沿岸域学会誌
Online ISSN : 2436-9837
Print ISSN : 1349-6123
22 巻, 4 号
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論文
  • 藤枝 繁, 星加 章, 橋本 英資, 佐々倉 諭, 清水 孝則, 奥村 誠崇
    2010 年 22 巻 4 号 p. 17-29
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 海洋ごみ問題の解決に向けた対策立案のため,閉鎖性水域である瀬戸内海を対象に,海岸漂着散乱ごみの広域総量調査,定期モニタリング,海洋ごみ回収活動等に関するアンケート調査を実施し,さらに既存の海底ごみ,河川ごみ回収量に関する二次資料を合わせて,1BOX,完全混合,濃度均一の条件で海洋ごみの収支を明らかにした.その結果,現存量を海面浮遊ごみと海岸漂着散乱ごみの各総量を合わせた3,400tとすると,海域への総流入量は,陸からの流入量3,000t/年,海域での発生量1,200t/年,外海からの流入量300t/年を合わせた4,500t/年となった.一方,海域外への流出は,回収量1,400t/年,外海への流出量2,400t/年,海底への沈積量700t/年となった.ここでは瀬戸内海における海洋ごみの収支の試算方法を説明し,そこから得られる現存量等の削減の方策について述べる.

  • 永澤 宏文, 桜井 慎一
    2010 年 22 巻 4 号 p. 31-40
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:これまで動物園や水族館等で利用されてきた「擬岩」だが,近年では技術力が向上したことによって,より精巧に造られるようになり,全国各地の海岸整備で用いられるようになった.しかし,それらの事例の中には,地域にそぐわないものや,一見して違和感を覚えるものが見受けられる.そこで本研究は,擬岩を使った海岸整備の整備実態を把握するとともに,事例写真を評価するアンケート調査を実施し,事例相互の比較考察を通じて,擬岩利用の作法を明らかにした.

  • 鈴木 覚, 磯部 雅彦, 工藤 孝浩
    2010 年 22 巻 4 号 p. 41-50
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:本研究は東京湾の沿岸で行われていた生業の非経済的な価値について検討したものである.東京湾はわが国経済の発展の基盤となる臨海工業地帯や首都圏にふさわしい都市の形成を目的とした埋立等の沿岸開発が大規模に行われた.そのためにかつての江戸前文化を代表した海苔養殖や漁業などの生業は衰退した.経済が成熟化し,都市社会のコミュニティ再生や新たな豊かさが模索される現在,東京湾の自然の非経済的な価値(精神的・文化的価値など)を明らかすることが重要となっている.本論文では,かつて生業に従事した人々の暮らしの資料収集整理・聞き取り調査を行い,生業に従事した人々の発言やその活動について,稼ぎという経済的な目的以外の非経済的な価値の存在について考察した.その結果,東京湾の生業は自然と人々とが互いに関わりながら生計を維持する(経済的価値)とともに,生業を通じて人と人がつながるコミュニティや地域社会文化が形成され,自然との関わりそのものに生甲斐などの非経済的価値を明らかにし,こうした関わりを現代社会に即して再生することが求められていることを考察した.

  • 安田 誠宏, 間瀬 肇
    2010 年 22 巻 4 号 p. 51-61
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:沖合での津波観測波形を利用してリアルタイムで対象地点の来襲津波を予測する,逆解析予測法とニューラルネットワーク予測法を開発した。逆解析津波予測法では,小領域の格子サイズは 27km×27km以下とし,範囲は東南海・南海地震の波源域を含む範囲とする。沖合観測点が室戸岬および潮岬の2地点ならば,観測時間は地震発生から30分間必要であるが,観測点が室戸岬沖,潮岬沖および紀伊水道の浅川沖の3地点であれば,予測開始時間を10~15分後にまで短縮できる。ニューラルネットワーク予測法では,ネットワークの中間層ユニット数を10,中間層ユニットの応答関数をtansig型,出力層ユニットの応答関数をlinear関数とすることが最適であった。これらの手法を用いた津波予測結果は,数値シミュレーションによる計算結果を精度よく再現できることがわかった。

