日本林学会大会発表データベース
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造林
  • 日射フィルムと全天写真
    河村 耕史, 武田 博清
    セッションID: P3023
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 森林林床に到達する光量子束密度(PFD)は、時空間的な異質性が高い。光量子計の利用可能台数などの制約から、林床の光環境を多点で評価する場合、曇天日に数台の光量子計を使って散光条件下における相対光量子束密度(RPFD)を測定する方法が多く使われてきた。しかしこの方法では、直達光も含めた積算PFDを測定することができない。そこで、本研究は森林林床の積算PFDを多点で測定する方法として、日射フィルムと全天写真の利用可能性について検討する。2. 調査地と方法 調査は、京都市の近郊に位置する京都大学フィールド科学教育研究センター里域ステーション上賀茂試験地(北緯35°04’東経135°46’標高150m)内のヒノキと広葉樹が混交した二次林で行った。2-1. 日射フィルム:約2×2cmにカットした大成化工社の日射フィルム(Oil-Red)数枚と、LI-COR社の光量子センサー1台(LI-190SZ)をセットにし、森林林床(高さ0.5〜5m)に設置した。約10日間露光させたのち回収した。PFDは、2分間隔で測定し積算値を求めた。日射フィルムは、設置時と回収時の透過率(To, T)を簡易光透過率測定器(TS-450)により測定し、換算式1により分光光度計の吸光度(Do、D)を求め、式2により退色率(F)を算出した。以上の調査を2003年の3月から12月にかけて合計39回行った。なお、フィルムの退色率と積算PFDの関係は、温度の影響も受けることが知られていたため、各露光期間中の日最高気温の平均値(K)を求め、式3により温度による補正を加えて解析する。 吸光度 D = a + b (- log (T/100)) ・・・・・式1 退色率 F = 100 - (D/Do)×100 ・・・・・式2  a, b: 測定器の種類によって定められた定数 F = (c K + d)×積算PFD ・・・・・式32-2. 全天写真:2003年の8月に、森林林床(高さ0.5〜2m)に合計30点、日射フィルムを設置した。約10日間露光したのち回収し退色率(F)を求めた。露光期間中に、日射フィルムの直上で全天写真を撮影した。カメラはNikon社のデジタルカメラ(Coolpix 900)に魚眼レンズ(FC-E8)を装着したものを用いた。全天写真からは、解析ソフト(HemiView)を用いて、露光期間内に照射された散光量と直達光量のオープンサイトに対する相対値(ISFとDSF)を求めた。3. 結果と考察3-1. 日射フィルム:フィルムの退色率は0.7〜62%の範囲で、積算PFDは16〜502mol/m2の範囲で、日最高気温の平均値は6〜32℃の範囲でそれぞればらついた。式3より退色率と積算PFDの関係に温度の補正を加え回帰式を求めた: F = (0.003 K + 0.052) 積算PFD ・・・・・式4   r2 = 0.99, P < 0.0001.式4から日最高気温と退色率から積算PFDを求める式5が得られた:積算PFD = F / (0.003 K + 0.052) ・・・・・式53-2. 全天写真:ISFとDSFはそれぞれ2〜13%と0.6〜24%の範囲で、同時に測定した日射フィルムの退色率は5〜78%の範囲でばらついた。退色率はISFでは二次式で、DSFでは一次式でそれぞれ回帰された: F = 0.477 ISF2 - 0.948 ISF ・・・・・式6  r2 = 0.87, P < 0.0001. F = 2.943 DSF ・・・・・式7  r2 = 0.92, P < 0.0001.実際の退色率はISFとDSFの両方の影響を受けて決まっていると考えられる。ISF, ISF2, DSFから退色率を回帰する式をステップワイズ法で求めたところ、説明変数としてISF2とDSFが選ばれた: F = 0.124 ISF2 + 2.082 DSF ・・・・・式8  r2 = 0.93, P < 0.0001. このように、日射フィルムの退色率と日最高気温のデータから高い精度(r2 > 0.9)で積算PFDを推定することができ、全天写真の光指標もまたフィルムの退色率と比較的高い相関を持つことが示された。ただし、全天写真の光指標は散光と直達光を分離してしまう点、画像解析に時間的労力が必要とされる点などから、積算PFDを推定する目的としては日射フィルムのほうがより簡便で精度も高いと考えられる。
  • 酒井 武, 奥田 史郎
    セッションID: P3024
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    低密度下で成長してきた二段林のスギ上木の成長を取りまとめた。調査地は2カ所で1つの林分は上木スギ(1901年植栽)、下木ヒノキ(1933年植栽)の二段林、もう一カ所は上木スギ48年生、下木スギ18年生となる二段林である。それぞれ、上木の間伐等の取り扱いを変えた調査区を設けて継続調査を行った。密度の差により直径成長に違いがみられないことから、いずれの試験地の間伐区においても密度効果が生じないほどの低密度が維持されてきたと判断できた。1901年植栽の上木では69年生時以降は、Ryが0.2-0.5程度と通常の単層林施業からくらべるとかなり低い状態を長期間にわたり継続してきたが、懸念される気象害やアバレ木的成長はみられなかった。ただし、両試験地とも下木の成長は遅く、下木の成長に重点を置く場合はさらに上木を低密度で管理する必要があり、その場合での成長の検証も必要である。
  • 矢部 浩
    セッションID: P3025
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的近年、公共事業等での広葉樹種の造林、既存の里山林における質の高い広葉樹林への誘導を目指した林相改良が盛んに行われるようになってきた。しかしながら、広葉樹造林樹種の立地環境に対する適応特性は十分に解明されておらず、また、初期保育においても未だその技術が確立されていないものが多い。質の高い森林への回復が急がれる松くい虫被害跡地に10種類の広葉樹と対照樹種としてヒノキを植栽し、植栽樹種個々の特性を明らかにするため、初期の生存率及び樹高生長量等について比較した。2.方法調査地は、鳥取県内の2箇所に設定した。施工前の植生は、ヒサカキが優占し、高木性樹種は生き残ったアカマツ、コナラ、ヤマザクラなどが認められたが、本数は僅かであった。調査地は1998年の秋に前生のアカマツ生立木及び枯損木、灌木等を伐倒し、1999年3月に10種の広葉樹及び松くい虫被害地における樹種転換の代表的な樹種であるヒノキを植栽した。植栽広葉樹種はケヤキ・ヤマザクラ・クヌギ・クリ・コナラ・ミズメ・キハダ・シラカシ・スダジイ・イヌエンジュとした。供試苗は全てポット苗を用い、ha当たりの植栽本数が4,000本となるよう植栽した。配列は水平方向に樹種毎、傾斜方向1列に20本づつ植栽し、横に隣接して反復区を設けた。植栽後は下刈りを年1回行っている。植栽後は、各個体の樹高及び根元直径を1成長期ごとに測定し、生存率と各種被害の発生状況を半年毎に測定した。3.結果植栽から4成長期を経過した時点での生存率はキハダ、ミズメ、イヌエンジュが80%以下となった。樹高及び根元直径の成長はヤマザクラ、クリ、スダジイがヒノキに比べ大きな成長を見せた。一方で、クヌギ、コナラ、キハダ、イヌエンジュは樹高成長、直径成長ともにヒノキに劣り、特にイヌエンジュの成長は芳しくなかった。雪害の発生状況は年によりバラツキがあるが、クヌギとスダジイに多くみられた。特にスダジイでは、植栽後5年間で植栽木の半数以上に被害が発生した。また、クヌギとスダジイでは被害形態が異なり、クヌギでは被害の半数が枝折れや枝抜けであったのに対し、スダジイでは幹折れが80%以上であった。雪害が直接の原因となって枯れた個体はなかった。
  • 17年の経過と現状
    佐々木 重行, 津田 城栄, 濱地 秀展, 野田 亮
    セッションID: P3026
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    はじめに 水土保全機能の維持・増進を目的として、スギ、ヒノキの複層林施業が行われている。福岡県でも、1983年から5カ年間にわたり水土保全機能強化総合モデル事業が行われ、その中で複層林造成が約200ha実施された。現在も水土保全機能発揮を目的とした複層林施業が取り入れられているが、受光伐は行われるものの、下木植栽はなかなか実施されていないのが現状である。これは、複層林施業の実態が未だよく分かっていないことが大きいと考えられる。これまでおこなわれた複層林施業についても、造成後から長期にわたり上木、下木の成長経過を測定した報告は少ない。 そこで、本報告では造成から約17年が経過した複層林の下木の成長経過、下木の形状比の変化などについて報告する。2.調査地の概要 調査地は福岡県田川郡添田町にある大藪県営林内に1985年から1988年にかけて8ヶ所設定した。上木と下木の組み合わせは、プロット1_から_3ではスギ(上木)_-_スギ(下木)、プロット4、5はヒノキ(上木)_-_スギ・ヒノキ混植(下木)、プロット6_から_8はヒノキ(上木)_-_ヒノキ(下木)の組み合わせである。設定当初の上木の林齢は27_から_51年生であった。下木の成長測定は樹高、胸高直径についてほぼ毎年1_から_3月にかけて行った。上木の成長測定は2_から_5年毎にやはり1_から_3月にかけて行った。プロット2は2002年に、プロット1、3、6_から_7は2003年に上木の受光伐が行われた。3.結果と考察 設定当初8箇所のプロットの上木は平均樹高14.7_から_18.1m、収量比数0.38_から_0.69であったが、1999年には平均樹高16.7_から_22.0m、収量比数0.51_から_0.82となった。図-1に2003年までの下木の樹高成長を示す。下木の平均樹高は3.25_から_8.47mであった。これは、上木の樹高から推定した地位指数曲線による林齢相当樹高の45_から_95%に相当していた。設定当初、本数密度が高く収量比数が0..68と高かったプロット1での樹高成長が最も低く、林内照度が低かったためと考えられた。また、スギとヒノキを混植したプロット4、5では、ヒノキがスギよりも樹高が高かった。また、下木がスギ、ヒノキのみのプロットを比較しても、ヒノキのほうが、良好な樹高成長を示していた。次に、下木の形状比の経年変化を図-2に示す。プロット1を除いて、形状比はほぼ90前後で推移していた。プロット1で形状比が高かったのは、林内の照度が他のプロットに比べて低かったためと考えられた。プロット2,7,8では1998年から形状比が高くなる傾向がみられた。これは、林内の照度の低下の影響、あるいは上木と下木が成長したことによる密度効果によって形状比が高くなり始めたのが原因かは不明である。今後は、受光伐後の下木の成長の変化について調査を進める予定である。
  • 延安周辺におけるリョウトウナラ天然林の林分構造
    山中 典和, Du sheng, 山本 福壽, 大槻 恭一, Xue Zhide, Wang shengqi, Hou Qingchong
    セッションID: P3027
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    中国の黄土高原においては現在、外来樹種のニセアカシアが多く植林されている。しかし、乾燥による森林限界付近ではニセアカシア林の土壌中に乾燥層が発達し、枯死や先枯れが目立ってきており、外来樹種による単純一斉造林の問題点が指摘されつつある。今後は、持続的な緑化という観点から郷土樹種を用いた本来の生態系の回復についても研究を進める必要がある。今回は、郷土樹種を用いた生態系回復のためのモデル植生として、黄土高原の延安付近にわずかに残存しているリョウトウナラ天然生林に焦点をあて、林分構造と更新に関する調査を行った。調査は黄土高原の中心部にあたるー「西省延安市郊外の公路山(N36°25′40″、E109°31′53″、alt.1353m)周辺で行った。ー「西省においては、北に行くほど降水量が減少し、乾燥が進むが、公路山を含む延安市一帯は、乾燥による森林限界付近と考えられており、延安地域を境に北に行くと森林は見られなくなり、潅木・草原地帯になる。調査地に最も近い観測点である延安市内の気象は1982年から1998年までの統計で、年平均気温は9.9℃、年降水量は517mmである。2002年10月に公路山のよく保護されたリョウトウナラ林に20mx40mの調査区を4つ設定した(Q1:N36°25.40’, E109°31.53’, alt.1353m, Q2: N36°25.865’, E109°31.526’, alt.1287m, Q3: N36°25.547’, E109°31.697’, alt.1266m, Q4: N36°25.885’, E109°32.71’, alt.1395m)。各調査区では胸高直径1cm以上の樹木すべてにマーキングを行い、樹種名を同定すると共に、胸高直径の測定を行った。また優占するリョウトウナラについてはすべての個体について樹高の測定を行うとともに、林冠木の他、各サイズクラスから数本ずつ選び、地上30cm位置で成長錘サンプルを収集し、年輪解析を行った。調査結果として、4林分ともに最も優占していたのはリョウトウナラ(Quercus liaotungensis)であり、BA割合で86.2_%__から_95.7_%_を占めた。本数の多いものとしてはCotoneaster sp.、 Caragana microphylla、Spiraeapubescens等が大きな割合を占めた。しかしこれらの種は下層を構成する種であり、樹高は1_から_2m程度であった。森林の上層を構成するリョウトウナラの平均直径は8.8cm_から_12.1cm、大きなものでは38.5cmのものがみられた。樹高は高いもので10m_から_14mであった。リョウトウナラ以外に上層を構成する種としてAcer stenolobum, Syringa oblata, Armeniaca sibirica, Pyrus betulaefolia, Acer ginnala, Platycladus orientallis等が出現した。リョウトウナラの直径分布はほぼL字型を示す林分(Q1、Q4)と一山型の林分(Q2,Q3)がみられた。L字型を示した林分では、直径1cm以下のリョウトウナラ稚樹も林内には多く見られ、リョウトウナラが連続して更新しているものと考えられた。成長錘サンプルの解析から、今回調査した林分はいずれも年齢の若い二次林であった。L型の直径分布を示したQ1プロットでは地上30cm地点の最高樹齢が59年であった。またQ1プロットでは年齢と胸高直径に強い直線関係が認められ、乾燥における森林限界に近い延安周辺においても、リョウトウナラの成長は約60年で直径30cmに達することが認められた。年齢と胸高直径の関係式から求めたQ1プロットの齢構造では、林内に若齢個体が多く存在しており、リョウトウナラによる更新が連続的に行われていることが明らかとなった。
  • 延安周辺における樹木の乾燥耐性
    山本 福壽, 山中 典和, Du sheng, 大槻 恭一, Han Ruilian, Liang Zongsuo, Hou Qingcho ...
