原子衝突学会誌しょうとつ
Online ISSN : 2436-1070
20 巻, 5 号
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  • 雨倉 宏
    原稿種別: 解説
    2023 年 20 巻 5 号 p. 104-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/15
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    前編では,固体中に埋め込まれた金属ナノ粒子が高速重イオン照射により,照射前の球形から楕円形さらにナノロッドに変形する現象について紹介した.ナノ粒子の体積が保存されれば,ある方向(長径方向)にナノ粒子が伸びると,その方向と垂直な(短径)方向には縮むこととなる.短径がこれ以下に縮まらず,楕円化の停止する「最短楕円化短径」の存在が実験から示唆された.そして“変形が起こる/起こらない”の条件が,真空中のナノ粒子モデルや非弾性(電子励起)熱スパイク(i-TS)モデルを用いて,ナノ粒子の融解・気化との関連で議論された.しかし変形の起こる条件は議論されても,変形を誘起する具体的な駆動力については未だ触れていなかった.後編では,これまで紹介した楕円化変形を示した金属ナノ粒子が埋め込まれていた媒質の多くがシリカであったため,まずはナノ粒子を含まないシリカについて高速重イオン照射した場合に誘起される変形現象について紹介する.具体的には、照射誘起密度増加とイオンハンマリング(IH)効果である.金属ナノ粒子の理解の前にシリカの照射挙動について説明する.特にIH効果は一時期、ナノ粒子の楕円化変形の駆動力と考えられたが、我々の分光学的測定から得た楕円化変形のフルエンス依存性とは相容れないため候補から除外される.実験結果はむしろi-TS効果と分子動力学(MD)を組み合わせた二温度MDによるシミュレーション結果と適合する.残された問題であるナノ粒子の変形に伴う原子数非保存,産業応用のために本現象をより低エネルギーのイオン照射で引き起こす取り組みについても言及する.

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