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T15 環境林・防災林の取り扱い方
  • 佐々木 尚三, 野口 正二, 足立 康成
    セッションID: L01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 田村 浩喜, 金子 智紀
    セッションID: L02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに
     秋田県では、海岸防災林のマツ枯れ復旧において、カシワ等による広葉樹造成を事業ベースで行っている。しかし、植栽で使用する苗木は、数量や規格に満足する状態ではない。数量の不足分については、気候がかけ離れた生産地から導入している実態である。植栽時の活着やその後の成長、将来的には本県の海岸部に自生する個体との交雑といった遺伝的な問題に重大な影響を及ぼしかねない。そこで、海岸林造成に使用した苗木の供給実態を明らかにし、問題点を整理して改善策を検討した。
    2.方法
     1998年から2002年までの5年間に秋田県が行った広葉樹造成事業および、秋田県森林技術センターがおこなった広葉樹造成試験を対象とした。使用した苗木の樹種、本数、規格について、台帳と設計書を調べた。苗木の生産地は、秋田地域振興局の事業を対象にして苗木生産者まで追跡調査をした。施工地は、砂丘および海岸段丘で、汀線からの距離は50mから450m、標高は5mから30mの範囲である。
    3.結果と考察
    1)広葉樹造成に使用した樹種
     5年間に秋田県が行った海岸広葉樹造成は、28件、延べ20haであった。使用した苗木は95,745本で、おおよその植栽密度は5,000本/haである。ケヤキ、エゾイタヤ、シナノキ、カシワの主要4種の合計は47,257本と50%を占める。
    2)苗木の生産地
     主要4樹種について苗木の生産地を調査した。対象は、1998から2002年に秋田地域振興局が行った事業である。ケヤキ、エゾイタヤ、カシワ、シナノキの本数は、30,238本である。生産地を見ると、県外種子および不明に区分したものが96%である。ケヤキは、県内の生産者も数万本単位で生産しているにもかかわらず、県内産は1,000本程度しか使用していない。県外育苗は埼玉県産、不明としたものは長野県産の可能性があった。エゾイタヤは、苗木として北海道から導入される場合が多いようであるが、種子を北海道から購入して、県内業者が生産しているものもあった。生産量が少ないのは、海岸以外の需要が少ないためと考えられる。カシワは、8割が北海道産の種子を購入して県内で育苗したものであった。これら3樹種については、苗木の生産技術に問題がないことから、十分な種子さえ供給されれば、県内産への切り替えが可能である。シナノキは発芽率が悪いことが知られているが、生産者からも播種の翌々年に発芽することが指摘され、量産できない理由にあげられている。県外に頼っても数量が確保できなかったようである。
    3)苗木の規格
     4樹種の規格は、樹高1mが大半である。苗木の形状は、1mに伸長した主軸のみで枝はない。樹高1mの苗木が育苗される密度は、1平方メートルに30本以上であり、このような形状でしか成長できない。砂丘地に植栽されたエゾイタヤやシナノキ、カシワは、主軸が枯れても地下部から萌芽を発生させて生存している。根茎の発達した苗木は、生産者と検討することにより、規格化が可能であろう。
    4.おわりに
     これまでのことから問題点を整理すると、県内産種子の確保が最も重要な課題であると考えた。安定した数量の種子を確保するには、採種園が最も効率的である。防災林造成に適した遺伝資源の確保にもつながる。今後の広葉樹造成を展望すると、県内の海岸に自生する樹種からの苗木生産は、体制の整備が急がれる。
  • 金子 智紀, 田村 浩喜
    セッションID: L03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに
    砂丘植栽された広葉樹の成長阻害要因として乾燥害がある。造成初期の高温少雨期に,主軸や展開した枝葉が萎凋して枯れ下がり,甚だしい場合は枯死に至る。このため日本海沿岸地方においては,潮風害とともに広葉樹林造成上の課題となっている。一般に乾燥害の被害回避策としては,マルチングや灌水,剪定などが有効とされているが(1),砂丘植栽での仕様や効果は明らかにされていない。そこで,本稿では乾燥害の軽減を目的に,植栽時に土壌混入による客土や剪定処理を行い,一成長期経過後の生育成績からその効果を検討した。
    2.方法
    試験地は秋田市向浜で,汀線からの距離150m,前砂丘の海側に位置する。樹種は選定試験で生存率の高かったケヤキ,エゾイタヤ,カシワ,シナノキの4種を選んだ(2)。各樹種3本1株の巣植えとし(1処理区当たり50株150本),クロマツとの列状混交で植栽した。試験処理はクロマツ植栽基準を共通仕様としたうえで,広葉樹については土壌混入区(1株当たり100リットル)、剪定区(地上0.5mの高さで切断),土壌混入及び剪定区(以下併用区という),対象区の4処理とし,植栽は2003年3月28日に実施した。調査は同年12月に行い,枯損本数,樹高,当年度伸長量等を測定した。
    3.結果と考察
    (1)気象
    植栽後の5月は無降雨日数が26日間となるなど記録的な高温乾燥状態が続いた。一方,7月及び8月は気温で1_から_2度低く,降水量では平年よりやや多めに推移し,春は高温乾燥,夏は寒冷多雨傾向であった。
    (2)生存率
    ケヤキの生存率は,併用区で最も高く9割を超え,土壌混入区及び剪定区で7割となり,対象区と比べて2倍以上となった。エゾイタヤでは併用区が9割,対象区では2割未満となってその差が顕著に表れた。また,土壌混入区が剪定区を上回った。カシワの生存率は併用区と土壌混入区が9割を超え,剪定区と対象区が7割となった。シナノキはいずれの処理区も9割を超え,ポット用土が生存率にプラスに作用したと考えられる。一方,混交植栽したクロマツは,本県の海岸防災林造成基準で植栽したものの,生存率は2割未満で大きく枯損した。当地域の2003年5_から_6月の気象は,クロマツの生存率に代表されるように植栽木にとって厳しかったといえる。この条件下で併用区は,広葉樹全ての樹種で9割以上の生存率を示し,対象区を上回った。土壌混入や選定は、乾燥害の回避に有効に作用したと考えられる。
    (3)樹高成長
    ケヤキは剪定を実施した区がプラス成長,剪定をしなかった区がマイナス成長となり,併用区が最大の成長量を示した。エゾイタヤでは全ての処理区がマイナス成長となった。植栽後の枝葉の展開が他の樹種よりも早く,乾燥による影響が大きかったものと判断される。カシワは,剪定区と対象区がマイナス成長となった。特に剪定区では地上部が枯れ,地下部から後生枝を発生させた個体が半数を占めたため,成長量を大きく減じる恰好となった。樹高成長では,カシワを除き全ての処理区が対象区を上回る結果となり,また併用区が最大の成長量を示した。このことから剪定や土壌混入は,乾燥害を軽減して成長に寄与したものと考えられる。
  • 小澤 創, 坂本 知己
    セッションID: L04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 海岸などに造成される防風林の多くは1m2あたり1本以上の高密度で植栽される。植栽後,高密度のまま推移し,海岸クロマツ林では形状比(樹高/胸高直径)が90_から_120に達する場合もある。こうした林分構造は強風による共倒れの危険性があり,間伐を行って林木の生育環境を改善させる必要があると指摘されている。 一方,林帯幅が狭い林分では防風機能が最も高い最適密度は林分を正面から見た面積に対する枝・葉・幹の面積割合(密閉度)が60%程度であることが知られている。植栽後,本数調整のされていない防風林の多くは密閉度が100%の過密な状態であると考えられる。このような林分の間伐は,林分を維持させるだけではなく,防風効果も向上させる可能性がある。 しかし,実際の防風林で行った間伐が防風効果に与える影響については未知な部分が多い。そのため,防風林の管理者は間伐したことで防災機能が低下することに対する不安から間伐がなされにくい状態にある。 そこで,本研究では内陸防風林を対象として,林帯を健全に保つための間伐が防風効果に与える影響を検証する。また,防風効果の変化をその林帯が保護する対象に与える影響の大きさで評価した。2.調査方法 調査対象林帯を福島県西郷村の社会福祉施設(北緯37度7.6分,東経140度7.5分,標高470 m)に設置(幅16m,長さ118m)した。林帯は冬期の北西風を防ぐために設置された内陸防風林である。林内はヒノキ,モミ,ゴヨウマツが16列で構成され,林縁部にはツゲが植栽されている。2003年現在,立木密度は2216本/ha,平均樹高は6.8mである。 間伐は55m×16mの方形区で行った。毎木調査後,伐採木の選定を行った。林縁部は間伐の対象とせず、枯損木や劣勢木を中心に選木した。 2002年2月に1回目の間伐(立木本数で20.5%),2003年1月に2回目の間伐(1,2回の合計で間伐前の38.5%)を行った。間伐前後に地上1.5mにおいて,10分間の平均風速と最大・最小瞬間風速を風下側の7地点及び風上側の基準点で,熱線式風速計と風向風速計を用いて測定した。 間伐後の防風効果の評価は防風効果評価図によった。この評価方法は保全対象に害を与えない風速(許容風速)を基準に,その風速以下の日数(快適日数)を林帯からの距離に対して表す方法である。 保全対象は人間の屋外活動とし,許容風速は人間の顔の高さ(1.5m)における瞬間風速5 m/sとした。また,防風範囲は林帯の風下側の端から風速が許容風速に回復する距離とした。快適日数は元々から快適である日数(この場所に林帯がなくても人間が屋外で快適に活動できる日数)69日と林帯の防風効果によって不快な風が快適な風に改善された日数(許容風速未満に抑えられる日数)の和とした。3.結果と考察 最大瞬間風速は間伐の前後で風速比は大きな変化はなかった(図-1)。平均風速の風速比は間伐前と比べて,1回目の間伐後は林帯から最も遠い90.0m以外の測点では大きくなった。2回目の間伐後は全7測定で間伐前より大きくなった。 これらの風速の変化を保全対象に与える影響で評価した。防風範囲は間伐前,1回目の間伐後,2回目の間伐後とも基準点の風速が大きくなるほど狭くなる傾向が見られた。防風範囲と基準点の最大瞬間風速の関係は負の傾きを持つ直線で回帰することができ,間伐前と1回目の間伐後は基準点の風速が約12 m/sで防風範囲は0 mとなり, 2回目の間伐後は約23 m/sで0mになると推定された。 快適日数と防風範囲の関係を防風効果評価図に整理した(図-2)。間伐前と1回目の間伐後は林帯からの距離にともなう快適日数の変化は同じ傾向を示した。したがって,林帯の風下で人間が快適に活動できる日数は変わっていないと考えられる。2回目の間伐後は間伐前や1回目の間伐後に比べて,林帯に近い位置では快適日数が増加し,林帯の風下で人間が快適に活動できる日数は多くなったと考えられる。 このことから,林帯の防風効果は間伐前に比べて1回目の間伐後は低下していないと評価され,2回目の間伐後は向上したと評価された。林帯を維持することを目的に行った間伐は保全対象にとって,防風効果は低下せず,むしろ向上したと評価された。
  • 相浦 英春
    セッションID: L05
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    各種の森林における積雪の移動量や、これによって生じる斜面雪圧などの測定を行い、積雪の移動を抑制する森林の機能について検討した。調査は富山県内の9林分を対象に、1996年から2001年の6年間行った。また、積雪深と気温についても観測を行った。その結果、高木林であっても立木の分布が均等でなく、わずかな凹地形に沿って、立木間隔が10m程度ある空間が斜面方向に連続した場所では、積雪の移動は大きく、雪崩や残雪の崩落を生じた。このことから、積雪の移動を抑制する森林は、立木の間隔を5mとすると、立木の分布がほぼ均等であった場合でも、最低400本/ha程度の密度が必要になると判断された。なお、斜面積雪が安定している森林における、一冬期間の積雪移動量は概ね1m以下であり、斜面積雪の安定性を判断する場合には、この値が基準になると考えられた。また、積雪の移動を抑制する森林を維持するには、個々の立木が斜面雪圧に耐えうる強度を持つ必要がある。その場合、立木の根元にかかるモーメントと立木の強度(根返りモーメント)の比較から樹種、標高、胸高直径に対応した森林の密度管理を行う必要が指摘された。
  • 佐藤 創, 鳥田 宏行, 神原 孝義, 大谷 健一
    セッションID: L06
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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T6 森林の分子生態学
  • 吉丸 博志, 勝木 俊雄, 島田 健一
    セッションID: L07
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     マツ科トウヒ属のヤツガタケトウヒは、絶滅危惧II類にリストされている。演者らによって詳細な分布状況が調査され、現在は八ヶ岳南部と南アルプス北西部のおよそ7カ所の地域に生存していることが知られている。 本研究では、マイクロサテライトマーカーを用いて、6カ所の自然集団と1カ所の人工林集団について遺伝的変異を調査し、各集団に保有される遺伝的多様性の量、近交係数、集団間の分化や遺伝的関係などを解析した。 西岳310林班および329林班人工林に保有される遺伝的多様性の量は、他集団と比べて明らかに低かった。遺伝的多様性が高いのは、白州町大平および長谷村戸台川周辺であり、西岳310林班の約2倍であった。近交係数はどの集団でもあまり大きくなく、特に近親交配が行われているとは思われなかった。遺伝距離に基づいて集団間の関係を示す系統樹を書くと、まず310林班の集団と329林班人工林の集団とが非常に近く、かつこの2集団が他のどの集団からも遠い関係にあった。
