認知神経科学
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16 巻, 1 号
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ランチョンセミナーI
  • 小関 健由, 玉原 亨, 百々 美奈, 加藤 翼
    2014 年 16 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    赤ん坊は、生まれた時には元気な産声を上げて乳首に吸い付く。以降、生涯にわた り、口は食事を行い、会話を楽しみ、人生を笑いながら、命の営みを支える。最後にお迎え の時が来たら、一言の言葉を残していただければ、送る側も送られる側も静かな気持ちを持 てると思われる。口は、「食べて、話して、笑う」ところ。食事で身体を作る栄養を摂り、言 葉のコミュニケーションで心を通わせ、喜怒哀楽を表現して自己実現を果たすところ。口は 赤ん坊の時からお迎えが来るまで、ひとであることを支えている。ペンフィールドの頭頂葉 地図では、口の感覚や運動が全体の 3 分の 1 を占めて、体表での 2 点分別閾も同様で、口は 極めて鋭敏な感覚のあるところである。現在では、口の健康が、直接全身の健康を脅かすこ とが注目されている。歯周炎は、歯ぐきから細菌やシグナル物質が全身に広がり、細菌性心 内膜炎、糖尿病や早産・低体重児出産等に関与する。誤嚥性肺炎は、口内の不潔物が浮遊し た唾液を誤嚥すると発症してしまう。さらに、がん治療等への医科・歯科連携のチーム医療 の推進が謳われ、周術期口腔機能管理も推進し、高齢者の口腔ケアの重要性は広く認知され てきている。医科と歯科の連携は更に強く必要とされている。本稿は歯科の立ち位置から、 口に関わる様々な話題を提示し、口腔機能の健康の重要性を考える。
イブニングセミナー
  • 松井 敏史, 神﨑 恒一, 松下 幸生, 樋口 進
    2014 年 16 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】適度な飲酒は体に良いと一般に流布している。多くの観察研究で一日 2 ドリンク(純 エタノール換算で 20 g)程度までの飲酒量で mortality rates が一番低いことが示されてきた。 この量はビール 500 mL、日本酒だと 1 合に相当する。最近の 23 研究を合わせたメタ解析で は少量飲酒に認知症のリスク低減効果が認められ、全認知症において Risk ratio(RR)が 0. 63 (95% CI 0. 53-0. 75)、アルツハイマー病では 0. 57(9. 44-0. 74)、脳血管認知症では 0. 89 (0. 67-1. 17)と報告している。しかしながらアルコール 1 日 30 g を超える飲酒量では認知症 のリスクを明らかに増大させる。実際、高齢アルコール依存症者では認知機能低下が一般的 であり頭部 MRI 画像で萎縮性変化に加え、脳梗塞・深部白質病変が高率に認められる。脳梗 塞の頻度が 60 才台で 50%と、健常者高齢者の 3〜4 倍の頻度にのぼる。高齢者の約 15% に 飲酒が関連した何らかの健康問題があるといわれ、これらは健康寿命に関わる重大な疾患に つながる。特に高齢者では、ライフスタイルの変容が飲酒の意義を変質させ、飲酒そのもの が目的となる。かつては身体的・精神的ストレスの調整弁になり一定量に収まっていた飲酒 が、退職や配偶者の死などにより無節制かつ過度になることで、逆に身体的・精神的ストレ スを助長しうる。高齢者にとっては、社会的活動や仕事の継続など生きがいのある生活と共 にある飲酒なのか、さびしいから、することがないから飲むといったライフスタイルを破綻 させる飲酒なのかが「節度ある適度な飲酒」量を規定する。また、適度な飲酒量であっても、 飲んだから健康になるという性質のものではなく、適量のお酒を飲める環境、すなわち適度 な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした生活を送るための、つまり、ライ フスタイル維持の観点から個々の適量を論じるべきである。
教育講演I
  • 山田 一夫, 領家 梨恵, 一谷 幸男
    2014 年 16 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】 心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)は、たった一度の強 度の恐怖体験によって、その後の生活に多大な影響がみられる不安障害である。臨床場面で は、PTSD 治療に認知行動療法が用いられており、長期暴露法を基礎として認知的再体制化 と不安管理訓練が併せて実施されるが、これらの治療によって PTSD 症状は一時的に軽減で きても、認知行動療法のみによる治療の予後は芳しくなく、ベンゾジアゼピン系抗不安薬お よび選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などを用いた薬物療法が平行して行われる ことが多い。しかしこれら薬物の効果も十分であるとはいえず、新たな薬物療法の開発が期 待されている。 これまでに開発されてきた数多くの精神疾患治療薬と同様に、PTSD の治療薬開発におい ても、その根底にある神経メカニズムの解明が重要である。そのためには病態モデルに基づ いた適切な動物モデルが求められ、これまでにいくつかの PTSD 動物モデルが提唱されてき た。なかでも近年注目されているのは、比較的強いストレスを受けたラットにみられる、そ の後の長期間にわたる恐怖反応の増強現象である。そこで本稿では、齧歯類であるラットや マウスを用いた情動記憶研究で用いられる代表的な実験手法、および近年提唱されている PTSD モデルであるストレス誘発性恐怖反応増強現象について紹介する。
