本報文は, 灌溜や産業化の影響で地域構造が変化したタイ農村について述べたものである。対象地区のバトンタニ州コンルアン地区は, 90年前に低湿地や酸性土壌に適応した稲作地として計画された地区である。本研究では農業従業者と非農業従事者を無作為に抽出し, アンケート調査を行った。
コンルアン地区はバンコックの北40kmに位置しており, 面積は298扁である。地区の人口は約60,000であり, 世帯数は13,650世帯である。
各集落は灌概用水を単位として形成されている。地区の構造や人々の生活は水路と密接なつながりを持っており, 農業は水路に支えられている。地区全体は全て灌概されており, 米の二期作を行うことを可能にしている。当地区で農業を行う人々にとって灌概システムの影響は非常に大きい。しかし用水の配分については, まだ農村地区全体に対して平等に配分することはできていない。
また土壌は圃場や果樹園に適しているため, 米, オレンジや他のフルーツの栽培が行われているが, まだ肥料等での改善が必要である。
地区で使用されている農業技術としては, 農業機械の一般的な利用, 高収量品種や化学肥料の使用などがある。以上の技術の下, コンルアン地区の収穫量は, 国の年平均収穫量と比較して高いものとなっている.
農業経営に関しては, 資金や知識, 土地の適応性や市場価格を個々の農地で考慮しなければならない。その農村計画学会誌Vol. 12, No. 1, 1993年6月のため米の二期作は, 収入を得るまでの期間が短い, 投資額が小なくてすむ, 売れなかったときの貯蔵分が少なくてすむなどの点で特に収入の少ない農家に人気があった。
現在, 地区の土地利用は農用地が減少し, 住宅地や工場地が増加している. ハイウェイ近郊の地区では工場地の著しい増加が見られ, 他の地区では雑種地・原野の増加が見られる。
産業化は, 西側のハイウェイと鉄道の通る間にのみ集中して形成され, 東側はまだ農業集落のままである。また東側は複合家族が主であるのに対し, 西側は核家族化が進んでいる. この結果地域の工業化は家族構造に変化をもたらしたといえる。
地区に住む住民の大部分は農家である。そして農家の持つ農地は, 住居から非常に近い。しかし約半数の農家は土地に対する所有権を有していない。
小数割合である非農業事者は殆どが工場で働いており, そこまでは公共バスか工場が用意したバスで通勤している。
1人当たりの農業収入は, 工場労働者よりも低いものとなっている。またこの工場は一番多くの労働力と投資を地域から受けている。
本報文では, 以下の3点についての議論を行っている。
1) 灌概の住民に与える影響
灌概用水は農業用の重要な水資源であるばかりでなく, 生活用水としても重要である。コンルアンでは灌概用水を用水, 輸送手段, リラクゼーション用として利用している。このため用水の損失は, 農業社会や農村生活様式の損失をも含むものである。
2) 農村土地利用の観点からみた地区に現存する問題
当地区での計画策定は多くの機関によってなされ, 各々の方向性で実行されている。その結果混乱したものが出来上がっている。最近では高い割合で農用地から宅地, 工業, 商業用地, 原野への転用が行われた。農用地減少の原因は以下のようである。
-バンコックの急激な人口増
-ナショナルハイウェイによる利便性の向上
-インフラ整備や土地取得用の投資費用の減少
また農用地が減少した結果, 以下のことがみられる。
-他地区での農産物価格の高騰
-農村地区の大多数の住民の収入や仕事の減少
-大気汚染等の都市化現象
-土地への二重投資
-森林伐採の拡大
3) 営農上の問題
営農上の問題としては, 土壌養分の不足がある。このことは農民に対し, オーナーシップや知識, 資金等の欠如を引き起こすこととなる。
コンルアン地区の土地利用計画策定上の提言としては, 適切な割合での農用地保存の実行, 効果的な土地利用計画や規制の実行, 灌概用水の十分な維持管理, 土地集団化の推進強化, 公正な方法による地主権利の分配, 汚染を最小化するような土地利用ゾーニングの実施等を挙げることが出来る。
抄録全体を表示