九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
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セッションロ述13 スポーツ・健康3
  • 吉原 正英, 井上 幸輝, 井手 智輝, 田渕 俊紀, 田中 博史, 百武 康介
    セッションID: O13-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 拡散型圧力波 (以下:RPW)は、圧縮空気により弾道圧力波を発生させ、筋・腱付着部症などの治療に用いられている。Yバランステストは、下肢の傷害発生リスクの予測やパフォーマンステストとして用いられている。しかし、RPW照射によるパフォーマンスに及ぼす影響については不明である。今回、腓腹筋に対するRPWがパフォーマンスに及ぼす即時効果について照射前後で比較した。 【対象および方法】 対象は、健常男性10名10足、平均年齢24.7(±1.91)歳、平均身長170.1(±5.9)cm、平均体重61.9(±4.7)kg、BMI21.9(±1.6)kg/m2であった。測定は全て利き足とした。 計測手順は、①荷重位足関節背屈可動域、超音波診断装置(以下:エコー)での腓腹筋の羽状角と筋束長、Yバランステスト、底屈筋力を計測した。②次にRPWを腓腹筋に照射し、③再度、荷重位足関節背屈可動域、羽状角・筋束長、Yバランステスト、筋力を計測し、RPW前後で比較した。 計測方法は、Yバランステストは腰に手を当て軸足を利き足とし、非利き足で前方・後外側・後内側方向にリーチした最大距離を3回計測し、平均値を算出した。正規化は、下肢長で除した値を採用した。荷重位足関節背屈可動域は、膝伸展位および屈曲位のWeight bearing lunge test(以下:WBLT)にてiphoneを用いて計測した。羽状角・筋束長はエコーを用いて、足関節を背屈10°に固定し下腿長の30%位置の腓腹筋内側頭を抽出した。image Jを用いて、異なる3点の羽状角・筋束長を計測し平均値を算出した。底屈筋力はCYBEX NORMを用いて計測した。 RPWはSTORZ MEDICAL社製 マスターパルス MP100を用いて、腓腹筋の伸張部位に2000発(R15/1.5bar)、筋腹全体に2000発 (D20/1.5bar)照射した。 検討項目は、Yバランステストのリーチ距離、膝伸展位および屈曲位WBLT、羽状角・筋束長、筋力の最大値と平均値 (角速度60°/s、180°/s)とした。 統計解析はWilcoxonの符号順位検定を用いて、各検討項目をRPW照射前後で比較した。有意水準は5%未満とした。 【結果】 RPW照射後で、Yバランステストは前方が68%から71%へ、後内側方向が84%から87%へ有意にリーチ距離が延長した (p<0.05)。WBLTは膝伸展位が37°から40°へ、屈曲位が39°から41°へ有意に拡大した (p<0.05)。羽状角は12.1°から13.1°へ有意に拡大し、筋束長は7.8cmから7.2cmへ有意に短縮した (p<0.05)。筋力は、最大値・平均値ともに有意差はなかった。 【考察】 RPWを照射することで、皮膚-皮下組織-筋間における滑走性が向上し、筋繊維への伸長負荷の減少に伴い、羽状角の拡大と筋束長が短縮するとされ、足関節背屈可動域が拡大するとされている。本研究もこれらを支持する結果となった。 Yバランステストは、WBLTの拡大に伴って前方と後内側方向のリーチ距離も延長したのではないかと考える。 今回、腓腹筋に対してRPWを照射することで、組織間の滑走性向上とWBLTの拡大、Yバランステストによるリーチ距離が延長することでパフォーマンス向上の一助になる可能性があると考える。また照射後でも筋力は変わらないことを踏まえると、スポーツ現場におけるコンディショニングツールとしても有効になる可能性がある。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に準拠し、対象者に対して本研究の趣旨及び方法、結果の取り扱いについて 十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。

  • 吉野 温翔, 辛嶋 良介, 橋本 裕司, 川嶌 眞人
    セッションID: O13-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 動的関節制動トレーニング(Dynamic Joint Control Training:以下、DYJOC)は関節構成体の各組織にあるメカノレセプターによって収集された情報が、中枢神経を経て運動を制御する各部位に到達する一連の機能を促進するトレーニングである。神経と運動器が協調し、外乱刺激に対する姿勢制御の反応速度が向上することで治療対象の関節を動的側面から保護することによる障害予防が期待できる。当院では膝前十字靱帯損傷に対する運動療法で積極的にDYJOCを実施している。しかし、DYJOCとされる運動の種類は様々であり、運動の種類による効果の違 いは不明である。 本研究の目的は、足趾運動に着目した運動と全身運動を伴う運動の2種類のDYJOCにより、片脚スクワット動作中の足圧中心総軌跡長の変化量に相違があるかを調査した。 【対象と方法】 対象は、下肢関節に既往のない健常成人20名 (男性10名、女性10名)であり,平均年齢は26.1±3.6歳、平均BMIは22.1±2.2kg/m2であった。方法は、課題動作を片脚スクワット動作とし、口頭で3秒かけて膝関節屈曲50°まで屈曲し、3秒かけて立ち上がるように指示をした。この動作を床反力計(アニマ社)の上で行わせ、DYJOC前後で足圧中心総軌跡長を計測した。DYJOCは座位で足趾を屈曲させタオルを手繰り寄せる運動を100回行うタオルギャザー群 (タオル群)と半円板のDYJOCボード上で膝関節屈曲位にて片脚立位保持を行う運動を15秒行った後、60秒休息を3セット行うDYJOCボード群 (Dボード群)とした。対象者のタオル群、Dボード群への振り分けは無作為に男性女性の人数が同数になるようにした。統計解析はR2.8.1を用いて、2群間でのDYJOC前後の足圧中心総軌跡長の変化量を比較するために2標本の差の検定を用いた。有意水準は5%とした。 【結果】 タオル群の足圧中心総軌跡長はDYJOC前で平均29.1±4.7cm、DYJOC後で平均26.7±6.4cm、変化量は平均-2.6±4.1cmであった。Dボード群の総軌跡長はDYJOC前で平均27.7±4.5cm、DYJOC後で平均25.4±6.4cm、変化量は平均-2.3±4.2cmであった。両群ともDYJOC後での総軌跡長は減少しており、2群間で変化量に、有意差は認めなかった。 【考察】 山中らは立位保持において足圧中心総軌跡長が長いほど重心動揺が大きく不安定と評価されると述べている。片脚スクワット動作では、狭い支持基底面内に重心を収めながら身体重心を上下移動する姿勢制御が求められる。臨床場面では側方へ動揺しながら動作を遂行し、時にバランス反応によりステップ動作を伴う患者も散見される。そのような動揺を伴うと足圧中心総軌跡長が延長することは容易に想像できる。本研究では足趾運動と全身運動の姿勢制御の課題である運動のいずれにおいてもDYJOC後の片脚スクワット動作で足圧中心総軌跡長が減少したことは、動作の安定性が向上したと捉えることができる。これらより、DYJOCの運動課題の提示には患者の状況に応じて選択することでも効果が期待できると考えられた。つまり、受傷後急性期など荷重制限がある時期では、足趾運動を選択することでも、姿勢制御の改善が期待できる可能性がある。一方、動作に直結した姿勢制御の改善を図る場合はDYJOCボードなど多関節の協調性を要する運動課題が選択されると考えられた。 本研究は健常者を対象としていたが、今後は膝前十字靭帯損傷患者での効果を検証する必要がある。 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言による倫理的配慮に基づいた研究であり、すべての対象者には十分な説明による同意を得られて実施した。

セッションロ述14 成人中枢神経4
  • 木村 友亮
    セッションID: O14-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】Contraversive pushing(pushing)は、その臨床的特性から出現率や回復経過に半球間差異を認めることが報告されている。とりわけ、左中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)のM2に病巣を持つ脳卒中者では、姿勢定位の責任病巣となる脳領域や神経線維の大部分の損傷が免れており、比較的軽度である。しかし、大脳白質病変を有し、左MCAの脳梗塞と出血性梗塞により著しいpushingを認め、歩行に介助を要した症例を経験した。その後、Knee Ankle Foot Orthosis(KAFO)を用いた介入後、早期にpushingと歩行介助量の軽減を認めたため、脳画像所見を踏まえ、姿勢制御障害と装具療法の考察に主眼をおいて報告する。 【症例紹介】90歳代女性。発症前は認知機能低下を認めるも、日常生活動作は全て自立。左MCAに脳梗塞を呈し、当院に入院。rt-PA静注療法施行24時間後のCT画像において出血性梗塞を認めた。MRIの拡散強調画像では、左下前頭回、上・中側頭回、島皮質、下頭頂小葉に高信号域を認め、FLAIR画像では同梗塞域に加え、脳梁膨大部から半卵円中心レベルに及ぶ大脳白質病変(Frazekas分類:側脳室周囲病変、深部皮質下白質病変はともにGrade3)と脳浮腫に伴う高信号域を認めた。第2病日から理学療法を開始し、経過中に併発した胆嚢炎の治療状況に応じて介入。第30病日では、Brunnstrom recovery stage:V-V-Vと運動麻痺は軽度であるが、Scale for Contraversive Pushing(SCP):5.75点(座位2.75/立位3点)と著しいpushingを認め、Functional Ambulation Categories(FAC):0点、全失語を認めた。 【経過】胆嚢炎による経皮的胆嚢ドレナージ終了後となる第48病日、KAFOを装着し、静止立位を実施すると、即時的にpushingの減少を認め、歩行は麻痺側への身体傾斜と非麻痺側下肢の外転伸展反応の減少を認めた。歩行の介助方法は、麻痺側下肢遊脚期は本症例のタイミングに合わせて行い、接地位置のみ他動的に誘導した。もう一方の介助手は症例の腹部に置く程度に留め、能動的な姿勢制御を促しながら実施した。第54病日、SCP:1.75点(座位0/立位1.75)と改善を認め、リングロックを解除した歩行においてpushingの増強が無いことを確認し、無装具歩行練習に移行した。第57病日、SCP:0.75点(座位0/立位0.75)、FAC:2点と失語症により誘導に介助を要するが、身体傾斜を認めることなく歩行は可能となった。 【考察】FLAIR画像において、細動脈硬化による白質の不全損傷である大脳白質病変と脳浮腫は相まって高信号域の拡大を認め、同信号域内を通過する視床皮質路や上縦束に影響を及ぼしていることが示唆された。このことは梗塞域により遮断された前庭感覚情報に加え、中心後回、楔前部、上頭頂小葉に投射される各々の感覚情報との統合による姿勢認知に影響を与え、pushingの増強と歩行自立度低下の要因になったと示唆する。一方、第48病日にKAFOを装着し、膝・足関節の影響を除いた場合において即時的にpushingの軽減を認めたことから、体幹と股関節制御に著しい問題がないことが伺えた。これはKAFOを装着することで制御する対象を体幹と股関節に絞り、上頭頂小葉と楔前部のおける体性感覚情報と視覚情報の統合により姿勢認知に寄与したことが示唆された。また、KAFOは膝・足関節を固定することで制御する関節数を減らし、課題の難易度を下げることができる。そのため、体幹と股関節制御が可能であった本症例において、静止立位や動作におけるpushingの重症度に応じて、膝・足関節の自由度を段階的に増やしたことは、感覚入力の重みづけとフィードバック誤差修正による姿勢制御の再学習と歩行自立度の早期改善に寄与したことが示唆された。 【倫理的配慮】本研究は、ヘルシンキ宣言および「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づき対象者の保護には十分に留意して実施された。

  • 小川 海斗, 後藤 響, 片岡 英樹, 山下 潤一郎
    セッションID: O14-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】脳腫瘍がテント下に発症した場合,小脳障害による運動失調やバランス障害を呈しやすく,腫瘍摘出術後もそれらの障害が残存することは少なくない.一方,運動失調に対するリハビリテーションでは,運動課題における難易度の調整と反復練習が重要とされている.今回,小脳腫瘍摘出後に運動失調が残存した症例に対して,主観的に難易度を調整しながら運動課題を反復練習する介入が奏功した症例を経験したため報告する. 【症例紹介】症例は60代の女性 (身長162㎝,体重53㎏)で,X-13年にA病院にて右小脳橋角部腫瘍を指摘され,X-11年に開頭腫瘍摘出術が施行された.しかし,X-5年頃より同部位の腫瘍が増大し,X-5日に動脈塞栓術を施行後,X日に2回目の開頭腫瘍摘出術が施行された.術後のMRIでは,右小脳橋角部からMeckels cave,脳幹部にかけて腫瘍の残存を認めた.X+1日よりリハビリテーションが開始となり,X+31日当院の回復期リハビリテーション病棟に転院となった. 【初期評価(X+31日)】右聴力の低下は認めたもののMMSEは24点で,著明な認知機能の低下はなかった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA)は17.5点(歩行6点,立位3点,坐位4点,言語障害1点,指追い試験1.5点,鼻-指試験2点,手内外運動1点,踵脛試験3点)で,右側に協調性運動障害や姿勢制御障害,測定障害を認めたが,ロンべルグ徴候は陰性であった.Functional Balance Scale (FBS)は13点とバランス障害を認め,起居動作,端坐位,立位保持には物的支持を要していた.酩酊歩行を認め10m歩行速度は15.5秒であった.FIM運動項目は52点であり,病棟内歩行は馬蹄型歩行器見守りレベルで,特に方向転換に介助を要していた. 【治療目標・方法】初期評価時点でのSARAの結果から,退院時に歩行自立が可能となることが予測されたため,「歩行自立し在宅復帰すること」を目標とした.介入戦略としては,運動課題の反復練習によって運動学習を促し,運動失調を含めた機能改善を図ることを目的に,姿勢保持練習 (静的座位・立位保持練習),重心移動練習 (ステップエクササイズ),歩行練習 (メトロノームを使用した律動的練習)を中心に運動療法を展開した.なお,各運動課題の難易度設定にはNumerical Rating Scale (NRS)を用いて主観的な難易度を聴取し,NRS6~7程度となるように設定し,NRS5以下となった際は難易度を再調整した. 【経過】介入初期はベッド上の座位,閉脚立位練習,ステップ幅10㎝のステップエクササイズ,Beats Per Minute(BPM)80の律動的な歩行練習から開始した.X+71日,それぞれタンデム立位保持,ステップ幅20㎝,BPM70に難易度が向上しており,SARAは15点,FBSは38点に改善していた.X+100日,姿勢保持練習は終了し,ステップ幅30㎝のステップエクササイズ,BPM65の歩行練習が可能となり,T字杖歩行が自立した.最終評価ではSARAは6点 (歩行2点,立位2点,踵脛試験2点),FBSは51点と運動失調とバランス能力の改善を認めた.また,酩酊歩行による進行方向の逸脱は軽減し,10m歩行速度も9.67秒と向上を認めた.FIM運動項目は69点となりX+121日に在宅復帰した. 【考察】本症例において,主観的に難易度を調整した運動課題の反復練習は障害された内部モデルの再構築を促し,運動失調やバランス能力の改善に寄与したことが推察される.以上のことから,小脳腫瘍摘出後の運動失調の残存に対し,主観的に難易度を調整した運動課題の反復練習は,運動失調やバランス能力の改善に有効である可能性が示唆された. 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,本人及び家族に説明と同意を得た.

  • 永徳 研二, 河野 純哉, 衛藤 航平, 篠原 美穂
    セッションID: O14-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 当院では患者サービスの向上や職員の負担軽減を目的に、疾患種別によらず高い治療効果が期待できるmediVRカグラ®(以下カグラ)を2023年7月に導入した。近年、医療の現場にもVirtual Reality (以下VR)技術の応用が注目され始めているが、カグラは、VR空間上に表示されるオブジェクトに向って、能動的にリーチ動作を繰り返すことで脳内の情報処理過程に働きかけることを目的としたリハビリテーション機器である。脊髄小脳変性症 (spinocerebellar degeneration: 以下SCD)は運動失調を主体とした進行性の神経疾患の総称であり、小脳や脊髄の神経変性によって生じるバランス障害はSCDの中核的障害の一つである。SCD患者に対するVRを用いた治療報告は少ないが、今回、SCD患者に対して歩行能力やバランス能力の改善を目的にカグラを使用し介入効果が得られたので報告する。 【方 法】 対象は70歳代男性、約7年前にSCDと診断され、在宅にて訪問リハを週2回利用中であった。介入方法は外来リハにてカグラを使用した約40分のトレーニングを隔週にて計14回 (約6ヶ月間)実施した。評価項目は立位バランス能力の評価には重心動揺検査装置 (ANIMA社製 BW-6000)を使用し開眼立位姿勢にて30 秒間を記録し、面積軌跡長検査に属する総軌跡長、矩形面積を算出した。歩行能力の評価には10m歩行スピードを用い、測定方法は快適歩行速度にて実施した。また、包括的運動失調検査のScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)、包括的姿勢バランス検査のBerg Balance Scale(以下BBS)についても評価した。 【結 果】 総軌跡長は初回338.92㎝、介入14回目163.01㎝、矩形面積は初回73.68㎤、介入14回目28.69㎤、10m歩行スピードは初回113.9秒、介入14回目26.5秒、SARAは初回20点、介入14回目14点、BBSは初回32点、介入14回目37点と何れも改善を認めた。 【考 察】 長谷はフィードバック (以下、FB)を課題実行時の運動スキルに関する情報が患者自身の視覚や深部感覚などを通じて入力される内在的FBと外部から教示される外在的FBに分類し、運動における身体の各部位間の協調、タイミングの調整や力量の制御によって正確性やスピードを向上させるためには、課題を行うことで患者自身が得る内在的FBに基づいた手続き学習が重要な役割を果す事を示している。また、道免は脳皮質の再編成を効率的に行うためには、その動作の完了と同時に適切で強力なFBを患者に自覚させることが重要であり、再編成効率は運動バリエーションと運動回数に依存している事を報告している。カグラでは意図した動作が成功した瞬間に視覚、聴覚、触覚刺激を用いた内在的FBが可能であり、更には7つの運動パラメーター (距離、高さ、角度、大きさ、スピード、感度、間隔)を容易に調整出来る事で、運動学習の展開がより効率的に行われたと推測する。また、原らによるとカグラ使用時には腹横筋などの深層筋の収縮が明確に得られる事や骨盤前傾および座骨への重心移動の改善を確認しており、反復運動によりバランス能力や歩行能力の改善が図れたと考える。カグラを用いたトレーニングはSCD患者に対して有用である可能性が示唆された。 【倫理的配慮】対象者には研究の趣旨と内容および調査結果の取り扱い等について説明し、同意を得て実施した。また、当院の倫理委員会にて承認 (承認番号R053)を受けて実施した。

  • 一ノ瀬 晴也, 石橋 和博, 春田 峻也, 黒木 遥, 松島 勇佑, 若菜 理, 春山 裕典, 一ツ松 勤
    セッションID: O14-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 補足運動野 (supplementary motor area:以下SMA)は前大脳動脈により栄養される。そして運動準備やリズム変換、運動の順序制御等の高次な運動制御に関与している。 補足運動野の障害では運動開始遅延が起こるために、臨床場面では歩行や排泄動作の自立に難渋する場合もある。よって、運動開始遅延を呈している症例に対しては理学療法の内容を特に吟味する必要がある。Hybrid Assistive Limb (以下HAL®)は、筋収縮時の生体電位を検出し、実際の運動現象と運動意図による理想的な運動パターンとの差分を最少化する特徴があるとされるが、運動開始遅延に対して用いた報告は極めて少ない。今回、HAL®自立支援用単関節タイプ (Single Joint type of HAL;以下HAL-SJ)を用いた訓練により下肢運動機能が改善し、ADL拡大に至った症例を経験したため報告する。 【症例紹介】 入院前ADL自立の55歳男性、BMI:21.0kg/m²、既往歴なし。右下肢脱力を主訴にX日に救急要請となった。同日、左前大脳動脈閉塞に対し組織型プラスミノーゲンアクチベータ投与と機械的血栓回収療法が施行された。初期評価 (X+1日)での意識清明で、Brunnstrom Stage(BRS)はⅥ-Ⅵ-Ⅳであった。下肢粗大筋力は右4左4、足関節背屈のMMTは右4左4、Fugl-Meyer Assessment下肢項目 (以下FMA-LE)は25/34点、Functional ambulation Categories (以下FAC)は2点であった。 【経過】 X+2日に医師より離床指示あり、自動座位訓練や立位訓練より開始した。X+3日に車椅子を使用してトイレ移動・トイレ内動作が可能となった。しかし、X+4日に発症時と同領域の梗塞巣の拡大があり、下肢筋力低下を呈し、特に右足関節背屈のMMTは4から0となった。また、自発性の低下を認め、歩行や移乗時の指示理解が不良となった。X+7日よりHAL-SJを導入 (モード:Standard/合計回数:50-200回)し、X+8日までの2日間は膝関節タイプを使用し、適宜評価を重ねながらHAL-SJの設定変更を行った。また、X+9日より足関節タイプへ移行し、7日間実施した。最終的に右足関節背屈のMMTはpoorまで改善した。FMA-LEはX+13日に27点まで改善し、X+12日にトイレ歩行へとADLを拡大した。そしてX+19日に棟内歩行自立までADL拡大が可能であり、FMA-LEは33/34点、FACは4点まで改善した。その後、X+26日に回復期病院へ転院となった。 【考察】 前大脳動脈梗塞によりSMAが障害され、体性感覚入力や運動発現までの適切な出力、計画が困難であったと考えられた。運動開始遅延が理学療法の阻害因子と考えられた本症例に対して、HAL-SJによる筋収縮時の生体電位感知による運動現象と運動意図による理想的な運動パターンとの差分を最少化するという特徴が奏功したために筋力の改善をはじめとする身体機能検査の改善の補助的役目を果たしたと考える。HAL-SJは正しいフィードバックのもと使用することで、通常の理学療法のみと比べ、早期の下肢運動機能向上に繋がることで、ADL獲得までの期間短縮に関与する可能性がある。 【倫理的配慮】発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、口頭にて説明を行った上で同意を得た。

セッションロ述15 骨関節・脊髄4
  • 塚田 奈海, 深谷 英里, 澁谷 徹, 小松 智, 米倉 豊, 井手 衆哉, 鶴田 敏幸
    セッションID: O15-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 変形性膝関節症は高齢者に高い割合で生じる退行性変性疾患であり、疼痛や日常生活障害を生じさせる.対する治療は保存療法や手術療法などがあるが、変性が早期で活動性が高い症例には膝蓋大腿関節に影響が少ないとされる内側開大式脛骨粗面下骨切り術 (OWDTO)が適応となることもある. OWDTOは関節温存しながら内側にある下肢荷重線を外側へ移動させるとともに、脛骨粗面下で骨切りすることで膝蓋大腿関節への負荷を軽減させる手術である.膝関節を中心とする全下肢のアライメント変化が起きることで隣接する股関節や足関節、足部に対しても影響を与えると考えられている.当院術後症例においても、術後の足関節の疼痛や可動域制限を呈する症例を経験した.そこで今回OWDTOが足関節アライメントに与える影響を明らかにするため、立位全下肢X線画像を用い術前後の足関節傾斜角を比較検討した. 【対象と方法】 当院にて2022年から2023年までにOWDTOを施行し経過観察可能であった44例45膝(男性17名女性28名、年齢64.7±5.9歳)を対象とした.術前、術後6ヶ月時の立位全下肢X線像を用いてtibiotalar tilt angle (TTA)、tibial plafond inclination angle (TPIA)、talar inclination angle (TIA)を計測した.床の平行なラインを0とし、足関節内反方向をプラス、外反方向をマイナスとした.術前、術後の比較は、Wilcoxon符号付順位和検定を使用し有意水準5%とした. 【結果】 TTAは術前平均1.81° (0~5.1°)、術後平均1.56° (0~7.6°)であり、有意差は認められなかった.TPIAは術前平均6.77±4.21°、術後平均1.06±4.17°と術前に比べ有意に減少していた.TIAは術前平均7.44±5.67°、術後平均2.13±4.77°と術前に比べ有意に減少していた. また、TPIA TIAが術後に床と平行に近づいた症例は39例であった. 【考察】 OWDTO術後において膝アライメントが矯正されたことにより、TPIA TIAが術後減少しており、距骨が外反していることが分かった.諸家らはOWHTOに伴う膝関節アライメント矯正による膝関節面傾斜増大の約2/3は足関節傾斜により代償されるとされ、足関節面傾斜の多くは内反から外反方向へ変化すると報告されている.今回の結果についても同様に、膝関節アライメントの変化は足関節で代償され、TPIA TIAが外がえし方向へ変化することが確認された. また下肢荷重線は膝関節内側から外側へと変化し膝アライメントは外反位へ変化したが、TPIA TIAが外反方向へと変化することで足関節においては内側に荷重部が移動することが考えられる.さらに荷重部が足関節内側に続くと舟状骨が下降して内側縦アーチの減少が起き、足関節痛や足関節背屈可動域低下を引き起こしうることが予想される. 本研究において、術後にTPIA TIAの減少を示し、床と平行な角度へ近づいた症例が多く占めた.一方で、TPIA TIAもしくはTPIAが術前より過度に外反方向へ移動した症例もあった.そのような症例では術前から距骨下関節の回内とそれに伴い前足部が外転するなどの代償動作が見られている例もあり、術前時から足関節のアライメント不良を起こしていた可能性がある.このことから術前に足部アライメント不良を起こしている場合には、足関節傾斜角の確認とともに、足部・足関節におけるアライメント修正を早期に取り組んでいくことが重要であると思われる. 【倫理的配慮】被験者には、本研究の調査内容や起こりうる危険、不利益などを含め説明し、また、個人情報に関しては、学会などで研究結果を公表する際には個人が特定できないように配慮することを説明し同意を得た.

