認知神経科学
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16 巻, 3+4 号
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海外招待講演
シンポジウムI 認知神経科学の昼
  • 船山 道隆, 佐藤 浩代
    原稿種別: シンポジウムI 認知神経科学の昼
    2015 年16 巻3+4 号 p. 151-156
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】精神疾患は脳損傷後の高次脳機能障害や変性疾患とは明らかに異なる病態であるため、既存の神経心理学的手法を用いて病態の本質に迫ることは困難である。ただ、ある種の神経心理学的手法を用いることで病態を浮き彫りにする可能性はある。今回われわれは、統合失調症をsense of agency、解離性健忘を前向性健忘を伴わない逆向性健忘、自閉症スペクトラム障害を心の理論、中枢性統合理論、遂行機能、感覚処理、情動認知の観点からそれぞれの病態に迫った。

  • 福永 真哉
    原稿種別: シンポジウムI 認知神経科学の昼
    2015 年16 巻3+4 号 p. 157-163
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】失語症の治療的介入は国際生活機能分類(ICF)の機能障害、活動制限、参加制約の3つの障害水準に対して行われている。これまで失語症の機能障害に対する治療的介入は、主に言語聴覚士による言語治療が実施され、一定の改善が得られてきた。また、薬物による治療も試みられ、言語治療と併せて用いられることで一定の効果が報告されている。しかし、最近では、PET、f-MRI、NIRSなどの脳機能画像所見が得られるようになり、失語症の機能回復のメカニズムが明らかになってきた。その脳機能画像所見から、磁気刺激を用いて局所の脳機能を賦活化し、機能障害を改善しようとするrTMSや、CIセラピーのような集中的な言語治療の試みが行われている。機能障害の改善に限界がある場合でも、実用的コミュニケーション活動の改善を目指したPACEなどの訓練の実施、代償手段の活用や環境調節などのコミュニケーション活動制限に対する介入が積極的に行われている。参加制約に対しても、失語症者の個人因子のみならず、失語症パートナーの養成活動などを通じて、環境因子に働きかける介入が行われている。失語症の言語治療を中心とした治療的介入のエビデンスは蓄積中でリハガイドラインにも明確に記載されていないが、今後の治療的介入により、新たなエビデンスの蓄積と展開が望まれる。

  • 定 翼, 平田 幸一
    原稿種別: シンポジウムI 認知神経科学の昼
    2015 年16 巻3+4 号 p. 164-170
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】認知症の薬物療法は4種類の抗認知症薬の登場によって進化を遂げた。しかしながらその効果には限界もあることから種々の非薬物療法が開発されてきた。本検討では過去に一定の効果を認めると報告のあった ① 運動療法、② 音楽療法、③ 家事療法、④ 日記療法に関し、どのような患者にその適応があるのかについて検討を行った。今回の検討の結果、上記非薬物療法を導入する際には全て過去の経験を知ることが重要であることが分かった。また、① 運動療法と ② 音楽療法はMMSE-J、HDS-Rの低い症例でも導入が容易であり、④ 日記療法においてはHDS-Rの点数が低くてもMMSE-Jの点数が比較的高い患者での導入に成功する症例が多いことが確認された。以上より患者に非薬物療法を指導する際には認知症罹患前の生活習慣を調査した上で勧めることが重要であると考えられた。

シンポジウムIII 発達障害の診断と治療:生理学的指標に基づいた知見
  • 安村 明, 髙橋 純一, 福田 亜矢子, 中川 栄二, 稲垣 真澄
    原稿種別: シンポジウムIII 発達障害の診断と治療:生理学的指標に基づいた知見
    2015 年16 巻3+4 号 p. 171-178
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】近年、注意欠如・多動性障害(ADHD)の中核症状として実行機能障害が着目されている。我々はこれまでにADHD児の特性を抽出するため、実行機能のうち意味干渉や色干渉に対する抑制機能について行動学的ならびに前頭部脳機能を検討してきた。今回、多施設共同研究により、脳機能定量評価法がADHDの診断補助に有用か否か検討した。ADHD児38例(年齢:10.4±2.3、12例服薬)及び年齢・性別・利き腕・及び非言語性知能をマッチング(p>0.1)したTD児46例(年齢:10.2±1.7)を解析対象とした。課題は色干渉抑制機能を評価する逆ストループ課題(RST)を用いて、課題遂行中の前頭前野の活動を近赤外線分光法(NIRS:OEG-16)により計測した。その結果、RST課題において、ADHD児はTD児と比較して干渉率が高いことが判明した(p<0.01)。ADHD群内では、干渉率と不注意の重症度(r=0.48、p<0.01)及び多動・衝動性の重症度(r=0.40、p<0.05)とにそれぞれ正の相関関係がみられた。また、RST課題中の脳活動において、右外側前頭前野脳活動がTD児と比べてADHD児で有意に低下した(p<0.05)。臨床診断結果に基づいて、干渉率及び前頭前野賦活量を指標として判別分析を行った結果、比較的高い判別率(79.8%)が得られた。ADHDの重症度と行動指標に相関関係があり、抑制課題遂行中の右外側前頭前野の脳活動がTD児と比較して低い点から、ADHDの臨床症状が線型性を持って予測できることが示唆された。より判別率の高いモデルを構築するために、今後は参加者の増加や指標のさらなる選定を行う必要性がある。

