生体医工学
Online ISSN : 1881-4379
Print ISSN : 1347-443X
ISSN-L : 1347-443X
Annual61 巻, Abstract 号
選択された号の論文の448件中201~250を表示しています
  • 山口 雄作, 兒島 雄志, 吉永 哲哉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 187_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    医用CT画像診断装置の画像再構成法として変換法と逐次法が知られている.逐次法は,CT装置から得られた投影に対し,最適化原理に基づく逐次演算により高品質画像を再構成できる特長を持つ.筆者らはこれまでに,力学系理論と最適化理論に基づいた種々の逐次法を開発している.最近では,投影と順投影の比に係る冪指数パラメータを逐次則に導入し,パラメータを調整することで従来型の逐次法より性能の向上が期待できる逐次法を提案している.提案法において,効果的な高い性能を与えるパラメータ値は撮影対象や撮影条件等に応じて異なり,適切なパラメータ値の選定が課題として残されている.本研究では,共通の性質を持つ投影データの集合に対して最も高い性能が得られるパラメータ値を推定関数の最適化により求める方法を提案する.提案法の動作を検証するため,投影と順投影の一般化ヘリンガー距離を最小化する原理が内在された逐次画像再構成法を対象とし,デジタル・ファントムを用いた数値実験の結果を定量的に評価した.具体的には,推定関数を最小化する勾配法が適切に動作し,適切なパラメータ値が得られることを確認した.このとき,選択する推定関数に応じて効果的なパラメータ値に違いが生じることを明らかにした.対象の形状や測定の雑音レベルが同等の場合において,機械学習の手続きを導入せずに,画像品質を高めるパラメータ値が再構成の前処理で得られる利点は大きい.

  • 石川 和希, 山口 雄作, 兒島 雄志, 吉永 哲哉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 188_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    X線CTやSPECTなどのCT画像診断装置で投影から断層画像を再構成する原理には変換法と反復法がある.反復法は最適化原理に基づく導出が可能であることから,非適切な逆問題設定においても変換法と比較して品質の高い画像が得られる特長を持つ.さらに,種々の反復則に共通に適用可能な改良法として,画素数に比して投影数が少ないスパースな投影条件における再構成画像の品質を高める目的で,投影を複数のブロックに分割して反復させる方法が知られている.順序サブセット法は,分割した投影を予め定めた順序で反復に利用し,すべてのブロックを使い切って巡回させる.著者らの研究グループでは,ブロックを順序的に用いるのではなく,反復による最適化が最も効果的と推定されるブロックを動的に選んで優先的に使用する方が全体の最適化に有効であることを示し,提案則をウィーディング・ブロック反復(WBI)と呼んだ.一方,同研究グループの先行研究で,期待値最大化(EM)法を2つの冪指数パラメータを用いて拡張した反復則を考案し,EM法よりも高い品質の画像が得られることを例証している.本研究では,拡張したEM則をWBI原理と融合させ,スパースな投影のもとで品質の高い再構成画像が得られる方法を提案している.実際,数値実験を通して定量的に検証を行い,順序サブセットEM法とブロック化しない拡張EM法よりも提案法の方が性能が高いことを確認できた.

  • 炭 親良, 鳥居 直晃, 加藤 照都, 藤原 琉暉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 189_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    我々は、超音波エコーの超解像と超音波ベクトルドップラー観測を開発している。前者はいわゆる逆フィルタリングをベースとし、そのままでは不安定な系であるゆえに正則化やMAP(maximum a posteriori)を施して安定化することを行ってきた。スペックル低減による高分解能化を狙う場合と、組織の反響特性(反射率や後方散乱係数)を定量化する場合とがある。後者は独自に開発した多次元自己相関法や多次元クロススペクトル位相勾配法なるドップラー法により、探触子を対象にあてがうだけで観測対象の変位方向に依らず例えビームと直行する横方向に変位しても変位をベクトルとして高精度に観測でき、計測手技に簡便性を齎し観測対象を広範化できる。軟組織と血流の動態を同時に観測でき、心臓や血管(脈を含む)や心拍と同期して変形する腹部臓器や運動器(手足)のin situ観測や、体外からの力学的な刺激による応答の観測ができる。この観測においても同様に安定化をしてきた。正則化処理は先見的に行われることが多いが、本稿ではこれらのシミュレーションと実験における処理において後天的で空間的に適応型の正則化を行った結果を報告する。直接に観測された分布において局所の標準偏差や分散や分散のべき乗(整数乗とは限らない)を推定し、これを正則化パラメータに反映させる。多次元クロススペクトル位相勾配法の方が元より安定しており、高SN比の同エコー信号において、多次元自己相関法に効果があった。超解像処理の場合を含め、正則化パラメータのロバスト性についても報告する。

  • 橋田 周治, 鈴木 志歩, 辛川 領, 矢野 智之, 荒船 龍彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 189_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    乳がん治療後に処置される乳房再建手術において主に用いられるのが自家組織を用いた皮弁移植再建である.一般的に腹部の血管付き脂肪組織を皮弁組織として用いることが多いが,脂肪組織を栄養する穿通枝は細く解剖学的に把握しづらい.そのため初学者が 術前CT画像だけから深下腹壁動脈と穿通枝の三次元的な構造を三次元的に十分に把握することは容易ではない. 術前の臓器の立体的構造把握のための機器としてHMDを用いた3Dホログラム可視化システムがあるが,毎回のHMDの着脱や3Dデータの供覧方法が煩雑といった課題がある.そこで本研究の目的は,術前CTを3D表示し,その3Dデータを裸眼立体視して腹部血管の立体的な構造や脂肪組織との相対的な位置を直感的に把握できるシステムの開発とした.裸眼立体視には空間再現モニタELF-SR1(Sony)を用い,立体視用の患者データの表示ソフトウェアを,開発環境Unityを用いて独自に開発した.開発したソフトウェアで3DデータをキーボードやLeapMotionによるハンドジェスチャーで任意の大きさや位置に回転,移動,拡大,縮小,表示切り替えする機能を実装した.操作から投影までの遅延時間はそれぞれ軸回転325ms,軸移動242ms,キーボード操作212msであった.専門医による評価によりキーボードは安定した操作に,LeapMotionは直感的な操作に向いていることが示唆された.

  • 藤井 一真, 和田 直正, 千葉 慎二, 鈴木 孝司, 鷲尾 利克, 辛川 領, 矢野 智之, 荒船 龍彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 190_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    乳がん治療後の乳房再建術中における再建乳房形状の定量的な評価手法は未だ確立されていない.我々は健側乳房と再建中乳房の局所の体積差を導出する再建術中支援システムを開発してきた.しかし臨床評価において,形状差を定量的に術者へ提示できる反面,画像処理工程が多く計測から投影に掛かる時間がかかる点,また,画像処理ソフトウェアのインターフェースが複雑で操作に習熟が必要という点が課題として明らかとなった.そこで本研究では解析処理を見直し,再建乳房の3D形状差情報をリアルタイムで導出するシステムの開発を目的とした.開発環境はVisual Studio2022を用い,3DセンサにはAzure Kinect DK(Microsoft社)を用いた.開発したシステムでは画面上で一度患者正中線を指定すると,アフィン変換,左右反転,形状差導出の順で処理を自動で行い,リアルタイムで左右乳房の形状差情報を導出・提示する.ライフサイズマネキンを用いた評価実験において形状差導出精度は従来機器とほぼ同等でありながら,従来15~30分掛かっていた乳房形状差作成処理に掛かる時間は約0.33秒と短縮化したことでリアルタイム形状差導出が可能になった事を確認した.さらに実際の再建術中の臨床評価実験を行い,従来の手術工程を大きく妨げることなくシステム使用可能なことを確認した.

  • 古屋 香菜子, 鈴木 志歩, 辛川 領, 矢野 智之, 長谷川 雪憲, 森本 尚樹, 荒船 龍彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 190_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    乳癌切除後の乳房再建の新たな手法として, ポリ乳酸スキャフォルドを用いた人工脂肪による再建技術が提案されている.しかし動物実験では埋植後の人工脂肪が硬くなる事象が確認されており,臨床応用に向けて患者の術後QOLに強く影響する乳房の局所の硬さをまんべんなく定量的に計測・評価できるシステムの開発が急務である. 本研究の目的は, 再建患者の乳房の硬さを多点で計測し,計測後の情報を三次元表示可能な計測システムの開発とした. 計測システムは力センサとばねで構成される小型デュロメータを乳房全体を覆う和製ブラに多数配置したものと,センサの値を取得するArduinoから構成される. 計測対象への内筒部の変位を力センサとばね定数から導出し, 変位を硬さ指標に変換して硬さ情報を得る. 下着を装着後, デュロメータ部を順に押し当てていくことで全体の測定値を得る仕組みとした. 更に, 被験者上半身を深度センサのKinect DKを用いて三次元計測し, その3Dデータ表面に硬さ指数を色情報として作成した硬さ指標マップをテクスチャ描画し, 3D乳房硬さマップを導出するシステムを開発した. 開発した計測システムを用い, 市販の生体硬度計PEK-MPを用いて, マネキンを計測対象にして妥当性評価を行い,PEK-MPと同様にマネキンに内包された擬似乳房のしこりの位置同定ができることを確認した.

