(pH 7)を所定量添加した後、温度20ºC、湿度100%で3日間シマミミズを飼育した。シマミミズは経時的に取り出し、純水で洗浄しペーパータオルでブロティングすることによりシマミミズ表面に付着している核種を取り除いた後、高純度Ge半導体検出器で測定した。
    その結果、ろ紙を用いた毒性試験法によって3日間程度の経皮吸収率を測定することが可能であることが判った。全核種とも吸収率は経時的に増加した。特に134Csの吸収率は他の核種より大きく、109Cd、60Coの3日後の吸収率は約5%であったのに比して、10%程度を示した。また、134Csの吸収率は時間とともに一定になる傾向が見られたが、109Cd、60Coの吸収率は直線的に増加していた。なお、シマミミズの表面を洗浄した水およびペーパータオルの放射能を測定したところ、シマミミズ体内で検出された量の数%が検出された。本研究から今回開発した試験法によって、比較的簡便に放射性核種の取り込みの程度を評価することが可能であることが示唆され、核種によって生育媒体からシマミミズへの取り込まれる割合が異なることが判った。
  • 荘司 俊益, SHOJI Isao, SHOJI Toshihiro
    セッションID: OD-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線による異常発生の研究でもよく観察されている小頭症・中枢神経系形成障害、発ガン等と比べると、放射線被ばくとその障害致死並びに心・大血管系異常の発生などを詳細に調べる研究は少ない。また、放射線を含めて、DNA損傷環境ストレスと心臓血管系などの疾患およびその障害・致死などとの関連性には未だ不明の点が多い。本研究は、異常発生とその予防および治療の観点から、原爆、放射線などDNA損傷環境ストレスがラット並びにヒトに及ぼす影響について検討を行った。その結果、 放射線や化学薬剤が、ラット被ばく群或いは処置群に及ぼす影響には、ラット胎仔の致死、生存胎仔の円錐部動脈幹異常、半月弁、房室部、冠状動脈、心筋異常などのほか心・大血管系疾患並びに咽頭弓部発生異常が含まれ、また、それらが線量依存性(用量依存性)に増加することが認められた。一方、自然分娩を経た被爆者並びに非被爆者の流・早死産児と新生児屍の剖検所見の結果では、被爆群での頭・顔面、咽頭弓部、心・大血管系などの異常発生が高頻度に認められた。特に、剖検所見の結果では外表異常発生のほかに内臓異常発生が予想以上に多く見られ、臓器系列によって異常発生の発現頻度に差異のあることが明らかにされた。また一方、調査研究を通し、若年時の被爆および近距離直接被爆者などの循環器には動脈硬化・虚血性心・大血管系などの疾患、また他に甲状腺機能低下症、白内障、がん、骨質粗鬆症などの疾患が高い発症率で認められている。これらの結果は、DNA損傷、神経堤障害・機能異常、心臓形成領域の細胞・心筋細胞、内皮・上皮-間葉転移の異常並びに心・大血管異常、咽頭弓部異常など頭頸胸部の疾患の発症率に電離放射線など環境ストレスが関与する可能性を示唆している。若年層・近距離被爆では、これらによる疾患および加齢が促進されたことによる血管系、循環器系疾患などを引き起こすリスクが高くなり、それらの発症による健康への影響、寿命短縮・死に至る疾病のリスクを増加させることも考えられる。
一般演題<ポスター発表>
DNA切断と修復
  • 横谷 明徳, 牛込 剛史, 田内 広, 鈴木 雅雄, 鶴岡 千鶴, 野口 実穂, 藤井 健太郎, 鹿園 直哉, 渡邊 立子
    セッションID: P1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線のトラック構造と難修復性のDNA損傷の関連を明らかにするため、我々はこれまで様々な線質の放射線により誘発される鎖切断、塩基損傷及びこれら個々の損傷の組み合わせから成るクラスター損傷の収率を、プラスミドDNAをモデル分子として観察してきた。特に、トラックがDNA分子を通過することによる直接的なエネルギー付与(直接効果)に着目し、高水和状態のDNAを照射試料として用いてきた。塩基損傷は、EndoIII及びFpgの2種類のグリコシレース(塩基除去修復酵素)をプローブとして用い、塩基損傷部位を鎖切断に変換することで観測した。今回、原子力機構高崎研TIARA及び放医研HIMACのそれぞれのシンクロトロン加速器施設から得られるHe, C 及びNeイオンを試料DNAに照射し、これにより誘発される損傷の収率を得たのでこれを報告する。まず、照射により直接生じる1本鎖切断は全てのイオン種においてLETに大きくは依存しなかったのに対しグリコシレースで鎖切断に変換される塩基損傷は、LETの増加と共に激減した。これは高LET放射線によりグリコシレースの修復を妨げるような難修復性のクラスター損傷が高頻度で生じることを示していると考えられる。また同一LETであってもイオン種の違いによりこれら損傷収率は異なった。一方DSB収率は、Heイオンでは20 keV/μmに極小値を持つがこれより高LET側では急激に収率が増大しCイオンでもその傾向があったのに対し、Neイオンでは調べた300-900 keV/μmの領域でほとんど変化はなかった。以上から難修復性DNA損傷の生成は、単純にLETのみに依存するではなく放射線のトラックの空間構造に深く関連していることが示唆された。発表ではトラック構造と損傷生成メカニズムについて議論する。
