沿岸域学会誌
Online ISSN : 2436-9837
Print ISSN : 1349-6123
33 巻, 3 号
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論文
  • 香川 哲, 齋藤 稔, 岡 直宏, 浜野 龍夫, 宮田 勉
    2020 年 33 巻 3 号 p. 27-35
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:燧灘海域で操業する小型底びき網漁業で投棄されるトリガイの実態を調査し,その投棄トリガイを養殖種苗として選別する基準を明らかにする実験を行った。さらに,低利用状態の香川県観音寺市室本港で投棄トリガイを種苗として使い,遊休漁業資材を使ったコンパクト養殖試験を実施した。調査から,燧灘では秋生まれ群や春生まれ群が漁獲加入する3月から10月の間,投棄サイズの小型トリガイが多数漁獲されること,12月以降の戦車こぎ網漁では,トリガイの殻が強く破損され,種苗として用いた際に生残率が低下すること,破損していない個体でも水温が高まる夏季には生残率が低い場合があることが判明した。また,養殖用種苗には破損が無い個体とひび割れ程度の破損個体を選択すべきであり,殻が欠損している個体は適していないことが判明した。室本港内で養殖したトリガイは,90%以上が出荷サイズに成長し,投棄トリガイを種苗に使うコンパクト養殖は可能と判断した。

  • 松本 範子, 安田 誠宏, 山中 亮一, 松下 紘資, 田島 佳征, 佐藤 裕則, 岡本 玄洋, 中西 敬
    2020 年 33 巻 3 号 p. 37-47
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:沿岸域の生態系は,海岸の埋立てや陸域からの土砂流入などにより,広範囲に影響を受けており,サンゴ礁も影響を受けている。「開発」と「環境」は対立するもの,相容れないものとして捉えられているが,開発か環境かという対立軸ではなく,共存できる方策が求められている。本研究の目的は,サンゴが良好な状態で分布していることが確認された沖縄県本部町浜崎海岸の人工リーフを対象に現地調査を行い,サンゴの生息分布特性と流況、水質および堆積物の関係について考察することである。調査の結果,人工リーフの位置によってサンゴの被度ならびに構成する形態が異なること,それには堆積物量や低低潮時に出現する流動特性が影響していること,リーフ周辺での水質環境がサンゴの生息にとって好ましいことを見出すことができた。

  • 杉本 あおい, 杉野 弘明, 上田 昌子, 船坂 香菜子
    2020 年 33 巻 3 号 p. 49-58
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:超高齢化社会の到来を前に,農山漁村を含む地域の活性化が喫緊の課題として叫ばれている。この課題解決の一方策として「関係人口」の創出と活用が社会的に注目されているが,これについての実証研究はまだ十分ではない。そこで本稿は,この実態を実証的に明らかにし,これが地域活性化に貢献すべく今後深められるべきテーマについて論じることを目的とする。全国5,000人に対するアンケートの結果,「関わりのある地域(関係地)」を有していると回答したのは40.4%(うち漁村部3.5%,郊外部34.6%,都市部48.6%,農村部11.1%,その他2.2%)であった。関わり方としては血縁関係やライフイベント(就学,就労など)を介したものと共に,それらを介さない関わり方も多く存在し,そうした関わりによって高い地域愛着を有する人々が日本全国に存在すること,他方で血縁を介した地域に負の愛着を有する人々も多く存在することが示された。人と地域の関係性には血縁の有無に関わらず正負双方の多様性があり,農山漁村を含む地域の活性化方策を検討する際には単に人口の量的拡大でなく,地域愛着を含む関係性の「内実」により着目した議論が発展する必要がある。

  • 脇田 和美, 福代 康夫
    2020 年 33 巻 3 号 p. 59-69
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:2002年、大阪府沿岸で規制値を超える貝毒が初めて検出された。通常は貝毒が発生すると、食中毒防止の観点から潮干狩り場の開場を自粛する。しかし大阪府内の潮干狩り場では、無毒で安全な貝をお土産用として準備し、採った貝と交換して食の安全を確保することにより開場を継続している。本稿では、関係者への半構造化インタビューにより食の安全対策の実態や貝毒による潮干狩り場への影響等を明らかにした。また、貝毒に関する新聞報道の計量テキスト分析と記事の精読により内容の経時変化を明らかにし、潮干狩り場の取り組みに対する社会的評価を読み取った。その結果、運営主体による安全対策の徹底と中毒患者ゼロの実績、水産課からの自粛要請なしの事実が明らかとなった。貝毒に関する記事は減少する一方、潮干狩り場の安全対策は報道され続けており、取り組みは社会的に受け入れられているといえる。これらの要素が総体として貝毒に対する周知度・理解度を高めた可能性が示唆され、実際に貝毒による来場者数への影響は近年回避できている。潮干狩りは市民の海の娯楽であり、今後は潮干狩り場や貝の交換に対する来場者の意識も明らかにしていくことが重要である。

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