認知神経科学
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15 巻, 1 号
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第17回認知神経科学会
教育講演Ⅰ
  • 中野 今治
    2013 年 15 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    正常脳を知ることは、その異常を知るための手がかり、足がかりである。大脳回の配置は複雑に見えるが、概念的には単純である。左大脳半球を側面から見た図を描く場合、Sylvius裂の後端から書き始めて脳の外縁を書き、前後端のほぼ中央で中心溝、中心前回、中心後回を書く。中心前溝より前方の前頭葉を3 分割して脳回を前後に平行して走る形で書き、側頭葉にも同様に3 つの脳回を書く。Sylvius裂後端を囲むのが縁上回、第一側頭溝後端を囲むのが角回である。頭頂葉と後頭葉の間には頭頂後頭溝が、後頭葉極には鳥距溝がいずれも僅かに顔を出す。正常脳では、中心前回皮質は中心後回皮質よりも約1. 5倍厚い。脳の前額断で視床下核を捉えるには、乳頭体後端の少し後で鉛直に割を入れるとよい。正常脳前額断では、内包前脚は軽く内方に凸を成すが、被殻萎縮では逆に軽く凹に成る。前額断では乳頭体と海馬足上縁は同じ高さに有るが、中心ヘルニアが生じると乳頭体が下方に大きく押し下げられる。脳室は脳表に掘られた溝であり、第三脳室と側脳室はT 字型の溝である。脳室上衣が溝の側壁と底を構成し、脈絡叢が溝の蓋を成す。脳表と、脳実質内の血管周囲腔に面する脳表面にはastrocytic endfeet とその基底膜で構成されるグリア限界膜があり、脳外からの細胞浸潤に対して強力なバリアを成している。
教育講演Ⅱ
教育講演Ⅲ
特別企画認知症テスト講習会(4)
  • 杉下 守弘
    2013 年 15 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病患者を対象とした治験はその殆んどが失敗したので、アルツハイマー病の治験は、アルツハイマー病と健常者の中間にあたるMCI(軽度認知障害)が盛んになり、MCI より前段階の「前臨床期アルツハイマー病」を対象とした治験も計画されている。また、研究でも多くのMCI や「前臨床期アルツハイマー病」の研究が進められている。本稿では、はじめに、「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)の診断基準(2011)」で推薦されているMCI 用の検査について述べ、「自由及び手掛りによる選択的想起検査(FCSRT-IR)」については詳しく紹介した。また、MCI およびアルツハイマー病の治験で広く用いられるADAS-COG の日本版(ADAS-COG-J)の妥当性と信頼性を評価した(杉下、竹内、逸見)。妥当性を検討するために、ADAS-COG-J とMMSE の日本版であるMMSE-J とのピアソンの相関係数を計算した。ADAS-COG-J にはADAS-COG-J-13 とADAS-COG-J-15 の2 種類がある。前者は13 項目からなりたっており、後者は前者に迷路課題と数字消去課題を加えた15 項目である。MMSE-J もMMSE-J-JADNI とMMSE-J-2001 の2 種類がある。前者は「注意と計算課題」として単語の逆唱を用い、場所の見当識課題として病院の名前を使用している。一方、後者は「注意と計算課題」として100-7課題を使用し、場所の見当識課題として建物の名前を使用している。健常者81 名、MCI 191 名および軽度アルツハイマー病患者59 名を対象として、妥当性と信頼性を検討した。妥当性については、ADAS-COG-J-13 とMMSE-J-ADNI のピアソンの相関係数を計算すると-0. 80 であり、ADAS-COG-J-13 とMMSE-J-2001 のピアソンの相関係数は-0. 81 であった。ADAS-COG-J-15 とMMSE-J-ADNI のピアソンの相関係数は-0. 80 であり、ADAS-COG-J-15とMMSE-J-2001のピアソンの相関係数は-0. 82であった。信頼性については、ADAS-COG-J-13とADAS-COG-J-15の信頼性はベースラインの得点と6 カ月後の得点の相関を求めて評価した。ADAS-COG-J-13 のベースラインと6 カ月後の得点のピアソンの相関係数は0. 91、ADAS-COG-J-15のベースラインと6 カ月後の得点のピアソンの相関係数は0. 91 であった。以上の結果から、ADAS-COG-J-13 とADAS-COG-J-15は十分な妥当性と信頼性を持つことが示された。次に、軽度認知障害(MCI)より前段階である「前臨床期アルツハイマー病」の治験であるAnti-Amyloid Treatment of Asymptomatic Alzheimer’s Disease(A4)で使用される予定の心理検査を紹介した。
シンポジウムⅡ 機能画像と高次脳機能
  • 三分一 史和