  • 河原 孝行, 松崎 智徳, 永光 輝義, 飯田 滋生
    セッションID: L08
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     コナラ属は北半球の温帯域に広く分布し、林業上も重要な樹種であることから、欧米でもさかんに生態遺伝学的研究が行なわれている。近年はSSR(Simple Sequence Repeat)またはマイクロサテライトと呼ばれる多型性が非常に高いマーカーがこれらの研究にさかんに用いられている(Dow and Ashley, 1996;Streff et al. 1998; Sork et al. 2002; Cottrell et al. 2003)。これらマーカーの多くがナラ類では種間を超えて利用可能であるため、遺伝的多様性や遺伝子流動解析の強力なツールとなっている。
    ミズナラQuercus mongolica var. crispulaは我が国の温帯上部森林の主要構成種であり、特に北海道では、低地から山麓にかけて広く分布し、天然林択伐を行なっている当地域の主要林業対象樹種である。北海道の中央部に位置する芦別周辺はミズナラの名産地であったが、過度の伐採により遺伝的劣化が危惧されている。
    本研究の目的はミズナラ天然林においてSSRマーカーを使って成木と実生の間の遺伝的多様性の程度を比較し、次世代への遺伝的多様性がどの程度継承されているかを明らかにすることにある。
    北海道上芦別国有林1306林班に400m×400mのプロットを1999年設定した。中心部の200m×200mにおいては胸高直径5cm以上の全木、周辺部についてはミズナラのみの毎木調査を行ない、位置を確定した。
    2000-2003年にかけて胸高直径5cm以上のミズナラ511全個体よりDNAを抽出した。また、2000年6月に中心部の20m×20mの地点より実生1144個体を採取し、DNAを抽出した。
     Steinkeller et al.(1997)により開発された4マーカー、Dow et al. (1995)により開発された1マーカー、Kawahara et al.(1997)により開発された1マーカーの合計6座のSSRマーカーを用いた。PCR増幅した産物をABI PRISM3100により各断片長を測定し遺伝子型を決定した。
    用いた6SSR遺伝子座の平均で対立遺伝子数は、成木で9.7個、実生で7.3個であった。ヘテロ接合度は観察値(Ho)、期待値(He)とも成木で高かった。これらのことは、成木で多様性が高く維持されている一方、実生では多様性が低いことを示している。ただし、実生では採取面積が非常に小さかったこと、当年生実生のみを扱ったことを考えると、対立遺伝子数で75%、期待されるヘテロ接合度(遺伝子多様度)で99.7%が保存されることを考えると、ミズナラにおいて比較的小面積でもある程度の面積からの実生を確保すれば遺伝的多様性は保存できる可能性を示している。
    近交係数は成木で0.221、実生で0.341であった。このことは実生レベルで近親交配により生じたものが多く、成木になるにつれて近親交配由来の個体が除去されていると考えられる。ミズナラ成木のこの値は、ヨーロッパのQ.robur(0.057-0.131)やQ. pet- raea(0.007-0.136)(Cottrell et al. 2003)よりも高く、近親交配がより高頻度で行なわれている可能性を示している。父性排斥率を計算したところ、平均で0.7432、すべての遺伝子座を用いた場合0.9998となり、親子の同定が高確率でできることが示唆された。
    中心部の40m×40mには成木が5本あるが、37個(26%)の実生について5本の中に親子候補と同定できるものがなかった。60m×60mには16本の成木があるが、11個(8%)の実生について親候補と同定できるものがなかった。この結果は重力散布だけでなくカケスやネズミなどによると考えられる長距離の堅果の散布が遺伝子流動に寄与していることを意味している。
  • 津田 吉晃, 井出 雄二
    セッションID: L09
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ウダイカンバ(Betula maximowicziana)は長命な先駆樹種であるため、極相優占種となることから(渡邊,1989)、本種は冷温帯の森林生態系の持続性および健全性に重要な役割をもつと考えられる。また、本種は有用な天然資源であるためその天然林は伐採の対象となっている。更に最近問題となっている広葉樹造林における産地を考慮しない種苗の流通の兆が本種でもみられ、遺伝子の撹乱が危惧される。これらのことから自然に近い状態での本種の遺伝的多様性の把握は今後不可能になる可能性が高い。一方、ウダイカンバは人為的撹乱によっても更新する(大住,2003,長谷川・平,2000)。多雪地のスギ不成績造林地では、ウダイカンバのような侵入広葉樹は公益的機能の回復だけでなく資源として重要な役割を果たすと考えられる(長谷川・平,2000)。このような場面においても、健全な更新のためにはその母集団の遺伝的多様性の維持が必要不可欠である。そこで本研究では、両性遺伝する核DNAのSSRマーカーおよび母性遺伝する葉緑体DNAのPCR_-_RFLPマーカーを用いて、ウダイカンバが各地域で維持している遺伝的多様性およびその地理的な関係を把握することを目的とした。2、材料および方法SSRマーカーの分析には、ウダイカンバの分布域を広く網羅するよう岐阜県以東の23集団から各24_-_71個体のサンプルを採取した。DNAはDNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用いて枝の形成層から抽出した。用いたプライマーセットは、ウダイカンバで開発された7個(Ogyu et al,2003)およびシラカンバで開発された4個(Wu et al.,2002)の11個である。集団内の遺伝的多様性を示す統計量にはヘテロ接合度の観察値(HO)および期待値(HE)、近交係数(FIS)、Allelic richnessを算出した。集団間の遺伝的変異の統計量としては、集団間の遺伝的分化程度を示すFST (Weir and Cockerham, 1984)を算出した。またNeiの標準遺伝距離D(1972)を用いてデンドログラムを作成した。葉緑体DNAのPCR_-_RFLPマーカーの分析には、Palmē et al.(2003, 2004)によりヨーロッパのBetulaで遺伝的変異の検出が報告され、ウダイカンバでも遺伝的変異が検出できることを確認したユニバーサルプライマーペアCDおよびAS (Demesure et al.,1995)と制限酵素TaqIおよびHinfIの組合せ、CD-TaqI、CD-HinfIおよびAS-TaqIを用いた。供試個体は1集団あたりランダムに選んだ16個体とした。集団間の遺伝的変異の統計量としてハプロタイプ頻度からFSTを算出した。3、結果および考察集団内の遺伝的多様性は集団間で大きな違いはみられなかったが、北海道の集団のAllelic richnessは、本州集団のそれに比べて低い傾向があったことから、北海道集団は分布変遷の際にボトルネック効果を受けたと考えられる。全ての遺伝子座においてFISの0からの偏りは有意でなかったことから、ウダイカンバ集団は任意交配集団とみなせた。FSTは0.062であり、ウダイカンバの核DNAからみた集団の遺伝的分化程度は比較的低いことが示唆された。Neiの標準遺伝距離Dによるデンドログラムは、福島県葛尾集団を境にその南北で大きく2つのクレードを形成した。PCR-RFLPマーカーによる分析からは3つのハプロタイプを得た。すなわち宮城県鳴子集団以南の集団がもつハプロタイプA、それより北方の集団がもつハプロタイプB、および鳴子集団の1個体でのみ検出された稀なハプロタイプCである。岩手県岩泉集団ではハプロタイプA(1個体)およびB(15個体)がともに検出された。それ以外の集団では集団内変異は検出されなかった。FSTは0.979であり、核SSRマーカーで得られたそれに比べ、ウダイカンバ集団は葉緑体DNAレベルでは非常に分化していることがわかった。これについては最終氷河期以降、東北地方中部以南と東北地方北部_から_北海道では、それぞれ全く異なる創始者集団が分布拡大したことによると考えられる。またウダイカンバの南方型と北方型の堺が、核SSRマーカーと葉緑体PCR_-_RFLPマーカーで異なることについては、ウダイカンバは風媒樹種であることから最終氷期以降に東北地方中部周辺において南方型集団と北方型集団間で、種子による遺伝子流動はないが、花粉による遺伝子流動は行なわれていたことが考えられる。このように本研究では、核SSRマーカーおよび葉緑体PCR_-_RFLPマーカーにより、ウダイカンバの遺伝的多様性とその地理的関係について多角的に情報を得ることができた。また特に葉緑体DNAでは、集団間の遺伝的分化度が非常に高いことから、種苗の流通には十分な注意が必要なことも実証された。
  • 青葉 登志子, 周 志華, 練 春蘭, 宝月 岱造
    セッションID: L10
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 菊池 研介, 松下 範久, 鈴木 和夫
    セッションID: L11
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     地掻きや除伐といった林内施業が外生菌根菌の子実体発生量に及ぼす影響については正負両方の効果が報告されていることから、アカマツ天然林内に設置した試験地に優占して発生したアミタケを対象に、林内施業後の子実体の発生状況とジェネット分布の経年変化を調査し、施業がアミタケの発生動態に及ぼす影響について検討をおこなってきた。 遺伝構造の解析方法には、ISSR多型解析法、および、菌類の持つ体細胞不和合性(somatic incompatibility)を利用した対峙培養の2種類を用いてきたが、アミタケについても数種類のSSRマーカーを開発することができたことから、本研究では、新たに開発したSSRマーカーを用い、試験地に発生したアミタケについてジェネットの再解析を行い、上記2手法による解析結果との比較を併せて行うことを目的とした。 その結果、いずれの年、いずれの処理区においても、ヘテロ接合度は観察値の方が期待値よりも高く、過去において胞子散布による繁殖を盛んに行っていたことを示唆するものと考えられた。その一方で、いずれの処理区においても、毎年発生位置を大きく変えながらも、同一の遺伝子型の子実体が4年にわたって優占して発生していたことから、菌糸の成長によって土中に広く分布した菌糸マット中から毎年ランダムに子実体発生を行っている可能性も考えられ、今後、地下部におけるアミタケの菌根とそのジェネット分布についての調査を行っていく必要があるものと考えられた。 調査期間を通じて大きく優占していた各ジェネットについては、3つの手法でほぼ完全に一致する結果が得られた。しかし、対峙培養やISSR多型解析で同一のジェネットと判定された菌株でも、本研究での解析結果では異なるジェネットに属すると判定されるものも少数ながら存在した。それらは、Sb-CA1, CA4の各遺伝子座でホモ接合となっている場合が多く、ISSR多型が優性マーカーであることに由来する識別能力の限界である可能性が考えられた。
  • 齋藤 大輔, 井鷺 裕司, 川口 英之, 館野 隆之輔, 中越 信和
    セッションID: L12
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    渓畔林を構成するトチノキは虫媒・重力散布の高木種である.多数の雄花と少数の両性花からなる花序をつけ,送粉者としてマルハナバチが知られている.重力散布種の中でも極めて大きな種子は,地表に落下した後,小動物によって二次散布される.しかしその散布は種子サイズが極めて大きい事による制限を受ける.したがって,トチノキ個体群において送粉と種子散布による遺伝子流動のパターンは異なると予想される.本研究ではマイクロサテライトマーカーを用いて,トチノキ個体群における送粉と種子散布による遺伝子流動のパターンを解析し,トチノキ個体群の維持機構について考察する.調査地は複数の谷が分岐する京都大学芦生研究林上谷上流域(110ha)とした.調査地内の胸高直径 20cm以上の全277個体を親候補として、当年生実生164個体、胸高直径20cm未満の稚樹221個体を対象に親子解析を行った.実生については葉と地中に残っていた種子から採取した種皮を用いて親子解析を行った.種皮は種子親由来の組織であるため,種皮の遺伝子型を決定することで,実生の種子親を特定することができ,従来の親子解析ではわからなかった種子散布距離を明らかにした.実生や稚樹の親個体の特性と生活史段階の影響を検討するため,親子解析の結果から親個体の胸高直径,花粉散布距離,両親間血縁度を求め,実生親,稚樹親,胸高直径20cm以上の全個体で比較するとともに,各谷毎に実生集団と稚樹集団の血縁度を比較した.当年生実生の親子解析の結果,実生の種子親は同じ谷内に限定されていたが,花粉散布は尾根を越えるものが確認された.これは、トチノキの花粉と種子の散布特性の違いを強く反映した結果である.稚樹の親子解析の結果,両親間の距離から推定した稚樹の花粉散布距離は,実生の花粉散布距離よりも有意に大きかった.実生や稚樹の親個体の胸高直径は,大きなサイズクラスに偏っていた.これは大きな個体ほど,繁殖に投資する資源量が多くなり,適応度が高まるためと考えられる. 実生から稚樹へと生活史段階が進むにつれて血縁度が低くなる傾向が見られたことから,トチノキでは生活史を通じた近交弱勢があると示唆される.また,生活史段階が進むにつれて,実生および稚樹の両親間の血縁度が低下する傾向や,花粉散布距離が長くなる傾向がみられた.本調査地のトチノキ個体群では,遺伝構造が発達することが報告されており(齋藤ら 2003),これらの傾向は,近交弱勢によって血縁度の低いより遠くの個体間で交配してできた実生が生残したために生じたと考えられる.以上からトチノキ個体群の遺伝子流動は,花粉と種子の散布特性を強く反映し,生活史を通して,個体群の遺伝構造と近交弱勢の影響を受けると考えられる.