  • 相澤 康平, 樋口 裕大, 東口 武史, 若山 俊隆
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 191_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    アミロイド線維は臓器に沈着すると機能障害を引き起こす.このアミロイドーシスの診断は,生体組織検査で臓器の一部を採取し,病理標本をコンゴーレッド染色するところからはじまる。病理医は偏光顕微鏡を用いてこの病理標本を観察して確定診断を下す.しかし,これまでの方法は,コンゴーレッド染色液自体の発がん性への危険度や膠原線維の共染,そして,診断結果が出るまでに時間を要することが指摘されており,無染色状態でのアミロイド線維の迅速な検出が求められている.本研究は,従来法の偏光度計測よりも高感度に直線偏光度をイメージングできる手法を独自に開発し,アミロイド線維が沈着した箇所の直線偏光度が筋線維に比べて0.3%だけ高くなることを明らかにした.従来まではコンゴーレッド染色の架橋によって生じる複屈折を偏光顕微鏡によって観察するにとどまっていたが,直線偏光度を高感度に検出する本手法によって,各線維で生じる直線偏光度のわずかな変化を検出できるようになった。我々の結果は,アミロイド線維とその他の線維を直線偏光度で分類することを可能とした.これはアミロイド線維の無染色検出の新たな可能性を示している。

  • 山口 昌樹, 秋元 陽佑
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 191_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    抗原抗体反応は,ほとんどのタンパク質に適用可能な優れた分子認識技術であり,臨床検査で主流な分析方法となっている。しかし,抗体を再生するためには解離液で抗原を解離する必要があり,試薬の補充が発生し,生体装着して時系列的なモニタリングを実現するデバイス化ができない。本研究では,光照射の有無で水素イオンを放出/吸収する可逆反応を有する光酸を適用し,レーザーpH制御による再生法 (レーザー抗体再生法) というバイオセンサのリサイクル技術を提案する。レーザー抗体再生法は,抗体の近傍に光酸 (8-hydroxypyrene-1,3,6-trisulfonic acid; HPTS) を固相化し,特定波長の光を数秒照射することによりpHが変化し,極めて短い時間で抗体から抗原が解離し,再生できる仕組みである。HPTSを固相化するために,そのスルホン酸のヒドロキシ基を塩素に置換し行った。HPTS溶液のpH制御能を検証するために,レーザー (京セラSOC(㈱)) を照射し,pHメーターでpHの経時的な変化を測定した。その結果,わずか 50 mW のレーザー出力で抗体の解離に必要なpH変化が得られることが判った。抗原にコルチゾール,抗体に抗コルチゾール抗体からなるELISAプレート (Salimetrics社) 内で,本pH条件において抗体から抗原が解離することを実験的に確認した。

  • 小林 巧明, 竹花 靖孝, 岩永 進太郎, 黒岡 武俊, 中村 真人
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 192_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    現在、再生医工学において心臓組織を構築する研究が盛んに進められているが、実用化までには多くの課題がある。その一つに、心筋組織の配向性の構築があげられる。心筋を含む筋肉組織は細胞の配向性を揃えることで、拍動力が強く維持されることが知られている。当研究室では細胞と生体材料を用いて様々な形状の細胞凝集塊(バイオパーツ)を作製し、これらを集積化することで組織の作製を試みている。本研究では組織の配向性に着目し、バイオパーツそのものに配向性を持たせることを考えた。バイオパーツとして細長い形状の細胞ファイバーおよび、リング形状の細胞リングを選択し、配向性の構築を試みた。細胞ファイバーは中空状のハイドロゲルファイバーを鋳型にし、細胞リングはドーナツ型のシリコン製鋳型を用いて、細胞をそれぞれ鋳型内に充填することで調整した。線維芽細胞で作製したバイオパーツはいずれも顕微鏡による観察像から配向性を有していることが示唆された。一方、マウスES細胞で作製したバイオパーツに対して心筋分化誘導を行った結果、細胞リングにおいては一部で拍動する箇所が観察されたが、細胞ファイバーでは鋳型からはみ出た端部において拍動が観察された。今後はバイオパーツの作製法および分化誘導開始時期の検討を行い、並びに、ES細胞由来の心筋バイオパーツの配向性を確認し、これらのバイオパーツを用いた心筋組織作製を試みていく。

  • 廣井 洸太, 矢野 瑞菜, 中村 孝夫, 佐藤 大介, 馮 忠剛
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 192_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    研究背景・目的:現在、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化させた心筋細胞の応用が期待されており、既に臨床試験の報告もされている。先行研究にてゲル上で培養したヒトiPS細胞由来心筋細胞において培地内に脂肪酸を添加した場合、添加していない場合と比べて細胞クラスターが多く形成されることが明らかとなった。本研究は、多価不飽和脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(AA)の培地内添加が培養心筋細胞拍動およびクラスター形成による拍動に及ぼす影響を調べる。実験方法:ヒトiPS細胞を心筋細胞へ分化誘導し、分化15日目の拍動心筋細胞をコラーゲンゲル上に播種し、DHA(20μM)とAA(50μM)が別々に添加した培養液で培養した。本研究室で開発したvision-based拍動力測定システムでコラーゲンゲルの拍動力を測定した。また、有限要素法(FEA)を用いてクラスター形成した細胞のモデルを作製し、非クラスター形成との比較をシミュレーション解析により行った。結果:心筋細胞の収縮率の有意な向上に対して、拍動力の向上は無かった。FEA解析によりクラスターと非クラスターでは、均一な非クラスターの場合はゲルの拍動力が高い傾向を示した。また、複数のクラスターの拍動や非同期的なクラスター拍動がゲルの拍動力に及ぼす影響も検討した。

  • 高橋 花奈, 斎藤 諒太, 澤田 幸太, 佐藤 大介, 小沢田 正, 馮 忠剛
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 193_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて重度心疾患を治す心臓再生医療が注目されている。心筋細胞には、心室筋細胞、心房筋細胞、ペースメーカー細胞の3種類のサブタイプがある。iPS細胞から分化された心筋細胞は、3種類のサブタイプ心筋細胞が混在しており、各々のサブタイプ心筋細胞に特異的な分化・分離法の確立を求められている。そこで、心室筋細胞外基質(vECM)で作製したバイオハイドロゲルにヒトiPS細胞から分化した心筋細胞を包埋培養することで、心室筋細胞への分化促進を検討し、バイオハイドロゲルの拍動ダイナミクスの解析によりその促進効果を評価する。コラーゲンゲル(1.5mg/ml)をcontrolとして、同濃度のコラーゲンにvECM濃度が0.56mg/ml、1.11mg/mlを混合した計3種類のドーナツ型のゲルを用意し、一個のゲルにつき、90万個と120万個の細胞を包埋播種し2週間に培養した。これらのバイオハイドロゲルをCantileverに掛け、その拍動動画からCantileverのたわみ量を測定し、これに対して片持ち梁の横振動解析によりゲルの拍動力ダイナミクスを得た。その結果、細胞数90万個を包埋したゲルの方が、120万個のゲルよりも全体的に拍動力が大きい傾向を示し、vECM濃度0.56mg/mlのゲルにはその拍動ダイナミクスが心室筋の拍動特徴に近づいた。

  • 木村 雄亮, 池内 真志
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 193_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    喉頭がんなどのいくつかのがんは、その発生や悪性化の過程において、発声や咳嗽などの可聴周波数帯域のメカノストレスの影響を受けると考えられる。しかし、従来のメカノストレス解析のための細胞培養系は、数Hz程度の低周波数帯域の伸展刺激を与えるものがほとんどであり、可聴周波数帯域のメカノストレス下での培養を可能とするデバイスは存在しなかった。そこで本研究では、発声によるメカノストレスを再現可能なin vitro細胞培養モデルを開発した。開発デバイスはマイクロ光造形法により作製し、造形分解能50 µmで、組織の3次元形状を再現できる。細胞は厚さ50 µmのPDMSシート上で培養し、底面に設置されたマイクロスピーカより可聴周波数帯域の振動刺激をダイレクトに付与する事が可能である。機能検証のために、デバイス上にHepG2がん細胞株を播種後、マイクロスピーカより、ヒト発声周波数域である500 Hzの振動を、12時間付与しながら培養した。培養後細胞からRNAを抽出し、遺伝子発現解析を行った。その結果、ACTa1の発現レベルが有意に減少する事が示唆された。ACTa1は細胞骨格の構成成分としての機能だけでなく、様々ながん種において、発現変動が報告されている遺伝子であり、がんの悪性化との関係が示唆されている。以上より、がん細胞に対する音波振動刺激は、がんの悪性度合に影響を与える事が示された。

  • 中村 奈緒子, 樋口 亮平, 木村 剛
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 194_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    免疫細胞の一つであるマクロファージは, 炎症促進型のM1型,炎症抑制型のM2型の各表現型に可逆的に分極することが明らかになっている.表現型の評価には免役染色や PCR 法などが用いられているが,侵襲的であり,同サンプルの経時的な観察はできない.また, 各表現型は細胞形状が異なるものの,細胞間のばらつきが大きく,面積や真円度等による表現型の識別には至っていない.そこで,AI技術の導入による各表現型の画像分類により,マクロファージの新たな表現型評価法を開発することを目的とした.マクロファージに各種分極誘導因子を添加し, RT-PCRにて表現型を評価した.機械学習には位相差画像で撮影した画像を使用した.形状変化を伴う細胞分裂の影響を除くため,一定の真円度と面積で細胞を選抜してデータセットを作成し,AIにAlexnetを用いた.M0/M1/M2の3分類の全体の正解率は約8割であったが, 正解率はM1/M2の組み合わせでは高く,M0を含む組み合わせは低かった.システムの有用性の評価のため,マクロファージの表現型を分極誘導因子添加後から経時的に評価した.分極誘導因子添加群は,添加20時間後には分極誘導通りに高い予測値で識別されたが, 分裂期の細胞をM1と誤識別することが多かった.そこで, M0/M1/M2に加えて細胞分裂前後1時間の細胞のカテゴリーを追加し, 4分類で評価したところ, 表現型の識別精度が向上した.以上より, マクロファージの分極を経時的に評価できることが示唆された.

