原子衝突学会誌しょうとつ
Online ISSN : 2436-1070
2 巻, 6 号
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  • 籏野 嘉彦
    原稿種別: 解説
    2005 年 2 巻 6 号 p. 3-
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/01/19
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    分子の真空紫外光励起による超励起状態の生成とその解離過程(解離性イオン化過程を含まず中性断片化過程のみを意味する)のダイナミックスについて最近の実験研究の成果について解説する.Platzman によって物質に対する放射線作用に関する理論的考察に基いて提唱された「超励起状態」というアイデアは,それ以降の多くの実験・理論の研究の結果,特に最近の実験技術の進歩に基いて実証された.新しく開発された実験技術は,シンクロトロン放射光を励起光とし,(1)生成する解離断片の状態を選別したコインシデンス分光および二次元分光と,(2)光吸収断面積(光学的振動子強度),光イオン化断面積,光解離断面積,光イオン化量子収量の絶対計測である.これらを用いて観測された超励起状態は,その内のほとんど大部分は振動・回転励起,2電子励起,または内部コア励起した,多くのイオン状態に収束する高Rydberg状態である.Rydberg状態でない場合も観測されている.このような高い励起状態にある分子の解離ダイナミックスと解離断片生成物は,イオン化しきい値より低い励起状態の場合に比べて著しく異なっており,予測に反して選択的な解離過程も観測されている.また,光イオン化量子収量絶対値の広い光子エネルギー領域における計測から,予測に反して,分子は著しくイオン化しにくく,代わって化学結合の切断が優先することが明らかにされた.以上の基礎的知見の応用として以下の二つについて概説する.分子超励起状態は,電子・イオンおよびイオン・イオン再結合,Penning イオン化,電子付着過程等の多くの衝突過程について,その衝突錯合体として考えられている.また,放射線化学,光化学,反応性プラズマ,核融合炉のエッジプラズマ,上層大気,宇宙空間,粒子検出器,放射線生物学・医学・治療等の基礎過程における重要な反応中間体としても考えられている.終わりに,凝縮相における分子超励起状態の振る舞いについて考察した結果を紹介する.

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