認知神経科学
Online ISSN : 1884-510X
Print ISSN : 1344-4298
ISSN-L : 1344-4298
10 巻, 1 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • Deborah Fein
    2008 年 10 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
  • 鬼塚 俊明, 平野 昭吾, 平野 羊嗣, 大林 長二, 前川 敏彦, 神庭 重信
    2008 年 10 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】近年、社会脳(ヒトが社会的関係に関する処理を行う脳部位)についての研究が盛んになってきている。社会生活上、ヒトの声や顔から得られる情報は大切であり、本稿では統合失調症者の顔・表情・声認知障害について、脳波・脳磁図研究にて得られている成果のレビューを行い、更に筆者らの研究結果を紹介した。顔認知研究では、統合失調症者には早期視覚処理の段階から顔認知障害があり、N170調整機構の障害の存在が示唆されている。また、顔記憶過程において、統合失調症は正常者と異なる半球パターンを示すことも示唆された。声認知研究では、声に対するmismatch negativity(MMN)を調べることにより、統合失調症者の言語に関する障害が早期言語処理の時点から存在していると考えられ、更に声に対するMMNが社会技能獲得能力の指標となり得ると考えられた。また別のアプローチとして、声に対するガンマ帯域活動を調べることにより、統合失調症患者において左半球の比較的早期の言語処理における障害があることも示唆された。顔や声の認知における障害は、統合失調症者の症状や社会技能障害、予後に関連があることから、その障害の基盤を調べることは重要であり、今後更なる研究所見の蓄積が望まれる。
  • -光脳機能イメージングの臨床応用-
    滝沢 龍, 笠井 清登
    2008 年 10 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】統合失調症における前頭葉機能の障害を、比較的新しい方法論である近赤外光を用いた脳機能計測法(near-infrared spectroscopy;NIRS)によって検討した。統合失調症群と健常者群との間で、語流暢性課題施行中の前頭葉皮質におけるヘモグロビン濃度変化のパターンに差異があることを示した。また前頭葉機能とドーパミン系に関連するとされるCOMT遺伝子多型で、統合失調症患者において有意な関連性を見出した。自然な姿勢で計測でき、簡便かつ非侵襲的な方法論であることを生かして、診断・症状評価の補助、薬効予測など臨床現場に役に立つ生物学的指標として確立することを目指している。
  • 高橋 英彦
    2008 年 10 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】統合失調症の脳体積研究で、上側頭回と扁桃体を含む内側側頭葉はもっとも体積減少が認められる部位とされる。fMRIを用いて統合失調症におけるこれらの部位の機能異常を検討した。我々は、患者において不快な写真に対する右扁桃体の低活動を報告した。右の扁桃体は、瞬時の自動的な情報処理にかかわっているとされ、外的刺激に対するとっさの処理の障害を示唆すると考えられた。統合失調症の言語に関する研究は広くなされているが、統合失調症にはヒトの声の認知にも障害があるとされ、我々は統合失調症の声の認知時にヒトの声認知に関わる右の上側頭回の低賦活が見出し、言語理解だけでなく、ヒトの声に対する脳内処理の障害が示唆された。
  • 山末 英典, 管 心, 武井 邦夫, 井上 秀之, 青木 茂樹, 阿部 修, 笠井 清登
    2008 年 10 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】統合失調症は、多くの家族研究や双生児研究の知見から遺伝要因の強い関与が確実だが、多因子遺伝や疾患異種性などの障壁もあり、原因遺伝子などは明らかにされていない。そのため、統合失調症診断そのものを表現型とするのではなく、臨床研究において用いられる様々な指標の中で遺伝的要因の強いものを中間表現型として、それらと遺伝子や分子生物学的特徴との関連を検討することにより内因性精神病の病因・病態生理の解明につなげる、という中間表現型研究がさかんになりつつある。本シンポジウムでは、脳体積減少や白質での拡散テンソル画像異常などの脳画像指標を中間表現型とした最近の研究を概観しつつ、今後の可能性について議論した。
