ニセフクロセンチュウは世界中で様々な作物に被害を及ぼす。本種は両性生殖が一般的だが、被害の報告がない単為生殖型の分布が日本で知られるため、両型の関係や病原性についての研究が必要である。本研究は、リボソームのITS 領域とミトコンドリアのCOI領域の配列を用いて本種の両型を明らかにして関係性を調べるとともに、病原性に関する基礎的情報を得ることを目的とする。一個体由来の長鎖および短鎖rDNA ITS領域をPCR増幅して配列を分析したところ、個体内でも長鎖ITS配列は短鎖より著しく多様だった。ITS領域を用いた分子系統解析では、両型の2つの長鎖ITS 配列以外では、長鎖および短鎖ITS配列のクレード内でそれぞれの生殖型はクラスターを形成した。その長鎖2配列は短鎖ITSとクラスターを形成し、長鎖と短鎖の中間体と考えられた。mtDNA COI遺伝子の解析によって、本邦産のニセフクロセンチュウの生殖型は種内変異であると示唆された。
イモグサレセンチュウは日本でニンニク生産に甚大な被害をおよぼす。欧州ではジャガイモの病原体だが、日本国内では被害に関する報告はない。本研究では、ニンニク由来のイモグサレセンチュウはジャガイモに感染・増殖し、被害を及ぼすのかを調査した。さいの目に切ったジャガイモ(“男爵”と“メークイン”)の塊茎に無菌的に接種した線虫は増殖し、フザリウム菌の存在下では増殖が促進された。線虫をジャガイモ表面に接種した場合は、両品種とも線虫の増殖は認められなかった。ポット実験では、土壌中の線虫密度は高まったがジャガイモへの感染や被害は認められなかった。以上より、ニンニク由来のイモグサレセンチュウは本邦のジャガイモ主要2 品種で増殖するものの、被害を及ぼさない可能性が示唆された。
マツノザイセンチュウを原因とするマツ材線虫病の防除策として薬剤散布や樹幹注入剤などが用いられているが、環境への影響からより安全な防除対策の確立が求められている。本研究ではまず、これまでの綿球試験法に代わる簡便かつ数値化による評価ができる新規アッセイ法の検討を行った。その方法として、綿球の代わりに輪状濾紙を用いた新規アッセイ法を検討した。その結果、アッセイの操作が簡便化し、具体的な数値による評価がしやすくなった。この方法を用いて、抗線虫活性を有するmorantel tartrateについて阻害率を求め、その値からIC50 0.02 mmol/Lと算出できた。次に、クマリン類化合物には抗線虫活性があるという報告から、4-methylunbelliferone(MU)に着目し、MU及び水溶性の向上を目的にMU配糖体を合成、それらについて抗線虫活性の有無を検討した。光延反応を用いて数種のMU糖を合成、それらを新規アッセイ法で検討した結果、MU及びその配糖体のいずれも抗線虫活性は低かった。
日本においては、タバコシストセンチュウは1998年に一度だけ発生しており、ナス栽培温室1棟で検出されたのみである。本種については、Globodera tabacum tabacum、G. tabacum solanacearum、G. tabacum virginiaeの3亜種が存在するが、上記日本産個体群(以下、Gt-j)の亜種については未同定のままであった。そこで本研究では、ペクチン酸リアーゼをコードする遺伝子の塩基配列における亜種間差およびCLE ペプチドをコードする遺伝子のPCR-RFLP法によって、Gt-jの亜種判別を試みた。2つのCLEペプチド遺伝子(Cle1およびCle5)のPCR-RFLP法の結果、Gt-jの断片パターンはG. tabacum tabacumのものと一致した。また、ペクチン酸リアーゼ遺伝子の1つであるPel1遺伝子の部分配列を比較した結果、Gt-jの配列はG. tabacum tabacumの配列と99%以上の相同性を示した。これらの結果から、Gt-jはG. tabacum tabacumであると同定した。
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