  • 中西 敦史, 戸丸 信弘, 吉丸 博志, 河原 孝行, 真鍋 徹, 山本 進一
    セッションID: L13
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    これまでの研究ではマイクロサテライトを用いた父性解析により、4 haプロット内のウラジロガシ成木の1年間の交配について解析したが、その結果、全花粉流動の内54%がプロット外からによるものであり、半分以上の交配について解析できなかった。それらの交配について明らかにするにはさらに大面積における解析が必要である。また交配特性は年毎の開花、気象等に影響されると考えられるため、年毎の交配特性の変動を知るには複数年の種子の解析が必要である。本研究では、ウラジロガシの花粉流動を大面積でかつ複数年に渡って追跡し、照葉樹老齢林におけるウラジロガシの交配特性を、より詳しく明らかにすることを目的とした。 調査地は長崎県対馬下島の龍良山(558.5 m)のふもとに位置し、そこには約100 haの照葉樹林が原生状態を保たれている。1990年に龍良山の北向きの斜面に設置された4 haプロットを本研究の調査地とした。1999年10月に4 haプロット内に生存していたウラジロガシの全成木45個体の新葉を採取した。また1999年_から_2003年にかけて4haプロット内の数本の成木の樹冠下において種子を採取した。5組のプライマーを用いて、得られた種子と種子親、その他の成木の遺伝子型を基に父性解析を行なった。この結果から、プロット外からの花粉流動の割合、プロット内の花粉散布距離、また種子親からの相対位置、血縁度等が成木の父性繁殖成功度に与える影響を解析した。本学術講演集原稿では現時点での父性解析の結果とその考察を述べる。父性解析の結果、花粉による遺伝子流動のうち54 %がプロット外からの花粉によるものであった。またプロット内における交配距離の平均は64.9 mであった。これらの結果から他のコナラ亜属における結果と同様に、照葉樹老齢林におけるウラジロガシにおいても高頻度の長距離花粉散布が効果的に起きていると考えられた。プロット内で起きた交配を種子親毎に解析した結果、種子親1023と1390における交配距離の平均はランダムな種子親と成木との距離の平均より有意に小さく(無作為化検定、P < 0.005)、交配距離と交配頻度の間には有意な負の相関があった(スピアマンの順位相関を検定、P < 0.05, P < 0.01)。これら2個体の種子親に対しては、種子親からの距離が近いほど成木の父性繁殖成功度が大きくなることが明らかになった。しかし種子親2548の交配距離の平均は、その種子親とランダムな成木との距離の平均より有意に大きく(P < 0.01)、交配距離と交配頻度の間には有意な正の相関があった(P < 0.05)。さらに2548のプロット内における交配距離の平均は最大(96.3 m)であり、またこの種子親は4 haプロットのほぼ中央に位置するにも関わらず、プロット外からの花粉流動の割合が最大であった。2548は選択的機構や開花フェノロジーの影響を受け、より遠くの花粉を受け取っている可能性が考えられる。1023、1390において交配方位の分布は成木からそれらの種子親への方位(潜在的方位)の分布から有意にずれていた(Kolmogrov-Smirnov test、P < 0.05, P < 0.05)。これらの結果は風媒の特徴を反映しており、風向きが父性繁殖成功度に強く影響していると考えられる。種子親1845は受け取る花粉プールの遺伝的組成が他の3種子親と有意に異なっていた(AMOVA、P < 0.05)。1845はある1個体の成木と高頻度(59.1%)に交配しており、この偏った交配がその遺伝的組成の違いを生み出していた。これらのことから1845とその1個体の成木の開花フェノロジーがよく同調していたことが原因の一つと考えられる。以上のようにマイクロサテライトを用いた父性解析により種子親毎に異なる花粉流動を検出することができた。また花粉流動は風向き、開花フェノロジー等の物理的、生物的要因に強く影響を受けていると考えられた。 これまでの研究では1年分の交配についてのみしか解析されていない。しかしコナラ属では年毎に開花フェノロジーや種子生産が変動することが知られている。それらの影響も考慮するには複数年における種子の解析が必要である。2000年の4 haプロットにおける花粉流動を、2個体の種子親について父性解析を行なった。交配距離等のいくつかの交配特性がいずれも1999年における結果と異なっていた。これは、年毎の花粉流動の変動と限られたサンプル数によるばらつきが原因として考えられる。これまでの研究ではプロット外からの半分以上の花粉流動について解析できなかった。より長距離の花粉流動を明らかにする為にはより大面積における解析が必要である。現在、さらに複数年の種子についてさらに多くの種子親を用い、また解析対象範囲を9 haに広げて解析中である。
  • 練 春蘭, 宮下 直哉, 大石 隆也, 青葉 登志子, 宝月 岱造
    セッションID: L14
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的北米から日本に導入されたニセアカシアは繁殖力が強く、その分布は、現在では全国に広がっている。ニセアカシアは本来外来種であるため、各所で在来の植物群落が破壊されるなどの問題も生じている。そこで本研究では、ニセアカシアの適切な管理手法を提案することを目指して、SSRマーカーによる多摩川河川敷のニセアカシア個体群の繁殖特性解析を行った。2. 材料と方法試料採取:_丸1_立日橋から多摩大橋間の約3 kmの多摩川河川敷に調査地を設定した。調査地にある164のニセアカシアのパッチごとにラメットを一本選び、その葉を採取した。_丸2_JR中央線附近の立川市側550 ×120 mと日野市側に60×50 mの小調査プロットを設定し、調査地内にある8パッチを構成する全てのニセアカシアのラメット(n=640)位置を測定し、それぞれから葉を採取した。_丸3__丸2_で決定されたジェネット五つからラメットを一本ずつ選び、種子を二年間に渡って採取した。更に、別のジェネット一つを選び、ジェネット内の異なる位置にあるラメット五本からも同様に種子を二年間採取した(29_から_69個/本、総計933個)。解析方法:採取した葉はシリカゲルで乾燥させた。若い種子からは、種皮を剥き、胚軸部を切り出した。胚軸部は-30℃で保存した。乾燥した葉及び-30℃で保存した胚軸部は改良したCTAB法によりDNAを抽出した。これらについて、既に開発した七つのSSRマーカー(Rops02, Rops05, Rops06, Rops08, Rops10, Rops16, Rops18)を用いて多型解析を行った。花粉親を父親排除法により推定した。3. 結果と考察 1)164パッチのニセアカシアについて遺伝子型を調べた結果、全てのパッチが全て異なった遺伝子型を持っていた。このことは、これらのパッチの由来は、流木などからの栄養繁殖によるものではなく、種子繁殖によることを示唆している。対立遺伝子の共有を調べたところ、56パッチのニセアカシアの間に親子関係の可能性があった。親子関係の可能性がある8パッチは固まって分布していた。これらのパッチは、母樹の周りの種子散布に由来するのかもしれない。2)小調査プロットの8パッチでジェネットを決定したところ、同一ジェネットのラメットは、他のジェネットのラメットと混ざり合うことなく固まって分布していた。立川市側のプロットでは、23ジェネットが同定された。ジェネットあたりの平均ラメット数は23で、最大は71であった。ジェネットサイズ(ラメット間の最大距離)の平均は21.2mで、最大54.3mであった。日野市側のプロットでは、21ジェネットが同定された。ジェネットサイズは立川市側の調査地と比べ著しく小さく、平均ラメット数と平均サイズはそれぞれ5.6mと9.1mであった。これらのことから、多摩川河川敷では、ニセアカシアはまず種子から定着し、成長した個体は、根萌芽による栄養繁殖によってパッチを形成し、分布面積を拡大することが推定された。 3)ニセアカシア種子の平均自家受精率は0.24であり、年度による変動は少なかった。また、同一ジェネット内のラメット間では、自家受精率は変動が少なかったが、ジェネット間での変動は大きかった。例えば、ジェネット6-1と3-2の自家受精率はそれぞれ0.83と0.64と、比較的大きかったが、ジェネット2、7-4、7-5の自家受精率はそれぞれ0.06、0と0.03と小さかった。また、自家受精率とジェネットサイズ(ラメット数)とは相関がなく、単純に同一ジェネットの花の量で決まっているのではないことが示唆された。それぞれのジェネットで、自家不和合性の強さが異なっているのかもしれない。  4)花粉親解析の結果、32%の種子の花粉親は試験地内に見つからなかった。花粉親が同定された408個の種子(自殖種子を除く)を解析した結果、その内の69%の花粉親が、隣接パッチにあるジェネットと推定された。また、推定した全花粉親のうち、65%を特定の五つのジェネットが占めていた。花粉親になる割合は、ジェネットサイズと相関していないことから、単に花粉生産量によるのではないことが予想される。5)ラメット毎に、種子の花粉親構成が二年間あまり変わらないものと大きく変わるものの両方のパターンが見られた。また、同一のジェネットでも同様であった。ニセアカシアの花粉散布に影響を与える要因としては昆虫の行動や開花フェノロジーなどが考えられるので、今後検討していきたい。
  • 佐藤 匠, 井鷺 裕司, 崎尾 均, 大住 克博, 後藤 晋
    セッションID: L15
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. 目的
    渓畔林を構成するカツラは (Cercidiphyllum japonicum) は、風媒・風散布の繁殖様式を示す雌雄異株の高木で、純林を形成することはないが低密度で安定して存在している。繁殖個体の多くが多数の萌芽幹を有し、長期間の個体維持が可能であるが、実生の定着は鉱物質土壌の裸地に限られており、個体群の更新は稀に起こる大規模な斜面崩壊などの撹乱を利用したものだと考えられている。カツラ個体群にはこれらの特徴的な種特性を反映した遺伝構造の形成が予想される。
      そこで本研究では、カツラ個体群の遺伝構造と、その形成過程である遺伝子流動を明らかにすることを目的とし、マイクロサテライトマーカーを用いて、(1)当年生実生の親子分析、(2)局所個体群における遺伝構造、(3)複数の個体群を包含する地理的スケールの遺伝構造について解析をおこなった。

    2. 方法
    (1) 局所個体群における遺伝子流動を明らかするために、森林総研カヌマ沢渓畔林試験地を含む約20haの成熟した渓畔林を調査地として設定した。調査地内の雌株19個体、雄株30個体から、DNA抽出用のサンプルとして葉を採取した。また、7個体の雌株を選び、その樹冠下に発芽した当年性実生を各地点につき約30個体採取した。それらの遺伝子型を5ペアのマイクロサテライトマーカーを用いて決定し、当年生実生の花粉親および種子親を推定した。
    (2) 局所個体群内の遺伝構造を明らかにするために、カヌマ沢試験地内の全繁殖個体ペアの血縁度と個体間距離の相関について解析した。
    (3) 地理的スケールの遺伝構造を明らかにするために、北海道から九州までの6集団(北海道音威子府村、北海道富良野市、岩手県胆沢町、埼玉県大滝村、広島県廿日市市、大分県九重町)から各集団につき30_から_150個体のサンプルを採取した。集団の対立遺伝子頻度から遺伝的距離を算出し、集団間の遺伝的距離と地理的距離の相関について解析した。

    3. 結果
    (1) カツラは雌雄異株性であるため、マイクロサテライト5遺伝子座を用いた解析で効率的に種子親と花粉親を推定することができた。その結果、花粉流動は近接個体間に制限されておらず、約20haの調査地内で活発に起きていることが明らかとなった。また、尾根を越える花粉流動と種子散布が確認された。実生は特定の雌株樹冠下から採取したものであるが、採取地点の雌株以外からの種子散布に由来する実生も存在した。
    (2) 局所個体群内の遺伝構造を解析した結果、個体間距離と血縁度の間に有意な負の相関はなく、調査地のカツラ個体群には遺伝構造が存在しないことが明らかとなった(図1)。
    (3) 全国6集団間の遺伝的距離と地理的距離には有意な正の相関があり、地理的スケールにおける遺伝構造の存在が明らかとなった(図2)。しかしFstの値は非常に小さく、集団全体の分化の程度は低いものであった.