  • 佐渡 真登, 稲田 シュンコ
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 194_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    細胞状態を解析する際は、専用の細胞解析装置が用いられる。この細胞解析装置としては、フローサイトメーター(FACS)やセルカウンターなどがある。FACSは単一細胞を正確かつ高速に評価できるが、高価(2000万円以上)であり、維持費が高く、設置スペースをとり、起動や終了に時間がかかるなどの問題点を持つ。また、セルカウンターはFACSに比べ小型・安価(100~200万円)であるが、解析内容は乏しい。これに対し本研究では、細胞解析に特化したバイオチップシステムを開発することで、安価・簡易的かつ、正確性の高い細胞解析を実現する。バイオチップシステムは蛍光染色した細胞を注入するスライドとLED光源、光学顕微鏡から成る(サイズ:78×100×108mm)。染色した細胞に励起光を照射すると蛍光が得られ、これに開発した細胞数カウントプログラムで画像処理を行い、アポトーシス(細胞死)・ネクローシス(壊死)の個数を得る。本バイオチップシステムを評価するため、意図的にアポトーシス・ネクローシス誘導させた大腸癌細胞を使用してアポトーシス・ネクローシスの検出実験を行った。結果を目視検出と比較したところ、バイオチップシステムは細胞のアポトーシスとネクローシスの識別が可能であった。また、細胞数カウントプログラムは1 秒未満の検出時間で、目視による判別に対し96%以上の精度で細胞を検出した。

  • 松井 岳巳, 寺本 汐里, 淺井 雅人, 福山 伸弘, 丹治 栄二郎, 佐藤 正平
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 195_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    コロナ禍においてサーモグラフィーを用いた体温推定が商業施設等で日常的に行われている.一方で,その体温推定精度には疑問が残る.本研究では,サーモグラフィーを用い,推定ではなく,脳前頭前野(prefrontal cortex (PFC))温度の実測を行った.10分以上室温に馴化させた23名(45±15歳,男性16名/女性7名)を対象に,ヘアバンドを用いて熱流補償型温度プローブ(コアテンプCM-210テルモ(株))を前額に装着し, 熱平衡状態においてPFC温度を測定した.同時に,解剖学的にPFCからの直接的熱伝導がある内眼角付近の結膜温度をサーモグラフィー(R550Pro日本アビオニクス(株))を用いて測定した.その際,熱雑音等の影響を最小にするために45枚(瞬きは除外)の熱画像の加算平均を行った.Bland-Altman plotを用い内眼角付近の結膜温度とPFC温度を比較したところ,23名全員の測定データが許容測定誤差(limits of agreement)内に収まっていた.これにより,内眼角付近の結膜温度に1.86℃を加えた温度とPFC温度の同等性が示された.また,平均絶対誤差は0.28℃だった.

  • 高橋 亜都夢, 檮木 智彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 195_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    脳蘇生のための生理状態自動制御システムの開発を目指し、脳生理状態数理モデルが構築されている。これを用いた治療シミュレーションを行うには、治療操作を表現するモデルが必要となる。本研究では脳組織温度管理に限定した血管内冷却時の全身熱移動モデルを構築し、血管内冷却シミュレーション結果と臨床試験結果との比較から本モデルの妥当性を検証し、脳組織温度制御の可能性を検討するために脳温PID制御シミュレーションを行った。血管内冷却では、生理食塩水温度(生食温度)を24℃一定とした時、脳組織温度の冷却速度は0.53℃/h、動脈血温度の冷却速度は0.026℃/分となり、整定時間は216分であった。臨床試験では生食温度が一定でないので本研究の結果と直接比較できないが、脳組織温度の冷却速度は約1.0℃/h、動脈血温度の冷却速度は0.019℃/分、整定時間が120~270分と、ほぼ同様であった。PID制御では、整定時間は137分であり、行き過ぎ量は0.39℃であった。これらの結果も、臨床試験結果とほぼ一致した。PID制御時の生食温度は、5.8℃まで低下したが、過冷却で考慮されている4℃以下にはならなかったことから無理はなかった。故に、構築したモデルは血管内冷却における体温変化を概ね表現できると考えられる。また、血管内冷却における脳組織温度PID制御も生理学的に無理なく行えることが示された。

  • 鷲尾 利克, 佐野 史弥, 厚見 秀樹
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 196_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    レーザー光を用いた温熱治療は従来よりも局所的な加温を可能とする。この時、生体では、光の伝搬と熱の伝導の2つの物理現象が生じる。本発表では、光拡散方程式と生体伝熱方程式を用いた連成数値計算を行い、生体側の特性で留意する点について報告する。数値計算では、光伝搬について光の吸収係数および散乱係数、異方性パラメータ、屈折率を考慮した。また熱伝導について密度、比熱、熱伝導率、脳血流量を考慮した。計算領域として一辺50mmの立方体を想定し、境界条件として脳表を仮定した面において光伝搬、熱伝導ともにロビン条件とした。脳内を仮定した面では光伝搬はディリクレ条件、熱伝導ではノイマン条件とした。負荷は計算領域中央に1Wのレーザー光を2秒オン、2秒オフの繰り返しを360秒分与え、その時間分の計算を行った。生体側の特性として複数条件を考慮したのは、従来研究で最も広くばらついて報告されている光の吸収係数及び等価散乱係数であり、その組み合わせを6種類設定した。数値計算結果と、従来研究の兎での実測値を比較し、吸収係数が0.01/mm、等価散乱係数が10/mmの組み合わせが生体の特性として妥当であると判断した。一方、臨床機器の結果と数値シミュレーションの比較した従来研究で、吸収係数が0.5/mm、等価散乱係数が1.68/mmの組み合わせが妥当であると報告されている。数値計算の信頼性を向上させるために生体側の光に関する特性値の一意性を得ることが必要である。

  • 春山 慶伍, 今井 章, 田中 慶太, 高瀬 弘樹, 塚原 彰彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 196_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    運動知覚の研究は,先行研究において多く報告されているが、明確なメカニズムは提唱されていないのが現状である.運動知覚の理解は,ブレインマシンインターフェースの発展等に期待されている.運動知覚には,実空間を物理的に移動する物体の知覚である実際運動知覚と,物理的には移動していない物体があたかも移動しているように知覚される仮現運動知覚とが区別される.仮現運動は最適な条件下では実際運動と区別できないため,運動知覚の解明によく検討されている現象である.本研究では,仮現運動の一つであるベータ運動を用いて運動知覚処理に関連する脳領域を探ることを目的とした.ベータ運動は空間的に離れた2点に提示する刺激の時間間隔を変えることで,自然な運動が知覚される最適時相と,運動が知覚できない同時時相の2種類を提示できる.ベータ運動観察時の脳活動を脳磁界計測装置により測定し,各脳領域の信号源推定を行った.解析対象を背側視覚路上の後頭部と頭頂部とし,信号源推定の結果に対してウェーブレット変換を行い,事象関連脱同期・同期(ERD/ERS)を算出し,運動知覚に関わるアルファ波帯域の活動を検討した.その結果,脳活動の賦活化を示すERDは同時時相では一次視覚野である後頭部が最も大きかったが,最適時相では上頭頂小葉が最も大きかった.すなわち,空間認知に関わる上頭頂小葉の運動知覚への寄与が示唆される結果となった.

  • 湊谷 麻衣子, 方 琦, 濱田 智仁, 大黒 達也
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 197_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     近年,様々な場面で創造性を発揮することが求められ,創造性を強化したいというニーズが増している.先行研究では,創造性が高いとき脳のアルファ波帯域のパワーが強くなることが示唆されている.一方で,脳のアルファ波を意図的に高めることで創造性も高まるのかは分かっていない.

     本研究は,音を用いた脳波ニューロフィードバック (NF)トレーニングによってアルファ波を意図的に高めることができるのか,さらにアルファ波を高めることで創造性も高くなるのかについて調べた.

     精神疾患のない成人10名(年齢:20-50代,女性:6名)に対して,アルファ波を高めるNF課題と,弱めるNF課題を15分間ずつ行った.各NF課題実施後,10分間のトーランス式創造性思考テスト(TTCT)を行った. 

     実験の結果,10名中7名がNFによってアルファ波の強さを意図的に変化させることに成功した.また,全被験者のNF終了前1分間のアルファ波の強さとTTCTの流暢性に正の相関(rs=0.46, <0.1)が見られた.本研究により,NFによってアルファ波を意図的に高められることが示された.さらに,アルファ波を意図的に高めることで,その後の創造性も高まることが示唆された.今後は,音だけでなく様々なモダリティを通してユーザーの創造性を高める,より実用的なNFシステムの構築を目指す.