    セッションID: P3028
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    中国の黄土高原において郷土樹種を用いた生態系回復を目指した研究を行っている。今回は、黄土高原に導入されている外来樹種のニセアカシアと郷土樹種数種の水分生理特性から見た乾燥耐性について測定を行った結果について報告する。調査は黄土高原の中心部にあたるー「西省延安市郊外の公路山(N36°25′40″、E109°31′53″、alt.1353m)で行った。延安市一帯は、乾燥による森林限界付近と考えられており、延安地域を境に北に行くと森林は見られなくなり、潅木・草原地帯になる。調査地に最も近い観測点である延安市内の気象は1982年から1998年までの統計で、年平均気温は9.9℃、年降水量は517mmである。2003年8月22日に公路山に植栽されたニセアカシア(Robinia pseudoacacia )及びこれと同一場所に自生する郷土樹種8種(リョウトウナラQuercus liaotungensis,Syringa oblata, Armeniaca sibirica, Rosa hugonis, Acer stenolobum, Caragana microphylla, Pyrus betulaefolia,Platycladus orientalis)について夜明け前と日中の木部圧ポテンシャルを測定した。これに加え、さらに郷土樹種4種(Cotoneaster multiflorus, Ostryopsis davidiana, Spiraea pubescens, Buddleja alternifolia)については日中の木部圧ポテンシャルを測定した。 また、夜明け前と日中の木部圧ポテンシャルの両方を測定した樹種の大部分について、p_---_v曲線法による耐乾性の測定を行った。水ポテンシャルの測定はすべてプレッシャーチェインバー(DIK-7001: Daiki co. Ltd., PMS1000: PMS instrument co.)を用いて行った。p_---_v曲線を求める際には、サンプルを30時間吸水させた場合と、吸水させない場合の二つの方法で行い、結果を比較した。今回測定した大部分の樹種では夜明け前及び日中の木部圧ポテンシャルはそれぞれ_1.0 及び _2.5 Mpaよりも低く、延安周辺の樹木は強い水ストレス条件下に生育していることが明らかとなった。夜明け前、日中ともに木部圧ポテンシャルが最も低かったのは Syringa oblata であり、日中の平均値で木部圧ポテンシャルは_---_4.02Mpaという値を示した。高木である、ニセアカシアやリョウトウナラの木部圧ポテンシャルは低木にくらべ高い値を示した。p_---_v曲線法により求められた乾燥耐性に関わるパラメータの中で、膨圧喪失時のポテンシャルについて、30時間吸水を行ったサンプルと無吸水のサンプルを比べると、吸水を行わないサンプルで膨圧を喪失する時のポテンシャルが低下した。この傾向はSyringa,Armeniaca, Rosa, Caragana 等の低木で顕著であり、より強い乾燥ストレス条件下で生育している樹木で強い浸透調節が行われていることが示唆された。
  • 長谷川 健一, 川崎 圭造
    セッションID: P3029
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     人手不足や経費削減等の観点などから下刈り等初期保育の省力化が検討されている。信州大学手良沢山演習林では下刈り省略試験区を設け,ヒノキ植栽木の生存や成長を広葉樹の侵入とともに検討してきた。その結果,植栽後10年程度ではヒノキの生存率に下刈りの有無による大きな差異は見られないが,植栽木のサイズは下刈りを省略すると小さくなる傾向があるということがわかった。そこで今回は,侵入広葉樹がヒノキ植栽木の成長経過に与えた影響に注目した調査を行い除伐等の必要性と時期を検討することを目的とした。 調査地は長野県伊那市の信州大学手良沢山演習林4林班は-3小班内にあり,標高約1100m,平均斜度32°斜面方位は北西(N22°W)向きのヒノキの2代目造林地である。植栽時(1993年)に斜面に対して,およそ縦10m×横30mの下刈りを行わない試験区が設置された(以下,N区)。N区以外の場所は1994年から6年間、年1回の下刈りが行われた。N区には縦10m×横30m、隣接する下刈りを行った場所には対照区(以下,W区)として縦10m×横10mの方形区がそれぞれ設けられており,2003年に毎木調査が行われている。 調査は,毎木調査結果を基にN区からヒノキ5本,広葉樹2本,W区からヒノキ3本をそれぞれ選木, 樹幹解析を行った。 樹幹解析対象木中,もっとも樹高の小さくクリ(C2)に被陰されていたヒノキ(N1)の場合では,W区の平均程度の樹高だったヒノキ(W2)と比較すると,植栽後1,2年はそれほど樹高に違いは見られないが,植栽後3年目から差が出始めており,それはほぼ植栽と同時に侵入してきたC2がN1と同等の樹高になった時期と一致していた。また,シラカンバ(B1)に被陰されていたヒノキ(N2)でもN1の状況と同様に,W2と比較すると植栽後5年目から成長に差が出てきており,N2がB1に追い越されたのが植栽後4年目とほぼ一致していた。N区の平均程度の樹高だったヒノキ(N3)ではW2と比較すると植栽7年目までは目立った差は見られないが,8年目から差が出始めていた。今回樹幹解析の対象木としなかったが,周囲にある広葉樹の影響が植栽後8年目頃から出始めたのではないかと考えられた。N区で比較的大きな樹高だったヒノキ(N4)とそれに隣接していたクリ(C1)の場合では,C1の侵入時期がC2やB1に比べて1,2年遅かったためかN4とC1が同等の樹高になるのは植栽後9年目と遅く,W2とN4の成長差が現れたのは植栽後8年目だった。広葉樹に樹高で追い越された後のW2との成長差がN1,N2の事例と比較するとN4の方が小さくこれには,C1の侵入位置がN4に対して斜面下だったことが関係している可能性もあった。周囲に競合しているような広葉樹が見られなかったN5では樹高成長経過はW2とほとんど変わらなかった。しかし,W区で比較的大きな個体だったW3と比較すると植栽後10年目から差が出始めていた。 このことから,下刈りの有無によって成長差が現れるのは侵入広葉樹の成長と強い関係があることがわかった。侵入していた広葉樹は陽樹が多く,樹幹解析対象にしたものもヒノキに比べて大きな成長をしていたことから,ヒノキと広葉樹を同じ階層で混交した林分として成林させるためには除伐等何だかの密度管理が必要だったと考えられる。時期に関しては,最適な時期を明瞭に知ることはできなかったが,植栽後7,8年目が目安になるのではないかと思えわれた。
  • 朱 海英, 川崎 圭造
    セッションID: P3030
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 伐採1年後の植生の相違
    島田 博匡
    セッションID: P3031
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに三重県尾鷲地域において伐採跡地が近年増加しているが、ほとんどの伐採跡地でウラジロが著しく繁茂してほぼ全面を覆い、木本類がまばらで疎林状態を呈している。伐採跡地を早期に低コストで森林化していくためには、現在の植生とその成因について把握する必要がある。筆者はこのような植生の成因として、ウラジロによる木本類の被陰や更新阻害のほか、シカ、カモシカによる食害(以下、獣害と略す)の影響が強い可能性を示唆した(島田,2003)。ウラジロが伐採跡地のほぼ全面を覆う前には伐採前から生育していた前生樹や、伐採後の先駆種などの発芽が多数ある可能性もあり、伐採跡地の成立本数の少なさには伐採後初期の獣害が大きく影響しているかもしれない。そこで、本研究では伐採直後の伐採跡地に獣害防護柵を設置して、シカ・カモシカの侵入を防いだ箇所と、同一伐採跡地内の未設置箇所において植生調査を行い比較することで、伐採後初期の植生とそれに与える獣害の影響を明らかにし、伐採跡地植生の成因について検討した。2. 調査地と方法三重県尾鷲市内の標高約250_から_300mに位置する、2002年11月に51年生のヒノキ人工林を皆伐した伐採跡地を調査地とした(約1.4haのうち0.57ha)。2003年3月に調査地のうち0.21haを高さ1.8mのステンレス線入りポリエチレン製ネットからなる獣害防護柵で囲んだ。全獣害防護柵内と柵外のうち0.06haについては地拵えによって粗大枝条を片付け、ヒノキ苗木を1000本/haの密度で植栽したが、植栽後、下刈などの施業は行っていない。2003年8月下旬、調査地内に4×4mの調査区を獣害防護柵内に10箇所、柵外に12箇所、設置位置に面的な偏りがないように設けて植生調査を行い、全維管束植物の被度(%)と高さを記録した。また、9月中旬に調査区内の全ての高木性・亜高木性樹種について個体ごとにマーキングを行い、樹高、獣害の有無、侵入時期(前生あるいは後生)を記録した。12月上旬には柵内外からそれぞれ5調査区ずつ選び、個体の生残について追跡調査を行った。3. 結果(1)植生調査でみられた維管束植物と植生タイプ各調査区において種ごとに算出した相対優占度を用い、クラスター分析(ward法)により各調査区を分類したところ、ダンドボロギク型(5調査区)、ダンドボロギク、タケニグサ、ウラジロが優占する草本型(4)、アカメガシワ、タラノキなどが優占する先駆性木本型(7)、アラカシ型(2)、ウラジロ型(4)の5タイプに分けられた。柵内の調査区は尾根部近くの1調査区のみがウラジロ型に分類されたが、その他は先駆性木本型、アラカシ型に分類され木本類が優占していた。それに対し、柵外はダンドボロギク型、草本型、ウラジロ型に分類され、伐採から1年目で柵内とは異なる植生タイプがみられ、獣害を受けにくいダンドボロギクやウラジロ、タケニグサなど草本類が優占していた。(2)高木性・亜高木性樹種の種組成と個体数個体数に柵内外のそれぞれで各植生タイプに分類された調査区群間で有意差はみられなかったため、柵内、柵外の調査区での個体数をそれぞれ平均し、両者を比較した。後生樹は、調査時に柵内の調査区では平均137.2本で非常に多くの個体がみられたが、柵外では獣害の影響を受けて30.2本しかみられず、有意な差が認められた(p<0.001)。前生樹では柵内は平均13.7本、柵外では10本で、有意差はみられなかったが、柵外では80%近くの個体が獣害を受け、樹高も低く押さえられており、今後さらに個体数が減少していくことが予想された。また、12月上旬に個体の生残を追跡調査したところ、柵内では平均100%の生存率に対して、柵外では57.7%で、多くの個体が消失しており、生存している個体の獣害率も上昇していた。4. 考察   伐採後1年目の伐採跡地において、獣害防護柵内外で、植生タイプや高木性・亜高木性樹種の個体数に大きな違いがみられ、柵外でも多くの前生樹や伐採後に発芽した先駆種などがあるものの、獣害を受けてほとんどが消失していることがわかった。尾鷲地域の伐採跡地では、まず伐採後の初期には獣害により多くの個体が消失してしまい、その後のウラジロの繁茂によりさらに残存個体は減少し、新たな更新も難しくなってくるというように、獣害とウラジロの両方の影響を受けて、現在のウラジロに覆われた伐採跡地となっているものと考えられた。
  • 大村 和也, 澤田 晴雄, 千嶋 武, 五十嵐 勇治, 斉藤 俊浩, 井上 敬浩
    セッションID: P3032
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    渓畔林再生実験におけるシカ食害対策○大村和也・澤田晴雄・五十嵐勇治・齋藤俊浩・千嶋武(東大秩父演)、井上敬浩(東工コーセン(株)) _I_.はじめに 東京大学秩父演習林では人工構造物等の布設により失われた渓畔林を再生する実験を行っており2001年に自生種の植栽を試みた。しかし、ニホンジカ(以下、シカという。)の著しい食害を受け植栽木の大部分が枯損する結果となった。そこで、2002年にシカ対策を施したうえで再度植栽を行い、その後の成長経過を調査してきた。本報では2002年から2003年にかけての調査結果にについて報告する。なお、本研究は東工コーセン株式会社(以下、東工コーセンという。)との共同研究として行われた。 _II_.資料および方法埼玉県大滝村に位置する東京大学秩父演習林内の豆焼沢砂防堰堤右岸の土砂堆積地に4区画の植栽地を設けた。この場所に渓畔林の高木層を構成するシオジ、カツラ、ケヤキの植栽と、亜高木層および低木層を構成するバッコヤナギの挿木、フサザクラ、フジウツギの播種を行った。今回行ったシカ対策は植栽木を1本毎に囲うタイプのもので、東工コーセンのネット式のラクトロン幼齢木ネット(以下、ラクトロンという。)、樹皮ガード式のデュポン・ザバーン樹皮ガード(以下、ザバーンという。)とA社チューブ式の3種類を用いた。各区画内とも3種類のシカ対策を行った樹木(シカ対策木)と行わない樹木(対象木)をランダムに配置した。_III_.結果と考察被害レベルの分布によるシカ対策の違いを図-1、2に示す。被害レベルとは、シカが植栽木に与えた食害の状態を示すものであり、以下の4段階に分けた。レベル0は植栽木の芯、枝葉ともに食害無し、レベル1は一部の枝葉に食害を受けている、レベル2は芯食害や折れは無いが全体の枝葉に食害を受けている、レベル3は芯食害ならびに全体の枝葉が著しく食害されている、と定義した。2002年4月の植栽時、シカ対策は標準的な高さの130cm_から_150cm程度のものを用いたが、直後にネット等から露出している部位を食害され、すべてのシカ対策木にレベル1_から_3の被害が発生した。食害された部位の高さを測定したところ平均で143cmであった。そこで2002年6月に樹皮ガード式、A社チューブ式、は180cm程度になるように付け足し、ネット式は200cmのものに交換した。その結果、2002年6月以降シカの食害が減少した。2002年と2003年のシカ対策別の年間平均成長量を表-1に示す。2002年はラクトロン-2.2cm、ザバーン-15.7cm 、A社チューブ式-2.7cmと減少しており当初の食害の影響を受けたものと考えられる。一方、対象木は-52.8cmと大きく食害を受けている。2003年はラクトロン22.7cm、ザバーン-2.4cm 、A社チューブ式3.6cmで成長の回復がみられ、対象木はほとんどが枯死して残った3個体の平均成長量は4.3cmであった。ラクトロンとA社チューブ式は植栽木の梢端まで囲う場合が多いので食害が抑えられる割合が高くなっている。しかし、ラクトロンでは伸長枝がネットの中で丸まったり、A社チューブ式ではチューブ内の梢端枯れが発生した。ザバーンは本来樹皮をガードするものなので、今回のような広葉樹幼齢木のすべて枝葉を囲うのは困難かつ成長に与える影響が懸念されるため、ラクトンやA社チューブ式と比較すると食害が多く発生すると考えられる。_IV_.まとめ無防備な対象木は食害の割合が高くほとんどが枯死した。それに対してラクトロン、ザバーン、A社チューブ式はともに枯死木はなく概ね順調に成長をしている。これらのことからシカ対策は有効であったと言える。謝辞本実験の植栽は森林ボランティア団体「瀬音の森」(せおとのもり)の協力を得た。ここに記して、謝意を表する。
  • 佐藤 保, 奥田 史郎, 伊藤 武治, 九島 宏道, 小松 輝弘
    セッションID: P3033
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに造林地における獣害への物理的な防除方法のひとつである単木的防護処理は,一部の資材が破損してもその被害は全体に及ばない利点があり,有効な防護手段であると考えられる。本研究では,生分解性の不織布により作られた防護用の筒が,若齢人工林の植栽木へのノウサギによる獣害の防護効果が認められるかを検討した。2.調査方法調査は,関東森林管理局東京分局茨城森林管理署高萩事務所管内の上君田国有林(茨城県高萩市柳沢)76ろ6林小班および79に7林小班にて行った。これら林小班内のスギおよびヒノキ造林地(3から4年生)内で,2000年にそれぞれの本数がほぼ同数(約100本)になるように不織布を設置した試験区(不織布区)と設置しない試験区(対照区)を1組として設定した。設置数はヒノキで4組,スギでは1組である。不織布区では,竹棒を芯に幅15cm,長さ40cmの不織布シ_---_トを2枚組み合わせて筒状にし,苗木を覆うように設置した。設置後,樹高の測定およびノウサギによる被害形態とその高さを2000年,2001年および2003年の秋にそれぞれ測定した。直径の測定は高さ100cmの位置とし,2003年のみ計測した。3.結果および考察調査期間内(2000年から2003年)における植栽木の枯死率を比較すると,ヒノキ2およびヒノキ3試験区では不織布区の枯死率が高かったが,残りの試験区で対照区の値が高い傾向にあった。同様にノウサギによる被害率を比較するとスギ試験区を除き,全ての試験区で対照区の被害率が高い傾向にあった。一方,樹高成長および直径の場合,相反する結果が試験区間で見られ,明瞭な傾向は得られなかった。一部の個体では不織布を着けることにより,葉および枝のバイオマスの低下が見られた。不織布で覆われた部分では,光量の低下や気温の上昇などの環境変化が起きていることも考えられ,これらの要因が成長を抑制している可能性がある。不織布を設置した場合,樹高や直径成長が抑制されるか否かは今後検討を要する事項である。ノウサギによる被害形態は,スギでは枝葉の採食が中心であるが,ヒノキでは樹皮への採食がより大きな割合を示していた。また,これら被害が発生した高さを比較してみると,不織布で覆われている40cm未満の被害頻度に大きな違いが認められた。対照区の一部の個体では地際付近(0cmから30cm)の被害により,幹の形質の低下(幹の曲りや株立ち状の幹など)を招いていた。このことから,不織布の設置は枯死率や被害率の軽減のみならず,地際付近の被害率の軽減することにより,幹形質不良木の割合を低下することができる可能性が示唆された。今回の結果から,不織布を素材とした円筒には獣害への防護効果があることが確かめられた。また,不織布は生分解性の素材であり,設置から撤去までの工程を考慮した場合,防護用資材として利用する利点は大きいと考えられる。