  • 深川 美空, 兼島 公樹, 澁谷 徹, 村中 進, 米倉 豊, 井上 美帆, 井手 衆哉, 鶴田 敏幸
    セッションID: O15-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 近年,TKA後の臨床指標として,国際的にQOLや満足度に特化した患者立脚型アウトかムを用いた評価が重要視されており2011Knee Society Score (KSS)は我が国においても有用性が認められ,術後の満足度を含めた検討に用いられている.今回,TKAを行った症例について,術後1年までの経時的な推移を調査することとした. 【方法】 対象は変形性膝関節症の診断でTKAを行い,術後12か月追跡可能であった男性25名,女性97名,計122名 (年齢73.5±7.4歳)を対象とした.術前,術後1か月,3か月,6か月,12か月の膝関節屈曲・伸展可動域,全身の健康状態,KSS (合計,Ⅰ膝の症状,Ⅱ満足度,Ⅲ期待度,Ⅳ活動性)の比較に,それぞれ対応のある2群以上の間の平均値の比較として反復測定分散分析を用い,5%未満を有意差ありとした. 【結果】 膝関節屈曲可動域の推移 (術前/術後1か月/3か月/6か月/12か月)は118.4±16.7°/113.9±14.3°/118.9±11.5°/119.7±17.4°/119.4±16.1°と術前から術後1か月で一旦低下したが,その後術後1か月から術後12か月まで有意差を認めた.膝関節伸展可動域の推移は-10.7±6.1°/-4.4±5.2°/-3.5±5.2°/-2.7±4.0°/-2.2±4.0°と術前から術後3か月まで有意差を認め,健康状態は,60.4±23.3mm/65.7±19.6mm/72.2± 18.8mm/74.5±17.4mm/80.6±16.1mm,KSSにおいて合計が88.9± 22.4/91.2±20.0/105.1±19.1/113.7±17.0/117.6±20.4,Ⅱが17.1±6.2 /20.0±6.0/23.2±6.0/25.1±6.1/26.9±6.8, Ⅳが47.6±17.3/47.3±15.2 /59.8±15.9/64.9±14.0/68.2±16.4と術前と比較して術後12か月において有意差を認め,KSSⅠは11.0±4.7/15.0±4.7/13.2±6.2/14.5±6.0 /12.8±6.9と術前から術後1か月で一旦低下したが,術前と比較して術後6か月において有意差を認め,KSSⅢは13.2±2.0/9.0±2.0/8.9±2.2/9.2 ±2.0/9.6±2.0と術前と比較し有意差は認められなかった.また,調査した全項目において術後6か月以降は変化がなく術後6か月から12か月で有意な相関は認められなかった. 【考察】 今回,膝関節屈曲・伸展可動域,健康状態,KSS合計,Ⅰ,Ⅱ,Ⅳにおいて術前と比較し術後で有意な改善が認められた.しかし,KSSⅢ期待度において有意な改善が認められなかった.McCaldan RWらは,術前のROMが100度未満の場合は術後のROMが術前より改善する傾向にあるが,術前のROM が120度以上の場合は,術前と比べた術後のROMは低下することが多いと述べており,患者の期待と術後の日常生活との解離を生じやすいと報告している.今回の対象においても術後1か月で可動域が低下しており,術後早期において期待と術後の日常生活との解離が生じやすいことが示唆された.TKA対象患者に対して,術後の回復予測や日常生活・娯楽活動の獲得時期を示すことが期待度に沿うために必要であると考える. 【結語】 今回TKAを施行した症例について,術後1年までの経時的な回復段階を調査した.全項目において術後6か月と12か月では有意差が認められず,TKA術後の回復段階は術後6か月までが重要であることが分かった.また,KSSⅢにおいて術前と比較し術後で有意差が認められなかった.今後,TKAと患者の期待度に関与する因子について調査したいと考える.また,今回TKA術後1年までの経時的な推移の調査を把握することにより,患者に時期に応じた,ADL回復段階等を示すことができると考える. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理原則および計測研究に関する倫理指針に従い,研究計画を遵守して行った.対象者には,研究内容の説明を口頭にて行い参加する旨の同意を得た.なお,本研究における利益相反に関する開示事項はない

  • 溝田 丈士, 新留 知, 小林 匠, 志波 徹, 牧野 光一朗, 石橋 孝亮, 山浦 誠也
    セッションID: O15-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】足関節底屈筋力の低下は様々な足関節・足部疾患やADLとの関連が示されており,適切に評価されるべき機能障害である.その評価には等尺性筋力・等速性筋力評価機器による評価,従来用いられているMMTが挙げられる.機器を用いた評価では客観的ではあるが計測に時間を要すこと,一方MMTでは踵挙げの回数で段階を決定するため,筋力に加え持久力的観点が加味された評価となることが推測される.このように臨床現場にて有用且つ簡便な筋力測定方法が存在しないのが現状であると考え,plantar flexion break test (PFBT)が考案された (Kobayashi et al 2022).PFBTとは片脚立位姿勢で踵上げ (足関節最大底屈)をした状態で,検者が踵骨を把持して下方 (足関節背屈方向)へと最大抵抗を加えた際に抵抗に抗して足関節最大底屈位を保持できるか否かを判断する方法である.しかし下肢運動器疾患を対象としたPFBTでは陽性 (+)と陰性 (-)の2段階で判定され,抵抗への抗し方にもばらつきが存在することや,検者内信頼性は高い一方で検者間信頼性は十分ではない.そこで,新たな段階付けを定義したmodified PFBT (MPFBT)を考案し,その信頼性・有用性を検討することを目的に本研究を行った. 【対象・方法】対象は下肢疾患を有する50名,100足(患側50足,健側50足,53.8±19.6歳,BMI23.7±4.2)とした.測定項目はMPFBT,踵挙げ回数,底・背屈可動域とした.MPFBTは検者①PT(21年目),検者②PT(17年目)にて実施した.MPFBTは片脚立位姿勢で踵上げ(足関節最大底屈)をした状態で,検査者が踵骨を把持して下方(足関節背屈方向)へと抵抗を加えた際の足関節最大底屈位保持の可否を判断した.その際,両手での最大抵抗に抗せた場合:5,片手での中等度の抵抗に抗せた場合:4,片手での抵抗に抗せなかった場合:3と定義した.なお各検者の測定は20分以上の休憩を設けた.また別日に検者①のみ同一対象者にMPFBTを実施した.踵挙げ回数はMMTに準じ測定し,底・背屈可動域はゴニオメーターを用い5°単位で測定した.MPFBTの検者①・②の結果より検者間・検者内信頼性を(κ)を用いて統計解析した.なお測定信頼性は,Landisらの基準に準じた.次に検者①のMPFBTの結果で3群に分け,踵挙げ回数および底・背屈可動域をKruskal-Wallis検定を用い比較し,post-hoc testとしてBonferroni法を使用した.有意水準 5%未満を統計学的有意とみなした. 【結果】MPFBTの検者間信頼性は(κ)=0.74(substantial)で,検者内信頼性は(κ)=0.82(almost perfect)であった.検者①のMPFBTの結果で分けた3群は,5:22足,4:40足,3:38足であった.踵挙げ回数は,5が21.5(11,28)回,4が16(5,31)回,3が7(1,25)回で全ての群間に有意差を認めた(p<0.05).底屈可動域は,5が60(35,80)°,4が50(30,65)°,3が50(20,80)°で,5は4・3より大きく(p<0.01),4と3では有意差がなかった. 【考察】従来のPFBTより今回新たに考案したMPFBTの検者間信頼性は高く,検者内信頼性は同等の結果であった.MPFBTは他部位のMMT同様徒手抵抗検査であるため,その抵抗量が重要となるが,今回両手・片手抵抗と検者の抵抗量を段階付けしたことで信頼性が向上したことが推測される.よって治療効果の検証や復帰基準の判定などに応用可能と考えられる.また踵挙げの回数の結果では,MPFBTは踵挙げを複数回行う必要がなく,簡便に行うことができMMTの代替法として臨床上有用であることが示唆された. 【倫理的配慮】本研究は臨床研究に関する倫理指針に従って行った.対象者には,研究内容の説明を文書および口頭にて行い同意を得た.

セッションロ述16 測定・評価
  • 宮﨑 宣丞, 堤 省吾, 池田 恵子, 木村 玲央, 大濱 倫太郎, 下堂薗 恵, 谷口 昇
    セッションID: O16-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 臨床現場における歩行指導は、各対象者の身体機能計測や歩行分析の結果をもとに行うことが多いが、歩行速度を増加させる際の歩容と身体機能との関連について、統一された見解は報告されていない。本研究の目的は、運動器疾患者における歩行速度増加の戦略と身体機能の関連を検討することである。 【方法】 対象は、歩行補助具の使用をせずに10m歩行テストが可能な入院中の運動器疾患者9名 (62±9歳、膝疾患3例、脊椎疾患6例)とした。測定項目は慣性センサー (Mtw Awinda,Movella)より得られた歩行パラメータ,身体機能 (5回立ち座り時間、握力)とした。歩行計測は慣性センサーを仙骨部,両大腿,両下腿,両足部の7か所に貼付し,努力歩行による10m歩行テストを2回測定した。各計測データの中央5歩行周期を解析し,歩行速度,ケイデンス,立脚後期の下肢関節角度 (矢状面における大転子と外果を結ぶ線と垂直線のなす角度)、足関節底屈角度の最大値を算出した。歩行戦略の指標として、ケイデンスを歩行速度で除したGait Strategy Ratio (GSR)を算出した。GSRの値が大きいと、ケイデンス優位な歩行をしていることを示す。統計解析は,Pearsonの積率相関係数を用いて,歩行戦略と各パラメータの関連を検討した。有意水準は5%とした。 【結果】 GSRは握力と負の相関 (r=-0.774、p=0.014)を認め、5回立ち座り時間とは相関を認めなかった (r=0.041、p=0.916)。また、GSRは下肢伸展角度と負の相関を示し (r=-0.682、p=0.043)、足関節底屈角度との相関は認めなかった (r=-0.013、p=0.974)。 【考察】 本研究において、GSRと握力や下肢伸展角度は負の相関関係を示し、身体機能が高い対象者はストライドを伸ばして歩行速度を増加している傾向を示した。下肢伸展角度は歩行速度と関連する重要な指標の1つであり、GSRと関連したと考える。臨床現場においてケイデンスと歩行速度から算出可能な歩行戦略の指標であるGSRは、身体機能と股関節優位な歩行状態が把握できる可能性がある。一方、GSRと足関節機能との関連は認めなかった。身体機能良好な高齢者では足関節底屈機能を利用した歩行をしている傾向があると報告されているが、臨床で簡便に検査可能な身体機能のみでは歩行中の足関節機能まで予測することは難しい可能性がある。足関節機能に着目した歩行指導の実施に向けては、運動力学のより詳細な検討が必要と考えられる。 【結語】 臨床現場で簡便に算出可能な歩行戦略の指標であるGSRには握力や下肢伸展角度が関連し、GSRは股関節優位の歩行速度向上を反映している可能性が示された。層別解析による詳細な検討に向けて症例数の蓄積を継続し、各対象者に適した歩行指導の実施に向けて取り組みたい。 【倫理的配慮】本研究は,所属機関の倫理審査委員会 (220205 疫)の承認を得て実施した。対象者には説明を行った後に同意を得て実施し、ヘルシンキ宣言に則りデータを取り扱った。

  • 寺井 一樹, 佐藤 亮, 中野渡 達哉
    セッションID: O16-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 下肢骨折などの運動器疾患において患側荷重量を部分荷重(以下、PWB)から開始することがある。PWBの目的として、骨や軟部組織の治癒を適切に行うため、またインプラント骨折や再骨折を減少させることがあげられる。当院ではPWBの指示があった患者様に対し、体重計を用いて視覚的にフィードバック(以下、FB)しながらステップ練習や歩行練習を行っている。しかし近年、荷重センサーを搭載しタブレットでFBできる靴型下肢荷重計に関する報告も増えている。今回は、下肢荷重計「そくまる」(以下、そくまる)を使用し、体重計を用いてFBする方法と比較しPWBのFB効果に差があるのか検証した。そくまるは靴にセンサーを貼り、タブレットと連動することで荷重を掛けた際に視覚や聴覚で即座に荷重が確認できるものである。 【対象と方法】 対象者は当院スタッフ20名、平均年齢30±7.3歳。理学療法士(以下、PT)12名、作業療法士(以下、OT)6名、言語聴覚士(以下、ST)2名。そくまるの左側にセンサーを付け、左片脚立位の荷重量を総体重とした。対象者は、平行棒内両上肢支持の立位から、左下肢を振り出し、右下肢を振り出す1ステップ時の左下肢への荷重量を計測した。PWB課題は体重の2/3とし、荷重練習は、そくまるを装着し体重計の目盛りを見ながら練習する方法 (以下、体重計法)とそくまるを装着しタブレットのグラフや警告音でFBを受けながら練習する方法 (以下、センサー法)の2種類を行った。足部の条件を同一にするために体重計法においても、そくまるを装着して計測した。体重計法、センサー法とも10回ステップ練習を行い、2分間座位で休憩をとり、再度1回FBなしで左下肢へのPWBを行い、その際の最大荷重値を測定した。両測定は1日休息を挟んで行った。測定した最大荷重値を総体重で除してPWB率とし、目標荷重率を引いた数を誤差量とした。被検者の総体重にバラツキがあるため、その誤差量をそれぞれの目標2/3PWBで除して100を乗じた値(以下、誤差率)で統計処理を行った。20名の体重計法とセンサー法の差はT検定、PTおよびOTの体重計法とセンサー法の差はマン・ホイットニーのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。 【結果】 全体の誤差率は、体重計法197.0±55.7%、センサー法では98.9±15.7%となり有意差がみられた(p<0.05)。各職種の誤差率(体重計法/センサー法)は、PTは177.7±35.4%/93.5±8.3%、OTは218.0±56.3%/108.3 ±16.1%となり両職種とも有意差がみられた(p<0.05)。STは249.1±77.6 %/103.1±26.1%であったが対象が2名であり統計処理は行っていない。 【考察】 今回、2/3PWB課題において、体重計と下肢荷重計を用いたFB方法を比較した結果、下肢荷重計を用いる方法が誤差率は小さかった。下肢荷重計では、タブレットを用いるため、視覚と聴覚を中心に即時にFBが可能であり、メモリ等を見る際に目線を下げる必要がない。一方で、体重計では、FB時に体重計のメモリを見る必要があり目線を下げなければならず全体的に屈曲傾向となり、姿勢の違いも誤差率の差の要因のひとつと考えられる。またSTについては統計処理を行っていないが全職種で誤差率は改善し、PWB練習とプログラム内容の関連性が低い職種ほど、体重計法の誤差率が大きく、センサー法での誤差率の改善幅が大きかった。PWB練習を適切に進め歩行を獲得していくことは、荷重の学習また再骨折などの予防には必要不可欠な要素である。今回の結果より、PWB練習に下肢荷重計を使用することは、患者により有効な方法となることが示唆された。 【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し、対象者に個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で同意を得た。

  • 嶋村 剛史, 加藤 浩
    セッションID: O16-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 理学療法を実施する上で歩行動作能力を検討することは重要である.近年,臨床において簡便な歩行時の質的評価として規律性や対称性の指標であるHarmonic Ratio (以下,HR)の研究が増加している.2023年度の九州理学療法士学術大会にて高齢健常者と股関節外傷術後患者における1歩行周期の規則性を評価したストライドHR (sHR)の有用性について報告した.しかし,HR,sHRと異なる歩行速度の関係性を多次元的に検討した報告はない.そこで本研究の目的は主成分分析を用いて異なる歩行速度との相互関係を検討することとした. 【方法】 対象は60歳以上の高齢健常女性20名 (健常群),及び過去に認知症の既往がなくMMSE24点以上の股関節外傷術後の女性24名 (股関節外傷群)とした.計測にはワイヤレスモーションセンサSS-MS-HMA16G15 (スポーツセンシング社製)を用い,伸張バンドにて被検者の第3 腰椎棘突起部に位置するように固定した.サンプリング周波数は100 Hzとした.歩行動作は前後に3 mの補助路を設け,定常歩行10 mを計測した.課題動作は快適速度歩行 (以下,快適歩行)と最大速度歩行 (以下,最大歩行)とした.股関節外傷群の計測は術後7週間を目安とし,歩行動作が自立レベルで退院準備期に実施した.解析指標は1歩を1周期として1歩行周期を離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform : DFT)し,20周期までを解析対象としたHRと,1歩行周期(ストライド)を1周期として2歩行周期をDFTし,40周期からsHRを算出した.統計学的処理は健常群と股関節外傷群において,歩行速度とHRの各変数間の相互関係を検討するために主成分分析を実施した.主成分は固有値が1以上となる成分までを求め,主成分負荷量の絶対値が0.6以上の変数を主成分の主要な変数として解釈した.統計解析にはWindows版のR4.2.3(CRAN, freeware)を用いた. 【結果】 健常群の第1主成分を構成する変数は最大歩行速度(主成分負荷量: −0.89),最大歩行HR(0.77),快適歩行HR(0.74),快適歩行速度(−0.66)であった (寄与率41.5 %).第2主成分は最大歩行sHR(0.76),第3主成分は快適歩行sHR(0.87)で構成された.股関節外傷群の第1主成分を構成する変数は快適歩行sHR(0.79),最大歩行sHR(0.75),最大歩行速度(0.74),快適歩行速度(0.72)であった(寄与率45.8 %).第2主成分は最大歩行HR(0.64),第3主成分は快適歩行HR(0.61)であった. 【考察】 健常群における第1主成分は動作の速さと1歩を1周期とした規律性に影響を受ける変数で構成された.歩行速度が遅いほど規律性が高い可能性を示しており,歩行の制御力の成分と解釈した.第2主成分は最大歩行における1ストライドごとの規律性,第3主成分は快適歩行の1ストライドごとの規律性で構成された.一方,股関節外傷群における第1主成分は動作の速さと2歩を1周期とした規律性に影響を受ける変数で構成された.加えて,1ストライドごとの規律性が高いほど歩行速度が速い可能性が示唆された.同じ課題動作で評価した場合でも状況によって主要な評価指標は異なり,多角的に評価する必要性が示唆された. 【倫理的配慮】本研究は研究施設の倫理委員会の承認 (2020-012)を受け実施した.すべての対象者にヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行い,書面を用いて研究の内容および意義を説明し,同意を得た.

