日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
Print ISSN : 2187-0411
11 巻, 1 号
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総説
  • 浦田 元樹, 村上 鞠奈, 平田 純生
    2022 年 11 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/09
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    血液透析(hemodialysis; HD)による薬物除去率は、HD患者の投与設計において重要な要素であり、薬物の中毒時に緊急処置としてHDが適用できるか否かの判断にも役立つ情報である。しかしながら、HDによる薬物除去率に関する情報はかなり限定的である。HDによる薬物除去率は、HDを実施することで実際に体内から除去された薬物の割合と定義すべきであるが、ダイアライザーによる抽出率やHD前後の血漿濃度変化率をHDによる薬物除去率と定義されることがある。これらの評価法において、分布容積やHD後のリバウンドが考慮されていないなどの問題がある臨床試験がいくつか存在する。HDによる薬物除去に影響する因子として、分子量はタンパク質製剤のような大分子量薬物がHDにより除去されないことからもわずかに影響するが、タンパク結合率と分布容積が特に低~中分子量薬物において大きく影響する。さらに、我々は、尿中未変化体排泄率をHDによる薬物除去に影響する因子に加え、臨床応用可能な精度の高いHDによる薬物除去率の予測式を以前に報告した。なお、尿細管での分泌や再吸収が尿中未変化体排泄率に大きく寄与する薬物は、本予測式の例外となる。また、実臨床では、血液流量、HD時間、透析膜などのHD条件が、薬物のHDによる除去率に影響することも想定されため、本式による予測値を基準に、HD条件や薬物動態の変化を考慮した上で、患者個々の薬物のHDによる除去率を推定し、薬物投与設計を行うことが推奨される。このように、本総説では、HDによる薬物除去率の評価方法の問題点を整理し、HDによる薬物除去に影響する因子や予測式の概要について述べる。

原著
  • 杉山 健二郎, 髙橋 俊樹, 家岡 昌弘, 八本 久仁子
    2022 年 11 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/09
    ジャーナル フリー

    高度腎機能低下患者においては処方薬の用量が過量投与にも投与量不足にもなりかねないため、調剤時に腎機能と投与量の評価を行うシステム(腎機能チェック)を導入することで処方の適正化を目指すことができる。今回、高度腎機能低下患者において腎機能チェックを行うことでどの程度適正化が進んだかを検討し、腎機能チェックにおける効果を検討した。対象は当院の腎機能チェック薬剤の中でも処方の多かったシタグリプチン錠、レボフロキサシン錠、ファモチジン錠/散について腎機能チェックが導入される前の処方と導入された後の処方で比較した。検討する項目は処方数、透析患者における適正使用率、非透析患者における適正使用率、投与量過量率、投与量不足率の5項目を中心に調査した。結果は腎機能チェックを導入することで処方の適正化を目指すことができることが判明した。しかし、薬剤によっては問題点も発生した。シタグリプチンは外来にて過量投与されていた持参薬を入院中に使用する際に、過量投与のまま入院中に継続されることもあった。また、レボフロキサシンはローディングがされておらず、投与量不足が発生する傾向にあった。上記の問題点より以下の改善案を考察した。持参薬の続行指示がある場合、薬剤師が積極的に入院持参薬処方を行うことで持参薬による過量投与を防ぐことができると考えられる。またCKDシールの活用などの薬薬連携を推進することで、より持参薬の過量投与抑制を期待できる。投与量不足の処方に対しては薬剤師による処方変更が有効であると考えられる。ただし薬剤師が処方を行うことに対してはあらかじめ医師との協議が必要である。そしてプロトコールに基づく薬物治療管理を行うことで処方の適正化を目指し、さらにはタスクシフティングによる医師の業務軽減も期待できる。

  • 菱田 啓介, 中島 里菜, 松井 治幸, 植 優衣, 田村 友香, 倉田 裕美, 岡田 悠子
    2022 年 11 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/09
    ジャーナル フリー

    低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬は、慢性腎臓病の合併症である腎性貧血を治療する新しい選択肢であり、実臨床での使用が増加すると考えられるが、副作用についてのデータ集積は十分とはいえない。ロキサデュスタットでは甲状腺刺激ホルモン(TSH)減少が報告されているが、ダプロデュスタットでは甲状腺機能低下症が報告されており、HIF-PH阻害薬の使用による甲状腺機能への影響については明らかではない。そこで本研究では、ロキサデュスタット及びダプロデュスタットによるTSH減少作用について検討を行った。

    2021年2月から2021年7月に洛和会音羽記念病院でロキサデュスタットまたはダプロデュスタットを開始された維持血液透析患者のうち、開始前210日以内のTSH測定で基準値内かつ開始後もTSHが測定された者を対象として、後ろ向き解析を行った。

    ロキサデュスタット群9名のうち8名、ダプロデュスタット群12名のうち1名で基準値未満へのTSH減少が観察された。投与前後のTSH変化量はそれぞれ、-2.009 μIU/mL(95% CI = -3.181 to -0.837 μIU/mL; P = 0.004)及び+ 0.086 μIU/mL(95% CI = -0.560 to 0.732 μIU/mL; P = 0.775)であった。また、ロキサデュスタット群ではTSHが基準値下限の10分の1未満となるTSH著減も2名観察された。ロキサデュスタット投与により基準値未満へのTSH減少が認められた患者のうち2名がダプロデュスタットに変更となり、それぞれ13日後・15日後にTSHが基準値内へ改善した。

    HIF-PH阻害薬であるロキサデュスタットでは高率にTSH減少が発現することが明らかとなり、基準値下限10分の1未満まで著減する患者も観察されたため定期的な甲状腺関連の検査値モニタリングが必要と考えられた。TSH減少は薬剤固有の作用であることが示唆され、HIF-PH阻害薬間での変更によって腎性貧血治療の継続が可能であると考えられた。

  • 平井 さやか, 松本 嵩史, 鈴木 和磨, 奥冨 裕也, 塩入 理子, 近藤 正巳
    2022 年 11 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/09
    ジャーナル フリー

    ネフローゼ症候群ではステロイド抵抗性やステロイド依存性、頻回再発型でシクロスポリンA(CyA)が汎用される。しかし、CyAの投与方法に関する詳細な報告は少ない。そこで、本研究ではCyA の1日1回(分1)投与と1日2回(分2)投与の有効性と安全性を明らかにすることを目的に後方視的調査を実施した。対象は2011年1月1日から2017年9月30日の期間にCyAを服用開始し、AUC0-4を算出後、6ヶ月以上服用継続した症例とした。対象となった症例は39例(分1投与26名、分2投与13名)であった。CyA服用開始時と6ヶ月後の尿蛋白/尿クレアチニン比の変化を有効性の指標とした。分1投与の6ヶ月後のCyA服用量は、分2投与と比較して有意に少量であった(75.19 ± 20.76 mg vs 103.85 ± 30.22 mg, P<0.01)。分1投与の有効率は分2投与と比較して有意差はなかった(69.2% vs 53.8%、 P=0.48)。一方、6ヶ月後の検査項目では、分1投与、分2投与ともに正常範囲内であった。分1投与は、分2投与と比較して服用量が減量できることから、医療経済上も患者のコンプライアンスにおいても有益性は高く、安全に投与できると考える。

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