    ​​* 本研究は,DAIKIN共同研究費の支援を受けて行われた.

  • 細谷 みさき, 堀 潤一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 197_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     近年、音楽がヒト・動植物に与える影響について注目が集まっている.その中でもモーツァルト効果は,モーツァルト音楽を聴くと一時的に空間認知能力が上昇するというもので,ラウシャ―等が発表した.しかしモーツァルト効果を否定する論文も存在し,モーツァルト効果がどのような要因で発生するのか未だ解明されていない.本研究では,音楽要素の中から「周波数」に着目し,脳波・心拍の変動から音楽周波数とモーツァルト効果の関連性を明らかにすることを目的としている.実験ではまず音楽を聴かせずに集中力課題として言語記憶課題,空間認知能力課題としてブロック問題を行った.その後モーツァルト楽曲の全周波数帯域と4000Hz以上の高周波,ホワイトノイズの3種類の音源を順に被験者に聴かせ,同様に課題を行った.本研究では,モーツァルト効果とリラックス度の関連性があるという仮説の下で研究を行っている.そのため音楽傾聴時と課題遂行時の脳波と心拍変動を計測した.脳波ではリラックス度や緊張度を示すアルファ波とベータ波,心拍ではRRI間隔とリラックス度を示すLF/HF値に着目し,解析を行った.その結果,曲傾聴時に脳波では後頭部O2でα波の発生量が多くなり,周波数の違いでCzに発生するα波の量に変化があることが示唆された.また心拍では,自身の感じている気持ちにLF/HF値が大きく影響する可能性が高いことが示唆された.

  • 十川 哲, 山本 祐輔, 原地 絢斗, 村松 歩, 長原 一, 武村 紀子, 水野松本 由子, 下條 真司
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 198_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    本研究ではMCI患者と健常者の脳波におけるα波およびθ波帯域成分を算出し、対象者群間の脳波の特徴の違いがサポートベクターマシン(SVM)の判別結果に影響を与えるかを調べた。 対象は健常成人9名、MCI患者9名とした。MCI患者のデータについては、アルツハイマー型認知症と診断された脳波を使用した。脳波は国際電極配置法10/20法に基づき19電極、サンプリング周波数500Hzで測定し、閉眼状態の脳波を測定した。測定データはそれぞれの電極に対し高速フーリエ変換(FFT)を行い、α波およびθ波の平均パワースペクトル値を求め、群間で比較した。その後、データセットとして「α波の平均パワースペクトル値」、「θ波の平均パワースペクトル値」の2つを用意し、これらを入力としたSVMによる分類器の予測に対する正解率を算出した。 平均パワースペクトル値の群間比較の結果、α波ではMCI患者は右前頭側頭部で健常者よりも有意に高値を示し、θ波ではMCI患者は右脳全体で健常者よりも有意に高値を示した。SVMの結果、α波のデータセットで61%、θ波のデータセットで70%の確率で、健常者とMCIを判別した。 群間比較の結果から、MCIでは健常者の脳活動と比較して、α波よりもθ波に特徴がみられると考えられ、SVMを用いたMCIの鑑別において、α波よりもθ波の特徴量を用いた方が高い正解率を示す可能性が示唆された。

  • 伊藤 有生, 加藤 昇平, 佐久間 拓人, 大嶽 れい子, 桝田 道人, 渡辺 宏久
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 198_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     近年,急遽な高齢社会を迎え,パーキンソン病(Parkinson’s Disease: PD)患者の増大が喫緊の課題である.PDは専門医による診断が必要であるものの,高齢者の抵抗感や未自覚により受診が遅れるおそれがあるため,診断を補助するスクリーニングツールが望まれている.本稿ではPD特有の発話症状に着目した音声解析に基づく機械学習を用いたPD簡易検出モデルを提案する. 孤発性非定型パーキンソニズムを含むPD患者106名,健常者94名を対象とした.WAB失語症検査を参考に16種の音読課題の回答音声を録音した.課題ごとに402種の発話特徴量を抽出し,赤池情報規準を指標としたステップワイズ法による特徴選択を実施し,SVMによる弱学習器を構築した.弱学習器の判別性能をもとに課題を選択し,少数の音読課題を用いたアンサンブル学習モデルによる性能評価を実施した.結果,「なす」など5種の単語課題が選択され,感度0.91,特異度0.86を得た. WABは医療従事者によって実施されているため,PD特有の発話症状に着目し機械学習を用いて検査の自動化をめざす点で,本研究は独創性が高い.また,16種の音読課題の中から,少数の課題を選択する点で,検査時間の短縮を可能にする.今後は音声サンプル数を増加させるとともに,より豊富な音響・言語特徴を抽出し判別性能の向上を図り,パーキンソン病の簡便なスクリーニングツールを実現する.

  • 衣川 緋呂, 小川 恵美悠, 川上 文貴, 今井 基貴, 伊藤 颯人, 熊谷 寛
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 199_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     我々は生体内反応活性化を引き起こすフォトバイオモジュレーション (PBM) を利用することで低侵襲なパーキンソン病 (PD) 治療の実現を目指す。病理学的観点で見たPDは、リン酸化したαシヌクレインを含むレビー小体が特徴であり、ドパミンの分泌低下で運動機能障害を引き起こす。PBMは低出力レーザーを生体に照射することで、細胞破壊を伴わない生体刺激反応から様々な効果を得る方法である。我々は、生体へのPBMで有効とされる波長664-1064 nmのレーザーを用い、ミトコンドリアの活性化による細胞内でのATP産生増加を期待し、それに伴うPDの正常細胞増加が可能であると考えた。

     本研究では、パーキンソン病モデル細胞としてαシヌクレインを過剰発現させたSHSY-5Yヒト神経芽細胞腫に対するPBMの効果および有効条件を明らかにすることを目的とした。マイクロプレートに培養した神経芽細胞腫に対して、波長664, 808, 1064 nm, 放射照度100 mW/cm2のレーザーを450, 900 sの条件で照射をした。レーザーによる影響を評価するために、光照射48時間後にPD関連物質であるリン酸化αシヌクレイン、αシヌクレイン、チロシンヒドロキラーゼをウエスタンブロッティングにより定量した。波長1064 nmの照射によりリン酸化αシヌクレインが約40%の減少、チロシンヒドロキラーゼは約30%の増加が見られた。以上より、波長1064 nmのレーザー照射をすることで、αシヌクレイン凝集体の凝集力低下とドパミン産生促進の可能性が示唆された。

  • 太畑 花菜, 藤本 裕太, 猪山 昭徳, 吉野 公三
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 199_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    パーキンソン病(PD)と睡眠時無呼吸症候群(SAS)の併発は少なくない. SASのあるPD群とSASのある非PD群間に睡眠パターンに違いがあれば, それを利用してPDを早期にスクリーニングできる可能性がある. 我々はこれまでにSASのあるPD患者の方がSASのある非PD患者よりREM段階と中途覚醒段階間の遷移確率が低いことを報告した. この研究は30秒スケールで解析したが, 脳活動は30秒より短い時間スケールで遷移する. Imbachらは睡眠時の脳波を5秒スケールで解析し, SASの無いPD患者の睡眠脳波状態平面上の遷移速度が健常者よりも遅いことを報告した. 本研究はこの手法を用いてPDがSAS患者の睡眠脳波状態の遷移速度に与える影響を明らかにすることを目的とした. 睡眠ポリグラフ検査で計測されたSASのあるPD患者 31名とSASのある非PD患者31名の脳波と睡眠段階データを解析した. その結果, 左脳前頭部(F3)では中途覚醒, 左脳運動感覚野(C3)では中途覚醒, NonREM1, REMにおいてSASのあるPD群の睡眠脳波状態平面上の遷移速度はSASのある非PD群に比べて統計的有意に低かった. 遷移速度と患者の臨床特性を説明変数としたロジスティック回帰モデルを用いた患者群(PDの有無)の判別分析の結果,ROCのAUC値は0.78,遷移速度の偏回帰係数は統計的に有意であった.