  • 中江 誠
    セッションID: O16-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】高齢者の体組成における知見から特徴を述べ,合わせて理学療法士の可能性に関する仮説を報告することである. 【方法】対象は,体組成計 (InBody社製 S10)を導入後に,測定・保存された4年間 (2019年6月-2023年4月)のデータ2,280値を,65歳未満・再入院 (所)・誤入力・切断患者・地域在住高齢者を除外項目として,初回時の入院あるいは入所をした女性541名 (87歳) 男性281名 (82歳)とした (中央値). 調査項目は,BMI・骨格筋量kg・骨ミネラル量kg・体水分均衡 (ECW/TBW)・位相角°および体脂肪に関しては,内臓脂肪面積㎠ (VFA)を参考値として加えた. BMIは性差を比較し (マンホイットニーのU検定),その他の項目は年齢および骨格筋量との関係性を性別に, Pearsonの積率相関係数で求めた. またVFAは,性別で年齢との分布を確認した上で, BMIとの相関係数も求めた. 合わせてVFAが100㎠を超えるBMI25以下の患者を性別に確認し (マンホイットニーのU検定),内臓脂肪型肥満と隠れ肥満の関係についても検討した. 有意水準はすべて5%未満とした. 【結果】BMIに性差はないものの,女性は低BMIに該当した (GLIM基準). 年齢と他の項目との相関係数r (女性/男性)は,骨格筋量 (-0.253/-0.389) 骨ミネラル量 (ns/-0.245) ECW/TBW (0.232/0.339) 位相角 (-0.290/-0.281)であった. 骨格筋と他の項目との相関係数rは, 骨ミネラル量 (0.587/0.846) ECW/TBW (-0.208/-0.450) 位相角 (r=0.338/0.466)であり (全てp<0.0001),年齢とは異なる相関を認めた. VFAが100㎠を超えたのは,女性 (224名:41.4%) 男性 (85名:30.2%)であった. VFAとBMIとの相関係数r (女性/男性)は, (0.822/0.752)と強い相関を認めた. またVFAが100㎠を超えるBMI 25以下のBMIは, 女性 (23.2) 男性 (24.3)で,女性が有意に低値であった (p<0.01). 【考察】加齢に伴う体組成の変化として,骨格筋や骨ミネラルが減少し,浮腫へ傾き活動量の低い「痩せた高齢者」は,一般的な臨床像である. ほぼ同様の状態が確認されたことから,エネルギーの出納を考慮した理学療法と栄養療法との複合的介入の必要性が考えられた. 一方骨格筋量との間には,骨ミネラル量の増加と浮腫の軽減,さらには細胞膜の健全性などの体組成バランスの改善が考えられた. この一連の関係性は,運動負荷による筋タンパク同化促進や異化抑制を伴った,骨格筋量の相対的増加の可能性を示唆するものであり,理学療法を実践する上で,可変臓器である骨格筋の可視化は有益と考える. また内臓脂肪型肥満はVFAが腹部CTで100㎠以上が診断基準であるが,高齢者層でも多いことが分かった. 更に隠れ肥満の存在は, BMIのみで判断するには限界があることも確認できた. 高齢者においても,内臓脂肪の減少に有酸素運動が重要と思われるが, 本研究はID化されたデータによる後方視的な確認のため,入退院時の比較や疾患別,筋力及び運動機能等などとの相関性の確認は不可能で研究限界と考えている. 【結語】理学療法士による体組成の見える化が伴った運動介入は,信用財としての社会的価値が高まると思われる. 【倫理的配慮】本演題は倫理委員会の承認を得ており(第23-006号)関連して筆頭演者に開示すべき利益相反はない

セッションロ述17 骨関節・脊髄5
  • 森山 武蔵, 田鍋 拓也, 柴藤 舞, 宮原 史子
    セッションID: O17-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 大腿骨近位部骨折 (以下HF)患者の術後1年時の歩行能力の回復に起因する因子として術後2週間後の歩行能力が挙げられ、これは自宅復帰に繋がる要因であることも知られている。これに加え術後翌日から移動能力の評価として実施可能である評価Cumulated Ambulation Score (以下CAS)があり、市ノ瀬らは術後3日間のCAS (3day-CAS)と術後2週間後の歩行能力の関連性を示唆している。本研究は先行研究を踏まえ、当院急性期整形外科病棟におけるHF術後患者の現状をアウトカム集計から分析し、プロトコルをアップデートする事を目的とした。 【方法】 本研究は後ろ向き観察研究であり、全ての評価項目と患者属性は診療録より取得した。対象は65歳以上で2022年10月1日~2023年8月31日の期間に大腿骨頸部骨折、転子部骨折術後患者89例 (除外対象:多発外傷、術後免荷、病前から歩行困難)で、当院急性期整形外科病棟の在棟日数を考慮し、メインアウトカムは術後10日目の歩行能力とし、歩行器監視で10m以上可能群 (以下可能群)と歩行器介助歩行以下群 (以下不可群)に群分けした。術後初期の移動能力の評価として3day-CASを、その他年齢、性別、認知症の有無 (HRS-R20点以上/未満)、受傷前の移動能力 (杖、独歩/歩行器)、転入元、骨折型、術式、GNRIの単変量解析を行い、有意差を認めた変数に関して、多重ロジスティック回帰分析を行った。また3day-CASはROC分析にてカットオフ値を算出した。 【結果】 術後10日後の歩行レベルは可能群35例、不可群54例であった。単変量解析では2群間で年齢、術前歩行能力、認知症の有無、3day-CAS (p<0.05)に有意差を認め、その後の多重ロジスティック回帰分析では、①術前歩行能力 (p<0.05)、②認知症の有無 (p<0.01)、③3day-CAS (p<0.01)に有意差が認められ、オッズ比はそれぞれ①7.15(95%CI:1.36~37.5)②0.19(95%CI:0.06~0.58)③1.7(95%CI:1.19~2.42)であった。3day-CASのカットオフ値は4点であった。 【考察】 統計解析の結果、先行研究同様に当院でもHF術後10日目の歩行器歩行の可否判断の一つに、3day-CASが有用であることが裏付けられた。これは可変性があり、理学療法の介入が得点に影響を与える点においても臨床上有用な指標と考えられ、術後早期から段階的に抗重力活動や歩行を実施していく事の重要性とその為のプロトコルの必要性が示唆された。また、今回認知症の有無や受傷前歩行レベルも抽出され,これらもプロトコルへ反映させる必要があると考えた。そこで認知症があり、受傷前歩行レベルが歩行器レベルの患者に関しては、歩行能力改善の前段階として、離床時間の拡大や、食事、トイレなどのADL獲得を軸とした別プロトコルを作成する事で、各患者のベースラインに応じた到達目標の設定、介入が可能となるのではないかと考えた。 【結語】 今後これらプロトコルを運用し、効果判定を行い、ブラッシュアップをしていく必要があると考える。 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に則り対象者における個人情報の保護などに十分配慮し、匿名かした上で実施した。

  • 原田 優希, 楠元 正順
    セッションID: O17-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 大腿骨近位部骨折術後患者の自宅退院は退院時歩行能力が大きく関与しているため、歩行能力の予後予測が重要となる。大腿骨近位部骨折術後患者の退院時歩行獲得には手術前歩行能力が関係していると先行研究で多く報告されている。術後早期の歩行能力を検討している報告は散見されるが、歩行能力以外のADLを検討した報告は少ない。そこで本研究は、急性期における大腿骨近位部骨折術後患者の術後1週間のADLを比較し検討してみた。 【方法】 対象は2021年1月から2023年12月までに大腿骨近位部骨折に対して手術および理学療法を実施した80歳から99歳かつ手術前歩行が自立していた64例とした。 評価項目は認知機能、歩行練習開始日数、術後1週時点での屋内歩行、移乗動作、トイレ動作、更衣動作とした。屋内歩行、移乗動作、トイレ動作、更衣動作は自立もしくは介助で評価を行った。各項目を80〜89歳 (以下、80代群)と90〜99歳 (以下、90代群)の2群間で比較し検討を行った。統計解析はMann-Whitney U検定およびFisherの正確比率検定を用い、有意水準は5%とした。 【結果】 80代群34例 (年齢86.9±1.7歳)、90代群30例 (年齢93.3±2.5歳)であった。2群間の統計学的な有意差を認めた項目は、手術 前歩行能力は80代群は独歩24名、歩行補助具10名、90代群は 独歩10名、歩行補助具20名 (P<0.05)、歩行練習開始日数は80 代群5.38±5.66日、90代群10.93±10.28日 (P<0.01)、術後1 週時点での移乗動作は、80代群自立16名、介助18名、90代群 自立10名、介助20名 (P<0.05)、トイレ動作は、80代群自立12 名、介助22名、90代群自立0名、介助30名 (P<0.05)であった。 認知機能、屋内歩行、更衣の項目はそれぞれ有意差を認めなか った。 【考察】 80代群と90代群において、手術前歩行能力、歩行練習開始日数、術後1週時点での移乗動作、トイレ動作に統計学的な有意差が認められた。 手術前歩行能力は80代群と90代群を比較すると、80代群の半数以上は独歩であり、歩行様式に差が認められた。先行研究から手術前歩行能力が術後の歩行能力に関与すると多く報告されており、80代群と90代群の手術前歩行能力差が両群の歩行練習開始日数に影響したと考えられた。移乗動作、トイレ動作には起立、立位保持といった基本動作や、踏み変え動作、上げ下ろし動作といった動作が必要となるため、それら動作能力に80代群と90代群で差があったと考えられた。今回の対象は、手術前歩行能力が自立していることからADL活動量は高かったと推察される。しかし80代群と比べて90代群の歩行能力、ADLに差があったことは、手術前歩行能力以外に基本動作が影響する可能性が考えられた。このことは、90代群の急性期理学療法は、基本動作能力に着目した介入の必要性を示唆していると考えられた。 【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認を受け、患者が特定されないように配慮した。

  • 坂本 大和, 伊藤 雅史, 樋口 健吾
    セッションID: O17-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】当院では2020年11月から大腿骨転子部骨折の症例に対して、TFNA (DePuy Synthes社)が使用されている。セメント使用が開始されてから、術後の疼痛が軽減し早期離床が行える症例を経験した。そこで、本研究では、大腿骨転子部骨折に対して、TFNAを使用し骨折観血的手術を施行した症例をセメント群と非セメント群に分けて端坐位開始・歩行開始までの期間に差があるのかを明らかにすることを目的に行った。 【方法】対象は2020年11月から2023年2月までの期間に、大腿骨転子部骨折に対して、TFNAを使用し骨折観血的手術が行われた症例を対象とした。除外基準は、死亡、複数骨折、合併症の併発した症例とした。電子カルテより、年齢、性別、病前自立度、転帰先、端坐位開始と歩行開始までの日数を調査した。対象者を、セメント群と非セメント群に群分けしEZRを用いて統計解析を行った。年齢・端坐位開始・歩行開始までの日数を対応のあるt検定、性別・病前自立度・転帰先をFisher’s exact testを用いて解析を行った。有意水準は5%とした。 【結果】対象者のうち、除外基準に該当しなかった全49例を解析対象とした。歩行開始までの日数に関しては、病前より歩行困難、術後荷重制限の指示があった症例を除いた全27例を解析対象とした。セメント群は34名 (11名)、非セメント群は15名(16名)であった (歩行開始までの解析対象者の内訳を記載)。セメント群では女性が有意に多い結果となった (セメント群:女性33名・男性1名、非セメント群:女性8名・男性7名、P<0.05)。また、年齢、病前自立度、転帰先、端坐位開始・歩行開始までの日数にはセメント群・非セメント群での有意な差は認めなかった。 【考察】セメント群において女性が有意に多い結果となった。兼田らの報告によると「Cemented TNFAは骨質の悪い症例が良い適応1)」とされている。また、骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは「骨粗鬆症の男女比は女性が男性の3倍の割合で多い2)」とされている。以上の点から、セメント群では骨粗鬆症である者が多いと予想され、女性が有意に多い結果となったのではないかと考える。また、本研究の最も着目した点である、端坐位開始・歩行開始までの日数において、有意な差は認めなかった。兼田らの報告によると「セメント補強型髄内釘の現時点での有用とされるのはカットアウトの抑制と術後疼痛の緩和における早期離床を可能とすること3)」とされている。この点から、セメントを使用する事で疼痛が緩和され、軽症であると予想される非セメント群と比較しても早期離床・歩行開始までに差がなかったのではないかと考える。 【結論】骨セメントを使用する事で疼痛が緩和され早期離床へと繋がる可能性が示唆された。 【参考文献】1) 3) 兼田慎太郎 整形外科と災害外科 72:(2)256~261、2023 「大腿骨転子部骨折に対するセメント併用TNFA骨接合術の短期成績」 2) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版 【倫理的配慮】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には説明を行い同意を得た。また、本研究は当院の倫理委員会の審査を受けて承認を得ている (承認番号:K2024001)。

  • 小宮 大輔, 水上 健太, 江郷 功起, 岩井 宏治
    セッションID: O17-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 大腿骨近位部骨折(Hip Fracture, HF)患者における入院時の血清アルブミン値(Alb値)の低下は, 退院時の自立歩行の阻害因子であると指摘されている. 一方, ポリファーマシーの状態にある高齢者には, 基礎疾患による炎症促進状態が存在することが示唆されている. 炎症はAlb値を低下させるため, 高齢HF患者におけるポリファーマシーはAlb値を修飾し, 退院時の歩行能力にも影響している可能性がある. 本研究の目的は, 高齢HF患者におけるAlb値と急性期病院退院時の歩行自立度(退院時歩行自立度)との関連を, ポリファーマシーの有無や程度によって層別化して検討することである. 【方法】 2017年4月から2023年8月までに手術を受けた75歳以上のHF患者(n=243)を対象とした. 電子カルテより人口統計学的情報, 医学的情報などのベースライン特性を後方視的に抽出し, 退院時歩行自立度との関連を検討した. 退院時歩行自立度はFunctional Ambulation Categories(以下, FAC)で判定し, ポリファーマシーを6剤以上, ハイパーポリファーマシーを10剤以上の内服薬の使用と定義した. まず, Alb値が本研究対象者全体の退院時歩行自立度に関連しているかどうかを確認するため, 退院時FAC3以上を従属変数に, ベースライン特性を独立変数にして多重ロジスティック回帰分析を行った. 抽出された独立変数に対してROC 曲線分析を行い, AUCとカットオフ値を求め, これらの適合性も評価した. なお, 独立変数のうち「薬剤数」と「ポリファーマシー」の多重共線性を考慮し, どちらか一方を投入した2つのモデル(「薬剤数」を投入したモデル1-a, 「ポリファーマシー」を投入したモデル1-b)を作成した. 次に, ポリファーマシーおよびハイパーポリファーマシーの状態にあるHF患者におけるAlb値の影響を検討するため, 対象をポリファーマシー群(n=173, モデル2), ハイパーポリファーマシー群(n=73, モデル3), および非ポリファーマシー群(n=70, モデル4)の3つのグループに層別化し, それぞれをモデル1-a, 1-bと同様の手順で分析した. 統計分析にはEZRを使用し, 有意水準をp=0.05に設定した. 【結果】 モデル1-a, 1-bではAlb値が抽出され, 本研究対象者全体においても退院時歩行自立度に関連していた(モデル1-a: OR 1.951 95%CI 1.166-3.343 p<0.05, モデル1-b: OR 2.034 95%CI 1.223-3.469 p<0.01). 続いて, モデル2と3においてもAlb値が抽出された(モデル2: OR 2.489 95%CI 1.348-4.8 p<0.01, モデル3: OR 3.587 95%CI 1.308-11.537 p<0.05). これらの4つのモデルの退院時FAC3以上を判別するAUCは0.622-0.67, Alb値のカットオフ値は3.35-3.55g/dLであった. また, カットオフ値の適合性は感度61.8-86.2%, 的中精度59.3-65.8%でモデル3で最も高く, 特異度は52.3-57.4%でモデル1-a, 1-bで最も高かった. モデル4ではAlb値は抽出されなかった. 【考察】 ポリファーマシーの状態にある高齢HF患者のAlb値は, 基礎疾患の多さに影響され, 相対的に低下していた可能性がある. Alb値は手術侵襲によってさらに低下し, 機能回復に影響したと考えられる. 【結語】 Alb値はポリファーマシーの状態にある高齢HF患者において退院時歩行自立度を鋭敏に予測する. 特に受傷前の内服薬が多いほどAlb値の評価が重要である. 【倫理的配慮】本研究は地方独立行政法人大牟田市立病院倫理委員会の承認(承認番号: No.2324)を得たうえで実施された. また, ヘルシンキ宣言に基づきデータは匿名化され, 個人情報の保護に配慮した.

セッションロ述18 地域リハピリテーション2
  • 吉田 禄彦, 釜崎 大志郎, 八谷 瑞紀, 大川 裕行, 藤原 和彦, 末永 拓也, 保坂 公大, 吉瀬 陽, 井手 翔太郎, 藤村 諭, ...
    セッションID: O18-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】高齢者の抑うつ状態は移動能力や認知機能に関連する。また,抑うつ状態は要介護度や死亡リスクにも悪影響をもたらす。このように,高齢者の抑うつ状態は機能面のみならず臨床転帰にまでも影響することから,抑うつ状態の予防策を考える必要がある。社会的フレイルとは,社会との交流が希薄化することを指し,社会的に心身が脆弱な状態を示す。我々は,この社会的フレイルが抑うつ状態に関係するとの仮説を立てた。そこで本研究の目的は,地域在住高齢者の抑うつ状態と社会的フレイルの関係性を検討することとした。本研究結果は,地域在住高齢者の抑うつ状態を予防する理学療法の一助になると考える。 【方法】対象は,体力測定会の参加者とした。除外基準は64歳以下の者,認知機能の低下を認めた者,欠損値を有した者とした。基本情報として,性別と年齢を記録し,身長,体重,body mass index (BMI),skeletal muscle mass Index (SMI)を測定した。抑うつ状態は基本チェックリスト,社会的フレイルはMakizako-5で評価した。その他に,握力,開眼片脚立ち時間,timed up and go test (TUG),歩行速度,five time sit to stand test (FTSST),mini-mental state examination(MMSE)を評価した。統計処理は,抑うつ状態と社会的フレイルの関係を一般化線形モデルで検討した。次に,抑うつ状態の有無別に社会的フレイルを評価するMakizako-5の下位項目をFisherの正確確率検定で比較し,詳細な特徴を検討した。 【結果】分析対象者は,除外基準に該当した5名を除く地域在住高齢者79名 (75±6歳,女性75%)であった。共変量を投入した一般化線形モデルの結果,抑うつ状態にはMakizako-5 (標準化偏回帰係数=0.40,p<.001)が関係することが明らかになった。さらに,抑うつ状態の有無別にMakizako-5の下位項目を比較した結果,「誰かと毎日会話をしている (p=0.030,ES=0.36)」,「友人の家を訪ねている (p=0.013,ES=0.37)」に有意差が認められた。 【考察】本研究の結果,地域在住高齢者の抑うつ状態にはMakizako-5が関係することが明らかになった。抑うつ状態の高齢者は,外出頻度が減り閉じこもり傾向であることが示されている。また,抑うつ状態の高齢者に社会活動を促すことで症状が緩和する可能性が示されている。これらの先行研究から推察すると,高齢者の抑うつ状態と社会的フレイルを評価するMakizako-5の関係性が明らかになった本研究の結果は妥当であろう。興味深いことに抑うつ状態の高齢者は,誰かと毎日会話をしていない者が多く,友人の家を訪ねている者が少ない特徴が明らかになった。これらの項目は,単独では遂行できず他者が関わるという点で共通している。本研究では推測の域を出ないが,高齢者の抑うつを予防するためには,他者と関わる社会活動を促す必要性が示唆された。 【結語】地域在住高齢者の抑うつ状態にはMakizako-5が関係することが明らかになった。抑うつの予防には,他者との会話や友人宅への訪問が必要である可能性が示唆された。 【倫理的配慮】対象者には,研究の内容と目的を説明し,理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり,参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。

  • 釜﨑 大志郎, 八谷 瑞紀, 久保 温子, 大川 裕行, 坂本 飛鳥, 藤原 和彦, 保坂 公大, 北島 貴大, 溝上 泰弘, 鎌田 實, ...
    セッションID: O18-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】身体機能の低下した高齢者は,杖の使用によって身体活動や社会参加が増加する。一方,杖の使用が転倒リスクの増加と関連していることや,活動量の減少につながることも示されている。したがって,杖は様々な能力を考慮した上で処方されるべきである。そこで本研究は,杖使用の有無に関係することが予想される包括的な変数から高齢者の杖使用の有無に関係する要因を検討することとした。本研究によって,杖を処方する際に注目すべき機能が明らかになり,今後の高齢者リハビリ テーションに貢献すると考える。 【方法】本研究は横断研究である。対象は体力測定会に参加した地域在住高齢者とした。除外基準は64歳以下の者,歩行に介助が必要な者,歩行器や車椅子を使用している者,欠損値のある者とした。杖の使用の有無は,日常生活で杖を使用しているかで判断した。身体機能は,立位での足指圧迫力,握力,膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がりテスト (CS-30),開眼片脚立ち時間を評価した。その他にmini-mental state examination (MMSE),抑うつ状態,転倒恐怖感,転倒歴を評価した。統計処理は,杖使用の有無を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析を実施した。Model 1は立位での足指圧迫力,握力,膝伸展筋力,開眼片脚立ち時間,MMSE,抑うつ状態,転倒恐怖感,転倒歴を独立変数に投入した。Model 2では性別と年齢を投入し交絡の調整を図った。 【結果】分析対象者は,除外基準に該当した83名を除いた杖使用群108名 (77±7歳,女性69%),杖非使用群52名 (83±6歳,女性79%)であった。交絡を調整した2項ロジスティック回帰分析の結果,杖使用の有無には開眼片脚立ち時間[オッズ比:0.82 (0.72-0.93)]と抑うつ状態[オッズ比:1.98 (1.08-3.66)]が有意に関係していた。 【考察】開眼片脚立ち時間は,転倒リスクを判定する有用な評価方法であることが報告されている。杖は,バランス能力の低い高齢者の日常生活をサポートし,転倒を減らすことが示されている。本研究結果とこれまでの先行研究を踏まえると,バランス能力が低下している高齢者には杖を処方する必要性が示された。抑うつ状態になると,歩行中の姿勢制御が困難になる。システマティックレビューでは,抑うつ傾向がバランス能力や歩行能力と関連していることが明らかにされている。我々の研究結果を含めた知見は,うつ状態の高齢者はバランス能力や歩行能力が低下している可能性があるため,杖の処方が必要であることを示している。本研究の興味深い点は,筋力や認知機能よりも開眼片脚立ち時間や抑うつ状態が高齢者の杖使用の有無に関係したことである。バランス能力の低下や抑うつ状態が確認された高齢者には杖の処方を前向きに検討するとともに,筋力や認知機能が低下している高齢者への杖の処方は慎重に判断する必要性があると考える。 【結語】本研究の結果,高齢者の杖使用の有無にはバランス能力と抑うつ状態が関係していることが明らかになった。杖の処方を検討する際には,特にバランス機能や抑うつ状態を評価する必要性が示された。 【倫理的配慮】対象者には,研究の内容と目的を説明し,理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり,参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。また,対象者は大学生であったため,成績には影響しないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認 (23TXV20)を得て実施した。