  • 渡邊 立子, 平山 亮一, 横谷 明徳, 寺東 宏明, 鶴岡 千鶴, 江口 清美, 古澤 佳也, 小林 克也
    セッションID: P1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線による細胞致死の主な要因は、DNA二本鎖切断(DSB)にあると考えられてきている。しかし、重粒子線によって得られる細胞致死のLET依存性の特徴とは必ずしも一致しないDSBの測定結果が多く報告されており、DSBが致死の原因という図式に対する反論の根拠のひとつにもなっている。また、DSBのLET依存性は、細胞致死の結果と不一致なだけでなく、実験系による違いも大きく、統一的な見解を持つことが困難な状態である。そこで、我々は、DSBと細胞致死との関係を明らかにするためにも、DSBのLET依存性の実態を把握する必要があると考えて、報告による結果の違いの原因について検討している。ここでは、特に、放射線のトラック構造のシミュレーションによって得られる、細胞や水溶液等の照射サンプル内での、実験条件に即した微視的な線量分布に基づくDSBの収率の評価を示し、これに基づいて考察する。
    我々の用いた方法は、γ線、X線やイオンによる個々の電離・励起イベントを追うトラックシミュレーションを出発点として、DNAへの直接作用と、周囲の水分子の電離・励起によるラジカルの作用である間接作用の両方の過程をシミュレートすることにより、DNA損傷量を評価するものである。このシステムにより計算したDSB収率のLET依存性は、直接作用のみの場合、水溶液中の場合、細胞模擬条件の場合、いずれの場合も、LETの増加とともに増加するという結果を示した。この結果は、エネルギー付与密度の増大により、DNA損傷の重篤度が増し、生物効果が増大するというイメージを支持する結果である。しかし、特に細胞系では近年報告されているDSBがLETにあまり依存しない、あるいはLETとともに減少するという実験結果とは一致しない。このような矛盾点を説明できる要因として、DSB間のDNA鎖上での位置関係とDSBの検出方法の間との問題に加えて、DSB収率を算出する上での、粒子線に対する吸収線量(Gy)を基準とする評価法が持つ問題点なども検討したい。
  • 勝部 孝則, 森 雅彦, 辻 秀雄, 塩見 忠博, 塩見 尚子, 小野田 真
    セッションID: P1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    DNA二本鎖切断(DSB)は最も重篤な放射線生物影響のひとつであり、高等真核生物では、おもに非相同末端結合(NHEJ)により修復されると考えられている。XRCC4は、DSBの再結合を担うDNAリガーゼIV複合体の活性および安定性に関与し、NHEJに必須の因子である。一方、Artemisはそのままでは再結合できない「汚い」DSBの末端を、再結合可能な末端に変換するヌクレアーゼと考えられているが、切断末端の形状によってはNHEJ修復に必須ではないとも考えられている。我々は、ヒトにおける放射線リスクに対してXRCC4とArtemisがどのように関わるのかを明らかにするために、ヒト大腸がん由来HCT116細胞株において遺伝子ターゲティング法によりXRCC4欠損細胞(XRCC4-/-)、Artemis欠損細胞(Artemis-/-)を樹立し、両細胞の各種DNA損傷ストレスに対する感受性を、生存率を指標として親株と比較した。XRCC4-/-は、X線、etoposide、5-fluorodeoxyuridineに対して極めて高い感受性を示し、camptothecin、methyl methanesulfonate、cisplatin、mitomycin C、hydroxyurea、aphidicolinに対しても明らかに高い感受性を示した。Artemisが「汚い」DSBの修復にのみ関与するのであれば、Artemis-/-の感受性の増加は、XRCC4-/-を超えない範囲と考えられたが、予測通り、ほとんどのDNA損傷ストレスに対して矛盾の無い結果が得られた。しかし、DNA架橋剤のmitomycin Cおよびcisplatinに対しては、Artemis-/-XRCC4-/-よりも高感受性であることを示す結果が得られた。また、ヌクレオチドプールに作用するhydroxyureaに対しては、Artemis-/-は親株よりも耐性であった。これらの結果から、ArtemisがNHEJ以外のDNA損傷ストレス応答過程にも関与する可能性が示唆された。
