貧栄養である黒潮でも,黒潮内側域の水塊移流がプランクトン現存量や生産力を増大させる可能性が指摘されているが,情報が限られている.そこで本研究では,高分解能沿岸海洋モデルにおける粒子追跡実験により,黒潮へ移流する黒潮内側域の水塊の供給源および移流過程を再現した.黒潮フロントで頻発する蛇行や渦などの擾乱に遭遇することで,黒潮内側域から黒潮域への水塊移流が励起されていた.沿岸水の供給源としては,トカラ海域での定常的な移流が最も大きく,東シナ海での冬期から春期の移流も貢献した.黒潮内側域から黒潮域への動物プランクトン移流量は,黒潮内での動物プランクトン輸送量の2–44%に相当し,九州南方海域から九州東方海域での移流が貢献した.黒潮内側域から移流する動物プランクトンの生物量は,黒潮内の動物プランクトンの成長による増分に匹敵し,黒潮における魚類群集の餌要求を支えている可能性がある.
東京湾三番瀬でのアサリの再生産動態を明らかにするために,2001–2005年に約2週間間隔で幼生,着底稚貝から親貝の密度変化の詳細を,また1988–2014年に2ヶ月間隔で底生個体の密度の長期変動をそれぞれ調査した.資源形成の主体となる秋産卵群に関する2001–2004年の観察では,2002年産卵群の密度は,幼生来遊時,着底時,加入時,および親貝に達した時でいずれも高く,幼生来遊時の密度が着底から親貝までの密度に反映していた.長期変動調査では,秋産卵時10月の親貝密度とそれに由来する翌春6月の未成貝密度の間には明瞭な関係はなかったが,6月の未成貝密度とそれが成長した10月の親貝の密度と正の相関を示した.親貝と次世代の未成貝密度が相関しない理由として,配偶子形成の可塑性と産卵の環境依存性を考察した.三番瀬においてアサリ親貝の豊度を決定している生活史段階は産卵であるという仮説を提示した.
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