認知神経科学
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オピニオン
展望
  • 岡澤 均
    原稿種別: 展望
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 155-165
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】アルツハイマー病(AD)においては、細胞外アミロイドの除去を目的としたアミロイド抗体医薬を中心に治療開発が長年に亘り行われてきたが、死後脳あるいは生存患者の病理・PET結果から、細胞外アミロイド除去には十分な効果が認められたものの、認知症の改善には至らなかった。このため、Elli-Lilly、Pfizer、J&Jなど各社が臨床開発を中止し、さらに2019年1月にはRocheもPhase III失敗をプレスリリースしている。このため、細胞外アミロイドを病態の最上流と考える『アミロイド仮説』に対する疑義も生じており、ビッグファーマは細胞外アミロイドに代わる『次の治療標的』を探索しており、ビッグファーマからアカデミアへの情報収集も活発化している。

     私たちは、仮説バイアスの掛からない網羅的リン酸化プロテオーム解析を用いてAD病態を探索してきた。4種類のADモデルマウスを用いて病理解析、行動解析と網羅的リン酸化プロテオーム解析を組み合わせて、AD病態進行の時間経過を観察したところ、細胞外アミロイド凝集の出現以前に、MARCKS、SRRM2など複数タンパク質のリン酸化変化が生じていることが明らかになった。この変化はヒト患者死後脳でも検出され、ヒトAD病態を反映するものと考えられた。このうち、SRRM2は核内で複数のRNA関連タンパク質と結合し、それらを安定化するスカフォールドタンパク質と考えられるが、AD病態早期に生じるSer1068リン酸化は、SRRM2とシャペロニンタンパク質TCP1alphaとの結合力を低下させ、結果的にSRRM2核移行を阻害していることが私たちの解析から示された。さらに、私たちはSRRM2が安定化する標的として、知的障害原因遺伝子PQBP1を同定した。PQBP1は多くのシナプス機能タンパク質の発現調節に関わっており、その低下はシナプス機能の異常につながる。実際、ADモデルマウスとPQBP1関連知的障害モデルマウスのシナプス表現型は極めて類似していた。そこで、AAV-PQBP1を作成し、ADモデルマウスの治療実験を行ったところ、シナプス病態、認知症状ともに改善が認められた。以上から、シナプス機能に関わる知的障害遺伝子を用いた遺伝子治療という、全く予想外の治療戦略の可能性が開けたものと考えている。

招待講演
  • 千住 淳
    原稿種別: 招待講演
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 166-171
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】社会的認知や社会的行動の基盤となる脳神経機構に関する研究は、旧来の社会科学と脳科学の接点として、大きな研究分野を構築しつつある。中でも、社会脳がどのように発達するか、社会的経験がどのように社会脳の発達に影響を与えるかについての研究は、脳機能発達の基礎的理解にとどまらず、社会適応や社会的認知発達の障害事例に対する療育・介入手法の開発にも繋がることが期待される。本稿では、社会的認知発達の可塑性について、3つの視点から議論する。第一に、日英比較文化研究を通じて、文化的規範や文化的学習が社会的認知の初期発達に与える影響について、特に乳幼児期に焦点を当てて議論する。これらの研究から、顔処理に関わる文化的規範・文化的経験の違いが顔認知の発達に及ぼす効果は、発達の極めて初期に確認されることを紹介する。第二に、養育者との視覚的コミュニケーションの経験が社会的注意の発達に及ぼす影響について、視覚障害を持つ母親に養育された乳児の認知発達・脳機能発達に関する縦断研究に基づいて議論する。特に、視覚的コミュニケーション経験の違いが視線認知の初期発達及ぼす影響について、事象関連電位研究、眼球運動計測研究の結果を紹介する。最後に、これら社会的認知発達の多様性を担保する認知・神経機構について考察し、これらの研究が、自閉症をはじめとした社会的認知の非定型発達事例の理解に与える影響について議論する。

会長講演
  • 加我 牧子
    原稿種別: 会長講演
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 172-178
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】聴覚失認は通常、脳血管障害による両側の一次聴覚野の障害で生じるが成人でも頻度は低い。聴覚失認では音としては聞こえているが、言語音、非言語音(環境音など)の認知、理解の障害を生じる。リズムや旋律、音色、和声の認知が難しくなる失音楽という状態もありうる。純音聴力は正常あるいはほぼ正常であり、聴性脳幹反応は正常で、内言語の障害は伴わないことが原則である。小児では代謝性変性疾患である小児大脳型副腎白質ジストロフィー症や、器質的脳病変が認められないLandau-Kleffner症候群といった小児に特有な疾患が原因疾患となるなど、聴覚失認を生じる原因が成人とは異なる場合がある。診断の原則は成人と小児で変わることはないが、脳血管障害の頻度が低い小児では成人よりさらに頻度が低く、見逃される機会も多いと思われる。本稿では3症例の紹介を行い、鑑別診断、検査法を加えて診断、治療することや社会的支援の必要性について述べた。

