タンパク質をはじめとする生体分子では,水素結合の組み換えによって複数の折り畳み構造が存在し,それぞれの化学的性質に生体への影響が異なる.また,前回紹介したクラスターにおいても複数の構造異性体が共存するため,そのまま分光実験を適用すると個々の構造異性体の性質が重畳する.そこで,異性体毎の励起状態の情報や化学反応性を明らかにするためには,移動管法を利用したイオンの構造異性体分離を適用した後に,分光や反応実験を適用する必要がある.本稿では,移動管法によるイオンの構造異性体分離を利用した研究について実験手法と結果についてまとめる.特に,異性体毎の分光・反応研究について,実例を挙げつつ概観する.
光と電波に挟まれた周波数領域にあるテラヘルツ光は「未踏領域」として長年その発生,検出手法の開発が進められてきた.近年の非線形光学に基づく波長変換技術の飛躍的な発達により,現在は比較的容易に高強度テラヘルツ光を発生させることが可能となり,その応用研究も急速に進められている.本稿では,テラヘルツ光の特性や基礎的なテラヘルツ光学を概観した後,高強度テラヘルツ光発生手法とその利用研究について筆者らの研究を交えて解説する.