  • 根本 清貴
    2008 年 10 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    Voxel Based Morphometry(VBM)は、特定の領域ではなく全脳を対象にした灰白質・白質の密度や体積をボクセル毎に探索的に評価する手法であり、近年広く用いられるようになってきている。VBMでは、まず全脳の容積に影響されずに局所の皮質の菲薄化を検出するために解剖学的標準化を行う。その後、クラスター分析と事前確率画像を用いた灰白質・白質・脳脊髄液の分割化を行う。現在ではこの方法に自動で脳外組織を取り除く手法を組み入れたVBM変法が主流となり、さらにはSPM5からは全く新しいアルゴリズムに基づいた分割化が導入され、分割化の精度は以前にもまして向上している。分割化後、画像をより正規分布に近づけ、かつ個人差を吸収するために平滑化が行われる。これらの前処理が行われた後、統計的推測が行われる。統計的推測にはいくつかプロセスがあるが、そのうち正規化は全脳容積を考慮するために重要なものである。これらのプロセスを経て、疾患群と健常群での脳形態の違いや神経心理検査の結果と相関する脳領域を探索することが可能となる。
  • 阿部 修, 山末 英典, 青木 茂樹, 笠井 清登, 大友 邦
    2008 年 10 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】拡散テンソル画像(DTI)から得られるFA(fractional anisotropy)およびMD(mean diffusivity)画像は通常のT1・T2強調像では描出不可能な細胞レベルの拡散環境を反映する絶対値画像である反面、その変化が微細であり視覚的評価になじまない場合が多い。その解析手法の一つとして仮説に基づき関心領域を設定する方法があるが、観測者のバイアスに左右される可能性や全脳の評価が難しい欠点を有する。Statistical parametric mapping(SPM)を用いたvoxel-base法は全脳を探索的に検討可能であり、観測者によるバイアスも低減可能である。SPMを用いたDTI解析に最も重要なステップは空間的正規化手法であり、われわれはoptimized VBM(voxelbased morphometry)protocolを応用したオリジナルFAテンプレートを作成し、空間的正規化の精度を上げている。その手法を用いて解析したサリン毒性、生理的加齢、心的外傷後ストレス障害、筋萎縮性側索硬化症における脳内拡散テンソル変化に関する結果を供覧する。これらの結果からSPMを用いたDTI解析が今後の脳機能解析における不可欠なツールの一つとなるものと期待している。
  • 田岡 俊昭, 森川 将行, 坂本 雅彦, 中川 裕之, 岩崎 聖, 明石 敏昭, 宮坂 俊輝, 高山 勝年, 木内 邦明, 岸本 年史, 吉 ...
    2008 年 10 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】拡散テンソル法は生体内の水の拡散の程度や、異方性を解析できる手法である。一般に白質神経路の障害では、拡散能が上昇し、拡散異方性が低下する傾向にある。拡散テンソル法による拡散能・拡散異方性の検討は、拡散テンソルトラクトグラフィーと組合せることにより、解剖学的により特異的な情報を得ることができると考えられる。Alzheimer病をはじめとした神経変性疾患の評価に、本手法が有用であることが示唆される。
  • ―脳波・functional MRI同時計測法―
    穴見 公隆
    2008 年 10 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】脳波は代表的な生理学的脳機能研究法だが、その低い空間分解能のため脳電気活動の本態の解明にはほど遠かった。一方functional MRI(fMRI)は、高い時間・空間分解能によって現代を代表する脳機能研究法となったが、fMRI開発当初から脳波と同時計測することで、脳波研究の突破口をめざす動きがあった。しかし同時計測には、fMRI傾斜磁場による脳波上の巨大なアーチファクト問題が存在した。われわれはこの問題をstepping stone sampling法と呼ぶ方法で解決した。この脳波・fMRI同時計測法は現在、さまざまな脳波現象研究に応用されるが、ここではてんかん臨床への応用の一端を紹介する。