  • 髙橋 純一, 安村 明, 中川 栄二, 稲垣 真澄
    原稿種別: シンポジウムIII 発達障害の診断と治療:生理学的指標に基づいた知見
    2015 年16 巻3+4 号 p. 179-187
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】ADHD児に対する新規治療法としてニューロフィードバック (NF) 訓練の中でSCP (slow cortical potential) 訓練を中心に研究紹介を行なった。ADHD児10名のSCP訓練の有効性の検証を行ない、そのうち9名 (ERP指標では8名) が最終的な分析対象となった。訓練前後における神経生理学的指標として、事象関連電位 (ERP) 指標では注意の持続能力に関するCNV振幅を用いた。行動指標では、ADHD傾向を測定できるSNAP-Jが保護者によって評定された。脳波 (EEG) 指標では、SCP訓練におけるセッションごとの陰性方向および陽性方向のEEG振幅の変化を分析した。ERP指標の結果から、SCP訓練前後でCNV振幅の有意な上昇が見られた。一方、行動指標では、SCP訓練前後の評定得点に関する変化は見られなかった。SCP訓練中のEEG振幅については、セッションを経るにつれて陰性方向および陽性方向のEEG振幅の上昇が見られた。CNV振幅は注意の持続を反映することから、SCP訓練によって、対象児の注意の持続に関する能力が上昇したと推測した。以上から、本研究で実施したADHD児へのSCP訓練は一定の効果があったと考えた。また、SCP訓練中のEEG振幅が変容したことから、SCP訓練前後のCNV振幅の変化と訓練中のEEG振幅の上昇との間に何らかの関連が示唆された。

  • 金村 英秋, 相原 正男
    原稿種別: シンポジウムIII 発達障害の診断と治療:生理学的指標に基づいた知見
    2015 年16 巻3+4 号 p. 188-193
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】広汎性発達障害(PDD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)では診断する生物学的な指標がなく、他の医学的疾患を除外する必要がある。特にてんかんは発達障害との合併が多いだけでなく、その二次障害として多動や自閉的行動などがしばしば認められ、病初期にADHDやPDDなどと誤診されることが多い。これらより、脳波検査は発達障害の診療において重要な医学的検査と言える。一方、行動異常を有する児ではけいれん発作の有無によらず、脳波上てんかん性突発波を認める症例が多く存在する。てんかん児および発達障害児を対象に我々が行った検討より、PDDおよびADHDの行動異常に脳波所見、とくに前頭部突発波が関連していることが想定された。発達障害と関連を有する前頭葉機能は長期にわたり脆弱性が高く、てんかん原性の獲得あるいは皮質神経活動における異常放電(てんかん性突発波)という要因により、前頭部本来の若年期における脆弱性を基盤とした前頭葉機能障害を容易に生じることが、発達障害の病態の一つであると推察される。その結果としてPDDやADHD児に認められる様々な行動障害も生じる可能性が想定される。抗てんかん薬により前頭部突発波の改善を促すことは、発達障害の行動異常を改善させることに寄与するものと考えられる。発達障害の行動異常に対して従来のアプローチに加え、前頭部突発波を有するPDD/ADHD児の治療として、抗てんかん薬はその選択肢の一つになりえると考えられる。