  • 足立 雅俊, 堤 加奈子, 篠﨑 一香, 林田 宏剛, 赤岩 喬, 本田 宜久
    セッションID: O18-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 当院における新規就労支援の際、支援期間が長期に及ぶ、スタッフにより支援状況に差がある、就労準備性が整っていないなどの課題が山積していた。 そこで、2022年より就労支援チームを結成し、支援プロセスをマニュアル化したため考察を加え報告する。 【チーム・プロセス紹介】 ・就労支援チーム:医師、社会福祉士、看護師、医療事務、セラピスト ・プロセス:①新規就労希望聴取②情報共有シートにて情報収集 (職歴、希望月収、家族の意向、ストレス要因とその対策等)③主治医、セラピスト、就労支援チームにて情報共有④障がい者基幹相談支援センター (以下基幹センター)へ情報共有シート、サマリーを伝達し相談⑤面談 (本人・家族・基幹センター職員・当院職員・必要に応じ就労支援事業所 (障害者就業・生活支援センター (以下なかぽつ)、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所)⑥就労支援事業所利用⑦病院・事業所間で就労・訓練状況を共有⑧外来診察・リハビリ (状況確認、職場訪問、リハビリ実施)を継続または終了 【方法】 支援プロセス導入前 (2019~2021年)・導入後 (2022~2023年12月)の年度ごとに新規就労数、年齢、高次脳機能障害の有無、家族関係、支援開始~面談までの期間、支援開始~就労までの期間を調査した。2群間の比較にはアンダーソン・ダーリング検定、等分散を仮定した2標本によるT検定を用いた。有意水準は5%とした。 【結果】 新規就労数は導入前4名、導入後4名、平均年齢はそれぞれ55.5±7.85歳と56.5±8.10歳、面談までの平均期間は62.5±43.5日と30±23.2日、就労までの平均期間は723.25±119.67日と151.5±77.7日であった。本プロセス導入後は就労までの期間が有意に短縮していた (P<0.001,Cohen’s dの効果量6.54)。 【考察】 本来就労に関する相談はなかぽつに相談するのが一般的であり、問題発生時に基幹センターへ相談することが多い。しかし、基幹センター職員が初めに面談することで就労準備性を早期に確認し、最適な就労支援施設を選定することで就労移行期間も短縮出来ると考え、本プロセスでは初回に基幹センターとの面談を依頼している。 また、外来リハビリを継続しながら就労支援事業所と情報共有を図ることで、就労またはその定着に向けた機能訓練・環境調整が円滑になると考えられる。 これらのことにより、今回当院の新規就労支援における期間短縮を図れたのではないかと考える。 さらに、支援プロセスのマニュアル化・就労支援チームのサポートにより経験の浅いスタッフでも同質の支援を行うことが可能となると考える。 新規就労支援における課題として、現状では全ての支援においてサービスで行っているため収益性をあげられていないこと、また、障害者手帳の取得に至らない程度の障害では従来のハローワーク等の紹介にとどまることなどが挙げられる。今後は、以上の点を踏まえ新規就労支援の改善を図っていきたい。 【倫理的配慮】本研究では、職業、病歴、家族構成、所得などの基本属性の回答を含む質問紙調査とデータ分析において個人情報を扱うため、質問紙調査においては、個人情報が研究計画に反して外部に漏洩しないように、調査によって得られた情報の一部(氏名等)を削除し、必要なデータのみ数値化し保存するなど、第三者に対象となった個人を特定できない形で推計する。以上の配慮のもと、頴田病院倫理委員会規定に従って研究を行った。

  • 光武 潤, 小栗 隆太
    セッションID: O18-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 脳卒中等による中途障がい者の社会参加、特に就労は社会復帰そのものであり、生活の質に深く関連している。当院では近年入院患者や介護保険サービス利用者に対して就労支援の取り組みを行っているため課題を含めてここに報告する。 【就労継続支援導入の流れ】 1.本人の仕事に対する考え方や身体状況の評価 2.各事業所の業務内容把握と利用者に合った事業所の提案 3.事業所見学 4.事業所体験 5.福祉課の調査 6.事業所利用にあたっての申請・申込・契約 7.利用開始 【症例紹介】 アテローム血栓性脳梗塞による軽度の左片麻痺を呈した50代男性。発症後約2年経過。退院時に発症前の復職を検討されたが身体機能と体力面から困難と判断され短時間通所リハビリテーションを週1回利用し現在に至る。 (要支援1,身体障害者手帳2種4級)普段は健康管理のため散歩を行うが、他に行うことがなく生活の充実感が得られていないことを聴取し、就労の提案を行い導入に至った。 【評価】 独歩(ゲートソリューションデザイン) Br‘S上肢Ⅵ 手指Ⅵ 下肢Ⅴ FIM運動項目87点、認知項目35点、計122点 TUG10.4改訂版PGCモラールスケール (以下、改訂PGC) (生活満足度などの指標)Ⅰ心理的動揺 就労前/後 3/4 Ⅱ老いに対する不安 0/0 Ⅲ孤独感 2/2 【導入にあたっての取り組み】 就労継続支援事業所のデータベース作成 (主にB型)、事業所と地域サービスとの関係作り 【考察】 導入にあたり、福祉制度の理解と対象者の健康面や、仕事に対する考え方を事業所や生活支援相談員と共有できたことでスムーズな支援が行えた。特に賃金と利用料金は対象者の就労意欲に大きく影響するため配慮した。賃金が高い就労継続支援A型の利用を検討したが、地域の特性上短期間で廃業に至り事業所自身の定着が難しいという課題があるため断念した。また、就労移行支援事業サービスは、伊万里市では対象者が20代に限られており、中途障がい者の就労支援には支援が限られていた。そのため、復職へのファーストステップとしてB型を選択した。B型事業所を利用しながら本人の自信を深めることを第一の目的とした。数か所の事業所を提案し、体験を進めた。 リハビリ職種の立場としては、安全な通勤が可能なこと、利用者の身体機能と業務内容のマッチングを行うことで、より就労意欲向上に寄与したと考える。利用者からは「生活している実感が得られる」、「やりがいがある」と前向きな言葉が得られた。今回、主観的QOLの評価として11項目からなる改訂PGCで心理的動揺、老いに対する不安、孤独感について評価を行った。その中で、心理的動揺の点数が向上している。生活リズムの形成、社会的役割を担っている実感が得られたことで、心理的な安定性が改善した。 病院単独での支援は困難であり、支援を通してつながった市町等との関係を深めながら利用者により適した生活支援をしていきたい。地域課題を市町と共有しながら支援を継続していき、社会参加や社会復帰につながる提案を続けて行くことで、利用者の生活の質の向上を目指していきたい。 【倫理的配慮】本発表について対象者様には十分な説明を行い、同意を得た。

セッションロ述19 骨関節・脊髄6
  • 松本 伸一, 山下 裕, 長谷川 隆史, 西 啓太, 森内 剛史, 暢 暁倩, 野口 薫, 中尾 雄一, 宮永 香那, 古川 敬三, 東 登 ...
    セッションID: O19-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 肩関節周囲炎(以下,AC)患者において、痛みに関連した認知心理的因子が上肢機能に影響することが明らかにされている。加えて近年では、肩関節疾患における身体知覚異常が能力障害や認知心理的因子と関連していることが報告されている。一方でACにおける認知心理的因子と身体知覚異常について、どのようなメカニズムで上肢機能に影響するかを明らかにした報告はない。そこで本研究の目的は,AC患者の上肢に対する疼痛関連の認知心理的因子と身体知覚異常の関連について、媒介分析を用いてそのメカニズムを検討することである. 【方法】 2022年2月~2024年4月に長崎・佐賀の整形外科外来2施設でACの診断を受けた57名(男性21名/女性36名,年齢60.0±9.8歳)を対象とした.評価項目は上肢機能の評価を短縮版上肢障害評価表(以下,QDASH),安静時・動作時の疼痛強度をVisual Analog Scale(以下,安静時痛VAS・動作時痛VAS),破局的思考をPain Catastrophizing Scale疼痛下での自己効力感をPain Self-Efficacy Questionnaire(以下,PSEQ),運動恐怖観念を短縮版Tampa Scale Kinesiophobia(以下,TSK-11),肩周囲の身体知覚異常をFrementle Shoulder Awareness Questionnaire(以下,FreSHAQ)を用いて評価した. 統計学的解析は,統計ソフトHADを使用し,従属変数をQDASH,独立変数をPCS,PSEQ,TSK-11,媒介変数をFreSHAQとしたブートストラップ法(標本サイズ10000)による媒介分析を行った.有意水準5%未満,及び95%CIbsにより統計学的有意差を判断した. 【結果】 測定の結果,安静時痛VAS: 8.9±13.7,動作時痛VAS: 52.5±27.3,QDASH:28.4±15.4点,PCS:20.0±11.3点,PSEQ:37.3±11.2点,TSK-11:21.1±5.3点,FreSHAQ:8.7±6.3点となった.媒介分析の結果,疼痛関連の認知心理的因子とQDASHにおける総合効果は,PCS(β=.65; p<0.01),PSEQ (β=-.57; p<0.01),TSK-11 (β=.46; p<0.01)となった.直接効果はPCS (β=.56; p<0.01),PSEQ (β=-.46; p<0.01),TSK-11(β=.34; p<0.01)となった.また,FreSHAQを媒介変数とした間接効果はPCS(β=.09; 95%CIbs:-0.002 ,0.30 ),PSEQ(β=-.11;95%CIbs; -0.34, 0.003),TSK-11(β=.12;95%CIbs; 0.070, 0.799)となり,TSK-11でのみ有意な部分媒介を認めた. 【考察】 AC患者の上肢機能へ対して疼痛関連の認知心理的因子は全ての項目で有意な直接効果がみられ,運動恐怖のみが身体知覚異常によって部分的に有意な媒介効果を認めた.AC患者の上肢機能へ対する運動恐怖の影響は身体知覚異常の存在に影響を受けることが示唆され,恐怖感を抱える症例へ対して身体知覚異常の存在を考慮した介入を検討する必要性が示唆された.本研究の対象群では安静時痛が低く,動作時痛が強い傾向がみられた.今後はより多くのサンプルサイズでサブグループ化した解析が必要である. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮を行い,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学系倫理委員会にて承認を受け(許可番号: 23011203),対象となる患者に口頭,および書面にて同意を得て行った.

  • 宮崎 大地, 河上 淳一, 小野 日菜乃, 佐藤 一樹, 笠松 遥, 釘宮 基泰
    セッションID: O19-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 肩関節周囲炎症例において結帯動作はエプロンの紐を結ぶ、下着の着脱、ズボンにシャツを入れるなど日常生活活動でも難渋する動作である。肩関節周囲炎、腱板断裂後を対象とした研究では肩関節伸展や90°外転位内旋可動域が制限因子として報告されている。また、健常者を対象とした結帯動作の研究では、母指が第5腰椎から第12胸椎の相において主に肩関節、第12胸椎から第7胸椎の相においては主に肩甲骨の運動により遂行されると報告されている。肩甲骨運動は近年スマートフォンを使用した計測も高い信頼性が得られており、臨床でも使用しやすい。結帯動作の制限因子は肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節が関与するが、結帯動作において、肩甲上腕関節と肩甲骨運動の関係性を同時にみた報告は狩猟し得ない。そこで本研究の目的は、肩関節周囲炎症例の結帯動作制限に関わる因子を検討し、今後の肩関節周囲炎症例への理学療法に活かすこととした。 【対象と方法】 対象は2024年3月から2024年4月に当院で肩関節周囲炎と診断され、理学療法を実施している者とした。除外基準は脳血管疾患の既往がある者、腱板断裂症状がある者、同意が得られなかった者とした。検査項目は指椎間距離(結帯動作)、肩関節屈曲・伸展、下垂位外旋、90°外転位外旋・内旋可動域、肩甲骨傾斜角、安静時、運動時、夜間時のVisual Analog Scale (VAS)、指椎間距離はConstant Shoulder Scoreを参考に第12胸椎を基準とし高位群と低位群に分けた。肩甲骨傾斜角の測定には,iPhone12(Apple社製)に搭載されている計測(Apple社製)アプリケーションの水準器を用い、肩甲骨の下角と肩甲棘の2点に当て結帯動作の前後を計測した。統計は、EZRを使用し、結帯動作の2群に対し他の9項目を単変量解析 (対応のないt検定)で検討した。各統計の有意水準は5%とした。 【結果】 本研究の対象者は38名であり、結帯動作高位群25名、低位群13名であった。評価の結果[以下は(結帯動作高位群:低位群)で示す]は屈曲(138.8±19.3°:123.5±16.8°)、伸展(42.2±10.8°:38.3±11.9°)、下垂位外旋(44.8±14.2°:34.5±13.8°)、90°外転位外旋(57.0±21.2°:38.7 ±22.4°)、90°外転位内旋(53.2±21.0°:36.2±21.2°)、肩甲骨傾斜角(10.4±4.7°:15.2±9.1°)。安静時・運動時・夜間時VASは有意差を認めなかった。 【考察】 結帯動作高位群は肩関節屈曲・下垂位外旋・90°外転位外旋・90°外転位内旋可動域が有意に高く、肩甲骨傾斜角が有意に低かった。肩関節屈曲・90°外転位外旋・90°外転位内旋可動域が有意に高い理由は、結帯動作高位群において肩関節後下方関節包の柔軟性が高く、関節中心を逸脱せず、運動が遂行できたためではないかと考えた。肩甲骨傾斜角が低い理由は、結帯動作高位群において肩甲上腕関節の代償が少なく動作を遂行できたためではないかと考えた。肩関節周囲炎症例の結帯動作制限に対する理学療法では、肩関節屈曲や外転可動域を向上させるのみならず、挙上時での運動療法など様々な肢位での回旋運動を実施していく必要があると考える。今後は、結帯動作低位群の改善率を前向きデータで検討し、肩関節周囲炎症例の結帯動作制限に対する有効な理学療法を考えていきたい。 【倫理的配慮】 本研究は当院倫理審査委員会の承認後(承認番号:50709)、対象者に主旨を説明し書面にて同意を得た。

  • 小野 日菜乃, 河上 淳一, 竹井 和人, 宮崎 大地, 佐藤 一樹, 笠松 遥, 釘宮 基泰
    セッションID: O19-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 回旋筋腱板は肩関節の安定に重要な役割を持つと考えられており、肩関節疾患において回旋筋腱板を賦活する肩関節外旋エクササイズ(外旋ex)が有効であると報告されている。臨床では、対象者に代償の少ない外旋exを提供することに苦戦する。その反面、外旋ex実施中、口頭指示や触覚刺激で外旋ex中の反応や、その後の肩関節運動が変化することを多く経験する。先行研究では、加圧や接触などの感覚入力、運動イメージや視覚的フィードバックなどにより運動パフォーマンスの向上が報告されている。先行研究と同様に外旋ex中に触覚刺激や視覚刺激を入力することで、肩関節外旋筋の筋活動や筋力が増加するのではないかと仮説を立てた。今回、外旋ex中の触覚・視覚刺激が棘下筋の筋活動、最大筋力へ与える影響を検討し、改めて外旋exを再考することを目的とした。 【対象と方法】 対象は健常成人20名とし、無作為に触覚刺激群10名(触覚群)、視覚刺激群(視覚群)10名に分けた。方法は座位で1mのセラバンドを用い肩関節内旋45°から外旋45°の範囲で実施した。触覚群には外旋ex中に棘下筋に対して触覚刺激を与えた。視覚群には外旋exの動画を視聴しながら実施した。計測は外旋ex前後における棘下筋、三角筋、僧帽筋の筋活動(表面筋電図:トランクソリューション株式会社)と最大等尺性収縮筋力(ハンドヘルドダイナモメーター:ミナト医科学株式会社)とした。統計解析はEZRを使用し、外旋ex前後の筋活動と最大筋力を対応のあるt検定、群間の筋活動、最大筋力を対応のないt検定で解析した。 【結果】 棘下筋の筋活動は、外旋ex前の最大等尺性収縮時を100%として正規化した。触覚群の棘下筋平均筋活動(外旋ex後):111±0.02%MVC。最大筋力(外旋ex前/外旋ex後):10±2.03/11±3.16kg。視覚群の棘下筋平均筋活動(外旋ex後):103±0.42%MVC。最大筋力(外旋ex前/外旋ex後):11±2.35/12±3.76kg。棘下筋、三角筋、僧帽筋の筋活動、最大筋力は外旋ex前後で両群とも有意差が認められなかった。また外旋ex後の棘下筋の筋活動・最大筋力は触覚群と視覚群で比較し有意差は認められなかった。 【考察】 今回、両群ともに棘下筋の筋活動、最大筋力は向上しなかった。その理由として、両群ともに外旋exの回数が少なかったことが考えられる。筋力向上の即時効果における研究では、条件設定に関して、負荷量、回数、セット数が重要と報告されている。本研究の外旋ex中の負荷量は先行研究と同等であり、回数とセット数が少なかったことから両群ともに外旋ex後の棘下筋の筋活動、筋力の向上が認められなかったのではないかと考える。外旋ex後の筋活動と最大筋力は両群間において有意差が認められなかった。先行研究ではトレーニングにおけるイメージ能力にはイメージの正確性が重要であり、イメージの正確性は運動の経験により向上すると報告されている。さらに、イメージ能力が高ければ効率の良い運動が可能になると報告されている。本研究の対象者が全て理学療法士であったことから棘下筋を収縮させるイメージの能力が高く、外旋exが正確にできていたことから、触覚・視覚刺激を与えても筋活動、最大筋力の向上が認められなかったのではないかと考える。今後は触覚・視覚刺激だけでなく、効果的な外旋exの方法を検討していきたいと考える。 【倫理的配慮】【倫理的配慮】 本研究は当院倫理審査委員会の承認後(承認番号:50710)、対象者に主旨を説明し書面にて同意を得た。

  • 井ノ上 修一, 若松 康子
    セッションID: O19-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 神経系モビライゼーションは神経系の運動性 (滑走性や伸張性)障害 (以下neurodynamic障害)を対象とする徒手的理学療法技術であり、neurodynamic障害は関節運動にも影響を及ぼす。本研究の目的は、肩関節運動 (屈曲・伸展など)障害例の中から神経系モビライゼーションが効果を示した例を抽出し、その傾向や特徴ついて調査・検討することである。 【方法】 令和6年1月から同年2月の2か月の間、当施設を受診し、非外傷性肩関節運動障害を訴えた症例 (実数)15名 (年齢74.67±12.09歳、男性5名、女10名)の中から、一般的な解剖生理運動学に基づくアプローチ (例えば、肩峰下インピンジメントに対する肩峰下関節の開大や、glenohumeral rhythm障害に対する腱板機能訓練など)では効果がなく、神経系モビライゼーションで効果を示した者をneurodynamic障害群 (6名)とし、それ以外を対象群 (9名)として両群間で比較検討した。neurodynamic障害群に効果的であった神経系モビライゼーション技術は、神経系に隣接する界面組織との滑走不全改善に対するものが主で、頚椎椎間孔開大操作が2名、斜角筋群リリースが3名、小胸筋リリースが1名であった。 【結果】 neurodynamic障害群 / 対象群の順に記す。 (1)年齢:71.00±11.33歳 /77.11±12.59歳 (ns)。 (2)性別:男性1名、女性5名 / 男性4名、女性5名。 (3)障害運動方向 (複数回答あり):①屈曲 (挙上)3名/7名、②外転0名/1名、③結髪動作0名/1名、④結帯動作1名/1名、⑤ 水平内転2名/0名、⑥水平外転2名/0名と、neurodynamic障害群は水平内転・外転方向、対象群は屈曲 (挙上)方向の運動が障害される傾向がみられた。 (4) 症状 (疼痛)部位 (複数回答あり):①肩峰下0名/3名、②結節間溝0名/2名、③烏口突起0名/2名、④小円筋0名/3名、⑤肩前面1名/0名、⑥肩後面2名/0名、⑦肩側面1名/0名、⑧上肢・上腕全体2名/0名と、neurodynamic障害群は、指先で示すことができるようなはっきりとした疼痛部位を示すのではなく、“なんだがこの辺り (肩の前面、後面など)”といったような手掌全体で示すような漠然とした部位を訴える傾向がみられた。また、neurodynamic障害6名のうち5例が上肢神経動力学検査1 (upper limb neurodynamic test1:ULNT1)で陽性を示し、神経系モビライゼーション試行後は陰性化した。 【考察・まとめ】 神経系は、その機能であるインパルス伝導を行うと同時に、身体 (関節)運動に対して、物理的 (伸縮・滑走など)に適応している。関節運動障害を訴える症例に対し、一般的に理学療法士は、障害されている運動方向に関係する関節組織にアプローチすることが多い。今回の結果から、解剖運動学に基づくアプローチを試行して効果がない場合、神経系モビライゼーションも選択肢の1つとして考える必要もあると思われる。また、肩運動障害に対し神経系モビライゼーションが効果を示す傾向としては、 (1)水平内転・外転方向の運動障害が多い。 (2)指先で示すようなはっきりとした疼痛部位を示すことが少ない、ことが挙げられる。 【利益相反】 本研究における開示すべき利益相反はない。 【倫理的配慮】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行い、個人が特定できない情報のみを調査、分析した。

セッションロ述20 地域リハピリテーション3
  • 井手 翔太郎, 釜﨑 大志郎, 八谷 瑞紀, 大川 裕行, 藤原 和彦, 末永 拓也, 保坂 公大, 吉瀬 陽, 溝上 泰弘, 鎌田 實, ...
    セッションID: O20-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 歩行速度は,高齢者の健康状態を示すバイタルサインとされており,身体機能を簡便かつ包括的に評価できる。また,日常生活では横断歩道を青信号のうちに渡る際や時間内に目的地まで行く際など,歩行速度は日常生活を送るうえで重要な役割を持つ。近年,身体活動量が健康状態に影響するとの報告が増えており,2023年には厚労省から『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』も発表されている。これらの背景から,我々は歩行速度にも身体活動量が関与するとの仮説を立てた。そこで本研究の目的は,地域在住高齢者の歩行速度と身体活動量の関係を検討することとした。本研究結果が明らかになることで,地域在住高齢者の歩行能力を維持および向上させる理学療法の一助になると考える。 【対象と方法】 対象は,体力測定会に参加した地域在住中高年者とした。除外基準は64歳以下の者,認知機能の低下を認めた者,欠損値を有した者とした。基本情報として性別,年齢を記録し,身長,体重, (BMI),skeletal muscle mass index (SMI)を測定した。身体活動量の評価は,国際標準化身体活動質問票 international physical activity question-naire (IPAQ)で評価した。また,歩行速度の評価に加えて,握力,開眼片脚立ち時間,30-second chair stand test (CS-30),mini mental state examination (MMSE)を評価した。統計解析は,まず歩行速度を従属変数,中等度および強度の高い身体活動日数,中等度および強度の高い身体活動時間を独立変数とした重回帰分析 (Model 1)を実施した。次に,共変量と考えられる変数を投入して交絡の調整を図ったモデル (Model 2)を作成し,歩行速度と身体活動量の関係性を検討した。 【結果】 分析対象者は,除外基準に該当した4名を除く地域在住高齢者80名 (75±5歳,女性73%)であった。共変量を投入した重回帰分析 (Model 2)の結果,歩行速度には中等度の身体活動日数 (標準化係数β=0.22,p=0.046),強度の高い身体活動日数 (標準化係数β=0.42,p=0.006),が関係することが明らかになった。 【考察】 本研究の結果,歩行速度には身体活動日数が関係することが明らかになった。先行研究において,身体活動を行う日数が多いほどバランス能力や握力が改善するとの報告がある。この先行研究は,身体活動日数が歩行速度と関係することを明らかにした本研究結果を支持する。興味深いことに,身体活動日数は歩行速度に関係したが,1回あたりの身体活動時間は歩行速度に関係しなかった。短時間の運動を数多くすることで下肢筋力や歩行速度が改善したとの報告があることからも,1回あたりの身体活動時間の長さよりも身体活動日数を増やすことが歩行速度を維持・向上させることにおいて有用である可能性が示唆された。 【結論】 地域在住高齢者の歩行速度には,身体活動日数が関係することが明らかになった。歩行速度の維持・向上には身体活動時間よりも身体活動日数へのアプローチが必要である可能性が示唆された。 【倫理的配慮】対象者には,研究の趣旨と内容について説明し,理解を得たうえで協力を求めた。本研究への参加は自由意志であり,拒否し

