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日本 LCA 学会の環境教育研究会は、2008 年に発足し本年で 14 年目を迎える。研究会活動の一環として、これまで「ライフサイクル思考と環境教育」の特集号を本誌において 3 回発刊し、教材集も 1 冊刊行している。本解説では、この 13 年間の活動を振り返ると同時に、現状と今後の課題について簡単に述べる。
国連世界観光機関(UNWTO)は、多くの人が移動する観光は地球温暖化などの気候変動に影響する重要な問題であると警鐘を鳴らしている。観光とライフサイクルアセスメント(LCA)研究では、旅行パッケージ、移動、宿泊、飲食、産業に起因する温室効果ガス(GHG)をカーボンフットプリント(CFP)で評価している。一方、近年社会的に注目されている持続可能な開発目標(SDGs)の目標およびターゲットには、明確に観光を対象としている項目がある。また、日本でも日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)が発行された。現在、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による深刻な影響が続いており、日本の産業は観光業を含めて大きな転換を迫られているが、同時に、COVID-19 からのリカバリーを起点として、持続可能な観光への大きな転換のチャンスを迎えていると考えることができる。観光に関連する事業者、業界団体、研究組織、大学などが一体となって持続可能性に向けた取り組みを実施することが必要とされている。
グリーンイノベーションは地球温暖化をはじめとする環境問題を解決する手段の一つとして期待されている。しかし、グリーンイノベーションの背後に過剰な資源利用が誘発される場合がある。著者らはこれを「資源パラドックス問題」と定義した。資源パラドックス問題は、多くの人が気付いていないか、気付いていたとしても定量化された例は少ない。本稿では、国レベル、素材レベル、製品レベルで資源パラドックス問題が起きていると思われる定量的な実例を紹介する。そして、資源パラドックス問題が起きているようなグリーンイノベーションの対応策について、資源消費パターンの類型化とそれに応じた戦略が重要であることを議論する。また、今後、再生可能エネルギーの導入や製品の使用形態が与える影響についても考察する。
本研究資料では、発電に伴うライフサイクル GHG 排出量に着目しメタ分析を行った。対象とした発電方法は、石炭、石油、天然ガス、地熱、風力、原子力、水力、太陽熱、太陽光、バイオマスである。石炭、天然ガスは、 CCS の有無、太陽光は、パネルの種類、風力発電は、陸上、洋上でさらに細く分類した。本研究では 66 本の査読付き論文を対象にメタ分析を行った。対象範囲はフルライフサイクルとし、燃料製造段階、建造段階、発電段階、廃棄段階に分類し不足している段階については同じ発電方法の平均値を当てはめる補正を行った。メタ分析によって化石燃料由来発電から非化石燃料由来発電に切り替えることで、中央値で見ると 1kWh あたり約 90% のライフサイクル GHG 排出量が削減されるが、発電方法によっては削減量が 50% 程度となる場合もある。発電においてGHG 排出量へ影響を与えるのは発電容量や発電所寿命、発電方式であり、これらの把握が重要であることが明らかとなった。
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