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生態
  • 西宮 明文, 岩崎 正浩, 清田 信, 小林 徹哉, 野上 誠, 菅 秀樹
    セッションID: P1029
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    近年COP3を受け、温室効果ガスのシンク能力を高める植林(緑化)技術開発が重要な課題となっている。このことから、大規模人工緑地において、緑地のシンク機能を植物_-_土壌系全体で評価し、シンク機能を拡大させるための手法を確立する必要がある。ここでは、その一環として、植栽年度の異なる人工緑地における炭素固定量を評価するために、2002年11月_から_2003年2月に実施した堀取り調査および土壌呼吸量との関係について報告する。測定は、関西電力_(株)_南港発電所,姫路第一発電所,多奈川第二発電所構内の人工緑地内において行った(表1)。これらの人工緑地は、真砂土を植生基盤としエコロジー緑化手法を用いて緑化されたものである。この人工緑地内で植栽年度が異なる4ヶ所に10m×10mの測定区(それぞれ南港発電所n-St1とn-St2,姫路第一発電所h-St3,多奈川第二発電所t-St4とする。)を設定し、毎木調査、堀取り調査、土壌炭素分析および土壌呼吸量測定を実施した。樹木の炭素固定量は、2003年2月に、南港発電所n-St1,n-St2および多奈川第二発電所t-St4、2002年1月に姫路第一発電所h-St3おいて生育が中庸と思われるクスノキを各試験区3本づつ計12本掘り取り、樹高、胸高直径(以下DBHとする)、生重量、乾燥重量を測定した。生重量の測定は、バネ秤で地上部の重量を測定した。なお、地上部と根の区分は地上にでている部分を地上部とした。乾燥重量の測定は、地上部(幹)の一部を切取り、関西電力_(株)_総合技術研究所内温室で約3ヶ月間風乾させた後、電子天秤で重量を計測し、計測日から3日後の重量変化が±5g以内であることを確認し乾燥重量とした。この調査の結果を基に、毎木調査の結果を併せ地上部の現存量を下記に示す式を用い算出した。土壌中の炭素固定量(現存量)は、各試験区のメッシュ中央付近より、深さ5cmまでの表層土壌を採取した。採取した土壌は、CNコーダー(_(株)_島津理化製NC-1000)を用いて全炭素、全窒素の分析を行った。分析によって得られた炭素等の含有量を重さに変換するために、各試験区3地点づつ400mlの円筒管を用いて土壌を採取し、乾燥後、土壌の密度を測定した。土壌呼吸量は、赤外線CO2分析計(ライカ社製LI-6400P)と閉鎖系土壌呼吸測定用チャンバー(直径9.5cm,高さ14cm)を使用し、約1回/1.5ヶ月の頻度で土壌呼吸量および地温(深さ約7cm)の測定を行った。その結果、人工緑地における全炭素固定量は、常緑林:約150_から_260t-C/ha,常落混交林:約60〜170t-C/haとなった。植栽後の経過年数と固定量の関係を見ると、植栽後年数の経過に伴い地上部、地下部とも増加するが、土壌中の炭素固定量は植栽初期から高く植栽後17年までは増加するが、その後減少している。これは、植栽時に投入したバークの分解が進んでいないため植栽初期は高い値を示し、その後は分解が進み減少しているものと考えられる。土壌中炭素固定量と土壌呼吸量の関係は、冬季における各人工緑地の土壌呼吸量1.1_から_3μmol・CO2/m2/sとなった。土壌中炭素固定量は、土壌呼吸量と同様の経年変化を示している事から、相関があると考えられる。
  • 羽柴 敬子, 上條 隆志, 加藤 拓, 島田 和則, 樋口 広芳
    セッションID: P1030
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    【目的】
    伊豆諸島・三宅島は東京都から南南東に約180km離れた太平洋上の火山島である。島の中央に位置する雄山は2000年6月に噴火活動を開始する以前の500年間に13回噴火する火山である。 2000年の噴火は噴火直後の大量の火山灰噴出とその後2004年現在まで続いている火山ガスの長期的な放出に特徴づけられる。これにより島の森林群落は大きな影響を受けている。本研究は、噴火の影響を受けた森林(噴火被害林)の生産力と機能を、そのリターフォール量を測ることによって考察することを目的とした。
    【調査地および方法】
     本研究では島内の5つの固定調査区を対象とした。比較的被害(枯死木の割合)の大きい南西部の火口へ続く南戸林道沿いには10m×10m の調査区を4つ(N1 _から_N4)設け、各コドラート内に直径50cmのリタートラップを4つ設置した。同林道沿いでは火口に近いほど樹木被害が増加する;N1・N2 は樹木個体の大半がほぼ完全に落葉(全面落葉)しており、一部の樹木に胴吹きが認められる。N3・N4と標高が下がるにつれて、樹冠の葉が残っている個体や胴吹きをしている個体の割合が増し、N4 ではほとんど被害が認められない。被害が最も軽微である島の北西部のスダジイ自然林には、噴火以前から20m×30m の方形区(CL)が設けられており、ここも調査対象とした。同調査区内には直径41cmのリタートラップが15個設置されている。リターは2002年2月から1年間採集した2001年12月からの年間量を測定した。厳しい入島規制のため、リター採集は不定期(年5回)となった。採集したリターは80℃48時間乾燥させ、葉・枝・樹皮など計7項目に分別し重さを測った。
    【結果および考察】
     2001年12月から2002年11月における南戸林道沿い(N1_から_N4)の年間リター量は、標高の高い地点から順に7.7t/ha、4.8t/ha、3.7t/ha、8.6t/haであり、被害が最も軽微なCLは9.0t/haであった。リター総量に占める落葉量の割合を同順に見てみると、2%(0.2t/ha)、10%(0.5t/ha)、24%(0.9t/ha)、74%(6.2t/ha)、CLでは51%(4.4t/ha)となり、被害が大きい森林ほどその割合は小さくなる傾向があった。一方樹皮量の割合は逆の傾向を示した:N1・N2・N3・N4・CLの順に36%(2.7t/ha)、30%(1.4t/ha)、24%(0.9t/ha)、1%(0.1t/ha)、3%(0.2t/ha)であった。
     以上をまとめると:1)被害の大きい森林群落ほど落葉量が少なく樹皮量が多い;2)被害林で生産された落葉は主に胴吹きシュートに由来し、その生産量は健全林の落葉量の1/30_から_1/5であった。
  • 作田 耕太郎, 井上 純大, 大庭 健
    セッションID: P1031
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    樹木(植物)は葉と枝からなるモジュールの集合体であり,分枝の繰り返しによって成長する.モジュールは植物が物質生産を行うために必要な機能である,葉群維持,空間拡張などを有し,その形態は樹冠内での相対的な位置によって変異する.葉の水分特性は,葉におけるガス交換速度を律速する因子の一つであり,内・外的な水分環境に対する個体や枝の順応の指標ともなる.シュートモジュールの形態と機能の特性は密接に関連し,樹木個体の発達や森林群落の動態などを把握する上で重要な因子となる.シュートモジュールの生理生態学的特性は主として落葉広葉樹種について明確にされているものの,暖温帯林の主要な構成樹種である常緑広葉樹種については未だ不明瞭な点が多い.本研究では,暖温帯林で林冠構成種となる常緑広葉樹種を対象とし,陽樹冠,陰樹冠毎に当年生シュートの形態的特徴および葉の水分特性を調査し,それらの関係について検討した. 熊本県上益城郡甲佐町の熊本県林業研究指導所舞の原試験林,及び九州大学農学部構内貝塚圃場で材料を採取した.ブナ科コナラ属のアラカシ(Quercus glauca),シラカシ(Quercus myrsinaefolia),ウラジロガシ(Quercus salicina),イチイガシ(Quercus gilva),ウバメガシ(Quercus phylliraeoides),ブナ科シイ属のコジイ(Castanopis cuspidata),スダジイ(Castanopis cuspidata var. sieboldii),ブナ科マテバシイ属のシリブカガシ(Pasania glabra),マテバシイ(Pasania edulis),及びクスノキ科タブノキ属のタブノキ(Machilus thunbergii)の計10樹種を対象樹種とした.舞の原試験林においてブナ科9樹種の枝を,九州大学農学構内貝塚圃場においてタブノキの枝を採取した.舞の原試験林においては,各樹種は2 m間隔で北東から南西方向に列状に植栽されており,林冠は閉鎖していた.タブノキは,南北方向に列状に植栽された試験林の林縁部にあった. それぞれの種について1本の供試木を選定し,樹高と胸高直径を測定した後,陽樹冠及び陰樹冠の枝をそれぞれ2_から_5本程度採取し,すぐに水切りを行い,九州大学構内の実験室に持ち帰った.また,陰樹冠の相対光強度をデジタル全天画像より推定した.採取した枝は芽鱗痕によってシュートモジュールに分割した際に,年輪から枝齢を確認し,シュートモジュールごとの長さ,基部断面積,葉面積や絶乾重量などの形態的因子を測定した.これと並行し,プレッシャーチャンバーを使用して当年生葉のP-V曲線の作成を行い,葉の水分特性を算出した.サンプルシュートの枝長は8_から_28cmの範囲にあり,マテバシイの陽樹冠シュートが最も長く,タブノキの陰樹冠シュートが最も短かった.スダジイのみが陽樹冠よりも陰樹冠のシュートが長かった.基部直径は0.12_から_0.47 cmの範囲にあり,マテバシイの陽樹冠シュートが最も太く,コジイの陰樹冠シュートが最も細かった.イチイガシのみが基部直径に陽樹冠と陰樹冠との差が認められなかったが,すべての樹種で陰樹冠の直径は小さかった.SSLは22_から_120cm g-1の範囲にあり,コジイの陰樹冠で最大,マテバシイの陽樹冠で最小だった.シラカシ,ウラジロガシおよびマテバシイで種内間差が認められなかったが,陰樹冠の方が大きくなる傾向にあった.SSLのような,比で表したシュートの形態因子は,SLAと同様に葉の水分特性と密接に関係しており,光環境によるシュートの形態変異と生理的特性とは密接に関係していることが示唆され,さらに詳細な種間差についての解析が望まれる.
  • 長 美智子, 河村 耕治, 武田 博清
    セッションID: P1032
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    (目的)植物個体の炭素獲得は、個体の周囲の光環境はもちろん、樹冠内の光の分布パターンにより影響される。それゆえ、個体全体の生産量を定量化する場合、樹冠内の光の不均一性を考慮する必要がある。本研究では二次林に同所的に生育するコジイとアラカシの稚樹を材料に、樹形、樹冠内光環境を調べ、これらを生産量と関連して考察した。
    (方法)樹高100-200cmのコジイとアラカシ各5個体について以下の調査を行った。(1)樹形の記述:3Dデジタイザを用いて幹、側枝、葉の全てを3次元座標にプロットした。これらから側枝の形態、樹冠内の葉面積密度の解析を行った。(2)樹冠内光環境の測定:2003年9月に枝に感光フィルムを設置して樹冠内のRPFDを求めた。枝の選定にあたり、樹冠全体から選ぶよう配慮し、個体ごとに3本ずつ選定した。感光フィルムは一本の枝につき3箇所設置した。幹先端のRPFDを個体直上の光環境とした。個体直上の光環境に対する樹冠内の光環境の変化を把握するため、樹冠内の光環境は個体直上の光環境に対する相対値として解析を行った。
    (結果)側枝の形態:両種とも高い位置にある側枝ほど仰角が大きくなり、側枝長が短くなる傾向があった。枝位置を共変量とした共分散分析では、コジイの側枝は仰角が小さく(P<0.001)、長かった(P<0.01)。水平葉群分布:両種とも葉面積密度は樹冠の中心から周囲に向かって小さくなった。葉面積密度の水平方向の変化パターンに種間差はなかった(two-way ANOVA; P=0.096)。垂直葉群分布:両種とも葉面積密度は樹冠下部ほど大きかった。コジイの葉面積密度はアラカシよりも低いまま推移した(two-way ANOVA; P<0.01)。樹冠内光環境:両種とも樹冠上部から下部へ向かうほど暗く、樹冠内側から外側へ向かうほど明るかった。垂直、水平方向の樹冠内光環境の変化パターンに種間差はなかった(two-way ANOVA; P=0.361, 0.252)。
    (考察)樹冠内光環境は枝の形態と葉配置様式の2つに大きく依存している。実際に、葉の重なりの大きな樹冠の基部、中部の光環境は暗かった。また、コジイの平均総着葉面積(1.06m2)はアラカシ(0.77m2)より大きかったが、前者の葉面積密度は?)水平方向ではアラカシと同等の、?)垂直方向ではアラカシよりも低い値で樹冠内を推移した。これは、コジイが長く、仰角の小さな側枝を持っていることが関係していると考えられる。このような枝形態は水平方向の空間獲得に適しているため、葉面積密度を小さくしている一因かもしれない。実際に、同様な光環境で両種の稚樹を比較した場合、コジイの生産量はアラカシのほぼ2倍であることがわかっている。コジイの生産量は効率的な葉の配置によって維持されている可能性がある。
  • 坂本 圭児, 三ツ井 大輔, 斯 慶図, 馬場 深, 吉川 賢
    セッションID: P1033
