水産海洋研究
Online ISSN : 2435-2888
Print ISSN : 0916-1562
80 巻, 4 号
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原著論文
  • 本田 尚美, 杉本 亮, 小林 志保, 田原 大輔, 富永 修
    2016 年 80 巻 4 号 p. 269-282
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    小浜湾には,河川水だけでなく地下水からも栄養塩が供給されている.しかしながら,これらの陸水流入に対する湾内の植物プランクトンの応答は明らかになっていない.本研究では,クロロフィルa(Chl-a)濃度を実測するとともに,一次生産力ポテンシャル(PP)を温度・光・栄養塩濃度の関数として算出することで,陸水流入に対する一次生産過程の応答の時空間変化を評価した.河川流量が増大する11–2月にかけては,Chl-a濃度およびPPは表層付近で高かった.一方,3–10月にかけては,表層の栄養塩が枯渇しており,Chl-a濃度およびPPは底層付近で高かった.特に5月は,湾中央部底層でChl-a濃度が著しく高くなっていた.この底層Chl-a極大は小浜平野の地下水が流出すると予想される場所に形成されており,また,6月にはこの付近の底層において低塩分水が観測された.雪解けに起因する地下水流出量の増大が5月に植物プランクトンブルームを引き起こしたと推察された.

  • 品田 晃良, 三好 晃治
    2016 年 80 巻 4 号 p. 283-288
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    北海道オホーツク海沿岸域で漁獲される地まきホタテガイMizuhopecten yessoensisについて,産地価格を決定する一つの要因である貝柱湿重量に着目して,海洋環境が及ぼす影響を評価した.解析には1992–2012年のデータを用い,応答変数は漁獲盛期である8–10月における4年貝の平均貝柱湿重量,説明変数は4–7月における各月の底層水温,底層クロロフィルa濃度(餌濃度の指標)および稚内と網走の水位差(流れの強さの指標)とした.スピアマンの順位相関係数を求めた結果,平均貝柱湿重量は4月の水温とクロロフィルa濃度および水位差のそれぞれと有意な正の相関を示した.さらに,これらの説明変数を使って一般化線形モデルを構築して,AICによる変数選択を行った結果,すべての説明変数を用いたモデルが選択された.以上の結果は,4月の海洋環境が地まきホタテガイの貝柱湿重量に強い影響与えていることを示唆している.

  • 上原 匡人, 立原 一憲
    2016 年 80 巻 4 号 p. 289-301
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,沖縄海域で漁獲されるドロクイ属2種(Nematalosa japonica and N. come)について,仔稚魚の出現様式,成長,骨格系の発達,食性を明らかにした.両種の孵化仔魚は,はじめ湾内の沖合に分布し,尾鰭による推進力の獲得に伴い孵化後10日,体長10 mmで波打ち際に接岸した.接岸場所としては,砂質干潟が選択され,主にカイアシ類を摂餌して成長し,変態期仔魚に相当する孵化後30日,15 mmで泥質干潟へ移動した.このとき,効率的な推進力や操縦性の向上など高い遊泳能力を有し,能動的に移動していると考えられた.移動後も,主にカイアシ類を摂餌し,22 mmからデトリタス食へ食性を変化させた.両種は,泥質干潟と近隣の浅海域で成長を続け,孵化後1年で約100 mmに達した.このように,両種にとって浅海域,特に干潟域が,ごく初期の成育場として極めて重要であり,近年の人為的な干潟域環境の消失は,両種の成育場を消失させることになると考えられた.両種の健全な個体群を維持していくために,沿岸浅海域の保全が不可欠である.

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