    4. 考察
     親子分析により、カツラの花粉流動が風媒という花粉散布特性に対応して、20haの調査地においてほぼランダムに起きていることが示された。このような広範囲の花粉流動は低い個体密度において繁殖を成功させるうえで重要である。また、数百メートル程度の近距離に遺伝構造が存在しないことから、調査地の個体群の更新過程において、セーフサイトに複数の母樹からの種子散布が重複したと考えることができる。また、日本列島を縦断する地理的スケールにおける低い遺伝的分化は、広範囲の遺伝子流動の効果に加え、雌雄異株性であるために完全に他殖であること、また、萌芽による長期間の個体維持によって1世代の時間が長いことなどを反映したものと考えられる。
  • 陶山 佳久, 丸山 薫, 清和 研二, 高橋 誠, 富田 瑞樹, 高橋 淳子, 上野 直人
    セッションID: L16
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的
     近年、多型性の高い分子マーカーを用いることによって植物の自然集団における親子関係の特定が技術的に可能になった。正確な親子特定に基づいた多数のデータを集積すれば、集団内における遺伝子流動様式だけでなく、各親個体の繁殖成功度を明らかにすることができる。そこで本研究ではマイクロサテライトマーカーを用いてブナ当年生実生の親個体を正確に特定するために、分析手法を工夫した新しいアプローチを行った。すなわち、まず実生に付着した母方由来の組織(果皮)の遺伝子型を調べることによって種子親を正確に特定し、次に子葉の遺伝子型を調べて花粉親を特定する2段階の親子解析を行った。この手法によって親個体の特定精度が向上するだけでなく、種子親と花粉親を区別して特定することができるため、種子・花粉の散布パターン、各親個体の雄・雌としての繁殖成功度をそれぞれ区別して検出することができる。本研究ではブナ天然林における繁殖・更新様式の実態を明らかにすることを目的とし、ブナ当年生実生の果皮と子葉のDNAを用いた2段階の親子解析を行い、ブナ成木の雄・雌機能の比較に注目して解析を行った。
    2.方法
     宮城県栗駒山麓のブナ天然林に90m×90mの調査区を設定し、その中を5m×5mのサブプロットに分割した。さらに各サブプロット内に1m×1mの実生調査区を設定し(合計324個)、2001年春に実生調査区内に発生したすべてのブナ当年生実生に標識を付けて個体群動態調査の対象とした。さらに同じサブプロット内からその1割に相当する数の当年生実生を果皮ごと採取し、親子解析用試料とした。
     まず実生に付着した果皮を採取してDNAを抽出し、3つのマイクロサテライト遺伝子座について遺伝子型を調べ、調査区およびその周辺領域内(150m×150m)の全成木(255個体)の中から遺伝子型が一致するものを探索した。種子親が特定された実生についてはさらにそれらの子葉からDNAを抽出し、6つのマイクロサテライト遺伝子座について遺伝子型を調べ、父性解析によって花粉親を特定した。
    3.結果
     2001年春に324個の各実生調査区内に発生した当年生実生数は0_から_237個体の範囲であり、合計13,917個体であった(43個体/_m2_)。サブプロットごとにその約1割にあたる合計1,406個体の当年生実生を採取し、親子解析用試料とした。まずそれらの果皮からDNAを抽出して遺伝子型を調べ、種子親候補木の遺伝子型と比較した。なお、対象とした3遺伝子座の分析によって種子親候補木はすべて異なる遺伝子型をもつ個体として識別が可能であった。これまでに解析を終えた範囲では合計1,013個体の実生について種子親が特定された。さらに、調査区中心部(50m×50m)の成木が種子親であると判定された実生288個体については、子葉からDNAを抽出して父性解析を行い、169個体の実生について花粉親を特定することができた。
     種子散布距離の平均値は11mで、その約9割が種子親から20m以内の近距離に散布されたものだった。それに対して花粉散布の平均値は33m以上であり、種子散布に比べて明らかに大きな値を示した。当年生実生群に対する種子親・花粉親としての貢献度は、いずれも個体サイズ(胸高直径)の大きな個体ほど大きく、その効果は種子親としての貢献度の方が顕著だった。個体ごとに雄・雌それぞれの貢献度を比較すると、大きな個体ほどより雌としての貢献度の割合が大きい傾向があることがわかった。すなわち、個体サイズと雌度(雄および雌としての貢献度に対する雌としての貢献度の割合)の間には有意な正の相関が認められた。
  • 上谷 浩一, 原田 光, 舘田 英典
    セッションID: L17
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    フタバガキ科は,東南アジア低地熱帯林で優占する林冠構成種である.本研究では,DNA変異量と系統関係を推定するために,Shorea属とその近縁属,57種・88個体について,ホスフォグルコースイソメラーゼ(PgiC)遺伝子の部分塩基配列(約1250塩基)を決定した.系統解析の結果,ハプロタイプは大きく6クレードに分けられた.サイト当たりの塩基置換数はクレード内で0.008_から_0.015,クレード間で0.025_から_0.055であった.得られた遺伝子系統樹は,以前研究された葉緑体遺伝子系統樹とほぼ一致したが,葉緑体系統樹でHopeaの姉妹群であったNeobalanocarpusは,PgiC遺伝子系統樹ではWhite Merantiの中に含まれた.この結果は,NeobalanocarpusHopeaShoreaの雑種由来であることを示唆する.Shorea属内のYellow Meranti, Balau, Red Merantiの各グループに属する種は,系統樹上でもそれぞれグループを作った.葉緑体では支持されなかったRed Merantiの単系統性は,PgiC系統樹において高い確率で支持された.しかし,Red Meranti内の5セクションの単系統性は支持されず,同一種内のハプロタイプが近縁種間で入れ子になる例や,遠く離れた位置にくる例が見られた.これは,急速な種分化によって維持されている祖先多型や種間交雑が原因であると考えられる.本研究で,PgiC遺伝子配列が葉緑体遺伝子より高い変異性を示し,属内の系統解析に有効であることが示された.
  • 組換え・自然淘汰の効果
    角 友之, 藤本 明洋, 牛尾 裕, 吉丸 博志, 津村 義彦, 舘田 英典
    セッションID: L18
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    塩基配列レベルで種内および近縁種間の変異を調べることは,生物の遺伝的変異の維持機構を理解する上で有効である.特に他のマーカーを用いては検出困難であった個々の遺伝子座における組換えや自然淘汰の効果についての知見が得られる.しかし,現在まで多数の遺伝子座における塩基多型の研究は,植物ではシロイヌナズナやトウモロコシなどに限られている.針葉樹などの木本種は世代時間や交配様式などの生活史がシロイヌナズナやトウモロコシと大きく異なるため塩基多型の比較研究の良い候補であるが,研究例は少ない.スギは,胚乳からハプロイドDNAが抽出できる点・ESTs(Expressed Sequence Tags)の情報が蓄積されている点など技術的に利点が多い.本研究では,スギ(Cryptomeria japonica)の精英樹48個体と近縁種ヌマスギ(Taxodium distichum)1個体をサンプルとして, 12遺伝子座について種内・種間変異を調べた(一部の遺伝子座についてはスギ天然林32個体・ヌマスギ16個体のサンプルについても調べた).
    スギの塩基多様度(サイレントサイト)は,12遺伝子座の平均で0.00443だった.この値と,突然変異率の推定値から,スギの有効集団サイズ(N)は約10,000と推定された. この値はシロイヌナズナやトウモロコシなどの他の植物種と比べて小さい. したがって,遺伝的浮動の効果が強いと考えられる.
    遺伝子内組換えの1つの指標であるMinimum number of recombination events (RM)の値は0_から_6だった.この値は自殖性のため遺伝子内組換えが少ないと考えられるシロイヌナズナよりも小さかった.また,遺伝子座内の多型サイト間に強い連鎖不平衡がみられた. これらの結果は,スギでは集団組換え率(4Nr)の値が小さいことを示唆している(rは世代当たりの隣接サイト間の組換え率).実際,塩基多様度から推定される有効集団サイズ(N)は他の植物種よりも小さかった.また,ゲノムサイズと連鎖地図の情報より,組換え率(r)も低いと考えられる.低い集団組換え率(4Nr)はスギの遺伝的変異の維持機構の重要な特徴である.
    自然淘汰が効果的に働くためには有効集団サイズ(N)と淘汰係数(s)の積(Ns)が1より大きい必要がある. スギでは,有効集団サイズ(N)が小さいことを考えると,自然淘汰の効果は比較的弱いと考えられる.しかし,複数の遺伝子座で自然淘汰が働いている可能性が示唆された.Acl5HemAの2遺伝子座では,塩基多様度が非常に低かった.この低い塩基多様度は,最近生じた適応的変異の急速な固定によるSelective sweepによると考えられる.また,FerrCryj2の2遺伝子座では種間のアミノ酸置換の一部は適応的な置換であることが示唆される.逆にLcybNCED遺伝子座のアミノ酸多型の一部は弱有害変異である可能性が示唆される. 以上のことから,自然淘汰もスギの遺伝的変異の維持機構として重要であると考えられる.
  • 自家不和合性
    加藤 珠理, 岩田 洋佳 , 津村 義彦, 向井 譲
    セッションID: L19
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    自家不和合性(Self-incompatibility)は自家受精を防ぐ性質で、遺伝的多様性の維持に寄与している。自家不和合性はS遺伝子座上の対立遺伝子(S対立遺伝子)によって制御され、集団中のS対立遺伝子の数が減少すると、同じS対立遺伝子を保持する個体同士の交配が増え、種子の稔性は低下する。このため、遺伝子流動が極端に制限される島嶼集団では1個体のみでも繁殖可能な自家和合性の植物種が多いことが指摘されている。しかしながら、本研究の供試樹種であるオオシマザクラ(Prunus lannesiana var. speciosa)は自家不和合性であるにも関わらず、伊豆諸島を主な分布域としている。本種がS遺伝子座の遺伝的変異をどの程度、有しているかは非常に興味深いことである。そこで、本研究では各島のオオシマザクラの集団におけるS遺伝子座の遺伝的変異を調べることにした。
    伊豆半島および、伊豆諸島の大島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島の計7箇所に分布するオオシマザクラ集団を対象とした(八丈島では島内における比較を行うため、3集団を対象とした)。オオシマザクラを含むバラ科の自家不和合性にはS-RNaseが関与し、S-RNaseのDNA多型に基づいて、個体のS遺伝子型が推定できる。そこで、分析個体から採集した葉芽組織よりDNAを抽出し、オオシマザクラよりクローニングしたS-RNaseのcDNA断片をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行い、S-RNaseの制限酵素断片長多型(RFLP)を検出した。制限酵素はBglII、DraI、EcoRV、MspIを用い、検出したRFLPパターンに基づいて、S遺伝子型を決定した。
    検出したRFLPパターンは非常に複雑であったが、各個体のバンドパターンを比較することで、全ての個体のS遺伝子型を決定できた。決定したS遺伝子型は全てヘテロ接合を呈しており、S遺伝子座の対立遺伝子がホモ接合しない原則に従っていた。421個体、分析して、75個のS対立遺伝子が見つかったが、このうち、伊豆半島のみで観察されたS対立遺伝子は12個もあった。伊豆半島にはオオシマザクラ以外の種類のサクラも分布しているので、伊豆半島のみで観察されたS対立遺伝子はオオシマザクラ以外のサクラに由来する可能性がある。このため、種レベルでオオシマザクラが保持するS対立遺伝子は伊豆半島のみで観察されたS対立遺伝子を除いた63個であると考えたほうがよいだろう。この63個のS対立遺伝子のうち、多くの島(5または6箇所の島)で共通のS対立遺伝子は17個で、全体の26.98 (17/63)%であった。一方、一部の島(1または2箇所の島)にしか存在しないS対立遺伝子は26個もあり、全体の41.27 (26/63)%を占めていた。このように種レベルで保持されるS対立遺伝子の多くは一部の島にしか存在せず、これらのS対立遺伝子は各島に分布するオオシマザクラを特徴づけているものと思われる。
    各島における対立遺伝子数は伊豆半島(50.73)が一番多く、本州から最も離れた八丈島(18.08)では最も少なかった。各島の対立遺伝子数は本州から離れた島ほど、少なく、本州からの距離の間には負の相関が見られた。サクラは虫媒花で、種子は鳥によって散布される。オオシマザクラの島間の遺伝子流動は専ら鳥による種子散布に依存しているものと思われ、本州から離れた島ほど、鳥により種子が持ち込まれる頻度は減少し、遺伝子流動は制限されると考えられる。このような遺伝子流動の制限は各島に保持されるS対立遺伝子の数として反映されたものと思われる。また、3個のS対立遺伝子が存在すれば、自家不和合性が機能するが、3個のS対立遺伝子が存在する集団の本州からの距離は295kmであると推定された。本州から260kmの位置に青ヶ島があるが、青ヶ島にオオシマザクラが分布すれば、保持され得るS対立遺伝子は8個である。
  • 遺伝的変異と地理的分布
    原田 光, Le Huong Giang, Geada Lopetz Gretel, Phan Nguyen Hong, Mai Sy Tu ...
