極端紫外域での太陽コロナ観測で見つかった鉄多価イオン原子過程の問題が,大型ヘリカル装置(LHD)を用いた分光実験により解明された.プラズマパラメータを制御できるLHDは,太陽コロナ診断に重要な鉄多価イオン分光データを提供している.国際熱核融合実験炉(ITER)成功の鍵を握る高温プラズマ中のタングステン多価イオン原子過程について,モデリング・実験両面から研究の進展がある.専用に開発された電子ビームイオントラップ(CoBIT)を用いて取得されたタングステン多価イオン分光データは,LHDでの複雑な発光スペクトルの分析を可能にした.基底状態の磁気双極子遷移を利用したユニークなタングステン多価イオン輸送も研究も始まっている.
陽電子は電子の反粒子であり,電子と出会うと対消滅してγ線となる.また対消滅に先だって,陽電子と電子がポジトロニウムと呼ばれる水素様原子を形成することがある.消滅γ線には,消滅前の情報が残されており,陽電子やポジトロニウムがどのような状態にあったか,あるいはどのような相互作用を経験したかを読み出すことができる.本稿では,本号より連載される,シリーズ「陽電子が昇物質の科学」の冒頭に当たり,陽電子消滅研究の概略を述べるとともに,ポジトロニウムと気体分子との相互作用に関する研究を幾つか紹介する.この分野では,国内の研究者が多く先駆的役割を果たしてきた.
分子に強いレーザー光を照射して発生する高次高波長は,その解析から分子の電子状態の情報が高い空間・時間分解能で得ることができることから近年盛んに研究が行われている.本稿では私たちがこれまでに行ってきた,以下の二つの研究を紹介する.(1)配列した分子から発生する高次高波長の,分子の配列方向に対する依存性を,光パラメトリック増幅器から出る波長1300nmのパルスを基本波として調べた.CO2分子から発生する高次高波長はN2やO2と異なり基本波の偏光が分子の向きと平行なときに強度が弱まることが波長800nmの光を基本波とした場合について報告されていたが,より高波長な波長1300nmの光を基本波としても同様の現象が起こることが確かめられた.(2)高次高波長のイオン化限界近傍における振る舞いを調べるため,隣り合う次数間の位相差を調べる装置を開発した.この装置によりArとN2から発生する高次高調波を測定して比較したところ,11次と13次の位相差に有意な違いが現れた.考えられる原因として,クーロンポテンシャルの形状の違いの影響を検討した.