  • 新垣 萌, 檮木 智彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 200_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    脳浮腫はアストロサイトなどの細胞内と細胞間質の両方に水分が貯留するが、その発生機序を数理的に表現する研究は著者の知る限り未だ存在していない。本研究では脳浮腫の発生機序を表現できる数理モデルの構築を遠い目標としている。アストロサイトの水分貯留量は細胞内イオン濃度の変化によって変化する。今回は特にNa+、K+、Cl-に着目し、アストロサイトのK+クリアランスに関わる受動輸送体であるNKCC1チャネルとNa+とK+の能動輸送体であるNa+- K+ATPaseの協働状態におけるイオン輸送モデルを構築した。濃度勾配と電位勾配によりイオン拡散が生じるNKCC1チャネルについてはネルンスト-プランク方程式を採用し、膜電位の算出にはGHK方程式を使用した。また、分子の構造変化を伴うNa+- K+ATPaseについては各構造体の密度変化に関する連立微分方程式を立てた。構築したモデルはルンゲクッタ法により数値解析した。その結果、各解がそれぞれ一定値に収束し、少なくともモデルが破綻することはなかった。しかし、得られた値の生理学的妥当性は比較可能な実験データの不足のため未だ検証を終えていない。また、今回はやむを得ず平衡状態で成立するGHK方程式を用いたが、非平衡状態での細胞内イオン濃度変化の算出がモデルの目的なので、非平衡状態での膜電位変化を表現する理論式の新たな考案が今後の課題である。

  • Wardcharoen Kittawat, Shouichiro Kanno, Kenta Shimba, Yoshitaka Miyamo ...
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 200_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    To understand how the mechanism of brain plasticity works we need to record activities of neural cells over a long period of time. However, for such demands we need a material which is highly biocompatible and has good electrical properties. One of the promised materials is a carbon nanotube (CNT). Because the structure of CNT is only made of carbon, CNT is a chemically inert material and can be functionalized with many biomolecules to increase its biocompatibility. Moreover, CNT has good electrical conductivity which make it suitable for using as an electrode of a neural probe. In this research, we cultured mouse myoblast cells (C2C12) on the CNT-coated glass substrates and found that the CNT has less effect on the area of cells. And we also coated an electrode with CNT to show how CNT can lower the impedance of an electrode.

  • 渡辺 隼人, 下條 暁司, 白石 秀明, 横澤 宏一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 201_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     2台の脳磁計(MEG)で同時記録するMEGハイパースキャニングでは、推定される脳活動の信号位置がMEG間で一致している必要がある。しかし、α帯域脳活動のような律動波の信号位置の比較方法は定まっていない。そこで、級内相関係数(intraclass correlation coefficients, ICC)を用いて、①ICCでα帯域脳活動の信号位置の一致性を検証できるか、②2台のMEG間でα帯域脳活動の信号位置が一致するかを検討した。

     健常成人9名(平均±SD:25.1±5.4歳)が参加した。2台のMEGで、閉眼時に増幅するα帯域脳活動を計測した。全脳を15,002点のvertexに分割し、各々のvertexのα帯域脳活動を算出した。まず同一MEGで計測した奇数/偶数回目の閉眼によって生じるα帯域脳活動に対し、ICC(1, 2)を実施した。次に、2台のMEGで計測したα帯域脳活動に対し、ICC(3, 1)を実施した。

     ICCは0.75–0.9の区間であれば「良い」信頼性(good reliability)があるとされる。MEG内のICC(1, 2)は0.89±0.10、MEG間のICC(3, 1)は0.78±0.16であり、どちらも良い信頼性があると言える。従って、①ICCで信号位置の一致性が検証できる。②2台のMEG間でα帯域脳活動の信号位置は一致すると見なせる。

  • Zhongling LIU, Pengcheng LI, Akima CONNELLY, Phurin RANGPONG, Theerawi ...
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 201_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    Motor imagery (MI) is the imagining of performing or exercising without actual physical movement. In recent years, the detection of MI for different gestures has become a topic. There have been studies about MI of different gestures, such as grasping and flexion. It can be utilized in rehabilitation for stroke patients and is also expected to help disabled people operate their protheses with higher flexibility. The objective of this research is to distinguish three different gestures based on EEG signal. The three target gesture, as shown in the figure, is extension, grasping by five fingers, and pinching by two fingers. The reason of choosing these three gestures is that people usually use five fingers to pick up some large objects such as apple, and are tend to use two fingers to pick up some tiny objects such as string, since two fingers is easier to locate.

  • 渡邉 弘毅, 山田 怜央, 塚原 彰彦, 田中 慶太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 202_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    カクテルパーティ効果とは多くの音の中から、必要としている情報を選択して注意するための脳の働きのことを指す.この働きにおける脳内メカニズムは現状不明確である.本研究では,聞き取り注意の検査に用いる両耳分離聴検査を利用し,その際の脳活動を計測することで分配的注意の定量的評価を行うことを目的とした.計測は聴覚正常の43名が参加し,全員に両耳分離聴タスクを行った.両耳分離聴タスクとは左右の耳に異なる単語を同時に呈示し,知覚した音を紙に書き取るタスクである.計測条件はタスクを行うActive条件と,刺激音のみを呈示し,参加者は音を無視するPassive条件の2つを行った.呈示音は二音節の単語とし,35Hzと45Hzの異なる変調周波数で振幅変調し,周波数タグ付けを行う.これにより35Hzと45Hzの聴性定常応答(ASSR)を誘発し,左右耳由来のASSRの弁別を行った.解析では注意によるASSRの変化を抽出するためActive条件のASSRからPassive条件のASSRを除去することで規格化を行った.その後,規格化したASSRの左右半球と左右耳の差異と正答率との関係を調べた.その結果,タスク正答率は右耳の正答率が有意となった.またASSRは左半球において強い活動が見られ,正答率との相関では,右耳正答率と右耳左半球のASSRにおいて有意な相関が得られた.これにより右耳と言語野の位置する左半球の強い関連が示唆され,左右半球左右耳の機能的役割の違いが示された.

  • 山田 怜央, 渡邉 弘毅, 塚原 彰彦, 田中 慶太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 202_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    我々は喧騒の中でも自分の名前や興味のある事柄について聞き取ることができる.これは無意識下にて情報の取捨選択をしているためであり,選択的注意の働きによるものである.本研究では聞き取りについて検査できる両耳分離聴検査を用いて選択的注意を行った際の脳活動を計測し,選択的注意時が聴覚野へ与える影響を解析することを目的とする.計測は脳磁計を用い聴力が正常な右利きの男性9名を対象とし,両耳分離聴検査を行った.本研究では左右の耳に異なる刺激音を呈示し,あらかじめ指示した耳から聞こえた単語を復唱する.実験条件は注意条件として右耳の刺激音を復唱する右耳注意条件,左耳の刺激音を復唱する左耳注意条件の2条件,無声映像を視聴し復唱を行わない非注意条件の計3条件で行った.刺激音は二音節単語とし,左右それぞれの耳に35Hz,45Hzの振幅変調することで周波数タグ付けを行った.これにより周波数に対応した聴性定常応答(ASSR)を誘発し左右耳による脳活動を弁別し,右耳注意時の正答率が高い6名を対象に各条件下でASSRの左右聴覚野および左右耳で統計解析を行った.その結果,非注意条件および左耳注意条件のASSR平均振幅では有意差は得られなかったが,一方で右耳注意条件のASSR平均振幅では左右聴覚野間にて有意差が得られた.これより右耳への注意の傾きによる選択的注意が聴覚野へ影響を及ぼしていることが示唆される.

  • 福田 恵子, 岩田 空
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 203_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    両耳分離聴検査は聴覚処理障害の検査手法の1つであり,障害の要因と聴覚情報処理の仕組みの解明にむけて検査時の脳機能の評価が脳磁計(MEG)により行われている.このような左右耳の聞き取りに関する評価について,本研究では脳の反応領域のおおまかな推定が行える近赤外分光法(NIRS)により両耳分離聴検査時の脳活動を簡易的に計測する方法を検討する.検査語として二音節の単語を使用する.両耳に異なる検査語を呈示する場合と左右片耳ずつ検査語を呈示する場合の脳活動を5例の健常者を対象にNIRSにより計測した.測定部位は左右の前頭部からウェルニッケ野を含む側頭部とし,検査語の呈示から回答までの区間でのヘモグロビン濃度変化から反応領域を調べた.単語聞き取りの正答率は5例平均で,片耳呈示と両耳呈示でそれぞれ約96%と約67%であった.NIRS-SPMによる集団解析では言語音を呈示した耳の対側半球の反応が高くなる対側優位性が示された.また,両耳呈示では左半球の聴覚関連部位である左半球のウェルニッケ野に相当する部位にて高い反応がみられた.これは,言語認知の処理に伴う反応を示していると考えられる.これはMEGによる先行研究と傾向が一致しており,NIRSによる計測が左右耳の聞き取りの評価に有用であることが示唆された.

  • 田中 陽登, 水村 友紀, 塚原 彰彦, 田中 慶太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 203_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    オクターブ錯聴とは両耳に高音と低音を交互に呈示するオクターブ錯聴音を聴取させた際に高音と低音を片耳から交互に知覚するものである.オクターブ錯聴には両耳から音を正しく知覚する非錯聴者と片耳から音が流れているように知覚する錯聴者が存在する.また,行動実験の結果から錯聴者の中でも知覚音が個人によって異なることが確認されている.本研究では,錯聴者を知覚別にパターン分けを行い,錯聴発生時の脳活動について調べることで錯聴者特有の脳活動を明らかにすることを目的とする.行動実験により実験参加者を錯聴者と非錯聴者に分類した.さらに錯聴者においては知覚音より右耳の音を知覚している右耳パターンと左耳の音を知覚している左耳パターンに分類した.錯聴音呈示時の脳磁図を計測し,解析により左右聴覚野における聴性定常応答の振幅を算出した.これを指標とし,錯聴者と非錯聴者の脳活動の差違を耳に対する注意に注目して検討した.その結果,非錯聴者の脳活動では右半球優位と対側優位に伴う有意差が得られた.一方錯聴者の脳活動からは右半球優位と対側優位を得ることができなかった.聴性定常応答は注意により振幅が増大することが知られていることから,オクターブ錯聴の発生に左右の耳に対する注意が関連していると示唆される.

