認知神経科学
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11 巻, 3+4 号
December
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第14回認知神経科学会(平成21年7月25日・26日開催、そのI)
特別講演
  • Giuseppe Vallar
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 171-180
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
      Abstract:Unilateral cerebral lesions may bring about a multifaceted pattern of impairment of spatial cognition, termed “unilateral spatial neglect”. The deficit is more frequent and severe after lesions involving the right cerebral hemisphere, and concerns the left side of space, contralateral to the side of the lesion (contralesional). The main feature of spatial neglect is a disordered perceptual awareness of sensory events, taking place in the contralesional side of space, and of the body. A deficit of the planning of intentional movements towards the neglected side of space may also occur, suggesting that perceptual and action systems, though closely linked, are discrete processes. Unilateral spatial neglect may be characterized as a disorder of conscious spatial representations. A great deal of evidence suggests that “neglected” events are nevertheless adequately processed by the brain, up to the extraction of their meaning, and even with a preserved representation of the metric of space, provided their aware spatial localization or detection is not required. Awareness of events around us appears to involve spatial reference frames, which also contribute to cognitive processes, such as numerical cognition. The wealth of selective patterns of impairment shown by neglect patients (e.g., “personal” vs. “extra-personal”, “perceptual” vs. “premotor” neglect) indicates that manifold spatial representations exist, notwithstanding our largely unitary phenomenal experience of space. The main neural networks supporting spatial representation and awareness include the posterior-inferior parietal regions, the temporo-parietal junction, the premotor cortex, and the fronto-parietal connections, as well as subcortical grey nuclei. The neural correlates of spatial neglect do not comprise the primary motor and sensory cortices, suggesting a higher-order, cognitive, deficit of perceptual and action spatial processes. Spatial representations provide a basic reference frame also to elementary sensorimotor loops. This is suggested both by the higher incidence of left-sided sensorimotor hemi-syndromes after right hemispheric damage, and by their amenability to physiological maneuvers (vestibular stimulation, prism adaptation, etc.), which affect spatial representations, and a number of manifestations of the neglect syndrome. Finally, spatial representations are involved in some function monitoring processes and belief systems. This is suggested by the syndrome of unawareness of motor and sensory deficits (anosognosia), and by the productive delusional beliefs concerning one side of the body (the somatoparaphrenic symptom-complex), and, less frequently, extra-personal events. Seen through the neuropsychological perspective provided by patients with spatial neglect, spatial awareness is a multi-component process, pervading many areas of cognition.
  • 岩村 吉晃
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 181-186
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     中心領域における体性感覚野同定と体部位局在的再現の初期研究史、サル体性感覚野で行われる指の機能的再現、階層的情報処理のプロセス、両側性体部位再現について述べ、さらに最近のヒト脳イメージング研究についても触れた。
  • 柴崎 芳一
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 187-192
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     緑色蛍光タンパク質(GFP)などを用いて生細胞可視化によりこれまでには得られなかった細胞内機能分子や膜交通のダイナミックな動態が明らかとなってきた。この手法をシナプスに適用しシナプス可塑性を形態的に解析した研究から、長期増強には棘突起の形態変化、シナプス後膜上でのグルタミン酸受容体の量の調節が重要であることが明らかとなった。
  • 千葉 惠
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 193-202