  • 丹羽 花恵
    セッションID: P3034
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    はじめに:森林は木材生産以外にも多様な機能があり、多様性の保全はそのひとつである。森林の植物群集の構造は、土壌水分・養分や自然撹乱などの影響を通して、地形構造と深い関係にある。そのため、多様性の保全を考慮した施業方法を検討する上で、地形と植物群集構造との関係を把握する必要があると考えられる。そこで、今回は、山地帯落葉広葉樹林において、植物群集の種組成・林分構造・種多様性を地形別に比較することにより、地形と植物群集構造との関係を検討した。方法:調査地は、北上高地の落葉広葉樹林で、標高730m、森林簿によると、林齢は約70年生である。北上川の二次支流である米内川が林班の境界になっており、その境界から斜面上部方向に70×70_m2_の調査区を設けた。調査区を5×5_m2_メッシュに分け、1×1_m2_のサブコドラートを設置した。調査区では、胸高直径5cm以上(上層)の樹木に対し、種名・胸高直径・位置を記録し、サブコドラートでは、ササの高さ、および、高さ2m以下(下層)の維菅束植物に対し、種名・被度を記録した。また、Nagamatu&Miura(1997)に従い、地形を上部斜面域と下部斜面域に区分した。結果と考察:上層群集、下層群集、各々47区画に対し、構成種の相対優占度から郡間距離を求め、郡平均法によりクラスター分析したところ、上層は1ウダイカンバ、2サワグルミ、3トチノキの3タイプに、下層は、4クマイザサ、5チシマザサ、6ウワバミソウ,チシマザサ、7ジュウモンジシダの4タイプに分類された。上層では、上部斜面域のほとんどが1であり、下部斜面域のほとんどが2・3であった。下層では、上部斜面域のほとんどが4であり、下部斜面域の多くが4・6・7で、4は上部・下部ともにも多く認められた。林分構造および多様性のパラメーターを上部斜面域と下部斜面域で比較した結果、個体数密度(上層樹木)・最大ササ高・相対ササ優占率は、上部斜面域で高く、平均胸高直径(上層樹木)は、下部斜面域で高い値を示した。また、上層および下層樹木の種数とH’は、上部斜面域で高く、下層の種数とH’は、下部斜面域で高かった。林分構造および多様性のパラメーター間の相関関係を検討したところ、個体数密度・相対ササ優占率は、上層および下層樹木の種数、H’と正の相関があり、下層植物の種数、H’とは負の相関があった。今回、下部斜面域に比べ上部斜面域の方が、樹木の種多様性が高い結果となり、これは、同じ東北地方のカヌマ沢原生林における報告と逆の結果となった。林分構造の個体数密度・相対ササ優占率は、種多様性と強い関係があったことから、種多様性には、地形間の林分構造の違いが反映されていると考えられる。しかし、2次林では、林分構造の発達段階には、地形との関係だけではなく、過去の人為的撹乱履歴等が関係すると考えられることから、今後、それらについての検討が必要となるだろう。
  • スギ精英樹に対する無下刈試験
    平岡 裕一郎, 岡村 政則, 賀納 清, 木下 康則, 千吉良 治, 佐々木 峰子, 藤澤 義武
    セッションID: P3035
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギ精英樹20クローンを対象として、各クローンの樹高・根元直径の成長速度と枯死率を処理の異なる2つの区(下刈り区・無下刈り区)で比較した。枯死率はクローン間差、処理区間差に有意差は見られなかった。樹高・根元直径成長にはクローン間差、処理区間差が見られた。下刈り区と無下刈り区で樹高の順位付けをしたところ、上位3クローンと下位2クローンは変化がなかったが、他には変動が見られた。従って他の植生との競争が激しい無下刈り区では、クローンによって下刈り区とは異なる成長をするといえる。また無下刈り区で樹高成長が不良の下位4クローンは枯死率が比較的高く、人工被陰試験でも同様に成長不良であった。従って無下刈り区で成長不良であるクローンは、弱光下で成長を維持できないことが大きな要因であるといえる。本試験から、無下刈り施業に適する品種としては、初期成長速度が速く、耐陰性が高いことが重要な特性であるといえる。
  • 樹幹解析による成長経過の分析
    澤田 智志, 西園 朋広, 粟屋 善雄
    セッションID: P3036
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    天然林を構成する個体の成長経過を分析し、200年を超える老齢林の個体の成長量を調べた。調査地は1924年に設定された、秋田県上小阿仁村の上大内沢天然林B種収穫試験地であり、、1948年に伐採された9本の樹齢は162_から_232年となっており、2003年に伐採されたスギの樹齢は255年である。1948年解析木の総材積は1.1_から_8.6m3で、平均で3.4 m3である。2003年の解析木は100年前後から他の個体よりも肥大成長が著しかったために、24m3と他の解析木よりもはるかに大きな材積となっていた。いずれの解析木も樹齢50年程度から材積の増加が加速し、連年成長量は200年になっても衰えなかった。このように、解析木の材積成長は、変動しながらも最大の状態を維持し、このことが超高齢級での高い林分蓄積につながっていると考えられる。
  • 戸田 浩人, 亀谷 行雄, 江原 三恵, 生原 喜久雄
    セッションID: P3037
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    _I_.はじめに 2000年7月に開始した三宅島活動は今もなお続いており,島の生態系に大きな影響を与えている。島の中心にある雄山の山頂から中腹の環状林道にかけて多量の降灰があり,森林植生は壊滅的な被害を受けた。現在も放出する火山ガスにより風下となる地域を中心に,植生への被害が拡大している。 これまで東京都などが航空実播工や都行造林地の枯損木処理,跡地造林など,緑化を試験的に行っている。しかし,火山灰で覆われた地表面は固結し非常に硬く酸性化も進んでいること,火山ガスの影響などから緑化植物の定着はいまだ難しい。また,緑化で島外からの移入種を導入することにより島独自の生態系を変化させる危険性が指摘されている。本研究では三宅島の環状林道付近を中心に,噴火から3年経過した現在の植生を調べた。また,東京都の緑化木植栽試験地において植栽木の消長と成長も調査し,三宅島の現状において緑化の可能性および有効な樹種について考察した。_II_.調査地の概況および調査方法 三宅島中央部の雄山山頂から中腹にかけて,特に火山灰が厚く堆積し植生の被害は大きい。また,今回の噴火活動では火山ガスの噴出が長期に渡り,二酸化硫黄が現在でも3千_から_1万トン/日のレベルにある。三宅島では南西から西の風の吹くことが多いため,島の北東から東側は火山ガスの影響を受けやく,海岸付近まで被害が拡大し,地表の酸性化も進んでいる。火山ガスや火山灰の地域による違いが,植生にどのような影響を及ぼしているかを検討する基礎資料とするため,島を囲むように20×30_から_40mの調査区を計8ヶ所設け2003年6月,10月に植生調査を行った。植生調査ではツル性,草本,木本すべての種類と分布,木本については高さを測定した。また,オオバヤシャブシ,ヤブツバキ,スダジイの混植地,オオバヤシャブシのみの植栽地において2003年6月と10月の2回,樹高と根元直径を測定した。いずれも植栽は2003年3月である。植栽地では土壌断面の調査も行った。_III_.結果と考察 植生調査の結果,木本の出現本数が多く,優占種(本数%)が木本である調査区は,島の南側と北側の2箇所であった。北東側の1つの調査区は優占種が木本であったが,出現本数・種類数ともに少なかった。その他の調査区は,優占種が草本またはツル性であった。これらには,元の植生による差異もあり,植生被害と回復状況を単純に比較することはできない。しかし,火口周辺の標高の高い地域や島の北東部において,木本植物の出現本数が少い傾向がみられた。この原因は,降灰の厚さと硬さ,現在も続く火山ガスの影響と考えられる。 緑化試験木の混植地における10月時点での枯死率は,オオバヤシャブシが1割,ヤブツバキが3割,スダジイが9割であった。したがって,スダジイは現在の劣悪な環境において生育が困難といえる。また,樹高成長はオオバヤシャブシがスダジイよりも良好であった。オオバヤシャブシは植生調査区にも天然更新している本数が多く,早期緑化に適しているといえる。植生調査区でみられたタブノキやヒサカキは火山ガスに強いと思われ,今後,これらの植栽も検討する必要がある。 オオバヤシャブシ植栽地における10月時点での枯死率は,土壌硬度が山中式で概ね20mm以上の硬土区が3割であるのに対して軟土区が1割であった。これらの樹高(H)と根元直径(D)の平均成長は,硬土区がH:44cmで D:10mm,軟土区がH:52cmで D:10mmであった。火口に近く降灰量が多かった地域では,火山灰が硬く固結しており,植栽時によく土壌表面を堀起こして根の活着を確実にすることが重要である。_IV_.おわりに 今回の調査で,三宅島における植生の現状と早期緑化のための基礎データを得ることができた。今後,定期的に調査を行って回復状況を把握するとともに,土壌の理化学性や微生物特性を調査することで,火山灰や火山ガスによる植生や土壌に及ぼす影響を明かにできると考える。 本研究の一部は,(財)クリタ水・環境科学振興財団の助成によって行った。また,現地調査において,東京都三宅島支庁の皆様に多くの便宜をはかっていただき,東京農工大農学部の山口篤志氏にご協力いただいた。ここに記して御礼申し上げます。
動物
  • 大規模実験柵を利用した直接観察
    伊藤 英人, 堀野 眞一, 野宮 治人, 北原 英治, 丹羽 慈, 松尾 浩司, 上條 隆志
    セッションID: P3041
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 現在、ニホンジカ(以下シカ)は日本各地で増加し、最も広い面積で農林業被害を与える動物となっている。そのため、増えすぎた個体の管理と、農林業被害の軽減などが緊急の課題となっている。 管理計画を策定するうえで、シカがどのような場所を何の目的で利用するのかといったシカの土地利用に関する情報が不足している。 本研究では、一定の生息密度におけるニホンジカの日周行動及び植生利用を、直接観察法によって明らかにする。同時に、シカの基礎的な行動生態の把握を目的とする。2.調査地 茨城県北部の高萩市と里美村の境界に位置する国有林に設置した大規模実験柵(面積1/4 km2)に、ニホンジカ1頭(雌、3歳)を2002年6月に導入した。柵内は、シカの生息密度に換算すると4頭km-2に相当する。柵内の植生は、造林地・保残帯・新植造林地に大別される。保残帯の林床にはササ(ミヤコザサ・アズマザサ)が優占する。3.方法 2003年4月から、毎月20日前後に1回24時間連続で(13時から翌日の13時まで)直接観察を行いシカの植生利用を詳細に記録した。シカから2-5mの間隔を保って追跡し、毎分0秒(正分)におけるシカの姿勢(歩・立・座)と行動を記録した。また、シカの位置を、地図上に時刻とともに記録した。植生利用を明らかにするため、9月から10月にかけて柵内の植生図を作成した。4.結果 柵内の植生を、林冠と林床の相観をもとに9つの植生タイプに分類した。 一日の総移動距離は2.6_km_から10.6_km_であった。 食物供給源としての植生は、シカの土地利用に大きな影響を及ぼしていると考えられる。採食物の選択性を明らかにするため、採食回数の種類別の比率を求めた。10月に落葉の採食が2割ほど確認された。 正分における各植生タイプにいた回数を各植生タイプの面積比で割って利用密度を求めた。シカは座って休息する時間が一日のうち8時間ほどで一定していた。採食及び反すう・休息に費やす割合に大きな変化が見られなかった。5.考察 4月に多く食べていたササは筍であったように、各植物をそれぞれのフェノロジーに応じて柔軟に採食していることがわかった。このような食性の可塑性が、シカが増加している原因の一つではないかと推測される。 新植地や保残帯では食料資源が多く、シカの利用頻度が高かった。採食植物の分布が、シカの行動に影響を及ぼしている可能性がある。特に新植地は林床が明るいため、下刈り施業後も林床植物の伸長が良く、かえって萌芽による新しいシュートやミヤコザサの新稈が豊富に供給されることが原因と考えられる。 生息密度を測定する際に、食痕に表れにくい落葉の採食や、植生タイプの違いによる局所的な密度および利用形態の差に注意する必要があることが、直接観察によって明らかになった。
  • 大規模実験柵設定後1年間の変化
    松尾 浩司, 野宮 冶人, 堀野 眞一, 柴田 銃江, 八木橋 勉, 田中 浩, 新山 馨, 伊藤 英人, 丹羽 滋, 北原 英治
    セッションID: P3042
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的
    近年、ニホンジカ(以下シカ)による農林業被害や自然植生の改変が各地で報告されており、シカ個体数の増加が一つの原因と考えられている。シカと共生可能な森林管理技術を構築するためには、シカの生息密度を操作して、シカが森林生態系に与える影響を明らかにすることが必要である。
    本研究は、大規模な囲い込み柵(以下、大規模実験柵)を利用してシカの生息密度を管理し、シカの採食が林床植生の種多様性と現存量に与える影響を明らかにすることを目的とし、導入から1年間の変化を示す。
    本研究は、農林水産省プロジェクト「野生鳥獣による農林業被害軽減のための農林生態系管理技術の開発」の一部を構成している。

    2.方法
    シカの分布していない茨城県北部の高萩市と久慈郡里美村にまたがる国有林内に、1/4km2 (L柵)と1/16km2 (S柵)の2基の大規模実験柵を建設し、2002年6月29日にシカ(雌、3歳)を、L柵とS柵に1頭ずつ導入した。
    大規模実験柵内の植生区分は、スギとヒノキの苗を植えた新植地、落葉広葉樹が優占する保残帯、スギとヒノキの35-36年生の人工林に大別され、L柵とS柵の各植生区分に10m×10mの調査区を6プロットずつ配置して調査を行った。そのうち半数の調査区を小型のシカ排除柵で囲み、対照区(0頭km-2)とし、残りを採食区とした。L柵の採食区を低密度区(4頭km-2)、S柵の採食区を高密度区(16頭km-2)とした。
    それぞれの採食区において、2m×2mの植生調査枠と1m×1mの刈り取り調査枠をそれぞれ4つずつ設定した。ただし、対照区では前者を4つ、後者を2つずつ設定した。植生調査枠では、植被率と最大植生高を記録し、出現種とその被度を調査した。刈取り調査枠では地上高2m以下の維管束植物の地上部を刈取り、カテゴリー分けして乾燥重量を測定した(80℃、48H)。2003年に刈り取ったミヤコザサは、当年部と越年部に分けた後、それぞれをさらに葉と稈に分別して稈数、稈長など形態に関する測定を行った。

    3.結果
    シカの導入前後で、林床植生の出現種数などの種多様性を示す値や、最大植生高に明確な差は見られなかったが、植被率は新植地と保残帯の高密度区で有意に低下した(それぞれp < 0.05、0.01)。
    地上部現存量はどの植生区分でも2003年で減少し、シカの密度が高いほど、前年からの減少は大きくなる傾向が見られた。特に、林床にミヤコザサが優占する新植地と保残帯では、ミヤコザサの減少が、そのまま地上部現存量合計の減少に反映していた。
    ミヤコザサの稈長や稈あたりの現存量はシカ密度が高いほど小さくなり、稈数は逆に増加する傾向にあった。このような傾向は新植地のミヤコザサでも顕著であった。

    4.考察
    シカの分布していない地域で調査を行ったことから、被食の影響を強く受ける植物の存在を期待していたが、シカの導入から1年間では、植物種が消失して種組成が変わるような、質的変化を確認することはできなかった。
    しかし、林床植生の現存量には、シカの生息密度に応じた影響が確認された。特に、林床に優占するミヤコザサに対する影響は顕著で、Yokoyama (1998)が大台ヶ原で示したように、シカの採食はミヤコザサの稈の矮小化や稈数の増加に影響していた。
  • 丹羽 慈, 加賀谷 隆, 堀野 眞一, 野宮 治人, 北原 英治
    セッションID: P3043
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに近年日本各地の森林において,ニホンジカ(以下,シカ)の生息数の増加及び生息域の拡大が報告され,林床植生の衰退,消失など,過剰な採食圧による植生改変が問題となっている.草食獣の採食による植物の生産量,形質の変化は,土壌分解系へ流入する有機物の質,量の変化(植物の補償生長,根滲出物の増加,化学防御物質の蓄積など)や,植物-分解者間の養分獲得競争の撹乱を通して,植物-分解者間の様々な相互作用に影響し,土壌の有機物分解系の構造と機能を改変することが明らかにされている.したがって,シカの急増は,林床植生への採食を通じ,森林の物質循環にまで影響を及ぼしているおそれがある.本研究では,多くのシカ生息地で主要な餌資源となっているササに注目し,採食によるササの形状及び量の変化,ササの形状及び量と土壌特性及び土壌生物の関係を調べ,シカによる採食が,林床におけるササ-土壌分解者間の相互作用に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.