特別講演
  • 松田 博史
    原稿種別: 特別講演
    2015 年16 巻3+4 号 p. 194-199
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】アルツハイマー病を主体とする認知症の早期診断や鑑別診断における脳核医学検査の有用性は広く認識されている。脳血流や脳グルコース代謝のみならず、ドパミントランスポータやアミロイドβ蛋白の蓄積も評価可能である。典型的には、アルツハイマー病初期では後部帯状回から楔前部および頭頂葉皮質に血流低下がみられ、レビー小体型認知症では後頭葉の血流低下が加わるとされる。しかし、アルツハイマー病初期から前頭葉の血流低下が目立つ例、レビー小体型認知症で後頭葉の血流低下がみられない例が少なからずみられ、その原因についての解釈が重要である。

教育講演
  • 河野 禎之
    原稿種別: 教育講演
    2015 年16 巻3+4 号 p. 200-208
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】認知症の中核となる認知機能障害を、認知機能検査により客観的に評価することの意義は大きい。特に、DSM-5にも示されているように、最近では複数の認知領域を客観的に評価することが強く求められている。これは、スクリーニング検査による診断補助のみではなく、認知機能をより詳細に多面的にアセスメントすることが求められているともいえる。たとえば、MMSEやHDS-Rによるカットオフ値は重要な指標となりうるが、各項目の反応や検査態度にも踏み込んで結果をみることにより、特に障害されている領域あるいは保たれている領域を考慮することができる。COGNISTATやWAISのように多面的かつ標準化された検査を用いれば、より客観的にそれらを把握することも可能となる。くわえて、こうした認知機能検査の結果はその後のケアにも有用な情報を多く含む。たとえば、遅延再生課題の再生が困難であっても再認が可能であれば、日常生活の問題でも適切な手がかりを利用することにより達成できるものがあることが予想される。したがって、結果の「得点」のみに着目することなく、ケアにつながる適切な情報として変換されることにより、認知症の本人にとっての認知機能検査の意味はより大きなものとなりうる。言い換えれば、認知機能検査を「どのように活かすか」について、医療側・ケア側で一定のコンセンサスを得ておくよう環境を整備することが強く望まれている。

ランチョンセミナー
  • 阿部 康二
    原稿種別: ランチョンセミナー
    2015 年16 巻3+4 号 p. 209-214
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】ライフスタイルの欧米化が進行する中で、高血圧や高脂血症、糖尿病などの血管老化性疾患が増加している。このような疾患は脳梗塞の危険因子であると同時にアルツハイマー病を中心とした認知症の危険因子でもある。日本社会の超高齢化に伴って脳の虚血性変化を伴ったアルツハイマー病も急増している。高血圧や高脂血症、糖尿病などの血管老化性疾患治療によって、脳血管およびその周囲を重層的に構築しているいわゆるneurovascular unit(NVU)を全体として保護するというneurovascular protection (NVP)という新しいパラダイムに基づいて認知症予防に新しい展望が開かれつつある。

原著
  • 奥畑 志帆, 久保 佑樹, 小林 哲生
    原稿種別: 原著
    2015 年16 巻3+4 号 p. 215-224
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル フリー

    【要旨】本研究ではひらがなとカタカナを用いたスタンバーグ記憶課題遂行中の記憶照合に伴う脳活動を脳波α帯活動の同期/脱同期とα帯活動抑制時間に基づき検討した。実験では文字の発音が同じであってもひらがなとカタカナの区別をする図形的照合(GI)条件と読みが同じであればそれらを区別しない音韻的照合(PI)条件を設定した。両条件とも記憶する文字数1/3/5文字の3条件を設定した。全脳領域を対象とする128チャンネルより課題遂行中の脳波を記録し、テスト刺激呈示後の記憶照合期間のα帯活動を解析した。その結果、頭頂-後頭領域優勢にα帯活動抑制が観察された。この抑制からの回復にかかるα帯活動抑制時間は、GI条件ではメモリセットサイズが増加するにともない延長したがPI条件ではそのような傾向はみとめられなかった。GI条件では後頭・頭頂・左右中央領域においてα帯活動抑制時間と反応時間の間の正の相関が有意であり、記憶負荷に応じた抑制時間の延長を報告した先行研究と一致した。一方、PI条件ではその相関は有意ではなかった。この結果から、α帯活動抑制時間はGI条件において記憶照合にかかる時間を反映するものの、その領域特異性については明らかにされなかった。反応時間の結果から、音韻的照合と図形的照合を相互に採用する条件であっても、系列的・網羅的な記憶照合がなされていることが分かった。今後はEEG信号の発生源に着目した検討により、記憶照合にかかる時間と記憶負荷との相関の高い脳領域の特定が可能になると考えられる。

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