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに本研究は,暖温帯において,林内の光環境が異なる二次林に生育するケネザサ(Pleioblastus fortunei f. pubescens)を対象として,その生態生理的特性を検討することを目的とした。そのために,疎林,落葉広葉樹林,および落葉常緑広葉樹混交林を対象として,下層に生育するケネザサの葉量の季節的変化,葉の形態の特性,個葉の光合成特性,およびクロロフィル蛍光反応の違いを検討した。2.材料と方法 暖温帯に位置する岡山市の岡山大学半田山自然教育研究林(133˚55´E, 34˚41´N,山頂標高168m)における二次林を調査対象とした。林冠層に疎な密度でアベマキが出現する疎林(以下疎林と呼ぶ),林冠層をアベマキが優占する落葉広葉樹林(以下落葉樹林と呼ぶ),林冠層をコナラが優占しナナミノキなどの常緑広葉樹種が混交する落葉常緑混交林(以下混交林と呼ぶ)の3林分を対象とした。いずれの林分でも,ケネザサは下層を優占していた。ケネザサ群落上で照度を測定したところ,2月の相対照度は,疎林で78.1%,落葉樹林で52.6%,混交林で31.7%であり,8月の相対照度は,疎林で50.1%,落葉樹林で10.1%,混交林で6.4%であった。それぞれの森林タイプにおいて,下層のケネザサ群落の中から,測定対象とする稈を10本ずつ2003年2月に選定し,以下の測定を行った。測定稈では,2003年2月から2003年11月まで1週間か2週間間隔で,2003年に展葉した当年葉と前年に展葉した旧葉に区別して,着葉数を測定した。その測定では,葉色によって葉の褐変進行度を記載した。これらの測定稈以外の稈から,2003年8月に当年葉を採取し,個葉の葉面積,厚さ,および乾重を測定した。測定稈の当年葉を対象として,光合成速度を2003年9月に測定した。測定には,携帯式光合成測定装置(LI-6400,Li-Cor社製)を用いた。光強度を変化させ,光合成速度を測定し,光?光合成曲線を作成した。光_-_光合成曲線から,最大光合成速度(光飽和点の純光合成速度),および光補償点における光合成速度の初期勾配を求めた。葉のクロロフィル蛍光反応を携帯式クロロフィル分析計(MINI-PAM, WALZ社製)で測定した。葉の潜在量子収率を求めるために,蛍光反応の測定を夜明け前に実施し,2003年2月から11月まで月1回から2回の頻度で行った。光ストレスに対する葉の反応を検討するため,葉のクロロフィルaとb,キサントフィルサイクル色素などの色素組成を分析した。3.結果と考察 2月に着葉していた旧葉は5月から7月にかけて急激に落葉したが,その期間中,疎林で最も落葉の割合が大きく,落葉樹林で最も小さかった。全面緑色の旧葉は疎林で最も早くからなくなり,混交林で最も遅くまでみられた。光強度が大きいほど,早くから葉の褐変が進む傾向があった。当年葉の展葉パターンには違いがみられなかったが,当年葉でも,秋季に落葉する割合が疎林で最も高く,また疎林で葉が褐変しやすかった。以上から,光強度が大きな立地ほど葉の回転率が高いことが示唆された。葉の形態をみると,疎林で個葉の葉面積と比葉面積SLAが最も小さく,混交林で比葉面積が最も大きかった。したがって,光強度が大きい立地ほど葉面積が小さく,葉が厚い傾向があると考えられる。当年葉の光飽和点における最大光合成速度と光補償点までの初期勾配の関係をみると,疎林では初期勾配が小さいのに対して最大光合成速度が大きく,混交林では初期勾配が大きいのに対して最大光合成速度が小さい傾向があった。したがって,それぞれの光環境に順応して,光合成効率を高めているものと考えられる。葉の潜在量子収率は,いずれの森林タイプでも,夏季に0.8前後であり,疎林でやや低かった。冬季には,上層木の落葉による光強度の増加と低温のため,潜在量子収率が低く,2月初旬に,疎林で0.4前後,落葉樹林で0.5前後,混交林で0.6前後であった。葉の色素組成では,どの森林タイプでも,冬季の方がクロロフィルa/b比が高く,キサントフィルプールサイズ大きかった。どの季節でも,クロロフィルa/b比が疎林で最も高く,混交林で最も低かった。キサントフィルプールサイズは,疎林で最も大きく,混交林で最も低かった。疎林では光ストレスが最も強く,葉が最も相対的に陽葉化し,かつ熱散逸色素を増加させていた。
  • 北條 良敬, 荒木 眞之
    セッションID: P1034
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    コナラ属を初めとする多くの樹種において、その年のうちに芽が裂開し再び伸長する(ラマスシュート)ことを数回繰り返す現象が観察される。この現象は若い個体で多く見られ、樹冠拡張様式としてラマスシュート形成は無視できない性質と考えられる。そこでコナラを材料として、受光量が当年生シュートの生長・分枝様式にどのような影響を与えるかを調べた。 当年1次シュート(以下、1F)の長さ・角度・前年枝上の分枝位置・葉数を記録し、1F上の相対光量子密度(以下、RPPFD)測定とした。また、各1Fから分枝した全2次シュート(以下、2F)の長さ・葉数・分枝位置を記録し、そのうち数本について、1Fと同様の項目を測定した。3次シュートが分枝した後、同様の測定を行なった。1F上のRPPFDと1F(2F)から分枝した全2F(3F)の分枝数・合計枝長・合計葉数・最長枝長の全てに有意な正の相関がみられた。この傾向は、側枝よりも頂枝・頂生側枝で顕著であった。つまり、ラマスシュート形成には、局所的光条件および親枝の位置が重要と考えられた。また、親枝とラマスシュートの傾斜角の差とRPPFDの関係から、明るいと側方・暗いと上方へ伸長する傾向がみられた。加えて、1F(2F)のRPPFDと2F(3F)の長さあたり葉数(葉の混み合いの指標)の間には負の相関(1%)がみられたことから、強光条件下ほど樹冠拡張指向のラマスシュートを形成すると考えられる。これらの結果から、開葉後の親当年枝の局所的光条件に応じて、異なる構造をもったラマスシュートを分枝していると考えられる。
  • 高橋 美雅, 嵜元 道徳
    セッションID: P1035
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     原生的な冷温帯スギ・落葉広葉樹林において、林冠を構成する主要な落葉広葉樹はブナ、コハウチワカエデ、ミズナラであるが、そこには、陽樹的なミズメ、ウリハダカエデ、アカシデ、イヌシデも点在する。それぞれの地域の森林の構成や動態を考えるうえでは、陽樹的な樹種も含めて若木の特性を比較することが必要である。そこで、本研究では、耐陰性の異なる7種の若木について、樹冠、シュート、葉の3つのレベルについて、異なる光環境での形態および可塑性の傾向と度合いの比較解析し、異なる光環境への対応の違いを明らかにすることを目的とした。 本研究の結果から、陰樹的なブナ、コハウチワカエデ、ミズナラは、樹冠、シュート、葉のすべてのレベルで、形態的可塑性を発達させており、被陰条件下で、被陰に順応するのに有利な形態をとっていることが明らかになった。一方、陽樹的なミズメ、ウリハダカエデ、アカシデ、イヌシデは、葉レベルでは可塑性を示したが、樹冠やシュートレベルで、被陰への順応に有利な形態への可塑性発達がほとんどなかった。陰樹的な3種は、樹冠やシュートといった高次の形態レベルで大きな可塑性を発達させることによって、強度の被陰条件下での存在を可能にしていることが示された。また、林縁や開地といった明るい環境における7種の形態の比較から、樹冠深と形状比、最大の当年性枝長、当年性枝長の合計について、ミズメ、ウリハダカエデ、アカシデ、イヌシデは、ブナ、コハウチワカエデ、ミズナラと比べて、上方への素早い成長に有利であると考えられる形態を示した。葉レベルの可塑性は陰樹・陽樹で違いは特に認められず、樹冠やシュートレベルでの形態が、種間競争を通じて、明るい光環境での生存の種間差に働いていると考えられた。
  • 森 章, 武田 博清
    セッションID: P1036
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    木本種の稚樹では,樹冠の形態が光獲得様式に関連することは様々な樹種で知られている。一般的に,林内で耐陰する種は光をより獲得するために樹高成長を抑え側方へ樹冠を拡張する。逆に,光要求度の高い種は近隣個体からの被陰から逃れるために樹高成長により特化する。このような稚樹の樹冠形態に加えて,葉の特性(寿命・窒素濃度・構造)なども光環境に対応して変わる。例えば,閉鎖林内では葉寿命は低い生産性を補償するためにより長くなる。しかし,葉寿命の延長は古い葉が自己被陰を受ける可能性を高めてしまうかもしれない。それゆえ,閉鎖林内では自己被陰を軽減するために,よりフラットな樹冠形が必要とされる。しかし,この樹冠形は多大な支持コストを必要とする。特に,積雪の多い林分においてはこの支持コストの増大は顕著である。このような樹冠形の変化に伴う支持コストへの投資増大は,葉寿命を延長することで毎年の葉への投資を減らし,枝へより投資することで対応できるとされている。したがって,光環境への可塑性の度合いは,樹冠形態の可塑性と樹冠内の枝・葉の特性の可塑性とが相互に関連し,決定づけられていると考えられる。そこで,本研究では,3種の亜高山性針葉樹種(オオシラビソ・シラビソ・トウヒ)の稚樹を材料に,樹冠形態と樹冠内特性の機能的な関連について調べた。ギャップ稚樹は林内稚樹に比べ,当年枝上に保持している針葉重量が大きかった。これは,好適光環境下でより多くの光を獲得するための針葉の配置を反映したものである。対して,林冠稚樹の当年枝上の針葉の少なさは,より針葉間の相互被陰を軽減し,より効率的に受光するためである。一方,一次側枝上の針葉量はギャップ稚樹・林内稚樹の間で有意差がないか,むしろ林内稚樹の方が多くなった。これは針葉寿命が林内で長くなったことに起因すると考えられる。つまり,針葉寿命が延長することにより,当年枝上の針葉の少なさを補償していたのだろう。また,一次側枝の伸長速度と針葉寿命との間に有意な正の相関が見られた。これは,一次側枝の成長が遅い稚樹ほど針葉を長期間保持していることを示している。特に,オオシラビソ・シラビソの稚樹は,林内で針葉寿命が長くなり,一次側枝の成長が遅くなった。林内では,この2種は側枝成長よりも樹高成長をさらに抑え,結果として樹冠長が小さく樹冠面積が大きい樹冠形を示した。この樹冠形態は閉鎖林冠下での受光効率を高め,2種の耐陰性の高さをもたらすと考えられる。ここで,針葉寿命を延長することは,1)針葉への投資を減らし支持樹冠への投資を増大させることで,フラットな樹冠形に伴う支持コストの増大に対応する,2)同時に一定の葉量を樹冠内に保持する,といったことにつながる。特に,オオシラビソではこの傾向は強く,針葉寿命の延長・側枝成長と樹高成長の抑制などが林内稚樹で顕著に見られた。一方,トウヒは他の2種のような被陰に対する可塑的な樹冠形の変化や針葉寿命の延長は見られなかった。これはトウヒの耐陰性の低さにつながる。しかし,トウヒはフラットな樹冠形を示さないため,支持器官への投資をあまり必要としない。そのため,針葉寿命の延長は必要とされない。さらに,トウヒのこの樹冠形態は支持器官への投資増大を招かないため,単位樹高あたりの個体のバイオマスが少なくて済む。これは,好適光環境における樹高成長においては,トウヒが有利であることを示唆している。
  • 陳 鉉五, 孫 堯丸, 李 明鐘, 朴 仁協, 金 東?
    セッションID: P1037
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. 目的  森林生態系は、これを構成する大気、生物、土壌の間で絶えず物質およびエネルギーの循環を行って維持されており、森林生態系内で行われるこれらの物質およびエネルギー循環は森林生態系内の多様な機能と健全性の基盤となる。森林生態系における物質循環には、大部分水分が介しており、これらの物質の垂直的な移動はほとんどが降水によって支配される。森林生態系内における降雨に伴う養分動態は、多くの因子によって支配されるため、気候変化、森林衰退および森林施業などによって生じる森林環境の変化を把握する指標として用いられる。韓国では、森林生態系における降雨の水質の変化過程を明らかにした研究は行われているが、降雨に伴う溶存元素の養分動態の特性を究明した研究は皆無である。本研究では、韓国京畿地域において広い分布面積をもっている天然落葉広葉樹林のうち、アベマキ林とモンゴリナラ林を対象とし、物質循環の過程を把握するとともに今後の森林環境の変化を予測するため、降雨に伴う溶存元素の養分動態を究明することを目的とした。2. 材料と方法 調査地は韓国西部の京畿道広州市にある慶煕大学演習林内のアベマキとモンゴリナラが混在している天然落葉広葉樹林の2ヶ所である。両林分ともに南東斜面に位置しており、傾斜角度は35■の急傾斜地である。両林分における下層木や地被植生は制限的に発達しており、樹種構成も単純であった。各調査地において林外雨採取装置を1ケ所、林内雨と樹幹流採取装置をそれぞれ3ケ所に設けた。Ao層通過水およびA、B層土壌水を採取するため、それぞれ3ケ所に土壌断面を作成した後、各層の直下にZero tension lysimeter を理設した。 調査期間は、2001年3月から2002年11月までの約2年間であり、土壌の凍結で採取できなかった12月_から_3月を除いて、降雨があれば原則として月2回試料採取を行った。採取した試料のpH、陽イオン濃度(Ca2+、Mg2+、K+、Na+、NH4+)、陰イオン濃度 (SO42-、NO3-、Cl-) を測定した。3. 結果および考察 本調査地の落葉広葉樹林において、林外雨量に対する林内雨量と樹幹流量の割合は、それぞれ85%と2.2_から_6.3%であった。また、林外雨量に対するAo層通過水、A層およびB層土壌水量の割合は、それぞれ53%, 8_から_30%, 11_から_14%の値を示した。林外雨に含まれるすべて溶存元素の濃度は、それ以外の降雨に比べ最も低い値を示しており、樹冠、樹幹およびAo層と接触するにつれて増加傾向を示した。特に林内雨でK+、樹幹流でK+とMg2+、Ao層通過水でCa2+とMg2+濃度が著しく上昇した。このことから、落葉広葉樹林においてK+は樹体からの溶脱、Ca2+とMg2+はリターの分解による溶脱に起因するものと考えられる。一方A層およびB層土壌水のpH、Ca2+、K+、SO42-およびCl-濃度はAo層通過水に比べ低くなる傾向が見られた。 水量に対するpHおよび溶存元素濃度においては、pHが開葉期の3, 4, 5月でそれ以外の時期に比べ高い値を示したほかには明らかな季節的変化が見られなかった。しかし、K+、Mg2+、Cl-およびSO42-濃度は水量の増加に伴い、低くなる傾向が見られた。このような傾向は、すべての季節において100mm/月未満の水量の場合に顕著であった。しかし、100mm/月以上の水量においてはほぼ一定な値が保たれていた。Cl-濃度は、Ca2+やK+などの陽イオンの濃度変化と類似した傾向を示し、Cl-が林内雨および土壌水において陽イオンと同様な移動特性を持つ元素であることがわかった。 降雨の移動に伴う年間物質量の変化(図)をみると、林外雨から林内雨に向けて物質量が増加したが、Ao層からA層、B層へと土壌深が深くなるにつれて減少した。降雨の移動段階において、B層土壌水を除くそれ以外の降雨の物質量に比べ樹幹流の物質量は非常に低い値を示した。これは樹幹流量が著しく少ないためでり、樹幹流量が増加すれば樹幹流の溶存元素濃度は減少することから、樹幹流量が増加しても養分物質量の変化にはそれほどの影響は及ばないものと推定できる。
  • 李 明鐘, 孫 堯丸, 陳 鉉五, 朴 仁協, 金 東?