    2.方法 演者らは,シカの非分布域である茨城県北部,高萩市と久慈郡里美村にまたがる国有林地域に,1/16km2 (S柵),1/4km2(L柵)の2ヵ所のシカ柵による囲い込み区を設定し,2002年6月にシカ各1頭(雌,3歳)を導入して,植生,土壌への影響やシカの行動等について継続調査を行っている.S柵,L柵,柵外の3区において,林床がミヤコザサ(以下,ササ)に覆われた落葉広葉樹林内に4×4mの調査地点を6地点ずつ設け,シカ導入直後の2002年7月から2003年12月にかけて,ササ及び土壌の調査を行った. 4つまたは2つの0.5×0.5m枠において,ササ地上部について計測を行い,2つの1×1m枠において,2ヶ月間隔でササリターフォール量を測定した.2002年7,10月,2003年5,7月に,A0層(72または100cm2)及び表層土壌(200cm3,深さ5cm)を採取し,含水率,有機物量,微生物バイオマス炭素量(FE法),土壌炭素,窒素含有率を測定した.また,2002年7月,2003年7月のA0層サンプルから中型土壌動物群集を抽出し,同定(目,亜目),計数を行った.各測定値に対する,区レベルでのシカの影響を検出するため,反復測定分散分析によって区間の経時変化の違いを検定した.高密度区内,低密度区内の調査地点ごとのササ形質-土壌特性-土壌生物の対応関係を検討するため,地点ごとに各測定値の年平均,年変化率を求め,平均値間,変化率間の順位相関係数を求めた.
    3.結果S柵のササは,2002年生葉が冬季に強い採食を受け,2003年生部に顕著な小型化,高密度化が起こった.またS柵,L柵ともに,2003年生の未展開葉が夏季に採食を受け,その採食強度に対応して,葉指数(単位面積あたり葉面積合計の指標)の減少が起こった. 土壌特性,土壌生物の各測定値の経時変動に区による有意な違いはみられなかった.しかし,各区内の各地点において,ササ量を示す諸変量は土壌含水率,微生物量,土壌動物個体数と負の相関を示すことが多かった(図).また,いずれの区においても,微生物量と含水率に正の相関がみられた.S柵では,これらの傾向が特に強く,多くの土壌動物分類群の個体数が,含水率と正の相関を示した.
    4.考察 土壌微生物,土壌動物の多くは,生息量が水分条件によって強く規定されていると考えられる.ササ量,特に蒸散作用を通じて水分吸収量を規定すると考えられる葉指数と,土壌含水率,微生物間にみられた負の関係から,ササは土壌水分量を低下させることで,分解活動を抑制することが示唆される.シカによる夏季の採食は,当年葉量を減少させることで,多くの地点において土壌含水率や微生物量に正の効果を及ぼした.ただし,シカによる採食強度が高まるにつれ,ササ量の減少は,林床被覆の減少を通じた土壌の乾燥化やA0層の流亡を引き起こし,分解系に負の影響を及ぼす可能性がある.
    5.まとめ林床のササは,土壌含水率を低下させることで,土壌分解者の生息量を抑制していることが示唆された.シカの侵入,増加の初期段階におけるササへの採食は,ササの葉量を減少させることで,土壌分解系を活性化させることが明らかになった.
  • 山内 仁人, 岡田 充弘, 小山 泰弘
    セッションID: P3044
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1 はじめに
     ニホンジカ(Cervus japonica、以下シカ)による農林業被害の拡大は全国的な問題となっている。長野県でも被害の顕在化が著しく、2001年に特定鳥獣保護管理計画を策定し、その対策を講じている。計画の運用にあたっては、適切なモニタリングにより効果を検証し、保護管理計画を修正していく必要がある。
    生息状況の動態を把握するモニタリングのうち、スポットライトセンサス法は機材も簡易で比較的容易に行える手法である。しかし、夜間におけるシカの視認や、個体の識別(体格・角の有無など)、数の把握にはそれなりの熟練を要する。ところが、現地で実際に調査にあたる担当者は野生鳥獣調査の専門家ではない場合が多い。
    そこで、スポットライトセンサス法に夜間撮影機能付きのデジタルビデオカメラ(以下DVC)を用いることで、比較的簡易に調査を行う方法を検討した。
    2 調査地と調査法
    (調査地)
    近年シカによる被害が増えつつある本県中部の塩尻市東山地域(高ボッチ山西側斜面)で実施した。調査ルートは標高750mの山麓部から1600mの山頂部にわたる。なお、この地域での生息状況は明らかになっていない。
    (調査法)
    乗用車で夜間低速走行しながらサーチライトを照射し、シカの目の反射・姿を肉眼で視認した。併せて、DVCの夜間撮影モードを用いてモニターで視認しながら、可能な場合には撮影を行った。
    3 結果と考察
     調査は2003年3月から12月までの間に14回行った。調査距離は積雪期には11.3km、無雪期には35kmで、いずれの調査においてもシカが確認され、発見頭数は8_から_162頭であった(図)。このうち、一例として11月28日の調査野帳を表に示す。
    肉眼による視認では、目の反射は確認できても、角の有無、個体の大小などが確認できない場合が度々あった。また、シカの向きによっては目の反射がなく、確認できない個体もあり、多頭数の場合は数の把握が困難であった。しかし、DVCでは、夜間撮影・ズーム機能を利用することで、モニターで以下のことを視認できた。
    ・個体の大小・角の有無などが確認できた。
    ・目の反射のない個体が確認できた。
    ・頭数の確認が容易になった。
    さらに、テレビなどの大画面で再生した撮影画像では、これらの判定がいっそう容易になり、音声記録(数のカウントなど)の効果も併せ、精度が向上した。
    夜間撮影モードではピント合わせが遅くなるため、急峻・藪など条件の悪い場所では操作に手間取るうちにシカが逃げてしまい、撮影し損なうことも多かった。しかし、シカの発見・識別率が総じて向上するなど、DVCの効果は大きかった。これを用いることで、初心者でも比較的信頼性の高いスポットライトセンサス法による調査が可能になると思われる。
  • 南野 一博, 福地 稔, 山口 陽子
    セッションID: P3046
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    北海道空知南部・胆振東部のエゾシカの低密度地域において、天然林および人工林のエゾシカによる森林被害を調査した。天然林では、7市町10ヵ所に0.04から0.1haの固定調査地を設置し、樹皮食い、枝食いによる被害を調査した。その結果、7.7から43.4%の被害がみられた。被害の90%以上は10cm以下の小径木であった。また、樹種別ではツリバナが最も被害を受けており、続いて、アオダモ、オヒョウとなった。一方、トドマツ人工林4林分において樹皮被害のモニタリング調査をした結果、累積被害率は12.5から31%であった。また、被害の多くは角擦りによるものであった。
  • ハリギリ樹皮の物理性とエゾシカの嗜好性
    桧山 亮, 折橋 健, 小島 康夫, 寺沢 実, 鴨田 重裕, 高橋 康夫
    セッションID: P3047
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1、目的 エゾシカ(以下シカとする)の嗜好性とそれが生じる要因を研究することは樹皮剥ぎ害対策のための重要な情報になると考えられる。本研究では特に樹皮の物理的な発達がシカの嗜好性に与える影響を調べるためにハリギリ丸太を用いて樹皮の剥ぎ難さの測定と野外摂食試験(Orihashi et al., 2002)およびハリギリ丸太から調製した樹皮片の摂食試験を行った。2、試験方法1)試験材料 2003年3月上旬に東京大学北海道演習林(以下北演)でハリギリ2個体(DBH17.5cm、27cm)を伐採し、樹幹及び枝の直径1_から_18cmの部分から長さ1mの丸太を調製した。丸太は長さ40cmと60cmに切り分けて前者を樹皮剥ぎ抵抗値測定用、後者を野外摂食試験用とした。丸太は切断面において直径と樹皮の厚さを0.1mm単位で測定した。2)抵抗値の測定 【剥がし抵抗値測定】大井(1999)の剥皮試験の方法を参考に、樹幹方向に15cm×1.5cmの切込みを樹皮にいれて周囲の樹皮と切断し、端から5cmの部分を剥がして掴み、残りの10cmの部分を約10秒かけて引き剥がし、デジタルひずみ測定器(共和電業製)を用いて応力を計測して剥がし抵抗値とした。【刺し込み抵抗値測定】マイナスドライバー様の型をしたステンレス製の擬似シカ門歯をデジタルひずみ測定器に取り付けて、丸太の接線方向に対しては垂直に、樹幹方向に対しては約30度の角度から刺し込み、応力を測定して刺し込み抵抗値とした。各測定では1試験体(丸太)につき5回計測を行い、平均した。3)摂食試験 【抵抗値と嗜好性】摂食試験用の丸太を北演の林道沿いに設けた試験サイト(20m×5m)にランダムに並べて直立させて3月下旬の10日間(樹皮剥ぎ被害期間)シカに自由に摂食させて剥皮された面積を測った。【樹皮片の摂食試験】直径12_から_17cmのハリギリ丸太から一辺が3cm程度の方形樹皮片を3種類(内樹皮のみ、外樹皮のみ、外樹皮つき内樹皮(以下全樹皮とする))調製した。この3種類を1組として9反復用意し、それぞれ生重量で40gずつプラスチックの容器にいれて摂食試験を行った。試験中は一日一回観察し、組の中でどれかが半分以上減っていたらその時点で回収して残ったものの生重量を測定した。試験前後の様子を撮影し、食べられ方の様子を比較した。3、結果【抵抗値と嗜好性】摂食試験で剥皮が確認された丸太は剥がし抵抗値が2kgf以下、刺し込み抵抗値が6kgf以下のものがほとんどであった(図)。丸太の直径(cm)に対する樹皮厚さ(mm)の関係は内樹皮がy=0.31x+2.44, R2=0.76、外樹皮がy=0.99x_-_0.77, R2=0.84(共に単回帰分析、P<0.01)であった。直径(cm)と樹皮剥ぎ抵抗値(kgf)の関係は剥がし抵抗値でy=0.26x+0.39, R2=0.85、刺し込み抵抗値でy=0.77x+1.90, R2=0.88(共に単回帰分析、P<0.01)であった。【樹皮片の摂食試験】試験前後での試料の減少量(生重量)は内樹皮片で38.9g(±0.3)、全樹皮片で20.8g(±10.3)および外樹皮片で4.0g(±3.0)であった。内樹皮片と外樹皮片の間で減少量に有意な差が存在した(Tukey型多重比較、P<0.05)。4、考察 抵抗値と嗜好性の試験結果より、樹皮を剥がす際の抵抗値が大きな丸太の樹皮をシカがほとんど食べていないことから、樹皮の物理的な抵抗がシカの樹皮剥ぎに影響を与えていることが予想できる。丸太の直径と樹皮厚さと抵抗値には高い正の相関が見られた。樹皮厚さは直径が大きくなると特に外樹皮が発達する。外樹皮にはシカにとって栄養にならないリグニンが多く含まれ(安井、2002)、樹皮全体に占める外樹皮の割合が高くなると樹皮中のリグニン量は増加することになる。直径が大きくなった時にシカの嗜好性が下がる(小島ら、2003)主な要因として少なくとも上述の2つ(樹皮剥ぎ抵抗値、リグニン量)が考えられた。樹皮片の摂食試験結果において内樹皮片が外樹皮片よりもよく食べられたことからシカが樹皮を食べる時には内樹皮を目的としていることが示唆された。全樹皮片は中間的な食べられ方と観察された。この試験はシカが通常好まない太さで抵抗値も大きな丸太から調製した樹皮片を用いたが、人為的に剥ぎ難さを排除して供試すると食べられた。このことから剥ぎ難さがシカの嗜好性に影響をしていると言えるだろう。しかし、全樹皮片は内樹皮片よりも食べられ方が少なかったことから剥ぎ難さを排除しても外樹皮の存在により嗜好性を下がったと考えられる。
  • ヒツジのルーメン液によるカラマツ類樹皮の消化性
    小島 康夫, 折橋 健, 桧山 亮, 寺沢 実, 鴨田 重裕, 高橋 康夫
    セッションID: P3048
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに シカの樹皮剥ぎに対するカラマツ類の抵抗性は,ニホンカラマツ(以下カラマツとする)が弱く,グイマツ及び交雑種(グイマツ×カラマツ)が強い(Orihashi et al., 2003)。反芻動物の栄養摂取において,ルーメン微生物による摂食物の消化は重要な役割を果たしており,カラマツ類の抵抗性も,消化の難易と関連している可能性がある。本研究では,シカの代わりにヒツジを用い,そのルーメン液によるカラマツ類樹皮の消化性について検討した。