  • 山本 歩, 本間 正充
    セッションID: P1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線によって生じる二本鎖DNA切断(DSBs)は、非相同末端結合(Non-homologous end joining: NHEJ)や相同組換え(Homologous recombination: HR)によって修復される。電離放射線によって形成されるDSBsの切断面は複雑な構造になっており、DNAリガーゼによる結合は容易ではない。以前、我々は制限酵素I-SceI認識配列の挿入を用いたDSBsの修復機構について報告したが、このDSBsは電離放射線によって生じる様な複雑な切断面のモデルとしては適さないと考えられる。そこで、本研究では電離放射線によって生じる様な複雑な切断面を持つDSBsの修復機構を解明するために、TK遺伝子のexon 5 を挟む形でI-SceI認識配列を逆向きに挿入(un-connectable I-SceI site)した細胞(TSCE206)を作製した。TSCE206にI-SceI発現ベクターを導入、発現させることで、un-connectable I-SceI site がどの様に修復されるのか調べた。その結果、突然変異頻度は、I-SceI siteが順向きに挿入されているTSCE105の約2倍程度を示した。変異体の遺伝子解析の結果、TSCE206では、NHEJによって生じる欠失領域のサイズが大きい変異体が高頻度で観察された。また、TSCE105ではほとんど観察されなかったHR修復型変異体も確認された。電離放射線によって生じる様な複雑な二本鎖DNA切断のNHEJによる修復には、複雑な切断面を解消するために広範囲のDNAを削る必要があること、NHEJによる結合が容易でない場合、HRが働く場合があること、が明らかになった。
  • 漆原 佑介, 日高 征幸, 尾田 正二, 小林 純也, 小松 賢志, 三谷 啓志
    セッションID: P1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    メダカ放射線高感受性変異体ric1系統は、胚を用いた中性コメットアッセイによってDNA二本鎖切断(Double Strand Break: DSB)修復速度が低下していることが[Aizawa et al, 2004]、また培養細胞への放射線照射後の形態観察よりアポトーシス、細胞周期にも異常が存在することが明らかとなっている[日高征幸等、第49回影響学会]。そこで、本研究ではric1の異常がDSB修復経路のどの段階に関与しているかについて培養細胞を用いた実験により詳細に解析した。DNA修復機構にはHomologous Recombination(HR)とNon-Homologous End-Joining(NHEJ)の二つの経路が存在することが知られている。ric1と野生型間の各経路を介した修復能を比較することで、ric1の異常がHRもしくはNHEJ特異的なものであるのか、両経路ともに関与しているのかを明らかにすることが可能である。そこでレポーターコンストラクトを安定導入した細胞内でエンドヌクレアーゼI-SceI発現プラスミドの一過的な導入による人為的なDSBを起こし、その修復経路を蛍光タンパク質の発現によって検出する実験系であるHRアッセイ、EJアッセイを用いてric1と野生型間のHR修復能、NHEJ修復能を比較した。その結果、ric1のHR修復能は野生型と比べて低下していることが明らかとなった。現在、NHEJによる修復能についても野生型と比較検討している。さらに、DSB修復の主要な因子として働いているATM、ヒストンH2AXとの関与を調べるために、薬剤によってATMを阻害後のHR、NHEJ能の解析、またヒストンH2AXのリン酸化の程度とDSB修復能との相関についてフローサイトメーターを用いて定量的に解析することでric1が修復経路のどの段階における異常であるのかを解析している。これらの結果について本大会において発表する予定である。
  • 加藤 宝光, 藤井 義大, 藤森 亮, 岡安 隆一