    セッションID: P1038
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的 植物の成長に必要な養分は根や葉による養分の獲得のみでなく、植物体内の養分の再分配にも依存する。老化する植物組織からの養分の再転流は年齢や立地環境などによってその動的プロセスは異なり、植物の養分保持にとって重要なメカニズムである。しかし、韓国の落葉広葉樹林でのこれに関連した研究はみられない。本研究では、韓国の自生固有樹種であり、分布面積が最も広い天然落葉広葉樹林のである。アベマキ林とモンゴリナラ林を対象として養分の再転率と利用效率を調査し、立地条件との関係について検討した。2. 方法 調査林分は、韓国中部の江原道江原大学演習林内の標高510-540mの山腹に位置するアベマキ林(49年生)とモンゴリナラ林(50年生)で、DBHは21.4と26.9cm、胸高断面積は33.6と39.0_m2_/haである。両林分とも下層植生は制限的に発達してり、また植物の種構成も単純であった。 養分再転流は生育期の葉養分量と落葉期の葉養分量との差で求めた。葉養分量(kg/ha/yr)は相対成長式(logY=A+BlogX;Yは葉乾重、XはDBH)によるha当りの葉量に養分濃度を乗じて求めた。養分利用効率は葉litterfallの養分含量に対する葉litterfall量(kg/ha/yr)の比で求めた。さらに、両林分の養分吸収量(t/ha/yr)とビニール袋埋設培養法による窒素の無機化量(kg/ha/yr)を調査した。 3. 結果と考察 土壌の水分と温度は両林分間に差があり、モンゴリナラ林の方が土壌水分量が高かったが土壌温度はやや低かった。年間窒素の無機量はアベマキ林とモンゴリナラ林でそれぞれ91.4と112.5kg/ha/yrで、アベマキ林で少なかった(図-1)。両林分とも養分の再転率はてN、PおよびKで高く、その中でNの再転率が著しく大き。また、アベマキ林のほうでN、PおよびKの再転流率がより高かった(表-1)。一方Caはほとんど再転流しなかった。葉litterfall量/葉litterfall養分含量の比で求めたN、PおよびKの利用効率は再転流率の高いアベマキ林で高い傾向が見られた(図-2)。一方、アベマキ林はモンゴリナラ林に比べCaを除く年間N、PおよびKの吸収量は少ないが、再転流率は高かった(図-3)。養分の吸収量は、両林分ともN〉K〉Pの順であり、それぞれ養分の再転流率はモンゴリナラ林でN〉K〉P、アベマキ林でN〉K=Pの順である。また、両林分ともNの再転流率が最も高かった。 樹体内の再転流養分の年間養分要求量に占める割合は両林分ともNが最も高く、アベマキ林で42%、モンゴリナラ林で38%である。 以上のように、ほとんど同じ林齢のアベマキ林とモンゴリナラ林において養分の再転流と利用効率に相違が現われた。両林分は同じ母岩であるが、斜面の方向が異なった生育環境であるので、今後斜面および樹種の相違においての相互作用に関する検討が必要と思われる。 *この研究の成果は韓国科学財団支援の目的基礎研究の一部である。
  • 中島 剛, 金子 信博, 藤原 一繪
    セッションID: P1039
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    樹種による植生-土壌養分特性の変化○中島剛・金子信博・藤原一繪 (横浜国大環境情報) 1.はじめに主要構成樹種の異なる森林生態系では、林床に供給される落葉の時期や量、内在する養分が異なる。さらに落葉の質の相違は、無機化を通じて土壌へ溶出する養分や、落葉自体の分解速度にも影響する。森林生態系における物質循環は、森林タイプや地形によって特徴的な傾向を持つことが考えられる。そこで本研究では、土壌への養分の供給源と考えられるA0層の堆積しやすい平坦な地形において、隣接して成立するブナ林、およびブナ林を伐採して植栽されたヒノキ林を調査地として、植生(樹種)による養分動態特性の違いが、その後の植生の発達や物質循環に与える影響を明らかにすることを目的とした。2.調査地と調査方法調査は神奈川県足柄下郡箱根町仙石原の国有林(標高988 m)のブナ林とヒノキ林で行った。ブナ林内に2区(Ha1、Ha2)、1922年に植栽されたヒノキ林(Ha3)と1956年に植栽されたヒノキ林(Ha4)に各1区を設け各調査区の面積は約400 m2とした。Ha1からHa4の平均樹高はそれぞれ17、16、20、18 mで、平均胸高直径はそれぞれ46.3、37.7、34.8、24.8 cmであった。2003年9、12月に各調査区において、一辺25 cmの方形区をA0層の状態が平均的な地点に10ヶ所ずつ設置し、A0層を採取した。乾燥後、樹種ごとの落葉、および落枝に分類し、各重量を測定した。分類ごとに一部を分析用試料として、炭素(C)・窒素(N)含有率を測定した。2003年9月に各調査区内の一本の樹木を任意に選択して、樹幹から水平距離で40 cmごと240 cmまでの6点で、6層の土壌A層0_から_5、5_から_10、10_から_5、15_から_20、20_から_25 cm、B層70_から_75 cmの計36個の土壌試料を100 cm3の採土円管を用いて回収した。乾燥後、含水率、pH(H20)、炭素(C)・窒素(N)含有率、交換性陽イオン(K、Ca、Mg、Na)、Mn、Pを測定した。3.結果と考察1922年植栽ヒノキ林(Ha3)では、隣接するブナ林(Ha2)と比較し、A0層中のN含有率には変化が無く、C含率およびC/N比は、それぞれ1.2倍、1.3倍と高かった。土壌深0-25 cmの全C、全N含率およびC/N比でも同様の傾向が見られた。さらにA0層のC、N含有率およびC/N比と、土壌深0-10 cmのC、N含有率およびC/N比とは正の相関がみられた。ブナ林(A層pH4.31_から_5.00、平均4.78)と比較してヒノキ林(A層pH3.88_から_5.21、平均4.69)のpHは、土壌深0-15 cm、幹からの距離0-120 cmにおいて大きく変化し、0.06_から_0.51(平均0.26)低かった。このような樹種に依存した傾向は水平(幹からの距離)・垂直(土壌深)方向共に、幹に近いほど顕著であった。土壌深0-25 cmにおける交換性K、Mg、Caの含有率は、ヒノキ林ではブナ林のそれぞれ0.75_から_0.84倍、0.68_から_1.04倍、1.03_から_2.61倍であった。土壌の交換性塩基濃度と、採取した土壌の乾重より、土壌深5 cm毎の土壌に含まれる交換性塩基量を計算した。表層(0-25 cm)の交換性塩基の和を、全体(0-75 cm)和で割った値を表層集積指数=?(0-25 cm)/?(0-75 cm)とした。この指数を用いて土壌養分特性の変化を検討した結果、ブナ林は、樹幹からの水平距離に依存しない比較的均一な養分特性をもつことが分かった。一方ヒノキ林では、特に樹幹からの水平距離80 cmまでにおいて土壌表層にCaの集積する傾向を持つ不均一な養分特性を示した。この傾向は植栽後の時間がたつにつれ顕著だった。以上のことからブナ林のヒノキ人工林化により、土壌の養分特性が変化することが分かった。ヒノキ林ではA0層としてC/N比の高い難分解な落葉が蓄積し、土壌表層の養分特性に影響する。また樹幹付近の土壌pHが低下し、土壌中の交換性Caが増加する。このことからブナ林の比較的均一な土壌養分特性から、ヒノキ植林により特に樹幹付近で不均一な土壌養分特性に変化することが分かった。
  • 喜多 知代, 坂井 宏行, 金子 信博, 河原 輝彦
    セッションID: P1040
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに森林の基盤となる土壌を支えている土壌動物は、森林における物質循環過程の中で分解者の役割を担っている。代表的な土壌動物であるミミズは日本の多くの土壌で見ることができる。ミミズと土の関係についてはDarwin(1881)の研究以来、ヨーロッパのツリミミズ科(Lumbricidae)でよく研究されており、土壌の肥沃化など土壌生態系において重要な役割を担っていることが明らかにされてきた。しかし、日本で見られる多くのミミズはフトミミズ科(Megascolecidae)であり、森林の林床で見られるミミズも、そのほとんどがフトミミズ科である。林床で多く見られる種は主に土壌の表層に生息するEpigeic種(表層種)であり、生育期間は1年である。日本で優占していると考えられるフトミミズ科のミミズは、ヨーロッパで優占しているツリミミズ科のミミズに比べ,その分類学的および生態学的研究は極めて遅れている。今回は、今後ミミズの森林生態系内における機能を研究していく上での基礎研究を目的に、東京農業大学富士畜産農場付近の森林でミミズの群集調査を行い、現在日本で石塚(2001)によってよく研究されている東京産フトミミズ科のデータと比較し、ミミズ群集の特徴を検討した。2.調査方法 ミミズの採集は、東京農業大学富士畜産農場付近のスギ人工林・ヒノキ人工林・マメザクラ林において、2002年5月から2003年11月にかけて積雪の時期を除き毎月行った。 各林地に20m×20mのプロットを設定した。毎月50cm×50cmのコドラートを深さ15cmまで10ヶ所ずつ掘り、掘り出した土壌からハンドソーティング法によってミミズを採集した。 2002年においては、土壌を掘り出した後のコドラートに忌避剤散布法を同時に行い、1%ホルマリンを3ℓ散布した。30分後に這い出してきたミミズを採取した。種の同定は、成体および亜成体標本を解剖し、その外部形態及び内部形態を観察し、石塚(2001)にしたがって行った。3.結果・考察富士農場においては、2002、2003年ともにツリミミズ科よりもフトミミズ科が多く確認された。このことからも、富士農場ではフトミミズ科が優占していると考えられる。ミミズはヨーロッパのツリミミズ科(Lumbricidae)によって、土壌での生活場所や食性などによりEpigeic種(表層種)・Anecic種(浅層種)・Endogeic種(深層種)の3グループに分類されている(Bouche,1977)。富士農場でも、この3種が確認された。その中でも、Epigeic種が多かった。その個体数の季節変化は春に幼体が確認された後、夏に向けて急激に増加し、冬に向けて確認されなくなった。現存量の季節変化も同じような傾向を示した。フトミミズ科の幼体は春に確認された後、6月頃をピークに冬に向けて減少していった。8月に1度増加したのは、来年以降に成体となる越年生種の幼体が確認されたためではないかと考えられる。4.引用文献 石塚小太郎,2001.日本産フトミミズ属(Genus Pheretima s.lat.)の分類学的研究.成蹊大学一般研究報告,33(3).
立地
  • 高橋 慶太, 小野寺 弘道, 荒井 竜太郎, 檜垣 大助
    セッションID: P1041
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    白神山地は1993年に屋久島とともに世界自然遺産に指定され、また、1995年に白神山地世界自然遺産地域管理計画が策定されるなど、近年、遺産としての価値を損なうことなく将来にわたって保全していく活動が行われている。しかし、白神山地は、日本でも有数の第四紀における隆起の激しい地域であり、また、山地構成層の地質特性と急激な隆起による斜面の不安定化の複合現象として1000を超える地すべりや崩壊などのマスムーブメント、多雪地帯特有の地形形成プロセスが進行している(八木1990)。 白神山地を代表する樹種の一つにサワグルミ林がある。渓流の氾濫原、地すべり地、あるいは、下部谷壁斜面基部の崖錐などに成立する。これらの場所に共通する立地条件としては、定常的な土砂の堆積と地表の攪乱である。(Sasaki,1979)。このように、頻繁に攪乱が起きる場所においては、ブナ林などの極層林に移行することなくサワグルミ林が形成される。そこで、地形形成プロセスによる攪乱の影響を受けている小規模扇状地に成立したサワグルミ林が、現在までにどのような攪乱の影響を受けたてきたのかについて年輪解析によって検討することとした。調査対象地は、青森県中津軽郡西目屋村川原平、国有林148林班ろ4小班内に形成されている小規模扇状地である。調査地は標高約300mの北西向き斜面であり、扇状地の規模は縦60m、横50m、高低差30mの大きさである扇状地内には、2本の小沢があり、その両岸に3列、ほぼ列状に合計36個体が成立している。その内訳はサワグルミ27個体、オニグルミ6個体、トチノキ2個体、カツラ1個体である。この林分についての毎木調査を実施し、成長錘を用いて地上高1.2m部位よりコアを採取した。採取したコアの中から、節や割れの影響を受けていないサワグルミ24個体について年輪数および年輪幅の変動を読み取った。その結果、各個体の年輪数は一定ではなく、複数の範囲に分布していたことから、このサワグルミ林は同齢林ではないと考えられた。その年輪数の範囲は最大で_丸1_29_-_30、_丸2_33_-_38、_丸3_41_-_44、_丸4_45_-_48の4つのグループが、最低で_丸1_35_-_37、_丸2_45_-_47の2つのグループが推定された。林分の成立年代を推定するためには、胸高部位に至るまでの年数を加算する必要がある。その年数を10年とし仮定し加算した後、コア採取年から逆算し、林分の成立年代を推定すると、4つのグループでは_丸1_1945_から_1948年、_丸2_1949_から_1952年、_丸3_1955_から_1960年、_丸4_1963_から_1964年となり、2つのグループでは_丸1_ 1946_から_1948年、_丸2_ 1956_から_1958年となる。今回の発表ではこの成立年代について、過去の気象データと照合し、大雨に起因する土砂移動のイベントとの関連でか明らかにする予定である。
  • 豊田 貴樹, 生原 喜久雄, 戸田 浩人
    セッションID: P1042
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 村瀬 仁美, 上山 洋平, 小林 達明, 高橋 輝昌, 徳地 直子
    セッションID: P1043
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     関東地方の暖温帯に分布するコナラ二次林群落としてクヌギーコナラ群集、クリーコナラ群集等が知られている。互いに丘陵地を中心にその分布域を接している。土壌条件で前者は、孔隙率が高く、A層が深く腐植に富み、pHが相対的に高い理化学性の良好な土壌に主として立地し、後者は、孔隙率が低く、A層が浅く腐植が相対的に乏しく、pHが低い強酸性の理化学性の悪い土壌に立地している(辻、1991)。一般的に、前者のような土壌の窒素の無機化速度は、後者のような土壌に比べると速く、硝化率も大きいと考えられる。また、硝酸態窒素を利用する植物は硝酸還元酵素活性(Nitrate Reductase Activity:NRA)も高くなると考えられる。Tokuchiら(1999)は、花崗岩質山地の斜面下部で無機化速度が速く、硝化率も高く、斜面上部では逆の傾向があることを示し、それらの立地に対応した植物-土壌系が成立することを示唆している。Koyama&Tokuchi(2003)は、それらの立地を代表する樹種3種の実生の硝酸還元酵素活性を調べ、立地の硝化能力と対応することを示した。
     本研究では、平面的に群落分化が見られる狭山丘陵で植物-土壌系の関係を調べようとした。