    2. 実験方法 【材料】カラマツ,グイマツ,交雑種の各1家系1個体を2002年11月に東京大学北海道演習林にて伐採し,カラマツでは9-11年生の,グイマツ,交雑種では10-12年生の樹幹部位を材料とした。また同時に,ササ葉も採取して材料とした。【サンプルの調製】カラマツ類内樹皮の未処理粉,脱脂粉とササ葉粉を実験に用いた。各種樹幹より外樹皮を除去した後,内樹皮を剥皮して凍結乾燥を行い,粉砕して42-83メッシュの未処理粉を得た。その一部は,ソックスレー抽出器を用いて,ベンゼン_-_95%エタノール(2:1,v/v)混液による24時間の抽出処理を行い,脱脂粉を得た。またササ葉は,風乾後42-83メッシュの粉体にした。【消化実験】2002年12月にTilley and Terryの方法に従って実施した(森本 1971)。実験時間は48時間とし,反復数は3回とした。ルーメン液は,北海道大学第2農場において,牧草を餌として飼育されているヒツジ(去勢オス)より採取した。緩衝液は,Mc Dougallの処方に基づいて調製した(森本 1971)。【緩衝液による溶出成分率の測定】消化実験では,ルーメン液と緩衝液の混液を用いたが,混液中では,微生物によるサンプルの消化と同時にサンプル成分の溶出が起こる。Tilley and Terryの方法では,両者を併せて消化率としているが,本実験では成分溶出率を別途測定し,消化率から除外した。測定は,ルーメン液の代わりに同量の緩衝液をサンプルに加え,消化実験と同じ要領で培養して行った。反復数は1回である。【消化率の算出】算出は次式によって行った。消化率=〔(供試サンプル量_-_未消化残さ量)×100/供試サンプル量〕_-_成分溶出率。なお,計算上負の値となってしまった場合には,消化率0%とした。
    3. 結果と考察 【サンプルからの成分溶出率】未処理粉ではカラマツが37.8%,グイマツが42.4%,交雑種が37.1%であり,脱脂粉ではカラマツが19.5%,グイマツが20.0%,交雑種が17.1%であった。またササ葉粉の成分溶出率は19.7%であった。【サンプルの消化率】未処理粉では,カラマツの消化率は19.4±4.0%であったのに対し,グイマツや交雑種の消化率は0±0%,1.1±1.8%であった。また脱脂粉では,3種の消化率はカラマツが31.8±8.7%,グイマツが25.6±6.9%,交雑種が28.9±2.9%であり,未処理粉の場合よりも高い値となった。ササ葉粉の消化率は25.7±2.6%であった。グイマツや交雑種では,未処理粉が微生物によりほとんど消化されないのに対して,脱脂粉はササ葉粉と同程度に消化された。カラマツでは,やはり未処理粉の消化が脱脂粉よりも劣ったが,その差はグイマツや交雑種と比べるとわずかだった。カラマツ類の内樹皮には,脱脂により抽出される成分中に,微生物による消化を阻害する成分が含まれ,特に,グイマツや交雑種の成分が,強い阻害効果を持つと示唆された。グイマツや交雑種とカラマツとの間にみられる阻害効果の差は,シカの樹皮剥ぎに対する抵抗性の差と関連する可能性が考えられる。本実験では内樹皮のみを対象としており,外樹皮の消化性については分からない。従って,外樹皮も含めて今後より詳細に,カラマツ類樹皮の消化性について検討を行いたい。【実験上の留意点】本実験では,各サンプルにつき3回反復で消化率を測定したが,その値は反復間で均一な場合もあればばらつきが大きい場合もあった。実験操作を振り返り,ルーメン液をよく撹拌しないまま分液した点が不備として挙げられる。なお,別の実験では,時折ルーメン液を撹拌しながら分液を行ったところ,比較的均一な測定値が得られた。少ない反復数のもとで測定値がばらつくと,統計的な解析が行えず,客観的な考察ができなくなる。本実験では,測定値にばらつきが大きく,反復数も3回と少なかったので統計的解析は避けた。今後の実験では,ルーメン液を撹拌してから分液すること,統計的解析が行えるように測定の反復数を増やすこと,に留意する必要がある。
  • 接種から伐倒までの期間による比較
    福田 秀志, 鈴木 利幸, 佐野 明, 伊藤 進一郎
    セッションID: P3049
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    スギ生立木に接種したニホンキバチ共生菌の伐倒後の繁殖状況(_II_)_-_接種から伐倒までの期間による比較_-_○福田秀志(日福大情社科)・鈴木利幸(三重大生資)・佐野 明(三重県科技セ)・伊藤進一郎(三重大生資) 1.はじめに ニホンキバチ(Urocerus japonicus)は体内に共生菌(Amylostereum属菌)を貯蔵する器官(菌嚢)を持ち,スギ・ヒノキなどの樹幹に産卵と同時に接種する。幼虫は,この共生菌の働きにより材を餌として利用できる。また,本種は生立木では繁殖できず,枯死木あるいは伐倒木を繁殖源とするが,伐倒木であっても伐倒後2ヵ月以上経過したスギでは共生菌の定着率が低く,実験条件下ではすべての個体が羽化に至らず死亡することが確認されている。したがって,ニホンキバチ成虫の発生が終了した11月に間伐すれば,伐倒木は翌年の発生期まで7ヵ月以上放置されることになり,共生菌の定着を防ぎ,ニホンキバチの発生を回避できると考えられてきた。しかし,11月に伐倒されたスギ間伐木からも,本種が発生する事例が報告されている。演者らはこれまで,ニホンキバチが既に材内に共生菌が繁殖している伐倒木を利用する可能性について検討してきた。その結果,10月に共生菌を人工接種し11月に伐倒した木で本種の繁殖成功が確認され,本種は潜在的にはそのような木を利用して繁殖できるものと考えられた。一方,ニホンキバチの発生ピークである7月に共生菌を人工接種し11月に伐倒した伐倒木では,10月に接種し11月に伐倒したものに比べて翌年の共生菌の繁殖状況が悪いことが示されている。しかし,7月接種11月伐倒木と10月接種11月伐倒木とを比較すると,接種時期も接種から伐倒までの期間も異なることから,接種時期,接種から伐倒までの期間のどちらが重要であるかが不明である。そこで,本研究では接種から伐倒までの期間を30日とし,7月接種8月伐倒木と10月接種11月伐倒木とを比較し,翌年のニホンキバチ発生時期における共生菌の繁殖状況の違いについて調査したので報告する。2.材料と方法三重県一志郡白山町にある三重県科学技術振興センター実習林において,2002年7月,10月にスギ生立木それぞれ2本に対し,楊枝上に繁殖させたニホンキバチ共生菌をそれぞれ4ヶ所人工接種した(以下それぞれ7月接種木,10月接種木)。前者は2002年8月に,後者は11月に地際から伐倒しそのまま放置した。2003年7月に根元から地上高約2mまでの部分を林内から回収し,厚さ10cmの円盤に玉切りした後研究室に持ち帰った。研究室で接種点からの軸方向の変色域を記録し,さらにそれぞれの円盤から糸状菌の分離試験をおこなった。各円盤から約5×10×0.5cmの板状の試料を取り,約3mm角の分離片を作成した。この分離片を70%エタノールに数秒浸して,アンチホルミン10倍液で3分間表面殺菌し,滅菌水で2回洗浄して滅菌ろ紙上で水気を取った後,PDA培地上に置き,恒温器内(15℃)の条件下で約1ヶ月培養した。菌の分離率は,高さごとに(コロニー数/分離片数)×100(%)で示した。3.結果と考察 7月接種木では接種部付近の木口面に明瞭な変色が認められたが,10月接種木ではほとんど認められず,軸方向の変色長も,7月接種木では平均40cm程度であったのに対し,10月接種木では10cm未満と小さかった。共生菌は,7月接種木においては接種点から20cm以内の地点の変色域内で繁殖しており,分離率は20%以下であった。一方,10月接種木においては変色域とは関わりなく接種地点から最大80cm地点まで繁殖しており,分離率は高いものでは100%の地点もあった。これまで,7月に産卵あるいは人工接種されたものにおいては,主に変色域内でのみ共生菌が繁殖していることが示されている。このことは,変色に共生菌の材内での伸長を阻害する作用があることを示唆している。一方,本研究で調査した10月接種木ではほとんど変色が発生せず,その機能が働かなかったため変色域に関わらず共生菌が広く繁殖したものと考えられる。また,ニホンキバチメス成虫は変色域内への産卵を避ける行動が観察されていることから,7月接種木はニホンキバチの繁殖源になりにくいものと考えられる。以上のことから,ニホンキバチの繁殖源としての“質”に及ぼす影響は,生立木への共生菌の接種から伐倒までの期間よりも接種される時期が重要であることが示唆された。
  • 上田 正文, 柴田 叡弌
    セッションID: P3050
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに1998年9月22日に台風7号が紀伊半島を通過し、森林に多大な被害をもたらした。奈良県内においても、この台風による被害がヒノキ林に生じた。台風は樹木の生理状態に影響をおよぼし、二次性穿孔性甲虫類の加害とそれらによる枯死を助長させると言われている。しかし、外見上健全であるにもかかわらず、二次性穿孔性甲虫類の加害を受けるヒノキの生理状態については明らかにされていない。衰弱した樹木のほとんどは、水ストレスを生じている。また、台風によって樹木の樹幹内水分通導は影響を受ける。そのため、二次性穿孔性甲虫類の加害を受ける樹木の生理状態を把握するために、水分生理状態を測定することは重要になる。樹木の水分生理状態は、プレッシャーチャンバーによる葉の水ポテンシャル測定および「ひずみゲージ」による樹幹直径の日変化測定によって容易に明らかにすることができる。そこで、二次性穿孔性甲虫類の加害を受ける樹木の生理状態を推定するために、1998年の台風以後、台風被害に晒されたヒノキの樹幹内水分通導、葉の水ポテンシャルおよび樹幹直径日変化を測定すると同時に、粘着バンドトラップにより二次性穿孔性甲虫類を捕獲し、二次性穿孔性甲虫類が捕獲されたヒノキの水分生理状態について明らかにした。2.材料と方法奈良県宇陀郡室生村に位置する31年生ヒノキ林(400 m2、34° 35' N, 136° 0' E, 標高580 m)においておこなった。平均樹高は16.3 ± 2.0 m、平均胸高直径は17.1 ± 4.0 cmである。1998年9月22日に最大瞬間風速37.5 m/sec.の台風7号が本林分付近を通過した。この林分から外見上、台風による被害を受けていないヒノキ6個体(供試木No.1_から_6)を選んだ。 穿孔性甲虫類の成虫の捕獲は1999年から2001年まで粘着バンドトラップを用いておこなった。粘着バンドトラップを、毎年4月から9月(2001年のみ8月)までの期間、地上から1.2mの樹幹に巻き付け、それによって捕獲した甲虫類を同定し、捕獲頭数を数えた。粘着バンドトラップを巻き付けた期間は、1998年台風以後、3年間の成虫飛翔期間を含んでいる。樹幹直径日変化を「ひずみゲージ」法により測定した。「ひずみゲージ」は、地上から3mの高さの東側の樹幹部に、外樹皮・内樹皮および形成層を剥皮し、木部表面に設置した。「ひずみゲージ」から得られる値は「ひずみ」(ε) として与えられる。「ひずみ」を1999年4月から2001年8月まで、10分間隔でデータロガーにより記録し、「ひずみ」変化(Rε)を、Rε= dε/dt として計算した。日中(10:00 から14:00)の葉の水ポテンシャルをプレッシャーチャンバーを用いて2001年7月10_から_15日まで測定した。測定には、良く日の当たる当年生葉を用いた。一連の調査を終了した2001年8月に、樹幹を地際で切断し、切断面から1% 酸性フクシン水溶液を吸収させ、樹幹横断面における染色状況を調べた。3.結果と考察供試木No.1_から_3において、ヒメスギカミキリおよびマスダクロホシタマムシの成虫が、台風後3年間毎年捕獲された。供試木No.4_から_6では捕獲されなかった。供試木No.4_から_6では樹幹辺材部が酸性フクシンによって一様に染色された。それに対し、供試木No.1_から_3では、供試木No.4_から_6と比較すると、著しく染色部が少なかった。供試木No.1_から_3における水ポテンシャルは、供試木No.4_から_6よりも低い値を示した。供試木No.4_から_6におけるRεの日変化は、日の出と同時に減少し、午前中に負の最小値を示した後、急速に上昇し、午後遅くに正の最大値を示した。その後、急激に減少した後、深夜は低い正値を示す日変化を示した。それに対し、供試木No.1_から_3におけるRεの日変化は日中振動する日変化を示した。以上の結果からヒメスギカミキリおよびマスダクロホシタマムシが加害するヒノキは、外見上は健全であるにもかかわらず、台風によって被害を受け水分バランスが正常でない状態であると考えられた。
  • 東京大学北海道演習林における4年間の調査から
    佐藤 喜和, 遠藤 真澄
    セッションID: P3051
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     北海道に生息するヒグマは植物食中心の雑食性であり,春から夏にかけて主に草本類を,秋には主に果実類を利用する.ヒグマは冬期間を冬眠して過ごすが,その間唯一のエネルギー源となる蓄積脂肪を身につけるために果実類は重要な資源である.
     ところでこれら果実類の生産量は年により変動することが知られている.クマ類は,主要採食果実の凶作年には代替となる果実類を採食するようになる.
     生息地に農地が隣接する地域では,主要採食種凶作年には農作物を食害し,これがもとで駆除による死亡が増加する例が報告されている.
     北海道においても,ヒグマの分布周縁域で農業被害が発生している.被害量は年変動することから,秋期の主要採食物であるミズナラ堅果の豊凶が農作物被害量の多少と関係しているのではないかと考えられている.
     そこで本研究では,ミズナラ堅果の豊凶とヒグマの秋の食性との関係を明らかにし,農業被害との関連性について検討した.
