【目的】 TKAは安定した長期成績が獲得可能であり, 高齢化社会の到来によってその施行数が年々増加している (山田ら,2015). TKAにおいて, 適切な手術のみだけでなく, 理学療法を主体としたリハビリテーションの役割が非常に重要であり, 近年は早期での自宅退院が可能となっている. 一方, TKA術前の活動量は術後の回復に大きく影響を及ぼすことが報告されており (Bozic KJ.,et al,2008), 術前の身体機能が術後のリハビリテーションに大きく関与すると考えられる.今回, 約5年間歩行困難により入院生活, 施設入所を繰り返していたが, TKA後に理学療法を行うことで歩行を再獲得し自宅退院することに成功した症例について報告する. 【症例紹介】 本症例は, 膝OAと診断され両TKA目的で入院した70歳代の女性である. 約5年間の歩行困難, 自宅生活困難により施設入所や入院生活が続いていた. 術前の理学療法評価 (Rt/Lt)は, ROM:膝関節屈曲90°/85°伸展-40°/-35°, MMT:大腿四頭筋2/2, 疼痛:動作時両膝関節痛NRS10, JOA score:30/30点, 歩行は困難で車椅子介助, 基本動作にも介助を要していた. 問題点として, ROM制限, 筋力低下, 動作時痛による基本動作に介助を要すことが挙げられた. 【経過】 術後1日目から, 回復期リハビリテーション病棟にて理学療法を開始しROM訓練, 基本動作訓練を行った. 術後3日目からは疼痛により膝関節伸展位での立位保持が行えなかったため, Knee Braceを装着し膝関節伸展位での立位保持訓練を開始した. また, 更衣, 排泄などのADL訓練を行うために早朝リハビリテーションを開始した. 術後8日目から歩行器での歩行訓練を開始し, 術後20日目には固定型セーフティーアーム歩行を獲得し, 術後36日目に自宅退院となった. 退院時の理学療法評価はROM:膝関節屈曲125°/125°伸展-15°/-15°, MMT:大腿四頭筋は4/4まで改善した. 疼痛:動作時両膝関節周囲NRS6, JOA score:45/45点, FIM:88点, 基本動作は修正自立, 歩行は固定型セーフティーアーム自立となった. 【考察】 Vlaeyenは痛みの慢性化のメカニズムを認知情動の側面から恐怖-回避モデルを用いて説明おり, 慢性的な痛みを感じることで痛みの破局化, 痛みへの恐怖から廃用や機能障害さらには抑うつ状態に陥ると報告している (Vlaeyen JSW and SJ Linton, 2000). また, 山田らによると膝OA患者においては, OAによる疼痛の増加・変形の進行に伴い, 痛みを日常的に体験してしまい, 歩行が困難になり, ADL動作が障害され日常生活が困難となる負のスパイラルに陥るとされている (山田ら,2015). 本症例においても, 膝OAによる慢性疼痛により活動量の低下や機能障害が生じ廃用状態に陥っていたと考えられる. 今回, TKAを施行し術後36日間の理学療法を通し歩行可能となったことで自宅退院に至った. 歩行が可能となった要因としてはTKAによる疼痛軽減, 理学療法による膝関節ROMの拡大, 大腿四頭筋の筋力向上, 早朝リハビリテーションの実施によるADL能力向上などが挙げられる. 本症例は術前車椅子介助, 基本動作全介助レベルであり, 身体機能の低下を認めていた. TKAは術前の身体機能が, 術後の経過に大きく影響を与えると報告されているが (眞田ら,2014), 本症例のように, 身体機能の低下を認める症例に対しても, 早期から積極的な理学療法を行うことで歩行が獲得できる可能性があると考える. 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき, 本症例に対して, 本発表の趣旨および内容を説明し同意を得た. なお, 本発表は当院の倫理委員会で承認 (承認番号:15)を得て実施した.
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