    セッションID: L20
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • Islam Md.Sajedul, 練 春蘭, 亀山 統一, 呉 へい雲, 宝月 岱造
    セッションID: L21
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ヤエヤマヒルギの核SSRマーカーを6つ,葉緑体SSRマーカーを3つ開発した。先島諸島の西表島,石垣島,宮古島の19集団から計375個体をサンプリングし,解析に用いた。核SSRの多型は非常に低く,HEも低かった。逆にFSTは非常に高い値を示し,集団間の分化が進んでいることが明らかになった。
    葉緑体SSRマーカーによって全ての個体は2ハプロタイプに分類され,集団ごとのハプロタイプ頻度の様子から,種子散布には地理的な要因が大きく影響していると考えられた。
  • 戸丸 信弘, サンホセ ラーマ, 内田 煌二, 山口 みどり, 大庭 喜八郎
    セッションID: L22
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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ポスター発表
生態
  • 菊地 賢, 鈴木 和次郎, 坂 奈穂子, 金指 あや子, 吉丸 博志
    セッションID: P1001
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 宮下 直哉, 練 春蘭, 宝月 岱造
    セッションID: P1002
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに
     富士山は我が国の最高峰であり、数多くの噴火を繰り返してきたことが知られている。その亜高山域に生育するミヤマヤナギ(Salix reinii Franch. et Savat)は噴火によって生じた裸地の一次遷移系列において最初に侵入する木本種であり、低養分土壌や乾燥、低温、また侵食といった厳しい環境をニッチとする非常に興味深い生態的特徴を持っている。
     個体識別や母系解析が可能な遺伝マーカーが開発されたことで、1707年の宝永噴火によって完全に植生が失われた富士山御殿場口におけるミヤマヤナギの遺伝的構造や繁殖の様子が明らかにされた(Lian et al. 2003)。しかし、約300年の間に調査地外部から侵入したと考えられる種子の由来や、山域全体での集団間の遺伝的交流を明らかにするためには、さらに広範囲での調査が必要とされる。
     本研究では富士山に生育するミヤマヤナギの分布全域にわたって、核・葉緑体SSRマーカーによる解析を行うことで遺伝的交流、分化を明らかにすることを目的とした。
    2.材料と方法
     2003年夏に富士山のミヤマヤナギ7集団(吉田口、須走口、獅子岩、御殿場口、富士宮口、スバルライン4合目、スバルライン5合目)のサンプリングを行った(Fig.1)。栄養繁殖した同一個体からの重複をさけるために、最低10m程度の間隔をあけ、またパッチ状に生育している場合はパッチ内で一個体のみという条件で1集団あたり17-36個体、合計165個体から新鮮葉を採取した。シリカゲルによる乾燥の後、改良CTAB法でDNAを抽出し、以降の解析に用いた。
     核SSRマーカーにはLian et al.(2001a)で報告されたSare05、08の2座とLian et al.(2001b)によるSare12の計3遺伝子座を用い、葉緑体SSR(cpSSR)マーカーはLian et al.(2003)のCSU01、03、05、06、07の5遺伝子座を用いた。各SSRマーカーのPCR産物はDNAシーケンサー(SQ5500E, HITACHI)によってバンドサイズを決定した。
    3.結果と考察
     核SSRマーカーによるPCR産物の電気泳動パターンにおいて、最大8本のバンドが得られ、御殿場口の個体群と同様に富士山全域においてミヤマヤナギは8倍体であることが明らかになった。
     cpSSRマーカーによって、165個体は19ハプロタイプに分類された。全集団でみられたタイプは1つのみであり、9タイプは特定の集団でのみみられた。また、集団ごとに優先するタイプは異なっていた。御殿場口での既報(21タイプ)と比較すると、10タイプだけを共有し、11タイプは今回みられなかった。全体にわたって分布する母系がある反面、特定の集団にのみ維持されている母系の存在は、種子の定着が非常に困難であることを意味しているのだろう。
     集団ごとの葉緑体ハプロタイプ頻度から、集団間の遺伝距離(Gregorius' distance)を計算し、PHYLIP version3.573cによって系統樹を求めた(Fig.2)。西から北にかけてのスバルライン2集団、北東方向の吉田口から時計回りに御殿場口までの4集団、富士宮口の3つのクレードに分けられた。御殿場口に新しく侵入した種子は北側の母系由来のものが主であると考えられる。
  • 後藤 晋, 吉丸 博志, 高橋 康夫
    セッションID: P1003
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     北海道の河畔林や湿地林を代表する樹木で,森林の骨格となりうる高木種であるヤチダモについて,種子と実生のステージにおけるヤチダモの遺伝子流動パターンを比較し,デモグラフィックな過程における遺伝的多様性の維持機構について検討した.北海道中央部に位置する東京大学北海道演習林の岩魚沢保存林内に設定した5haプロットにおいて,3個のマイクロサテライトマーカーを利用して,成木88個体,母樹別種子203種子,当年生実生100個体のDNA多型解析を行った.母樹別種子の父性解析の結果,52種子(25.6%)はプロット外からの花粉流動で,プロット内の花粉散布距離は,56.5m±41.3m(平均±SD)となった.特に,10m以内のごく近隣に雄個体が分布する2母樹(No.51,52)は,特に近隣の雄個体からの花粉を多く受粉していたが,プロット内でも100m以上の花粉流動が認められたほか,プロット外(80m>)からも25%以上の花粉流動が確認されたため,近距離交配と長距離交配という2つのイベントが起こっているのではないかと考えられた.当年生実生の両親解析では,29個体の両親がプロット内に決定された.実生と決定された母親の距離(種子散布距離)は76.7±49.4m(平均±SD)であり,決定された父親と母親の花粉散布距離は82.5±42.5m(平均±SD)であった.花粉流動パターンについて種子と実生のステージで距離クラス別の交配頻度を比較すると,種子ステージでは20m以内の近距離交配が約25%を占めるが,実生ステージでは約10%と低下した.プロット内の成木88個体について,個体間のKinship coefficientを調べた結果,25_から_50mといったごく近い距離クラスで有意に正の値を取ることが示された.以上の結果から,ヤチダモでは,近距離に分布する個体間の血縁度が高いため,近距離交配は種子ステージでは存在するが,実生ステージでは近親交配の影響で消失するという仮説が立てられた.
  • 内山 憲太郎, 津田 吉晃, 高橋 康夫, 後藤 晋, 井出 雄二
    セッションID: P1004
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    東京大学北海道演習林では、持続的な森林経営を目指した天然林施業が50年以上にわたり行われている。   ウダイカンバ(Betula maximowicziana Regel.) はその重要な収穫対象樹種の一つである。陽性の先駆樹種であり、北海道演習林における森林再生機構に重要な役割を果たしている。本種はその更新能力の高さから、北海道各地の風害、山火事跡地にしばしば大規模な一斉林を形成しており、北海道演習林内でも、1911、14年の山火事跡地1500haにわたり二次林(以下山火再生林)を形成している。林業上もその材は高級家具の化粧材などとして高値で取引されている。 これまでウダイカンバはその更新の容易さから、遺伝的多様性について特段注意が払われてきたとはいいがたい。そこで北海道演習林内のウダイカンバ集団の遺伝構造について、現在の成木集団と、埋土種子集団について、マイクロサテライトマーカーを用いて明らかにした。2.材料および方法 東京大学北海道演習林内の天然林6集団、山火事跡に更新した90年生前後の山火再生林4集団を設定した。集団間の距離は2.2_から_20.4_km_である。各集団につき胸高直径30_cm_以上の成木約50本、計491個体から枝葉を採取し、マイクロサテライト多型解析実験に供試した。同時にGPS測量を行い、個体位置図を作成した。また、林床から採土円筒を用いて20ヶ所ランダムに土壌を採取し、蒔き出しにより埋土種子の芽生えを採取した。解析には、ウダイカンバ用(Ogyu et al.,2003)とシラカンバ用(Wu et al.,2002)の計11個のマイクロサテライトマーカーを用いた。3.結果および考察解析の結果、分集団の遺伝子多様度HSは0.367、全集団の遺伝子多様度HTは0.371であった。各集団における任意交配からのずれを示す近交係数FISは_-_0.072_から_0.047で、いずれの集団でもハーディー・ワインバーグ平衡が成り立っており、任意交配集団とみなされた。遺伝的多様性の指数であるヘテロ接合度の期待値Heは0.351_から_0.400、Allelic Richness(Petit et al. 1998)R35は、2.24_から_2.59であり、集団間に大きな差はなかった。集団間の遺伝的分化程度を示す統計量FSTは0.012、遺伝的な距離D (Nei,1972)は、0.001_から_0.032とともに非常に低かった。また集団間の地理的な距離と遺伝的な距離および分化度の間には有意な相関は認められなかった。これらのことから、北海道演習林内のウダイカンバ集団は、遺伝的に非常に似通った集団であることがわかった。これは、現在の成木集団が成立した時に、集団間で活発な遺伝子流動が起こっていたことを示している。そのような中、山火再生林集団間のFSTは0.016であり、天然林間0.008にくらべて有意に高かった。また、集団固有の対立遺伝子は、天然林集団では、6集団中5集団で計9個検出されたのに対し、4集団中1集団で計1個のみであった。また、集団内の連鎖不平衡な遺伝子座対の数は、山火再生林集団のほうが多い傾向が見られた。これらのことは、山火事後の一斉更新という更新パターンが生み出した遺伝的構造と考えられた。採取した土壌から得られた251個体の埋土種子集団の結果は、HS、HT はそれぞれ、0.338、0.342であり、成木集団より低い値であった。近交係数FISは_-_0.066_から_0.084で、いずれの集団でもハーディー・ワインバーグ平衡からの有意なずれはなかった。各集団のHe、Rsはそれぞれ0.278_から_0.378、2.17_から_2.45であり、わずかながら成木集団よりも低かった。FSTは0.009、D (Nei,1972)は、0.001_から_0.037とともに非常に低かった。各集団固有の対立遺伝子は10集団中1集団から2個検出された。埋土種子集団間の遺伝的分化の程度は低く、現在の成木集団間に活発な遺伝子流動が生じていることが示唆され、山火再生林集団に見られた遺伝的構造は、将来世代には解消されることが予想された。集団内の遺伝構造を、Moran’s IとNACを用いて検定したところ、10集団中4集団で80mまでの距離階級で遺伝子の集中分布が見られた。シードトラップを用いた種子散布の調査からは、散布種子のうち90%が母樹から100m以内に落下したという報告があり(大給,2001)、今回の集団内遺伝構造の結果は、種子の分散の制限が作り出した構造と考えられる。集団内に遺伝子の集中分布が生じている集団は、天然林内と山火再生林内に2集団ずつあり、更新パターンの違いでは、集団内遺伝構造の説明はできなかった。
  • 人為攪乱後の遺伝的多様性回復と遺伝的近隣距離の推定
    北村 系子, 河野 昭一, 高須 英樹, ウィーガム デニス
    セッションID: P1005
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 木村 恵, 陶山 佳久, 清和 研二, Woeste Keith
    セッションID: P1006
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに
    風媒樹木の交配可能な範囲は主に開花フェノロジーと送粉距離によって決定されると考えられる。また、この交配可能な範囲は集団間の遺伝的な構造に影響すると考えられる。本研究では集団間の距離が異なり、開花時期も異なると考えられるオニグルミ(Juglansailanthifolia)の9集団を対象とし、成木集団の遺伝子組成を比較し、オニグルミにおける集団間の遺伝子流動について考察した。さらに、各集団で採取した種子について花粉親の遺伝子を推定することにより、現在生じている集団間の花粉流動を推定した。2. 方法
    宮城県北部を流れる江合川流域の鳴子町鬼首の軍沢から岩出山町下一栗までの流路長約30kmに成立するオニグルミ自然林9集団を対象として調査を行った。各集団の標高は65から370m、集団間の直線距離は0.7から27.0km(平均11.7km)であった。
    各集団の開花期間を調べるため開花フェノロジー調査を行った。各集団10個体以上を対象とし、それぞれの雌花、雄花の開花期間を調べた。調査は2002年の4月28日から6月9日に3日に1度の頻度で計15回行った。
    マイクロサテライトマーカー10遺伝子座を用いて各集団の成木個体と各成木によって生産された種子の遺伝子型を調査した。成木集団として集団ごとに成木32個体から葉を採取しDNA抽出用の試料とした。また、葉を採取した各成木から種子を2個ずつ採取し、花粉親分析用の試料とした。花粉親の遺伝子は種子とその母樹の遺伝子型から推定した。つまり種子の遺伝子型から母樹由来の遺伝子を除いたものを花粉親の遺伝子として解析した。
    これらの結果からオニグルミにおける交配範囲を推定するために成木集団および花粉親集団の遺伝子多様度解析とNeiの遺伝距離(D)の比較を行った。また近隣接合法(NJ法)を用いて樹状図を作成した。3. 結果と考察
    各集団における開花開始日は標高が高くなるに従って遅くなったものの、開花期間はいずれの集団でも重複していた。
    成木集団における集団内の遺伝子多様度(HS)は0.73から0.80、平均値は0.75であり各集団間に大きな違いは認められなかった。成木集団間の遺伝子分化係数(GST)は0.03であり、集団間の分化の程度は低いレベルであった。また、遺伝距離と地理的な距離の間には相関はみられなかった。