    2.方法
     北海道富良野市に位置する東京大学北海道演習林において,1994年から1997年にかけて調査を行った.
    2-1.ミズナラ結実量調査
     演習林内でミズナラが比較的多く分布する地域から,胸高直径25cm以上の木25本を選び,それぞれに2基ずつ計50基のシードトラップ(開口面積0.25m2)を設置した.1996-1997年にはこのうち17本の木に34基のトラップを設置した.9月下旬と10月下旬に堅果を回収し,殻斗を取り除いて重量を計測した.
    2-2.ヒグマの糞の回収と分析
     演習林内を踏査し,ヒグマの糞を回収した.
     回収した糞は,出現頻度割合,容量割合を算出した.
    3.結果
     ミズナラ堅果の落下重量(g/m2)は,年毎に大きく変動した.9-10月の合計落下重量は,1994年が283.1で豊作年,1995年は7.9で凶作年,1996年は159.7,1997年は124.3でともに並作年であった.
     これに対応する時期に回収したヒグマの糞を分析したところ,凶作年である1995年にはミズナラ堅果の利用は全くみられず,8-11月まで農作物が最も高い割合で利用されていた(容量割合8月:81.7%,9月74.6%,10月:72.1%,11月:83.4%).豊作・並作年であった1994,1996,1997年の8-9月には農作物は20-60%と高めの値を示したが,10-11月に0-7%とわずかしか利用されなかった.8-9月に農作物以外に主に利用されたのは草本類や漿果類で,ミズナラ堅果は9月でも10-17%と比較的低い値を示した.10-11月にはミズナラ堅果が70%以上で最も多く利用されていた.
     調査を行った4年間のミズナラ結果の落下重量とヒグマの糞中にみられたミズナラ堅果,農作物の容量割合の間には有意な相関はみられなかった.
    4.考察
    ミズナラ堅果の豊凶がヒグマによる農作物食害に及ぼす影響は,凶作年と並作以上の年とで違いがあると考えられた.すなわち凶作年には食害が顕著に増加し,被害は8月から11月まで続くこと,並作以上では8-9月に被害はあるが少なく,10-11月にはほぼ無くなることが明らかとなった.
    農作物被害は8-9月に最も多く発生しており,北海道全体の傾向と一致した.8-9月の農作物利用量はミズナラ堅果量により変化するが,豊作年でも被害が無くならないのは,この時期に森林内の資源量に関わらず農作物に依存しているか,漿果類の生産量の年次変化が影響している可能性がある.
  • 茨城県で見られたスギへの剥皮害
    堀野 眞一, 北原 英治, 永田 純子
    セッションID: P3052
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     2003年6月、茨城県高萩市上君田において見慣れない獣害が発生したとの通報を現地の林家K氏から受けた。現場は主に畑や休耕田からなる浅い谷状の地形を造林地や二次林が挟む山村である。谷の西側に道路があり、人家がまばらに点在する。標高は約500mである。被害は3回起きた。最初と2回目は6月初めに約3日の間隔をあけて発生し、6月19日に壮齢スギ3本を調査した。1本目(胸高直径約30cm)は地上110cmから125cmにかけて幅8cmの剥皮跡があり、その周辺も広範囲にわたって樹皮の表面が剥がれていた。剥皮部分には尖ってはいるがあまり鋭利でないものを押し付けてえぐったようなほぼ横向きの傷が数本認められた。2本目(胸高直径約40cm)は地際から地上130cmの範囲が幅数10cmにわたって剥皮され、1本目と同じような横向き、または斜め30度程度の傷が多数見られた。さらに、その上の樹皮が高さ4mまでめくれて垂れ下がっていた。3本目(胸高直径約45cm)は形成層や木部が露出するような傷はないが、地上約1mのところに樹皮を強くこすった跡が残っていた。周辺で足跡を探したが、日数が経っていたためか見つからなかった。草本への食痕や糞なども発見できなかった。3回目の被害は7月13日午前1時頃に起きた。16日に現場を見ると再びスギが被害を受けていた。被害木は胸高直径30cm強で、地上50_から_200cmの範囲が剥皮され、1・2回目の被害と同様の傷が多数残っていた。 イノシシの林業害としては、牙による樹幹への傷付け、体のこすりつけによる剥皮などが代表的である。また、クリ等に対する枝折りの被害もある。しかし、今回のようにスギの樹皮を地上2_から_4mまで引き剥がすような加害形態はあまり知られていない。このような被害はむしろニホンジカやツキノワグマによる被害の特徴である。また、樹幹に残されていた傷は力の強い大型獣の歯(牙)、爪またはツノによるものであると考えられ、これらの点だけを見るとシカまたはクマの可能性があるように見える。しかし、茨城県にシカやクマは生息しておらず、どこかから迷い込んできたという可能性も考えにくい。一方、イノシシは比較的多数生息している。さらに、3回目の被害を調査した際、現場付近に比較的新しいイノシシ糞があった。イノシシには体を樹脂の多い樹木にこすりつける習性があり、そのために樹皮がはがされ、林業害となる。今回剥皮されたスギの周辺には樹皮の破片が落ちていたが、そのいくつかには獣毛らしきものが付着していた。それを持ち帰って実体顕微鏡で観察したところイノシシの体毛に類似していた。このことは、今回の剥皮害の一部がイノシシによる体のこすりつけによるということを示唆する。しかし、広範囲に及ぶ剥皮については別の理由があると思われる。3回目の被害が起きたとき、被害木から約1mの位置に地面を掘った跡が認められた。掘られた跡は直径約50cm、深さ約20cmあった。これは何らかの食物を得るための行動であったと考えられるが、このような行動を取る動物としてはイノシシの他にあまり考えられない。もし、今回の被害が食物探査・獲得のための行動にともなって生じたとすれば、スギの剥皮も食物との関係で起きた可能性がある。被害木を観察すると、1・2回目の被害でも3回目でも、表面に長さ約5cmのヤスデの一種が複数認められた。今回の被害はこれらの動物を餌として狙って剥皮した、すなわち、ミミズ等を求めて地面を掘るのと同様の目的による行動の結果であった、という可能性がある。 今回の被害がイノシシによる食物探索・獲得のための行動にともなって発生したという見解を支持するもうひとつの証拠はタケノコの摂食跡である。1・2回目の被害発生時にも3回目にも、いずれもタケノコが摂食されていた。タケノコを摂食する動物は限られ、なかでもイノシシはタケノコの重要な加害獣である。 以上のことから、今回の被害はイノシシが食物を探索・獲得する活動の中で、その行動の一部として行った可能性が非常に高いと判断される。今後は、同様の被害を他の地域でも探すなどして、この被害の発生要因等をより詳しく解明する必要がある。
  • 矢竹 一穂, 秋田 毅, 中町 信孝, 本間 拓也, 前田 重紀, 水越 利春, 河西 司, 阿部 學
    セッションID: P3053
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    新潟県十日町市珠川の林地、開放地、道路が混在し、連続した林分と分断・孤立した林分が分布する地域におけるリスの分布と林分の利用状況について、給餌台の利用状況調査とテレメトリー法により調査した。発信機を装着した4個体の夏_から_秋季の行動圏には1)連続した林分を利用、2)分断・孤立林分内で完結、3)複数の分断・孤立した林分間を移動して、利用する3タイプがみられた。車道上の轢死事例があり、孤立林分間の移動の延長として、今後も道路横断の可能性が考えられる。
  • 曽根 晃一, 高松 希望, 畑 邦彦
    セッションID: P3054
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    2002年12月から2003年9月までの期間、鹿児島大学農学部附属高隈演習林(鹿児島県垂水市)第4林班のマテバシイが優占する常緑広葉樹林において、赤外線感知型センサーを内蔵したカメラを設置し、野ネズミやその他の野生鳥獣の撮影を行った。<BR> 調査期間中全部で399枚の写真が撮影された。そのうち、野ネズミ(アカネズミとヒメネズミ)を撮影したものが265枚と約6割を占めた。野ネズミの写真は、大部分がアカネズミのものであった。撮影時刻の解析から、アカネズミは日没直後から採餌行動を開始し、数時間後に採餌のピークを示し、その後は採餌行動は次第に減少していくことが明らかになった。採餌時刻は、天候やリターの状態に左右され、雨が降ってリターが湿っている夜は、乾いている夜より採餌行動の開始と終了時刻が遅かった。また、一度餌があることがわかると、短期間に繰り返し餌を持ち去る様子が撮影された。しかし、全てのドングリを持ち去った後も、数回ドングリのあった場所を訪問し、彼らの餌量に対するサーベイは不完全であると考えられた。<BR> 野ネズミのほかに、イノシシ、タヌキ、アナグマ、テン、ノウサギ、ノネコ、コウモリ、コシジロヤマドリ、オオアカゲラ、コジュケイ、カケス、シロハラ、ドバト、クロジ、ガ、スズメバチ、サワガニが撮影された。
  • 特に防鹿柵設置の影響に着目して
    田中 美江, 大井 圭志, 福田 秀志, 柴田 叡弌
    セッションID: P3055
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに
     奈良県大台ケ原山では,ニホンジカ(Cervus nippon)の樹幹剥皮による森林の衰退が問題となっている.このため環境省では,保全対策として1987年以降防鹿柵を設置している.防鹿柵の設置後,林床に優占するミヤコザサ(Sasa nipponica,以下ササ)の稈高,稈密度,乾重に柵内外での違いが観察されている(Yokoyama and Shibata 1998).
     ササは野ネズミに餌資源や生息場所を供給すると考えられるため,防鹿柵の設置によるササの変化は野ネズミの生息状況に影響を与える可能性がある.そこで本研究では,特に防鹿柵の設置に着目し,ササの現存量および野ネズミ個体数の調査をおこない,防鹿柵の設置が野ネズミの生息に及ぼす影響を明らかにした.
    2. 材料と方法
     調査は大台ケ原山の東大台とよばれる地区でおこなった.高木層にはトウヒ(Picea jezoensis var. hondoensis)やウラジロモミ(Abies homolepis)が,林床にはミヤコザサが優占している.樹木枯死により草原化が進行している地区において,2001年に設置された防鹿柵内外にそれぞれプロットA,プロットBを設置した.また,樹幹剥皮は観察されるものの高木層が維持されている地区にプロットCを設置した.
    各プロットのササの形態および現存量を比較するために,各プロット内で50 cm×50 cmの方形区を5ヶ所任意に選択した.この方形区内のササを,剪定鋏を用いて地際から刈り取り,稈高,稈数,乾重を測定した.稈高は各方形プロットにつき任意に選択した50本について測定した.乾重は,稈と葉に分離し,80℃で48時間乾燥させた後,電子天秤で測定した.
    2002年9月_から_11月および2003年4月_から_9月の毎月1回,3晩4日間(ただし2003年4月のみ4晩5日間),シャーマントラップを用いて野ネズミの捕獲をおこなった.エサとしてヒマワリの種子を用いた.捕獲個体については種を同定し,捕獲地点で放逐した.さらに,100トラップ・ナイトあたりの捕獲個体数を算出し,野ネズミの生息数の指標とした.
    3. 結果
    ササの稈高はプロットAで最も高く,プロットBでは平均約13 cmと著しく低かった.稈密度はプロットBで最も高く,プロットAで最も低かった.乾重はプロットAで最も大きく,プロットCで最も小さかった.
    野ネズミの総捕獲個体数はプロットC で,プロットA,Bのそれぞれ1.6倍,10.4倍と最大であったが,プロットAとは有意差が認められなかった(表).また,野ネズミ捕獲個体数は,2002年9月および11月を除いて,プロットCで捕獲個体数が最も多く,全調査期間を通じてプロットBで捕獲個体数が非常に少なかった.アカネズミ(Apodemus speciosus)およびヒメネズミ(Apodemus argenteus)は全プロットで捕獲されたが,スミスネズミ(Eothenomys smithii)はプロットBでは捕獲されなかった.
    4.考察
    野ネズミの総捕獲個体数はプロットCにおいて最大であったことから,草原化により野ネズミの生息個体数は減少していると考えられる.一方,防鹿柵の設置により,プロットAのササの方が稈高は高く,稈密度は低く,乾重は大きかった.ササの稈高の増加は野ネズミを天敵から保護し,稈密度の低下は野ネズミの生息空間を作り出すと考えられる.また,乾重(バイオマス)の増加は草食であるスミスネズミの餌資源を増加させると考えられる.その結果,野ネズミの捕獲個体数はプロットBに比べプロットAの方が多かったと考えられる.したがって,森林衰退による草原化が拡大している地域における防鹿柵の設置は個体数の減少した野ネズミに新たな生息環境を供給したため,柵内での個体数が増加したものと考えられる.