  • 水村 友紀, 田中 陽登, 趙 崇貴, 塚原 彰彦, 田中 慶太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 204_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    錯聴とは、実際に呈示された音とは異なる音を知覚する錯覚現象であり、その一つにオクターブ錯聴がある。これは両耳に1オクターブ離れた二つの音を順次入れ替えながら連続して呈示すると、片耳ずつ交互に知覚するという現象である。オクターブ錯聴には、錯聴する人と錯聴しない人が存在し、また錯聴する人の中にも知覚の仕方にいくつかのパターンがある。この知覚の違いが生じる原因は明らかになっておらず、知覚の差と脳活動の関連を調べることで、脳内の聴覚情報処理の機序解明に繋がることが期待される。本研究では、オクターブ錯聴が発生している際の脳磁図データを、機械学習により知覚パターン別に分類することを目的とする。分類は、左耳に呈示された音を知覚する左耳パターンと、右耳に呈示された音を知覚する右耳パターンの2パターンについて行った。実験参加者に対して錯聴発生時の脳磁図の計測を行い、解析により左右聴覚野における聴性定常応答の振幅波形を算出した。この振幅を特徴ベクトルとして、サポートベクターマシンにより知覚パターン別に分類し、交差検証法で分類精度(accuracy)を評価した。その結果、平均分類精度は65.0±12.3 %となった。また各試行における精度は最高83.3 %、最低50.0 %となり、最低でも50.0%を上回る結果となった。これは錯聴発生時の聴性定常応答振幅に知覚パターンの差が現れていることを示唆する。

  • 増田 有矢, 小川 恵美悠, 田中 萌奈, 熊谷 寛
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 205_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    我々は、血管カテーテルインターベンション後のシース抜去孔止血において、簡便かつ即時的に高い機械的強度を実現可能なレーザー溶着の開発を目的としている。血管カテーテルインターベンションではシースが血管に長時間穿刺留置されるため、シース抜去後にできるシース抜去孔は自然に閉塞しない。用手的圧迫止血法や閉鎖用デバイスが用いられるが、止血部の機械的強度の低さや手技の複雑さなどの問題点があり、未だに最適な止血方法が確立されていない。我々は、レーザー照射により組織内のコラーゲンを60°C付近まで加熱し、可逆的な変性によるコラーゲン溶着を用いたシース抜去孔閉鎖を提案している。

     本研究では、摘出ブタ頸動脈に対するレーザー溶着において血液が与える影響および最大の溶着効果が得られる照射条件の検討を目的とした。血液で浸した摘出ブタ頸動脈に対して波長1064 nmのレーザーを照射しサーモグラフィにて血管表面温度の経時変化を測定した。血液に浸した血管では生理食塩水に比べ温度の上昇量が43°C大きかった。また、張り合わせた摘出ブタ頸動脈に血液中でレーザー照射を行い、溶着強度試験系にて引張せん断応力を測定した。放射照度0.2, 0.4 W/mm2において蓄積エネルギー密度がそれぞれ25, 10 J/mm3で最大の溶着強度を得た。レーザーによるコラーゲン溶着を利用することでシース抜去孔に簡便かつ即時的に高い機械的強度を与えることができる可能性が示唆された。

  • 此内 緑, 吉田 祐希, 横田 翔平, 横井 愛美, 松下 裕貴, 西浦 照二, 李 梅花, 上村 和紀, 川田 徹, 朔 啓太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 205_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    背景血圧変動は心血管イベントのリスクとして知られているが、連続血圧波形より求めた超短期血圧変動の臨床的意義は明らかでない。近年、我々は30分間の連続血圧波形を周波数解析(0.01~0.1 Hz周波数帯のパワーを積分)することで超短期血圧変動を定義し(BLI: Blood pressure lability index)、臨床的意義を検証している。心機能の低下は心拍出変動の低下につながるために血圧変動も低下し得る。本研究では犬の段階的左心機能低下モデルを用いて、BLIの変化を検証した。方法麻酔下の犬(N=6)を使用し、マイクロビーズを冠動脈に注入し、微小塞栓による心筋虚血を誘導した。2週間おきに微小塞栓手技を繰り返すことで段階的な左心機能低下モデルを作成した。連続血圧を上行大動脈にて30分間測定しBLIを算出するとともに、左心室圧や心臓超音波検査の変化を2週間おきに記録した。結果冠動脈微小塞栓は犬が40%前後の左室駆出率になるまで繰り返した(6±2 回)。微小塞栓によって有意に左室駆出率は低下し(正常: 66±4 vs. 最終評価時: 38±6, %, P<0.01)、左室拡張末期容量が増加した(23±4 vs. 36±4, ml, P<0.01)。麻酔下の平均血圧に変化はなかったが(104±19 vs. 94±13, mmHg, N.S)、左室駆出率に伴ってBLIの有意な低下を認めた(0.7±0.2 vs. 0.4±0.1, mmHg, P<0.05)。まとめBLIは、犬段階的左心機能低下モデルにおいて、左室駆出率に伴って低下した。短時間血圧変動解析は、左心機能を含む心不全の重症度を推定できる可能性がある。

  • 内山 駿佑, 住倉 博仁, 藤井 豊, 本間 章彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 206_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    体外循環による炎症反応等の影響を評価するため,内部灌流型人工肺を用いたラット体外循環実験による評価が行われている.現在ヒトを対象とした体外循環に使用される人工肺は外部灌流型人工肺が主であることから,ラット体外循環実験に外部灌流型人工肺を用いることで,更なる体外循環の模擬が可能になると考えられる.本研究では,ラット体外循環実験に適用可能な円筒型外部灌流型人工肺の開発を目的とした.今回,中空糸充填率,中空糸有効膜面積,血液充填量を同等とし,中空糸束の直径と全長をそれぞれ10mm径50mm長と12mm径35mm長とした2種類の人工肺について,数値流体解析と実機による評価を行った.数値流体解析は,人工肺の中空糸束を多孔質領域とみなし,抵抗値を設定した.更に,設計した2種類の人工肺を試作し,水実験により圧力損失を測定することで,解析結果との比較・検討を行った.全ての人工肺は,解析値と測定値共に,流量の増加に伴い圧力損失の増加が確認された.また,全ての流量において12mm径35mm長人工肺の圧力損失は10mm径50mm長人工肺を下回った.これは中空糸束の径の増加と全長の低下によるものと考えられた.圧力損失について,水実験の測定値は解析値と同等であったことから,数値流体解析の有用性が示唆された.今後は血液実験にて試作した人工肺のガス交換能を評価することで,ラット用外部灌流型人工肺に適切な中空糸束形状について検討を行う予定である.

  • 柴 建次
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 206_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     補助人工心臓に無線で電力を送る方法に,経皮エネルギー伝送システム(TETS)がある.TETSの経皮トランスを患者の胸部に装着し,磁界の形で体内に電力伝送するが,電磁生体安全を見積ることは極めて重要である.それらの指標の中には,患者から大地に流れる高周波患者漏れ電流(Ip),経皮トランス周辺の生体組織の熱作用及び刺激作用がある.熱作用は局所SAR,刺激作用は体内電界強度(E)が,それぞれ指標として用いられる.しかしながら,Ip, 局所SAR, Eの指標を同時に推定する方法は確立していない. ここでは,完全導体上に寝ているCAD人体の胸部に,空芯偏平型経皮トランスを装着したモデルを作成した.人体モデルには成人女性(162cm, 28臓器)を用いた.伝送周波数400kHzの電源を送電コイルに接続し,体内の受電コイルには38.4Ωの負荷抵抗を接続し15Wを伝送した.電磁界解析には有限要素法を用い,TETSの電力伝送効率ηと前述の3つの指標を求めた. 解析の結果,ηは95.69%であった.Ip, 局所SAR, Eはそれぞれ9.98 mA, 85 mW/kg, 182 V/mであり,Ip, 局所SARはTETSの安全規制値を満たしたが,Eは規制値の1.69倍の値であった.本方法を用いることで3つの安全性評価が同時に可能となり,実用化のための安全性の見積として大変有用であることがわかった.

