日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
Print ISSN : 2187-0411
5 巻, 1 号
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総説
  • 平田 純生, 柴田 啓智, 宮村 重幸, 門脇 大介
    2016 年5 巻1 号 p. 3-18
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/02
    ジャーナル フリー

    腎機能は糸球体濾過量(GFR)で表され、イヌリンクリアランスは最も正確なgold standardであるが、測定手技が煩雑であるため、実臨床ではあまり用いられない。多くは血清クレアチニン(Cr)値を基にした腎機能推算式であるCockcroft-Gault(CG)式による推算クレアチニンクリアランス(CCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFR)が用いられるが血清Cr値は男女差、筋肉量による差があり、併用薬による影響を受けることなどを理解しておく必要がある。腎排泄型薬物の投与設計には正確な腎機能の見積もりが必須であるが、標準体型男性以外ではeGFR(mL/min/1.73m2)ではなく体表面積未補正値(mL/min)を用いる必要がある。ただし抗菌薬・抗がん薬など投与量がmg/kgやmg/m2となっている際には体表面積補正値(mL/min/1.73m2)を使う。またCG式は肥満患者では腎機能を過大評価するため理想体重を用いる必要がある。添付文書にCCrによって投与量を定めている場合、そのほとんどが海外治験データによるため血清Cr値をJaffe法で測定されており、Jaffe法によるCCrはGFRに近似する。そのため添付文書上はCCrで表記されていても患者の腎機能には実測GFR、推算GFRまたは実測CCr×0.715を用いる。海外と日本の添付文書が同じCCrの記載であっても、ハイリスク薬では酵素法で測定したCCrで投与設計するとJaffe法と酵素法のわずかな差が過剰投与による重篤な副作用リスクにつながる恐れがある。痩せた高齢者で筋肉量が少ないためeGFRが高く推算される場合には、正確に腎機能を評価するには実測CCr×0.715あるいはシスタチンCによる体表面積未補正eGFR(mL/min)を用いる。若年者で血管作動薬・輸液の投与を受けている全身炎症の患者においては過大腎クリアランスにより腎機能が正常以上に高くなることがある。

原著
  • 島 祐子, 平田 純生, 佐野 豪泰, 田辺 知子, 辻 晶子, 奥田 洽爾, 黒田 昌宏
    2016 年5 巻1 号 p. 19-25
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/02
    ジャーナル フリー

    せん妄や興奮状態の改善に用いるチアプリド塩酸塩(チアプリド)は未変化体の尿中排泄率が高いことから、腎機能低下患者や血液透析(HD)患者に用いる場合は適切な減量が必要である。過量投与では過鎮静や傾眠状態が、また抗ドパミン作用による錐体外路症状が発現することがわかっている。チアプリドの高齢者への使用では開始量として1回25mg1日1-2回が推奨されているが、HD患者への使用は具体的に明示されていない。そこでチアプリドの使用実態調査を行いその有効性と安全性を検討した。調査対象は2002年4月-2012年8月の入院患者で、せん妄治療にチアプリドを使用したHD患者(32人)とした。有効性は高齢者に使用した報告と同じく高く、効果発現も速やかだった。無効であった患者3人はいずれも1回25mgの単回使用だった。対象となったHD患者32人のうち有害反応発生群7人(Naranjo ADR scale 5以上)と有害反応非発生群25人を比較した。37.5mg/日以上の服用群は25mg/日以下の服用群に比し、有害反応発生率は有意に高く(P<0.0001)、体重当たりの用量が0.6mg/kg/日以上の群は0.5mg/kg/日以下の服用群に比し有害反応の発生が顕著だった(P=0.0049)。また効果発現が早期(3日以内)であった群と4日以上の群を比較すると、早期に効果発現した患者では有害反応発生率が高かった(P=0.044)。有害反応を発生した患者では抗精神病薬や抗不安薬などの併用がみられ、その影響が示唆された。今回の調査結果をうけて、1日37.5mg以上の用量では効果発現は早いため、初回負荷投与は有効かもしれないが現時点では明らかでない。しかし維持用量として25mg/日まで、または0.5mg/kg/日までの投与量が適正使用と考えられる。今後、症例数を増やしたさらなる検討が必要である。

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