  • とくに植生との関係
    山田 文雄, 安藤 元一
    セッションID: P3056
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 山中 征夫, 山中 千恵子, 稲村 宏子, 山根 明臣
    セッションID: P3057
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    給餌個体を使って,防除対策を考える上で重要なヤマビルの生命表及び生存曲線を調べた。その結果,ヤマビルは初期死亡が少なく,産卵も給餌2回から7回の間に見られ,産卵率も高く,非常に繁殖力の強い動物であることがわかった。ニホンジカなどの寄主増加は,ヤマビルの大量発生の主な要因であることが証明された。
  • 小林 隆人, 北原 正彦
    セッションID: P3058
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    日本の国蝶であるオオムラサキはかつて落葉広葉樹二次林の普通種であったが、高度経済成長期以降の二次林の開発によって、生息密度は全国的に減少している。このため各地で生息地への立入禁止や放蝶などの保全活動が行われるようになったが、それらによって生息密度は上昇していない。本種の保全には生息地の維持管理が重要で、そのためには生息密度とその規定要因を明らかにする必要がある。こうした立場から、筆者らは栃木県真岡市において本種の密度に及ぼす森林面積の影響について報告した。しかし、この結果が他の地域でも当てはまるのかは判っていない。各地域個体群の生息条件を明らかにすることで、その地域に対応した確実な保全対策を講じることができる。山梨県北巨摩郡長坂町は二次林が比較的広く残存し、全国で最も本種の生息密度が高い地域である。このため、同町では本種と人間の共存を目指した森林の開発施工法が求められる。本講演では、長坂町における本種の保全対策を講じるための資料を得るため、二次林の面積率が高い同町西部(深澤区)と南部(富岡区)に2.500×400mのプロットを設置し、成虫および越冬幼虫の密度、幼虫の寄主植物の密度(樹高2m以上の木)を調べた。深澤での土地利用は、二次林、水田、休耕地、幹線道路であり、大深澤川沿いに立地する二次林の面積率は極めて高い。一方、富岡では宅地、休耕地、畑、荒地の面積率が高く、二次林の面積率は低い。二次林は溶岩台地である七里岩の斜面と上部の平坦地に見られ、斜面では帯状に連続するが、上部平坦地では住宅や田畑に分断されパッチ状に分布する。2地区とも寄主植物としてエノキとエゾエノキが認められた。富岡では両樹種とも(A)七里岩斜面の沢地形、および斜面と上部平坦地との境界に沿った二次林の林縁、(B) 斜面に人為的に作られた保護区、(C)七里岩上部の平坦地にパッチ状に分布する二次林林縁、およびその付近の荒れ地で認められた。AおよびCではエノキあるいはエゾエノキが1ないしは2_から_30本程度の小集団で存在した。Bで見られたエノキは植栽されたもので、2_から_3m間隔の格子状に存在した。 一方、深澤では大深澤川沿いに発達する二次林で認められた。特に、両樹種とも氾濫原、谷壁斜面下端の急斜面、中洲、川に対し直行する小さな沢の下方などに多く認められた。両樹種の総本数は深澤では1683本、富岡では825本と顕著に異なった。このうち富岡では98%(807本)がエノキであったのに対し、深澤ではエゾエノキが73%(1228本)を占めるなど、2地区の間で両樹種の割合は有意に異なった。富岡でのエノキとエゾエノキの本数割合を A_から_Cの3タイプの場所で比べると、いずれもエノキが多い傾向があったが、オオムラサキ保護区(B)ではエノキの割合が極めて高く、A_から_Cの場所間での両樹種の本数割合の差は有意であった。深澤での成虫の密度は午前(44.2/2kmの歩行)、午後(47.5)とも富岡(午前:2.2、午後:2.0)を大きく上回り、差は有意であった。2地区とも成虫の多くは林縁部の樹冠付近を飛翔していた。富岡での吸汁源はクヌギの樹液のみだったが、深澤ではコナラの樹液、林道や畑の湿った地面、石垣、獣糞など多様であった。調査本数に対して越冬幼虫が見つかった本数の割合は深澤で100%であったのに対し、富岡では68%と有意に異なった。幼虫の木当たり個体数の平均値は深澤では58.2、富岡8.3と、前者が有意に多かった。深澤ではエゾエノキでの個体数(平均71.0)が、エノキ(45.5)よりも有意に多かった。富岡において、幼虫が発見された木の本数割合を寄主植物の3タイプの出現場所の間で比べると、斜面の二次林(A)では83%、斜面に造成された保護区(B)で47%、上部の平坦地の荒れ地およびパッチ状の二次林(C)で73%となり、場所間での差は有意だった。木当たりの幼虫数の平均もAで13.7、Bで3.0、Cで8.3となり、差は有意だった。以上の結果から、森林の面積率が本種の生息密度に及ぼす影響について検討した。
  • 野田 桂子, 稲葉 治彦, 山根 明臣, 岩田 隆太郎, 森下 加奈子, 岡本 徳子
    セッションID: P3059
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに ヒメヨコバイ科昆虫は農業害虫として知られている種が多いが,樹木害虫としてはあまり知られていない。本科に属するトチノキヒメヨコバイAlnetoidea sp.は,トチノキAesculus turbinata Blumeの葉裏に寄生する体長3mm程度の吸汁性昆虫である。トチノキは日本の暖温帯都市部において街路樹や学校・公園の緑化樹として広く植えられている落葉樹であるが,近年首都圏において早期退色・落葉の症状を呈している。本種がその原因となっている可能性が高く,薬剤散布により本種の防除を行った木と無処理木とでは,処理木のほうが明らかにトチノキ葉の葉緑素数が高いという結果が出ている。そこで防除の基礎として,トチノキヒメヨコバイ(以下「ヨコバイ」)の性比および越冬調査を行った。2.試料と方法2.1.試料 性比調査に使用したヨコバイ成虫は,2002年12月から2003年12月にかけて,神奈川県藤沢市亀井野日本大学湘南校舎図書館前のトチノキより採集した。また,2003年6月25日に捕虫網を使用して,同校舎図書館前トチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫を捕らえ,これも性比調査の試料とした。2.2.方法 ヨコバイの雌雄は,成虫の尾端部で見分けられる。♂は尾端が二裂し,二裂部よりも短い陰茎が突出するのに対し,♀は尾端に体長の1/4前後の長さの産卵管を有する。多数捕獲したヨコバイ成虫を,キーエンス社製デジタルHDマイクロスコープを使用して♂♀をカウントし,その性比を調べた。 ヨコバイの越冬形態や越冬場所を確認するため,2002年12月に近辺の常緑樹を対象としたビーティングネットによる越冬調査を行った。その際,リュウノヒゲ(ジャノヒゲ)およびオカメザサからヨコバイ成虫を発見し,常緑樹の葉裏で成虫越冬をすることが確認できた。 また,2003年7月に予備調査として,日本大学構内のトチノキ以外の樹木やその下生えにおいて,ビーティングネットを使用してのヨコバイ捕獲を試みた。しかしヨコバイは捕獲できず,宿主はトチノキに限られることが示唆された。 以上を踏まえて,2003年12月_から_2004年1月にかけて,日本大学構内の常緑植物を対象としてビーティングネットによるヨコバイ成虫の捕獲を行い,越冬場所とする常緑樹および多年生草本を記録した。また,ヨコバイ成虫が越冬場所を探す際,主宿主樹であるトチノキからどの程度の距離まで移動するのかを知るため,捕獲場所から最も近いトチノキまでの距離を測定した。3.結果 全体的に♀は♂よりも数が多く,捕獲したヨコバイ成虫1196頭のうち,♂nm = 422頭,♀nf =774頭で,性比nm / (nm+nf) = 0.35となった。 2003年6月25日にトチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫は,捕獲した47頭のうち,♂38頭,♀9頭と♂が多く,性比は0.81となった。また2003年7月30日の雨上がりには,多数のヨコバイ成虫が敷石や地面に張り付くという現象がみられた。この敷石に張り付いていたヨコバイは,捕獲した143頭のうち♂114頭,♀29頭とやはり♂が多く,性比は0.80であった。 越冬調査により,ヨコバイはリュウノヒゲ(ジャノヒゲ),オカメザサ,オオムラサキ,サツキ,ハナゾノツクバネウツギ,サザンカ,イヌツゲ,シラカシ,ヤマモモなど,主宿主樹であるトチノキの近傍に生える植物の葉裏を越冬場所として利用していることが判明した。移動距離は最長が52m,最短が3mであった。4.考察 トチノキの葉裏から採集したヨコバイの性比が0.35だったのに対し,飛翔中および敷石に張り付いていたヨコバイの性比はそれぞれ0.81と0.80であった。♂成虫は♀成虫よりも活発に活動するように思われた。 越冬調査では,直接道路に面している部分より,ほかの植え込みの陰や壁際などの風当たりが弱い部分に数多く見受けられた。日本大学構内にはトチノキ付近に常緑植物が多く植栽されており,それほど移動しなくとも越冬場所を見つけられる状態にあった。トチノキ付近に常緑植物がない場合は,さらに遠くまで移動するものと思われる。
  • 佐藤 嘉一
    セッションID: P3060
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    2002年と2003年に鹿児島県内の林分でイヌマキの重要害虫であるケブカトラカミキリ成虫の活動消長と空間分布,移動分散能力を明らかにするため標識再捕調査を行った。成虫は4月中旬から5月末まで期間活動しており,そのピークは5月初旬であった。立木あたりの捕殺数の分布は集中分布傾向を示したが,捕殺数と胸高直径の間に有意な関係は認められなかった。再捕獲された成虫の多くは放虫木もしくは放虫木から10m以内に留まっていたが,長距離の移動を行っている個体もあり,最長分散距離は70.8mであった。このような移動分散の小ささが,本種の集中分布傾向の一因と考えられた。
  • 沖縄島におけるマツノマダラカミキリの発生回数と時期
    伊禮 英毅, 宮城 健, 喜友名 朝次, 具志堅 允一, 中平 康子, 森 高, 亀山 統一, 中村 克典, 秋庭 満輝, 佐橋 憲生, 石 ...
    セッションID: P3061
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 野外でのマツノマダラカミキリ成虫の発生消長とマツの発病経過
    森 高, 亀山 統一, 伊禮 英毅, 宮城 健, 喜友名 朝次, 具志堅 允一, 中平 康子, 中村 克典, 秋庭 満輝, 佐橋 憲生, 石 ...
    セッションID: P3062
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     沖縄島においてリュウキュウマツ(以下マツ)に深刻な被害をもたらしている材線虫病の流行様式の特徴について明らかにすることを目的として、2001年から、沖縄島中部・北部各2ヶ所のマツ林分を調査地として、本病発病・病徴進展と媒介昆虫マツノマダラカミキリ(以下カミキリ)の消長について継続調査し、それらと病原線虫、気象条件などとの関係について検討を進めてきた。本報では、3年間の調査結果にもとづき、沖縄島における本病の発病経過と野外でのカミキリ成虫の発生消長について報告する。 2001年6月に、沖縄島中北部のマツ林4ヶ所(北部:大宜味村根路銘・江洲、中部:石川市伊礼原・恩納村山田)を調査地として選定し、それぞれの調査地内に1ヶ所ずつ、当初健全なマツ生立木が100個体以上入るような毎木調査区を設定した。各調査区の全てのマツ生立木について、4_から_5週ごとに、ポンチ穿孔による付傷部からの樹脂滲出能の測定と針葉の変色等に関する目視調査を行った。調査区内に発生した全てのマツ枯死木から、常法により病原線虫の分離を試みた。 一方、これら4調査地のマツ林内に誘引トラップを各3基設置し、2001年6月から溺死式トラップで、2002年4月からは生け捕り型のトラップとして、カミキリ誘引捕獲消長調査を行った。また、根路銘と伊礼原の両調査地内のマツ林(毎木調査区外)に網室を設置し、2002,2003年の各4,7月に、調査地内からカミキリ幼虫が多数生息しているマツ被害木を伐倒・搬入して、カミキリ成虫の羽化脱出を調査した。網室・トラップで得たカミキリ成虫は、性別・前翅長を記録し、うち生け捕った個体は磨砕して線虫を分離した。 本病の発病・枯死木は全調査区で毎年出現した。枯死木は通年で発生し、春に少なく、夏_から_冬の間に発生のピークを示した。樹脂滲出能低下が始まる時期も通年にわたっていた。沖縄島のマツ林において本病の発病・進展が年間を通じて起こりうることが明らかにされた。さらに、樹脂流出異常や枯死が多発する時期が少雨の時期に一致する傾向も示された。 カミキリ成虫が誘引捕獲された期間は4_から_11月であった。初夏と秋に捕獲頭数のピークを示すことがあり、7_から_8月には捕獲頭数が減少する傾向を示した。このことから、カミキリ成虫の発生に二山型のピークがある可能性も考慮しつつ検討を進めた。その結果、別に報告する(伊禮ら(2004))ように、網室でのカミキリの羽化脱出期間は4月下旬_から_8月中旬であり、形態や発生時期の異なる集団の存在は認められなかった。また、誘引捕獲頭数の減少する時期は、同じ調査地で本病発病木が多発する時期と重なっており、この時期には、林内の枯死木の発散する揮発成分との競合によって、誘引剤の効果が相対的に低下していることが推察された。そこで、4月_から_11月の期間を通じてカミキリ成虫は野外で活動し、本病の流行過程に関与しているものと考えられた。すなわち、九州など日本本土の温暖地域と比較しても、カミキリ成虫の活動期間は早く始まり、長く続くことが明らかにされた。
  • 被害拡大のメカニズムについての一考察
    高尾 悦子, 曽根 晃一, 畑 邦彦, 佐藤 嘉一, 中村 克典
    セッションID: P3063
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     鹿児島県桜島では1994年に新たにマツ材線虫病の被害が確認されて以降、急激に被害地域が拡大し、それにともなってクロマツ枯損量も2万立米にせまっている。島内での急激な被害の拡大もメカニズムを明らかにするために、2002年と2003年に、島内の被害歴と被害程度の異なる3つのクロマツ林分で、マツノマダラカミキリの成虫の標識再捕調査を実施した。いずれの年も、生け捕り用に改良したサンケイ式昆虫誘引器15器または10器を、10mから20m間隔で高さ5mから12mのクロマツの枝に吊し、成虫か捕獲できなくなるまで、毎週2回ずつトラップをチェックした。捕獲した成虫は上翅にペンキで番号を付け、捕獲したクロマツの樹幹または新梢に放逐した。誘引剤のエタノールとα_-_ピネンは2週間おきに交換した。<BR> 総捕獲頭数は、被害が非常に激しく、林冠が疎開していた林分(黒神溶岩)でトラップあたり焼く20頭で、他の中程度の被害発生林分(碩原)とほとんど被害が発生していない林分(湯の平)のトラップあたり10頭より多かった。捕獲数は、ギャップや林道に面したトラップで多かった。再捕率は碩原が0.078、黒神溶岩が0.0035、湯の平が0.012で、碩原が最も高く、碩原で捕獲された成虫は、他の場所で捕獲された成虫に比べ、移動・分散性が低いのではないかと考えられた。放逐後の成虫の行動も調査地間で差が見られた。捕獲数が多く、林冠が疎開していた黒神溶岩では、成虫は樹幹を活発に上部へ移動し、飛び去る個体も多く観察された。一方、林冠の疎開度は低く、再捕率が高かった碩原では、放逐個体は樹幹や新梢で静止していく場合が多かった。これらのことから、被害が進行し、林冠の疎開度や成虫の生息密度があるレベル以上になると、成虫の移動・分散制が増し、被害地が急激に拡大する可能性が考えられた。
  • 富樫 一巳, Appleby James, Malek Richard
    セッションID: P3071
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    Monochamus carolinensis (Olivier)は寄主植物の材内に蛹室を作って幼虫態で越冬する。ストローブマツとヨーロッパアカマツの中で越冬中の幼虫の体サイズと蛹室のサイズをイリノイ州で1985年の12月から1986年の2月までの間に測定した。ストローブマツ内の幼虫はヨーロッパアカマツ内の幼虫よりも大きく,体重は重かった。また,ストローブマツ内の蛹室はヨーロッパアカマツのそれよりも深く,長かった。各樹種の中では蛹室の長さと深さは幼虫の体重が重くなるにつれて増加した。体重が等しい場合,幼虫はヨーロッパアカマツよりもストローブマツの中では0.65_cm_深く,2.5cm長い蛹室を形成した。従って,蛹室の深さと長さの樹種間の違いは幼虫の体重と樹種の材の硬さの違いによって説明できた。このことから,寄主植物は材の硬さを通して直接的に,餌としての内樹皮を通して間接的に,蛹室の深さと長さに影響を与えることが示唆された。
