三河湾東奥部の豊川河口に位置する六条潟では,毎年大量にアサリ稚貝が発生し,漁業者によって採捕され伊勢・三河湾の沿岸域に広く移植されている.しかし,近年秋季から冬季にかけてアサリ稚貝が大量に減耗する現象がみられている.このアサリ資源の減耗要因を明らかにするため,2015年秋季から2017年春季にかけて個体群の推移,採捕圧および食害動物の出現状況を把握するとともに水温,クロロフィルaおよび海底近傍の流れの連続観測を実施した.特に減耗が顕著であった2015年秋冬季について,水温,餌料量を変数とする既往の成長モデルにより成長・生存状況を検討したが,生理的死亡は再現されなかった.風浪に伴う掘り出しによるエネルギー損失も考慮した成長モデルに改良し,成長・生存状況を再検討した.その結果,成長や減耗時期をおおむね再現することができたことから,風浪が顕著な海域においては掘り出しによるエネルギー損失も重要である可能性が示唆された.
宮城県中部海域の女川湾において,2018年にAlexandrium spp.が高密度化し,38年ぶりにホタテガイで麻痺性貝毒が発生した.そこで本研究では,海洋環境および競合すると考えられるケイ藻との関係を調べることで,Alexandrium spp.の増殖要因について検討を行った.宮城県沿岸域では,2018年春季に暖水の影響が強まった.そのことでAlexandrium spp.の増殖に適した水温となり,また水温躍層が発達することで増殖しやすい環境が形成された.さらに水温上昇がケイ藻の群集構造に影響を与え,Alexandrium spp.の増殖に負に作用すると考えられるThalassiosira nordenskioeldiiとChaetoceros debilisが減少した.これらの複数の要因により女川湾でAlexandrium spp.のブルームが発生したと考えた.ブルームにより,女川湾で堆積したシストが“seed population”となり,さらに近年,水温が上昇トレンドであることから,この水域における麻痺性貝毒発生について引き続き注意を払っていく必要がある.
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