認知神経科学
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21 巻, 1 号
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巻頭インタビュー
総説
  • 重藤 寛史
    原稿種別: 総説
    2019 年 21 巻 1 号 p. 10-20
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】てんかん診療を行う時は常に脳機能と向き合っている。発作症候と脳波所見から脳のどの部位に過剰興奮が存在し、どの部位から症状が出現してくるのかを推定し、発作を分類する。意識消失を伴う発作か否かは、発作分類だけでなく患者の社会的活動においても重要となる。てんかんの原因が何であるのかを考え、発作の分類のどこに位置するのかを考えて抗てんかん薬の組み立てを行う。内服薬で寛解しない難治性てんかんが3~4割存在し、多剤併用することにより脳機能自体が低下する。難治性てんかんに対してはてんかん手術も考える。てんかん手術の対象となる難治性てんかんの一番の適応は内側側頭葉てんかんであるが、もともと存在する記憶障害や側頭葉切除によって生じる記憶障害が問題になる。てんかん手術の成績で良好な結果が得にくいのはMRI画像で病変のない新皮質てんかんであり、運動感覚野や言語野などの重要部位にてんかん原性部位が推定される場合は手術を行っても寛解を得ることは難しい。患者はてんかん発作によって不利益を生じているが、不利益を生じる背景には偏見や脳機能障害だけでなく不適切な治療によるものもある。てんかん診療においては脳機能を見つめながら、患者にとってベストな治療を施し、患者背景も考慮した包括的な医療に取り組むことが必要である。本稿では、脳機能と向き合うことによって成り立つてんかん診療の実際を、具体的な症例を挙げながら解説する。

特別講演
  • 戸田 達史
    原稿種別: 特別講演
    2019 年 21 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】認知能力に個人差があるのは自明である。このような個人差を生じさせる因子として、環境的なものばかりでなく遺伝的な要因も大いにあることが、行動遺伝学の研究などにより明らかになってきた。認知機能のその遺伝学的な影響を明らかにしようと、分子遺伝学的、神経科学的、認知科学的な様々な分野が融合し協力して、関連遺伝子の同定を目指した研究が、行われている。本稿では、多くの認知機能に関わる知能についての遺伝子の研究について概説する。

教育講演
  • 横澤 一彦
    原稿種別: 教育講演
    2019 年 21 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】色字共感覚とは、ある入力刺激文字から一般的に喚起される感覚に加えて、色の感覚も同時に励起される現象である。色字共感覚者間での文字と色の対応関係は必ずしも一致せず、個人特異性といわれる。色字共感覚色の規定因は、文字形態、音韻、意味、順序、出現頻度、記憶経験など、様々な要因の複合によるので、それらの要因を操作し、共感覚の機序を調べる必要がある。特に、日本語は様々な文字セットを使用する言語であるので、共感覚研究において注目されている。これまでに、平仮名と片仮名の共感覚色が一致することから共感覚色が読みに依存し、漢字の共感覚色が文字の意味に依存する共通性が明らかになった。日本語を含む5ヶ国の共同研究によって、アルファベット文字Aの共感覚色が赤になりやすいのは、文字セットの最初の文字の共感覚色が赤であるという説明が可能であり、その説明は5ヶ国語の文字セットでも共通して有効であることが分かった。このような言語に依存しない共感覚の規定因の研究は始まったばかりである。日本人非共感覚者に対して、文字と色の連想実験を3週間という時間をおいて繰り返すと、色字共感覚者に比べれば、時間的安定性は低くなるが、個人差が大きく、単峰性の分布となった。参加した日本人非共感覚者には、自覚的な共感覚者はいなかったが、一部の参加者の時間的安定性は共感覚者と変わらなかった。それを踏まえ、共感覚者と非共感覚者との境界についても議論する。

特集 前頭前野研究の拡がり
  • 小林 俊輔
    原稿種別: 特集 前頭前野研究の拡がり
    2019 年 21 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】神経科学の進歩には臨床と基礎からの相互の貢献が重要であるが、前頭葉の研究では、実験室での成果が必ずしも臨床の場で再現されないという特異性がある。例えば、前頭葉損傷で社会的行動異常をきたす患者に実験室で心理検査を行っても必ずしも異常が検出されない。動物の脳損傷実験や生理学実験からは前頭葉の機能として作業記憶、抑制性制御、思考の柔軟性といった認知機能が前頭前野に関係することが示されている。しかし臨床症例では必ずしもこれらの機能の局在は明確に示されない。このように基礎と臨床の研究結果が乖離する原因としていくつかの要因が挙げられる。第一に同じ脳部位に病巣があっても前頭葉では他の脳部位より症状の個体差が大きい可能性がある。第二に前頭葉の病巣では局在より病巣の大きさの効果が他の脳部位より大きい可能性がある。第三に前頭葉損傷で出現する実生活での症状が複雑であり、単純な心理課題で捉えることが困難であるという要因がある。それでは前頭葉の機能はどのように理解したらよいのか、そして今後の研究はどの方向にむかうべきなのだろうか。本稿ではまず前頭葉研究の歴史的成果を簡単に振り返り、われわれの前頭葉機能の理解に大きな影響を与えたモデルを紹介する。そのうえで、今後の前頭葉研究の方向を考える上での課題を呈示したい。

