戦後,自動車による移動図書館として国内で早期に巡回を開始した高知県立図書館の自動車文庫を対象に,戦前期における巡回文庫との連続性を踏まえながら,巡回開始の経緯や背景を実証的に分析した。その結果,同館の自動車文庫は,戦前期から積み重ねられた巡回文庫を基盤に,町村の建設を進める青年団の活動を媒介としながら戦後期に引き継がれ,高知県独自に成立したことが明らかになった。加えて,青年団の基盤となる活動の一つとして,青年教育の役割も併せ持ちながら,町村の自治振興の担い手を育む使命を背負っていた。
19世紀中葉に成立したボストン公立図書館は,一般民衆を対象とする健全な通俗書の提供,それに将来の社会を担うエリート層への包括的な蔵書の提供という2つの目的を持っていた。そして諸研究は前者を重視し,それがアメリカ公立図書館の基本的性格を形成したと把握してきた。本稿は1853年から1875年にいたる図書館利用規則の検討を通じて,同館の利用規則が将来の社会を担うエリート層に手厚い措置を講じていたことを明らかするとともに,利用規則自体に年齢,フィクション,階級についての同館の考えが明示的,黙示的に示され,それがまた図書館の目的に直結していることを明らかにした。