数個から数万個程度の原子が凝集したクラスターは,高強度自由電子レーザーとの相互作用で孤立原子と大きく異なる振る舞いが見られる.本稿では我々のグループで行ってきた,SPring-8 Compact SASE Source 試験加速器でのクラスター実験から得られた主な知見を紹介する.バルクとほぼ同じ原子数密度で構成原子が凝集しているクラスターでは,多光子吸収が容易に起こることに加えて,生成した多数の電子・イオンが相互作用することでナノプラズマの生成をはじめとした興味深い状態が実現されていることが実験から示唆されている.ここでは主に,極紫外自由電子レーザー照射によってクラスターがイオン化する過程と,生成した電荷の振る舞いについて議論する.
1985年にKrotoらによりサッカーボール型構造をもつC60の存在が実験的に示唆されて以来,既に25年以上が経過した.その間,炭素原子だけからなる物質群として,数個~数十個の炭素原子からなる鎖状,環状構造をもつもの(クラスター),球殻状構造をもつもの(フラーレン),筒状構造をもつもの(ナノチューブ),単層~数層のグラファイトシート構造をもつもの(グラフェン)など,様々な炭素ナノ構造体が実際に作製され,多くの新しい実験的知見が得られてきた.また比較的最近,宇宙空間にC60が実際に存在することが分光学的に確認された.本稿ではこうした炭素ナノ構造体の研究の過去から現状に至る流れについて,主として分光学に携わる立場から,また個人的感想も一部交えながら御紹介したい.