行動経済学
Online ISSN : 2185-3568
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2 巻
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論文
  • 筒井 義郎
    2009 年 2 巻 p. 1-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿は,主観的幸福感を分析する幸福の経済学が,経済学と社会厚生にどのような福音をもたらすかを考察する.主観的幸福感を効用の代理変数として用いることができれば,所得分配の問題を解くことが可能になるという,大きな恩恵をもたらす.しかしながら,主観的幸福感の時系列比較は「幸福のパラドックス」と呼ばれる奇妙な現象を引き起こす.この「パラドックス」が発生する理由としては,相対所得仮説と順応仮説があげられ,実証分析によっても支持される.本稿は「幸福のパラドックス」に2つの反論を提出する.第1に,主観的幸福感の測り方として,各時点において幸福感の水準を尋ねるのではなく,幸福感の変化を尋ねることである.幸福感の変化の和分を幸福感とすれば,「幸福のパラドックス」が生じない可能性がある.第2に,主観的幸福感は個人の内省に基づくものであり,比較と選択を基本とする効用概念と違っている.個人の行動にとって重要なのは後者であり,「幸福のパラドックス」をもって,生活水準の向上が無駄であると結論するのは適当でない.
  • 大薗 陽子
    2009 年 2 巻 p. 16-48
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿では,管理職の能力に関する自己評価について,男女の性別による差異が存在するかについて検証を行った.推計結果からは,管理職の能力に関する自己評価全体において,男性管理職と女性管理職の間に統計的に有意な差は存在しなかった.次に,管理職の能力に関する自己評価(12項目)を個別に検討した結果,「業務遂行能力,実行力」,「責任感,目的達成意識」の2項目に関しては,女性管理職の方が男性管理職よりも有意に自己評価が高かった.
    一方,「幅広い知識·教養」,「判断力」の2項目に関しては,男性管理職の方が女性管理職よりも有意に自己評価が高かった.そして,残りの8項目である「交渉力」,「部下指導力」,「企画力,開発力」,「説得力,論理構築力」,「専門的知識や高い技能·技術」,「リーダーシップ」,「変革力,創造力」,「対人関係調整力」に関しては,男女の管理職間に統計的に有意な差は観察されず,概ね自己評価に関して男女間には大きな差は存在しないことが分かった.
  • —アンケートデータを用いた実証分析—
    盛本 晶子
    2009 年 2 巻 p. 49-59
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    双曲線型割引関数を持つ個人は,過剰消費の誘惑という自己統制の問題を抱えている.賢明な個人は,この誘惑に打ち勝つためにコミットメント手段を利用する.流動性の低い資産での貯蓄は過剰消費を防ぐために有効なコミットメント手段だが,このコミットメント手段を利用することは,流動性の高い資産からの限界消費性向の上昇·流動性の低い資産からの限界消費性向の下落に繋がる.それゆえ双曲線型割引関数を持つ個人の限界消費性向は資産の流動性に依存して異なる.本稿では,2005年から2007年の間に日本国内において大阪大学が実施した「暮らしの好みと満足度に関するアンケート」を用いて,家計の割引構造と限界消費性向との関係を検証した結果,双曲線型割引関数を持つ家計はそれ以外の家計に比べて,所得の変化が消費量に与える影響は大きい一方で,固定資産残高の変化が消費量に与える影響は小さいということがわかった.
  • 水谷 徳子, 奥平 寛子, 木成 勇介, 大竹 文雄
    2009 年 2 巻 p. 60-73
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿では,なぜ男性は女性と比べて,自身の成果のみに依存した報酬体系よりも他人の成果にも依存する報酬体系を好むのかについて,日本人学生を対象に実験を行うことで原因の解明を試みる.分析の結果は次の通りである.(1)男女でパフォーマンスの差はないが,女性より男性のほうが競争的報酬体系(トーナメント制報酬体系)を選択する確率が高い.(2)そのトーナメント参入の男女差の大部分は,男性が女性よりも相対的順位について自信過剰であることに起因する.(3)男女構成比は相対的順位に関する自信過剰に影響を与える.男性は女性がグループにいると自信過剰になり,女性は男性がグループにいないと自信過剰になる.(4)相対的自信過剰の程度をコントロールすると,トーナメント参入の男女差に対する競争への嗜好の男女差による説明力は弱い.