  • 吉田 智弘, 肘井 直樹
    セッションID: P3072
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに森林生態系を形成している樹冠層と土壌層には、物質循環において重要な役割を果たしていると考えられる腐食・菌食性の小型節足動物が多数生息している(Hijii 1989; Watanabe 1997)。これら動物群集の構造や機能を明らかにしていくためには、圧倒的な量の光合成産物と複雑な空間構造がもたらす生息環境を定量的に把握する必要がある。特に、腐食・菌食性の小型節足動物群集の餌やすみ場所資源であるリターの存在様式は、動物の時間的、空間的な分布に大きく関与していることが推測される。そこで本研究では、スギ人工林の樹冠層と土壌層に存在する小型節足動物と枯枝葉を垂直的な階層ごとに経時的に調査することにより、スギ人工林における小型節足動物群集およびその利用資源として考えられる枯枝葉の時間的、空間的な分布を明らかにした。2.材料と方法調査は、愛知県北東部に位置する名古屋大学大学院生命農学研究科附属演習林内の33年生スギ人工林でおこなった。調査した林分は樹高約20 mで、過去の施業により約7 mまで枝打ちがなされていた。2003年5月から1ヶ月間隔で、樹冠層および土壌層における枯枝葉と小型節足動物を、以下の方法により調査した。・樹冠層毎月、異なる4本のスギ調査木に1本はしごを設置し、それらの樹幹に付着するすべての枯葉と枯枝(直径5 mm以上)を採取した。枯枝葉の垂直分布を明らかにするために、林床からの高さ1 mごとの樹幹に付着する枯葉と枯枝を、その階層の枯枝葉として採取した。回収した枯枝葉は通風乾燥機(85℃、48時間)で乾燥し、重量を測定した。節足動物の採集は、上記の枯枝葉採取時に、1 mごとの各階層から一定量の枯葉をポリエチレン袋に回収しておこなった。これらの枯葉から、ツルグレン装置(20 W, 7日間)を用いて動物を抽出し、80%エタノール中で保存した。その後、抽出した動物は分類群ごとにまとめて個体数をカウントした。・土壌層樹冠層調査の影響の及ばない地点において、土壌層に堆積するリター量(L層堆積量)を調査した。毎月数本のスギ立木から半径1 m以内に、方形枠(25 cm×25 cm)を10ヶ所設定し、その内側のL層を採取した。その後それらを実験室に持ち帰り、樹冠層の場合と同様にしてツルグレン装置により動物を抽出し、保存した。そして、すべてのリターを通風乾燥機(85℃、48時間)で乾燥し、重量を測定した。3.結果と考察スギ樹冠層の枯葉からはトビムシ目とササラダニ類が多数確認され、いずれも月平均個体数密度は夏に最大で、それぞれ17.4、3.2 [g-1]であった。両者は春から夏にかけて増加し、その後、冬にかけて減少した。一方、土壌層(L層)においてもこれらの分類群は優占しており、樹冠層と同様、夏に個体数密度が高くなる傾向がみられた。樹冠層の枯葉と枯枝は、多いもので単木あたり枯葉16.8 kg、枯枝10.6 kg採取された。それらは春から夏にかけて減少し、秋に増加する傾向がみられた。一方、土壌層(L層)のリターは、春から秋にかけて減少し、その後増加する傾向がみられた。樹冠層の小型節足動物および枯枝葉の垂直分布をみてみると、枯葉上のトビムシ目では、垂直分布に一定の傾向はみられなかったのに対し、ササラダニ類は樹冠層下部から上部にいくにしたがって個体数密度が減少する傾向がみられた(図)。また、枯葉と枯枝は、それぞれ地上から10 _から_ 13 m、9 _から_ 11 mの範囲に多数存在していた。以上のことから、小型節足動物と枯葉・枯枝の時間的、空間的(垂直)分布には特に関連は認められず、小型節足動物の時空間的な分布パターンには、他の要因が関係していることが推察された。
立地
  • 瑞牆山麓地域での研究
    松谷 順, 松本 嘉孝, 芳賀 弘和, 西田 継
    セッションID: P3101
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    山地における地中水の流出については、ハイドログラフの分離、EMMAなどにより、複数の流出成分が混合し流出水が形成されることが明らかになってきた。しかし個々の流出成分の地中での位置や挙動について、時間・空間分解能の面で満足できる精度が得られてはいない部分が有る。水温は熱伝導のほか水移動でも変化するため、トレーサーとして用い得る。特に近年は自記水温計が高性能になり、高分解能の測定が可能となってきた。そこで本研究では、山地の小流域において、比較的浅い部分の地下水の挙動を、水温をトレーサーとして解明することを目標とした。研究は山梨県北西部、瑞牆山麓に位置する小流域で行った。属性は、流域面積:約1ha、標高:1500_から_1560m、土層深:約1m、基盤地質:カコウ岩である。谷地形で下部に湧水があり、直下に堰を設け水量を測定したた。流域内に設置した7機のピゾメーターで水温計を、うち1機で地下水の圧力水頭を測定したその結果、長期的な水温変動は3つにグループ化された。1:緩やかな季節変動のみ・200cm以深2:季節変動と降雨に対応した変動・100cm3:2に日変動を重ねたもの・50cm以浅7,8月の降雨時における2,3に注目すると、上部谷底の深度1mでは、水温は降雨開始直後から若干上昇が大きくなり、1日程度遅れて大きく低下した。低温状態は数日間継続し、その後徐々に回復に向かった。水理水頭は降雨開始直後から上昇、低水温期は高い状態で、水温上昇と対応して低下した。湧水点の50cm以浅では、降雨直後の水温上昇は見られず、遅れての水温低下のみが起こった。また低温期に日変動が小さくなった。湧水量は降雨直後に鋭いピークを、それに遅れ低温期に対応した緩やかなピークを形成した。地下水温の変動は、ある温度を持った地中水が移動することと、気温が熱伝導によって地下に伝わることの、2つの要因で起こる。さらに気温の伝導による変動は、ある深さ以下では日変動が消え季節変動のみとなる。また7、8月は気温が上昇傾向にあり、かつ常に地下水温より高い。このため熱伝導だけなら水温も上昇し、また浅いほど高温・深いほど低温で地表面と平行に成層していると推定される。そのため地下水が、鉛直下方へ動けば水温上昇、地表面と平行に動けば一定水温、地表面より浅い角度で側方に動けば水温低下として、それぞれ観測されることになる。2m以深は水温変動が季節変動に限られることから、時間・空間的に安定した地下水の流れの中に常にあると推定できる。これに対して1m以浅では水温の変動が大きく、水の動きが変化しているものと考えられる。上部谷底の深度1mでは、降雨直後に水温上昇が速まり、鉛直下方への水の動きが加速していることを示す。遅れて起こる水温低下は側方への水の流れが卓越することを、その後の昇温は再び鉛直下方への流動に戻ったことを示唆する。湧水点では降雨直後の温度上昇が見られず、地中での水の動きは変化しないことが示唆され、この時点でみられる湧水量の鋭いピークは、主に飽和地表流によると思われる。対してその後には、低くかつ安定した水温を持つ深部の水が大量に流出し、水温低下・日変動縮小、湧出量増加をもたらすと考えられる。
  • 瑞牆山麓地域での研究
    芳賀 弘和, 飯沼 智義, 西田 継, 坂本 康, 松谷 順
    セッションID: P3102
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 瑞牆山麓地域での研究
    松本 嘉孝, 芳賀 弘和, 西田 継, 坂本 康, 松谷 順
    セッションID: P3103
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 瑞牆山麓地域での研究
    藤田 昌史, 芳賀 弘和, 坂本 康, 西田 継, 松谷 淳
    セッションID: P3104
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 瑞牆山麓地域での研究
    奥平 研人, 西田 継, 松本 嘉孝, 松谷 順
    セッションID: P3105
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 吉永 秀一郎, 阿部 俊夫, 釣田 竜也, 相澤 州平
    セッションID: P3108
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    森林流域から流出する渓流水の低水時における溶存成分組成は、気候条件に支配された季節変化を示すが、変動幅は狭く、比較的安定している。これに対して、降雨や融雪といったイベント時の溶存成分組成は、流出に至る水文過程の変化を反映して、流域毎に異なったさまざまな変動を示すことが指摘されてきた。本発表では、茨城県中部の森林小流域における降雨イベント時の水量、水質観測結果をもとに、溶存成分濃度、特に、硝酸イオン濃度、溶存有機炭素濃度、珪素濃度の変動について報告する。 3年間に起こった30分間の雨量が4mmを越す降雨イベントを対象として自動採水を試み、17回の降雨イベント時の渓流水を採取した。採取時間間隔は1時間である。どの降雨イベントにおいても、硝酸イオンならびに溶存有機炭素濃度は流量の増加に鋭敏に反応して上昇し、ピ_-_ク流量に達した後の減水過程においては、流量に対応して濃度も減少した。個々の降雨イベントにおける流量と溶存成分濃度との間には、硝酸イオン濃度では相関が認められたが、溶存炭素濃度、珪素濃度では明瞭な関係は認められなかった。硝酸イオンならびに溶存有機炭素の増加は、降雨イベント時に土壌浸透水量の増加や地下水位の上昇によって、表層土層中のこれらの成分が洗脱されて渓流水へと流出したことによる。一方、珪素が降雨イベント時に濃度が低下するのは表層土中の土壌水の流出量の増加ならびに雨水による直接的な希釈によるものと考えられる。 なお、全体として見た場合、珪素濃度と流量との間に負の相関が認められるのは、珪素の動態が生物的因子を含まない地球化学的要因によって支配されていることを示している。これに対して、硝酸イオン濃度、溶存有機炭素濃度と流量の間に一定の傾向が認められないのは、これらの成分の生成がより複雑に気候、植生、微生物などの要因に支配された生物地球化学的要因に支配されていることを示唆している。
  • 井手  淳一郎, 永淵 修, 久米 篤, 大槻 恭一, 小川 滋
    セッションID: P3109
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    窒素(T-N)およびリン(T-P)の支出の適切な推定法を提示することを目的として,ヒノキ人工林で覆われた山地小流域の渓流において水文・水質観測を2年間行った。T-NにつてはL-Q法による推定値が実測値とよく一致した。T-Pでは、出水時において,懸濁態リン(PTP)の流出濃度が高い程,L-Q法によるT-Pの推定値が著しく過小評価していた。この結果から,PTPの流出割合が高いT-Pの支出推定では,L-Q式が出水時におけるPTPの流出負荷量を著しく過小評価することが示唆された。したがって,L-Q法によるT-Pの流出負荷量原単位も著しく過小評価すると推察された。
    出水時におけるPTPの流出特性を考慮してT-Pの支出を推定するために,T-Pを溶存態リン(DTP)とPTPに分離してそれぞれの流出負荷量を推定する,流出負荷量2成分モデルを作成した。その結果,L-Q法による推定値と比べ,モデルによる推定値は実測値とよく一致した。この結果から,PTPの流出特性をT-Pの支出に反映させる必要があることが示された。
  • 浅野 友子, Compton Jana, Church Robbins
    セッションID: P3110
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 金子 真司, 平野 恭弘, 内藤 文哉, 玉井 幸治, 古澤 仁美
    セッションID: P3111
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • -空間分布について-
    金 ミン植, 竹中 千里, 吉田 恭司, 朴 昊澤
    セッションID: P3112
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1. 緒論愛知県豊田市の豊田フォレスタヒルズの渓流水のpH値は約6_から_7であるにもかかわらず、土壌の酸性化によって溶出する物質であるアルミニウムの濃度は日本の渓流水の平均値と比較して約10_から_100倍高く、その流出メカニズムは非常に興味深い。前回はろ過の際のフィルタ孔径の違いと室内実験(土壌抽出実験とカラム実験)による結果の解析から、0.20m_から_0.45mの大きさのAl、Feが比較的浅い表層土壌で溶出し、溶出しやすいAlは表層土壌にFe、Siと共に存在し、それがその形態のまま渓流へ流出したことが示唆された。今回は、アルミニウムの移動過程を把握するため、渓流水、湧水とTension lysimeterを用いた土壌水の分析を行ったので、その結果の一部を報告する。2. 材料と方法  調査対象地は落葉広葉樹の二次林であり、表層地質は風化花崗岩である。斜面上の場所の違いを把握するため、上部の湧水、湧水の地点からおよそ20m間隔で渓流水および調査流域の下部で位置している堆積地の水を選択し、2002年5月から2003年10月まで毎週1回採集した。土壌水は同じ時期に降雨後、Tension lysimeterを用いて湧水から5m離れた上部の2ヶ所(AおよびB point)と渓流水1と2の間の1ヶ所(C point)を選んで分析を行った。位置関係を図1に示した。現場で採集した渓流水、湧水、堆積地の水と土壌水を研究室に持ち帰り、分析まで4℃に保存した。pHとECを測定し、溶存イオンは0.45mのフィルタでろ過後にICPとICで分析した。DOCはTOCメータで分析した。3. 結果と考察 渓流水、湧水および堆積地の各イオンの平均濃度を表 1にまとめた。pHは湧水が渓流水より低かったが、Alは湧水のほうが渓流水より高い値を示し、FeおよびSiの濃度はAlと同じ傾向を示した。しかし、ECおよびDOCの濃度の変化はなかった。このように湧水において高いAl濃度が検出されることは、表層に存在する有機物と粘土鉱物などから水の流れとともにコロイド状の状態で溶出することを指摘する。また、堆積地の水は湧水と渓流水とはあまり変化はなかったが、Alは低く、Feはおよそ5倍高かった。空間分布を見ると、pHは上部から下部へ流れるにしたがって増加したが、EC、Al、FeおよびSiの濃度は減少する傾向が見られた。この結果は、渓流水が下部へ流れる間に河床と接触して沈殿し、吸着していることを示唆する。斜面に位置する土壌水(AおよびB point)のAl濃度は、表層である10cmが高く、深くなると低くなる傾向が見られ、深さ100cm以下からはほぼ一定値を示した(図 2)。これは酸性化されている表層土壌から降雨時に溶出しやすいAlが流出することを指摘し、100cm以下では溶出したAlの再吸着が起こりやすいためと考えられる。しかし、C pointのAlでは、10,20cmより40cmが高く、60cmからはA、B pointの土壌水と同じ低くなる傾向が見られた。これは表面には土砂が堆積しており、40cm_から_60cmには有機物を含む土壌が存在することが原因だと考えられる。
  • 藤巻 玲路, 武田 博清
    セッションID: P3113
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    京都市近郊のヒノキ林において落葉および細根の分解実験を行い、土壌の窒素無機化に対する分解基質の影響を考察した。実験は2mmメッシュの円筒形バッグに土壌基物を詰めて林床に埋設する事により行い、その際に分解基質として、ヒノキ落葉を土壌基物上部においたバッグ(落葉区)、細根を土壌基物に混ぜたバッグ(細根区)を用意した。分解基質の重量減少パターンは、落葉と細根とでよく似ていたが、窒素動態は異なる傾向を示した。分解にともない落葉では窒素濃度・含有量ともに増加したのに対し、細根では窒素濃度の増加は明瞭ではなく、窒素含有量は減少した。このことから、分解過程初期において落葉が周囲土壌に対して窒素のシンクとして、細根は窒素の供給源としてそれぞれ機能することが考えられる。また、可溶糖濃度は落葉で大きく減少しており、分解初期において土壌微生物に対する可溶糖の可給性が比較的高いことが示唆される。土壌基物の実験室培養の結果、呼吸量および窒素の純無機化速度では、落葉区と細根区で有意差は認められなかった。しかし呼吸量と窒素の純無機化速度との関係において両者に違いが見られ、落葉区においては有意な相関関係は認められなかったが細根区では有意な正の相関が認められた。このことは、落葉区では細根区に比べ、微生物の活性に対して微生物体からの窒素の純放出がおきにくい事を示唆している。分解基質による窒素や可溶糖の可給性の違いが、土壌微生物の活性と窒素の無機化との関係に影響したためと考えられる。
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