本実験は, 照明による刺激変化が反応減少に及ぼす効果を明らかにする目的で行なわれたものである。実験に際して我々が仮定したことは次の様なものであった。すなわち, 照明の与えられる事態の新奇さは好奇動因を生ぜしめ, この動因により探索反応が惹き起されるが新奇さの程度は訓練事態に対する被験体の慣れの度合に依存するから, 与えられる訓練の量が多ければ, それだけ刺激が変化された事態の新奇さは増し, したがって探索反応も増加する。この場合, 探索反応の生起は訓練された反応の反応強度を妨害し, 結果として反応減少をもたらすから, 訓練の量が増すにしたがって相対的な反応減少の量も増加する。さらに, 同一訓練レベルで, 好奇動因の強さに差を生ぜしめるような2つの照明 (180Lと18L) が与えられると, 強い照明 (180L) に対して多くの探索反応が働き, 弱い照明 (18L) よりも結果として顕著な反応減少を生ぜしめるというものであった。
そこで我々は, 54匹のシロネズミを用い, そのうち10匹を統制群とし, 残りの44匹について, その半分の被験体に対して, 直線走路で18回の強化 (飢-餌) 訓練試行を与えた後, 走路へ上記の2種の強度の照明による刺激変化を導入し, 他方, 残りの半分の被験体に対しては, 37試行目に同様の刺激変化を導入し, その時の走行時間を調べた。
実験の結果, 18回の強化訓練試行の後に刺激変化を導入した場合, 被験体の走行時間に変化はなく, 訓練の初期における反応減少は小さいかあるいは全くないことが明らかになった。次に36回の強化訓練試行の後に刺戟変化を導入した場合, 弱い照明 (18L) による刺激変化の与えられた被験体の走行時間は有意に増加したけれども, 強い照明 (180L) に対して有意な走行時間の増加は認められなかった。したがって, 我々が最初に仮定したことを裏付ける明確な結果は得られなかったが, 少くとも, 訓練の後期に弱い照明による刺激変化が導入されると, 反応減少が惹き起されることだけは確認された。また潜時に関しては37試行目に強い照明が与えられた被験体の潜時だけが増加したが, 分散分析の結果は有意でなかった。
最後に, 照明の強度と訓練の量を検討せねばならないこと, 刺激変化により生ずる種々の探索反応の特徴が明らかにされる必要があること, および反応減少を表現するいろいろな反応強度の測度に関連して, 他に2つの実験が可能なことなどを示唆した。
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