第2回大会プロシーディングス
  • パネルディスカッション「行動経済学は政策に役立つか?」
    大竹 文雄, 岩本 康志, 齊藤 誠, 松島 斉
    2009 年 2 巻 p. 74-87
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
  • 石部 真人, 角田 康夫, 坂巻 敏史
    2009 年 2 巻 p. 88-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    先進国株式市場を対象に最小分散ポートフォリオを構築し,その実現リスクが期待通りに低いこと,および時価加重ポートフォリオとの比較検証を通して,最小分散ポートフォリオが時価加重ポートフォリオよりも優れた効率性を示すことを実証する.さらに日本株のリスク分位ポートフォリオを構築し,リスクとリターンのトレードオフが成立していないことを示す.
  • —ディスポジション効果の検証—
    高橋 陽二, 山田 和郎, 宇野 歩
    2009 年 2 巻 p. 93-97
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    1997年9月から2004年12月までに,ジャスダック,マザーズ,ヘラクレスに新規公開を果たした企業809社を対象に,IPO後の価格形成と出来高(株式売買回転率)の関係を検証することによって,ディスポジション効果があるのかを検討する.
  • 金崎 芳輔, 許 東海
    2009 年 2 巻 p. 98-101
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    中国株式市場におけるリターン決定要因を調べる実証研究を行った.実証手法は事前の株式指標の大小に応じてポートフォリオを形成し,その後の平均収益率を観察するものである.結果として,過去の収益率の最大値が事後の平均収益率と強い関係があることが観察された.この事実より,中国株式市場では分散投資をできない個人投資家たちが過去に大きな株価上昇のあった株式を過大に評価して投資する非合理的な投資行動を取っていることが推測される.
  • —国内株式一般型ファンドとの比較検証—
    呂 潔, 宮井 博
    2009 年 2 巻 p. 102-106
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    多くの欧米の先行研究では,社会貢献型ファンドの投資機会には制約があっても,一般の株式ファンドとの比較では,パフォーマンス上,統計的に有意な差は確認できないことが示されている.一般の株式ファンドと社会貢献型ファンドで,いずれのパフォーマンスが勝っているかを一概に決定づけるには難しい.しかし,社会貢献型ファンドは,組成の際のCSRの評価を経て,一般の株式ファンドとの行動様式(運用スタイル)が異なっていると考えられる.
    本稿では,運用会社を同じくする社会貢献型ファンドと国内株式一般型ファンドの運用スタイルを比較するに当たって,Fama-French の3ファクターに対する各ファンドのエクスポージャーの推移の差異について検証した.分析の結果,運用会社によって,社会貢献型ファンドの運用スタイルが株式一般型ファンドと必ずしも異なるとは限らないことが明らかになった.
  • —巴林右旗における調査をもとにして—
    王 秀紅
    2009 年 2 巻 p. 107-110
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    中国の1農村地域を対象に2つのアンケート調査を行い,農家におけるメンタル·アカウンティングの存在とその内部構成を検証した.検証結果によると,農家の家計行動において,メンタル·アカウンティングが存在しており,しかも,収入,支出,貯蓄それぞれにおいて,安定的な内部構成を持っていることが分かった.
  • —Evidence from Daily Records of Self-directed Learning Activities—
    Kazuki Onji
    2009 年 2 巻 p. 111-113
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    To complement the theoretical analysis on the self-control problems of decision makers, this paper empirically examines a remedy for procrastination. The setting for our study is university coursework, and we utilize unique data on daily records of self-directed learning activities. With quasi-experiments arising from the different frequency of interventions across classes, we examine the hypothesis that in-class prompts by an instructor mitigate the degree of procrastination. Further, with a registration mechanism that generates the grouping of students by their own preference, we consider whether student-class matching affects students’ responsiveness to prompts. In a sample of Japanese undergraduates, we find that prompts affect behavior, especially when reinforced. The impact of intervention, however, appears to be dependent on the class preferences and the timing of prompts. The study suggests that a minimally interventionist policy may have real impact but may fail to influence target groups.
  • 北村 智紀, 中里 宗敬
    2009 年 2 巻 p. 114-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    Gneezy and Potters (1997)などの1期間2項モデルを繰り返して利用した過去の近視眼的損失回避(MLA)に関する研究では,投資の損益を判断する価値関数の参照点がその時点の取引価格とした場合に,MLAと整合的な実験結果を得た.本稿では,2期間2項モデルを利用し,参照点がその時点の取引価格ではない場合にも,評価頻度が高いトレーダーの方が,リスク資産への配分が低まる傾向があることが確認された.