  • 北澤 大輔, 藤本 周平
    2010 年 22 巻 4 号 p. 63-75
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:二枚貝は,沿岸域の人工基盤に積み重なって生息する.二枚貝の活動による物質循環や食物連鎖の変化を予測する場合,一個体の摂餌速度や呼吸速度に,全付着個体数を乗じると,群集全体のこれらの速度を過大評価する場合が多い.これは,群集内部の二枚貝の摂時速度や呼吸速度が小さいためである.本研究では,東京湾隅田川河口域の円柱状基盤であるロープに付着したムラサキイガイ群集の積層構造を調査し,活発に活動していると考えられる個体数の比率を明らかにした.また,円柱状基盤に付着するムラサキイガイの個体群モデルを構築し,群集の積層構造を再現した.2層構造の場合は,全個体が活動すると仮定した場合に比べ,摂餌速度や呼吸速度が20~30%小さくなることを示した.

  • 浪川 珠乃, 原田 幸子, 婁 小波
    2010 年 22 巻 4 号 p. 77-91
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:統合的な沿岸域管理の必要性が認識され,海域の一元管理体制が動き出す中,沿岸域をめぐる管理のあり方や日常的な管理主体のあり方を模索する重要性が高まってきている.本論では,開発要請を受けて漁業権を放棄した後もなお沿岸域で漁業を営む漁業者が,沿岸域管理における海域環境保全という面で果たしている役割の実態と特徴について,横浜市漁協柴支所を事例に考察した.柴支所の事例より,協働システムとしての漁業者による日常的な沿岸域管理の仕組みにおいて,漁業者が多様な利用者をつなぐコミュニケーションの促進,共通目的の構築,誘因の設定という役割を果たしていること,それらの行動が管理主体としての正当性を形作っていることを明らかにした.また,日常的な沿岸域管理主体として漁業者が機能するためには,沿岸域利用に対する社会的要請を反映した管理主体としての新たな正当性の獲得,漁業者集団を維持する努力が必要であることが導かれた.

  • 宮本 卓次郎, 新井 洋一
    2010 年 22 巻 4 号 p. 93-104
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:従来の公的な災害対策は,災害対策基本法に基づき「人命財産の保護」を第一の目的として対応が図られてきた。しかし,近年の産業活動は国際分業によって成り立っており,災害対策における産業活動の保護(「産業防災」)の重要性が増大している。このような認識の下,本研究は地震災害時の港湾を核とした国際物流サービスの維持回復に関し,BCP(事業継続計画)手法を適用して,名古屋港を事例に実践的に検討したものである。国際港湾物流サービスの維持について,海域から陸域に至る関係者の協力の下,被災シナリオの共有,サービス主体毎の自己点検,復旧に要する時間を指標としたボトルネック抽出,ボトルネック解消の取り組みを,一連のサイクルとして繰り返し取り組むことを「PLCP(港湾ロジスティクス維持計画)」として提案するとともに,この取組みを名古屋港で試行的に実施した。これらの検討により,国際港湾物流サービスへのBCP適用の有効性と航路漂流物対策,岸壁の耐震化などの重要性,自己点検の手法,関係者間の情報共有などに関する課題を明らかにしている。

  • 明田 定満, 網中 宗利, 中澤 公伯, 末永 慶寛
    2010 年 22 巻 4 号 p. 106-114
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー

    要旨:藻場は稚仔魚の生息場,隠れ場,餌場としての機能に加えて,海域における栄養塩類や二酸化炭素を吸収固定する場としての機能が注目されている.藻場を形成する海藻類のうち,ホンダワラ類は春~夏季に流れ藻として流出(有機物を域外に排出)することから,海域の水質浄化に対する寄与が期待されている.本論では海域の水質浄化に対する流れ藻の寄与を検討するため,香川県高松市庵治地先の造成藻場を対象に,(1)藻場を構成する海藻群落が栄養塩類をどれだけ吸収固定しているのか,窒素固定量を指標に検討するとともに,海藻群落の窒素固定が持つ社会経済的価値について,下水道整備費との比較から費用対効果分析を行った.(2)流れ藻は域外に流出するのか,数値モデルを用いて流出過程を検討した.その結果,藻場造成手法毎に単位面積当たりの窒素固定量は異なるが,藻場造成による便益は年間4-14千円/m2程度見込まれることが明らかとなった.また,対象海域では,春~初夏に卓越する西風に乗って,流れ藻は域外に流出することが現地調査,数値解析から確認された.

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