特別講演
  • 飛松 省三
    原稿種別: 特別講演
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 179-188
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】私たちは、3つのテーマ:1)脳を診る、2)脳を読む、3)脳を変える、ことで、どのようにヒトの脳内ネットワークが働き、時々刻々と変化する外界からの情報を適切に処理し、行動しているか研究している。

     本講演では、「脳を診る」というテーマから並列的視覚情報処理の基礎と臨床応用に関する研究を紹介する。アメリカ留学(シカゴ・ロヨラ大学神経内科・Celesia 教授)の際、ネコ・ヒトの網膜電図(ERG)、視覚誘発電位(VEP)を研究した。帰国後は、並列的視覚情報処理の研究を開始した。至適な視覚刺激を用いることで、網膜から高次視覚野に至るまでの視覚情報を担う神経細胞の種々の情報を抽出することができる。例えば、要素的な刺激である格子縞のパラメータ(輝度、コントラスト、波長、空間周波数、時間周波数)を変えることにより、一次視覚野(V1)の機能を定量化できる。また高次視覚野の刺激には、顔、文字、コヒーレント共同運動などが至適刺激であり、V4 やV5の機能を検索できる。

     健常成人・老年者のデータを基に、認知症や自閉スペクトラム症(ASD)などの病態生理に迫ることができる。ヒトが直進方向に移動すると、外界の放射状の動きが生じ、これをオプティック・フロー(OF)という。自己運動の知覚に関与し、後部頭頂葉で処理される。アルツハイマー病では、頭頂葉障害により、OF知覚が障害され、迷子や危険運転の原因となる。認知症の予備群である軽度認知機能障害(MCI)患者では、OF 刺激による誘発電位(P200)は高い特異度、高い感度をもって、MCI 患者と健常老年者を区別できることを発見した。非侵襲的で安価かつ信頼性のあるMCIの早期診断バイオマーカーとなることが期待される。

     我々の一連の研究成果及び文献的考察から、ASDで生じている視覚ネットワーク異常に関する新しいモデルを発表した。つまり、ASDの病態は単一の脳領域の障害ではなく、複数の脳領域間の複雑な機能的・構造的な脳内ネットワークの障害が本質であることを示し、ASDは「コネクトパチー」であるという新しい疾患概念を提唱した。

     以上、目先の研究成果にとらわれず、サステナビリティー研究をすることが、ヒトの高次脳機能解明につながると考える。

セミナー
  • ── 認知症との鑑別や関連について ──
    塩﨑 一昌
    原稿種別: セミナー
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 189-193
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】疫学調査では高齢者でてんかんが増えることが報告されているが、このことやその病態についての周知は十分でない。高齢発症のてんかんは、側頭葉を焦点とする複雑部分発作complex partial seizure(CPS)が多く、脳血管障害や認知症等に起因する症候性てんかんが多い。症状はけいれんが少なく、非けいれん性の多彩な発作症状を示すためてんかんと診断され難い。

     多彩とされる症状には記憶障害が含まれ、物忘れ外来を受診することになりがちである。一方、認知症の診療に当たる医師にとって、てんかんは想定外であり、誤診が危惧される。認知症と紛らわしいてんかんとして先ず想定すべきは、一過性てんかん性健忘transient epileptic amnesia(TEA)である。またレビー小体型認知症dementia with Lewy bodies(DLB)では、意識レベルの動揺性があり意識減損を伴うCPSと類似する。DLBに特徴的なレム睡眠行動障害も睡眠中のCPSと類似するため側頭葉てんかんとの鑑別が必要である。

     著者所属の物忘れ外来では、てんかんと診断される症例が約1%存在するが、脳波上で発作間欠期てんかん性放電inter-ictal epileptiform discharge(IED)が捕捉される症例は約5%存在し、てんかんの合併の可能性がある。IED(+)の症例に対して抗てんかん薬anti-epileptic drug(AED)治療を行った場合、認知機能が改善する症例を度々経験する。IED(+)の50症例につき、AED投与前後の認知機能の変化を検討した結果を提示する。認知症とてんかんは併存する場合もあり、その発症や経過に相互に影響し合っている可能性があることを近年の研究から紹介する。

原著
  • 惠 明子, 福田 亜矢子, 安村 明
    原稿種別: 原著
    2019 年 21 巻 3+4 号 p. 194-201
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】発達障害児の読み書きの特異性について、主に音読の流暢さや正確さを指標とした研究から、音韻意識や視覚認知能力が読み書きに影響を与えることが明らかにされてきた。しかし、書かれた文字の形と発達障害との関連性は十分に明らかになっていない。そこで本研究では、書字の読みやすさと障害特性との関連性を明らかにすることを目的とした。定型発達児9例および発達障害児10例(ADHD, ASD)が聴写したひらがな単語の読みやすさについて定量的な評価を行い、障害特性との関連性について分析を行った。その結果、定型発達児と比較して発達障害児で読みやすさの評価点の低下が認められた(p <.0001)。また、男児のみの発達障害児において不注意性と読みやすさの評価点との間に強い負の相関関係が認められた(r = −0.74, p =.038)。以上の結果から、書字の読みやすさを評価することで、発達障害児の特性を評価できる可能性が示された。

フォーラム 脳と文法
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