  • Mansouri Farshad A.
    原稿種別: 特集 前頭前野研究の拡がり
    2019 年 21 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    In a complex and changing environment, the validity of rules or goals might change in terms of their associated reward and cost, and we often face the necessity to make a strategic decision to adaptively shift between these behavioral rules or goals. Such a decision entails assessment of the value (cost and benefit) of current and alternative rules or reward resources for the individual, and also for the group, in socially advanced species. Cognitive abilities such as flexibility in adapting to a changing environment and adaptive foraging to seek a better environment might depend on such cognitive functions that enable a thorough assessment of the value of different options and a proper and timely decision to choose the most appropriate goal. A distributed neural network involving prefrontal and medial frontal cortices regulates the use of cognitive resources to optimize exploitation of current reward resources, while minimizing the associated cost. This is referred to as executive control of goal directed behavior. Recent studies suggest that dorsolateral prefrontal, orbitofrontal and anterior cingulate cortices are involved in optimizing the exploitation of the current reward sources however, the most rostral part of the prefrontal cortex (frontopolar cortex) plays a crucial role in adjusting the tendency for exploitation, versus exploration of other alternative resources, by assessing the value of alternative tasks/goals and re-distribution of our cognitive resources. Maintaining a proper balance between exploitation and exploration tendencies might be a fundamental cognitive ability necessary for foraging behavior and cognitive flexibility in adapting to environmental demands.

  • Blake David T., Terry Alvin V., Kumro J., Constantinidis Christos
    原稿種別: 特集 前頭前野研究の拡がり
    2019 年 21 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    Cognitive functions such as working memory and selective attention depend on the action of neuromodulators in the cerebral cortex, including acetylcholine. Drugs that act on the cholinergic system improve cognitive function in human patients and animal models. In a series of recent studies, we have demonstrated similar benefits with intermittent electrical stimulation of the basal forebrain. We specifically targeted the Nucleus Basalis (NB) of Meynert, the source of acetylcholine in the cerebral cortex. NB stimulation proved beneficial in a range of tasks involving working memory and attention. NB stimulation may be particularly beneficial to human patients with Alzheimer’s disease, for whom these functions are compromised. We examine the possible mechanisms of action of NB stimulation. These include stimulation of cortical neurons, enhancement of synaptic connections, and regulation of blood flow.  We present a hypothesis on how the amyloid formation in Alzheimer’s disease leads to cognitive decline, and how NB stimulation would impact this decline. Our results offer promise for the application of deep brain stimulation as a therapy for Alzheimer’s disease.

  • 山口 修平, 小野田 慶一, 高吉 宏幸, 川越 敏和
    原稿種別: 特集 前頭前野研究の拡がり
    2019 年 21 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/22
    ジャーナル フリー

    【要旨】アパシーは動機づけが欠如し目的指向活動の減少した状態とみなされ、臨床的には意欲低下あるいは自発性低下として観察される。アパシーでは、報酬獲得のための行動オプションの生起、オプションの選択、動機づけに関連した覚醒反応、負荷と報酬の関連の評価など、認知モデルのさまざまな段階において障害が生じている可能性がある。近年、コンピューターによるそのモデル解析も可能となってきた。脳卒中、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病などで、アパシーは高頻度に出現する症状である。その病巣部位、脳血流、脳機能画像等による解析から、内側および外側前頭前野、腹側線条体、辺縁系、中脳腹側被蓋野を含む神経ネットワークの破綻がアパシーに関与することが推定されている。アパシーの評価には主観的あるいは他者による評価スケールが使用される事が多いが、脳活動を直接記録する事象関連電位による評価も適切な認知課題を設定することで可能となってきた。アパシーはうつと合併する事があるが、臨床的に区別をする事が必要であり、その両者は基盤となる神経機構に相違があることが、機能的MRIや拡散テンソル画像などの手法によって明らかにされている。アパシーの治療に関しては神経薬理学的な研究が進展している。神経伝達物質との関連では、動機づけあるいは報酬志向性にドパミンとセロトニンの交互作用が重要であり、その研究成果が薬物治療の確立に貢献することが期待される。

寄稿 ─ 認知神経科学への手紙 ─
寄稿 ─ 公認心理師試験を巡って ─
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