要旨:近年,国際コンテナ輸送の定時性が著しく低下してきており,グローバル・サプライチェーンに多大な影響を及ぼしている。その大きな原因の一つは,海運アライアンスの再編に伴う特定の港湾・ターミナルへの寄港の集中である。混雑度の高いターミナルにおいて,寄港船の到着が遅延したり,荷役が長引いたりしてバースに空きがない場合,到着船は沖待ちを強いられる。本研究は,我が国の主要コンテナターミナルを対象として,AISデータを活用した沖待ち船の特定により,待機するコンテナ量・時間を推計し,海外港湾との比較分析を行ったものである。その結果,我が国のターミナルでは,平均100時・TEU/m/月前後の沖待ちが発生し,特に小さい船型の沖待ちが多かった。
要旨:カキ養殖は,水産物の提供という機能だけでなく,海陸間の物質循環や海水の浄化機能,環境教育やレクリエーションの場など多面的な機能を有している。カキ小屋は,レクリエーションの場として各地でにぎわいを見せており,漁業者や地域にとって貴重な観光資源となっている。本研究では,カキ小屋の経済価値および訪問客の意識変化という面から,カキ小屋がもたらす交流機能に着目した。はじめに,トラベルコスト法を用いて大阪府阪南市西鳥取漁港のカキ小屋の経済価値を算出した。算出額は運営費用を上回る1,070万円となり,カキ小屋が費用以上の価値を生み出していることがわかった。さらに,訪問前後における訪問客の意識変化から,カキ小屋はカキの提供に留まらず,漁業者と交流する場,海や地魚への親しみが増す場として期待できることがわかった。特に,海から離れた地域に居住する市民にとって,カキ小屋が好影響を及ぼすことがわかった。
要旨:国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門 むつ研究所は海洋環境変動の解明に向け、津軽海峡をモデル海域とした海洋環境モニタリングを行い、データサイトMORSETSを開設して情報発信している。本稿は、地域関係者によるMORSETSの利用価値評価の予備調査として、青森県下北半島の漁業関係者への聴き取り調査を行い、その利用概況を把握した。その結果、漁業関係者は、①主に陸上で、出漁前にスマートフォン等で日常的にMORSETSを利用していること、②MORSETSと他の情報とをあわせて、漁具の設置・回収や出漁を判断していることが明らかとなった。また、彼らは対象魚種や漁法に応じ、それらと関係の深い漁業に有益なより詳しい海洋環境情報を望むことが確認された。あわせて、海洋環境情報の利用の背景には漁労形態の違いが影響する可能性があることや、本調査で得た漁業関係者のローカルノレッジは、研究者と漁業関係者の双方にとって有益な海洋環境研究の進展に寄与する可能性も垣間見えた。本結果は、研究者と地域関係者とが共に取り組む海洋科学研究を進める他地域にとって有用であり、今後はより客観的な海洋環境情報利用の価値評価が必要である。