     調査地は、東京都武蔵村山市および瑞穂町と埼玉県所沢市に広がる東西11km、南北4kmの狭山丘陵の西端にあたる野山北・六道山公園内のコナラ、クヌギなどの様々な夏緑樹林が混生する林分に設けた。対象樹種は、アオハダ、アカマツ、ヒノキ、アカシデ、イヌシデ、クリ、クヌギ、アラカシ、コナラ、ムクノキ、エノキ、コウゾ、コブシ、クロモジ、ミツバアケビ、ヒサカキ、コアジサイ、ウワミズザクラ、モミジイチゴ、ネムノキ、フジ、ウリカエデ、アカメガシワ、ヌルデ、イヌツゲ、マユミ、ゴンズイ、アオキ、ミズキ、リョウブ、ネジキ、ヤマツツジ、エゴノキ、マルバアオダモ、ムラサキシキブ、クサギ、ウグイスカグラ、ガマズミ、コバノガマズミ、オトコヨウゾメ、サロトリイバラ、アズマネザサの計42種で、2003年8月下旬から10月上旬の晴れた日の10時30分から12時30分の間に各樹種、3個体ずつ葉をランダムに採取し、Havill et al.(1974)に従い、NRAを測定した。
     各樹種のNRAは数値が高い順に、ムクノキ・ミツバアケビ・コウゾ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・マルバアオダモ・モミジイチゴ・ヌルデ・ウグイスカグ・イヌシデ・リョウブ・クサギ・エゴノキの「高」グループ15種、ミズキ・コナラ・イヌツゲ・アラカシ・アカメガシワ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの「中」グループ9種、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・フジ・ネムノキ・コアジサイ・クヌギ・ヤマツツジの「低」グループ8種、サルトリイバラ・ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの「なし」グループ6種と区分された。これらをクヌギーコナラ群集とクリーコナラ群集の2つの植生タイプに大別すると、クヌギーコナラ群集は、「高」グループが、ムクノキ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・ヌルデ・イヌシデ・エゴノキの8種、「中」グループが、コナラ・アラカシ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの6種、「低」グループが、フジ・クヌギ・ヤマツツジの3種、「なし」グループが、サルトリイバラ・ヒサカキの2種の計19種となり、クリーコナラ群集は、「高」グループが、ミツバアケビ・マルバアオダモ・ウグイスカグラ・リョウブ・エゴノキの5種、「中」グループが、コナラ・イヌツゲ・アラカシ・ガマズミ・アカシデの5種、「低」グループが、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・ネムノキ・コアジサイ・ヤマツツジの6種、「なし」グループが、ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの5種の計21種となった。
     NRAが「高」や「中」を示した樹種は理化学性の良好な土壌に主に生育しているものがほとんどであった。また、例外はあるものの、同科の種のNRAは同グループに属している傾向を示した。
     以上から、クヌギーコナラ群集ではNRAが「高」、「中」の樹種が多く、クリーコナラ群集はクヌギーコナラ群集に比べ、「低」、「なし」の樹種が多くなったことから、狭山丘陵を構成している樹種のNRAは2つの植生タイプに対応する傾向があることが示唆された。
  • 宮原 美絵, 桑田 孝, 竹中 千里, 太田 岳史
    セッションID: P1044
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    フィールド研究を行うにあたって、下層植生による影響を的確に捉えることは、その林分や林分内の上層木1個体の生理、生態学的を評価するために非常に重要であると考えられる。本研究では下層植生の蒸散速度に焦点を当て、林分全体の水循環に対しどの程度寄与しているのかを日単位で調べることを目的とした。本実験は東シベリアのヤクーツクにおけるカラマツ林を対象地とし、その下層植生であるコケモモを研究対象とした。コケモモの蒸散速度の測定と表層土壌水分のモニタリングから、土壌水分と蒸散速度は相補関係を示し、表層の土壌水分状態にコケモモの存在はかなり大きな影響を示すことが明らかとなった。さらに、コケモモの蒸散速度を潜熱フラックスに換算し、林分全体のフラックスと比較したところ、コケモモの存在は水循環だけでなく、熱収支にも大きく影響することが明らかとなった。以上のことから、林分全体の水循環を考える上で、上層木だけでなく下層植生の生理、生態学を的確に捉えることは非常に重要であると言える。
  • 谷本 丈夫, 貝瀬 佑介, 小川 瞳
    セッションID: P1045
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに〈BR〉1990年代はじめより奥日光・足尾及び赤城山地において亜高山性針葉樹林やダケカンバ林の衰退、枯死が顕在化し、その原因として酸性雨、霧説(村野1991、1993)が有力視されていたが、台風害(長谷川1993、室井1994)、凍害(長谷川1989)、ハバチの食害(吉武ら1992)あるいはナラタケ病説(高橋ら1990)も報告されていた。筆者らは、奥地山岳林の森林衰退が、森林の代替わりに基づく更新の一態様であるか、酸性雨などの人為的な影響によって起こったものであるかの検討が必要であると考えから、森林衰退が著しいとされていた奥日光山地の念仏平、日光白根山、帝釈山に固定試験地を設置し、定期調査を続けてきた。この報告はそれぞれの固定試験地における1994年から2003年までの10年間の結果をまとめ、その変化と原因について考察したものである。〈BR〉〈BR〉2.調査地と方法〈BR〉調査地は、すでに述べたように1994年頃、酸性雨被害地として報道されていた南東側斜面に位置している念仏平のシラベ、オオシラビソ林、日光白根山のダケカンバ林と北西斜面で衰退・枯死の認められた帝釈山のシラべなどの亜高山帯林である。1994年にそれぞれの場所において被害程度に応じて20m×20mあるいは30m×30mの方形区を、念仏平においては立枯れの多い林縁と見かけ上正常な林内2カ所、奥白根山においては激害、中程度、正常林の3カ所、帝釈山では正常林と激害林2カ所を固定試験区として設置し、これまでに3回追跡調査を行った。調査項目は、ナンバープレートによる個体識別おこなった毎木調査、林野土壌調査書に準じた土壌調査、年輪解析および稚樹の林内外別の伸長成長量調査である。〈BR〉〈BR〉結果と考察〈BR〉1994年前後においては、念仏平、日光白根山とも立枯れ木が林立し、酸性雨被害地として大きく報道されていたが、2003年には、両地区とも立枯れ木が腐朽倒伏した。とりわけ、日光白根山の激害地では立枯れ木はすべて腐朽倒伏しハンゴンソウ、マルバダケブキの繁茂が著しくなった。また、ダケカンバ正常林では順調に成長が進み胸高直径、樹高とも個体ごとの進級が見られた。衰弱木の枯死は自己間引きによるものであった。ダケカンバの芽生え、稚樹は正常林では芽生えと数年生の稚樹が見られたが、それ以上に大きく成長する個体はなく、生き死にを繰り返していた。激害林では根株、倒木が乾燥していることとマルバダケブキなどの繁茂によって芽生え、稚樹とも少なかった。念仏平においても立枯れ木が腐朽倒伏しているが(写真1,2)、立枯れ木が上部斜面の林縁において新たに発生していた。また、立枯れ木の下には多くの稚樹が生育していた。しかし、林内では稚樹の伸長成長は少なかった。稚樹の成長は、立枯れの発生している林縁部分ではやや大きくなっていた。これに対し、立枯れ木が腐朽倒伏してしまった場所では、稚樹の成長が著しく良くなっていた。帝釈山においては、正常林は順調に成長し、小さな個体群は自己間引きで枯死していた。しかし、激害林では2.5~3m程度の矮生化した旗竿のように片枝に変奇した老樹はほとんど枯れ、比較的樹高の低い個体の列が残っていた。すなわち、枯れた老樹帯と樹高の低い生存樹帯とが交互に残る形となっていた。〈BR〉10年前の状態では、枯死木が林立していたために、酸性雨が主犯とされていたが、10年経過した段階で念仏平では稚樹が自己間引きやシカ食害を受けたもの以外では完全に生残している。白根山ではダケカンバの枯死林が完全に倒伏してしまいマルバダケブキ、ハンゴンソウ群落に置き換わっており、酸性雨による衰退であるとすると、これらの代替え群落の枯死が認められないことと矛盾する。したがって、10年間の稚樹の生残、成長などから、ここでの森林衰退は酸性雨ではなく、台風害とした谷本ら(1996)の報告を支持できる。また、帝釈山の北西斜面に設置した調査区でも、3m以上になった個体が列状に枯死しているのに対し、若い個体群では枯死が見られない。このことから、帝釈山のこしででも風の影響によるものと思われた。しかし、ここでは薙の崩壊が大きくなっており、土壌の流亡と水分バランスのくずれが枯死を促進しているものと思われる。
  • 稲垣 雄一郎, 岩本 宏二郎, 鈴木 和夫
    セッションID: P1046
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに
    縞枯山南西斜面では,シマガレと呼ばれる水平方向に帯状の枯死木帯がみられる。この枯死木帯の斜面上方の成木帯樹木が徐々に枯死し,枯死木帯は斜面上方に移動していく。また,同時に稚樹が更新するため,稚樹帯-若木帯-成木帯-枯死木帯という林分構造が繰り返し形成されている。
    このような成木帯の林縁部における成木の枯死原因については,台風・卓越風・雪・日射などが指摘されているが,明確な原因は明らかにされていない。そこで,成木帯林縁部での枯死率の変動と,気象条件の推移とを比較することによって,枯死を促進させる環境ストレスとなる気象条件について検討した。
    2.調査方法
    長野県縞枯山の南西斜面において,成木帯の林縁部を含むように調査地A区(20m×20m)を,その斜面上辺に接するようにB区(20m×10m)を,それぞれ1992年と1994年に設定し,樹種・DBH・樹高・立木位置について毎木調査を行った。その後,A区においては,1から2回/年の頻度で新しく枯死した樹木を1997年まで調査した。2001年に両区の樹木について,樹高・DBH・立木位置の毎木調査を再び行い,その後,2003年まで新たに枯死した樹木を1回/年の頻度で調査した。枯死木の調査期間の長いA区において,枯死率の推移を考察した。また,調査期間中の気象については,諏訪測候所の風速・気温のデータを用いて,A区における枯死率の変動との関係について検討し,枯死を促進する気象条件について考察した。なお,諏訪測候所は縞枯山から直線距離でおよそ30km離れており,標高差はおよそ1600mである。そのため,諏訪測候所と縞枯山とで,気温や風速の値に差異があると予想されるが,気象の変動については大きな差異が無いものと考えた。縞枯山との気温差については,縞枯山で実測に測定した気温(岩本,未発表)と同期間の諏訪測候所の気温との相関関係から推定した。
    B区については,2001年6月-2003年9月までに,枯死しなかった樹木と枯死した樹木の立木位置・サイズについて検討し,枯死原因を考察した。
    3.結果
    A区の生立木は,1992年12月に290本(7250本/ha)だったものが,枯死木帯の移動によって,1997年11月には103本(2575本/ha)に減少した。枯死木の発生頻度に変動がみられ,とくに1994年6月から11月と,1997年7月から11月に枯死率が高くなっていた。枯死率の増大について,諏訪測候所のデータを検討したところ,1994年と1997年の枯死率が高かった時期の直前の冬期に15m/s以上の最大風速が観測されており,他の年の冬期に比べて風が強かった。
    強風が観測された冬期に枯死率が増大せず,次の夏から秋に枯死率が増大したことは,強風によって根返りや樹幹が折れて枯死したのではなく,枝葉や根に物理的な障害が生じ,休眠が開けてからの成長期間に枯死にいたるのではないかと考えられた。しかし,これらの強風は一時的なものであり,樹木の枯死との関係は明らかでない。
    次に,気温について検討すると,1994年は他の年と比べて3月から4月の気温の変化が大きく,平均気温で2.3℃から11.0℃(縞枯山の推定気温,-5.4℃から2.2℃)に上昇していた。また,1997年の9月から10月はとくに最低気温が15.3℃から5.8℃(同推定気温,5.3℃から-2.3℃)と大きく低下していた。これらの季節は,縞枯山の樹木の耐寒性が変化する時期だと思われる。つまり,1994年の春では,早くに耐寒性が小さくなった樹木が,再び低温にさらされた時に障害を受けた可能性が考えられ,1997年の秋では,耐寒性の獲得が十分でない樹木が,低温にさらされ障害を受けた可能性が考えられた。とくに,1994年の春には,針葉が変色した樹木が観察され,このことは気温の急変によって針葉に障害がおきていたことを示すものだと考えられた。
    2001年6月に枯死木帯と成木帯の境界はB区の斜面下部に存在し,2003年9月までに枯死木帯はおよそ3m移動した。その間に発生した枯死木のサイズを検討したところ,B区の斜面下半分の20m×5mでは,DBH・樹高の大きさに関わらず枯死が発生していたが,斜面上半分では,DBH・Hの小さな樹木の枯死が多かった。このことから,斜面下部の林縁部では風などの環境ストレスによって枯死が起きるが,斜面上部では被圧によって枯死が生じているものと考えられた。
    4まとめ
    縞枯林の枯死の原因となる環境ストレスは,林縁部で高まっているが,およそ5m以上林内部の樹木にはあまり影響を及ぼしておらず,また,とくに春や秋の気温の急変は,林内部の樹木にも影響を及ぼし,樹木の枯死に大きく関わることが推測された。
  • 野口 享太郎, 阪田 匡司, 溝口 岳男, 高橋 正通
    セッションID: P1047
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.背景と目的根は植物体の支持、水分・養分の吸収・輸送などの生理機能を担う器官である。その一方で、根の成長は炭素や窒素などの養分の固定、根の枯死脱落は土壌への養分の放出を意味することから、最近では、根の物質循環における役割も注目されている。特に、一般に細根と呼ばれる直径1_-_2mm以下の根は、生理活性が高く、発生_-_枯死脱落のサイクルが速いと考えられており、その定量的解析や制御機構の解明が重要な課題となっている。 近年になり、欧米を中心にミニライゾトロン法を用いた細根動態の非破壊観測が行われるようになり、今後、この手法が細根動態研究の主流となることが予想される。演者らは、昨年度の本大会において、ミニライゾトロン法とコアサンプリング法で得られた細根長密度を比較し、細根動態の定量評価のために両手法を併用することの有効性やその問題点(細根の垂直分布に関する相違点など)について報告してきた。 これらの背景に基づいて、本研究では、ミニライゾトロン法とコアサンプリング法を併用し、細根の生産量、枯死脱落量およびその季節変化を明らかにすることを目的として以下の研究を行った。2.試験地と調査方法◎試験地:本研究では、森林総合研究所・千代田試験地(茨城県新治郡千代田町)の25年生スギ林において調査を行った。この林分の地形はほぼ平坦で、林床はクサイチゴなどの下層植生に覆われていた。◎ミニライゾトロン法:2001年12月から2002年1月にかけて、上記試験地のランダムに選んだ7箇所において、長さ1.25m、直径約6cmの透明アクリル製パイプを地表面に対して約45°の角度で設置した(深さ0_-_40cmの範囲)。2002年5月から2003年5月にかけての1年間において、3週間に1度の割合で専用のカメラ(BTC-100X、Bartz Technology、USA)を用いてパイプ表面に現れた根の撮影を行い、得られた画像を根画像解析ソフトウェア(WinRHIZO、Regent Instruments、Canada)を用いて解析した。この際、細根の発生および伸長を生産、細根の消失を枯死脱落とした。◎コアサンプリング法:上記試験地において7箇所をランダムに選び、土壌採取オーガー(Split tube sampler、大起理化工業)を用いて土壌コアサンプルを(深さ0_-_40cm)採取し、これを深さ10cmごとに4つに分け、保冷して研究室に持ち帰った。これらの試料をメッシュサイズ0.5mmの篩い上で水洗し、残った根のうち直径2mm以下のものを細根としてスキャナーを用いて撮影した。得られた画像を根画像解析ソフトウェア(同上)で解析した後、60℃で48時間以上乾燥させて重量を測定した。◎データ解析:コアサンプリング法の試料を用いて画像解析を行った結果、試料中の細根の平均直径(MD)と単位長さあたりの重量(WUL)の間にWUL=0.27MD2+0.00(R2=0.88)の関係が得られた。この関係式を用いて、ミニライゾトロン上の細根と土壌コア中の細根のうち、直径1mm未満の細根について、長さと平均直径から細根重量を求めた。これらの両手法で得られた細根重量の関係から、ミニライゾトロン上の細根重量を林分面積あたりの細根重量に変換した。3.結果と考察本試験地の深さ0_-_40cmにおける細根量(直径<1mm)は、夏期に大きく冬期に小さい傾向を示し、最大で約1600、最小で約800 kg ha-1と推定された(図1)。細根の生産速度および枯死脱落速度も同様の季節変動を示し、それぞれ最大で約30および25 kg ha-1 day-1、最小で約2および1 kg ha-1 day-1と推定された(図2)。これらの経時変動はほぼ同時期に起きており、季節変動に伴い変化する何らかの因子が、細根の生産と枯死脱落の両者に影響していることが示唆された。 また、全調査期間の平均細根量、総生産量、総枯死量は、1.1±0.2 t ha-1、3.5±0.8、2.9±0.5 t ha-1と推定された。これらの結果は、本試験地では細根の回転数が約3回/年であることを示唆している。