  • 谷脇 考恭
    2008 年 10 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】脳の活動時は、各々の部位はネットワークを形成して活動していると考えられる。そのため、脳のネットワークを解析することが重要である。ネットワーク解断によく用いられる方法として、共分散構造分析(別名として構造方程式モデリングstructural equation modeling;SEM)がある。我々はこの方法と機能的MRI(fMRI)とを組み合わせて、大脳基底核運動回路と小脳-大脳運動回路の可視化を試みた。サルの研究より、大脳基底核運動回路と小脳-大脳運動回路は、自己ペース運動(SP)と外的ペース運動(EP)とで活性が異なると予想されるので、これらを課題とした。若年健常人12名(24-29歳、右利き)を対象に解析したところ、SPにて補足運動野-右被殻後部-淡蒼球-視床-1次感覚運動野に、EPでは左小脳前葉-歯状核-右視床-運動前野-1次感覚運動野に機能連関を認めた。以上より若年健常人において、SP運動では大脳基底核運動回路が、EPでは小脳-大脳運動回路が重要な役割を果たしていることが示唆された。老年者では、大脳基底核運動回路や小脳-大脳運動回路での機能連関が低下していたが、両側大脳皮質運動関連野間の機能連関は亢進していた。次に基底核疾患における変化を検討した。パーキンソン病患者12例を対象に解析したところSP、EPとも小脳-大脳運動回路での機能連関は亢進していた。最後に小脳疾患における変化を検討した。脊髄小脳変性症患者6名を対象に解析したところSP、EPとも基底核運動回路の機能連関の亢進を認めた。以上の機能的MRIおよびネットワーク解析を用いた運動発現の脳イメージングにより、自己ペース運動と外的ペース運動の脳内基盤の解明、加齢変化および疾患における運動回路の機能連関の解析が可能となった。
  • 松永 薫, 中西 亮二
    2008 年 10 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】連続経頭蓋的磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stimulation, rTMS)にはいくつかのパラダイムがあり、初期には一定刺激頻度のrTMSが用いられてきた。また以前より動物実験で用いられていたシータバースト刺激がrTMSを用いて、近年ヒトの大脳皮質の刺激に応用された。rTMSの効果はパラダイムにより異なり、また刺激した部位のみならず投射した部位にもその効果が認められる。一方、古い方法であるが経頭蓋的直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation, tDCS)も近年見直され、盛んに行われている。これらの方法は非侵襲的に大脳皮質の機能を一過性に変化させることが可能であり、今後、認知神経科学の分野にもますます応用されることが期待される。
  • 湯本 真人
    2008 年 10 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】注意下の知覚・認知は予測により修飾を受けている。ボタンを押すと音が鳴るという最も単純な運動-聴覚連関の学習により、感覚入力のタイミング予測はN1mピーク振幅を減高させ、感覚入力の内容の予測からの逸脱はMMN(Mismatch negativity)様応答を生成させることが示唆された。外界において生起する事象を予測するフォワードモデルを脳に保持することは、感覚情報処理に対する神経資源の節約の点で有効なだけでなく、行為主体の自他認識といった高次脳機能にとっても必須の要素である。感覚野におけるMMN生成の逸脱検出機構は、クロスモーダルな運動-聴覚連関学習の過程で、フォワードモデル生成・更新のための予測誤差検出を担っているものと考えられる。
  • 諸冨 隆
    2008 年 10 巻 1 号 p. 68-76