  • 藤村 諭史, 田中 真一, 八谷 瑞紀, 久保 温子, 大川 裕行, 坂本 飛鳥, 溝田 勝彦, 古後 晴基, 澤田 誠, 末永 拓也, 釜 ...
    セッションID: O20-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】骨格筋指数 (skeletal muscle mass index:SMI)は,骨格筋量の評価値として用いられる。骨格筋量の維持には,食事から蛋白質やエネルギーなどの栄養素を摂取することが必要不可欠である。現代社会では,朝食を抜く人が増加しており,糖尿病や肥満の発生リスクを高めることも明らかにされている。また,朝食を抜くと1日の蛋白質とエネルギー摂取量が減少することが明らかとなっている。したがって,我々は朝食の摂取が骨格筋量に関係するという仮説を立てた。そこで本研究の目的は,朝食摂取の有無とSMIの関係性を検討することとした。本研究結果は,地域在住健康成人の骨格筋量減少の予防や維持に貢献すると考える。 【方法】対象は地域で実施した体力測定会への参加者とした。除外基準は,痛みや麻痺を有する者,データに欠損がある者とした。基本情報として性別と年齢を聴取し,身長,体重,body mass index,SMIを測定した。身体機能は,最大歩行速度,握力,5回椅子立ち座りテスト,timed up and go test,閉眼片脚立ち時間を測定した。また,朝食摂取と運動習慣の有無を調査し,mini-mental state examinationを評価した。統計処理は,分析対象者を朝食摂取群と朝食非摂取群の2群に分けて各測定項目を比較した。次にSMIと朝食摂取の有無の関係性を一般化線形モデルで検討した。なお,統計学的有意水準は5%とした。 【結果】分析対象者は,体力測定会への参加者51名 (57±15歳,女性55%)であった。なお,除外基準に該当する者はいなかった。朝食摂取の有無別に各測定項目を比較した結果,朝食摂取群は朝食非摂取群と比較して,SMIが有意に高値を示した (p=0.020,ES=0.83)。一般化線形モデルの結果,SMIには朝食摂取の有無 (参照:有)が関係することが明らかになった (標準化係数β:-0.34,p=0.020)。共変量で交絡を調整したモデルの結果もSMIには朝食摂取の有無が関係することが明らかになった (標準化係数β:-0.25,p=0.049)。 【考察】本研究は,朝食摂取の有無とSMIの関係性を検討した。その結果,SMIには朝食摂取の有無が有意に関係することが明らかになった。朝食を摂取することで,1日の蛋白質やエネルギー摂取量が増加する。これによって,筋量の維持や増加に必要な栄養素が枯渇しない生体内環境が整うと推察する。また,朝食を摂取することでエネルギーが補給されることにより日中の活動が活発になるとの報告がある。このように朝食の摂取は,様々な側面から骨格筋量と密接に関係する。一方で,朝食を摂取しないことで,昼食や夕食後の血糖値が上昇しやすく,血糖コントロールが悪化する。血糖値不良により高血糖状態に陥ると,蛋白質が分解され骨格筋量が減少する。本研究では血糖値の測定を行っていない為,推測の域に過ぎないが,健康な成人であっても生体内で血糖値の上昇が起こり,SMIに何らかの影響を与えた可能性がある。 【結論】本研究の結果,SMIには朝食摂取の有無が関係することが明らかになった。朝食を摂取することは地域在住健康成人者の骨格筋量の維持や増加に寄与する可能性が示唆された。 【倫理的配慮】対象者には,研究の内容を十分に説明し,同意を得て測定を実施した。本研究への参加は任意とし,同意が得られない場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は,西九州大学倫理審査委員会の承認を得てから実施した。

  • 酒井 祥平
    セッションID: O20-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに,目的】 高齢者にとって,健康増進や介護予防のためには習慣的な運動は必要不可欠である.厚生労働省の調査では,運動習慣のある65歳以上の男性は41.9%,女性は33.9%とされ,運動習慣者の増加を目標に,健康日本21(第三次)では目標値を50%としている.加齢に伴う心身機能の変化は多岐にわたるが,高齢者の生活機能を包括的に評価し,運動習慣に影響する因子についての報告は少ない.基本チェックリスト (以下,KCL)は,運動機能,認知機能,抑うつなど高齢者の生活機能を包括的・多面的に評価することが可能である.本研究では,地域在住高齢者の運動習慣とKCLの各項目の関連性を明らかにし,運動習慣に影響する因子について検討することを目的とした. 【方法】 対象は,65歳以上の地域在住高齢者153名 (平均80.6±5.7歳,男性28名,女性125名)とした.調査項目は,基本属性 (年齢,性別,BMI),KCL,運動習慣とした.KCLは厚生労働省が示す各領域の選定基準に従って,運動機能の5項目のうち3項目以上に該当した場合を運動機能低下.栄養の2項目とも該当した場合を低栄養.口腔機能の3項目のうち2項目以上に該当した場合を口腔機能低下.閉じこもりでは「週1回以上外出していますか (いいえ)」に該当すると閉じこもり.認知機能の3項目のうち1項目以上に該当した場合を認知機能低下.うつの5項目のうち2項目以上に該当した場合を抑うつとした.運動習慣は国民健康・栄養調査の定義に準拠し,「1 回 30 分以上の運動を週 2 回以上実施し,1 年以上継続している」の条件を満たした者を運動習慣有り,該当しない者は全て運動習慣無しに分類した.統計解析は運動習慣有りと運動習慣無しの2群に分け,2群の傾向を確認するために,Mann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定およびFisherの正確検定を実施した.次に,運動習慣に影響するKCLの項目を検討するために,運動習慣の有無を従属変数,KCLの下位項目である運動機能低下,低栄養,口腔機能低下,閉じこもり,認知機能低下,抑うつを独立変数とした強制投入法によるロジスティック回帰分析を行った.有意水準は5%とした. 【結果】 運動習慣有りの者は92名 (平均80.2±5.3歳,男性17名,女性75名),運動習慣無しの者は61名 (平均81.3±5.5歳,男性11名,女性50名)であり,基本属性に有意差は認められなかった.KCLの項目において,運動習慣無しの者は運動習慣有りの者と比較して,抑うつ該当者の割合が有意に多かった (p<0.01).その他の項目において有意差は認められなかった.ロジスティック回帰分析の結果,抑うつが運動習慣無しと関連する因子として抽出された (オッズ比2.80,95%CI:1.27-6.14,p<0.05). 【考察】 本研究では,KCLの項目のうち抑うつのみが地域在住高齢者の運動習慣と関連する因子であることが明らかとなった.抑うつの者は運動時間が少なく,日頃運動をしていない者が多いと報告され,抑うつは高齢者の習慣的な運動を阻害する因子であることが示唆された.また,抑うつの者は趣味・ボランティア活動や老人会などの社会参加が少ないとされている.これらの報告と本研究結果からみると,抑うつ傾向の高齢者は様々な社会的活動への参加が乏しく,生活習慣や活動状況を評価して,運動への習慣化を促すことが重要だと考える. 【倫理的配慮】対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い,本研究の主旨及び目的について口頭もしくは書面にて説明し,同意を得ている.

  • 西山 裕太, 佐熊 晃太, 永江 槙一, 長谷川 隆史
    セッションID: O20-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】近年,フレイル予防の観点から社会参加が重要視されているが,坂道や階段といった環境要因により外出を阻害されることがある。藤本らは斜面地に住む者では生活必需外出,社会参加外出ともに減少することを報告している。日本は斜面地が多いという特徴を有しており,特に長崎市の斜面市街地は全市街地面積の43%を占めている。身体機能の維持を図る上で外出は重要な要素であり,外出が身体機能に与える影響を検討するには地形条件も考慮する必要がある。地形条件を検討する上で,傾斜を指標とした報告が散見されるが,算出方法が繁雑である。しかし,標高は国土地理院の地理院地図 (電子国土WEB)を用いれば簡易に調べることができる。そこで今回,標高が身体機能に及ぼす影響について,外出状況も加味して検討することとした。 【対象】 対象はA市の高齢者サロンで行った体力測定に参加し,アンケートへの回答を得た84名である。男性14名,女性70名で平均年齢は77.9±6.1歳である。 【方法】 身体機能評価は,握力,片脚立位保持時間 (以下,片脚立位),5回立ち上がりテスト (以下,SS-5),Timed Up and Goテスト (以下,TUG)の4項目とした。4項目との2回ずつ測定し,最大値 (SS-5,TUGは最小値)を採用した。社会的因子に関するアンケートでは,居住地の住所,1週間あたりの外出頻度,外出目的,入院歴を聴取した。住所,国土地理院の標高マップを用いて居住地の標高は算出した。統計解析は外出頻度を従属変数,標高を独立変数として単回帰分析を行い,地形条件が外出に及ぼす影響を検討した。また,各身体機能評価 (握力,片脚立位,SS-5,TUG)を従属変数,年齢,居住地の標高,外出頻度を独立変数とした重回帰分析を行い,社会的因子が身体機能に及ぼす影響を検討した。統計解析ソフトはSPSS version22.0を使用し,有意水準は5%とした。 【結果】 標高が外出頻度に与える影響について,単回帰分析を行ったと ころ有意差は認められなかった (P=0.80)。次に外出頻度,年齢, 居住地の標高を独立変数,各身体機能評価を従属変数とした重 回帰分析を行った。握力を従属変数とした場合はP=0.299,片 脚立位はP=0.091,SS-5はP=0.061,TUGはP<0.05で,TUGに おいて有意差を認めた。標準化係数は年齢:0.252,標高: -0.148,外出頻度:-0.173であった。 【考察】 重回帰分析の結果,年齢,標高,外出頻度はTUGに影響を及ぼしていることが明らかとなった。しかし,標準化係数は年齢が最も高く,今回の回帰モデルからTUGへの影響として「加齢による身体機能の低下」が大きいと考えられた。また,単回帰分析の結果,標高が外出頻度に影響しておらず,先行研究とは異なる結果が得られた。そこで,外出手段について追加検討を行ったところ,対象者の約7割が外出時に車もしくはバイクを使用していた。居住地の標高から,外出時に歩行量が増加すると予測されていたが,実際の歩行量は少なく地形条件が身体機能に与える影響を反映できていないと考えられた。A市の一部では,「歩こう会」という活動も広がっており,歩行機会の獲得を図る上で有効と思われる。フレイル予防の観点から外出の重要性は周知の事となりつつあるが,外出促進を図る上で外出手段にも着目することが必要であると考えられた。 【倫理的配慮】本研究は医療法人和仁会和仁会病院の倫理委員会にて承認を受け,実施した (承認番号20230801)。なお全例,研究参加への同意書に署名を得ている。

セッション症例検討1 神経系
  • 吉澤 穰
    セッションID: CS1-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】Brown-Sequard Syndrome (以下BSS)は,脊髄半側の障害により,障害側同側の運動麻痺や対側の温痛覚障害を認める不全脊髄損傷の一種である.また不全脊髄損傷は,運動・感覚機能の不完全な残存から正確な評価と適切な目標設定が重要だが,当院では,症例数の少なさから各個人手探りで予後予測を立てている現状である.今回外傷性第2頸髄損傷からBSSを呈した症例に対して,様々な理学療法の展開と装具療法の介入に より歩行自立へ至ったため経過を報告する. 【症例紹介】80代女性,変形性腰椎症の既往歴あり,病前の生活自立.転落による軸椎脱臼骨折・第2頸髄損傷 (X日)にて,損傷髄節以下の右半身運動麻痺と左半身温痛覚障害 (改良Frankel B3)を呈し,X+52当院回復期リハビリテーション病棟へ転院となった. 【経過】X+53:改良Frankel C1,ASIA Impairment Scale(以下AIS)C,下肢筋力(以下LEMS)23点(Rt6・Lt17),下肢運動覚 Rt軽度鈍麻/Lt正常,Patellar Tendon Reflex (以下PTR)Rt-/Lt++,Trunk Control Test (以下TCT)12点,Walking Index for Spinal Cord InjuryⅡ(以下WISCIⅡ)0点.当院長下肢装具装着下の立位・歩行練習を開始(平均歩行距離350m)した.X+90:LEMS30点(Rt11・Lt19),下肢運動覚 Rt正常,PTR Rt+/Lt++,TCT61点,Berg Balance Scale (以下BBS)8点,WISCIⅡ5点.サイドケイン歩行は,Extension Thrust Pattern(以下ETP)から不安定性あり,段階的な膝立ち・静的立位バランス練習の追加と短下肢装具を選定した.X+120:LEMS39点(Rt16・Lt23),PTR Rt+++/Lt++,TCT74点,BBS24点,WISCIⅡ9点.作成したタマラック継手付プラスチック短下肢装具 (以下タマラック装具)歩行は,ETP改善したため,歩行器を使用して歩行量を増大 (平均歩行距離600m)した.また歩行の恐怖心と姿勢制御の遅延が残存したため,動的立位バランス練習や応用歩行練習を追加した.X+181:改良Frankel D2,AIS D,LEMS45点(Rt20・Lt25),PTR Rt+++/Lt++,TCT87点,BBS41点,WISCIⅡ15点.歩行器歩行は,病棟内自立,Q-cane歩行は,短距離自立(10m歩行34.3秒)となった.感覚(X+54→X+181)は,触覚61点→112点,痛覚64点→87点と痛覚鈍麻のみ残存した. 【考察】福田らは,頸髄損傷患者において受傷後1.7±1.8日で改良Frankel B3レベル (痛覚不全麻痺)なら80%が,歩行可能になったと報告している.本症例は,急性期からB3レベルでBSSから運動機能を有する部位が多く歩行可能 (X+90)となった.しかしサイドケイン歩行は,初期接地~立脚中期にETPを認め実用的ではなかった.今回タマラック装具の特徴である背屈遊動から初期接地時の安定した踵接地が得られたことで,腓腹筋の過剰収縮の軽減・下腿の前傾を引き出しETP改善に繋がったと考える.また井上らは,脊髄損傷患者の歩行能力を向上させる治療法において,課題特異性・運動量依存・皮質脊髄路による運動調節・実現可能性が重要と報告している.今回タマラック装具と歩行器を使用したことで,課題特異的かつ難易度の調整と運動量を担保した歩行練習が長期的に実施できた.そして姿勢制御の学習による随意運動の反復から内部モデルの更新が図れたことと中枢神経系への賦活も加わり,本症例は,歩行自立となったと考察する. 【検討事項】当院は,脊髄疾患に対するリハビリプロトコルはなく,理学療法また装具の各内容に個人差がある.本症例が,仮に貴院で入院した場合の理学療法・装具の各内容について検討して頂きたい. 【倫理的配慮】本発表は,ヘルシンキ宣言に基づき対象者に書面及び口頭にて発表の趣旨を説明し,同意を得た.

  • 江上 竣太, 松竹 陽平, 一ノ瀬 晴也, 河野 真司, 若菜 理, 貞松 篤
    セッションID: CS1-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    1) 社会医療法人天神会 介護老人保健施設こが21 通所リハビリテーション 2) 社会医療法人天神会 介護老人保健施設こが21 施設長 3) 社会医療法人天神会 新古賀病院 リハビリテーション課 【目的】脳卒中患者の約半数は反張膝での歩行を呈していると報告されている。反張膝での歩行を継続することは、歩行能力低下を来たすために改善が必要である。脳卒中の機能回復過程が維持期となった場合でも、訓練を継続することで麻痺側の機能が向上すると報告もあるため、維持期においての理学療法場面でも介入することは重要である。今回、脳卒中維持期の歩行中の麻痺側立脚期に体幹前傾と反張膝を呈した症例に対して、訓練時の環境調整の下で歩行訓練を反復したことにより、膝関節伸展筋群、体幹機能が向上し、体幹前傾と反張膝を軽減できたため報告する。 【症例紹介】70歳の男性、BMI;27.0㎏/m²。左被殻出血発症半年後に通所リハビリテーション(以下;通所リハ)利用開始(X日)。通所リハ利用開始時の生活状況は、車椅子での生活となっており座って過ごすことが多い状態であった。初期評価では、MMT(R/L)体幹屈曲1、体幹回旋1/1、股屈曲1/4、膝伸展2/4、膝屈曲2/4、足背屈1/4、Functional Assessment for Control of Trunk(以下;FACT)8/20、Functional Balance Scale(以下;FBS)25/56、FIM72/126(運動項目37、認知項目35)であった。歩行形態はAFO、4点杖を使用して腋窩中等度介助を要し、麻痺側立脚期中期に体幹前傾と反張膝を呈していた。本人のHopeは、自宅のトイレまで(約10m)歩いていくことであり、それに伴いNeedを体幹機能と麻痺側機能の向上とした。 【経過】歩行訓練の際の体幹前傾と反張膝に対して、通所リハ利用開始から58日間はKAFO装着下後方介助での歩行訓練を実施していた。しかし、麻痺側への荷重誘導に難渋し歩行時の反張膝は改善しなかった。そこで、KAFO装着下で平行棒手掌支持での歩行訓練を実施したところ、麻痺側への荷重を誘導しやすかったことから、X+58日よりKAFO装着下で平行棒手掌支持による歩行訓練を実施した。さらに、AFO装着下で平行棒手掌支持による歩行訓練も同時に開始し、2週間の期間を経て麻痺側立脚期に膝関節伸展筋力向上を認めたため徐々にAFOへカットダウンを図った。さらに、X+62日よりAFO、Side Caneによる歩行訓練、X+69日よりAFO、4点杖による歩行訓練を実施した。なお、平行棒と杖の高さは体幹前傾が出現しないように調整した。X+62日には歩行時の麻痺側立脚中期の体幹前傾と反張膝が軽減した。さらに、最終評価(X+103~105日)ではMMT(R/L)体幹屈曲2、体幹回旋2股屈曲2/5、膝伸展4/5、膝屈曲2/5、足背屈1/5、FACT12/20、FBS33/56(FACT、FBSでは特に上肢リーチや体幹回旋などの内乱刺激に対する動的バランスの項目で点数が伸びていた)、FIM82/126(運動項目47、認知項目35)、歩行時の体幹前傾と反張膝が軽減しAFO、4点杖歩行監視レベルとなった。 【考察】脳卒中で歩行時に反張膝を呈する症例で、機能回復過程が維持期になった場合でも歩行訓練時の装具療法や支持物の高さ調整による歩行環境調整を行うことで体幹前傾と反張膝軽減が得られた。要因として、体幹正中位保持能力向上、麻痺側膝関節伸展筋力向上により、麻痺側立脚期の体幹前傾が軽減し、膝関節伸展モーメントが小さくなり反張膝軽減に繋がったと考える。随意運動が難しい状態であっても、立位動作や歩行動作といった環境でトレーニングを実施することで、随意運動では得られない膝関節伸展筋活動が得られると報告されており、歩行環境を調整した中での訓練が体幹前傾と反張膝軽減に繋がったと考える。 【検討事項】 ・歩行獲得に向けて歩行訓練を中心に実施したが、他にすべき訓練はあったのか。 ・今回の環境調整 (支持物の高さ、装具療法)以外に環境調整すべきことがあったのか。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき発表に関する内容説明を実施し、同意を得た。

  • 永田 晃一
    セッションID: CS1-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに・目的】 今回、療養病棟に入院されているADL・FIMが全介助レベルで仙骨部に褥瘡がある症例を担当した。褥瘡改善について当院では、体位変換や離床を実施しているが難渋している状態であった。2023年より、持ち上げない・抱え上げない・引きずらないといったノーリフティングケアを導入した。ノーリフティングケアではスライディングシート(以下SS)やスライディンググローブ(以下SG)による介入を開始した。その結果、本症例の褥瘡改善が図れ、SSやSGの有用性がみられたため、以下に報告する。 【症例紹介】 60代男性、主病名:外傷性硬膜下血腫。 既往歴:心筋梗塞・高血圧・糖尿病・慢性腎不全・貧血などあり。 JCS=200、Functional Independence Measure:18点にて全介助レベル。 ノーリフティングケア介入前はDESIGN-R:32点と仙骨部に褥瘡を認める結果であった。 【方法】 体位変換時にSSとSGを使用し除圧を各時間にて実施し、体位交換表にチェックを入れる形にて、褥瘡軽減を図った。また、移乗時はリフトを使用するなど、ベッド上での摩擦を減少させる取り組みを積極的に実施した。ノーリフティングケア介入前の3ヶ月間と、介入後の3ヶ月間で褥瘡治癒経過の変化を検証した。 【経過】 入院時から現在まで、体重(61.0㎏〜62.3㎏)・TP(6.7〜7.3)・Alb(3.1〜3.7) と、ほぼ変動なし。介入後1ヶ月目より浸出液・ポケットの大きさは徐々に改善し、その後炎症/感染・ポケットは消失した。処置2回/1日(イソジンシュガー)でスタートし、ノーリフティングケア実施時に1回/1日(アクトシン軟膏)に変更後、治癒課程は順調となった。体位交換時間はノーリフティングケア実施前と実施後では時間変化はなく経過していた。 DESIGN-R:ノーリフティングケア介入前 (3カ月の平均点数±標準偏差)3ヶ月30.5±6.1点→介入後3ヶ月平均11.5±2.5点と改善した。 【考察】 本症例は、入院時は一般ベッド使用だったが褥瘡発症後にデブリートメント施行し、エアマットレスへ変更した。ポジショニング表と体位交換表を活用し2時間ごとに実施していたが、褥瘡の治癒が困難な状態であった。経管栄養時のポジショニングはファーラー位をとっており、経管栄養終了後も30~45度の姿勢をとることが多かった。久保らによると「頭側ギャッジアップすることで身体接触部位に圧力(皮膚表面にかかる垂直な力)とずれ力 (皮膚表面にかかる平行な力)が加わるため、褥瘡リスクを高める要因である」と報告があり、ノーリフティングケア実施中は特にSGでの除圧の徹底を図った。ベッド上での位置修正時は平面方向への力がかかり時間が経過すると皮膚組織の阻血性病変が進行してしまうため、SSを使用しさらに摩擦の軽減を図り、褥瘡へのアプローチを連携し実施した。リフトでの離床において、木之瀬らは「離床時間の拡大とともに褥瘡が改善する」と報告あり。そのため、リハビリテーションでは、リフトを使用し離床頻度の増加を図った。ポジショニング表の作成、2時間ごとの体位交換と併用しSSやSGを使用することで、褥瘡部位の悪化を軽減させ、適切な処置により症例が持つ自己治癒力を高めたと考える。 本症例の報告では、除圧に着目して褥瘡治癒経過の変化を検証したが、褥瘡発生・悪化の要因にはスキンケアや栄養管理・合併症といった様々なものが関係している。当院では、今後褥瘡ゼロを目標としているため、その事を念頭に置きスタッフが一丸となって取り組んでいきたい。 【倫理的配慮】症例、ご家族にはヘルシンキ宣言に則り発表に関する趣旨及びプライバシーの保護について口頭にて説明を行い、同意を得た。