  • 酒井 佳美, 漢那 賢作, 比嘉 正隆, 田中 永晴, 高橋 正通
    セッションID: P1048
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    沖縄と北海道に埋設し,3年間分解した根リターバックによって分解に伴う根の呼吸量を測定した。根の分解による呼吸量は二酸化炭素放出量として,密閉法をもちいて測定した。使用した根のサンプルは,カラマツ、トドマツそしてコナラを用い、直径0-2mm(細根)、5-10mm(中根)と10-50mm(太根)の3つのサイズクラスを設定した。枯死根はチャンバーに入れて密封し,恒温装置内で5℃、15℃そして25℃の3段階に設定しインキュベートした。単位時間あたりの二酸化炭素濃度の変化を二酸化炭素放出速度とし、3樹種について直径クラスごとの平均値を示した(n=4-5)。枯死根からの二酸化炭素放出速度は温度上昇に伴って指数関数的に増加した。同一樹種内の直径による差は沖縄ではほとんどなかった。北海道では中根と細根とでは差は小さく、太根はそれらに比べて非常に低かった。3樹種で比較するとコナラが最も高く,次いでトドマツそしてカラマツの順に低くなった。沖縄と北海道とを比較すると,太根では沖縄の方が二酸化炭素放出速度は高く、中根と細根では北海道の方が高かった。根の分解速度は北海道に比べて沖縄が非常に速かった。樹種で比較するとコナラの残存率が最も低く,カラマツとトドマツはほぼ等しかった。沖縄でのコナラを除いて,根の直径が大きいほど残存率は高かった。北海道では根の直径が大きいほど二酸化炭素放出速度が低く、それと共に残存率が高くなった。沖縄では直径による差がほとんど無く、残存率は北海道と比べて非常に低かった。温度は分解速度の影響要因として重要であり、沖縄の方が北海道よりも分解が進んでいる原因の一つとして気温と地温が高いことが挙げられる。しかし、二酸化炭素放出速度は,太根を除いて分解があまり進んでいない北海道の方が高いという結果となった。
  • 檀浦 正子, 小南 裕志, 鈴木 麻友美, 深山 貴文, 後藤 義明, 玉井 幸治, 金澤 洋一, 上村 真由子
    セッションID: P1049
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに
    森林生態系における炭素収支を考える上で、土壌呼吸量からの根呼吸量の分離は不可欠であるが、手法や場所の違いにより大きな違いがある。この研究では、根を掘り出して、大きさにより分別し、呼吸量を測定した。この結果と、根量や土壌呼吸量の測定を組み合わせることで、試験地での土壌呼吸量に占める根呼吸量の寄与率を求めることを試みた。
    2. 材料と方法
    京都府相楽郡山城試験地を調査地とした。年平均気温は15.5℃、年間降水量は1449.1mmであり、針葉樹を含む広葉樹の二次林である。土壌は花崗岩由来の未熟土的褐色森林土である。
    2-1 根直径の違いによる二酸化炭素放出量の違い
    試験地を代表する広葉樹としてQuercus serrata(DBH=32.1, 24.3, 17.3, 9.1cm)を、常緑樹として Ilex pedunculosa(DBH=24.9, 8.1cm)を抜倒し、根系を掘り上げ、サンプルを切りだした。サンプルは直径にもとづいていくつかの階級にわけて呼吸量を測定した。呼吸量はIRGA(LI_-_820)、ポンプ、アクリル製チャンバーからなる測定装置(Jomura, 2004)を用いて密閉法で測定した。熱伝対を用い、チャンバー内の温度を測定した。 2-2 土壌呼吸との対応
    土壌呼吸量を測定するために、2002年9月に試験地斜面に2×3mのプロットを設け、その中に直径20cmの塩ビ製円筒を7個設置し土壌呼吸測定箇所とした。土壌呼吸量は上述の方法を用い、チャンバーを直径20cmの円形のものに変えて測定した。地温は熱伝対を用いて、土壌含水率はTDRを用いて測定した。測定は2002年9月から10月にかけて3回行った。土壌呼吸測定後、測定箇所直下を掘り取った。掘り取った土壌は持ち帰り、含まれる根を直径(D)により2mm≦D、2mm<D≦5mm、5mm<D≦20mmに分け乾燥重量を測定した。各階級の直径の中央値をその階級の平均直径とし、根直径と呼吸量の関係式から各階級の根呼吸量を算出した。
    2-3 流域全体の根呼吸量の推定
    流域における根量を推定するために、根系を掘りとって、掘り取った根の直径を5cmごとにすべて計測した。これをもとに樹木の胸高直径と各階級(5mm<D≦20mm、20mm<D≦50mm、50mm<D、根株)の根量との関係式を作成し、この推定式を用いて流域における各階級の根量を推定した。細根(2mm≦D、2mm<D≦5mm)に関しては、2-3で用いた直径20cmの円形土壌ブロックの根量および、流域内3ヵ所をあわせた合計10箇所をサンプリングしその中に含まれる根量を測定して単位面積あたりの根量とした。以上の結果と直径階級ごとの根呼吸量から流域における根呼吸量を推定した。
    3. 結果と考察
    3-1
     根直径が大きくなるほど表面積あたりの根呼吸量は大きくなった。重量あたりの根呼吸量は直径が小さくなるほど大きくなる傾向が見られた。細根においては特に大きな値を示した。
    3-2
    測定した土壌呼吸量とその下部に含まれる根量との間には正の相関があった。すなわち根量が多い測定箇所ほど土壌呼吸量は多く、根量が土壌呼吸量の空間的変動の重要な要因であることがうかがえる。細根に着目するとその関係はより明瞭になった。これは細根が呼吸量に対して高い寄与率を持つことを示唆している。根量に直径階級ごとの根呼吸量を乗じて各測定箇所における根呼吸量が計算された。ここでの土壌呼吸に占める根呼吸量の割合は43.4(24.8_-_65.4)%であった。
    3-3
    試験地における直径階級ごとの根呼吸量を求めると、根呼吸量全体のうち半分以上を細根からの呼吸量が占めており、細根が根呼吸に関して重要な役割を果たしていることが示された。
  • 中路 達郎, 武田 知己, 小熊 宏之, 藤沼 康実
    セッションID: P1051
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    リモートセンシングによる植生表面の反射情報は、広域の植生の種類・被度や、光合成活性などの生理活性を把握する上で有効な情報源である。このため、森林によるCO2固定量を推定する際に、リモートセンシングの活用が期待されている。光合成活性の評価には、可視-近赤外域の反射率を用いた数々の植生指標が提案されている。 可視域(緑)の反射率を用いた Photochemical reflectance index (PRI) は、キサントフィルサイクルや光合成における光利用効率の日変化と似た日変動を示すことが知られているが(1,2)、その植物種による感受性差異については、ほとんど明らかになっていない。本研究では、わが国の植生を対象としてPRIの有効性を明らかにするための基礎試験として、温帯林に分布する広葉樹4種(シラカシ、コナラ、クヌギ、ヤシャブシ)の光合成活性の日変動とPRIの関係について調査した。いずれの樹種においても、PRIは光合成における光利用のパラメータである光化学系II量子収率(ΦII)と光利用効率(LUE=Pn/PPFD)と正の関係にあった。ΦIIは、どの樹種においてもほぼ同様の近似曲線でプロットされたが、LUEに関しては、樹種ごとにPRIとの近似曲線が大きく異なった。これらの結果は、将来的に、多数の植物種が混在する森林でPRIを用いるときには注意が必要であることを示している。
  • 渡邉 仁志, 片倉 正行, 茂木 靖和
    セッションID: P1052
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    生育立地が異なる林分の炭素貯留能力を比較するため,岐阜県下呂(褐色森林土),長野県塩尻(黒色土)の壮齢アカマツ林で林分全体の炭素量を調査した。炭素量は,塩尻>下呂の順で,両調査地で大きく違いがあった。調査地の土壌型は成因や性質が異なっている。このうち黒色土の特徴として,腐植に富んだA層が厚く堆積することがあげられるが,本調査でも土壌の層厚,炭素率とも塩尻の方が大きかった。このことから,土壌群の性質の違いが土壌中の炭素量に影響し,林分全体の炭素量にも強く関与していることが確認された。
  • 田中 永晴, 酒井 佳美, 酒井 寿夫, 石塚 成宏, 松浦 陽次郎, 高橋 正通, 小野 賢二
    セッションID: P1053
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • リターの質と形態
    森 圭子, 小崎 隆, Bernier Nicolas
    セッションID: P1054
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. 目的 堆積腐植層は植物と土壌の境界を形成し、それらと生物が相互に作用して有機物の性状が大きく変化する場所である。堆積腐植層はそれらの相互作用によって形成される特徴的な形態をもつ。従ってその形態を観察することは、森林生態系における物質の蓄積や供給の機構、また森林更新プロセスなどを解明する上で有用である。しかし特に日本において、その性状についての包括的な研究報告は少ない。そこで、本研究では互いに近接する2つの森林植生下の堆積腐植層について形態観察とリターの質の分析から、それらの形態形成過程の違いを明らかにすることを目的とした。2. 材料と方法 京都府宮津市上世屋の山林尾根上部に位置するブナ林(以後ブナ)とミズナラを中心とした落葉広葉樹林(以後ナラ)に調査地を設定した。堆積腐植層は2002年の11月にL1(その年の新鮮落葉で林床にあるもの)、L2(L1以外のL)、分解段階に応じてF1、F2、F3、FH、H層の別(ただしF2、FH層はブナのみ)に採取し現存量を求めた。リターの質の評価として、培養前後の試料の水溶性炭水化物、粗繊維はセルロース、ヘミセルロース、リグニンをそれぞれ硫酸アンスロン分解、デタージェントファイバー法と濃硫酸を用いた連続分解によって定量した。試料は3連で採取、分析した。また温度別長期培養による二酸化炭素発生量と年間の土壌温度を用いて各層の年間呼吸量を算出し、およその分解率を推算した。観察には別の試料を採取した。周囲を掘り下げて表面積が25cm2のブロック状の堆積腐植層を上から1_から_2cmごとに採取し、アルコール中に保存して持ち帰った。試料はシャーレに移して、実体顕微鏡で観察し、サイズ別の葉と根、枝とその他のリター、また土壌動物の摂食の結果である糞などから構成される分解産物についてポイントカウント法を用いて記録した。結果は、各層の構成物の体積割合として算出した。また、白色腐朽菌による白色化の程度を定量するために、L1、L2、F1層を3連で採取し、平らに乾燥させた後コピーした画像を、NIHimageを用いて白色部分の葉面積全体に対する割合を求めた。3. 結果と考察堆積腐植層の現存量はブナ>ナラで、ブナでは厚い堆積腐植層が形成されている。リターのおよその分解率をみると、L層でナラがブナの約1.8倍と高く、ナラの分解が速かった。F層以下ではどちらも分解率が減少していた。F1層ではブナとナラは同様の値を示していたが、それ以下ではブナが高い値を示し分解の後期においても分解がより遅いことが示唆された。水溶性の炭水化物は炭素基質として利用されやすい。L1層においては分解速度の速いナラで有意に高い値を示していたが、L2層ではどちらも急激にその濃度が下がり、F層以下ではほぼ同様の値を示していた。また粗繊維含量はいずれの層においても顕著な違いは見られなかった。培養後の各画分の減少率をみると、ホロセルロースの減少率はナラのL層においてブナより高く、F層以下では同様か、ブナで低かった。リグニンのL層試料培養後の増加は他の物質と複合体を形成したためかもしれない。ナラではF1層においてリグニンの減少率高く漸減するが、ブナでは減少が極めて低いか増加しており、リグニンは殆ど分解されないと考えられた。  形態観察の結果、ブナとナラの主な3つの違いに、1.葉リターの変化の様式、2.有機物と鉱質土壌の攪拌の程度、3.根の分布と菌根形成の程度、が挙げられた。ナラではL層において白色化が観察され、またF1層では土壌動物による細片化が顕著であり、ヤスデなどの大型土壌動物の糞が多く観察された。別の試料で測定した白色化の面積割合はL1層でナラがブナよりも有意に高く、L2、F1層でも常に高い傾向にあり、ナラでの高い白色腐朽菌の作用が示唆された。ブナにおける細片化は緩慢で、未分解の葉が分解産物とサンドイッチ状の積層構造を形成しており、鉱質土壌との攪拌は小さかったが、ヒメミミズによる分解産物の二次摂食が見られた。ナラでは有機質と鉱物質の混じり合いが見られ、F層下部における比較的大型の土壌動物による攪拌作用が大きいことが示唆された。ナラでは分解初期においてブナよりホロセルロースの利用率が高く、また白色化や土壌動物による細片化など土壌生物の活動が大きく分解が速いこと、分解後期はリグニンの利用率が高く、土壌動物の攪拌が見られるナラ対し、ブナでは分解の進まなかったリターが、F層において分解産物と共に堆積することで堆積腐植層の形態に違いが生じていると考えた。
  • 森貞 和仁, 大野 泰之, 澤田 智志, 片倉 正行, 吉岡 寿, 中岡 圭一, 高宮 立身
    セッションID: P1056
