沿岸域学会誌
Online ISSN : 2436-9837
Print ISSN : 1349-6123
21 巻, 4 号
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論文
  • 戸巻 昭三, 森居 久, 竹沢 三雄, 後藤 浩
    2009 年 21 巻 4 号 p. 13-26
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:本論文は 北海道の猿骨海岸において,猿骨川の導流堤設置前後の 1975年と 1986年における波打帯の斜面勾配と海浜地形の関係について述べたものである.その結果.汀線より陸側の斜面勾配 tan αと海側の斜面勾配 tan βの比である tan α /tan β と bar 頂部の水深 hc と汀線から bar 頂部までの水平距離 Xc の比hc/Xc の関係は hc/Xc=A ・ tan α /tan β ))+B で与えられることが 1975 年と 1986 年の深浅測量の解析によって明らかになった.ただし, A, B は定数である.また,斜面勾配が急な場合には,波の反射率が大きくなり,斜面勾配が緩やかになると波の反射率が小さくなること が,波の遡上高の最大値を生じる斜面勾配の比tan α /tan β から説明することができた.

  • 佐々木 直美, 多部田 茂, 北澤 大輔
    2009 年 21 巻 4 号 p. 27-38
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:東京湾を対象として,陸域からの負荷量等の変化に伴う生態系の動的な応答を見るために,長期間の連続した生態系シミュレーションを行った.河川流入負荷の経年変化,埋め立てによる干潟の減少,漁獲による取り上げ等の外部要因とともに,底生系における栄養塩の挙動と溶出フラックスの変動を考慮した計算を行った.その結果,現在では内部生産による二次CODの割合が高いことが確認された.また溶存酸素濃度を指標として見ると,流入負荷の削減による貧酸素化解消の効果が埋め立てによってほぼ相殺されていることが示された.

  • 田丸 修, 但馬 英知, 山崎 新, 山下 成治
    2009 年 21 巻 4 号 p. 39-48
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:近年,漁家経営状況は悪化の傾向が見られ,北海道の代表的漁村である函館市南茅部地区においても漁家経営の改善が求められている.しかし,漁業センサスに代表される漁業統計資料では,漁家における兼業の組み合わせを考慮しておらず,主としている漁業種類が同一の経営体において兼業の種類が異なっていても経営体区分として扱われてしまう.このため,より有益であると考えられる兼業の組み合わせを案出することは出来ない.

    本研究では,南茅部地区内全漁家の漁業経営データベースの作成を行い,兼業の組み合わせを抽出した.パレート分析の結果,漁業種類別の漁獲金額上位2種が各経営体における漁獲金額の大部分を占めていることから,それぞれの経営体の主要漁業種と,最も漁獲金額が高い兼業種類の組み合わせを兼業タイプと定義した.兼業タイプ別の分析を行った結果,①主要漁業種は同じでも兼業の組み合わせにより漁獲金額が異なる,②組み合わせは同じでも操業地区により漁獲金額のバラつきが大きいタイプ存在することが明確になった.これらの成果によって,今後南茅部地区における兼業タイプの決定要因の解明を行うことが可能になった.

  • ポカレル パラメソル, 松尾 直規, 武田 誠
    2009 年 21 巻 4 号 p. 49-57
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:IPCCレポートによれば,次の100年において0.18m~0.59mの海面上昇が生じると予想されており,地球シミュレータを用いた解析により降雨量が約20%増加するとも言われている.著者らは都市域を対象に,下水道システムをモデル化した高度な氾濫解析法を構築している.そのモデルには,合流式下水道の雨水吐からの流出が考慮されており,都市域,河川域,海域における水の挙動とそれらの相互作用を一体的に取り扱うことに特徴がある.本研究では,この解析モデルを用いて,都市の内水氾濫災害に焦点を絞り,地球温暖化による海面上昇と降雨の変化の影響や,治水計画論的観点からの地球温暖化の影響を検討する.本研究から,海面上昇が内水氾濫に与える影響や,地球温暖化に伴う治水安全度の低下を示し,目安的であるが,対象領域の場合,現状の施設による100年生起確率を有する降雨による0.50m以上の浸水面積は,100年後の地球温暖化のひとつのシナリオの下では,45年生起確率の降雨による0.50m以上の浸水面積と同程度であることなどが示された.

