唯物論=観念論、実在論=現象主義.存在=意識、心=身、等の問題での核心の一つは知覚の問題である.知覚をどう考えるかが、これらの問題の一つの岐れ目になるものと思う.ところが自然科学の進歩は、ますます知覚の因果説、即ち知覚の物理生理的説明を支持してゆくようにみえる.だが、知覚の因果説は、大脳や神経組織を含む物理的事物 (や場) と知覚内容との区別を前提し、この意味で二元論の立場をはっきり採っているように思われる.そこで、以下ではこの知覚の因果説を検討し、次の諸点を明瞭にすることを試みたい.
(イ) 知覚の因果説の二元論的解釈は重大な困難に導く.ケラーの提案も成功しない.
(ロ) その解決のため、現象主義の一元論を考えてみる.但し、センスデータ説はとらない.この現象主義は科学知識の客観性を損わない.
(ハ) この現象主義をとると、 (イ) の困難はすべて消滅する.しかも知覚因果説の科学的内容には変化がない.
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