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    二酸化炭素吸収源としての森林の役割を正確に評価するには森林が成立している土壌炭素量および森林伐採など土地利用変化に伴うその変化量を精度良く評価することが必要である。土壌の分析・測定値はある一定の広がりをもつ土壌の代表値であるので,森林伐採が表層土の炭素貯留量に与える影響を精度良く推定するには土壌炭素量の空間的変動に基づいた多点サンプリングを行う必要がある。褐色森林土3カ所(北海道,秋田,愛媛),黒色土3カ所(長野,広島,大分)調査地において森林伐採前と伐採直後に3mないし4m間隔で規則的に100点程度のサンプリングを行い,鉱質土壌深さ0-30cmの表層土における炭素量の空間的変動とその変化率から目標精度に見合うサンプリング方法を検討した。その結果,表層土に含まれる土壌炭素量は土壌の種類によって違い,黒色土の炭素量は褐色森林土より明らかに多かった。空間的変動の指標として炭素量の変動係数を比較すると,褐色森林土ではどの調査地も約20%以上で試料採取点による変動が大きかったが,黒色土では大分以外の2調査地では約10%と比較的均質であった。伐採後の変動係数はどの調査地も伐採前と同じレベルであった。伐採に伴う変化率は平均で-7%(秋田)から+17%(愛媛)と調査地によって違う傾向を示したが,どの調査地でも採取地点による変動が大きかった。伐採前の調査結果から目標精度(信頼度95%,誤差5%)で表層土の炭素量を推定するには少なくとも褐色森林土で60点,黒色土で20点必要とみられた。伐採前後で土壌炭素量の変動係数に大きな変化がみられない。上記の点数を継続サンプリング,分析することで伐採後の変化を追跡することが可能と考えられるが,調査を継続して更に検討する必要がある。
  • 小出 奏, 大園 享司, 武田 博清
    セッションID: P1057
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     菌類は、落葉の主な成分であるリグニンやセルロースの分解能を持ち、森林生態系の物質循環に重要な役割を果たしている。落葉分解初期には易分解性の糖類やセルロースを利用する菌類が定着するが、これらの成分の枯渇に伴い菌類遷移が起こる。一方、リグニンは難分解性であり、分解後期にリグニン分解菌の定着により初めて分解される。分解に伴う落葉の物質動態と菌類遷移は密接に関連していることが言われてきたが、両者の関係を実証的に明らかにした研究は少ない。 リグニン分解により落葉が白色化することが知られているが、分解初期の落葉にも白色化(以下、漂白)が見られることがある。この落葉の漂白部では他の部分と比べ菌類相や化学性が異なり、その後の分解過程も異なっていると考えられる。そこで本研究では、顕著な漂白が見られるヤブツバキ落葉を材料に、漂白部とその他の部分で物質動態と菌類遷移を調べ、落葉分解過程における菌類の役割を明らかにすることを目的とした。調査地および方法 京都市西京区の二次林でリターバッグ実験を行った。2002年5月に落葉直後のヤブツバキの落葉でリターバッグを作成し、林床に設置した。2003年11月までの18ヶ月間、2ヶ月又は3ヶ月おきに毎回20個回収した。 回収したリターバッグは、落葉表面の子実体を観察して菌種を同定し、菌種ごとの漂白面積を測定した。その後漂白部と褐色部に切り分け、落葉の単位面積当り重量を測定し、粉砕して化学分析に供した。リグニン、全炭水化物、全窒素の濃度を測定し、重量に換算した。また、落葉の漂白部と褐色部から表面殺菌により内部生息菌類を分離し、菌類相を記述した。 主な分離菌の落葉分解能を接種実験により測定した。落葉直後のヤブツバキ落葉を滅菌し、菌類21菌株をそれぞれ接種した。20℃暗所で2ヶ月間培養し、リグニン、全炭水化物の重量減少率を求めた。結果と考察落葉の漂白部には2種のリチズマ科の子のう菌類、Coccomyces nipponicumとLophodermium sp.の子実体が観察された。これらリチズマ科菌類による漂白部(以下、リチズマ漂白部)の面積割合は、分解2ヶ月目には最大の17%であったが、その後減少した。リチズマ科菌類は、表面殺菌によって2ヶ月目にリチズマ漂白部から13%の頻度で分離されたが、その後全く分離されなかった。これらのことから、リチズマ科菌類は落葉後2ヶ月以内に落葉に定着して漂白を行い、その後他の菌類に置き換わると考えられる。リチズマ漂白部では褐色部に比べリグニン重量が減少しており、接種実験の結果からリチズマ科菌類は選択的リグニン分解を行っていることが明らかになった。 落葉の全炭水化物重量は、4ヶ月目以降、褐色部であまり変化が見られなかったが、リチズマ漂白部では減少し続けた。植物の細胞壁中でセルロースはリグニンに取り囲まれて存在している(リグニン化)。そのため、リグニン分解能を持たない菌類はリグニン化されていないセルロースしか利用できない。リチズマ漂白部では、分解初期にリチズマ科菌類が選択的リグニン分解を行ったことでセルロースが非リグニン化され、4ヶ月目以降も全炭水化物重量が減少したと考えられる。4ヶ月目のリチズマ漂白部では、未同定の分生子果不完全菌類BOの出現頻度が上昇した。接種実験の結果、本菌はリグニン分解能を持たず高いセルロース分解能を示したことから、本菌が主なセルロース分解者であったと考えられる。 全窒素重量は4ヶ月目以降、リチズマ漂白部と褐色部で異なる動態を示した。すなわち、リチズマ漂白部では重量の増加(不動化)が見られたが、褐色部では見られなかった。不動化の要因として、菌類による選択的セルロース分解の過程でリグニンと窒素化合物が結合する現象が報告されている。リチズマ漂白部では分解初期にリグニンが選択的に分解されたために、不動化が起こらなかったと考えられる。
  • 川崎 雅俊, 大手 信人, 浅野 友子, 内田 太郎, 金 秀珍
    セッションID: P1058
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    樹冠・有機物層で水に付加された溶存有機態炭素(DOC)が,鉱質土壌層に輸送され吸着・沈殿により土壌へ付加される現象は,森林土壌への炭素蓄積に重要な役割を占めることが明らかにされつつある(Neff and Asner 2001).この付加量に影響を与えるパラメーターとして,土壌のDOC吸着特性が考えられている(Neff and Asner 2001).DOC吸着特性は,土壌の炭素含量・粘土含量が重要であり(Neff and Asner 2001),これらは土壌が発達すると増加することが知られている(鳥居 1996).しかし,原位置で観測されるDOC濃度は,吸着・沈殿だけではなく微生物によるDOCの無機化や,preferential flow等の浸透過程の変動によるDOC輸送形態の変動の影響を受けているため,土壌の違いが,土壌へ付加されるDOC量に及ぼす影響は良く分かっていない.この問題を明らかにする為には,生物活動や水文過程の影響を評価した上で,土壌のDOC吸着特性が異なる場所のDOC濃度・フラックスを比較する必要がある.そこで本研究では,滋賀県南部に位置する田上山地において,土地利用の履歴の違いから生じた土壌生成の発達段階が異なる隣接した2プロット(不動寺:古い土壌,マツ沢:若い土壌)で,土壌のDOC吸着特性(Nambu and Yonebayashi (2000); Nodvin et al. (1986))・DOC濃度を観測した.そしてDOC濃度・フラックスの経時変動から生物活動・水文過程の影響を評価した.その上でDOC濃度・フラックスの相違点を比較することで,土壌へ付加されるDOC量に土壌が及ぼす影響を評価した.
    その結果,マツ沢・不動寺ともにDOC濃度の経時変動は明瞭ではなく,また,温度や降水量の経時変動と同期しなかった.一方,DOCフラックスの経時変動は,マツ沢・不動寺ともに降水量の変動に依存した.以上の結果より,両プロットでのDOC除去に微生物によるDOCの無機化の影響は小さく,また,両プロット間で浸透過程の違いによるDOC輸送形態の違いの影響も小さいと考えられた.0cmのDOCフラックスは,マツ沢235 kg-C ha-1 yr-1に対し不動寺538 kg-C ha-1 yr-1と不動寺の方が2倍以上多かった.一方60cm以深では,マツ沢で18 kg-C ha-1 yr-1,不動寺で34 kg-C ha-1 yr-1となり,その後の鉛直浸透過程ではほとんど変動しなかった.分配係数(m)は,マツ沢が表層から下層まで0.3_から_0.4の間にあり,おおむね均質であるのに対し,不動寺では深度が増すにつれmが0.2から0.5まで上昇した.しかし,最もDOC除去量が大きかったコンパートメントは,最もmが低かった不動寺の0_から_10cmであり,DOC除去量は土壌のDOC吸着特性に依存しない可能性が示唆された.60cm以深の鉛直浸透過程では,マツ沢・不動寺ともにDOC濃度・フラックスが変動しなくなった.また,有機態Al・Fe濃度がほぼ0となった.以上の結果より,土壌中の鉛直浸透過程では,DOCは,主にAlやFeと有機錯体を形成し沈殿することにより溶液中から除去されると考えられた.したがって,花崗岩を母材とする未熟土では,土壌の違いではなく,AlやFeと有機錯体を形成できるDOCが樹冠・有機物層で水にどれだけ付加されるかが,鉱質土壌層での土壌へのDOC付加量に対して重要であると考えられた.
  • 小野 賢二, 稲垣 善之, 長谷川 元洋, 杉元 倫子, 平出 政和
    セッションID: P1059
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 大山 尚貴, 小野 賢, 福島 和彦, 竹中 千里
    セッションID: P1060
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    樹木からは落葉などにより様々な有機物が土壌へ落下する。こうした有機物は微生物により徐々に分解されていく。しかし植物細胞壁の主成分であるリグニンは、生化学的に難分解性であるため、分解されずに土壌中に留まり、中・長期的にCO2を固定していると考えられる。本研究ではリグニンに着目し、森林による二酸化炭素(CO2)の吸収能力を再評価するため、リターバッグによる落葉分解試験を行い、分解過程におけるリグニンの挙動を明らかにすることを目的とした。
T5 林教育研究の展開
  • 林田 光祐
    セッションID: P2001
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     近年,地球環境問題に対する認識が広がり,森林を環境教育の場として利用していこうという動きが活発になってきた。このような場として注目されているのが学校林である。 多くの学校林は基本財産を目的に設置されたため,現在利用されていない学校林が多い。しかし、2002年度から小中学校で「総合的な学習の時間」が完全導入されたことにより,環境教育の場としての期待が高まっている。そのため,学校林での教育プログラムやそれを実行するための管理のあり方,その方法・事例紹介などの研究が進められている。しかし,学校林の管理のあり方について生態学的視点からのアプローチは行われていない。 そこで、山形県鶴岡市立西郷小学校の丸山学校林(2.6ha)を対象に,2002年度から学校林での6年生の授業と生態学的手法を用いた森林管理を同時に行いながら,環境教育機能をより充実させていくためには学校林をどのように整備していけばよいのかを,森林の生態管理と小学校教育の両方の視点から検討している。 今回の発表では、これまでの成果をもとに、効果的な環境教育を行うためには学校林の管理目標をどのように設定したらよいのか。そのためにはどのような管理手法を用いたらよいのかを提案する。また、具体的な事例として、丸山学校林の実践例を紹介する。
  • 岐阜県を事例として
    井上 かおり, 大浦 由美
    セッションID: P2002
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 近年、森林・林業政策において、森林・林業に対する国民の理解促進の必要性および子どもたちの生きる力の育成を掲げる教育政策との連携により、「森林環境教育の推進」が掲げられている。その中で、指導者の養成確保や総合的な学習の時間等、学校教育での取組み増加の観点から、教職員への研修が国・県レベルで進められてきているが、その実態は明らかでない。本研究では、H.12年度から「教職員等森林・林業教育研修事業」を県下全域で展開している岐阜県の事例について、実施体制および参加者の意識に関する実態把握を行い、その現状と課題を明らかにすることを目的とする。2.研修実施体制等に関する聞き取り調査結果 岐阜県では「文部省・農林水産省連携の基本的方針(H.11.1.策定)」を主なきっかけに、それまで一部地域のみで実施されていた教職員対象の森林・林業教育研修(以下研修)を全域展開の事業とした。 実施体制としては、県庁林業振興室(以下県庁)は主に県庁教育機関との連絡調整を行い、研修の企画・実施は各地域の県農林商工事務所(以下県事務所)の林業改良指導員〔AG〕に原則一任される。そのため教育側との連携度合い・研修内容等は各地域の担当事務所ごとに異なるが、間伐を中心とした林業体験をメインプログラムとする点は共通であった。また、H.15年度実施の9回中7回が初任者研修(小・中学校対象)に組込まれて実施されたため、初任者の86.1%(211名)が本研修を受講する結果となった。ただし中には、都市部の県事務所で、70名もの初任者対象の研修を1名のAGが企画から運営までのほぼ全てを担当しているケースも見られた。なお、県庁では研修の目的として「指導者の養成」を掲げているが、実際の研修では基本的に教職員を林業の初心者と捉え、森林・林業の大切さ・大変さ等を理解してもらい、学校でも活かしてもらいたい、というスタンスであった。3.研修直後の参加者意識に関するアンケート調査結果 アンケート調査票は各県事務所担当者を介して研修直後に配布し、全地域合計241名の回答を得た(回収率100%)。 「最も印象に残ったプログラムは何か」という問いに対しては、9回中7回の教員研修で林業体験が最も多く選択された。あわせて「各プログラムへの評価」のうち林業体験について見ると、“満足”173名(71.8%)、“やや満足”59名(24.5%)、“どちらとも言えない”7名(2.9%)と、高い評価を得た。また、「研修を受ける以前と比べて、森林・林業に対する興味・関心は高まったか」という問いに対しては、“高まった”145名(60.2%)、“やや高まった”92名(38.2%)“ほとんど変わらない”4名(1.6%)となり、「研修を受けてみて、児童・生徒にも森林・林業を題材とした取組みをさせてみたいと思ったか」という問いに対しては、“はい”213名(88.4%)、“どちらとも言えない”27名(11.2%)、“いいえ”1名(0.4%)となった。4.考察 現在県下で多く実現されている、初任者研修に組込んだ形での研修の実施は、県教育事務所の協力のもと参加者を確実かつ比較的容易に確保できるという点で高く評価されよう。 しかし、各地域のAGが企画・調整・準備・指導などほとんどすべての役割を担うことにより支えられている現在の研修は、AGの負担の大きさに加え、林業普及指導事業の在り方の見直しにより、普及組織について「少数精鋭の体制で多くの課題に対応していくことが求められて」いくことから、今後の継続可能性には不安が残り、また参加者数が多い場合にも対応できるだけの体制であるとは言い難い。 また一方で、参加者への事後アンケート結果では、日常生活ではあまり体験する機会のない森林体験・林業体験について、高度な専門知識を備えたAGから親切できめ細やかな指導が受けられたことが、研修への高い評価につながったと推察される。このことは初任者研修の一目的である「幅広い知見を得させること」と関連し、教育側のニーズに対応した事業になっていると言えよう。今後は林野側の当初のねらいである、研修後、学校に戻ってからの実践や生徒への波及について確認するために、過去の研修参加者を含めた追跡調査が必要である。