    セッションID: P1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    高LET重粒子線によっていわゆる修復の難しい複雑な損傷が作られることが知られている。これまでは、DNA二本鎖切断とその複雑な損傷に注目が集められてきたが、本発表では、DNA一本鎖切断、あるいは塩基損傷によって作られる複雑な損傷について、相同組み換え修復欠損細胞株を用いて検証した結果を延べる。G1期に細胞周期をそろえた細胞に放射線を照射すると、X線と比較し重粒子線照射の場合、細胞死が起こりやすく、またChromatid型の染色体損傷が生成される。相同組み換え修復欠損細胞では、Chromatid型の染色体損傷の発生頻度が多くなる。この結果は、G1期において作られた複雑なDNA損傷がDNA合成期において、二本鎖切断に変換された事を示唆しており、DNA一本鎖切断、あるいは塩基損傷によって作られる複雑な損傷が重粒子線で作られていることを意味している。
  • 鹿園 直哉, 野口 実穂, 漆原 あゆみ, O'NEILL Peter, 横谷 明徳
    セッションID: P1-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    クラスターDNA損傷は、DNAへリックスの一~二回転中に二つ以上の損傷が生じるものとして定義され、電離放射線で誘発されると考えられている。我々は、二本鎖切断以外(non-DSB type)のクラスターDNA損傷に注目して研究を進めており、クラスターDNA損傷がどの程度、また、どのように生物影響を及ぼすのかを調べている。我々はこの目的のため、合成損傷(二つの損傷を近接して人工的に配置させたもの)を用いるアプローチを試みている。この手法の利点は、放射線によってランダムに生じる多様な損傷のうち、損傷の種類・位置・個数を限定してその効果を調べられる点にある。本研究では、塩基損傷、脱塩基部位、鎖切断を両鎖に含むクラスターDNA損傷を用い、損傷を含むオリゴヌクレオチドをプラスミドに組み込んで大腸菌野生株に形質転換し、誘発される突然変異の特徴を塩基配列レベルで調べた。脱塩基部位からなるクラスター、鎖切断及び脱塩基部位からなるクラスターにおいては、形質転換効率は低いものの、脱塩基部位を鋳型にグアニンが挿入されるタイプの変化や脱塩基部位での1塩基対欠失が起こりやすいことが明らかになった。一方、8-oxoG及びDHTからなるクラスターやDHT及び鎖切断からなるクラスターにおいては、変異が生じる頻度は低いものの、損傷を配置した塩基対以外での塩基配列変化が観察された。これらの結果から、大腸菌野生株において、塩基損傷からなるクラスターDNA損傷の突然変異誘発過程では、1)少なくとも一方の塩基損傷が残ること、2)損傷部位の極近傍で変異を生成する場合があること、が示唆される。
  • 石川 彩, 山内 基弘, 鈴木 啓司
    セッションID: P1-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射後のDNA損傷チェックポイントの誘導には自己リン酸化ATMを起点としたチェックポイント因子のフォーカス形成が重要であることが知られている。筆者らは以前にG2/Mチェックポイント誘導能を評価する定量的指標として、ヒストンH2AXのリン酸化フォーカスの蛍光免疫染色画像をもとに、個々の細胞のもつフォーカス数だけでなく、サイズや輝度を考慮し、チェックポイント因子の分子数をより反映したパラメータとしてSum Of Integrated Density (SOID)を考案した。本研究ではチェックポイント誘導に必要なシグナル量を明らかにするため、SOIDを用いて放射線照射後のM期細胞の持つH2AXリン酸化フォーカスを定量解析し、ATM阻害剤KU55933(KU)処理によりG2/Mチェックポイントを不活性化した群との比較を行った。また、検出されるリン酸化H2AXフォーカスがどのような損傷によるものかを明らかにするため、放射線照射後のM期細胞の染色体損傷について解析を行った。
    まず、正常ヒト二倍体細胞を用いて、低線量X線照射後のG2/Mチェックポイントの誘導について検討した結果、M期細胞の割合は0.4 Gy照射後ただちに低下し始め、2時間後にはほぼ消失することがわかった。照射2時間後において、0.1 Gy以下では放射線照射によってM期細胞は消失せず、KU による顕著な影響も見られなくなった。そこで、0.4 Gy照射後M期に進行した細胞でリン酸化H2AXフォーカスを解析した結果、SOIDが5000を超える細胞は見られなかった。次に0.4 Gy照射後コルセミドを添加し、M期へ進行してきた細胞を集めて染色体損傷を調べたところ、染色体損傷の数は最頻値が2個であるのに対し、KU処理群は5個であった。また、観察された損傷は主にgapとbreakであった。
    以上の結果から、G2/Mチェックポイントの誘導に必要なH2AXのリン酸化シグナル量には閾値があり、0.4 Gy照射ではSOIDで5000程度が必要であることが明らかになった。また、このシグナル量は染色体損傷として3~4個に相当することが示唆された。