    2013 年 15 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    最近の計測技術の進歩により、グリッドタイプの時空間イメージングデータの計測が可能となっている。データ解析には主に回帰分析や相互相関解析が用いられ、脳神経の賦活の様子が統計量の空間分布として視覚化される。これらの解析法には神経賦活の時間的変化を反映した参照関数を先験的に仮定する必要があり、言い換えれば、神経賦活のうち、その変動パターンが参照関数と相似性の高いもののみが検出されるということになる。また、参照関数が定義出来ない場合は、解析そのものが困難になってしまうという問題がある。本講演では、これらの問題点を回避するために、我々の研究において開発された時空間フィルタリング法を解説する。これは、コントロール条件下の区間で自己回帰(AR)型の時系列モデルを同定し、残りの区間をその同定されたモデルによりフィルタリングを施しイノベーション(予測誤差)を推定するイノベーションアプローチに基づく方法である。イノベーションの中にコントロール区間のモデル化で予測することができない信号が含まれていれば、それは、コントロール区間では生じていなかった神経賦活と推定することができる。有意な神経賦活の検出にはイノベーションの振幅レベルを統計検定する必要があり、繰り返し測定されたデータと単一試行データの場合とでその統計処理法と統計量の空間マップ化法を紹介する。
  • 菊地 千一郎
    2013 年 15 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    脳機能イメージングにおいて、被験者の脳活動が低い場合は、被験者本来の脳活動を反映したものか、課題が十分に遂行できなかったかの鑑別が必要となる。そこで、著者らは、本来の脳活動をより正確に把握するための試みとして、被験者の脳活動を最も高くする課題設定を調べた。対象は健常成人で、浜松ホトニクス社製の近赤外線スペクトロスコピー装置を使用した。コンピューターに提示されたじゃんけんの手の写真と勝ち負けの教示をみて、対応する手を提示するという後だしじゃんけん課題を用いた。著者らは2 種類の実験を行った。実験1、難易度研究は、4 種類の検査、勝ち続けるWIN、負け続けるLOS、勝ち負けを交互に行うALT、勝ち負けが任意に教示されるRND を行う。主観的難易度はWIN < LOS < ALT < RND となった。実験2、作業量研究は、刺激課題中の負けじゃんけん作業量をパラメトリックに4 段階に変化させるというものである。課題遂行中の酸化ヘモグロビン波形積分値を脳活動量とみなして比較検討を行った。難易度研究においては右腹外側前頭前野においてWIN < LOS であったものの、難易度の増加にそった脳活動の増加は認められなかった。一方、作業量研究においては左外側前頭前野、両側補足運動野および前運動野に作業量に伴った脳活動の増加が認められた。じゃんけん課題では、ある程度難しい課題を最も高頻度で行うと最も脳活動が高まると考えられた。
  • 清水 俊治, 井上 拓晃
    2013 年 15 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
  • 柏倉 健一, 根本 彩香
    2013 年 15 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    目的:前頭前皮質を対象に、近赤外計測法を用いて疲労関連部位の推定を行った。方法:11人の健常成人を対象に、内田クレペリン検査を実施することで疲労を誘発させ、その変化を主観的疲労スケール及び作業パフォーマンス低下度により評価した。作業パフォーマンス測定に合わせて、近赤外計測法を用いた脳機能イメージングを行い、内田クレペリン検査実施前後の賦活応答を比較した。結果:被験者の疲労度の変化は、主観的疲労スケール及び作業パフォーマンスの低下として捉えることができた。脳機能イメージングの結果、疲労に起因すると推定される前頭前皮質全体の賦活応答の低下が観察された。また、賦活応答の低下は、特に腹内側前頭前皮質及び左腹外側前頭前皮質で顕著であった。一方、右外側前頭前皮質の信号値には大きな変化は見られなかった。結論:疲労評価に使用した主観的、客観的スケールの有効性並びに適用条件が示された。また、疲労度の増加と腹内側前頭前皮質及び左腹外側前頭前皮質の賦活応答の低下が特異的に関連する可能性が示唆された。
シンポジウムⅢ 機能画像とMBI
  • 平田 雅之
    2013 年 15 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    開眼時のα blockingなど脳活動にともなって大脳の律動状態が変化することが知られている。我々はこの脳律動変化を脳磁図や皮質脳波を用いて計測し、感覚・運動・言語等の脳機能の局在や時間的推移を調べ、脳外科の術前評価に用いてきた。たとえば、末梢神経電気刺激により対応する一次体性感覚野にhighγ帯域の同期反応が認められることや、黙読課題によりBroca 野にlow γ帯域の脱同期反応が認められることを明らかにし、術前の中心溝同定・言語優位半球評価や機能局在評価に用いてきた。最近ではこうした知見をブレイン・マシン・インターフェースに応用して、皮質脳波を用いてロボットアームのリアルタイム制御を達成した。さらに位相情報解析により、運動前にhighγ帯域の振幅がα帯域の位相にカップリングしていることを明らかにして、運動制御のメカニズムへの関連性を調べている。本稿では、こうした脳律動変化を用いた脳電磁イメージングとブレイン・マシン・インターフェースへ応用について紹介する。