  • 山本 清龍, 坂上 大翼, 柴崎 茂光, 田中 延亮, 広嶋 卓也, 堀田 紀文
    セッションID: P2003
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.背景と目的 地域の自然環境に対する意識の向上や学校五日制の導入等を背景にして、憩いの場や環境教育のフィールドとして森林への期待が高まっている。2001年11月に出された日本学術会議答申では、農業と森林の多面的な機能に関して、特にその定量的評価を含めた手法や今後の調査研究の展開方向のあり方が示され、研究分野における一層の蓄積と評価手法に関する方法論の構築の必要性が課題として指摘された1)。その中で定量的評価の議論を通し、改めて多面的機能の内容と意義、農業・森林保全に対する国民的理解と合意形成の必要性が主張されたことは注目される2)3)。また、ヨハネスブルグサミットにおける『教育の十年』の流れを汲み、環境保全という限定された範囲ではあるが、2003年7月に「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が公布され、教育の重要性が再認識されたばかりである。 以上のような学術の動向と社会背景を踏まえた上で森林教育の重要性に鑑み、本研究では、分野横断的な視点から森林が持つ多面的機能の基礎情報を測定・整理し、環境教育における解説や理解を助けるための森林教育プログラムの開発を行うことを目的とした。特に森林教育プログラムの開発にあたっては教育効果の拡大に主眼を置き、解説者にとって応用性が高く、プログラム参加者にとって比較選択性が高いと考えられるモジュール構造を有するものを目指すこととした。また、開発した森林教育プログラムはガイドツアー等を実施することにより、教育効果の検証を行う。このような全体像の中で本報告では主に、森林教育プログラムのテキスト作成過程について報告を行う。2.森林教育プログラムの開発方法 本研究では体験学習の為のフィールドの重要性の認識から、研究対象地として近代日本の象徴4)である富士山を取り上げ、自然環境情報の蓄積が見られる山中湖畔の東京大学富士演習林を研究拠点とした。まず、研究参加者が担当する森林の多面的機能に関する機能分野の割当を行い、パイロットプロジェクトとしての今回の取り組みを保健文化機能、生活環境保全機能、水源涵養機能、木材等生産機能、山地災害防止機能の5機能分野(6研究分野)で構成し、これらの機能の組み合わせによって森林教育プログラムを作成していくこととした。次に、文献調査による各機能分野の情報収集と自然環境に関する基礎情報の整理を行った上で、富士北麓地域における初等中等教育従事者が利用するテキストの作成を視野に入れて、単独機能のテーマ一覧および複合機能のテーマ一覧を作成した。以上を素材として、初等中等教育課程に供される森林教育プログラムに相応しいテーマについて検討を行った。3.テキストの作成過程 大学教育において体験型教育プログラムの開発は教育学(野外教育)の分野を除いて殆ど実績が無い5)ことから、森林研究分野における森林教育プログラムの開発の枠組み自体が新たな試みと言えよう。検討の結果、11の複合機能のテーマが抽出された。森林教育プログラムのテキスト作成過程における論点のうち、主要なものは以下の通りである。1)テキストの構造性 テキストに盛り込むべき情報の中には、普遍的な情報や地域に依拠した情報があり、テキストに構造性を持たせることで情報の階層性に対応する必要がある。但し、情報の階層性に配慮し構造化する際、複合機能のテーマの内容は単独機能のテーマの内容に加えて新しい視点が提示されなければならない。また、機能の組み合わせを考える場合、モントリオールプロセスで提示された7指標やClawson's matrixについても検討材料とし、国内外のプログラムの事例を参照した上で、応用性や比較選択性の観点からテキストの構造が決定されなければならない。2)テキスト掲載用語 森林研究分野で作成されたテキストを教育従事者が理解した後に教育現場において子供達に伝えることを想定し、各段階において用語の分かり易い言葉への変換についても配慮される必要がある。また、体験学習を重視する立場から、子供達の学習機会における教育者の「介入」のあり方についても提案していくことが求められる。3)教育学分野との協働初等中等教育の現場において必要な情報やプログラムが何かを知るために、教育者懇談会や教育者との意見交換の機会を持つ必要がある。また、体験学習の体系化を図る場合に、教育学分野の集団学習法やエンカウンターグループ、教育思想史等の知見を整理し、体験や集団による学習の意義や科学に依拠することの効果、テキストやプログラムのあり方についても配慮されなければならない。
  • 大石 康彦
    セッションID: P2004
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに行った自由記述式調査における結果を踏まえ、森林観・林業観を評定する尺度を作成し検討した。総合的な学習の時間において森林体験活動を実施した小学校第5学年生を対象に調査した結果、森林観については森林環境教育の段階的目標において初段階に位置する”関心”とその次の段階に位置する”理解”において向上が認められ、林業観についても向上が認められた。このことから、これらの評価尺度によって、森林体験活動による子どもの森林観、林業観の変化がとらえられたものと考えられた。
  • 演習林における小学校の総合学習受け入れ授業
    井倉 洋二, 芦原 誠一, 松元 正美, 野下 治巳, 内原 浩之, 松野 嘉昭
    セッションID: P2005
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 里山管理と木質バイオマスを題材とした小学校の総合学習
    楢崎 達也, 岩本 佳久, 中尾 諭, 山本 隆教, 佐瀬 知史, 倉野 英明
    セッションID: P2006
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 松尾 佳秀, 大崎 智弘, 安川 直樹, 阿部 光敏, 酒井 徹朗, 守屋 和幸
    セッションID: P2007
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    2002年度から全国の小中学校に「総合的な学習の時間」が導入され、地域に根ざした教育、生徒の自主性を重視した教育が期待されている。文部科学省の学習指導要領[1]によると、「総合的な学習の時間」では、「横断的・総合的な課題などについて、自然体験や社会体験、観察・実験、見学・調査などの体験的な学習、問題解決的な学習を行う」ことが新たに必要とされており、各小中学校では具体的な実施方法を模索している。また、パソコンやインターネットなどが導入され、今後ますます情報教育が実践されていくことが予想される。
    本研究では、「総合的な学習の時間」において、特に野外での理科教育・社会科教育を主な対象としてモバイル機器を中心とした情報機器の利用方法の確立を目的とした取り組みを行った。
    実践概要としては、2003年度、京都市立稲荷小学校では「稲荷のまち&稲荷山 自然調査隊」というタイトルで総合的な学習の時間を行っている。タイトルにも使用されている稲荷山は、小学校に隣接している伏見稲荷大社を含む山で、全員で年に3回稲荷山登山を行う学校林に近い形の山である。稲荷小学校での総合的な学習の時間の進め方は、年間の学習テーマが設定されており、生徒はその枠内で各自の課題を設定し、課題の解決方法も自ら考案し、実行する。課題解決に向けた方向付けは、中間的におこなうクラス内での意見交流会と、担任の教師からの指導を元にして行う。まず小学生が独力で課題解決の方法を考える。ある程度独力で課題に取り組んだところで、意見交換会を行い、課題解決への方向修正をおこなう。次に、学習課題が似ている生徒同士でグループによる課題解決をおこなう。最後に、個人で発表用コンテンツを作成する。今年度の具体的な日程としては、稲荷山取材活動を7月1日・8月29日、課題決定を9月から10月上旬にかけて、調べ学習&コンテンツ作成を11月下旬から2月中旬まで、意見交流会を12月5・12日という形で行った。
    システムの概要としては、稲荷小学校での総合的な学習の時間に導入したシステムとしては3つある。まず、取材活動時に導入したPDA・GPS・デジタルカメラを用いた取材システムは、以前に野外環境学習の支援を目的として構築したPosInfoシステム[2]を小学生用のインタフェースと取材用の機能に改良したものである。
    次に、課題決定時に導入した情報交換ソフトは、取材システムを使って生徒が取材したファイルを一括して閲覧し、興味を持った対象物に関する写真などのファイルを自分専用のコンテンツ素材として選択的に保存するものである。
    最後に、コンテンツ作成時に導入したコンテンツ作成ソフトは、情報交換ソフトで絞り込んだ素材を用いて、選択形式のクイズ問題を作成し、取材システムに載せるためのコンテンツ作成を支援するソフトである。
    結果としては、情報交換ソフトでは、他人の素材を、生徒が自分専用のコンテンツ素材として保存したものが、5年生で78.0%、6年生で73.4%であった。評価の結果、操作性と機能および楽しさに対する主観的評価は良好と言うことができ、ストレスなく情報収集、共有をおこなう最低限の機能が満たされているといえる。
  • 東原 貴志, 吉本 和夫
    セッションID: P2008
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     生徒が森林・樹木について理解を深め、興味関心を高めることを目的とし、大阪教育大学教育学部附属高校平野校舎の3年生「生物」履修者76名を対象に、生物特別授業「樹木がわかる林学実習」を実施した。この実習は、(独)林木育種センター東北育種場研究員の東原を講師とし、吉本(教諭)、廣澤(TA)とのチームティーチング形式で行った。平成15年9月11日(木)12日(金)15日(祝)に、本校生物室および京都大学フィールド科学教育センター上賀茂試験地にて、実習1「木材構造観察実習」と実習2「京大演習林実習」の構成で、以下の通り実施した。実習1木材構造観察実習(「生物」履修者76名全員) 実習1では、一般に高校では入手困難である、ヤマザクラ木口面切片の永久プレパラートを用いて木材の構造を光学顕微鏡で観察させ、木材構造に関する小問を6題解答させた。木材を構成する細胞の形態からその機能や生細胞・死細胞の区別を知ることや、肉眼で見える年輪の実体を細胞レベルで観察することによって、「木材に見られる年輪とは一体何か?」を実感し、細胞からなりたつ生命の世界に迫ることをめざした。 木材プレパラート観察中に、年輪構造や細胞壁を発見した時の驚きを表現する生徒がみられた。生徒にとり、死細胞が樹木を支えていることは意外であったようである。この実習を通じて、樹木が周期的に生長し年輪構造を形成することや、細胞の死と引き換えに強度を獲得する巧妙なしくみを生徒に理解させることができた。実習2京大演習林実習(希望者参加21名) 実習2では、京大上賀茂試験地にて、「この木なんの木ゲーム」を主体とした樹木の観察を行い、生徒が主体的に森林の多様な樹木の違いを学べるように工夫した。「この木なんの木ゲーム」とは、事前学習で学んだ生物の分類法・樹木の識別法に従い、与えられた19枚の樹木説明写真(カラープリント)をもとに、演習林に生育する15の樹木名を答えるものである。講師の説明を聞きながら山を歩くだけの受け身的な実習を避けるため、演習林の山頂までの往路では、講師は樹木の説明を一切行わず、樹木プレート名を隠して樹木名を当てさせ、復路で樹木名の答え合わせと説明を行った。ゲームに出題したブナ科の樹木のほとんどは、樹木説明写真にみられるような典型的な形態を示していなかった。そのため、当てずっぽうではなく、葉や幹、実の特徴や分類法などを理解し、樹木識別のポイントを押さえないと正解にはたどりつけない。また、アベマキとクヌギ、シラカシとウラジロガシのようによく似た樹木を出題し、科学的思考を行わないと全問正解できないように工夫した。ゲーム終了後、なぜ樹木名を間違えたのかを生徒に問題提起し、図鑑にある樹木と演習林で観察した現実の自然との違いを認識させ、「なぜ、このような違いが生じるのか?」を考えさせることによって、生命や自然の本質に迫ることをめざした。「この木なんの木ゲーム」では、ゲーム感覚で優劣を競わせた結果、生徒は、樹木説明写真の情報を手がかりに、みずから手にとって樹木を事細かに観察した。ゲーム開始直後には、樹木名を答えるのに長考した生徒がほとんどであったが、観察を続けるうちに、樹木識別のポイントを理解し、短時間のうちに樹木名を答えるようになった。ゲームを終えた生徒には、なぜ樹木名を間違えたのかを考えさせることによって、樹木が置かれる生育環境や個体間の差により同じ樹種でも一本一本がそれぞれ異なる形質を持つことを理解させることができた。
  • 「森づくり計画交流講座」参加者の行動分析
    内田 千波, 比屋根 哲
    セッションID: P2009
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 「森づくり計画」交流講座の試み
    比屋根 哲, 内田 千波
    セッションID: P2010
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • モデルフォレストを利用した事例
    枚田 邦宏, 井倉 洋二, 八田 明夫, 福満 博隆
    セッションID: P2011
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    本報告では、林学の教育研究のために設置されてきた演習林等において、大学という教育研究組織としての特性に基づいて、一般の人達に対して研究成果に根ざした森林教育を考えることができるのか、また、その内容はどのようなものであればよいのかを追求しようとするものである。このために、アメリカの野外教育施設ではじまっている森林研究活動と結びついた森林教育の内容を紹介する。事例に取り上げたFrost Valleyは、野外環境教育活動の歴史があり、その成果は日本でも利用されているが、それに加えて森林生産にも積極的に取り組んでいる。森林の一部にモデルフォレストを設定し、森林研究に利用しながら、教育フィールドとしても活用しており、森林研究と森林教育の結合が見られる。
  • 木俣 知大, 井上 かおり
    セッションID: P2012
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • ドイツでの取り組みについて
    寺下 太郎
    セッションID: P2013
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    ドイツにおいては、環境教育と森林教育とは、歴史的経緯を異にしており、同じ自然環境を対象としながらも、目的設定も異なる。これに加えて、1990年代から、持続可能な開発のための教育(ESD)という概念が世界規模で提起された。環境教育はこのESDの中で新たな方向性を見出してきている。他方、森林教育は、森林理解や林業理解を最終的に志向しており、ESDとの類似と差異については明らかになって来ているものの、森林教育がESDに対してどのようなスタンスをとるのかは、はっきりと提示できないでいる。
林政
  • 古井戸 宏通, 駒木 貴彰
    セッションID: P2014