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】1.主観的輪郭と視覚パターンマスキングの2つの視知覚現象を取り上げ、パターン出現VEPが視知覚の成立過程の解明にとって有力な指標であることを述べた。2.主観的輪郭の出現は、左右後頭部から導出されたパターン閃光出現VEPのN180のみを顕著に増強させる。このN180は、パターン出現VEPの輪郭に特異的に関係するC2成分であることを、順応パラダイムによって明らかにした。3.逆行パターンマスキングやメタコントラストにおいて、全く見えの生じないターゲット刺激に対してパターン出現VEPのC1、C2が明瞭に出現し、視覚皮質において処理が進行していることを述べた。
  • 使用失行の見かた、捉え方
    中川 賀嗣
    2008 年 10 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】失行に関しては、枠概念としての「失行」、その枠概念を支える「各失行型」、さらにこれらの関係を論じる「失行論」の3つがある。この3つの関係は、時代の変遷とともに次第に変化し、その基礎となるLiepmannの考え方をも修正する必要が生じてきている。本稿では、失行型の1つである、単一道具使用時に見られる失行(使用失行)に焦点をあて、その理解に必要と考えられる事項を概説した。すなわち、古典的な失行型とされる3症状の概略と評価法、失行論の背景にあると考えられるアウトライン、古典的な失行以外の失行を紹介した。また物品(道具)を使用する際の動作を2つに区分し、症状分析のための新たな指標(着眼点)を提唱した。一つは手で物を直接扱う動作(二者関係動作)、もう一つは道具で物を扱う動作(三者関係動作)である。さらにこの指標を用いて、自験2例の行為・動作障害を分析した。今回検討した結果からは、使用失行は、三者関係動作を支える機構の選択的障害と捉えうる可能性が示唆された。
  • 武田 克彦
    2008 年 10 巻 1 号 p. 88-93
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】まず視覚失認の定義とその検査法に触れた。次に視覚失認の分類を述べた。従来視覚失認は統覚型と連合型に分類されてきた。その2分法は不十分として主張されているFarah, Humphreysらの考えを紹介した。Farahは、従来統覚型とされたものは、少なくとも3つに分けられると述べた。Humphreysらはintegrative agnosiaという考えを提出した。Integrative agnosiaとは、部分部分における視覚の要素の過程には問題がない。それらの要素を並列的にグループ化して全体として処理ができないものをいう。さて従来なら統覚型に分類される患者DFは、形が識別できないのに、その形をつかむように指示されると、健常者と同様に手指の形を作って掴むことができた。これは行為の場面では、視覚情報を意識には上らない形で利用できることを示している。さらに視覚失認とイメージの問題について触れた。
  • 松田 博史
    2008 年 10 巻 1 号 p. 94-98
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】アルツハイマー病を主体とする認知症の画像診断において、MRIは必須の検査となっている。アルツハイマー病においては神経原線維変化に伴う側頭葉内側部の萎縮を捉えることにより早期診断が可能である。また、MRIは縦断的観察が容易であり、萎縮の進行度からアルツハイマー病と正常加齢の鑑別ができる。視察による萎縮の評価は不十分であり、画像解析ソフトウェアを用いたコンピュータによる自動診断が普及しつつある。その原理は、voxel-based morphometry(VBM)と呼ばれている。MRIから抽出された灰白質画像に解剖学的標準化を行い、さらに平滑化を行う。このように処理された灰白質画像を正常コントロールデータベースと統計学的に比較する手法である。VBMは萎縮が強い場合には解剖学的標準化が不十分となる欠点を有している。この欠点を補う方法として、完全な解剖学的標準化を行い、その変形量を正常コントロールデータベースと統計学的に比較するtensor-based morphometryも研究されている。正常コントロールデータベースの共有化のためには、良質な画像を得ることが必要であり、信号値の不均一補正などの前処理が必要とされる。
  • 竹市 博臣, 寺尾 敦, 竹内 文也, 豊澤 悠子, 小山 幸子
    2008 年 10 巻 1 号 p. 99-108
