【要旨】アルツハイマー病(AD)が認知症の 1 病型として報告されてから 100 年になる。現 在 3560 万人の認知症が 20 年後に 6, 000 万人、2050 年には 1 億 1, 500 万人に達すると推測さ れている。年間 770 万人(4 秒に一人)が発症する計算となる。その認知症の 3 分の 2 を占 める AD は、有病率、罹病率共に 70 歳を超えると著しく増加するありふれた高齢者疾患であ る。AD 最大の発症リスクは加齢であるが、高齢者全員が発病するわけではなく、認知症も 罹りやすい家系があって、両親から引き継いだ個人ゲノムの多様性がベースにあると考えら れている。スウェーデンの大規模双子研究から AD の遺伝率は 58〜79%と推定され、家族性 AD 家系を中心に行われた連鎖解析研究によって、常染色体優性遺伝の原因遺伝子が同定さ れた。興味深いことに多くの脳疾患には家族性と孤発性が知られており、AD も臨床病型や 病理所見の表現型が同じであることから、家族性 AD の原因遺伝子解析を通して、発症病態 の分子機構の解明が進んだ。大多数を占める孤発性 AD については民族を超えたリスク遺伝 子として APOE が認められている。全ゲノム網羅的リスク遺伝子解析が行われたが,APOE に相当するリスク遺伝子は見つかっていない。最近、リスク遺伝子の塩基配列変異だけでな くコピー数多型と関連する研究が報告されている。内的認知機能を評価する心理検査に加え て、外部評価として脳画像や生体試料のバイオマーカー解析技術の進歩によって詳細な表現 型の記述が可能となった。これらの表現型と遺伝型解析を概説する。
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