リスペリドン(RIS) は、せん妄患者に処方されることの多い非定型抗精神病薬である。RISの活性代謝物は腎排泄であり、腎機能低下患者ではその副作用である鎮静作用が遷延することがある。一方、転倒・転落は、患者の日常生活動作や生活の質を大きく損なうだけでなく、入院期間の延長にも繋がる重要な問題の一つである。転倒・転落に睡眠薬や降圧剤が影響するといった報告はあるが、抗精神病薬がどの程度影響するか検討した報告は少ない。そこで本研究では、せん妄症状改善目的にRISを定期内服した患者における転倒・転落の発生リスク因子の抽出を目的とした。
転倒・転落者(転倒群)と非転倒・非転落者(非転倒群)の患者背景及び転倒・転落のリスクとなる疾患・併用薬剤について比較した。転倒・転落のリスク因子については、ロジスティック回帰分析にて抽出した。
対象197例のうち転倒群は21例、非転倒群は176例であった。転倒群は非転倒群と比較して、eGFR(p=0.007)、クレアチニン・クリアランス(p=0.00294)が有意に低かった。また、RISの1日あたりの内服量においては、転倒群に比べて非転倒群の方が有意に多かった(p=0.0206)。 一方、年齢や性別、身長、体重、BMI、転倒・転落のリスクとなる疾患・併用薬剤には有意な差は認められなかった。また、転倒・転落のリスク因子としてeGFR(OR:0.974, 95%CI:0.954–0.994, p=0.0125)とRISの1日あたりの内服量(OR:0.192, 95%CI:0.0382–0.964, p=0.045)が抽出された。
以上より、RIS内服患者における腎機能の低下は転倒・転落のリスク因子の1つであることが示唆された。また、低用量のRIS内服は、せん妄症状改善効果不十分による転倒・転落リスク増大に関与する可能性が示唆された。
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