  • 原 喜則, 小島 治幸, 鄢 曙光
    2009 年 21 巻 4 号 p. 59-68
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:沿岸域の自然環境に関する多くのデータは様々な機関により蓄積されてきたが,それらの情報が十分に活用されているとは言い難い状況である.有効活用する一つの方法として地理情報システム(Geographical Information System,GIS)が考えられる.本研究は,GISにより各種自然環境に関するデータを一元管理および統合化するとともにデータベースを構築し,調査対象の沿岸域における自然環境評価を行うことを目的としている.結果は,GISを用いることにより各種データを容易に解析・表示することが可能であった.空港島などの建造により物理的環境は確実に悪化したが,化学的環境は悪化の傾向はみられず,空港島周辺で台風(気象・海象)の影響と思われる一時的な悪化がみられた.

  • 但馬 英知, 田丸 修, 山崎 新, 山下 成治
    2009 年 21 巻 4 号 p. 69-80
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:北海道漁業の端緒となった道南地域の漁業集落の史的遷移構造とその形成要因を書誌学的手法により明らかにした.地理学的観点や歴史学の時代区分を援用し設定した時代・地域の産業史を精査した.道南の漁業集落は,本州側需要が引き起こした水産物交易による海から拓けた地域に存立してきたことが明らかとなった.漁場や航海路を開拓・確保していく際には,津軽海峡の海流などの地理的環境・自然環境の影響が大きく関与することがわかった.漁具や船舶の技術的発達に伴い,経済行為を最適化できるように域内の集落形成がされたと考えられた.特に,集落形成に関わった要因は経済学でいう「土地」・「労働」・「資本」の生産三要素に集約することができ,現在の漁業集落の構造と変わりのないことも明らかとなった.地勢的特徴に基づく産業・経済の発展と時代的に異なる社会構造の変化は,水産・海洋に関する要素連関の動的応答として顕れることが示された.

  • 中澤 公伯, 岩下 圭之, 大木 宜章, 宮崎 隆昌, 神野 英毅
    2009 年 21 巻 4 号 p. 81-96
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:房総半島南部沿岸域を対象に,藻場造成と海藻の利活用を想定し,GIS技術と広域空間情報による現存藻場の立地評価を行った.水深,透明度,表層および水深10mの二層におけるDO,COD,全窒素,全リンの年間平均値と藻場の立地に関する空間分析を行った結果,藻場では,東京湾海底谷における底層海流の流入との関係も含めて,何れの項目も特徴的な値となっていることが判明した.また,これらの結果を用いた事例として,本研究対象領域で最も効率良く光合成が行なわれているアラメ場における各水質のレンジを求めて該当する海域を抽出すると,対象領域70万haの21%~53%が該当し,全ての水質項目のレンジを満たす海域を導出すると,130,997ha:研究対象領域の18.7%が抽出された.この結果から,漁業権や輸送,造成技術を考慮してアラメ場造成可能領域をモデル計算すると,63,518haが抽出され, CO2約9Mt・y-1の消費が算定された.

  • Jovanovic Vladimir, 上月 康則, 山中 亮一, 三好 真千, 大谷 壮介
    2009 年 21 巻 4 号 p. 97-111
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:尼崎港内の直立護岸周辺で,有機物や重金属の環境動態に及ぼすムラサキイガイの影響を明らかにすることを目的に研究を行った.護岸壁面にはムラサキイガイが多量に付着し,その活発な摂餌活動によって,直立護岸前では植物プランクトン量は少なく,溶存酸素は低くなっていた.また,ムラサキイガイの糞や偽糞の排出によって,沈降物量は直立護岸から50mの港湾中央部と比べて2倍大きく,これを懸濁態有機炭素および窒素に換算すると港湾中央部と比べて3倍の値を示した.また,重金属の中でも特にZnの沈降過程にはムラサキイガイの摂餌作用が大きな影響を及ぼし,CdとPbはより粒径の細かい懸濁物の挙動に影響を受けていることが示唆された.

報告
  • 高木 泰士, グェン ダン タオ, レ バン コング
    2009 年 21 巻 4 号 p. 113-119
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:ここ数年,経済成長の著しいベトナムの沿岸域開発の動向を現地調査およびヒアリングの情報に基づいて報告する.特に,現在ベトナムが国家事業として強力に推進しているVan Phong湾の港湾開発事業の様子を現地における見聞に基づいて詳しく紹介する.現時点では,ベトナムの沿岸域のいたる場所で大規模開発が進行中という状況にはないが,ベトナムの国土が南北に長大な海岸線を有することからしても,このような高い経済成長に後押しされて,港湾開発等の沿岸域開発が急速に進行していくことは容易に想像がつく.実際に現地調査とヒアリングを通じて実感された状況は,大規模な開発が各所でスタートする前夜の様相に近かった.

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