シンポジウムI
  • 桑野 良三
    2014 年 16 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】アルツハイマー病(AD)が認知症の 1 病型として報告されてから 100 年になる。現 在 3560 万人の認知症が 20 年後に 6, 000 万人、2050 年には 1 億 1, 500 万人に達すると推測さ れている。年間 770 万人(4 秒に一人)が発症する計算となる。その認知症の 3 分の 2 を占 める AD は、有病率、罹病率共に 70 歳を超えると著しく増加するありふれた高齢者疾患であ る。AD 最大の発症リスクは加齢であるが、高齢者全員が発病するわけではなく、認知症も 罹りやすい家系があって、両親から引き継いだ個人ゲノムの多様性がベースにあると考えら れている。スウェーデンの大規模双子研究から AD の遺伝率は 58〜79%と推定され、家族性 AD 家系を中心に行われた連鎖解析研究によって、常染色体優性遺伝の原因遺伝子が同定さ れた。興味深いことに多くの脳疾患には家族性と孤発性が知られており、AD も臨床病型や 病理所見の表現型が同じであることから、家族性 AD の原因遺伝子解析を通して、発症病態 の分子機構の解明が進んだ。大多数を占める孤発性 AD については民族を超えたリスク遺伝 子として APOE が認められている。全ゲノム網羅的リスク遺伝子解析が行われたが,APOE に相当するリスク遺伝子は見つかっていない。最近、リスク遺伝子の塩基配列変異だけでな くコピー数多型と関連する研究が報告されている。内的認知機能を評価する心理検査に加え て、外部評価として脳画像や生体試料のバイオマーカー解析技術の進歩によって詳細な表現 型の記述が可能となった。これらの表現型と遺伝型解析を概説する。
シンポジウムII
  • 稲垣 真澄, 北 洋輔
    2014 年 16 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】発達障害の概念は知的障害に対する福祉支援政策の充実がきっかけとなり、50 年以 上前に初めて示された。DSM-5(2013 年 5 月)では 6 種類の疾患(障害)から成る診断カテ ゴリー、Neurodevelopmental disorders にまとめられている。これらは全般的知能、社会性、固 執性保持、不注意、多動衝動性、言語機能、学習機能、運動機能に関する臨床症状を単独あ るいは重複して現わすという特徴がある。学習障害のうち、発達性読み書き障害(Develop- mental dyslexia、DD)の病態生理として音韻処理障害仮説がもっとも注目されている。我々 は日本語音の最小単位である拍(モーラ)の操作に関わる脳機能を明らかにするため仮名合 成課題を作成し、機能的磁気共鳴画像研究を行った。健常者では左下・中前頭回、左前側頭 葉そして両側大脳基底核に賦活増加が認められ、日本語音韻操作時には大脳皮質レベルの関 与だけでなく、大脳基底核等の皮質下機能の関与が明らかとなった。一方 DD 児は音韻操作 の有無にかかわらず、大脳基底核(被殻)の活動亢進と左上側頭葉の活動低下がみられ、非 効率的な音韻処理を行っている可能性が示された。本研究の成果は、日本語話者における DD 病態解明の基礎となるものであり、今後の客観的診断や治療法開発につながるものと考 えられる。
  • 渕上 達夫
    2014 年 16 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】注意(attention)は、一般的に受動的注意(passive attention)と能動的注意(active attention)に分類される。今回注意の発達とその障害に関して、事象関連電位 P300 を用いて 検討した。 事象関連電位 P300(P3)は、1965 年 Sutton らにより初めて報告され、被験者に特定の感覚 刺激(聴覚、視覚、体性感覚刺激など)を与え、それを認知、識別させ、一定の課題を実行 させた場合に、刺激後約 300 msec の潜時で出現する陽性成分をいう。また、Squires らによ り、P300 は早期成分(P3a)と後期成分(P3b)の 2 種類に分類され、P3a 成分は受動的注意 に、P3b は能動的注意に関連する波形といわれている。 聴覚空間認知・注意機能を、ドップラー効果を付け自動車が近づいてくるように聞こえる 三次元増大音を用いて健常児と精神遅滞児を対象に P300(P3b)潜時を測定し、その比較検 討を行った。その結果、P300 潜時よりむしろ、Key 押し弁別反応時間での違いが顕著に認め られた。 小児で注意の発達およびその障害を事象関連電位 P300 で検討する場合、P300 潜時の発達 的変化を十分認識した上で、Key 押し弁別反応時間も含め、総合的に検討する必要があると 考えられた。
  • 青柳 閣郎, 保坂 裕美, 相原 正男