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     有機体は自らをとりまく環境のなかで、免疫反応に見られるように、自己と非自己を何らかの仕方で識別しつつ生きているということ、そしその自己というシステム全体は部分の総和としての「集積的全体(pân)」ではなく、諸部分に還元されることのない一なる原理のもとに「統合的全体(holon)」として生きているということ、この考えに賛同できるなら、アリストテレスの生命観を一つの現実的な可能性として受け止めうるのではないか。さらに、生命事象の物理生理的説明と目的論的説明は単に両立可能であるというだけではなく、生体の諸事象は現実に目的的なものであるという主張を一つの挑戦として掲げてみたい。
会長講演
  • 武田 克彦
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 203-212
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     中心後回の病変によって生じる体性感覚の障害について検討した。その部位の損傷によって、基本的な感覚が障害されることがあること、物品を触らせてそれが何であるかわからないという障害が基本的な障害がなくても生じることが明らかとなった。同じ中心後回の病変でありながら、このような違いがあることは、サルの中心後回には吻側から尾側という軸に沿ってヒエラルキーがあるという岩村の仮説があてはまると考えられる。次に消去現象のメカニズムの検討を述べた。消去現象は、主に頭頂葉の病変によって起きるが、そのメカニズム説として感覚障害とする説、注意障害とする説があった。健常例と消去現象を有する例に機能的MRIを用いて検討を行なった。その結果、消去現象の患者においても、健常者と同様に両側性刺激の場合両側の中心後回(S1)のみならずS2にも賦活がみられた。この結果は、注意障害説に合う結果と考えられた。一文字のかなの音読が可能な失語患者を対象に行なったところ、文字間隔を狭めていくと、読みの障害が増えることを見いだした。この結果について、一文字のかなに対応する永続的な記憶イメージが脳の中にあるという従来の考えでは説明できないのではないかと述べた。まとめとして、ピランデッロ戯曲を例にあげ、分析的思考や定量的評価やヒトの生物学の複雑なシステムの分析のみでなく、文学、言語、人間や社会の科学などを含む自由なアートの世界に目を向けることも今後重要ではないかと述べた。
教育講演
講習会
ミニシンポジウム『認知神経科学会に望むこと』
  • 井田 雅祥
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 228-235
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     高次脳機能の研究成果は脳損傷の患者から得られることが多いが、その成果を生かす実学こそ、リハビリテーションであろう。高次脳機能障害はしばしばリハビリの阻害因子となる。リハビリの目的が機能回復であり、目標が家庭復帰、職場復帰であることを考えると、高次脳機能障害が日常生活に及ぼす影響を明らかにして、解決手段を見出し、指導することが求められる。しかし、現状では、高次脳機能の仕組みは解明されておらず、損傷脳の回復過程、リハビリで改善する機序も明らかではない。豊富で多彩な人材を擁する本学会が、高次脳機能障害の研究と教育によって、リハビリを通して障害を持つ患者に貢献する役割を果たすことが期待される。
  • 川井 充
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 236-238
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     神経内科医の立場から認知神経科学会に期待することを述べた。第1は筋萎縮症の症状の極限状態におこりうる完全閉じこめ状態と関連して、脳の電気活動や脳血流の変化から患者が意思を判断する方法が開発されている。脳—機械インターフェースの技術の発達は患者にとって利益が大きく、関係者が積極的にこの学会に参加し、技術の発展、倫理的問題の解決、高次機能障害の機構解明と治療開発に寄与することを期待する。第2に神経心理学が専門的診療領域として社会から認知されることに対する期待である。そのためには、ガイドラインなど標準的診療の確立、診断に応じた治療法の確立、治療効果のエビデンスが求められる。また、患者を対象とする研究が中心となるので、診療と研究の区別の明確化が必要であると考える。
  • 大六 一志
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 239-243
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     今日の知能検査が何を測定しようとしており、今後どのような方向に発展しようとしているのかについて検討した。21世紀に入ってウェクスラー知能検査は言語性IQ、動作性IQを廃止し、知能因子理論に準拠するようになった。また、数値だけでなく質的情報も考慮したり、課題条件間の比較をしたりすることにより、入力から出力に至る情報処理プロセスのどこに障害があるかを明らかにし、個の状態像を精密に把握するようになっている。現在は、高齢者の知的能力の測定に対するニーズがかつてないほど高まっていることから、今後は高齢者の要素的知的能力の測定に特化した簡便な知能検査が開発されるとよいと考えられる。
ランチョンセミナー
  • 西山 和利
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 244-251
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     高次脳機能障害は本学会の主たるテーマの一つであるが、脳卒中は高次脳機能障害の最大の原因のひとつである。脳卒中は要介護者の介護原因の最多を占め、新規発症者数は人口の高齢化に伴い増加の一途をたどっている。脳卒中が大きな社会問題であるのは、その患者数だけではなく、遷延する後遺症の存在にあり、これは医療費の増大にも拍車をかけている。昨今の脳卒中診療では、アルテプラーゼ静注療法をはじめとした劇的な進歩が見られており、こうした流れは救急医療体制自体の変革をもたらし一種の社会運動的側面をもつに至っている。そうした脳卒中治療の動向を知ることは高次脳機能障害の研究を進める上でも重要であり、本項ではこれらにつき概説する。
  • 朝田 隆
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 252-257
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     近年、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)が注目されている。その背景にはアルツハイマー病などの根本治療薬の開発が進むことがある。現在よく用いられるMCIの基準は、Petersenらによって定義されたものである。要約すると記憶障害はあっても、認知症とは言えない状態を意味する。
     本稿ではMCIの疫学として、有病率、発症率、リバート率、コンバート率について紹介した。さらに診断法と補助診断としての画像診断・体液マーカーの現状を述べた。さらに予後、治療法について最近の知見を記述した。
原著
  • 前澤 仁志, 松橋 眞生, 吉田 和也, 澤本 伸克, 美馬 達哉, 長峯 隆, 別所 和久, 福山 秀直
    2009 年 11 巻 3+4 号 p. 258-267
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
     脳磁図は非侵襲的にヒトの脳活動を捉える技術であるが、磁性を帯びた金属がアーチファクトとなり計測を妨げることがある。本研究では18種類の歯科用金属の組成の違いが脳磁図計測へ与える影響、磁気共鳴画像装置(MRI)による高磁場の影響、さらにハンディタイプの消磁器の効果を検証した。それぞれの金属材料を(1)未処理、(2)消磁器による消磁後、(3)MRIによる磁場印加後、(4)再度の消磁後の4つの状態で磁場計測した。各材料を往復運動させた時の磁場を全頭型脳磁図計で計測し1分間の平均パワーを求めた。対照として材料のない状態での状態の磁場を1分間、10回ずつ記録し、平均値+標準偏差の5倍をアーチファクトの判定基準値とした。主成分が強磁性体の8種類のうち状態1から4で基準値以上であった材料は、それぞれ6、5、8、7種類であった。強磁性体でない10種類では、それぞれ1、0、4、2種類であり、状態1での1種類も基準値を6.2%上回るのみであった。以上より、1.強磁性体でない材料では脳磁図計測に大きな影響を及ぼさない可能性が高いこと、2.強磁性体であっても脳磁図計測に支障をきたさない材料も存在すること、3.MRI検査による磁場の印加では磁性体の性質に関わらず材料が磁化する可能性が高いことが示された。この結果は様々な歯科用金属を装着する被験者の脳磁図計測の際に役立つ。
特別寄稿
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