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     CO2吸収源として保安林の成長分をカウントすることが諸外国の理解を得られる否かが問題になっている。この問題は、保安林における施業のあり方、ひいては保安林と生産林の区別、保安林制度と森林計画制度(旧営林監督制度)との関係、保安林の定義等、保安林の概念にかかわる根本的諸問題に還元しうる。こうした諸問題への接近は、わが国において1897年の森林法によって保安林制度が導入された際に、19世紀後半当時の諸外国や旧藩の事例が整理・分析されたのを嚆矢とする。以来、植村(1917)が諸外国の事例を整理し、林学会討論会(1929)で批判的検討がなされ、その後島田(1960)が戦後のドイツ諸邦の事例を加え、筒井迪夫の諸論考が森林法における位置づけを考究し、ZORN(1999)が日独墺3国の比較研究を行った以外には、理論的にも実証的にもほとんど研究例をみない。本研究では、保安林制度が発達した欧州における保安林制度とその運用についての最新の知見を整理することにより、表記の問題へ接近した。 文献サーベイおよび、欧州諸国のヒアリング調査により、以下の諸点が明らかになった。(1)法文上、保安林を定義した例は無く、具体的例示的規定がほとんどである。学説上は、ENDRESの定義があり、この定義は「外部不経済発生防止のため転用禁止および施業制限が必須である森林」と解釈できる。墺国は19世紀半以来、私有林施業規制に対する補償の要否によってSchutzwaldとBannwaldに分類しているがこの用語法は独語圏すべてに共通ではない。(2)各国の保安林の性格を伺わせる指標として森林面積に占める割合がある。スイスは20世紀初頭から保安林のみが林業助成の対象となり、1993年以降全森林が保安林となった。フランスは1%台以下で、スイスと対照的である。墺国は中間の2割程度である。スウェーデンは、全森林について「木材生産と環境保護を同等に考慮する」と森林法で規定し、他の環境法制によるゾーニング以外、ゾーニング的発想を採っていない。(3)保安林での木材生産は、ノルトライン・ヴェストファーレン邦のように保安林における積極的木材生産を規定する例や、一切施業しない森林を通常の保安林とは別に設けるバーデン・ヴュルテンベルク邦のような例がある。総じて保安林における木材生産は是認ないし推奨されているようにみえるが、墺国のSchutzwaldのうち禁伐林が6割を占めるなど国による差がみられる。(4)施業については、スイスや墺国で保安林の「手入れ不足」が問題となっており、災害リスクの大きい山岳林地域での保安林の施業方法がアルプス協約の枠組みにも関係して課題となっていることを伺わせる。(5)地理的・気候的・自然的・歴史的・社会経済的諸条件を加味した比較分析が今後の課題である。
  • 都築 伸行
    セッションID: P2015
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    高知県梼原町では、2002年度より開始された「森林整備地域活動支援交付金制度」に先駈けて、2001年度より町単独事業として「水源地域森林整備交付金事業」を開始した。本報告では、梼原町の事例をもとに、このような森林管理に関する交付金制度が地域の森林所有者のインセンティブとなり間伐推進などの効果として現れるのか、また制度の効果を上げるための課題は何であるかについて、特に交付金支給の前提となる団地編成と施業協定を集落で取りまとめるリーダー的存在に注目して考察する。梼原町は四万十川源流部に位置し、林野率80%を超え、森林面積21,595haのうち民有林が85%を占め、人工林率は75%である。2000年にFSC森林認証をグループ認証で取得したほか、2001年には「自治体環境グランプリ」を受賞するなど環境に配慮した地域づくりで、全国的に注目を集める町である。水源地域森林整備交付金事業は、同町が定める「森づくり基本条例」に基づき、具体的には間伐推進策とFSC森林認証への加入促進策として開始された。財源には町独自の「環境基金」が利用されており、同基金には風力発電による買電益が含まれる。5ha以上の団地を編成し、5ヵ年の施業計画について町との協定が成立した後に間伐を実施すると、森林所有者に対して間伐実施面積1haにつき10万円が直接支払われる。団地編成にあたり町と森林組合は、町が認定した間伐推進員と協力しながら集落単位に説明会を繰り返し行った。このような普及活動の結果、申請は当初予算の限度額を超えるものであった。交付金支給の前提となる団地編成に関する参加意向と集落でのまとめ役の引き受けに関して把握するために、森林所有者へのアンケート調査を行った。対象は在村の森林組合員約半数から住所の判明している者553名(組合員の42%)とした。回答数は250であり、有効回答率は45%であった。集計結果から全体では団地編成に「積極的に参加する」との回答が13%、「参加しても良い」との回答が44%と参加意向を持つものが過半を占めていたが、まとめ役の引き受けについては54%が「できない」と回答していた。年齢別では、まとめ役を「できない」とする回答の割合が40歳代以下と70から80歳代以上の年齢層で高い割合であった。50歳代で「既に引き受けている」か「積極的に引き受ける」と回答する割合が最も高かった。保有規模別では、小規模層でまとめ役は「できない」との回答が最も高く、「既に引き受けている」または「積極的に引き受ける」との回答は20haから50haの中規模層で最も高かった。 梼原町における同事業の効果は、1ha当たり10万円という交付金が大きなインセンティブとなり町内での間伐が進んだほか、国の交付金支給の前提となる森林施業計画制度の認定手続きが円滑に遂行されたこと、FSC森林認証への加入が進んだことなどがあげられる。また、事業の推進には、集落でのまとめ役の確保が必要であり、梼原町ではそれを50歳代の年齢層が中心的に担っていることが明らかとなった。ただし、この年齢層は10年後、20年後には60歳から70歳代となり引退を迎える人が多くなると予想できる。今後の課題としては、こういった集落でのまとめ役を確保するためのソフト事業の拡充があげられる。
  • 松田 孝仁, 安川 直樹, 酒井 徹朗
    セッションID: P2016
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1. 背景・目的
     第二次世界大戦後の急速な経済発展に伴い、環境破壊は深刻化した。人々には環境に対する見識や危機意識、豊かな感受性を持つことが求められている。そのために、環境教育が推進されている。こうした流れに従い、小学校教育の場においても各教科や総合的学習の時間を利用した環境教育が行われており、その対象として、森林が注目されている。これは日本の国土の約67%が森林であり、森林の持つ多面的機能が環境問題解決に期待されているからである。また森林という場は小学生が体験し易く教育の場としての機能も評価されているからである。            小学校の教材において、森林に関する内容は教科によって異なる。社会では、昭和52年以前は林業の場として森林が取り上げられた。その後、昭和53年から昭和63年までは林業に関する削除されていた。再び平成元年からは環境保全の場として森林が取り上げられてきた。(1)国語や理科では、学習指導要領に森林に関しては特に言及されていないが、自然環境に関する記載がある。このため、国語や理科の教材内にも森林に関する記述が在ることは当然予想される。
    教科書は小学校教育の中心であり、そこでの記述の有無やその頻度により、子どもたちにおおきな影響を与えると考える。そこで、本研究では小学校教科書において森林・林業をはじめとする自然環境に関する記述がどのように扱われているかを明らかにすることを目的とし、分析を行ったので報告する。
    2. 方法
     分析の対象は小学3-6年生の3教科の教科書(国語、理科、社会)とした。国語は6出版社48冊、理科は6出版社42冊、社会は5出版社30冊、計120冊である。各教科書の各頁をスキャナで読み取り、それをOCRソフト(e.Typist v.9.0)でテキスト化した。されらを奈良先端技術大学のフリーソフト茶筅version2.1を用いて形態素解析行い、単語単位に分解した。得られた各単語に、学年、教科、出版社、ページ、単元名、品詞区分等をつけ、教科書データベースを作成した。
    総単語数は1667068件あった。総単元数は1644個、国語は912個、理科は309個、社会は423個である。
    3. 結果・考察
    (1) 単語「森林」「森」「林」「林業」が出現した単元数(教科別)
    単語「森林」「森」「林」「林業」が1つでも出現した単元を教科ごとに調べ、その単元数の各教科の総単元数に対する比率を求めた。「森林」は社会において、「森」は国語、理科において多く出現した。「林業」はやはり社会において見られた。
    国語においては、森林が「森」という単語で表されており、産業や科学の場としての森林とは違い、地域社会や文化に関係した森林に対して記述されていることが推察される。
    社会だけではなく、国語、理科にも森林に関する記述が多くあるということがわかった
    (2)代表的な樹種の出現した単元数(教科別)
    日本で代表的な樹種であるスギ、ヒノキ、マツ、ブナ、ケヤキ、クリについて、この樹種名が出現した単元数をカウントした。
    これらの樹種名が取り扱われている単元数は、総単元数と比較すると小さいものであった。教科別では、社会と国語に関してはある程度扱われているが、理科においてはほとんど扱われていないといった特徴があった。
    4.まとめ   
     筆者らは、教科書データベースを作成し、3-(1)(2)のような分析を行った。この結果、森林・林業に関する記述が、国語、理科、社会に広がりをもって存在している手がかりを得た。今後は森林・林業に関する記述が教科や単元においてどのような視点から記述されているかを明らかにしていきたい。
  • 関東地方市町村を対象としたアンケートから
    吉村 妙子, 野田 英志, 細田 和男, 田中 亘
    セッションID: P2017
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    関東地方の里山林の保全・利用・管理の概況を把握するため、関東地方の1都6県(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)の全473自治体を対象に、2003年10月から11月にかけて「自治体における里山林保全の取り組み状況に関する調査」(郵送アンケート形式)を実施した。有効回答数は199(有効回答率42.1%)であった。
    解析の結果、以下の点が明らかになった。まず、有効回答の得られた自治体の人口や人口密度、林野率等から地理的状況をみたところ、人口が増えているが森林も比較的多く残っている地域の自治体が多いと考えられた。
    現在、里山林が日常的に利用されているところがあると回答した自治体は56.1%で、落ち葉の利用やシイタケの原木採取といった旧来型の利用が約3割、市民の森や自然観察といった新しいタイプの利用が約2割であった。
    里山林が利用されなくなったことによる問題発生の有無については、77.8%の自治体が「問題あり」と回答した。最も多かったのが廃棄物の投棄(52.5%)で、とくに問題になっている点として挙げた自治体も多かった。管理担い手の不足(46.0%)、鳥獣害(24.2%)、竹林の拡大(21.7%)が続く。管理担い手の不足や竹林の拡大に対しては対処しきれていない自治体が少なくないが、各種補助事業による森林整備、ボランティア育成等の実施例もあった。
    独自の里山林保全・利用に関する施策や条例を設けている自治体は20.1%、検討中の自治体は4.0%で、南関東で比較的多かった。取り組みの内容は、施策の実施が17.6%、条例の制定が8.1%で、緑地を保全し住民のレクリエーションや憩いの場を確保することを目的にしたものが多い。その他、法令に基づかない取り組みでは、茨城県、群馬県、千葉県で県補助事業の実施がみられた。
    里山林の利用・保全に関わるボランティア活動の事例は4割近くの自治体で確認されていた。東京都、神奈川県を中心に南関東でボランティア活動の事例が多い傾向があった。群馬県では、自治会のような地域団体を基盤にしているとみられるグループが目立った。自治体とボランティアとの関わりの状況は、支援を行っている自治体が45.2%で、東京都と神奈川県では支援の実施とともにボランティアからの要望も多い。今後のボランティア育成については、育成する考えのない自治体が最も多く4割を超えていた。
    里山林の今後の利用について検討した自治体は5.6%、現在検討中の自治体は22.2%であり、まだ少数派である。検討した内容および検討中の内容で多かったのは、森林レクリエーションや環境教育の場としての利用であった。
    全体の傾向としては、都市化が進行している地域ほど取り組みや市民ボランティアが活発であったが、森林の豊かな地域での取り組み例もあり、地理的な状況と施策との両面から更なる検討が必要であると考えられる。
林産
  • 成松 眞樹, 練 春蘭, 宝月 岱造
    セッションID: P2019
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    菌根性食用きのこマツタケは市場価値が高く、培養菌糸の接種による林地での子実体生産が各地で試みられている。一方、販売価格の決定要因となる子実体サイズは、環境的要因に影響を受けるとされているが、遺伝的要因の影響は不明である。そこで本研究では、遺伝的要因(遺伝子型)と環境的要因(発生期の気象条件、菌根層深度)が子実体のサイズ規定に及ぼす影響を検討した。
    1. 方法
    1.1 子実体発生状況調査:岩手県内陸部のアカマツ林で、2001_から_2003年の3年間に発生した子実体の発生日、生重量、全長、菌根層深度を測定/記録した。各子実体毎に、発生日_から_採取日間の日平均気温及び日降水量を積算し、これを気象条件とした。
    1.2 ジェネットの決定:子実体サンプルからCTAB法でDNAを抽出し、4種類のSSRマーカーを用いてSSR多型解析を行い、SSR遺伝子型(ジェネット)を決定した。
    2. 結果
    日平均気温積算値及び日降水量積算値と、子実体重量との関係について回帰分析を行った結果、いずれも有意な相関が認められなかった。一方、菌根層深度と子実体重量の間には、弱いが有意な相関が認められた。子実体重量、全長、菌根層深度間には、いずれも有意な相関が認められたことから、菌根層深度が子実体全長を介して重量に影響を及ぼしていると考えられた。ジェネット毎の子実体重量及び菌根層深度について分散分析を行った結果、いずれもp<0.001でジェネット間に有意差が認められた。以上の結果から、子実体重量は発生期の気象条件よりも遺伝的要因もしくは菌根層深度に影響を受けると考えられた。従って、子実体生産を目的とした人工接種に際しては、菌糸の分離源となった子実体のサイズを考慮して、接種に用いる系統を選択する必要が有ると思われた。
  • 泉 憲裕, 米倉 裕一
    セッションID: P2020
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヤマブドウジュースの地域毎の嗜好を明らかにすることを目的として、盛岡、東京、福岡で試飲アンケート調査を実施した。その結果、嗜好に地域差が見られたほか、品種による好みの違いが見られたことから、商品開発するうえでは嗜好性を考慮すべきと考えられた。
  • シロの各部位から得られたトビムシ個体数について
    沢畠 拓夫, 成松 眞樹
    セッションID: P2031
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
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