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】各種劣化音声は談話理解の有用な研究ツールである。我々はm系列を用いて劣化音声を作成し脳波を用いた検討を行っている。擬似乱数の2値m系列をもとにマスクパターンを作って刺激音声にかけあわせ、時間ギャップをランダムなタイミングで談話に挿入する。聴取時に個々の時間ギャップに対して生じる誘発脳電位は、脳波を記録しマスクパターンとの相関を計算して積算できる。その結果、理解可能な談話に限り、相関遅延時間400 msにピークが検出された。今回m系列変調法で劣化させた音声談話理解に関与する脳部位を検索するためfMRI計測を行い、被験者(右手利き日本語母語話者18名)に日本語およびスペイン語談話を聴取させた。日本語通常音声とその時系列反転の比較では(通常の談話処理)、左中下側頭回(21野)および脳梁膨大後部皮質(29野)が、劣化および通常音声の比較では(文脈からの補完処理)、両側中下前頭回(47野)、両側内側前頭皮質(9野)、両側上頭頂葉(7野・左楔部・右楔前部)および両側下頭頂葉(39・40野・角回・縁上回)が賦活されたが、被験者が理解できないスペイン語聴取時にはこれらの部位は賦活されなかった。左内側前頭皮質と左下前頭皮質・左下頭頂皮質は、断片的な情報を一貫性があるよう接続統合する機能に関連し、劣化音声に対する談話理解は、通常の談話理解関連領野に加えて、その機能が劣化音声知覚にも用いられる可能性がある。
  • 児玉(鏡) 千稲, 朝田 隆
    2008 年 10 巻 1 号 p. 109-118
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】今日、認知症の早期発見を実現するために診断テストについて世界的なコンセンサスが求められている。そして、4つの認知領域(記憶、注意、視空間機能、言語)を個々に測定し、その評価結果から認知機能を系統的に診断するアプローチが主流になりつつある。われわれは、2002年に地域での悉皆調査の一環として700名以上の65歳以上の住民を対象にこれらのテストを施行した。今回、この高齢者大規模集団におけるデータを用いて、WMS-Rの論理的記憶II(記憶)、Trail making test A&B(注意)、Clock drawing test(視空間機能)、Categoryfl uency test(言語)について標準化を行った。まず被験者の年齢と就学年数が4テストの成績に寄与していることが明らかになった。そこで年齢と就学年数から階層化して、標準値(平均、標準偏差)を得た。さらに各テストの信頼性と妥当性を確認した。また既存のテストを組み合わせて認知症やその前駆状態を診断するためのセットテストとしての価値を探索した。その結果この方法が認知症のみならず中間状態の客観的診断にも有用であると考えた。以上に示した本研究の結果は、今後の認知症診断において有用になると考えられる。
  • 緒方 真一, 山田 達夫, 橋本 伸高, 山縣 然太郎, 天野 恵子, 篠遠 仁, 吉井 文均, 石井 敏仁, 田中 司朗
    2008 年 10 巻 1 号 p. 119-129
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】CogHealthはオーストラリアで開発された認知機能測定ツールである。しかし、本邦におけるCogHealthの信頼性、妥当性は評価されておらず、海外の先行研究の外挿可能性は明らかでないという現状を鑑み、本研究ではCogHealthの信頼性、妥当性、外挿可能性に関する検討を行う。研究デザインは、病院、自治体健診、企業健診からなる多施設retrospcctive studyである。健常者もしくはMCIと診断され、かつ50歳以上のものを対象とする。健常者群の背景は、690人(女性348人)、平均64.4歳であった。MCI患者群の背景は、47人(女性26人)、平均74.8歳であった。test-retest信頼性の評価の結果、健常者とMCI患者の両方でinter-class correlationは二つの評価項目を除き0.7以上と高く、信頼性が確認されたという結果であった。CogHealthと年齢、CogHealthとMCI診断の間には、全ての評価項目で有意な関連が見られた。各評価項目の分布の類似性を評価することにより外挿可能性を検討した結果、overlap coefficientは概ね高値であり、海外先行研究の結果は外挿可能と考えられた。これらの知見を踏まえた上で、わが国における新しいタイプの認知症のスクリーニングツールとしてCogHealthが役立つことが期待される。
feedback
Top