日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
Print ISSN : 2187-0411
1 巻, 3 号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
総説
  • 大野 能之, 樋坂 章博, 山田 麻衣子, 山本 武人, 鈴木 洋史
    2012 年 1 巻 3 号 p. 119-130
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/04/02
    ジャーナル フリー

    腎機能障害時には、各薬剤の腎排泄寄与率を正しく把握しておく必要がある。腎排泄寄与率とは、全身クリアランスに対する腎のクリアランスの割合を指す。この時重要なのが、基本的には未変化体の尿中排泄率である。不活性の代謝物を含めた腎排泄率が高くても、活性本体の未変化体の排泄が少なければ、腎機能の低下は薬効にさほど影響しない。ただし、内服薬の場合は、投与された薬剤が全身循環する割合、すなわちバイオアベイラビリティを考慮し、補正しなければならない。その他、腎から排泄される代謝物に薬効や毒性がある場合は、腎機能に応じて投与量を調整する必要がある。また、特に血中濃度半減期が極端に長い薬剤の場合は、体内から排泄が終了するまで、十分時間をとって観察されたデータを用いるべきである。 腎機能障害がある場合に、そうでない場合と同程度の血中濃度を維持する方法としては、一回あたりの投与量の減量と、一回あたりの投与量の減量はせず投与間隔を延長をする方法の2つが考えられる。投与量の調整は比較的簡便である一方、薬剤によっては血中濃度が定常状態に達するまでに時間を要することが懸念される。このような場合、速やかな効果発現を求めるのであれば、治療初期は通常用量で使用し、血中濃度が治療濃度域に達した後に減量するなどの対応が必要になる。 投与間隔を調整する場合には、1 回の用量は変わらないため、血中濃度のピーク値は通常使用時と同程度まで上がり、投与間隔をあける分、トラフ値も同程度となる。しかし、高濃度または低濃度の時間が継続するため、効果や副作用の面から望ましくない場合もある。こうした長所、短所を理解したうえで、個々の薬剤及び患者ごとに適切な投与設計を行うことが重要である。

原著
  • 渡邉 清司, 松本 有右, 竹内 裕紀, 和久田 光宣, 岡田 寛征, 茂木 徹, 箭内 智大, 荷見 恭平, 野崎 拓史, 木下 真緒, ...
    2012 年 1 巻 3 号 p. 131-138
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/04/02
    ジャーナル フリー

    高齢者では、血清クレアチニン(S-Cr)値が基準値内であっても、糸球体濾過量(GFR)が低下している患者が多く存在しているため、腎排泄性薬剤の血中濃度が上昇し、様々な副作用が起こりやすくなる。しかし、高齢者では腎機能の検査が行われていない患者や検査は受けているが検査値を保険薬局に提示しない患者も多いと考えられる。したがって、保険薬局で患者自身が簡便な腎機能検査を行ったうえで、薬剤師がその評価をすることができれば、腎機能に応じた適切な薬物投与設計を提案でき、未然に過量投与による副作用を回避できる可能性がある。 そこで八王子薬剤センター薬局では、保険薬局での実施に向けて、試験的に介護老人保健施設の入居高齢者22 名にS-Cr 自己簡易測定を実施し、推定クレアチニンクリアランス(eCCr)を算出することで、本測定法の有用性および高齢者の腎機能と腎排泄性薬剤の処方実態について検討した。 S-Cr 自己簡易測定は、高齢者でも薬剤師の補助により全被験者に実施でき、簡便に腎機能を評価できる検査法であると考えられた。また実際にeCCr で評価した腎機能は、S-Cr 値では基準値であったにも関わらず12 名中11 名は50mL/min ≧ eCCr であった。その中の5 名で腎排泄性薬剤の過量投与が考えられたため、医師に処方量変更を提案し、すべて減量が行われた。高齢者ではS-Cr 値が測定されていなかったり、測定されていてもeCCr などを算出して正しく腎機能を評価されていない患者が多く、腎排泄性薬剤の過量投与が見過ごされている患者が相当数存在しているものと推定された。腎排泄性薬剤を処方されている高齢者においては腎機能検査の実施が不可欠であると考えられ、S-Cr 自己簡易測定法を用いることで、今後は保険薬局においても簡便に腎機能の評価ができ、腎機能に応じた腎排泄性薬剤の用量・用法の提案が可能であると考えられた。

  • 柴田 啓智, 門脇 大介, 下石 和樹, 浦田 由紀乃, 森 直樹, 宮村 重幸
    2012 年 1 巻 3 号 p. 139-144
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/04/02
    ジャーナル フリー

    薬剤の適正使用を考える上で、患者毎に適正な用量設定を行うことは重要である。我々は、腎機能低下時に投与量調節が必要な5 つの薬剤(アロプリノール、アマンタジン、シベンゾリン、ジゴキシン、ジソピラミド)に注目し、これらの薬剤が入院時にどの程度適正な投与量設定がなされているかを調査すること、また投与量の再設定が必要な際、薬剤師が処方介入できたかを多施設共同で調査することを目的とした。症例4,596 例中対象薬剤を持参した件数は280 例であった。そのうち、CKD 病期ステージ1 期の症例は10 例であり、7 割がCKD ステージ3 以上に分類された。また、腎機能低下に伴う減量基準に従って解析したところ、過量投与と考えられる症例は、アマンタジン61.5%、アロプリノール19.2%、ジゴキシン43.8%、シベンゾリン46.2% であった。結果として薬剤師の介入によって減量・中止となった症例は全体の32.9% であった。以上の結果より、腎機能低下者に対する投与量の設定およびチェックが不十分であることが示唆された。今後、さらに積極的な関与をするために保険薬局も含めた患者の腎機能データの共有が必要である。

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