セッション症例検討2 運動器陣害系
  •  ―体幹失調に着目して―
    松本 浩輝, 松竹 陽平, 濱野 秀太, 一ノ瀬 晴也, 若菜 理, 貞松 篤
    セッションID: CS2-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】後縦靭帯骨化症(以下;OPLL)とは、脊椎の後面を走行する後縦靭帯の骨化により、脊髄を圧迫することで脊髄症状が出現する原因不明の疾病である。圧迫性頚髄症症状では手足のしびれをはじめとして、巧緻運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害を呈する。さらには、体幹失調が出現する場合もある。今回、病状安定後も体幹失調が残存し、自宅生活範囲の狭小化により車椅子生活を強いられた症例を経験した。体幹筋の筋力訓練、下肢伸展筋・足底からの内在的フィードバック、移乗の反復練習を継続したことにより、体幹失調による側方動揺が軽減し、移乗動作が向上できたため報告する。 【症例紹介】74歳の男性。BMI:25.9㎏/㎡。10年前にOPLLを(C3~7 分節型)発症し、リハビリ目的で約半年間入院。退院後、要介護2の認定となり、週2回でのデイケア利用開始となった。一時的に独歩での歩行が可能であったが、転倒を繰り返しY年前より車椅子の生活となり、移乗動作自立困難に至った。 初期評価(X日)では、MMT(R/L)体幹屈曲2 両体幹回旋2 大腿四頭筋3/4 股関節伸展2/3 両股関節外転2であった。感覚機能は、表在覚が右足底8/10軽度鈍麻、深部覚が右足底9/10軽度鈍麻だった。失調検査として、躯幹失調試験(以下;TAT)が stageⅢ 、Romberg徴候陽性、JOA score6/20、Berg Balance Scale(以下;BBS)は33/56点、Functional Assessment for Control of Trunk(以下;FACT)は5/20点だった。移乗動作は、片腋窩,側方介助もしくは前方手引きによる軽~中等度介助を要した。Hopeはベッドサイドへのポータブルトイレへの移乗動作自立である。Hopeに基づき、Needsを体幹機能の向上とし、移乗動作自立を目標とした。 【経過】体幹失調による側方動揺に対し、X+4日より臥位、座位レベルでの腹筋群、脊柱起立筋群の等張性収縮を用いた運動、平行棒内で立位にてCKCを用いた右下肢荷重訓練を開始した。左優位の荷重バランスにより右下肢へ荷重が不十分であり、座位で右臀部へ荷重訓練を開始したところ、立位で右下肢への荷重の誘導が可能となった。X+11日より平行棒内で段差を使用し、片脚立位でCKCでの下肢伸展運動・足底からの内在的フィードバックを目的とした訓練を開始し継続した。その結果、X+18日に移乗動作の側方動揺が軽減され、腋窩に手を添える程度の軽介助で行うことができた。X+21日に平行棒内でフロントランジを行いステップ動作に対して介入を行った。最終評価(X+42日)では、MMT(R/L)体幹屈曲3、両体幹回旋3、大腿四頭筋4/4、TATがstageⅡ、Romberg試験陽性(動揺は軽減)、JOA score8/20、BBSは40/56、FACTは10/20へと改善あり。移乗動作は側方動揺が軽減したことにより、近位監視レベルまで向上した。 【考察】本症例は、体幹筋の筋力訓練、荷重訓練、下肢伸展筋群・足底からの内在的フィードバックを継続的に行うことで、体幹失調のうち側方動揺を軽減することができた可能性がある。理由として、筋収縮は筋力や筋長に関するフィードバックを行い、そして筋収縮により生じた運動は関節や身体の位置に関するフィードバックを生み出したことにより、側方動揺が軽減できたのではないかと考える。また、下肢伸展筋群・足底からの内在的フィードバックを行うことで体幹の動揺に対して姿勢制御が行えるようになるため、これらが体幹失調を軽減させ、移乗動作能力が向上したのではないかと考える。 【検討事項】移乗動作自立に向けて、体幹失調に着目したが体幹以外に全身的な評価・治療介入が必要であったか。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき発表に関する内容説明を実施し、同意を得た。

  • 小田 樹, 田中 健太, 松葉 萌, 藤吉 良平, 高橋 雅幸
    セッションID: CS2-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 今回、大腿骨骨幹部粉砕骨折に対して,Non-Contact Bridging (以下:NCB)を用いて手術施行した1症例を担当した.一般的なプロトコルとは異なった経過をたどり,術後2か月で遷延骨癒合不全を合併し,荷重時疼痛消失に難渋した症例を経験したため以下に報告する. 【症例紹介】 50代女性.仕事中に転倒し受傷.受傷3日後に手術施行.職業は冷蔵庫内での荷物運搬作業.既往歴は半月板損傷,高位脛骨骨切り術を挙げる.手術は,腸脛靭帯・外側広筋・外側軟部組織を侵襲し,大腿外側の中間広筋や外側広筋の付着部に近い場所にNCBプレートを固定した.術後,大腿外側部と内側ハムストリングス腱周囲に軽度の疼痛(NRS1)を認めた. 【経過】 一般的なプロトコルでは,術翌日からROMを開始し術後6週間から3分の1荷重,術後10週間から全荷重の流れとなるが,本症例は術後1ヶ月ニーブレイス固定,術後2週間よりROM開始となり,リハビリ時のみニーブレイス除去の許可を得た.また,術後6週間まで患肢免荷,その後10㎏から荷重開始となり,術後12週間から全荷重開始となるなど、R O Mと全荷重の開始時期に約2週間の遅れをとる形となった.荷重開始した術後6週間から全荷重までの期間において,大腿外側遠位部の腸脛靭帯からガーディ結節まで疼痛が出現し,全荷重開始後,大腿骨外側中央から遠位部まで疼痛(NRS5)が出現した.歩行は立脚期に骨盤挙上,右回旋.遊脚期では,骨盤下制,左回旋の代償が出現した.全荷重時期には可動域は獲得したものの,大腿四頭筋や大殿筋,内転筋の筋力低下を認めた.側臥位の股関節外転にて立脚期と同じく骨盤挙上,右回旋の代償が出現し大腿筋膜張筋の過剰な収縮が確認された.その後,筋力訓練やベッド上での運動にて代償動作が減少したものの,大腿外側中央から遠位部まで疼痛は残存した.そのため,超音波診断装置 (以下:エコー)を用いて,短軸・長軸方向から疼痛部の筋収縮・滑走性を観察したところ,健側と比較し筋繊維が粗く,収縮時の筋滑走障害,ワイヤーリングを大腿四頭筋が乗り越えながら収縮していることが確認された.また,荷重時疼痛とワイヤー部分の一致が確認できたため,エコーで確認しながらワイヤー部分の軟部組織を持ち上げ,さらに,冠状面の滑走を徒手的に誘導しセッティングさせたところ,筋滑走が改善し患者も主観的な筋発揮を感じた.これらの方法で大腿四頭筋の訓練を非荷重・荷重位で訓練を実施した結果,エコー検証後1か月で疼痛が消失した. 【考察】 筋力およびR O Mの改善,代償動作の軽減は認めたものの,立脚期の疼痛は残存する結果となった.エコー評価より,これらの疼痛はワイヤー部分での大腿四頭筋の筋滑走障害や摩耗が生じていたため筋発揮が阻害され骨折部の安定性が低下したと考えた.また,中間広筋は膝や大腿部の安定性に寄与し,内外側広筋によって,中間広筋の筋厚も変化するため,中間広筋の機能低下も要因の1つとして考えた.堀内らは,筋収縮による血管圧迫など2次的に生じた血流量減少で,エネルギーが枯渇する可能性があると述べており,本症例は,筋滑走障害による筋力低下と2次的な要因で疼痛が出現したと考えた.また,久保田らは整復位を保持し,骨折部の再建をして機能を維持し,骨折部の疼痛除去するために安定化は非常に重要となると述べている.本症例は荷重時に筋発揮が阻害され,剛性を失った状態で荷重をしたため骨癒合に影響し疼痛が生じていたと考えられた. 【検討事項】 その他、本症例のような筋滑走障害に対してどのようなアプローチがあるか 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には書面にて同意を得た.

  • 古賀 悠希, 福田 謙典
    セッションID: CS2-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 殿部痛および鼠径部痛は日常診療でよく遭遇する病態であるが、その鑑別は多岐にわたる。従来、殿部痛を呈する病態として坐骨神経の関与が周知されてきた。近年では運動器超音波の普及に伴い上殿神経を含めた末梢神経障害が注目されている。今回、股関節疾患に合併した上殿神経障害の2例を経験したため報告する。 【症例紹介】 症例1は46歳女性。職業は調理師であり、長時間立位での作業を行なっている。約2ヶ月前から誘因なく右股関節周囲の疼痛(NRS6/10)が出現し、前医にて寛骨臼形成不全を指摘され半年間加療受けるも症状改善せず当院紹介され、理学療法開始となる。単純X線では、寛骨臼形成不全を認めるが、関節症性変化は軽度であった。股関節可動域(右/左)は、屈曲120°/125°、伸展5°/10°、内転20°/20°、外転40°/40°、外旋30°/30°、内旋35°/35°であった。筋力 (右/左)は屈曲3/4、伸展3/4、外転3/4と低下を認め、右殿部に圧痛を強く認めた。なお、明らかな下肢神経脱落症状は認めなかった。右殿部の圧痛を超音波ガイド下に確認すると右大坐骨孔、梨状筋上孔に一致しており、カラードプラ法にて上殿動静脈が確認出来た。これらの所見より上殿神経障害が示唆されたことから整形外科医に同部への超音波ガイド注射を依頼したところ、疼痛は軽快した (NRS3/10)。 症例2は74歳女性。以前より変形性股関節症による疼痛を自覚していたが、新たに右殿部から外側の疼痛 (NRS8/10)が出現したため当院受診。単純X線では末期の変形性股関節症を認めた。股関節可動域 (右/左)は屈曲50°/75°、伸展−10°/−10°、内転0°/0°、外転10°/10°、外旋5°/5°、内旋0°/0°であった。筋力に関しては疼痛のため評価困難であった。圧痛は右殿部に認め、明らかな下肢神経脱落症状は認めなかった。症例1と同様に超音波ガイド下に圧痛点を確認すると、大坐骨孔、梨状筋上孔に一致しており、同部位への超音波ガイド下注射を依頼した。注射後は即時的に疼痛の軽減を認めた (NRS4/10)。 【経過】 2例ともに注射後より運動療法を追加した。運動療法では、梨状筋のリラクセーションおよび、上殿神経と梨状筋との組織間での剪断操作、梨状筋を頭尾側に滑走させることで梨状筋上孔を開大させた。 2例ともに理学療法開始1ヶ月で症状は消失し、その後症状の再燃は認めていない。 【考察】 上殿神経障害は梨状筋による絞扼が主な原因と考えられている(Diop M:Surg Radiol Anat,2002)。また、腰椎過前弯 (骨盤前傾)や股関節内旋位により梨状筋が伸張され、腸骨との間で上殿神経がlockされる病態も報告されている (de Jong PJ: J Neurol,1983)。さらに、Raskは上殿神経障害の特徴的な所見として、殿部痛、股関節外転筋力の低下、大坐骨切痕やや外側の圧痛点を3兆候として報告している (Muscle Nerve,1980)。本症例においても同様の理学所見を認めており、2例ともに股関節疾患を背景として、長時間の立位・座位による梨状筋への過負荷が引き金となり、上殿神経障害に起因する殿部痛が生じたと考えられた。 【結語】 股関節疾患に合併した上殿神経障害の2例を経験した。上殿神経障害の発生機序は様々であり、殿部痛の鑑別診断として、上殿神経障害を念頭に置く必要があると考える。 【倫理的配慮】症例に対し、個人情報とプライバシー保護に十分に配慮し、説明と同意を得たうえで実施している。

セッション症例検討3 内部障害系
  • 福島 真仁, 真玉 豪士, 橋田 竜騎, 松瀬 博夫
    セッションID: CS3-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】運動誘発性低酸素血症(exercise-induced desaturation:以下EID)を呈する症例に神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:以下NMES)、座位エルゴメータを実施し、同一負荷での呼吸困難軽減、座位保持獲得やADL介助量軽減を得たので報告する。 【症例紹介】60歳代男性。身長:174cm。体重:75.4㎏。BMI:24.9kg/m2。 診断名:顕微鏡的多発血管炎による間質性肺炎。 既往歴:陳旧性心筋梗塞(62歳時:経皮的冠動脈形成術)、脂質異常症。 喫煙歴:20本/日×43年。 服薬:スタチン錠、クロピドグレル錠、プレドニン錠(65mg)。 開始時評価:CRP:3.5mg/dL。Hb:16.6g/dL。PaO2:54.5Torr。PaCO2:33.5Torr。酸素療法:安静時鼻カニューラ5L、リハビリ中鼻カニューラ5L+酸素オープンフェイスマスク5-8L。初回リハビリ実施時(安静臥位時)SpO2:95%。呼吸数:23回/分。胸郭運動:下部胸郭背側優位に拡張性低下。聴診:左側全肺野にてfine crackles。咳嗽:乾性咳嗽。mMRCscale: 4。握力(Rt/Lt):29.1kg/29.7kg。NRADL(The Nagasaki University Respiratory ADL):12/100点。端座位のみでSpO290%まで低下、心拍数130-140bpmまで上昇、呼吸苦を認めた。 【経過】入院時よりエンドキサンパルス(500mg/m2)施行、プレドニン錠65mgの内服治療が開始され、病室にて入院後7日(以下X+〇日)理学療法開始。実施当初、端座位のみで呼吸苦の出現、SpO2低下をきたしており離床が困難であった。X+4日頃より背臥位にて両大腿にNMES実施し、端座位姿勢保持が獲得できたX+19日頃より修正Borg指数を基準に運動強度を調整しながら座位エルゴメータを理学療法プログラムに取り入れた。初期は10W、5分から開始し、最終的に20W、10分まで漸増した。6日/週の運動療法を実施し約2か月後、酸素療法:安静時鼻カニューラ1L、リハビリ中鼻カニューラ5L。mMRCscale:3。NRADL:29点。歩行器にて連続50m歩行可能。継続した加療目的にX+64日で近医転院。 【考察】開始時より姿勢変化のみで呼吸困難、SpO2の低下を示し、端座位持続も困難であった。呼吸理学療法に加えステロイド多量使用、ベッド上臥床による筋萎縮の惹起を防ぐため初期よりNMESを実施。また、運動耐容能改善のため、ベッドサイドにて座位エルゴメータを行った。最終的に同一負荷での酸素化の改善、著明な筋萎縮を認めずスムーズに歩行動作獲得ができた。間質性肺炎の急性増悪期においてNMESは筋萎縮を防ぐ役割として有用であり、下肢運動による筋組織の酸素利用能改善目的に座位エルゴメータを行うことは運動耐容能の改善に有用であると考えられる。 今後は症例を増やし、間質性肺炎の急性増悪期におけるNMESと有酸素運動を組み合わせた運動プログラムに関する検討が必要と考えられた。 【倫理的配慮】患者本人に同意を取り、本学の病院倫理員会にて承認を得た。

  • 牧 保乃花, 川崎 亘, 井関 裕道
    セッションID: CS3-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】心不全は増悪と寛解を繰り返しながら進行していく疾患であり,心不全増悪による入院は退院後6か月以内で27%,1年後は35%と高い(Tsutsui et al.2006).増悪因子に対する行動変容や適切なセルフモニタリングを行うことが出来れば,心不全増悪リスクや,再入院リスクが軽減し生活の質(QOL)の改善に繋がると考えられる.今回病識が乏しくセルフモニタリングが不十分であり喫煙・塩分過多により頻回に入退院を繰り返す患者に対し退院時指導を行ったため報告する. 【症例紹介】70歳男性で在宅サービス利用し独居.既往には慢性閉塞性肺疾患(COPD)あり喫煙本数は20本/日,食事では大量の調味料を使用しカップラーメンなども自宅に大量にあるとのこと.X-3日全身浮腫著明,両下肢冷感・チアノーゼ,体重増加を認めた.軽労作で息切れと経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)低下あり加療目的にてX日に入院.9か月間で慢性心不全増悪による入退院を5度繰り返しており前回の退院から25日後の入院となる.Mini-Mental State Examination(MMSE)は22点であった. 【経過】介入は5-6回/週,休憩時間込みの40-60分とし,歩行耐久性改善にむけ運動療法行うと同時にセルフモニタリング獲得・食生活改善にむけた退院時指導を継続して行った.前回退院時体重49.6kg,今回入院時体重66.7kg.心不全ステージ分類:ステージD NYHA分類:Ⅳ.心臓超音波検査にて左室拡張末期径(LVDd)67mm 左室収縮末期径 (LVDs)58mm 左室駆出率(EF)30% 肺動脈圧(PAPs)55mmHg 心胸郭比(CTR)69.1% 初期評価(X+16日)では最大歩行距離:30m (SpO2:96%→94% 収縮期血圧(sBP)90台→80台 最大心拍数(HRmax)92  Borg scale胸部/下肢:14/15)たばこはやめるつもりはないとの発言や早期退院希望も頻回に聞かれていた.退院時指導に関しては一目で分かるようイラストを用いて資料を作成したが関心・理解乏しく指導に難渋.そこで担当STへウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅲ)を依頼.結果より言語性IQ82・動作性IQ59・知覚統合IQ63・言語理解IQ93と図での説明よりも文章での説明の方が理解しやすいことが分かった.そのためセルフモニタリング項目や増悪徴候を文章でまとめ指導継続.最終評価時(X+40日)には6分間歩行試験(6MWT)163m  (SpO2:97%以上 sBP90台→110台 HRmax90 Borg scale胸部/下肢:11/13)介入時には自ら浮腫の確認や体重も測りに行こうとの発言もきかれ,売店での間食購入時には塩分表示を見ながら購入されるようになった. 【考察】セルフモニタリングの概念として自身の体調の変化を「自覚」・「測定」より把握し,その情報を自身で「解釈」する必要がある.それらの先行要因として「知識・技術・関心」が存在する(日本看護科学会誌2010).本症例は,先行要因の「知識・関心」が乏しく,その後の「自覚・測定・解釈」まで至っていないと考えた.まずは,知識をつけ関心を高めてもらうため疾患や本人の状態,危険因子や増悪徴候を説明し本人にもアウトプットしてもらう時間を設けた.継続に伴い徐々に自ら浮腫の確認や「体重を測りにいこう」との発言も聞かれた.だが,安静時の呼吸困難感が生じるまでは受診したくないとの発言も聞かれ,浮腫や体重増加が心不全増悪によるものなのかどうかを「解釈」することは困難であり課題の残る結果となった.退院後の往診時には,体重維持できており禁煙外来に行きたいとの希望があったとの記録もあり,今回の介入が再入院予防,入院日数短縮への一助になればと考える.また,在宅生活の中で,初期段階での増悪に気づくことを目的に在宅スタッフ誰もが一目で患者の現状を把握できるよう,心不全手帳やカレンダー等の導入も検討していきたい. 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿って個人情報を保護し本報告を口頭にて説明し同意を得た.