    花粉親集団における集団内の遺伝子多様度(HS)は0.70から0.77で平均値は0.73であった。花粉親集団間においても遺伝距離(D)と地理的な距離の間には相関はみられなかったが、遺伝子分化係数(GST)は0.05であり成木集団に比べ高い値を示した。また成木集団と花粉親集団を含めて遺伝距離(D)を算出すると、いずれの花粉親集団もその種子を採取した成木集団との間で最も近い遺伝距離(D)を示した。成木集団に特異的にみられた対立遺伝子は10座29種類、花粉親集団で特異的にみられた対立遺伝子は5座10種類で、いずれの集団でも成木集団で特異的な遺伝子の方が多かった。また、遺伝的多様性の程度を示す全ての指標について、花粉親集団よりも成木集団の方が大きな値を示した。
    これらの結果から、オニグルミ自然集団では集団間の遺伝的分化の程度が低く、広い範囲で遺伝子流動が起きていると推察された。一方、花粉の動きに関しては集団内の狭い範囲で主な花粉流動が生じていると考えられた。これまでにオニグルミ自然集団内における花粉流動は近接個体からの送粉に強く依存することが明らかになっており、本研究における集団間レベルの調査においてもその傾向と矛盾しない結果が得られた。
  • 勝木 俊雄, 島田 健一, 吉丸 博志
    セッションID: P1007
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     マツ科トウヒ属に分類されるヒメバラモミはその個体数の少なさから絶滅危惧IB類にリストされている。八ヶ岳南部と南アルプス北西部の限定された地域に数百個体が残されていると考えられ、演者らによって詳細な分布状態が現在調査されつつある。種の保全対策としては天然更新が可能な自生地を保全することがもっとも望ましい。しかし、一部の自生地を除いてヒメバラモミは単木的に点在する場合が多く、そうした地域において天然更新は難しいと考えられる。しかし周囲に他の母樹が見あたらなくとも、単木的に存在するヒメバラモミ母樹の周囲に稚樹が存在するケースが観察されている。こうした稚樹は自殖により増殖したものではないかと考えられている。そこで、本研究ではSSRマーカーを用いてこうしたケースが自殖であるのか確認をおこなった。さらに集団として存続しているヒメバラモミの近交係数を解析することで、ヒメバラモミの自殖が種の保全にどのように影響するか検討した。
     分析に用いた試料は長野県富士見町西岳と山梨県白州町大平、長野県長谷村戸台川の3産地から採取した。西岳の試料は単木的母樹1個体と周囲の稚樹6個体、これらから離れた場所にある2個体である。西岳の単木的母樹はもっとも近い母樹から600m程離れていた。大平の試料は1集団(45個体)、集団中にある稚樹10個体、集団から離れている単木的母樹1個体と周囲の稚樹10個体である。大平の単木的母樹ももっとも近い母樹から600m程離れていた。大平の集団は600m程の範囲にヒメバラモミが50個体以上まとまって存在していた。戸台川の試料は1集団(25個体)である。戸台川の集団は60m程のきわめて狭い範囲に樹高1.3m以上のヒメバラモミが135個体も密集していた。これら計100個体から枝を採取し、葉から抽出したDNAを用いて6座のSSRマーカーの遺伝子型を決定した。これらのマーカーはすでにその多型性が調べられており、ヒメバラモミの遺伝子座として利用出来ることが確認されている。単木的な母樹と稚樹2ケースと、集団中の母樹と稚樹1ケースについて、各個体の遺伝子型と周囲の個体群の遺伝子頻度とを比較することによって、これらのケースで自殖がおこなわれているか検討した。次にヒメバラモミ2集団について遺伝子型から近交係数Fisを求めた。このFisからヒメバラモミの自殖について解析し、自殖が種全体の多様性に与える影響について検討した。
     まず、大平の集団中の母樹と稚樹のケースの遺伝子型を周囲の集団と比較した。6座のうち周囲の集団では5座が多型であった。10個体の稚樹のうち、3個体は母樹の遺伝子をもっていなかったため他母樹に由来する個体だと考えられた。残る7個体の稚樹では4座においていずれも他個体由来と考えられる遺伝子が存在していた。したがって自殖と考えられる稚樹は確認されず、他殖によって繁殖することが確認された。一方、単木的な母樹と稚樹についてみると、大平のケースでは1個体を除き、9個体の稚樹で母樹の遺伝子のみが見られた。また、西岳のケースでは周囲に比較できる集団がないため、西岳に産する2個体と比較した。母樹を含めた3個体では6座のうち3座が多型となり、いずれの座でも6個体の稚樹には母樹の遺伝子のみが見られた。ケース数や分析個体数は少ないが、これらの2ケースでは自殖がおこなわれている可能性が高いと考えられた。次に2集団のヒメバラモミについて、固定指数を求めた。大平および戸台川の各集団の近交係数(Fis)はそれぞれ0.077と0.044であった。また2集団から算出された分集団内の近交係数(Fis)は0.045、2集団全体の近交係数(Fit)は0.074となった。分析した集団数が少ないものの、いずれの近交係数も低く、集団内で近親交配がおこなわれていないことを示していると考えられた。
     これらの結果から本来のヒメバラモミ集団の繁殖では自殖あるいは近親交配は希であると考えられる。そうであれば、通常は近交弱勢が大きいと考えられる。しかしながら現実には南アルプス北西部の一部の自生地を除き、ヒメバラモミは単木的に残されていることが多く、今後は自殖あるいは近親交配により繁殖せざるを得ない状況が増加することが予想される。そのような場合、近交弱勢が大きいと繁殖能力が低下する可能性が高い。したがって、今回確認された自殖ケースは特殊な例外であり、種の保全の観点からは改めて他殖で繁殖する環境を整えることが重要だと考えられた。
  • 斎藤 秀之, 門田 真希子, 船田 良
    セッションID: P1008
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 小田 あゆみ, 田中 憲蔵, 李 玉霊, 吉川 賢, 二宮 生夫
    セッションID: P1009
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    はじめに 中国内モンゴル自治区に広く分布する臭柏(Sabina vulgaris)は、耐乾性が強く、砂地固定植物として特に有効であることから、その生態的特性の解明や増殖方法の確立が望まれている。臭柏の葉には針葉と鱗片葉の2型あることが知られている。幼齢樹では針葉、壮齢樹では針葉と鱗片葉をあわせ持ち、特に強光下では鱗片葉を多く着けることが観察されている。ではどうして臭柏は2種類の葉を持ち、環境や生育段階で葉の着け分けを行っているのだろうか。本研究では、_丸1_光環境や枝の位置でどのように葉を着け分けているか、_丸2_2種類の葉の生理機能はどのように異なっているか、を調べ、これらの特徴から臭柏が環境の厳しい乾燥地へどのように適応しているのかを考察した。材料と方法 調査には、中国内モンゴル自治区毛烏素沙地から持ち帰り岡山大学の圃場に挿し木で植えられた臭柏の中から3個体を用いた。8月に携帯式光合成蒸散測定装置(LI-6400,Li-Cor)を用いて針葉・鱗片葉の光合成と蒸散速度を測定した。また、光合成・蒸散の日変化測定から一日の葉の純生産量や蒸散量を求めた。光阻害の程度を調べるため、1050μmol m-2s-1の光を5時間照射し続け、30分ごとにMINI-PAMを用いてFv/Fmの低下を測定した。その後、測定した枝を含め14本の枝を枝先から10cmごとに刈り取り、針葉と鱗片葉、支持器官に分けた後、80℃で48時間乾燥させ乾重を求めた。相対照度は照度計を用いて枝先から10cmごとに測定した。結果と考察 全葉重に対する針葉の割合(針葉率)は、枝先から約50cmまでは単調に増加したが、50cmを越えると約80%で一定になった。単位葉量あたりの飽和光合成速度(Pmax)は針葉の方が鱗片葉より2倍近く大きかった。飽和光合成速度を蒸散量で割った水利用効率は鱗片葉で高く、少ない水消費量で高い光合成生産をおこなうことができると考えられた。針葉のFv/Fmは鱗片葉に比べ低下したことから、強光による光阻害を受けやすいと考えられた。 以上のことから、針葉は鱗片葉に比べてPmaxは高いが、水消費量が多く、強光阻害に弱いと結論付けられた。砂漠のような特に強光、乾燥ストレスが強い環境では、多少の光合成生産を犠牲にしても水消費を抑え、光阻害に強い葉を樹冠表面に展開したほうが有利であると考えられた。
  • 飯島 勇人, 斎藤 秀之, 渋谷 正人, 高橋 邦秀
    セッションID: P1010
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに 倒木はエゾマツの更新立地として非常に重要な役割を果たしているが、外見の腐朽度が異なる倒木間では更新密度が異なることが知られている。この原因として、腐朽度が異なる倒木での実生の根の伸長状態による、実生への乾燥の発生しやすさの違いが指摘されている。根が水分を吸収する腐植層に到達するには、根が表層の樹皮やコケを貫通する必要があることから、実生への乾燥の発生しやすさは表面形状の違い、すなわちコケの厚さに大きな影響を受けると考えられる。本研究では林内および人工気象室内のコケの厚さが異なる倒木を対象に、実生の根の伸長、乾燥過程における倒木の腐植層および実生の葉の水ポテンシャルの変化を調査し、倒木のコケの厚さが倒木と実生の水分状態の関係におよぼす影響を検討した。2. 材料と方法【野外調査】野外調査は大雪山国立公園内の、森林総合研究所北海道支所の固定プロット内で行った(43º39’ N, 143º06’ E, 海抜高950m)。林内の倒木をコケなし(FLB)、コケの厚さが1-20mm(FLS)に区分した。2002年と2003年に各倒木にエゾマツ種子を100粒播種し、エゾマツを発生させた。(1)実生の根の分布:倒木を表層からコケまたは樹皮層、腐植層、材部に分類し、各層における生残および枯死実生の主根の長さを求めた。(2)野外の倒木と実生の水分状態:降水直後と降水から約1週間後の倒木の腐植層の水ポテンシャル(Ψh)と夜明け前の実生の葉の水ポテンシャル(Ψl)を、ランダムに選択したFLBとFLS上の当年生および1年生実生に対して調査した。水ポテンシャルの測定は熱電対式サイクロメーター(HR-33T & C-52-SF, Wescor, Inc., USA)で行った。測定は3-4個体で行った。林内で水ポテンシャルの測定を行った2003年5月から7月末までの平均の大気飽差は0.34kPa(最大2.34kPa、最小0.01kPa)であった。【実験室】(3)実験室の倒木と実生の水分状態:FLBとFLSを森林総合研究所北海道支所の人工気象室に設置し、エゾマツを発生させた。発芽から約1ヶ月後に灌水を打ち切り、以後ΨhとΨlを2-7日間隔で、全ての実生が枯死するまで調査した。測定は3-4個体で行った。人工気象室の温度は日中23℃、夜間15℃に制御された。湿度は制御されず、測定期間中の平均の大気飽差は0.35kPa(最大1.35kPa、最小0.02kPa)であった。3. 結果(1)実生の根の分布:当年生と1年生実生のいずれにおいても、根はコケの厚さや生残枯死に関わらず、大部分が腐植層および材部に到達していた。(2)野外の倒木と実生の水分状態:Ψhはコケの厚さに関わらず、降水量が少ない時期においても0MPaであった。降水直後の当年生実生のΨlはFLBで-0.36MPa、FLSで-0.45MPaを示し、降水から約1週間経過した時点ではFLBで-1.00MPa、FLSで-0.52MPaまで低下した。1年生実生もほぼ同様の傾向を示した。倒木間のΨlの差は顕著ではなかった。(3)実験室の倒木と実生の水分状態:FLBにおいてΨhは灌水停止後0MPaを推移し、21日後に急激に低下した。Ψlは灌水停止後-0.94MPaから-1.50MPaの間を推移し、灌水停止36日後に急激に低下した。FLSにおいてΨhは灌水停止後0MPa付近を推移し、灌水停止31日以降緩やかに低下した。Ψlは灌水停止後-1.17MPaから-1.39MPaの間を推移し、灌水停止36日以降緩やかに低下した。4. 考察 林内で約1週間降水がなかった状況で、Ψhは0MPaであり、Ψlは-1MPaまでしか低下しなかった。2002年および2003年の林内における最長無降水期間は16日であった。人工気象室においてΨhとΨlはいずれもFLBで先に低下が始まり、Ψhは灌水停止から21日後、に低下し始めた。林内は人工気象室より大気が乾燥していないと仮定すると、これらの結果は、林内においてΨhが低下して実生に乾燥が発生する可能性は低いことを示唆している。また、長期的な乾燥においてはFLSよりもFLBのΨhや成育実生のΨlが低下しやすいが、林内ではそれほどの長期の乾燥は発生しておらず、コケの厚さによって倒木や実生の水分状態に違いが生じている可能性は低いといえるだろう。
  • 馬場 深, 斯 慶図, 三ツ井 大輔, 坂本 圭児, 吉川 賢
    セッションID: P1011
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    光環境の違いがケネザサ(Pleioblastus fortunei f.pubescens)の同化器官と非同化器官の割合に与える影響について
    ○馬場深・三ツ井大輔・斯慶図・坂本圭児(岡大院自然科学)吉川賢(岡大農)
    1.目的
    ケネザサ(Pleioblastus fortunei f.pubescens)は、本州中部以西や四国・九州など暖温帯域に分布する。その生育立地は裸地、林内、林縁など様々な光環境下にある。林内でササを観察した結果、林内の光環境の相違によってササ丈だけをみても差があることを確認できた。光環境とケネザサの成長には密接な関係があると考えられる。そこで本研究では、光環境の違いがケネザサの成長と同化産物の配分に与える影響について明らかにすることを目的とした。そのために実験的に異なる光条件を設定してケネザサを生育させ、同化器官である葉とそれを支える稈の形態の違い、葉,地下茎および根の乾燥重量とそれらの配分比を調べた。
    2.材料と方法
     半田山のコナラ林下層に生育するケネザサの地下茎を5月7日に採取し、実験圃場に植栽した。土壌には川砂を用いた。試験区は森林内の光環境を参考にして、100%,10%,4.5%および1%の4条件とした。光条件は遮光率の異なる寒冷紗を用いて調節した。稈の発生後、発生した稈の地際からの長さ、地際直径、葉数、葉面積、葉厚を測定した。各器官の乾燥重量を推定するために相対成長関係を利用した。すなわち野外に生育するケネザサを対象として、葉については、葉面積と厚さの積と、葉の乾燥重量との相対成長式を求めた。稈については、地際直径の二乗と稈の長さの積と、乾燥重量との相対成長式を求めた。冬季に各処理区の地下茎を3個ずつ掘り取り、根,地下茎,稈および葉の乾重を測定した。また、携帯式光合成測定装置(LI-6400,Li-Cor社製)を用いて、9月に葉の光合成速度の日変化を測定した。7月から10月に光強度を人工的に変化させて光合成速度を測定し、光-光合成曲線を作成した。
