1991年以来雲仙岳で発生している火砕流は基本的には溶岩ドームの崩壊に起因するものであり, 溶岩ドームの正確な形状, 体積, 位置, 方向を知ることは火砕流の発生, 流下予測を行う上で極めて重要である。しかしながら, 溶岩ドームは標高約1, 400mの雲仙岳山頂部にあるため雲が掛かりやすく, さらに常時噴煙が生じているため, 可視光ではその全体を観測できる日数は限られており, 特に梅雨期では溶岩ドーム全体を観測できる日は極めて僅かである。このため, 従来から用いられている空中写真を用いた地形計測では, 溶岩ドームの地形を随時計測することはできない。このような, 従来の計測手法の問題点を解決する手法として, 航空機に搭載した合成開ロレーダ(SAR: Syntehtic Aperture Radar) を用いて雲仙岳の地形計測を行い, 我が国で初めて成功した。
今回用いた合成開ロレーダ(SAR) では航空機に搭載した小さなアンテナ(開口が約30cm×10cm) から飛行しながら次々と地表に向けて電磁波(波長が約3.2cmのマイクロ波) を発射し, 同時に地表面からの反射波を2個のアンテナで受信して地表の各地点に関するデータを得た。得られた二つの反射波の位相のずれを用いてコンピュータ上で干渉させて, 干渉縞画像を作成し, これをもとに地表面の標高を計測した。地表の標高は5m×5mメッシュで直接, 数値として得ることができるため, このデータを用いて, 火砕流のシミュレーションを容易かつ迅速に行うことができる。なお, 今回の計測による地表面の標高の測定誤差は約±3~5mであった。
合成開ロレーダはマイクロ波を用いているため, 雲, 雨, 噴煙等の影響を受けずに地表の撮影, 計測を行うことが可能であり, 火山噴火時, 曇天, 雨天, 夜間における地形計測が可能である。さらにこれを小型飛行機に搭載することにより, 任意の時に空からの撮影, 計測が可能となり(人工衛星JERS-1「芙蓉」の回帰日数は約44日である) 緊急を要する, 火山噴火, 地震, 豪雨等による地すべり等の突発的で大規模な自然災害の調査, 観測, 研究, 二次災害防止対策等への利用が期待される。
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