  • 多田 洋介
    2009 年 2 巻 p. 118-122
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    行動経済学を制度設計に応用する試みは,学界とは異なり政策現場では実証的な分析,規範的な政策提言ともに僅かな例しか存在しない.行動経済学を政策議論のツールとして応用することを阻みうる構造的な要因には非規範性,政府の失敗,倫理性,行動パターンの多様性と文脈依存性があり,政策応用の進歩には慎重かつ漸次的なアプローチが重要である.
  • Greg Mardyla, Ryoko Wada
    2009 年 2 巻 p. 123-129
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    We conduct a novel virtual stock market experiment that aims to investigate the motives behind short-term investment behavior at the individual decision-making level. In particular, we focus on individual investors trading strategies in response to public information —about prices, macroeconomic news, and relevant individual-stock information. The distinguishing feature of our experiment is the use of factual contemporaneous news items directly related to the stocks in subjects’ portfolios. We were able to obtain a few interesteing information-related results: (i) more information leads to more frequent trading; (ii) while shorter trading horizon results in more orders and in more overall information usage, the average amount of information used per decision does not differ with horizon length; (iii) majority of trading is of the positive-feedback type —following individual stock prices and the market as a whole; (iv) the shorter the trading horizon, the more pronounced is the positive-feedback effect. We also examined the motives behind specific buying and selling decisions: our subjects’ investment decisions are driven largely by psychological motives; in particular, regret aversion is a habitually common reason for trading and for not trading —through the disposition effect.
  • Vipul Bhatt, Masao Ogaki
    2009 年 2 巻 p. 130-132
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    This paper discusses the tough love model of intergenerational altruism we developed and some of on-going empirical research on tough love behavior in survey data collected in Japan and United States. The tough love model modifies the Barro-Becker standard altruism model in two ways. First, the child’s discount factor is endogenously determined, so that low consumption at young age leads to a higher discount factor later in her life. Second, the parent evaluates the child’s lifetime utility with a constant high discount factor. The tough love model predicts that transfers from the parent will fall when the child’s discount factor falls. This is in contrast with the predictions of the standard altruism model that transfers from parents are independent of exogenous changes in the child’s discount factor. In the empirical work, the hypothesis that parents’ tough love behavior is affected by their worldviews is investigated.
  • 権田 直
    2009 年 2 巻 p. 133-137
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿においては,証券市場の効率性に影響を与えていると考えられる投資家の非合理的行動として,Benartzi and Thaler (1995)(以下BT (1995))等によって指摘されてきた「近視眼的損失回避行動」を取り上げ,実際のデータを用いてその存在を数量的に明らかにするとともに,日本の金融市場の効率性を検証する.
  • —Underprice, Overpriceを決定する要因—
    比佐 優子, 比佐 章一
    2009 年 2 巻 p. 138-140
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本論文では,新規上場(IPO)におけるアンダー·プライシングの決定要因について分析を行った.アンダー·プライシングは,投資家と経営者の間に情報の非対称性が存在するときや,投資家の横並び行動が存在することに起こりやすいことが知られている.分析の結果,ベンチャーキャピタル(VC)が,情報の非対称性を解消する役割を果たしていない可能性があることがわかった.
  • 昭和と平成におけるヒット曲=流行歌の調性,テンポと経済状況の関係
    保原 伸弘
    2009 年 2 巻 p. 141-144
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    今回の金融危機にも見られるように,マクロ経済学は社会心理によっても影響を受ける.ヒット曲も経済や社会の状況を意識してリリースされる以上,その性質は経済や社会の状況をよく反映されると考える.本稿では,経済社会の状況を反映した大衆消費文化の代表として,日本の昭和期および平成期に流行ったヒット曲の性質(調性,テンポ)とその年の経済状況に有意な関係があることを示す.
  • 山根 智沙子, 山根 承子, 筒井 義郎
    2009 年 2 巻 p. 145-148
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿は,大阪大学21世紀COEが実施したアンケート調査を用いて,所得と幸福度による地域間格差を分析した.まず,幸福度の格差は所得の格差より小さいことを見出した.次に,個人属性に由来する部分を調整した場合,県別での幸福度の差はほとんど解消することを見出した.また時系列でみると,所得格差は拡大したが,幸福度の格差は拡大していないことを示した.
  • 顧 そうえい, 竹下 俊一
    2009 年 2 巻 p. 149-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/03
    ジャーナル フリー
    本研究では,情報の有無による条件下で,人が債務を果たす上で,財務能力の違いによって預託金の償還請求の交渉(意思決定過程),当事者の行動(意思決定)の違いを明らかにすることを目的とした.ゴルフ会員権の償還問題に想定し,情報開示と情報非開示グループを比較した預け金についての修正最終提案ゲームについて実験研究を行った.
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