  • 吉村 友希, 大嶌 麻紀子, 中野 敏彰, 井出 博
    セッションID: P1-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    抗がん剤は、DNA-タンパク質クロスリンク(DPC)、DNA鎖間の架橋や鎖内の架橋(ICL)、二重鎖切断(DSB)など様々なタイプのDNA損傷を誘発することが知られている。DPC、ICL、DSBは、いずれもDNA複製を強く阻害するため、高い細胞致死効果を示すと考えられている。しかし、個々の抗がん剤がゲノムに対しこれらの損傷をどの程度誘発し、それぞれがどの程度細胞死に寄与しているかは明らかにされていない。本研究ではこの点を明らかにするために、各種抗がん剤が誘発するDNA損傷量と致死効果の関連を検討した。抗がん剤としては、アルキル化剤であるmitomycin C (MMC)、melphalan (L-PAM)、白金化合物であるcisplatin (cis-Pt)、oxaliplatin (L-OHP)、DNAメチラーゼ阻害剤である5-aza-2'-cytidine (azadC)、トポイソメラーゼ阻害剤であるcamptothecin (CPT)、etoposide (VP-16) を用いた。HeLa細胞をこれらの抗がん剤で処理し、致死効果はコロニー形成法より比較した。10%生存率を与える濃度は、L-PAM (4.23 μM)、L-OHP (1.5 μM)、azadC (1.35 μM)、cis-Pt (0.68 μM)、VP-16 (0.43 μM)、MMC (0.025 μM)、CPT (0.0076 μM)であった。DNA損傷を定量するために、10%生存率を与える濃度で処理した細胞から、塩化セシウム密度勾配遠心法によりゲノムDNAを単離精製した。DPCは、Western blottingによる定量法を確立し定量を行っている。ICL、DSBについても定量を行う予定であり、この結果についても合わせて報告する。
  • 井原 誠, 小林 純也, 栗政 明弘, 小松 賢志, 山下 俊一
    セッションID: P1-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線感受性の原因はDNA二本鎖切断修復の欠損あるいは誤修復の昂進によると考えられる。DNA二本鎖切断修復として相同組換え修復とKu蛋白依存性の非相同末端結合、53BP1依存性の非相同末端結合の少なくとも3種類が有ると考えられている。これらの修復系相互の関係は明らかになっていない。
    ATMは相同組換えに働くと考えられているが、非相同末端結合で機能する(Riballo E., Mol Cell, 2004)あるいはI-SceI誘導DNA二本鎖切断では相同組換えに関与しない(Sakamoto S., Oncogne 2007)等の報告もあり、その作用機序は依然として不明である。本研究では、Ku蛋白欠失による非相同末端結合能欠損STEF細胞とRNAiによる53BP1ノックダウン法を用いて修復関連蛋白質の電離放射線照射後の動態を解析した。
    STEF細胞の53BP1をRNAiによってノックダウンすると、生存率が高くなった。この細胞のATM を阻害すると生存率は低下した。この結果は53BP1ノックダウン細胞ではATMによる相同組換えが昂進している事を示している。現在、ウエスタンブロットを用いて放射線照射後のATM、リン酸化ATM等の修復関連蛋白質の動態について解析を進めている。
  • 野口 実穂, 漆原 あゆみ, 横谷 明徳, 鹿園 直哉
    セッションID: P1-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    クラスターDNA損傷(以下、クラスター損傷)とは1~2ヘリカルターン(10~20塩基対)に2つ以上の損傷を含むものとして定義されている。特に、DNA上の局所にエネルギーを付与する電離放射線ではクラスター損傷が生じやすく、LETの増加とともに、損傷の複雑性が増し、クラスター化が進むことが様々な実験から示唆されている。クラスター損傷の損傷構造として、LETの増加とともに、一本鎖切断や二本鎖切断の近傍に塩基損傷を伴うような複雑な構造が増加することがシミュレーションから導きだされており、このような複雑な損傷が細胞内でのDNA損傷修復を阻害し、その結果、突然変異や細胞死などの生物影響を生むことが推測される。
