原子衝突学会誌しょうとつ
Online ISSN : 2436-1070
6 巻, 3 号
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  • 小池 文博
    原稿種別: 解説
    2009 年 6 巻 3 号 p. 4-
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/01/19
    ジャーナル フリー

    前回はリチウム原子の3電子励起状態を例に取り中空原子状態の性質について考察をしました[1].一般に,独立粒子モデルの下では,原子の電子状態の励起はFock空間の素励起で与えられ,内殻イオン化はFock空間の空孔生成と理解されます.このように原子の電子状態の変化を素励起や空孔といった “準粒子”の生成や消滅として理解されるのですが,ところが,このような理解を可能にするためには実は非常に大きな仮定が必要です.“準粒子”はこれを生成する演算子と対応する1電子軌道関数によって定義づけられるのですが,これが “準粒子”の生成や消滅の際に変化しないということです.例えば,リチウム原子の2sや3s軌道が基底状態と中空原子状態とでそれぞれ同じであれば電子が2sから3sに励起されたことを議論できます.ところが,電子が2sから3sに励起することにより電子の座席としての2s軌道が変形してしまったら,そのような議論はできません.したがって,独立粒子モデルの枠内で電子状態の励起を理解するためには,基底状態と中空原子状態を同一の基底関数系で展開しなければなりません.ところが前回の稿[1]でも指摘したように, Hartree-Fock(Dirac-Fock)近似の下では異なる電子状態を個別に最適化できます.異なる電 子状態は異なる基底関数系で記述されますので,励起あるいは脱励起する電子を1つずつ数えることはできなくなります.しかし,多電子原子の中の独立粒子の存在は単なる仮定に過ぎないし,異なる電子状態を個別に最適化すれば計算の精度は上げられるので,独立粒子モデルに拘ることは必ずしも得策ではありません.独立粒子の考えを少しだけ諦めて定量的な議論にも耐えて,かつ,物理的にも解りやすい考え方を導入するのも良いのかもしれません. 本稿では,ベリリウム原子 (Be) を例に取り上げて解説します.まず,前回の稿[1]で取り上げたリチウム (Li) 原子には無い,Beで初めて現れる,基底状態の性質について考察します.次に,いわゆるシェイクアップ(shake up)のモデルを敷衍して中空原子状態の励起と性質について論じてみることにします.

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