  • 馬場 亮佑, 藤井 豊, 住倉 博仁
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 207_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    体外循環では、血液と人工肺との接触等によって炎症反応が生じるという問題があり、小動物体外循環モデルを用いた炎症反応に関する評価が行われている。ここで、体外循環には低体温にすることで生体の酸素消費量を減少させる手法がある。そこで本研究では、小動物低体温体外循環回路を開発し、低体温が炎症反応に対しどのような影響があるのかについて評価することを目的とした。本研究では、既存の小動物体外循環モデルの回路構成を変更せずに冷却システムを構築するため、ペルチェ素子を用いた冷却部を設けた。冷却部は、縦横40mm、厚さ4mmのペルチェ素子と縦横40mm、厚さ10mmの銅板から構成し、銅板の表面にチューブが収まる程度の溝を設けることで、外径5mm、内径3mmのチューブを覆う構造とした。今回、流体が冷却部を一回通過する場合について、熱流体解析と水実験による評価を行った。解析は定常解析とし、ペルチェ素子10℃、作動流体を水37℃、周囲温度22℃、入口流量30ml/minとして解析を行った。一方、水実験は、恒温槽、ローラーポンプ、冷却部等から構成し、実験時の温度や流量等の条件は解析と同様とした。冷却部前後の流体の温度差は、解析では1.4℃生じることが確認され、水実験では0.69℃となった。解析値と実験値の誤差に関しては、物性等の設定により生じたと推察された。解析と実験の両方で冷却部前後の流体の温度低下が確認されたことから、本冷却システムの可能性が示唆された。

  • 魏 鳳城, 中久保 日向, 近江 雅人
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 208_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】現在、手術用縫合糸に関する研究は、主に材料物性、構造解析、In vitroシミュレーションとなる。In vivo実験の場合は、実験対象の脈動、撮影設備の低い分解能などの原因で、ほぼなされていない。しかし、In vivo実験の高い正確性はIn vitro実験が代われないことである。我々は高速、高分解能のメリットを持つ光コヒーレンストモグラフィ(OCT)技術を用いて、縫合糸のIn vivo実験を行った。【方法・対象】モルモット(Slc:Hartley 雌性 四週齢)とヌードラット(HWY/Slc 雄性 十週齢)それぞれ一匹使用し、背中に二箇所約1.5cm切開し、6-0号吸収性(PLA/PCL)、非吸収性(PVDF)縫合糸で約3.5mmの間隔で四針縫合した。その後、THORLABS TELESTO320型Spectral Domain OCTを用いて、週に一回、8週間の観察を行った。パラメータは648×415(X×Z axial)pixels, 両方向共に3.47μm/pixelである。【結果】繊維自身の屈折率の違いのため、非吸収性縫合糸に強い反射信号が現れ、皮膚組織に近い白色に見られる。吸収性縫合糸は空気に近い黒色に見られる。時間経過に伴い、両方共に組織増殖の部分が確認され、非吸収性縫合糸における増殖部分は主に角質細胞と推測される。吸収性縫合糸の場合は時間経過に伴い、色褪せることを確認した上、増殖部分には乳酸単体や染料など、縫合糸の分解物も存在する。繊維の非晶質も増えて、光を反射させたため、屈折率が一部向上し、強い反射信号が見られた。

  • 城丸 龍汰, 東 慶直, 古薗 勉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 208_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    【緒言】これまでに我々は、抗感染性コーティング用ナノ材料の創出を目指して、亜鉛置換アパタイト(Zn-HAp)ナノ粒子を開発し、ナノ粒子複合材料を用いて抗菌性を評価してきた。本研究では、Zn-HAp複合繊維を用いて抗菌性評価を行い、抗感染性カテーテルのカフ素材としての有用性についての検討を行ったので報告する。【実験】Zn-HApナノ粒子は硝酸カルシウム四水和物、硝酸亜鉛六水和物およびリン酸水素二アンモニウムを混合し、湿式法にて調製した。仮焼する際に融着防止処理を施すことで分散性の高いナノ粒子を得た。次にシルク(SF)繊維上にZn-HApナノ粒子を被覆した。抗菌性は、黄色ブドウ球菌液(OD600=0.001)を当該複合材料に接触させることで黄色ブドウ球菌に対する抗菌性評価を行った。【結果と考察】材料特性評価より、Zn-HApナノ粒子HAp構造を有する生成物であることが認められ、Zn置換率[(Zn/Ca+Zn)×100]は13.2%であった。また、SF繊維に結合したZn-HApナノ粒子の表面被覆率は約76%であり、繊維表面にほぼ均一にコーティングされていた。抗菌性試験の結果、Zn-HApナノ粒子を被覆した繊維では、未被覆の材料と比較して有意な抗菌性が認められた。このことから、調製した当該複合繊維材料は体内留置型カテーテルのカフ素材として有用であると推察された。

  • 大橋 昭仁, 東 慶直, 古薗 勉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 209_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    【緒言】これまで当研究室では、ハイドロキシアパタイト(HAp)構造中に抗菌性を有するフッ素(F)を置換させた分散性に優れるF-HApナノ粒子を合成してきた。しかしながら、これまでのF-HApナノ粒子の調製法では、F置換率は80%程度が上限であった。本研究では、F置換率を向上させるべく調製法の検討を行い、骨置換材料としての有用性を検討するために、大腸菌用いた抗菌性評価を行った。【実験】F-HApナノ粒子は、脱水硝酸カルシウム・四水和物、リン酸およびフッ化ナトリウムを使用し、湿式法にて調製した。仮焼時のナノ粒子凝集を抑制して分散性向上のために、仮焼前に融着防止処理を行った。また、同定法として、各種機器分析装置を用いた。抗菌性の評価ではOD600=0.01に調製した大腸菌液を2時間後、10倍希釈を5回行い、LB寒天培地にスポットした。37℃のインキュベータで15時間培養し、コロニー数を計測することで細菌の生存率を算出した。【結果と考察】Fイオン濃度測定より、従来法と比較して改良法でのF置換率は90%以上置換されており、置換率の向上が認められた。これにより、溶質・溶媒をあらかじめ脱水させることで、水による水酸基の置換を阻害し、F置換率が向上したと推察された。また、抗菌性の試験結果、ノーマルHApと比較してF-HApは大腸菌に対して有意な抗菌性が認められた。これにより、当該F-HApナノ粒子は抗菌骨置換材料としての有用性が期待される。

  • 松居 和寛, 濱 拓弥, 岡田 耕太郎, 平井 宏明, 西川 敦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 210_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     近年メタバースの概念が注目されるのに伴い,アバターの体験が一般的になりつつある.我々は,任意のダイナミクスを付与することが可能な仮想空間に配置する一人称アバターを開発しており,それを体験することで現実空間の身体運動制御に任意の影響を与えるという,新しいニューロリハビリテーションを提案している.体験に際しては,アバターが自身の身体であると感じる身体所有感の向上が必要であると考えており,本研究はその機能の開発および評価に関するものである.身体所有感に関しては,古くからラバーハンド錯覚(RHI)がよく知られており,これは対象者自身の手を衝立などで隠し,代わりにゴムの手を対象者の目の前に置き,オペレータが対象者とゴムの手を筆などで同期刺激することでゴムの手を対象者自身の身体と錯覚させるものである.これにはゴムの手,衝立,オペレータが必要だが,本研究ではラップトップPCと振動子を用いることでこれらが不要になる自動RHI誘起システムを開発した.ゴムの手の代わりにラップトップPCのモニタに上肢アバターを表示し,衝立の代わりにPCのモニタ部で前腕を隠し,オペレータの代わりに把持した振動子がPCにより制御され刺激を印加する.健常成人10名に対し,開発したシステムで有意に身体所有感が向上することを確認し,またシステム利用時の注視箇所によって身体所有感誘起が増強されることを示した.

  • 増尾 明, 久保田 純平, 伊藤 有生, 佐久間 拓人, 加藤 昇平
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 210_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    認知症治療に携わる老年医学分野では,認知症の鑑別のみならず機能障害の把握や治療計画の立案などの臨床推論を目的に様々な神経心理検査を実施している.本稿では,時計描画テスト(CDT)に機械学習を適用し,描画異常から認知症疾患を鑑別する手法を提案する.共同研究機関である認知症外来に通院する高齢者129名を対象とした.診療録から認知症の診断情報および外円法によるCDT描画データを取得した.Freedman採点基準によって描画異常を定量化し,1サンプルの描画データから12種類の描画特徴量を抽出した.認知症診断情報に基づき,対象者を認知症群58名と健常群71名の2群に割り当て,Borutaによる特徴選択後にSupport Vector Machineを用いた鑑別性能評価および鑑別に寄与する描画特徴解析を実施した.5分割交差検証の結果,感度は0.74±0.16,特異度は0.74±0.18であった.また,判別に寄与する特徴として「時計の数字の位置」「分針の配置」「時針と分針の長さ」に関する3種の描画特徴が選択された.神経心理検査の解釈は個々人の技量や経験に影響されるため,臨床推論過程を自動化した点において本研究は独創性が高い.また,認知症鑑別に寄与する描画異常を特定した点は,臨床上有効性が高い.今後は描画データ数および描画特徴の拡張によって鑑別性能の向上を図り,認知症の簡便な一次検診応用を目指す.