  • -自宅退院を達成した一症例-
    古賀 美紗紀, 藤田 政美, 益田 聖也
    セッションID: CS3-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】間質性肺疾患 (以下ILD) に対する呼吸リハビリテーション (以下呼吸リハ) の有効性は多く報告されているが、ILD急性増悪期や、膠原病に伴う間質性肺疾患 (以下CTD-ILD) 後の呼吸リハの報告は少ない。今回、CTD-ILD増悪の急性期から、自宅退院に向けて呼吸リハを実施した症例を担当し、日常生活活動 (Activities of Daily Living:以下ADL)の改善が得られたため報告する。 【症例紹介】70歳代男性で難治性の左肩関節痛にて整形外科に通院中であった。呼吸困難感が出現し肺炎の疑いでX-21日に入院となる。X-13日よりステロイドパルス療法を開始し、呼吸不全が悪化後に気管挿管を行い、人工呼吸器管理となった。X-7日に抜管し、肺病変先行型のリウマチ肺と診断された。 【初期評価】X~X+2日に行った。ROM-T肩関節屈曲右160°/左150°P+、MMT股関節屈曲右5/左4、握力右15.4kg/左13.5kg、FIM72点、NRADL30点、MMSE29点。 【理学療法および経過】X日からネーザルハイフローをFiO2 40%で呼吸リハ開始となる。初回のADLは食事がベッド上ギャッジアップで自己摂取しており、その他のADLは全介助であった。初回介入時はベッド上端座位2分でSpO2 86%まで低下したため、翌日よりFiO2 50%に増量して介入し、ベッド上端座位保持でSpO2 93%となる。X+4日に臥位でペダルエクササイズと起立練習を開始となる。 X+7日でネーザルハイフローからオキシマスク(労作時7L/分)に変更となる。X+15日に平行棒内歩行練習を開始し、X+21日に昼食をベッド上端座位で摂取可能となった。X+26日に歩行器歩行を開始しX+28日に身障者トイレまでの移動を歩行器見守りへと変更した。X+32日にトレッキングポールでの歩行練習を開始し、X+35日に自室から身障者トイレまでの移動を日中のみ歩行器自立へと変更した。X+39日に労作時6L/分へと減量となり、階段昇降練習を開始した。X+49日に床上動作を開始した。X+53日に入浴評価を実施し洗体動作自立レベルであった。X+54日に車の乗降練習を実施した。X+57日に院外練習を行い環境調整後、X+63日に在宅酸素療法(安静時1L/分、食事1L/分、労作時同調式6L/分)を導入し自宅退院となった。 【中間評価】X+35~36日に行った。ROM-T肩関節屈曲右160°/左160°、MMT股関節屈曲右5/左5、握力右20.6kg/左19.5kg、FIM73点、NRADL43点、MMSE29点。 【最終評価】X+61~62日に行った。ROM-T肩関節屈曲右160°/左160°、MMT股関節屈曲右5/左5、握力右25.2kg/左21.9kg、10m歩行テスト12.3秒、14歩、FIM 110点、NRADL53点、MMSE29点。 【考察】CTD-ILD増悪患者に対し、急性期からの運動療法とADLトレーニングを中心とした呼吸リハを実施した。結果として、FIMとNRADL値の改善が得られ、自宅退院が可能となった。間質性肺炎患者は、呼吸困難感や運動態耐容能の低下によりADLの遂行が困難になると示唆されており、運動療法を中心とした呼吸リハを実施すると、呼吸困難感や運動耐容能が改善すると報告されている。またADLトレーニングを中心とした呼吸リハは、向上させたい具体的な動作を直接的に実施することで、ADLが改善されると報告されている。 以上のことより、今回運動療法とADLトレーニングを中心とした呼吸リハを行うことで、FIMとNRADL値が改善し、結果として自宅退院が可能となったのではないかと考える。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に十分な説明を行い、同意を得た。

セッションポスター1 教育・管理運営
  • ―当院の自己評価シートを利用して―
    楠元 正順, 田崎 秀一郎
    セッションID: P1-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 臨床実習は、臨床実習指導者 (以下、指導者)の指導の下で、学生が学内教育では経験できない臨床場面での実践を通して、理学療法士に必要な態度、知識、技能を学ぶ重要な学外教育の機会となる。臨床実習は、指導者と学生との共同作業によって行われるため、学生がどこに成長を感じているかを共有することは、指導する上で重要である。当院では、チェックシートなどの養成校の評価用紙に加えて、我々が作成した臨床実習自己評価シート (以下、自己評価シート)を使用して、中間時と終了時に学生の自己評価を実施している。自己評価シートは、評価者の主体的な基準に基づくもので、成長したことと自己課題の2点について記載させるものである。本研究は、自己評価シートから臨床実習の中間時と終了時での学生の成長した内容を検討して、臨床実習における学生の自己評価を通して、学生が臨床実習を通してどのような点で成長を感じているかを明らかにすることを目的とした。 【方法】 対象は当院で総合臨床実習を行った理学療法士養成校13校の51名から、同一の指導者から指導を受け、かつ自己評価シートを使用して臨床実習の中間時と最終時に自己評価を行った30名 (男性20名、女性10名)を対象とした。自己評価シートは、学生が自己採点を行い、点数は成長したこと、自己課題の点数を合わせた合計100点満点とした。採点した点数の内容について最大5項目を挙げるように自由記載させた。記載内容は情意領域、認知領域、精神運動領域の3領域に分類を行い、内容全体に占める割合を算出した。今回は成長したことについて、中間時と終了時の比較し検討を行った。 【結果】 中間時は、情意領域43.3%、精神運動領域29.3%、認知領域15.3%であった。情意領域では「患者や職員にあいさつできる」や「ルールを守る」、認知領域では「患者について考えること」、精神運動領域では「患者とコミュニケーションが取れる」、「触診やオリエンテーションができる」などが挙がった。終了時は、情意領域36.0%、精神運動領域35.3%、認知領域22.7%であった。内容は情意領域では「相談・確認ができる」、「自己課題の達成ができる」、認知領域では「問題点を関連付けて考える」、精神運動領域では「患者の変化を捉える」、「患者に合わせた治療・評価ができる」などが挙がった。 【考察】 学生は、臨床実習で経験を重ねて、基本的な態度・行動、臨床思考・技能を養い、臨床能力を高めていく。その過程で学生が何を成長として捉えたかは臨床実習の成果として重要である。自己評価による成長したことの内容に占める3領域の割合は、中間時は情意領域が最も多く、次に精神運動領域、認知領域、終了時は、情意領域と精神運動領域は同等、次に認知領域の順であった。情意領域は中間時と終了時に比較すると減少していた。実習開始から中間時までは報告・連絡・相談、接遇といった基本的な態度・行動に学生が成長を感じていることが明らかになった。一方、精神運動領域と認知領域は、中間時よりも終了時に割合が増加していた。臨床場面での実践を重ね、臨床的な技能や思考が養うことで、学生は認知領域や精神運動領域の成長を感じることが推測された。今回の結果は、中間時と終了時で成長を感じる領域の割合が変化することを示唆している。指導者は学生の成長に応じた指導が必要であり、学生自身が自己評価を分析して成長を感じた領域、領域の変化を把握することは、段階に応じた個別的な指導のヒントになると考える。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき、倫理面の配慮において、当院における倫理委員会の承認を得た (承認番号:2018)。なお、利益相反に関する開示事項はない。

  • 岡田 大輔, 山田 浩二
    セッションID: P1-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 近年、リハビリテーション専門職の卒後研修制度としてレジデント制度を導入する病院が増加している。当院では、高度急性期のリハビリテーションを担う人材を育成することを目的に、2019年度より導入している。今回、導入の経緯から現在までの取り組みについて報告する。 【導入の経緯・目的】 リハビリテーションを必要とする患者の増加に対応し、高度急性期病院での臨床経験と教育の機会を提供するため、2019年にレジデント制度を立案した。 【当院のレジデント制度の特徴と取組み】 PT27名、OT10名、ST7名が在籍し、救急・集中治療を担当するチームと、5つの疾患別チーム (運動器・脳血管・心臓・呼吸器・廃用症候群)に分かれている。リハビリテーション依頼の約4割が救急・集中治療部門で出されているため、初年度は救急・集中治療を担当するチームに所属し、研修を行うことを基本としている。一方で、既卒生や大学院に通っている方など、専門性を高めたい場合は、希望に合わせて領域を選択することが可能である。PTだけでなく、OT・STもレジデントとして入職可能であり、研修期間は最長2年間としている。年間約8,000例の豊富な症例を経験することが可能で、経験年数10年以上のスタッフが約7割在籍しており、日常的に相談しやすい環境が整備されている。また、自己研鑽のための費用についても公費負担となっている。 【結果】 現在までに、PT6名、OT1名、ST2名を受け入れた。大学院生が3名であり、新卒者が6名であった。 【考察と課題】 レジデント制度は診療報酬改定への対策や、卒後教育の充実という点において有効な制度だと思われる。特に、新人理学療法士が多疾患併存な複雑な症例に対して自立して臨床実践を行うためには、豊富な疾患を経験できる急性期病院に導入することが必要と考える。しかし、採用条件や教育プログラムがレジデント施設によって異なっているのが現状であり、導入施設をさらに増やしていくためにはこれらの整備が必要だと考える。 【倫理的配慮】本報告は当院での取り組みを整理したものであり、倫理審査は不要である.

  • 兒玉 吏弘, 秋好 久美子, 井上 航平, 池田 千夏, 指宿 輝, 髙瀬 良太, 帆足 友希, 兒玉 慶司, 岩﨑 達也, 加来 信広
    セッションID: P1-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 早期離床は、重症患者の身体機能および精神機能の回復において重要な役割を果たし、近年では多職種連携による重要性が高まっている。しかしながら、異なる専門性を持つ医療スタッフ間の情報共有不足は、患者の安全を脅かすリスクを伴うため、適切なリスク管理が不可欠である。そこで、本研究では、医療安全の観点から早期離床に関するアンケート調査を実施し、看護部門とリハビリテーション部門 (以下:リハ部門)におけるリスク管理意識と早期離床の実践状況を比較検討した。さらに、6ヶ月後の追跡調査を通じて、勉強会開催前後における変化を分析し、多職種連携におけるリスク管理の重要性を検証した。 【目的】 看護部門とリハ部門における早期離床に関する認識や実践状況を明らかにすることで、多職種連携における医療安全とリスク管理の向上に寄与することを目的とする。 【方法 】 勉強会前と6ヶ月後に、医療スタッフ (心臓血管外科病棟看護師33名、心臓リハビリテーションに従事する医師1名・理学療法士3名・作業療法士2名)を対象にアンケートを実施した。アンケート項目は、日本集中治療教育研究会で行われたアンケート「ICUでのリハビリテーション」を基に、早期離床の内容やリスク管理に関する要因や配慮すべき点に焦点を当てた。アンケート結果は数値データとして収集し、比較・分析を行った。 【結果】 勉強会前に行ったアンケート結果からは、9割以上の一致項目は看護部門9.5%、リハ部門19.0%であり、勉強会後は看護部門23.8%、リハ部門52.3%まで上昇した。両部門とも、早期離床時の開始基準・中止基準に関する項目において、特に一致率が向上した。勉強会後は、病棟と協働して活動する機会が増加し、共通した早期離床開始・中止基準のプロトコールや離床進行表の作成に取り組むきっかけとなった。 【考察】 専門性や職務内容の差異が、早期離床に関する意識と実践に影響を与えている可能性が考えられる。リハ部門は、早期離床の促進に積極的な傾向が見られた。一方、看護部門はリスク管理に重点を置いた慎重な姿勢が見られた 。早期離床においては、専門性の異なるメンバーが協力して行うため、コミュニケーションの障壁や情報の非対称性が生じやすい。 これらの問題が無視されると、誤解や効果的なケアの遅延などが生じる可能性がある。しかしながら、今回の勉強会前後で医療安全とリスク管理への意識が高まったことで、早期離床の取り組みにおいて、共通の認識をもった関わりが行えていることが示唆された。また、介入の開始基準と中止基準の明確化が、医療安全とリスク軽減の両面において寄与するものと考えられた。 【結語】 早期離床におけるリスク管理を強化するためには、部門間の連携強化と共通認識の構築が不可欠である。これにより、患者の安全と早期離床の実践がより円滑に進むことが期待される。 【倫理的配慮】本研究を行うにあたり、ヘルシンキ宣言に基づき事前に対象者から同意を得た。

  • 早川 亜津子, 山口 純平, 髙尾 尊身
    p. 301-
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【活動目的】 近年、「仕事は暮らしを支え生きがいや喜びをもたらすと同時に家事・育児等の生活も暮らしには欠かすことはできないものであり、その充実があってこそ人生の生きがい、喜びは倍増する」と厚生労働省の仕事と生活の調和 (ワークライフバランス)の憲章で謳われてきた。理学療法士として患者と接しやりがいを感じ、理学療法士が生きがいとなっている療法士を多く見受ける。しかし、ワークライフバランスの破綻から身体の不調を来す療法士も少なからず存在するのが現状である。 当院回復期リハビリテーション病棟 (以下、回リハ病棟)に従事する療法士には、3つの勤務形態 (早番・遅番・通常勤務)がある。特に早番勤務での療法士には早番勤務実施後のサービス残業や業務終了間際の業務支援、遅番勤務の療法士は休憩時間確保が喫緊の課題であった。そこで、まずは3つの勤務形態を当事者や他スタッフが再認識する必要があると考え、他院看護部が導入していた「勤務形態ごとにカラーマスクでわける」方法を当院回リハ病棟で2か月間試験的に取り入れた。カラーマスクを装着している当事者は心理的にポジティブラベリング効果、その他のスタッフは間接プライミング効果を利用することでどのような効果があり業務改善が行えたのか効果判定を行うことを目的とした。 【活動内容】 当院リハビリテーション室に在籍する全療法士 (41名、そのうち回リハ病棟従事者29名)を対象にカラーマスク試用期間前 (令和5年9月1日~10月31日)とカラーマスク試用期間 (令和5年11月1日~12月31日)での①早番、遅番、通常勤務ごとの平均退社時間、②カラーマスク導入費用、③早番、遅番、通常勤務ごとの平均取得単位数と件数の比較を行った。また、カラーマスクを試用したことによる変化や感じた点について無記名アンケートを実施した。 【活動経過】 結果として①平均退社時間は44~52分早くなり、②導入費用は通常マスクとカラーマスクの金額差 (477円/箱)はなかった。③平均取得単位数/件数は16.4/8.0→15.1/8.1となった。単位数としては1.3単位 (約20分)の減少がみられるものの退社時間は20分以上早くなった。 アンケート結果では、全スタッフの92%がカラーマスク試験導入を把握し、カラーマスクを導入することで73%のスタッフが他スタッフの勤務時間を配慮し、63%のスタッフが定時退社がしやすくなったと回答した。70%のスタッフがカラーマスクを本格導入することにより勤務しやすい職場になると回答した。しかし、遅番勤務の休憩時間の確保については半数以上のスタッフが確保できていないことが解った。 【考察】 今回、カラーマスクを試験導入した結果、カラーマスク装着している当事者は自身へのポジティブラベリング効果により定時退社がしやすくなり、周りのスタッフは一目で勤務形態が解る間接プライミング効果により、勤務時間終了間際の業務依頼をすることが減少する配慮ができた。定時退社がしやすい組織風土はワークライフバランスの構築には欠かせないものである。カラーマスクは導入費用がかからず、管理者にとってはすぐに実践できる「働き方改革のひとつ」である。しかし、本院での課題は遅番勤務での休憩時間の確保である。こちらについては重要課題として、問題点の抽出を行い改善していく。更に本格導入の際には、回リハ病棟全職員ひいては本院全体への周知徹底が必須である。 【倫理的配慮】倫理審査番号:第R5-17.令和6年3月26日

セッションポスター2 成人中枢神経
  • 三牧 遼平, 松本 拓馬, 中村 満史, 野中 亮平
    セッションID: P2-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】小脳性運動失調による失調性歩行は歩行障害を呈し、歩行補助具や人による介助が必要となるケースがある。また、体幹失調により四肢の協調運動能力が低下するという報告もあり、体幹失調が立位バランスや歩行能力に影響を与えると考えられる。今回,左小脳出血による重度の体幹失調などの影響で歩行重度介助レベルとなっている患者に対し、種々の治療介入を行ったが、歩行能力向上に難渋した。そこで、体幹機能に着目し練習メニューの変更や歩行手段の検討を行い結果的に歩行動作自立となり自宅復帰に至った症例について報告する。 【症例紹介】症例は70代男性。診断名は左小脳出血で、発症日に開頭血腫除去術を施行され、31病日目に当院に転院。既往歴として右MCA脳動脈瘤クリッピング術。入院前のADL、IADLは、ともに自立。入院時の基本動作は物的把持にて見守り~軽介助、屋内外車椅子移動介助レベル。初期評価(31,32病日目)では、MMT(Rt/Lt)は股関節屈曲5/3、股関節外転4/3、膝関節伸展4/4、足関節底屈4/3。感覚検査(Rt/Lt)では表在感覚(10/7),深部感覚は正常。ロンベルグ試験は陰性。FBSは18点、SARAは22点。10m歩行(歩行車)では通常速度24,1秒、最大速度12,6秒。FIMは運動項目46点で認知項目27点。HDS-Rは24点。治療経過中に体幹機能評価としてFACTを追加し13点であった。介入時間はPT60分/7回/週とし、1)筋力増強、2)感覚トレーニング、3)基本動作練習、4)歩行練習を実施。 【経過】介入初期では重錘負荷や弾性緊縛帯を使用し臥位や座位、物的把持下での練習を中心に実施。その後、動的動作時に体幹動揺を強く認めたため、徐々に起立練習やフロントランジを追加した。歩行練習では姿勢矯正鏡などを用いて視覚フィードバックを利用し左下肢の支持性向上を図った。126病日目に表在感覚10/10、SARA13点、FBS37点であり、運動失調残存。また、歩行が歩行車を使用し見守りレベルであり、自立困難であったため、更なる評価としてFACTを追加。FACTは12点で動的体幹機能低下を認めたため、練習内容として5)立位バランス練習6)膝立ち位トレーニング7)四つ這いトレーニングを追加した。また、ADL能力や失調症状の軽減に伴い4)~7)のメニューを中心に合計100分/7回/週で実施。初期評価→最終評価の結果。MMTでは、股屈曲:外転(Rt/Lt)、(5→5/3→4):(4→4/3→4)、膝伸展(4→4/4→4)、足底屈(4→4/3→4)。膝踵試験(陰性/陽性)、表在感覚は10→10/7→10。ロンベルグ試験は陰性。FBSは18→46点、SARAは22→8点でFACTでは13→18点。歩行器を使用し10m歩行では通常速度24,1→9,8秒、最大速度12,6→6,1秒。独歩では通常速度9.0秒、最大速度7.4秒。FIMは運動項目46→72点で認知項目24→33点。HDS-Rは24→24点。最終評価時の移動手段は病棟内歩行器自立。自宅復帰後、屋内は歩行器もしくは、伝い歩き。屋外は歩行車、車椅子となった。 【考察】体幹には,中枢神経と臓器が存在し、運動については四肢間の運動連結やバランスに関して重要な役割を果たしている。と藤本らに報告されており、立位バランス能力と歩行能力低下は体幹機能低下による原因が影響していると考えた。また、宮井らにより脊髄小脳変性症患者に対して、四つ這い姿勢や、膝立ち姿勢の保持などの四肢と体幹の協調運動練習、バランス練習、歩行練習を中心とした包括的な介入によりSARA、FIM、快適歩行速度の改善を認めたことを報告されている。これより、本症例も体幹機能に着目し5)~7)の練習を難易度調節など段階的に行うことで、体幹動揺減少、動的バランス能力が向上し、FBS、SARA、FACTの点数も上がったため、これらが歩行動作能力改善に寄与したと考える。 【倫理的配慮】 演題に関し世界医師会によるヘルシンキ宣言に則り対象者への説明と同意を得た。また、利益相反に関する開示事項はない。

  • 宮井 康太, 田中 勝人, 田中 健太, 巨瀬 拓也, 髙橋 雅幸, 今村 一郎, 釜﨑 大志郎, 大田尾 浩
    セッションID: P2-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】脳卒中片麻痺患者の日常生活活動 (activities of daily living:ADL)能力は,発症後1~3か月で顕著に改善する。したがって,脳卒中患者は急性期から回復期までシームレスなリハビリテーションを実施する。このような背景から,機能的自立度評価表の運動項目 (functional independence measure -motor:FIM-M)の点数を急性期入院時と回復期退院時で各項目別に比較し,改善の程度を調査する必要があると考えた。そこで本研究は,急性期病棟から回復期病棟まで経過を追うことが可能であった脳卒中片麻痺患者を対象に,急性期入院時のFIM-Mと回復期退院時のFIM-Mの改善の程度を明らかにすることを目的とした。本研究によって,脳卒中片麻痺患者におけるADL能力改善の特徴が示され,今後の脳卒中リハビリテーションに貢献すると考える。 【方法】本研究は単施設による前向き研究である。対象は,急性期病棟から回復期病棟まで継続してリハビリテーションを実施した脳卒中片麻痺患者とした。除外基準は,発症前のmodified rankin scale (mRS)が4点以上の者,発症後に意識障害を呈した者,テント下病変を有した者とした。FIM-Mは,急性期病棟入院後1週間以内に評価した。また,回復期病棟退院時にも評価を行った。統計解析は,初期評価時のFIM-Mと最終評価時のFIM-Mを符号付順位検定で比較した。また,効果量 (effect size:ES)を算出し改善の程度を確認した。 【結果】分析対象者は,脳卒中片麻痺患者40名[80 (71-86)歳,女性12名]であった。初期評価時のFIM-Mと最終評価時のFIM-Mを比較した。その結果,ESが中等度 (r = 0.3)以上であった項目は,整容,清拭,更衣 (上・下),トイレ動作,ベッド車椅子移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,歩行,階段,FIM-M合計であった。一方,食事,排尿,排便はESが中等度未満であった。 【考察】本研究は急性期病棟入院時と回復期病棟退院時のFIM-Mを縦断的に比較した。その結果,整容,清拭,更衣 (上・下),トイレ動作,ベッド車椅子移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,歩行,階段,FIM-M合計はESが中等度以上であった。この結果は,当院のリハビリテーションが脳卒中片麻痺患者のADL能力の改善にいくばくか貢献した結果であろう。一方,食事,排尿,排便においてはESが中等度未満であった。食事動作は主に上肢が担い,脳卒中片麻痺患者においては早期から自力遂行が可能である場合が多いとされている。本研究の分析対象者においても初期評価時に[5 (2-7)]点であった。この特徴が食事において,中等度以上のESを示さなかった要因であると推察する。排尿,排便には,加齢による認知機能の低下が影響するとの報告がある。分析対象者は[80 (71-86)歳]と高齢で,入院時のMMSEも[21 (10-26)]点であった。これらの影響で初期評価時から退院時までに改善が認められにくくESが低値であったと考える。改善が難しい排尿,排便は,スタッフとの協働による定時でのトイレ誘導や入院時から介護者への介助指導を行うことで円滑な退院支援につなげたい。 【結語】脳卒中片麻痺患者は,整容,清拭,更衣 (上・下),トイレ動作,ベッド車椅子移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,歩行,階段,FIM-M合計の改善の程度が中等度以上であることが明らかになった。一方で食事,排尿,排便の改善の程度は中等度未満であることが示された。 【倫理的配慮】対象者には本研究について紙面,および口頭にて十分に説明を行い,同意を得たうえで実施した。なお,研究への参加は自由意志であり,参加しなくても不利益にならないことを説明した。本研究は,発表者が所属する病院の倫理委員会の承認を受けてから実施した。

