作物個体の生理動態を解析する上で必要な装置として, 本研究では, 蒸散速度とともに茎葉部と根部のCO_2収支を別々に測定できる個体用同化箱を試作した.そして, 根部呼吸速度を長期間連続測定できることを確かめるとともに, 異なる培養液条件下で育成したイネ幼植物を材料として, 5日間の乾物増加量とCO_2収支の測定を行い, 両者の関係から装置の有用性を検討した.その結果, 赤外線ガス分析法によるCO_2の放出速度に基づいて根部呼吸速度を連続的にかつ高精度に測定するためには, 培養液のpHと温度を厳密に制御することが必須条件であることが明らかとなった.また, CO_2収支から推定した5日間の乾物増加量は実測値と一致し, さらに, 全呼吸量に対する各々の部位の呼吸割合と乾物分配率との間に正の相関関係が認められ, 呼吸と乾物分配の間の密接な関係が明確に示された.本装置を用い, CO_2収支, 蒸散速度の測定に加えて養分吸収の同時測定を実施することによって, ストレス環境下における生理状態の解析など作物の個体全体の生理について, そのダイナミックな動態を解析することが初めて可能となり, このような目的に本装置は極めて有用と考えられた.
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