  • 山田 茂樹, 青柳 幸彦, 小林 吉之, 伊関 千書, 近藤 敏行, 上田 茂雄, 寳子丸 稔, 石川 正恒, 太田 康之, 間瀬 光人
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 211_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】病的歩容の評価・判定には、明確な基準や指標が存在せず、評価者によって評価が異なりやすい。そこで、我々が開発したiPhoneアプリThree-Dimensional Pose Tracker for Gait Test (TDPT-GT)を用いて、病的歩容の定量評価を試みた。【方法】TDPT-GTは、モーションキャプチャー用マーカーを使用せずに全身の特徴点の3次元座標をAIで推定する。健常者とiNPH患者に直径1mの円を2周歩いてもらい、TDPT-GTによる頭から足先までの全身24点の3次元相対座標を自動推定した。この3次元相対座標から、被検者本人の体軸に対する矢状断面、冠状断面、軸位断面へ投影した2次元相対座標と、その座標の動作軌跡(75%信頼楕円)に基づいた関節可動域角度や軌跡の中心間距離を計算した。対象は、iNPH患者48名の238歩行データと山形県高畠町コホート研究に参加する60歳から93歳の健常者92名の184歩行データとした。【結果】TDPT-GTで計測した矢状断と軸位断投影座標を用いて、すり足、小刻み、開脚歩行を検出する指標を網羅的に探索した。すり足の指標として、矢状断投影座標における股関節可動角度の左右平均が30度未満、膝関節可動角度が45度未満、踵の垂直方向振幅の左右平均が足の長さの10%未満が候補となった。小刻み歩行では矢状断投影座標における股関節可動角度と踵の垂直方向振幅は有用ではなかったが、膝関節可動角度が45度未満は有用な指標であった。開脚歩行の指標としては、軸位断投影座標におけるつま先の開き角度ではなく、股関節可動範囲中心に対する踵可動範囲中心の外側偏移度が足の長さの8%以上が有用な指標であった。【結論】TDPT-GTアプリを用いて、病的歩容の定量的評価が可能となった。

  • 小川 愛実, 尾嵜 光太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 211_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     椅子をはじめとする周辺環境は立ち上がり動作の遂行に大きな影響を及ぼす。立ち上がり動作は日常生活で頻繁に行われている一方で難易度が高い動作であるとされ、リハビリテーションにおいても重要度が高く、患者一人ひとりに適した周辺環境の整備が必要である。既往研究では座面の高さや傾斜角度に関して多くの検討が行われているが、これらの知見は当該パラメタが可変である椅子への適用にとどまる。一方で、座面の硬さに関してはクッションを用いた調整が一般的であり、安価で手軽に導入することが可能である。しかしながら、立ち上がり動作を対象とした座面の硬さに関する研究は僅少である。 そこで本研究では、座面の硬さが立ち上がり動作に与える影響を力学的に評価し、立ち上がり動作の遂行に適した座面硬さを明らかにすることを目的とした。若齢健常者を対象とした計測実験を実施し、立ち上がり動作時の運動学的パラメタおよび動力学的パラメタを算出した。座面の硬さを変化させた際の立ち上がり動作計測結果から、座面の硬さによって変化があった動作パラメタの抽出および立ち上がり動作に適した座面硬さについて考察した。

  • 福永 道彦, 川村 卓志
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 212_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    We have developed the wearable ground reaction force measurement system, however, the number of sensors, twelve, was considered to be large because the estimation error of test data rather increased by adding the explanatory variables. This study objected to confirming the proper number and positions of the sensors. We tried all the combinations of the twelve sensors to use as the explanatory variables. Test subjects were eight; half was teacher data and the other was test data. As a result, the estimating error was the minimum with eight sensors, removing two sensors on the lateral mid-foot and one on the lateral heel. The root mean square error was reduced from 5.90kgf to 4.71kgf. The proper number of sensors might be nine. Still, it might not be enough to use eight test subjects. Our next task is to extend the test subjects to confirm the result.

  • 吉里 雄伸, 夏目 季代久
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 212_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    近年、腰痛(LBP)を持つ小児が増加している。LBPは疼痛誘発動作を元に前屈時LBP(LBPAF)と後屈時LBP(LBPPF)に分類され、我々はこれまでに小児LBPAFにおける予測モデル開発について報告した。本研究ではLBPPF予測モデル構築を目的とする。319名の小児(11.7 ± 2.9(平均±SD)歳)を対象に年齢やLBPの既往等の5項目と、LBPPFの有無の質問紙調査を行った。LBPPFは7歳以降、37名(12%)の小児で見られLBPAFに比べて多数だった。また149名(12.7 ± 1.6歳)が筋柔軟性、筋力、持久力測定を完了した。そのうち20名のLBPPF小児を対象にステップワイズ法を用いた多変量ロジスティック回帰を使って予測モデルを構築した。方法としてLBPPF10名と非LBPPF64名をランダムに選びモデルをトレーニングし、LBPPF10名、非LBPPF65名のデータによるテストを50回実施した。モデルの入力は質問紙項目及び測定した変数、出力はLBPPFの有無とした。最適モデルの選択にはF値を用い、また性能評価としてAccuracy、Sensitivity、Specificityを求めた。得られた最適モデルはLBP既往と大腿前面筋柔軟性を有意な説明変数(共にオッズ比の有意確率p < 0.05)に持ち、Accuracy 70.7%、Sensitivity 80%、Specificity 69.2%、F値0.42だった。LBPPFは7歳以降で見られたので10歳以降で見られたLBPAFと比べて若年で発症し、また有病率は高かった。得られたモデルのSensitivity、Specificityは50%を超えており、LBPPF予測が可能であると考えられる。説明変数はLBP既往、大腿前面筋柔軟性増加であった。LBP既往があると椎間板が変性している可能性があり、LBPPF疼痛発生部位である脊柱後方の負担を増大させる可能性がある。さらに大腿前面筋柔軟性が増加すると、猫背様不良姿勢が生じ、脊柱後方への負担がさらに生じると思われる。脊柱後方には痛み受容器が多くあり、また小児の脊柱後方は骨密度が不均一でありストレスが集中する部位を持つため、LBPPFが生じると考えられる。一方LBPAFでは猫背様姿勢に加えて身長増加やそれに伴う大腿後面筋の柔軟性低下、運動活動量増加など複数の因子が重なり発症すると考えられる。またLBPPFは少ない原因で発症するのでLBPAFに比べて早期に発症する可能性があると考えられる。

  • IRWANSYAH , 大塚 翔, 中川 誠司
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 213_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    骨伝導は伝音性難聴者用の補聴器や,騒音下でも利用可能なヘッドホンに用いられている.しかしながら,骨伝導デバイスには一方の耳に呈示した音が対側耳にも届く現象,即ち“クロストーク”が容易に生じるという問題がある.クロストークは音像定位や騒音下での会話理解の低下を招くことが知られており,対策が求められる.本研究では,2つの骨伝導振動子と加速度センサを使った,骨伝導音のクロストーク・キャンセリング手法の開発と検証に取り組んだ.一方の乳様突起上に設置した加速度センサによって,対側の振動子から到来するクロストークを計測した.また,同側の振動子から逆位相音を発生させることでクロストークの低減を図った.提案手法の有効性を検証するため,聴覚健常者7名において,対側からノイズ,同側から試験音を呈示した場合の聴覚閾計測を行い,その結果をクロストーク・キャンセリング有り/無しの2条件において比較した. クロストーク・キャンセリング無し条件と比べ,クロストーク・キャンセリング有り条件では,聴覚閾の改善が示された (250 Hz:p < 0.05,315 Hz, 397 Hz:p < 0.001).蝸牛からやや離れた乳様突起に設置した加速度センサの計測値を基に設計したにも関わらず,クロストーク・キャンセリングの効果が認められた (250 Hz:p < 0.05,315 Hz, 397 Hz:p < 0.001).この結果は,クロストークキャンリング技術を用いることで,骨伝導デバイスの性能改善が図れることを示している.

  • 桑本 亮, 坂井 さゆり, 前田 義信
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 214_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    緩和ケアでは患者の全人的苦痛を和らげることが求められる.全人的苦痛には身体的,精神的,社会的,霊的苦痛が含まれる.実際にこれらの苦痛に悩まされるという報告も少なくない.我々はそのような患者の気持ちを落ち着かせることを目的としたランプシステムを提案してきた.ランプには「今この瞬間に意識を向け,観察すること」というマインドフルネスの要素が取り入れられ,自身の呼吸を光の明滅としてランプに映し出すことで,自身の呼吸を客観的に観察できるランプシステムになっている.脈波センサから得られる脈拍間隔の増減から呼吸状態を推測し,呼吸と同期するようにランプの光量を変化させている.今回は呼吸周期と光の明滅周期が同期するランプを鑑賞する場合と,呼吸周期と無関係に一定の光が灯るランプを鑑賞する場合を比較し,ランプシステムが「呼吸を観察する」というマインドフルネスに対する効果を調べた.得られた脈拍間隔に対して分析を行い,自律神経機能を評価した.

  • 垣越 康佑, 伊藤 黎, 中濱 拓己, 坂本 良太, 矢野 賢一, 前田 伸二, 中川 裕
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 214_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     認知症患者に対する夜間の見回りは,徘徊やベッド転落の予防・早期発見に重要である.一方で,夜間に緊張感を保って患者を見回る必要があり,施設職員の精神的な負担は大きい.そのため,ベッドからの離床を検知するシステムが開発されている.しかし,離床後にアラートが作動するのでは後手に回るため,離床の危険性を離床前の早期に判断できる支援機器の開発が期待されている.  療養病棟の入院患者の起き上がりを分析した従来研究によると,離床に至る一連の動作は大別して2パターンあることが示唆されている.そこで本研究では,認知症患者を対象として,その2パターンの中に含まれる離床の危険性が高い動作を検知し,早期段階での離床予測を可能とするシステムを開発することを目的とした.ベッドのマットレス下に8つの圧力センサを設置して体圧中心位置を測定するものとし,体圧中心が位置する範囲からベッド上における動作を判別する.人体の構造に即した筋骨格モデルと運動学に基づき,各動作時に体圧中心位置が取りうる範囲を考慮することで定式化を行った.これにより離床に至る過程での体圧中心位置の軌跡から,離床よりも前段階でアラートを出すことが可能となった.既存製品との比較実験を実施し,離床前に危険性を報知可能な点において提案離床予測システムの有効性を示した.

feedback
Top