    3.結果と考察
    処理区全体で、植栽後12日目から稈が発生し始め、30日目あたりで発生数がピークに達し、70日目までに85本発生した。稈の発生ピークが過ぎた6月30日(植栽後54日)時点での平均稈長は、相対照度100%区で11.7cm、10%区で31.4cm、5%区で35.7cmおよび1%区で54.2cmであった。1%区が10%区,4.5%区に対して有意に高く、100%区が10%区,4.5%区に対し有意に低い値を示した(Tukey’s HSD-test,p<0.05)。
    植栽後50日以内に発生した稈を対象として、その伸長がほぼ停止した138日目の時点で、各処理区に生育するササの地上部について、葉と稈に分けてそれぞれの乾燥重量を推定した。その結果、図1のように葉と稈の配分比は、有意差が認められなかった(Tukey’s HSD-test,p>0.05)。
    したがって、同化器官と非同化器官の乾燥重量の割合には光条件によって差がなかったといえる。しかし葉と稈の乾燥重量を比較すると、100%区では、他の処理区に比べ稈は2.5倍、葉は2倍の重量があった。
    図1. 地上部の推定乾燥重量比.バーは標準偏差をあらわし、同じアルファベットで示された平均値には処理区間で有意差がないことを示す(Tukey’s HSD-test)。
     植栽後254日目に掘り取りを行い、器官ごとの乾重の比較を行った。葉,稈,旧地下茎,新地下茎および根に分けて、旧地下茎および地下部に対する比率を比較したところ、葉と稈については処理区間で有意差はなかった。地下部では、100%区で新しい地下茎が特に多く発生しており、根と新地下茎について有意差が認められた(図2)。
    図2. 地下部の乾燥重量比.バーは標準偏差をあらわし、異なるアルファベットで示された平均値には処理区間で有意差があることを示す(Tukey’s HSD-test,p<0.05)。
     以上のように、処理区間で葉と稈の乾燥重量の比には差がなかったが、100%区では光合成速度が大きく、分枝数、葉,稈および新地下茎の乾重が、他の処理区と比較して有意に高い値を示した。また、100%区では、分枝数が多く高さの低い稈を多く発生させ、葉量が多いのに対して、光強度の低い処理区では、分枝数が少なく高さの高い稈を少数発生させ、葉量が少ない傾向が見られた。
  • 角張 嘉孝, 飯尾 淳弘, 深沢 久和, 山田 興一
    セッションID: P1012
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    西オーストラリア乾燥地における若いユーカリ林の炭素固定能力
  • 岩本 宏二郎, 石塚 森吉, 鵜川 信, 壁谷 大介, 荒木 眞岳
    セッションID: P1013
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    亜高山帯針葉樹林における生育段階の違いに伴う細根純生産量の変化を明らかにし、地上部純生産量との関係を検討することを目的として北八ヶ岳縞枯山斜面にて調査を行った。更新初期、成長期、衰退期の林分に調査区を設置し(それぞれS区、I区、S区)、細根の純生産量をイングロウスコア法を用いて推定した。また、現存量および地上部各器官の純生産量を伐倒調査、毎木調査およびリター量調査により推定した。細根純生産量は調査区によって差があり、I区よりもM区で有意に小さかった(p<0.05)。また、細根現存量はI区、M区よりもS区で小さくなっており、細根現存量平均値に対する細根純生産量平均値の割合は、S区でもっとも大きく(9%)、I区(7%)、M区(6%)の順で小さくなっていた。一方、地上部現存量はM区、I区、S区の順で小さくなっていた。また、地上部純生産量はI区よりもM区でやや小さかった。これらの結果から、縞枯れの前線部に位置し今後枯死が進行すると考えられるM区ではI区と比べて地上部と細根の両方とも純生産量は減少するが、その違いは細根においてより顕著であると考えられた。
  • 楢本 正明, 中山 朋子, 斎藤 秀之, 水永 博己, 藤原 一絵, 角張 嘉孝
    セッションID: P1014
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ブナは、北は北海道黒松内低地から南は鹿児島県高隈山の範囲に分布しており、本研究で対象とした紫尾山は南限の高隈山から、北西に約70kmの場所に位置している。紫尾山のブナ林は林木遺伝資源保存林にも指定されており、学術的にも重要である。温暖化が懸念されるなか、南限付近における植生への影響は深刻であることが予想され、学術的にも貴重な群落を保全するための基礎的な情報を得るだけでなく、その動態を継続してモニタリングしていくことが重要であると考えられる。本研究では、新潟県苗場山(苗場山におけるブナの生育上限付近:1600m)に生育するブナと比較しながら、南限付近である紫尾山のブナ光合成特性について報告する。葉面積は陽葉・陰葉ともに、苗場山の陽葉と比較して極端に小さい。陽葉を比較した場合、紫尾山の方が比葉面積(SLA)は小さく、葉が厚いことを示している。陽葉・陰葉の光飽和点は、それぞれ700と200 micromol/m2/s 程度であった。温度24℃における最大光合成速度(PNmax)は、陽葉が8.1 micromol/m2/s、陰葉が2.3 micromol/m2/s で、苗場山の陽葉(7.3 micromol/m2/s)と比較して、紫尾山の陽葉の方がやや高かった。温度20℃以下における暗呼吸速度も、紫尾山陰葉・苗場山陽葉・紫尾山陽葉の順に高くなり、この結果はSLAの結果から葉の厚さを反映していると考えられる。しかし、より高い温度においては紫尾山と苗場山の陽葉の暗呼吸速度はほぼ同じであった。また、最適温度はいずれも20℃程度で生育温度環境の違いによる差は確認されなかった。
  • 渕本 知佳子, 横山 憲, 角張 嘉孝, 千葉 幸弘
    セッションID: P1015
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 角張 嘉孝, 高野 正光, 横山 憲, アルトロ サンチェス
    セッションID: P1016
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    苗場山ブナ林における光合成特性と分光反射特性の季節変化
  • 飯尾 淳弘, 横山 憲, 高野 正光, 千葉 幸広, 角張 嘉孝
    セッションID: P1017
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    苗場山ブナ樹冠内において、光環境、光合成特性、窒素含有量(N;g/m2)、比葉重量(LMA)の相互関係を生育期間を通して調べた。相対的な光環境(rPPFD)は開葉後に急激に低下した。展開が完了すると、落葉が始まる9月中旬までほぼ一定値で推移した。樹冠最上部におけるカルボキしレーション反応の最大速度(Vcmax)とLMAは開葉後急激に上昇し、6月中旬には最大に達した(Vcmax;55μmol/m2/s、LMA;105 g/m2)。LMAは落葉まで値は変化しなかった。Vcmaxは夏の間高い値を維持しつづけ、落葉の始まる9月中旬から除々に低下した。これらの傾向は樹冠の位置にかかわらずほとんど同じであった。窒素含有量(N;g/m2)の相互関係を季節を通して調べた。それぞれの季節において、rPPFDとVcmax、LMAとVcmaxの関係はそれぞれ高い相関があったが、回帰式のパラメータは季節によって大きく変化した。季節を通して光合成量を推定する場合には、季節に応じて回帰式を変える必要がある。2002年のrPPFDとVcmaxの関係は直線であったが、2003年は飽和型の曲線になった。また、明るい場所(rPPFD>50%)におけるVcmaxと窒素利用効率(Vcmax /N)を比較すると、2003年は2002年よりも30_から_40%も低かった。長期間にわたって光合成量を推定する場合には、季節や空間だけでなく年変動も考慮する必要があるかもしれない。
  • 水永 博己, 藤井 栄, 飯尾 淳弘
    セッションID: P1018
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 片畑 伸一郎, 楢本 正明, 韓 慶民, 角張 嘉孝, 向井 譲
    セッションID: P1019
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 新潟県苗場山には日本海側を代表するブナ林が存在し、その林床には様々な林床植物が生育している。ブナ林床の光環境は、林冠を構成するブナの着葉の有無によって大きく変動する。上層木着葉期には、林内に差し込む光は少なく、上層木の落葉から積雪までの期間、光は増加するが温度が低下し、生育に適した環境であるとは考えられない。しかしながら、苗場山のような豪雪地域の落葉広葉樹林床の光環境が改善される時期は上層木の落葉から積雪までの期間のみであり、この期間は林床植物の物質生産を考える上で重要な時期である。これまで、筆者らは常緑林床植物のエゾユズリハを対象とし、強光と低温にさらされる上層木落葉期に光防御色素であるキサントフィルサイクルの増加、クロロフィルの組成変化やRubisco量の増加などにより光阻害の回避と光順化を可能にし、物質生産を増加させていることを明らかにした。そこで本研究ではエゾユズリハにおける光合成の温度順化に着目した。植物は常に変動する温度環境に対して順化する必要がある。温度順化することは植物の物質生産を考える上で重要である。我々は、まず、エゾユズリハの当年生の成熟葉における光合成の温度順化について解析した。2.研究材料及び方法 試験地を新潟県苗場山系標高900mのブナ林の林縁及び林内に設置した。ブナ林内の生育環境を調査するため、光量子密度センサー(IKS-27 小糸工業)、温湿度センサー(タバイ ESPEC社製)とデーターロガー(CR10X Campbell Scientific社製)を設置した。2003年8月下旬及び11月中旬に当年生の葉を携帯用光合成蒸散測定装置(LI-6400, Li-Cor社製)を用い、温度別の葉内CO2?光合成速度を測定した。温度別の葉内CO2?光合成曲線から最大RuBPカルボキシラーゼ速度(Vcmax)と最大電子伝達速度(Jmax)及び最大光合成速度(Pmax)の温度依存性を解析した。光合成測定後、葉を数枚採取し、色素組成をHPLC及び分光光度計で測定した。また、80℃で3日間乾燥させた葉を用いて、比葉面積(SLA)と葉内窒素含有量を測定した。3.結果及び考察 8月から11月にかけて温度?光合成曲線は両処理区とも変化した。8月の最大光合成速度(Pmax)の最適温度は両処理区とも25℃付近だったのに対し、11月には15℃付近まで低下した。そこで15℃と25℃で光合成を律束するVcmaxとJmaxの比較をおこなった。8月から11月にかけて林縁では、25℃で測定されたVcmax及びJmaxは低下したのに対し、15℃では変化しなかった。一方、林内では、25℃では林縁と同様に低下したのに対し、15℃では増加した。これらの結果から、林内に生育するエゾユズリハは上層木落葉期の温度低下に対して、低温でのRuBP炭酸同化能力・再生能力を高め物質生産している可能性が示唆された。今後、窒素含有量、色素組成、Rubisco含有量を解析することで、エゾユズリハの光合成の温度順化についてより明確にしたい。
  • 高野 正光, 佐藤 向陽, 横山 憲, 飯尾 淳弘, 角張 嘉孝, 千葉 幸弘
    セッションID: P1020
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    茎熱収支法によるブナ林下層木の年間蒸散量の推定
  • 森下 和路, 嵜元 道徳
    セッションID: P1021
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    多雪地の冷温帯林下層に優占的な低木3種(クロモジ、タンナサワフタギ、ツリガネツツジ)について、平坦地・緩傾斜地・急傾斜地における地上部形態を比較し、傾斜の違いへの対応様式と個体群構造の関連を検討した。平坦地における3種の生育形は大きく異なり、タンナサワフタギが単幹型、ツリガネツツジは株内に複数の生存幹を有する著しい多幹型、クロモジは両者の中間的であったが、急傾斜地ではいずれも多幹型となり、高い撹乱圧に対応しているものと考えられた。しかし急傾斜地においては、3種とも地上幹が大きく傾き、樹冠幅が小さく、株内の枯死地上幹数が多かったことから、地上幹が何らかのストレスを受け、株内の回転が速くなっていることが示唆された。特にタンナサワフタギは、平坦地では樹冠幅の大きい顕著な傘形樹冠を発達させたが、急傾斜地では当年枝数が大幅に減少するなど、斜面傾斜の影響を3種中最も強く受けていた。逆に、比較的コンパクトな樹冠を持つツリガネツツジは、斜面傾斜の影響が小さかった。一方、平坦地・緩傾斜地・急傾斜地にそれぞれ設けた100m2調査区で3種の地上幹のサイズ構造を比較すると、タンナサワフタギのみ、急傾斜地で平坦地よりも地上幹長の最大値が小さく、強いL字型分布を示した。多雪地では雪圧が下層樹木の強い撹乱要因となることが指摘されている。特に傘形樹冠を発達させるタンナサワフタギは、急傾斜地の積雪移動の際に抵抗が大きいと考えられ、その結果、大きい地上幹の発達が困難になり、サイズ構造の変化が生じたと考えられる。以上より、地形変化がもたらす撹乱圧の空間的不均一性と、種の形態的特性がもたらす対応様式の種間差が、斜面地形上におけるそれぞれの種の個体群構造に影響していることが示唆された。
  • 菅原 未知登, 林田 光祐
    セッションID: P1022
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    松枯れ後に成立した二次林を構成する低木・亜高木種の萌芽特性○菅原未知登・林田光祐(山形大農) 我が国では1960年代頃まで薪炭材の利用が多く、コナラなどの高木性広葉樹の萌芽を用いた薪炭林施業が広く行われていた。そのためこれらの有用樹種の萌芽特性に関して、伐採の時期や位置、切り株の直径、樹齢などの違いによる発生率や発生本数、伸長量などが明らかにされている。今日、薪炭林は利用価値が少なくなり、松林ではマツノザイセンチュウによる松枯れが蔓延しており、全国で放置された広葉樹二次林が増加している。これらの二次林では生物多様性の減少や土壌の流出、景観の悪化などの問題が発生し、早急に除伐などの整備が必要とされている。効果的に除伐を行うためには、林冠構成樹種以外にも低木・亜高木類の萌芽発生率などの萌芽特性を知る必要がある。そこで、本研究では二次林のひとつである松枯れ跡地において、伐採1年目の低木・亜高木類の萌芽特性を調べた。
