三陸沖の底魚漁業の漁獲統計データおよび底魚類現存量調査データを用いて,底魚群集を中心に46機能群を有したEcopath生態系モデルを構築し,Ecopathのアウトプットや指標から,生態系の食物網構造を記述し,漁業の生態系への影響評価を行った.重要な餌生物となる機能群は,マクロベントス,中深層性魚類,ツノナシオキアミであったが,これらに対する捕食者間の餌選択性は異なった.また,現存量が小さいものの,三陸沖の底層生態系において鍵となる機能群は,中深層性さめ類,マダラ2+歳魚およびムネダラであったが,これら間の餌生物を巡る重複度は低く,競合関係は見られなかった.漁業活動の生態系への影響評価において,漁獲量に必要な基礎生産量は,かけ廻し漁業が2そう曳き網漁業よりも低く,高次捕食者の餌生物に対する影響は逆にかけ廻し漁業が2そう曳き網漁業よりも高かった.
トラフグ伊勢・三河湾系群における再生産成功率(RPS)の変動機構を解明するために,伊勢湾内およびその沖合域において1993–2012年に観測された水温,塩分を基に海洋環境との同期性を解析した.その結果, RPSと各成長過程における海洋環境の間に有意な相関関係がみられた.産卵期前である2月の伊勢湾中央部における10 m深水温が高く,3月の湾中央部の5 m深塩分が高く,産卵期である4月の伊勢湾湾奥部における10 m深塩分が高く,着底後である7月の湾中央部の30 m深水温が低く,10月の湾中央東部表層0 m深の水温が高い年にRPSが高い傾向にあった.ステップワイズ重回帰分析の結果に基づいて,水温および塩分値用いたRPS追算を試みた.
1990年代以降の温暖レジーム下,とくに北日本でブリ類の漁獲量増加が報告されるなか,これまであまり注目されなかった分布の南縁部である鹿児島県海域における漁獲量の推移を整理し,全国の動向と比較した.またブリ類漁獲量の重心を求め,その変動を把握するとともに,レジームシフト,海面水温変動および漁獲量変動との関係を調べた.全国と鹿児島県のブリ類漁獲量の長期変動の間には有意な負の相関関係が認められ,前者の増加(減少)から4年程度遅れて後者が減少(増加)する傾向が認められた.我が国周辺の中緯度域の海面水温が上昇すると漁獲量重心が北東方向へシフトする傾向が認められ,また漁獲量重心の変動はレジームシフトに対応しており,寒冷期には南西方向へ,温暖期には北東方向へシフトすることが明らかになった.これら水温環境の変化に対応したブリ資源の分布域の変化によって,全国と鹿児島県の相反する漁獲量変動のメカニズムが説明された.
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