  • ~アシスト付き上肢エルゴメーターの効果と安全性~
    秋 達也, 植田 裕之
    セッションID: P2-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 回復期脳卒中患者の低栄養は急性転化や退棟時FIMの低下に影響を及ぼす為長期療養型病院への転院が多く、在宅復帰が少ないと言われている。また、回復期リハビリテーション (以下リハ)病棟入院中患者の43.5%が低栄養であると報告があり、低栄養患者に接する機会は少なくない。本症例は誤嚥リスクから経口摂取困難となり、他の栄養補給手段は、家族が希望されず抹消点滴のみとなった患者を担当し、栄養マネジメント及び負荷量設定に難渋した経過を示す。 【症例紹介】 90代男性で当院入院前14日に施設内にて麻痺認め、救急搬送され心原性脳塞栓症の診断受け急性期病院入院加療。当院入院7日前胸部CTにて胸水貯留あり。入院前食事状況は心臓食でトロミ付き、ムセなく1450kcal摂取。入院時体重40.6kg IBW56.3㎏ BMI15.9kg/m2 MNA-SF2点 SARC-F9点 GNRI70.27 HDS-R14点 藤島嚥下グレード8・レベル8 誤嚥性肺炎リスク評価 (井上式改定)8項目該当 TEE1320kcal SIAS:26点 (SIAS-m:2-1C-0-0-0)TCT24点 握力 右0.5㎏ 左10㎏ FIM25点であった。 【経過】 当院入院4日後、朝食時食思不振・発熱あり、誤嚥性肺炎疑われ、治療開始される (栄養:ポタコール100kcal+常食トロミ1450kcal)。翌日に嚥下機能低下あり、医師より絶食指示あり。その後、静脈栄養指示あり (栄養:ソルデム3A86kcal+ポタコール100kcal)。入院21日後、体重37.8㎏と更に低下、家族に今後の栄養摂取について説明行い検討して頂く。入院30日後、家族より今後の経管栄養、胃瘻の希望なく、静脈栄養継続となる (栄養:ビーフリード210kcal+ポタコール100kcal)。入院44日後、体重35.8㎏と低下進行、入院70日後、死亡退院となった。リハプログラムとして、入院当日から車椅子離床実施。長下肢装具装着し起立練習10回程度、10m程度歩行及び、ハッフィング等の呼吸器リハも実施 (約4METs)。入院6日後から絶食指示あり、負荷漸減。車椅子離床継続、起居・移乗・起立動作練習、呼吸器リハ継続 (約3.5METs)。入院21日後、さらに体重低下認め、車椅子離床活動に加えアシスト付き上肢エルゴメーター(以下アシストエルゴ)を10分程度 (約3METs)実施。最終評価としてGNRI62 藤島嚥下グレード2・レベル2 HDS-R4点 FIM20点 握力左5.8㎏ EQ-5D (33211)効用値0.279であった。 【考察】 一般的に飢餓や侵襲の異化期でも不要な安静は避け離床や低負荷のリハは進めていく必要があり、その際の負荷量として2-3METs程度の機能維持目的運動を短時間実施する事を目安とされている。本症例はGNRIから重度低栄養状態と判断し、回復期病院入院3週後より、今後の栄養改善を見込めない状態であった為、低負荷機能維持運動としてアシストエルゴを選択した。選択理由としてMETs2-3程度であること、離床活動であること、心肺機能に良好な影響がある事により選択した。また、上肢に限局した理由として、点滴刺入部が足部の為であった。アシストエルゴを3週間行った結果、介入中のバイタルサインは安定しており、重度低栄養状態でも安全にリハ実施可能であった。また、EQ-5Dでの評価上患者のQOLは高く、特に不安の項目は最も良好であった。これは、有田らの「自転車エルゴメーター運動でセロトニン濃度の上昇による鬱症状の改善が期待される」との報告によるものが考えられた。本症例の限界として、宮岸らの報告では抹消点滴での平均生存期間として2ヶ月前後であり、本症例においても同様の経過を辿った。その中で、「その人らしさ」を保つために住み慣れた環境での看取りなども検討したが、時間経過に間に合わなかった。 【倫理的配慮】本発表の趣旨をヘルシンキ宣言に基づいて説明し本人に同意を得た。

  • 坂田 祐也, 泉 清徳
    セッションID: P2-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 Pusher現象に対する治療は垂直判断を矯正する認知面へのアプローチや、押せない環境での運動などが多く報告されている。しかし、Pusher現象に対する腹臥位療法の治療効果報告は少ない。今回Pusher現象を呈し基本動作が全介助の症例に対し、腹臥位療法を実践したところ座位におけるPusher現象の即時的な改善と治療効果の持続を認めたため報告する。 【症例紹介】 60歳代、右利きの男性。入院前は独歩自立。自宅にて体動困難となり救急要請され右被殻出血と診断された。発症後3日目の意識障害はJapan Coma Scale(以下JCS)20。運動麻痺は左Brunnstrom stage上肢Ⅱ-手指Ⅱ-下肢Ⅱ。感覚評価は表在感覚および深部感覚ともに重度鈍麻。高次脳機能障害は左半側空間無視、注意障害を認めた。動作能力は、左側への寝返りは柵を使用し見守り、右側への寝返りと起き上がりは右上下肢で抵抗を示し、端座位および立位では、健側上下肢で柵や床を押すPusher現象を認めた。Scale for Contraversive Pushing(以下SCP)6点であった。基本動作は全介助、歩行訓練は転倒リスクが高く実施困難だった。 【介入内容および結果】 Pusher現象に対して、早期より視覚的刺激、座位保持訓練、長下肢装具を使用した立位荷重訓練を実施した。発症後12日目の訓練直後SCP5.25点となり、おもに座位項目で改善を認めるも翌日の訓練開始時にはSCP6点に戻るなど効果の持続は乏しかった。JCS10であり意識障害も残存していた。その為、覚醒改善を目的に発症後13日目に腹臥位にて①上肢挙上屈曲位での手掌の圧迫、②腹式呼吸 (以下腹臥位療法)を開始した。約10分間腹臥位療法にて刺激入力行った直後、JCS3、SCP3.75点へ即時的に改善した。翌日のリハビリ開始時もSCP3.75点であり、持続的な治療効果を認めた。また腹臥位療法実施前よりも日中の覚醒が向上し、指示が入りやすくなるなどの精神面の変化もみられた。発症後17日目の転院前まで一般的な訓練に加え腹臥位療法を実施し、最終評価ではJCS2、SCP3点へ改善を認めた。右側への寝返りと起き上がりは右上下肢の抵抗は消失し軽介助、座位保持は見守り、起立・立位保持・移乗は中等度介助から最大介助となった。 【考察】 Pusher現象に対し、視覚的垂直認知を利用した介入や離床による感覚入力を実施したが、本症例の場合、認知面へのアプローチでは改善効果が乏しいと考えられた。それに対し、腹臥位療法を行うことでPusher現象が改善し介助量軽減を認めた。有働らによると、腹臥位療法により、上行性網様体賦活系を介して大脳の各部分が活性化されること。手掌面を下にすることで体性感覚野の広範囲を占める部分が刺激され感覚連合野から運動のプログラミングを司る前頭連合野へ刺激が伝達され自発性が賦活されると報告されている。つまり、腹臥位を実施したことで覚醒と自発性が向上し、視覚的な情報を積極的に利用することができるようになった為、即時的かつ持続的なPusher現象の改善に繋がったのではないかと考えられる。また、腹臥位での腹式呼吸や重力作用に対する体幹・頸部伸筋群の無意識の抗重力作用が働いたことで体幹筋が賦活され座位保持の改善に繋がった可能性も考えられる。今回の経験から、脳卒中急性期においても腹臥位療法により、覚醒や自発性、体幹筋の改善やPusher現象の早期からの治療、さらにADLの改善に繋がる可能性があるのではないかと考える。 【倫理的配慮】症例には本報告の趣旨を十分に説明し同意を得たうえで、当院の研究倫理審査委員会 (承認番号24-0403)を得た。

  • 東 周平, 長濱 久美子, 河野 亨太, 冨田 愛, 松坂 洋一
    セッションID: P2-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 脳性麻痺における痙縮治療は一般化しており多くの症例は理学療法が並行して行われるが,その内容について議論されることは少ない.一方,様々な疾患に対して目標設定及び課題指向型アプローチの有効性が示されており,痙縮治療過程においても有効な可能性がある.今回,選択的脊髄後根切除術後に目標に基づき課題指向型アプローチを中心に介入し能力が向上した脳性麻痺の一症例について報告する. 【症例紹介】 症例は粗大運動能力分類システムⅡの5歳の両側性痙性脳性麻痺を持つ女児である.選択的脊髄後根切除術 (切断率18%/18%)がA病院で施行され,3週間の入院後,当院で理学療法を実施した.術前の能力はGross Motor Function Measure (GMFM)-88は79.9%,GMFM-66は61.2,Pediatric Evaluation of Disability Inventory (PEDI)機能的スキル移動領域の尺度化スコアは54.8であった.Canadian Occupational Performance Measure (COPM)では「装具なしで立てるようになる」,「しゃがんで物を拾う」,「立ったまま靴を履く」,「装具なしで保育園で生活する」の4つが目標に挙がった.さらにGMFMとPEDIの結果から,「踏み台を使って大人用のトイレに乗り降りする」と「車に乗れるようになる」の2つを加えることをセラピストから提案し計6つを目標に設定した.理学療法実施頻度は1日40分を2回,週5日間として,11週にわたり通院にて実施した.介入は粗大運動能力の回復に合わせ目標に向かい課題を設定した.術前より随意性低下が認められた右足関節について,前脛骨筋と腓腹筋を対象とした神経筋電気刺激を介入期間中一貫して実施した. 【経過】 介入1~2週目は下肢自動運動練習と椅子からの起立練習,平行棒内歩行練習を中心に実施した.介入3週目より歩行器歩行練習を開始し,すぐに院内の歩行器歩行が可能となったため,4週目からは独歩練習を開始した.介入6週目には独歩を再獲得し,母と手をつないで通院できるほどに歩行能力が回復した.静止立位も安定してきたため,トイレと車の移乗練習としゃがみ動作練習を開始した.自宅のトイレと自家用車の様子を写真で確認し,実際の練習場面と自宅環境で移乗している動画を照らし合わせ課題を特定しながら練習に反映させた.靴を履く練習は座位から開始し徐々に立位での練習へと移行した.練習は全て裸足と短下肢装具装用2パターンで実施した.独歩の能力が回復するとともに内旋歩行と右内反尖足,左尖足が顕著となったため,介入8週目に左右腓腹筋と右脛骨筋に対しボツリヌス療法が施行された.介入最終週のGMFM-88は86.3%,GMFM-66は66.0,PEDI機能的スキル移動領域の尺度化スコアは59.1とそれぞれ向上した.目標のうち,トイレの移乗は踏み台を使わずに獲得,自家用車への乗車も一人で可能となった.COPMで挙がった「装具なしで立てるようになる」と「しゃがんで物を拾う」は遂行度と満足度が向上したが,「立ったまま靴を履く」は未獲得,「装具なしで保育園で生活する」は尖足への対応で短下肢装具装用時間を延ばしたため遂行度と満足度は低かった. 【考察】 選択的脊髄後根切除術により粗大運動能力が向上することは先行研究で示されているが,本症例では粗大運動能力のみならず,日常生活に目を向け介入したことで生活の中で活かせる能力を獲得したのではないかと考える.また,目標設定したことで自宅での練習に前向きになったことや,本人と保護者が自発的に通院に歩行を取り入れたことも能力向上に大きく寄与したものと考える.院内で完結させず,家族の主体性や自己効力感に着目して共にリハビリテーションを作り上げていくことが重要である. 【倫理的配慮】症例の家族へ本報告の趣旨と内容,個人情報の取り扱いを説明し,同意を得た。

セッションポスター3 骨関節・脊髄1
  • 芦刈 和樹, 鶴田 朋幸, 原田 稔也, 平野 青葉, 谷口 直也, 鞭馬 貴史, 川島 隆史
    セッションID: P3-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【目的】 TKAは安定した長期成績が獲得可能であり, 高齢化社会の到来によってその施行数が年々増加している (山田ら,2015). TKAにおいて, 適切な手術のみだけでなく, 理学療法を主体としたリハビリテーションの役割が非常に重要であり, 近年は早期での自宅退院が可能となっている. 一方, TKA術前の活動量は術後の回復に大きく影響を及ぼすことが報告されており (Bozic KJ.,et al,2008), 術前の身体機能が術後のリハビリテーションに大きく関与すると考えられる.今回, 約5年間歩行困難により入院生活, 施設入所を繰り返していたが, TKA後に理学療法を行うことで歩行を再獲得し自宅退院することに成功した症例について報告する. 【症例紹介】 本症例は, 膝OAと診断され両TKA目的で入院した70歳代の女性である. 約5年間の歩行困難, 自宅生活困難により施設入所や入院生活が続いていた. 術前の理学療法評価 (Rt/Lt)は, ROM:膝関節屈曲90°/85°伸展-40°/-35°, MMT:大腿四頭筋2/2, 疼痛:動作時両膝関節痛NRS10, JOA score:30/30点, 歩行は困難で車椅子介助, 基本動作にも介助を要していた. 問題点として, ROM制限, 筋力低下, 動作時痛による基本動作に介助を要すことが挙げられた. 【経過】 術後1日目から, 回復期リハビリテーション病棟にて理学療法を開始しROM訓練, 基本動作訓練を行った. 術後3日目からは疼痛により膝関節伸展位での立位保持が行えなかったため, Knee Braceを装着し膝関節伸展位での立位保持訓練を開始した. また, 更衣, 排泄などのADL訓練を行うために早朝リハビリテーションを開始した. 術後8日目から歩行器での歩行訓練を開始し, 術後20日目には固定型セーフティーアーム歩行を獲得し, 術後36日目に自宅退院となった. 退院時の理学療法評価はROM:膝関節屈曲125°/125°伸展-15°/-15°, MMT:大腿四頭筋は4/4まで改善した. 疼痛:動作時両膝関節周囲NRS6, JOA score:45/45点, FIM:88点, 基本動作は修正自立, 歩行は固定型セーフティーアーム自立となった. 【考察】 Vlaeyenは痛みの慢性化のメカニズムを認知情動の側面から恐怖-回避モデルを用いて説明おり, 慢性的な痛みを感じることで痛みの破局化, 痛みへの恐怖から廃用や機能障害さらには抑うつ状態に陥ると報告している (Vlaeyen JSW and SJ Linton, 2000). また, 山田らによると膝OA患者においては, OAによる疼痛の増加・変形の進行に伴い, 痛みを日常的に体験してしまい, 歩行が困難になり, ADL動作が障害され日常生活が困難となる負のスパイラルに陥るとされている (山田ら,2015). 本症例においても, 膝OAによる慢性疼痛により活動量の低下や機能障害が生じ廃用状態に陥っていたと考えられる. 今回, TKAを施行し術後36日間の理学療法を通し歩行可能となったことで自宅退院に至った. 歩行が可能となった要因としてはTKAによる疼痛軽減, 理学療法による膝関節ROMの拡大, 大腿四頭筋の筋力向上, 早朝リハビリテーションの実施によるADL能力向上などが挙げられる. 本症例は術前車椅子介助, 基本動作全介助レベルであり, 身体機能の低下を認めていた. TKAは術前の身体機能が, 術後の経過に大きく影響を与えると報告されているが (眞田ら,2014), 本症例のように, 身体機能の低下を認める症例に対しても, 早期から積極的な理学療法を行うことで歩行が獲得できる可能性があると考える. 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき, 本症例に対して, 本発表の趣旨および内容を説明し同意を得た. なお, 本発表は当院の倫理委員会で承認 (承認番号:15)を得て実施した.

  • 隠塚 雅臣, 鳥井 泰典, 泉 清徳
    セッションID: P3-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 神経は、圧迫や伸張ストレスに伴い症状を誘発しやすい。そのため、介入の流れとしては、評価にてストレス部位を特定し、その部位の治療を行う。今回、末梢神経感作により、姿勢を保持する事ができず、ストレス部位を特定する評価が困難であった。そのため、臨床推論により介入結果に基づく治療を行うことで、ストレス部位の特定に至り、症状改善につながったため報告する。 【症例紹介】 対象は画像から脊柱管狭窄症(L3/4)と診断された70代男性。1カ月前に土嚢を積み上げる際に左下肢に痺れ出現。他院受診し内服で様子をみていたが、次第に症状増悪し体動困難で当院入院となる。リリカ処方され、入院翌日(入院1日目)よりリハビリ開始となる。 【経過と評価】 初回介入(入院1日目)では、全体像として常に両側膝立て背臥位で過ごし、動作緩慢で3m先のトイレまで伝い歩きで行かれ、左膝内側を中心に大腿前面の疼痛と痺れの症状が出現するため、背臥位以外は困難な状況であった。初回評価では、主訴は左大腿前面の症状であり、同部位は触れるだけでNumerical Rating Scale (以下NRS)10/10の過敏な疼痛反応を示し、体動を伴うと左大腿に同症状が出現した。また、健側下肢の屈曲でも同症状が出現し、寝返りや坐位は次第に症状が増悪するため評価を行えなかった。神経mobilization(大腿神経の滑走操作)で即時的な疼痛軽減NRS5がみられたため、神経mobilizationを自主運動として指導した。介入4日目には、立位までの動作が可能となり、再度評価を実施。Neuro dynamics test:prone knee bend陽性、大腿神経伸張位で頚部屈曲すると主訴である症状の再現性が得られた。坐位では、体幹後屈で症状の再現性があり、左回旋で症状増悪、右回旋で症状緩解した。脊椎分節レベルでは、L3左横突起PA (後方から前方に押す)で後屈時の症状消失がみられた。治療として、L2/3左椎間関節での関節mobilization(L3に対しL2棘突起を左に回旋する操作)を実施。介入13日目では、NRS4のtouch painは残存するが、動作時症状は消失した。また、独歩で歩行速度1.1m/sと動作緩慢も改善がみられ、介入14日目に自宅退院となった。 【考察】 初回評価では、寝返りでも過敏な疼痛反応を示し、背臥位での評価に制限された。診断はL3/4の脊柱管狭窄症であるが、amundsonらは、狭窄の程度と臨床症状との間に明確な関連は認めなかったと述べており、理学的評価でのストレス部位の特定が重要と判断した。症状から左大腿神経の末梢神経感作を疑う所見であったが、体動困難からストレス部位の特定に至らず。まずは、症状軽減を図り、座位や立位の獲得を目標とした。神経mobilizationにて坐位がとれるようになり、脊椎の評価を実施することが可能となった。L3左横突起PAで症状消失が得られた事から、L2/3左椎間関節をストレス部位とし、圧縮応力が神経に加わっていたと判断した。治療後、日に日に症状改善したため、適切にストレス部位を特定できたと思われる。臨床推論により、評価のための介入を行うことで、評価範囲の拡大が得られ、より多くの情報が得られた事で最終的にストレス部位の特定に至ったと考える。 【結論】 症状が強く評価困難な場合、介入結果に基づいて、治療指針を決定していくことが有効になる場合もあると考える。 【倫理的配慮】本報告は当院の規定に基づき、対象者に十分な説明を行い、同意を得た上で、当院の研究倫理審査委員会で承認を得た。(承認番号:学24-0402)

  • 辛嶋 良介, 井原 拓哉, 羽田 清貴, 岸本 進太郎, 加藤 浩, 本山 達男, 川嶌 眞人
    セッションID: P3-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/27
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    【はじめに】 Bone marrows lesions (BMLs)は,膝関節のMRI画像で観察される骨髄内陰影所見の総称であり,内側半月板損傷,特に後角損傷など荷重分散機能の破綻が関与している.一方で,歩行時の膝関節外側スラスト (外側スラスト)の増大は膝関節内側コンパートメントへの力学的負荷を増加させると言われている.外側スラストについて慣性センサを用いて検討した報告は散見されるが,半月板損傷患者を対象としたBMLsの有無による側方加速度の相違は明らかではなく,理学療法を実施する上で重要な知見となり得る.そこで,本研究の目的は,半月板損傷患者のBMLsの有無による歩行時立脚中期までの膝関節側方加速度のうち,最大外方加速度値の相違について調査することとした. 【対象と方法】 対象は,当院で内側半月板損傷の診断を受けた18名とし,平均年齢は61.9±7.9歳,平均BMIは 24.3±2.6kg/m2であった.関節鏡とMRI所見による半月板損傷部位の内訳は中節 (1名),中後節 (8名),後節 (4名),後角 (5名),立位単純X線前後像でのKellgren-Lawrence分類はⅠ (2名),Ⅱ (8名),Ⅲ (8名)であった.BMLsの評価はMRI (FUJIFILM社)を用いて冠状断T2強調像 (スライス厚4.5mm,スライス間隔0.5mm)で行った,大腿骨,脛骨いずれかの関節面に異常陰影が確認されたものをBMLsあり群 (あり群),それ以外をなし群とした. 歩行時の膝関節側方加速度は,慣性センサ(Microstone社)を用いて計測した.10mの歩行路を対象者の任意の速度で歩行させ,大腿遠位外側と腓骨頭に慣性センサを貼付し3軸方向の加速度を計測した.サンプリング周波数は200Hzとした.腓骨頭に貼付したセンサの下腿長軸方向の加速度により1歩行周期を同定し,3歩目からの連続した3歩行周期を解析区間とした.大腿遠位外側部に貼付したセンサの外方を正値とする側方加速度(外方加速度)より.立脚期開始から歩行周期50%までの外方加速度の有無を確認し,最大外方加速度を抽出した後3歩行周期で平均した. 統計解析はR4.2.1 (CRAN)を使用し,あり群となし群の最大外方加速度の比較にはMann WhitneyのU検定を用い,効果量 (r)も算出した.有意水準は5%とした. 【結果】 BMLsは18名中8名 (44.4%)に認めた.外方加速度はあり群で8名中4名 (50%),なし群で10名中3名 (30%)に認めた.最大外方加速度はあり群で平均0.35±0.47m/s2,なし群で平均0.10±0.16m/s2であり,有意差は認めず効果量 (r)は0.20であった. 【考察】 BMLsと歩行時の外側スラストは,関節変形の進行に伴い出現する頻度は高くなり,外側スラストの側方加速度では立脚期開始10%から50%までに急峻な変化を伴う外方加速度波形を示すとされている. 本研究では両群の最大外方加速度に有意差は認めなかったが,あり群の内50%に大腿骨の外方加速度を認めた.内側半月板損傷,特に後角断裂など荷重分散機能の破綻が示唆される患者において,この外方加速度は看過できない力学的負荷の要因になりうる可能性がある.よって理学療法では,大腿骨の外方動揺を誘発する荷重時の脛骨外方傾斜の増加の有無や,股関節周囲筋,特に殿筋群の遠心性収縮能といった評価の必要性が考えられた. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言による倫理的配慮に基づいた研究であり,当院倫理審査による承認 (承認番号20171102-01)を受け,全ての対象者には十分な説明による同意を得て実施した。

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