    我々は、クラスター損傷のモデルとして、二本鎖DNA上で相補鎖、及び同一鎖の近傍に一本鎖切断(SSB)と塩基損傷8-oxoGが存在するような構造のクラスター損傷を合成し、突然変異誘発頻度を調べた。その結果、両損傷が相補鎖に配置された場合は単独損傷に比べて変異誘発頻度が上昇し、同一鎖に偏った場合には変異誘発頻度の上昇は見られないことを見出した。相補鎖での変異上昇の原因として、8-oxoG近傍のSSBによる8-oxoG除去酵素Fpgの阻害が考えられる。しかし、同一鎖においては変異を抑制する原因、ならびに近傍のSSBと8-oxoGの修復(プロセシング)における相互作用など、全く明らかになっていない。そこで、本研究では同一鎖上に配置されたSSBと8-oxoGの変異抑制の原因を探るため、in vitroにおける酵素反応系を用いて、SSBが8-oxoGと同一鎖近傍に存在する場合の8-oxoGのプロセシングについて検討を行った。
  • 福地 命, SHARMA Mukesh Kumar, 松本 義久
    セッションID: P1-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    Purpose: XRCC4, in association with DNA ligase IV and XLF, is necessary for the ligation of the two DNA ends, as the final step of DNA double-strand break repair through non-homologous end-joining. It is shown that XRCC4 is phosphorylated in vitro and in vivo by DNA-PK, which is considered the molecular sensor of DNA double-strand breaks. We have so far identified four phosphorylation sites, in addition to two identified by others. Among four phosphorylation sites, two were phosphorylated in cellulo, i.e., in murine leukemia M10-derived XRCC4 expressing cell lines. On the other hand, we have been unable to detect the phosphorylation of other two sites. Considering a possible difference in the manner of phosphorylation between human and rodent cells, we examined phosphorylation status of XRCC4 in human cells.
    Methods: We collected XRCC4 protein from 0.5L culture of human leukemia MOLT-4 cells, either left unirradiated or harvested 30min after 20Gy 60Co gamma-irradiation), by immunoaffinity column chromatography. The phosphorylation status was analyzed by Western blotting using phosphorylation-specific antibodies corresponding to respective sites.
    Results and discussion: We could detect the phosphorylation of all of four phosphorylation sites. The phosphorylation was enhanced after irradiation. This observation indicated that the manner of phosphorylation of XRCC4 in response to DNA damage is considerably different between human and murine cell lines. We will also report a new, rapid assay system to evaluate XRCC4 function in terms of its ability to sustain proliferative capacity after irradiation.
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