  • 及川 夕子, 蒔田 明史, 黒坂 登
    セッションID: P1023
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    現在、樹勢診断は樹木医等専門家の経験に基づいた総合的判断によることが大きい。しかし、樹勢の変化をいち早く把握するためには、日常的に樹木に接している地元の一般の人にできる樹勢診断方法の開発が必要である。そこで本研究では簡便で定量的な測定が可能なミノルタ製葉緑素計SPAD-502を用いた方法を検討する。また、SPAD値の季節変化や、樹勢回復事業実施後の測定値の変化についても検討する。
    2.調査地及び方法
    1)調査地調査対象として秋田県角館町のシダレザクラを選んだ。
    2)調査木の選定
    2002年に、樹勢の良い木2本、悪い木2本、隣接していて土壌改良がされている木といない木2組、土壌改良後の年数の異なる木1組、計10本を選び調査木とした。2003年には、2002年の調査木のうち5本に2002年に樹勢回復事業が行われた3本を加えた計8本を調査木とした。
    3)測定項目
    2002年の測定は、樹冠上部・中間部・下部から各々枝を10本選び、樹冠部にアクセスして形態的特性(当年枝長と着葉数、葉の長さ)及び葉の生理的特性(SPAD値、最大光合成速度、最大蒸散速度)を測定した。また一部については葉を採取し、葉面積や窒素含有量も測定した。2003年には、樹冠上部・下部において2002年と同様に形態的特性を測定した。生理的特性については5月下旬から8月上旬にかけて3週間おきに測定した。
    3.結果
    1)測定葉の決定
    測定葉を定めるために葉位(当年枝での展葉順)に伴ってSPAD値がどのように変化するか調べた。その結果、第5葉から第10葉あたりの値が安定していることがわかった。葉位に伴った葉の長さの変化も同様の傾向であった。そこで、各枝の第5葉から第9葉の5枚を測定対象とした。
    2)SPAD値、最大光合成速度の季節変化
    2003年葉のSPAD値の季節変化をみると、5月、6月にかけて値が増加し7月、8月になると値が安定していた。このことからSPAD値の測定は葉が完全に成長し終わった7月、8月に測定するのがよいと思われた。また、最大光合成速度の季節変化を見てみると、7月の値がもっとも高くなる木と、8月に高くなる木があった。樹勢の悪い木や土壌改良していない木では、8月になるとしばしば光合成能力の衰えが見られた。
    3)形態的特性
    すべての形態的特性が樹勢の良い木では悪い木よりも大きな値となった。改良木と未改良木では枝長と葉数に差が見られた例もあったが葉の長さはどの組にも明瞭な差がなかった。ただし樹冠下部では、枝ごとに葉の長さのばらつきが大きく、とくに樹勢の悪い木と未改良木で顕著であった。
    4)生理的特性
    SPAD値では、樹勢の良い木と悪い木、土壌改良木と未改良木で明瞭な差が見られなかった。個体内のSPAD値のばらつきは、樹冠下部でばらつきが顕著であった。ばらつきが目立ったのは、樹勢の悪い木と未改良木であり、樹勢判定にあたってばらつきにも注目する必要があると思われた。またSPAD値が大きくなるとともに最大光合成速度も大きくなった。葉の長さとSPAD値の間には緩やかな正の相関があった。
    5)樹勢回復事業前後の測定値の変化
    樹勢回復事業の前と後を比べてみると、樹勢回復事業後に全ての値が低くなった。しかしながら、その他の調査木の2002年と2003年の測定値を比べてみても2003年の測定値のほうが大半の木で低くなっていた。それぞれの気象条件を調べたところ、2001年の7月と8月の日照時間の合計は2002年の同時期よりも100時間以上少なく、2003年にはさらに20時間減少していた。このような気象条件の年変動が葉の形成に影響を与えていた可能性がある。
    4.考察
    今回の調査結果から、形態的特性や最大光合成速度は樹勢をある程度反映していることと考えられた。一方、SPAD値は最大光合成量ほど樹勢との関連は顕著ではなかったものの、最大光合成速度との相関が認められ、光合成能力の簡便な指標として樹勢診断にも適用しうる。今後は、気候条件なども考慮に入れた上で対象樹木の生育条件にあったモニタリング手法を定める必要があると考えられた。そのためには同一木の数年にわたる追跡調査が必要である。
  • 山路 恵子, 下田 直義, 石本 洋, 森 茂太
    セッションID: P1024
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. 目的
     青森ヒバ(Thujopsis dolabrataSieb. et Zucc. var. hondai Makino)は実生の生育が遅く、育苗が困難とされていた。ヒバ実生は地床が攪乱された鉱質土壌で出現することが知られているが、森林総研東北支所では鉱質土壌のモデルとしてカヌマ土を播種床に利用し、早期山出し可能な育苗に成功している。しかし苗畑土である黒土ではなくカヌマ土を利用することで、ヒバ実生の根面・根内糸状菌に影響を与えていると考えられる。本研究は両土壌で生育させた実生の発芽率、苗高および根面・根内糸状菌を調査し比較することで、本支所で行われている育苗システムの利点、不利点を解明することを目的とする。
    2. 方法
     2002年秋に採取したヒバ種子を2003年4月下旬にカヌマ土及び黒土 (苗畑土)に覆土せずに播種し、7-11月にかけて発芽率および苗高を調査した。7月および9月に実生を採取し、根面・根内糸状菌を調査した。根面糸状菌はHarley and Waid (1955)、根内糸状菌は畑 (1997) の方法に従い分離した。また、arbuscular菌根菌の感染率をGiovannetti and Mosse (1980)によるgridline intersect 法により調査した。
    3. 結果
     発芽率は土壌間で差がなかった(P>0.05)。実生の苗高は7-9月には差がなかったが、10・11月に黒土でカヌマ土を上回った(P<0.001)。根面糸状菌は両土壌で大きな差はなく、7月はPenicilliumCladosporiumGliocladiumや種子由来のPetalotiaPhomopsis 属糸状菌、9月はPenicilliumTrichoderma属糸状菌が主に分離された。根内糸状菌は両土壌間で大きな差があった。カヌマ土の実生からは7・9月ともにPhomopsis属糸状菌が分離され、arbuscular菌根菌はほとんど感染していなかった(7月, 0%; 9月, 0.98%)。黒土の実生にはarbuscular菌根菌が顕著に感染しており、感染率は7月に12%、9月に66%であった。
    4. 考察
     播種床にカヌマ土を利用するとヒバの発芽率が黒土に比べて上昇するという報告がある(森ら、2003)。しかし本研究では発芽率に変化はなく、カヌマ土を播種床として使用する利点は見受けられなかった。根内糸状菌は両土壌間で大きく異なったが、黒土の実生に共生したarbuscular菌には根部の栄養吸収を助け植物の成長を促進させることが知られていることから、黒土の実生は他の土壌に移植した際にも効率的に成長する可能性が予想された。カヌマ土の実生には根内部に種子由来のPhomopsis属糸状菌が生息していたが、本糸状菌のヒバ実生への影響は現段階では明らかではない。今後は両土壌で生育させた実生を同じ土壌条件に移植し、根内糸状菌の変動を引き続き調査する予定である。
  • イングロース法による推定の試み
    溝口 岳男, 阪田 匡司, 野口 享太郎
    セッションID: P1025
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギ、ヒノキ造林地および広葉樹林2ヵ所の計4ヵ所の林分で、イングロース法(埋設3ヵ月間)により細根生産とその菌根化の季節性を調査した。いずれの林分でも細根生産は夏に最大となり、冬期間の生産は見られなかった。どの埋設期間においても枯死根の発生は見られなかった。イングロース法で推定した年間細根生産量と細根現存量との比は広葉樹林で6〜9%、針葉樹造林地で4〜5%で広葉樹林の方がやや高かったが、それでも既報の数値(30%以上)よりはるかに低かった。
    2ヵ所の針葉樹造林地におけるイングロースバッグ内の細根のアーバスキュラー菌根形成率は、根の生育期間中比較的似た数値を示した。それに対し、広葉樹林におけるイングロースバッグ内の細根の外生菌根化率はサイト間、サイト内でのばらつきが大きく、またサイト間でその季節性が全く異なっていた。広葉樹林においてもイングロースバッグ内の細根にアーバスキュラー菌根が形成されるケースが見られたが、形成率は極めて低く、また根内胞子もしくはベシクル形成のみの感染形態であった。
  • 高畑 義啓, 古澤 仁美, 伊東 宏樹, 上田 明良, 日野 輝明
    セッションID: P1026
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 宗田 典大, 小谷 二郎, 江崎 功二郎
    セッションID: P1027
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 本研究はミズナラ集団枯損被害(以下:ナラ集団枯損)がきのこ相に与える影響を調べる目的で、2001_から_2003年の3年間について、ナラ集団枯損被害発生からの経過に伴う、きのこ相の動態について調査したので発表する。2.調査地および調査方法 調査地は、石川県加賀市刈安山(標高547m)のミズナラ・コナラ・カシ類の優占する二次林である。この林分は、1998年よりナラ集団枯損被害が発生し、現在、未被害地も存在するが、大半が被害の拡大および終息地である。 調査は2001年6月に、plot1:未被害地 (標高450-500m)、 plot2:被害が進行中である激害地 (標高300-350m)およびplot3:終息地 (標高200-250m)の3ヵ所に45m方形区を設置し、これらの調査地について、地上生菌根菌子実体(以下:きのこ)の動態調査を行った。調査区内のきのこ発生箇所に番号をつけたピンを刺し、調査終了後に位置を測量した。plot1は2001年に、plot2は2000年に、plot3は1998年にナラ集団枯損被害が発生した。調査は2001から2003年のそれぞれ6月から11月に2週間おきに行なった。 またプロット内の高木層の立木位置および林冠ギャップの範囲を測量し、きのこの発生位置との関係を観測した。3.結果と考察 2003年には、ナラ集団枯損による新たなギャップの発生はなかったが、2002年までに発生した各プロットのギャップ率は、plot1が約10%、plot2が約20%、plot3が約40%であった。きのこの発生は、主にギャップ林縁部および林内に見られ、ギャップ内部できのこの発生はほとんど観察されなかった。 各プロットにおいて、きのこの発生位置と立木位置との分布相関関係を樹種別にω指数(Iwao 1977)を用いて解析した。結果、plot1ではコナラときのこの分布相関は両種が正の相互関係があり、シデ類についてもコナラとほぼ同様で、コナラおよびシデ類に対するきのこの分布様式に大きな違いはなかった。またplot2のコナラおよびカシ類おいても、plot1のコナラ、シデ類と同様の正の関係を示した。しかしplot1およびplot2のミズナラときのこの分布相関においては、負の関係が観察された。 plot3においては、きのこと樹木の分布相関では、正の相互関係を示す関係は観測されず、区画面積の増加に伴い、独立またはランダム分布する傾向が示された。 以上の結果から、きのこはミズナラよりもコナラ、シイ類およびカシ類との相互関係が強いことが考えられた。また林冠ギャップの形成が、きのこの空間分布に影響を与えることも推測された。
  • アカマツ実生に与える影響
    山下 五月, 松下 範久, 鈴木 和夫, 福田 健二
    セッションID: P1028
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    外生菌根は森林内のほとんどの樹木に高い頻度で形成されており、近年では森林の更新や植生遷移の過程において外生菌根菌が重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。本研究では、二次遷移過程における発達段階の異なる植物群落における外生菌根菌相を比較し、この差異がアカマツ実生の定着に与える影響を明らかにすることを試みた。
    調査地は、東京大学大学院新領域創成科学研究科柏キャンパス予定地(千葉県柏市柏の葉)内に残存する放置森林及びその周辺の草地とし、発達段階が異なると判定されたパッチに調査区を設けた。各発達段階のA層から格子点状に土壌を採取し、外生菌根観察とアカマツ実生生育試験に用いた。アカマツ実生生育試験では、アカマツ種子を播いて屋外にて約1年間生育させ、測定開始時に発達段階ごとの発芽率・生存率を調査、各個体について地上部と地下部の成長量を測定した。また、現地の土壌中に含まれていた樹木の根及び生育試験に用いたアカマツ実生の根に形成された外生菌根について、実体顕微鏡レベルの形態観察を行った。その根端から外生菌根菌のDNAを抽出し、rDNAのITS3-4断片長解析を行った。得られた各サンプルの断片長と形態観察をもとに外生菌根を分類し、TWINSPANを用いて各プロットにおける外生菌根相をグループ化した。
    この結果、現地土壌及びアカマツ実生の根から44タイプの外生菌根が見出された。現地土壌とアカマツ実生の根に感染した外生菌根相は大きく異なっており、特に外生菌根性樹種の存在しない遷移初期の草本_から_低木段階においてもアカマツ実生の根には外生菌根が形成され、土壌中に潜在する外生菌根菌の存在が確認された。遷移後期段階では群落の発達が進行しても外生菌根相が類似していることから、先に定着した樹種と後から出現する樹種に共通する外生菌根菌が存在する可能性が示唆された。滅菌土壌に生育させたアカマツ実生の根には外生菌根が全く形成されず、全個体が1年以内に枯死した。このことから実生の成長には外生菌根菌が必要であると考えられる。草本段階で出現した外生菌根タイプは組成が単純で、発達の進んだ木本段階には多様性が見られた。しかし、アカマツ実生の生育試験ではその成長量に有意差はみられなかった。すべての段階の土壌に出現した外生菌根菌が、アカマツ実生の成長に貢献している可能性が推測される。 
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