    2014 年 16 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】前頭葉、とくに前頭前野の社会生活における重要な役割が指摘されている。我々は、 発達途上の小児と、社会生活の困難さを示すことの多い発達障害児における前頭葉機能の評 価を行ってきた。 社会生活に重要な前頭葉機能は、行動抑制、作業記憶、実行機能である。行動抑制とは、 将来のより大きな報酬を得るために、目前の刺激に対する反応を抑制する能力である。我々 は、交感神経皮膚反応を用いて情動性自律反応による行動抑制への関与を検討した。さら に、強化学習課題遂行中の情動による意思決定に関わる発達的変化と、発達障害児の情動反 応低下がもたらす強化学習への影響を明らかにした。 作業記憶は、必要な情報を必要な間だけ保持し必要がなくなったら消去する機能であり、 その評価に衝動性眼球運動が有効とされる。我々は、衝動性眼球運動を用いて、作業記憶の 発達的変化と、干渉制御失敗と衝動性による発達障害児の作業記憶障害を明らかにした。 実行機能は、既に学習された知識・経験、新たに知覚された様々な情報を統合して、目標 に向けた思考や行動を組み立てて意思決定する能力である。我々は、前頭葉における実行機 能の左右差を評価する神経心理学検査を用いて、実行機能に関与する脳部位の時間・空間的 変化と、発達的変化、発達障害児における実行機能の障害を認知神経科学的に実証した。
  • 中村 みほ
    2014 年 16 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】顔認知の機能は社会生活において重要な役割を果たしている。そのメカニズムと発 達の過程を明らかにすることは、顔認知、ひいては社会性の認知に障害を持つ子どもたちの 療育の上で不可欠である。また、逆に、顔認知に躓きのある方たちの病態メカニズムを探る ことは、顔認知のメカニズムを科学的に解明するうえで重要な情報をもたらすと考えられ る。本稿においては、第 18 回認知神経科学会において開催されたシンポジウムでの発表内 容に準拠し、成人における顔認知のメカニズム、顔認知の生後の発達、顔認知の発達が障害 される疾患における病像を紹介する。
シンポジウムIII
  • 原 英夫
    2014 年 16 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】アルツハイマー病の根本的治療法は、アミロイドカスケード仮説を基に Aβ凝集阻害 剤(tramiprosate)、非ステロイド性抗炎症剤(tarenflurbil)およびγ-セクレターゼ阻害剤 (L Y450139、MK0752)などが開発されたが、いずれも臨床試験は中止となった。一方、アル ツハイマー病に対する Aβワクチン療法の臨床試験が行われたが、有効性は確認されなかっ た。特に bapineuzumab の Phase III 臨床試験において、臨床評価では認知機能改善はコント ロールと差が無かった。問題点として、介入時期の問題で投与時期が遅いことが指摘されて いる。2011 年には米国国立老化研究所/アルツハイマー病協会による新たな診断基準とと もに軽度認知障害(MCI)、さらに preclinical AD の診断基準が提唱されている。そして新た な臨床試験は軽度認知障害または発症前段階で抗 Aβ療法を開始する試みが始まっている。 アミロイドβ蛋白の沈着や老人斑の形成は、preclinical AD〜初期 MCI の時期に進行してい る。アルツハイマー病と診断された時点では既に脳神経細胞の萎縮・脱落が起こっており、 この段階でワクチン療法を行っても病理学的進行を阻止できない可能性がある。将来的には アミロイドイメージングを用いた早期診断、ワクチンによる早期治療がアルツハイマー病の 予防的治療に有効であると考えられる。
原著
  • 袴田 康佑, 山本 隆宣
    2014 年 16 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    【要旨】近年、注意欠陥/ 多動性障害(Attention-Deficit/ Hyperactivity Disorder : AD/ HD)の動物 モデルの研究が盛んに行われているが、未だ完全なモデルの提唱はされておらず、新たなモ デルの提唱が必要とされる。本研究では、Nagase Analbuminemic Rat(NAR)の新たな AD/ HD 動物モデルとしての可能性について検討した。今回、NAR の野生型である Sprague Dawley Rat(SDrat)をコントロールとして比較して行った。その結果、オープンフィールド による自発的行動は NAR が高い結果を示し(p < 0. 001)、高架式一字迷路による衝動的な 不安関連行動のオープンアーム滞在率においても NAR が高い結果を示した(p < 0. 001)。 Y 字迷路による自発的交替行動では NAR が低い結果を示した(p < 0. 05)。このように NAR は AD/ HD 症状との共通点があることが明らかになった。さらに、SDrat と比較した NAR の前頭前野内の dopamine(DA)、noradrenaline(NA)、serotonin(5-HT)、5-hydroxyin- dole acetic acid(5-HIAA)の濃度は全て有意に低値を示した。小脳内においても 5-HT 濃度が SDrat と比較して低い結果となった。以上より、NAR が新たな AD/ HD 動物モデルとしての 可能性があることが明らかとなった。
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