  • 神谷 之康
    2013 年 15 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    脳の信号は心の状態や行動をコード化している「暗号」と見なすことができる。そして、その暗号を解読(「デコード」)することで、脳から心の状態を推定することが可能になると考えられる。しかし、脳の信号は非常に複雑なパターンをもっていて、人が目で見ただけでその意味を理解するのは一般に困難である。そこでわれわれは、機械学習と呼ばれるコンピュータ・サイエンスの手法を取り入れ、コンピュータに脳活動信号の「パターン認識」を行わせて脳の信号をデコードするアプローチを提唱した。本稿では、人が見ているものを脳活動パターンからデコードする方法を中心に紹介しながら、ブレイン-マシン・インターフェースや情報通信への応用など、この技術の可能性について議論する。
原著
  • 山下 雅俊, 山本 隆宣
    2013 年 15 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    Tryptophan(TRP)and its neurometabolite have been proposed to play a key role in central fatigue. Here, we established a new animal model of central fatigue induced by chronic sleep disorder(CFSD) through extended disturbance in the sleep-wake cycle, and investigated the relationship between brain- TRP levels and social interaction. The model was generated in 7-week-old rats by depriving them of sleep for 20 hours/day for 5 days. Fatigue level and social-interaction were measured with a treadmill test and a social-interaction test, respectively. Fatigue was classified into three levels : acute, subacute, and chronic. Further, TRP and 5-hydroxytryptamine(5-HT)concentrations were measured in the brain. Compared to control rats, CFSD rats suffering from sub-acute to chronic stage performed significantly worse on the treadmill test(sub-acute : p < 0. 05, chronic : p < 0. 001), and those suffering any stage spent considerably less time interacting socially(acute : p < 0. 01, sub-acute : p < 0. 001, chronic : p < 0. 01). CFSD-generated fatigue observed with treadmill-and socialinteraction tests is located centrally, and our procedure therefore specifically modeled central fatigue. TRP(but not 5-HT)concentration in the hypothalamus and hippocampus was 2. 5-fold higher in the CFSD group compared to the control group. CFSD results from increased TRP uptake, and might be related to social-interaction failure induced by central fatigue.
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