2010 年に薬学実務実習が開始されたが、病院実務実習において腎臓病薬物療法を重点的に実践させて、質問調査による病院実務実習の成果を検討した報告はない。当院では、腎機能評価に基づいた薬剤調整に関する薬学生の理解度を把握し、今後より良い指導を行うために病院実務実習の成果を検討した。
当院で実習を行った 26 名を対象に質問調査を行い、1 期(調剤薬局未実習群)開始時と終了時、2・3 期(調剤薬局実習実施群)開始時と終了時の 4 群にわけて解析した。調査内容は「腎臓の働き」や「薬剤投与設計時の腎機能評価方法」の理解度、「腎機能に応じた用量調整が必要な薬剤」の認識、更に、「腎機能評価に基づいた薬剤調整」に関する技能(臨床検査値確認、投与量確認、処方変更提案)についての自己評価とした。
「腎臓の働き」は理解度に有意な上昇がなかったが、「薬剤投与設計時の腎機能評価方法」の理解度として、未補正推算糸球体濾過量(未補正eGFRcr)を用いて薬剤の適正用量を決定することが、調剤薬局未実習群および調剤薬局実習実施群の両群とも終了時において有意に上昇した。「腎機能に応じた用量調整が必要な薬剤」は、両群の終了時には有意に薬剤数が増加して認識が向上した。また、「腎機能評価に基づいた薬剤調整」に関する技能については、調剤薬局実務実習より病院実務実習の方が高い自己評価であった。
以上より、病院実務実習は薬学生に「薬剤投与設計時の腎機能評価方法」と「腎機能に応じた用量調整が必要な薬剤」に関する理解度を向上させた。更に、腎疾患患者の適正用量に注意を促す調剤棚の表示や腎機能による用法用量を記載したカードの利用により、腎機能を考慮した処方鑑査を実践させることができ、成果があった。今後は、病棟実習を通して個々の患者に適正な腎機能評価を行い、腎機能を配慮した安全で有効な処方を提案できる能力を習得させることが課題である。