テンサイシストセンチュウ(Hs)に対する捕獲作物として実績がある植物は、海外では緑肥用ダイコンやシロガラシが知られている。本試験では、国内ですでに販売されており、生産者が容易に入手可能な緑肥用ダイコン3品種とシロガラシ、カラシナ等の緑肥作物を供試し、Hsの捕獲作物として活用できる緑肥作物が、それらの中にあるかを検討した。その結果、供試した植物のうちカラシナやシロカラシではHsの次世代が確認できたが、緑肥用ダイコン「コブ減り大根」では次世代の卵が確認されず、土壌中の線虫密度を約7割低下させた。本試験の結果から、「コブ減り大根」は、Hsの捕獲作物として有効である可能性が認められた。
本研究では,レンコン寄生性線虫Hirschmanniella diversaとH. imamuriおよびその他近縁種の18S rRNA遺伝子と5.8S rRNA 遺伝子/internal transcribed spacer (ITS)領域の完全に近い長さの配列を基にした系統解析を行った。その結果,5.8S rRNA遺伝子/ITS領域に基づく系統解析によりHirschmanniella spp. は3つのClade に分岐し,H. diversaとH. imamuriは既知の3種 (H. santarosae, H. pomponiensis, H. gracilis) とともにClade I に分類された。また,Hirschmanniella spp. は全てのCladeに属する種がイネ科に寄生できることが示唆された。H. imamuriとH. oryzaeはともにイネの根に寄生可能な植物寄生性線虫であるが,それぞれClade IとClade IIIに分類されており,異なる進化を辿っていることが分かった。
夏季の高原野菜産地として知られる長野県原村のアブラナ科野菜圃場でテンサイシストセンチュウ、Heterodera schachtii (HS) の個体群が日本で初めて2017年に発見された。その根絶と萬延防止を目指し、寄主になりうる作物の栽培と搬出の禁止措置及び土壌くん蒸剤処理を中心とした緊急防除が農水省によって実施されている。その後は、HSの再発を防止し営農を速やかに再開できるようにするため、輪作と捕獲作物の栽培を主とする新規営農体系の構築が必要である。他のシストセンチュウ種に比べてHSは広い寄主植物範囲を持ち、またその範囲は地域個体群間で異なることが知られている。そのため、営農体系の構築には現地で発生している個体群の寄主植物範囲を解明することが不可欠である。本研究では、原村で栽培されているあるいは栽培可能な作物品目を主な対象とした接種試験を行い、現地HS個体群の寄主植物範囲を解明した。合計17品目106品種について検討した結果、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ハクサイ、ダイコン、フダンソウ、テンサイ及びホウレンソウは好適寄主であった。これらの品目では抵抗性品種が見つからなかった。トマトとソバは各々中程度の寄主と不適な寄主と判定された。レタス、トウモロコシ、ズッキーニ、セルリー、パセリ、クローバー及び景観作物のハゼリソウは非寄主と判定された。ハダイコンの1品種はHSを寄生させず土壌中のHS密度を低減する捕獲作物として知られるが、例外的に寄生を許す個体が市販種子から発生する場合があることがわかった。